秩父山中。
 巨人は、冒頭から既に聳え立っていた。
 胸の青いカラータイマー以外、各部を覆うプロテクターも含めた全身の殆んどが銀色。頭頂のヘッドギアの
ような突起のみ、真紅が目立つ。その下で白く輝く結晶のような楕円の目。
 各個体ごとにディテールの差はあれど、我々人類が希望と畏怖のない交ぜの感情で認識してきた、
『ウルトラマン』と呼ばれる存在。
 その周囲を包囲する、巨人の敵。
 ぜっとーーーーー ひぽぽぽぽ ぜっとーーーーー ひぽぽぽぽ
 無機質な鳴き声と電子音。黒い身体に黄色の発光体。伝説の初代の巨人に土をつけたあの悪魔、
宇宙恐竜・ゼットン。
 そのゼットンが・・・十数頭。


 ウルトラマンアルファ 1 ノーと言える光の巨人!?
 改造宇宙恐竜・ゼットニオス、宇宙異次元人・ゼバット星人、量産ゼットン軍団 出現


 地球防衛軍・ガーディアンの戦闘機大隊も出撃してきたのだが、余りにも相手が悪すぎた。あっさり全機撃墜。
死傷者も多いが、辛うじて不時着した数名が遠巻きに状況を見る。そのリーダー格の二人のエースパイロット、
寡黙なたたずまいの長身の美形、斎木俊一(さいき・しゅんいち)と、これも表情の崩れる様子の無い若い美女、
霧島美樹(きりしま・みき)も。

「ははははは! これだけの数のゼットンに勝てるかウルトラマン! いや勝てるわけが無い反語!」
 ぐねぐねと歪む変なエフェクトのかかった異次元空間に身を隠して状況をモニターしている侵略者、
宇宙異次元人・ゼバット星人。宇宙人で尚且つ異次元人という、一見凄そうに聞こえるが良く考えると
非常に中途半端なキャラである。どうやったのかは知らないが、今ここにいるゼットン軍団を大量に用意して
送りつけてきた張本人である。パワーバランスとかインフレとか何も考えていない、とにかくアホみたいに
戦力を投入して何でもかんでも壊せば済むと思っている底の浅いタイプの典型である。
「ゼットン軍団! ウルトラマンをぶっ殺せ!!」
 命令に従い、ゼットン軍団は一斉に中央のウルトラマンに向けて一兆度の火の玉を飛ばしてきた。
大爆発。

 だが。
 ウルトラマンは素早く高くジャンプし、あっさりと攻撃を交わし、包囲の輪の外に軽く着地した。
「何!?」
 ウルトラマンに向き直るゼットン軍団。彼らが吐いた火の玉は、少なくとも地球が瞬時に燃え尽きるであろう
一兆度のはずなのに、ウルトラマンのいた場所にちょっと深めのクレーターを穿つ程度の威力しか見せていないが、
まあそれは置いておく。
 ウルトラマンは、赤い鞘の長剣・・・というより、刀を携えていた。束に手をかけて構える。
「ははは、そんな攻撃など効くものか!」
 ゼバット星人の笑いと共に、ゼットン軍団は一斉にバリヤーを張る。ご存知、必殺のスペシウム光線も効かない
堅牢な代物だが・・・

 ウルトラマンは、構えたきり攻めてこない。
「・・・・・・・・・」
 互いにじっとしたまま、千日手になる。
 幾ら堅牢なバリヤーを張っても、相手が攻撃しないのでは意味が無い。バリヤーのエネルギーの無駄。
 辛抱の利かないゼバット星人が先に痺れを切らした。
「ええい、ならばテレポートで撹乱してやる!」
 ゼットン軍団はバリヤーを解き、気を付けポーズを繰り返してテレポートを連発。ウルトラマンの周りを素早く
動き回り、攻撃の隙を狙う。
 ウルトラマンは動じず、
『ウルトラ縮地!』
 テレパシーで響く合図と共に、自分もテレポートを使い始めた。
 互いのテレポートの連続は早まり、一帯には何も見当たらなくなる。複数の巨大な何かが超高速で音も無く
動いている気配だけが伺え、時折山の端が吹き飛び、森林のあちこちが根こそぎ削られる。下手に動けずじっと
しているしかない防衛軍の兵士達。
 やがて、ウルトラマンとゼットン軍団が再び全員現れた。
 ウルトラマンは刀を鞘に収め、澄んだ金属の音が響く。
 同時に、ゼットン軍団は全員バラ身に切り崩され、赤い発泡スチロールの山となって転がった。
『ウルトラ居合い抜き!!』
 白い毛筆の大きなテロップが画面一杯に表示。
 愕然とするゼバット星人と防衛軍一同。
 第一話から力一杯罰当たりな真似をしたこのウルトラマン・・・この物語の主人公、ウルトラマンアルファは、
周りの驚愕など意に介さない。そんな余裕はなかった。

 ウルトラマンアルファが宇宙警備隊から地球防衛の任についてやってきてから、実はもう一年が経過している。
この第一話以前に、設定上既に一年分の経過があったわけだ。
 普段は地球人の青年の姿となっており、その際の名を『城達志(じょう・たつし)』という。ウルトラマンの
優秀な頭脳を以って東京に在する城南大学に籍を置き、一方で家庭教師をして生活していた。西野という姓の
中の上クラスの一家の娘で、桜ヶ丘高校(都内に古くからある桜ヶ丘中学校からエスカレーター式に進学する
形で近年併設された)2年生の西野恵(にしの・めぐむ)のほぼ専属となって勉強の面倒を見、やがて家族
同然の立場となっていた。
 又も防衛隊員じゃないのかという突っ込みは拒否。公平のとき、アリバイ工作のネタを考えるのが
どんだけしんどかったか・・・という話は置いといて。
 家族同然の立場となっていたことで、ふと気が緩んだのかもしれない。
 本来の役目はウルトラマンとなっての地球防衛である達志は、今回のゼバット星人の地球侵略計画を宇宙警備隊から
知らされ、街の裏通りの目立たない辺りに駆け込み、変身アイテム・アルファプラス(スタンダードなスティック
タイプ。先端にディファレーターエネルギーの圧縮されたクリスタルが付いている)を取り出して掲げ、
スイッチを入れて変身した。
 だが、学校への通学中に忘れ物に気付き、近道して取りに戻るため、たまたまその裏通りに入ってきた恵に・・・
変身の一部始終を、見られた。
 巨大なウルトラマンとなった達志は、上空に滞空したまま、ただもう地上の恵を見下ろしている。恵も、
目を見開いたまま自分を見上げている。
『えーと・・・』
 どう取り繕ったものか考えあぐねるが、そうしている間侵略者が待ってくれるはずもない。
 やむなく、達志=アルファは、ゼバット星人の襲来地点に飛んで急行する。
「城先生!!」
 叫ぶ恵を残して。

 そんなわけで、敵の大軍団を下しておきながら、アルファの胸には何の充実感も無い。
『ウルトラマンアルファ』
 空の彼方から、宇宙警備隊からテレパシーで通達が来た。恵に正体を知られたことがもう知れたらしい。
何の通達かといえば、当然、宇宙への帰還命令。事情はどうあれ、地球人に正体を知られたウルトラマンは
宇宙に帰らなければならない。昔からのお約束。
 お約束・・・

『誰が決めたんだそんなこと』

『何?』
 聞き返す上司のテレパシーに、アルファは反目した。
『大体、正体がばれたら何故親しい人の下を去らなければならないんだ? 今まで明確な理由の説明って
一回もされたことないじゃん』
『いや・・・おい、お前』
 アルファは、きっぱりと言い放つ。
『帰還命令は、拒否します。そもそも』
 そのとき。
 ゼバット星人がまだ別空間に潜ませていた切り札が、いきなりテレポートしてアルファに襲い
かかってきた。
星人「まだ勝負はついていないぞ、ウルトラマン!」
 ゼットン・・・のディテール、黒い外皮に黄色い発光体を持った、本当に恐竜体型の重量級怪獣兵器。
大きな口に牙が並び(でも目はぽこっと虚ろな穴が開いている)、長い尻尾。ゼバット星人がゼットンの因子を
ベースにアレンジを加えた改造宇宙恐竜・ゼットニオスである。その姿は邪悪さに満ちながらシャープで精悍だが、
二本の銀色の角だけは動くたびにぷるぷる揺れる腐ったラテックス。

 アルファは悠然と愛刀・アルファブレードでゼットニオスの突進を止め、
『御覧のように、地球に対する怪獣や侵略者の脅威は何ら去っていません。今僕が地球を去るのは、はっきり
言って愚かな処断です』
『タイミングよく怪獣が出てきたから丁度いいと思って言ってるだろう! 当然後任は直ぐ送る!
帰還するのだ、ウルトラマンアルファ!』
 アルファは呼びかけをそれっきり無視し、戦闘に集中。
 ゼットニオスは、両手に仕込まれたゼットニオスナパームを連射してくる。アルファは鞘に収めたままの
ブレードを振り回し、それだけで弾丸を全て弾く。
 そのまま格闘戦に持ち込もうと迫るが、ゼットニオスはバリヤーを展開して打撃を防ぐ。
 勝ち誇って吠えるゼットニオスだが・・・何時の間にか、アルファが眼前にいない。
 見回していると、
『ウルトラ微塵隠れ!!』
 又毛筆テロップ。
 ゼットニオスの足下の地中に転移したアルファが地下でエネルギーを解放し、爆発が直撃して
土煙と共にゼットニオスの巨体が吹っ飛ばされる。足下にまではバリヤーが張られていなかった。
 ゼットニオスが大きく態勢を崩したところで、アルファは高くジャンプして頭上を取り、アルファブレードを
更に上に投げ上げて両手を空けた後、高速で九字を切って印を結んで精神統一し、
『ギャラシウム光線!!』
 胸の前で印を結んだ両手から、光の奔流が稲妻の如く叩き込まれる。勿論技名の毛筆テロップ入り。
 ゼットニオスも大爆発し、赤いスチロールとなってバラバラに粉砕された。
 アルファは着地し、落ちてきたブレードを視線も向けずに片手で受け止め、呟いた。
『そろそろゼットンの呪縛から抜け出そうよ』

 一部始終を見届けた防衛軍やゼバット星人の驚きも、アルファにはどうでもいい。彼は、宇宙警備隊上層部の
意向に背き、自分の意思で地球に留まり続けることを決意した。見上げた空に浮かぶ妄想、恵の笑顔の
面影がその理由だ。
『可愛いなあ』
 バーストの最終回の余韻を思いっきりの私情で冒頭からちゃぶ台返しにする、光の巨人の風上にも
置けない男。何様!?
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 ウルトラマンアルファ 2 ウルトラマンお断り!?
 擬態インベーダー・スラグロン 出現


 西野恵は悩んでいた。
 そりゃそうである。家族同然の付き合いで、内心満更でもない自分の家庭教師のお兄さんの城達志が、
実は今まで地球の平和を守っていたウルトラマンだったというぶっ飛び情報がいきなり入ってきたのである。
 秩父に向かったウルトラマンアルファがゼットンの軍団を撃破したという(それもぶっ飛び情報だが)
情報は既にニュースで聞いていたが、アルファ=達志はそれっきり戻ってこない。そりゃそうそう
戻ってこれる状況でもないだろうが。最早都市伝説化している話では、地球に人間として潜んでいた
ウルトラマンは、正体がばれたらもれなく故郷に帰らなければならないという。何故なのかは知らないが。
「城先生・・・」
 彼と別れることになるのが避けられないとしても、このままでは後味が悪すぎる。一言説明が欲しい。
消息を絶ったままの達志を案じ、恵の両親は警察に捜索願を出し、自分達もあちこち回って探している。
しかし恵は、達志がウルトラマンであるという肝心の事実を両親にまだ話していない。達志もずっと
秘密にしていたわけだし、勝手にばらすのも気が引けていたのだが、その状態で達志の消息を追うのは
無謀だろう。だからこそ悩む。仕方ないので、恵自身も心当たりを足で探して回っていたが、徒労が
続いていた。

 近所の公園まで来た恵は、ウルトラマンに変身していた達志に出くわしたとき、その場所が人目に
付かない裏通りだったのを思い出した。そりゃ正体を隠すなら当然だが、と言うことは、人目に
付かない場所を探していけば会える確率も上がるかもしれない。そう思った彼女は、公園の周りの
森の中に踏み込んでみることにする。
 暫く探し回っていると、かすかな音と共に、何かのいる気配がする。達志かも知れないと気がはやった
恵は近付いていくが・・・音がおかしい。
 何かを、ぼりぼりぐちゃぐちゃ咀嚼している音。
 暗い茂みの陰で、一人の人影がもう一つの人影を押さえ込み、覆い被さっている。押さえ込まれた
身体は、びくんびくんと不自然に痙攣しているが、その動きも次第に弱まっていく。
 本能的に恐怖を感じた恵は、一歩下がる。と、かつん、と足に何かが当たった。ゆっくりと目を向けて
確認。
 人間の頭蓋骨。その周囲にも散らばる人骨。
「きゃああああああっ!?」
 その悲鳴で、人影は恵に気付いて振り返る。
 全体的なフォルムは確かに人のそれだが、服からはみ出た全身がぬめった粘液に覆われ、長く飛び出た目。
もぞもぞ動く触手の口には、倒れている死体からむしった片腕がぶら下がり、咀嚼され続け・・・
 ナメクジが擬人化されたような、人を食う化け物。

「此処はバーンとかオーバーとかリュウラとかそっち側の世界かーッ!?」
 混乱して判らないことを言いながら恵は森から逃げ出す。と、通り縋った警官を見かける。
「おまわりさーん!! 今森の中に化け物が・・・」
 警官は、ゆっくりと恵を見た。もう予測出来ると思うが・・・
 警官帽のつばの下にも、長く伸びてぐねぐね動く目。
「ひいやあああああーーーーーッ!?」
 公園の周りでも、いや、街のあちこちで次第に同じ騒ぎが起こり始めた。そこらにいた人間が散発的に
突然ナメクジ人間になり、周りの人を手当たり次第に襲う。
 化け物・スラグロンは、宇宙から潜入した侵略者だった。市民を食った後その姿に成りすまして
密かに現地勢力を増やし、一斉攻撃の機を窺っていたのである。
 混乱の中、恵は悲鳴を上げつつ手近に転がっていた鉄パイプを振り回して結構逞しくスラグロンを
近寄せないが、その途中、両親はどうなっているのかと思い至り、家へと急ぐ。
 西野家もスラグロンに襲われていた。父・一誠は母・和子を守り、趣味のハンティング用の猟銃で
必死に迎え撃っているが、スラグロンは次々に襲ってくる。家に走ってきた恵に気付いた一誠は、
「恵、来るんじゃない!」
 一足遅く、脇から出てきたスラグロンの一体が恵を襲う。
「ひ・・・城先生ーーーーーッ!!」

「はーい!」
 突如その場に飛び込んできた達志が、チョップの一撃だけでスラグロンを吹っ飛ばす。
「遅れてすまない、恵ちゃん」
「せ・・・先生ッ!」
 恵は半泣きで達志に縋りつく。達志はあからさまにふにゃーと気持ち良さそうな顔をするが、
それどころでもない。次々襲うスラグロンに即座に対処し、驚異的な身のこなしで打撃を入れて
一掃していく。呆然と見ている西野一家。
 達志の奮戦にも関わらず、スラグロンの軍団はまだ湧いてくる。やはりウルトラマンに変身しないと
きつい。達志は西野一家を見やり、変身するかどうか躊躇するが、既に恵には知れているし・・・
 達志はかつて宴の席で、恵の父・一誠が語っていたことを回想。元々他人の自分を家族同然に
扱ってくれる一誠に、それとなく達志がその真意を尋ねたとき、

「達志君。本来人は皆一つの家族であるべきなのだ。外見や生まれが違ったからといって、互いに
隔て合い、争うのは悲しいことだ。少なくとも私はそんな風に生きたくはない」

 と言っていた一誠なら、きっと判ってくれる。
 そう信じた達志は、アルファプラスを取り出してかざした。
「アルファーーーーーッ!!」
 光芒が迸り、達志はウルトラマンアルファへ転じた。

 アルファは等身大の敵に対抗するため、自らも等身大の大きさを維持することも可能である。
西野家から街中を神速で走り回り、スラグロンを次々とアルファブレードの錆にしていく。
追い詰められた残りのスラグロンは、一箇所に集まって融合。巨大な一体となって暴れ出す。
アルファも対抗して巨大化。住宅地に被害が出ないよう、スラグロンを公園に誘導。
スラグロンは意外に素早く、軟体構造の腕を自在に伸ばして攻撃。腕先は刃物のように鋭くなり、
アルファを貫いた・・・と思ったら。
 貫かれたのは、アルファと同サイズの巨大な丸太。
『ウルトラ変わり身!!』
 又毛筆テロップ。こんな巨大な丸太が何処にあったのかの説明は全くない。
 本物は又ウルトラ縮地で転移しており、隠れていた別次元から、
『ディメンジョンステルス!!』
 不意討ちで飛び出し、ブレードの刃でスラグロンに大ダメージを与える。ちなみに、異次元から
飛び出すとき、空がばりーんと割れた。
 ヒーローとしてその演出はどうだろうか。空は直ぐフィルム逆回しで元に戻ったが。
 苦しむスラグロンにアルファはギャラシウム光線を叩き込み、とどめを刺した。

『恵ちゃん、ご両親! 大丈夫ですか・・・』
 再び等身大になったアルファは、西野一家の身を案じて家に駆け戻り、テレパシーの声を響かせるが。
『え・・・?』
 母・和子は、事態の激変に耐えられずに気絶して恵におかーさんおかーさんと揺さぶられており、
二人を守り、父・一誠は、ウルトラマンアルファに猟銃を向けた。
『お父さん・・・それは・・・』
「去れ」
『いや・・・だって』
「うちには、人間でないものに身内はおらん! 出て行ってくれ! さもなくば本当に撃つ!」
 蒼白になって叫ぶ一誠。
 普通の銃で撃たれたからといって、ウルトラマンにとっては何ということもない。だが。
 アルファは、赤く点滅するカラータイマーを響かせ、不動で沈黙している。発光体の目や
開閉しない口から、表情は全く読み取れない。
「お父さん・・・!」
 恵がフォローを入れようとするが、アルファは黙って空を向く。
 そして、カラータイマーの点滅の音を残し、空へ飛び去って消えていく。
「城先生!」
 又も、アルファ=達志は、恵の前から消えた・・・

 続く。
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 ウルトラマンアルファ 3 ウルトラマン指名手配!?
 地底怪獣・アスゴル 他 出現


 斎木俊一は、レーザー銃でスラグロンの残り一体を撃ち抜いて倒した。
 前回ウルトラマンアルファは、東京の住宅地に大量出現した擬態インベーダー・スラグロンの
大半を倒したが、発生の中心地に繋がる市街地にも撃ち漏らしが多数いた。それらの処分は
駆け付けた地球防衛軍・ガーディアンの兵士達が行い、今丁度片付いた。
「お見事」
 霧島美樹が声を掛け、斎木は皮肉げに笑う。彼らは先日のゼットン軍団との交戦で惨敗を喫し、
アルファに美味しいところを持っていかれるという醜態を曝した。現在の後始末作業はその
ペナルティといったところである。しかし、斎木も美樹も特に名誉とかを重んじるタイプではなく、
その場で全力を尽くして市民を守ることが最優先だと言われるまでもなく判っているので、
この作業も特に文句も言わず遂行した。
「ウルトラマン・・・か」
 美樹が遠くを見る。彼女の感情を斎木が図りかねていたとき、
「そのウルトラマンが、今回も現れたらしいぞ」
 別の防衛隊員が二人やってきた。彼らの齎した情報で、斎木と美樹はアルファが自分達と同時に
別の場で戦っていたことを知った。
 後から現れた隊員の一人、柏村勝(かしむら・まさる)。固太りで筋肉質の屈強そうな男。
ごつい顔にぎらついた目が暑苦しい。
 そしてもう一人、美山由美子(みやま・ゆみこ)。隊員服の上から白衣を纏った科学要員で、
若い眼鏡の美人。柏村と対象的に明るく飄々とした雰囲気。

 事後処理が終わった後、四人は作戦本部の指令室に呼ばれた。
 説明が遅れたが、彼ら四人は防衛軍の中でも特殊技能に秀でたエキスパートを集め、特に厄介な
怪獣・侵略者への対策立案・実行のために編成された組織『特命防衛隊』のメンバーである。
準レギュラーとしてのこの四人以外にも随時メンバーが登場する予定だが、それはいずれ。
以後、面倒なときは『特防隊』、更に『特防』と略する。横文字の格好いい略称のネタがそろそろ
出なくなってきた。
 四人を召喚した特防隊の隊長、鍛え抜かれた体格の壮年の男・川上浩嗣(かわかみ・こうじ)は、
此処暫くの状況の整理を行う。秩父での戦いについては、ゼットン軍団とゼットニオスは殲滅
されたが、それを操っていたゼバット星人はまだ倒されておらず、以前潜伏したままと思われる。
警戒を続けるよう指示が下る。
「で、隊長。あの戦いの際のウルトラマンなのですが」
 柏村が口を挟む。
「うむ。それについては私も思うところがあった」
 由美子が大モニターを立ち上げ、映像データが流れ始める。
「ウルトラマンアルファより前にも、過去、数多のウルトラマンが地球に飛来しては多くの敵を
倒し、地球を守ったことは記録に残されている通りだ」
 過去のウルトラマン達が怪獣や宇宙人と戦う映像が流れていく。オフィシャルの綺羅星の如き
勇者達や、此処のオリジナルの面々も含めて。
 BGMは何故か『セブン暗殺計画』でガッツ星人がセブンの能力を分析しているときのあの
ぼんぼこぼこぼこ、ぼんぼこぼこぼこ。流しているのは由美子。他の隊員達の無言の視線に
刺されるも気にする様子はなく、せぶんは・まめつぶにも・なれる・とか小声で呟いている。

「そして、現在のウルトラマン、作戦呼称『アルファ』は、約一年前から姿を現し、その間多くの
事件解決の中心となってきた」
 その戦闘記録の一つ、東京近郊の山中から現れた太古の巨大爬虫類を起源とした地底怪獣・
アスゴルとの交戦の映像が出る。
 戦うアルファの様子は実にそつがない。素早い動きで怪獣を牽制しながら的確に打撃を入れて
ダメージを溜め、アスゴルが弱ったところでギャラシウム光線で倒した。それだけ。殆ど苦戦らしい
苦戦をしていない。
 アスゴル自体、口から思い出したように火を吐く以外は格闘くらいしか攻撃手段がない、特防隊でも
ちょっと気張れば倒せるくらいの怪獣だったということもあったろう。つまらんとか柏村が愚痴って
川上にどやされたという一幕はおいといて、実際ウルトラマンという要素を抜いても人類はもう長いこと
怪獣と戦い続けており、どうすれば効率的な対応が出来るかというノウハウもある程度確立され、
アスゴルくらいだと、最早山から気紛れに下りてきたクマや野犬と同じ感覚なのである(無論、
だからといって油断していいという話ではないが)。更に、アルファはこれまでアスゴル以外の数多の
敵と戦ってきた際もほぼこんな調子だった。
 それが、先日のゼットン軍団とのあの技を出し捲っての突然の派手な戦いぶり。勿論敵がこれまでと
桁違いに強大だったので対抗するために勢い本気を出したという考え方も出来るだろうが、恐らく
それだけではない。何かこれまでと違う事態が起きている、この場の五人は本能的にそう感じていた。

「しかし、この件については今回は此処で留め、諜報部に探らせて報告を待つ」
「え」
 不満そうに言う柏村を川上は視線で黙らせ、
「特防隊の活動趣旨は怪獣・侵略者の被害を防いで民間人を守ることであり、ウルトラマンに関しては
あくまで二次的な問題だ。ゼットン軍団を機に、地球を脅かす敵の脅威は更に威力を増すと思われる。
そちらに対しての対応が最優先だ。いいな」
 了解、と四人は一応敬礼するが、柏村は内心舌打ちをしていた。
(だが、俺はこれしきでは諦めんぞ。ウルトラマンの力は強大で素晴らしいものだ。必ずその力を
俺の手で防衛軍の、いや、特防隊のものとしてやる)
 横目で由美子に視線を送り、由美子もウインクを返す。
(ウルトラマンの力ってすっごいもんねー。特防隊随一の天才科学者として是非ともじっくり解明したい
ところだわうふふふふ)
 そのよこしまな意図は、二人とも普段から挙動不審なために川上にも斎木にも美樹にも
バレバレだった。川上は二人の行動に以後注意するよう後で斎木と美樹に釘を刺した。
「とにかく、ウルトラマンの力は強く大きすぎる。それに対する地球側の一部の心無い者達の反応のほうが
危険だからな」
「そうですね」

 西野家。
 母・和子はまだショックから立ち直れずに臥せっており、父・一誠も精神的に立ち直れずに
「達志君が・・・まさか達志君が・・・」と呟きながら必死に酒で心を落ち着けようとしている。
 どうしたものかと考えている恵のところに、近所に住んでいる従兄弟の小学四年生の少年・西野哲夫
(にしの・てつお)が突然尋ねてきた。
「恵姉ちゃん! どうして、達志兄ちゃんがウルトラマンだって教えてくれなかったの!?」
 ・・・情報が早い。
「・・・いや、私もつい先日知ったばかりなんだけど」
「それで、達志兄ちゃんはどうしたのさ? 行方不明なんだろ?」
「・・・うん」
「どうして探さないのさ!? ほっとくわけにはいかないだろ!」
「そうなんだけど・・・」
「ウルトラマンだったって、達志兄ちゃんが僕達にとって家族同然であることには変わりないよ。
姉ちゃんだってそうだろう?」
「・・・哲夫君」
「叔父さんや叔母さんだって説得し続ければきっと判ってくれるよ。だから、又兄ちゃんを探そうよ。
僕も協力するから!」
「有難う・・・哲夫君」
 恵は哲夫に感謝し、もう一度達志を探すことにした。
 だが、その感謝の念は直ぐ掻き消えた。直後の哲夫の叫びによって。
「やった! あのかっこよくて強いウルトラマンアルファが僕にとって家族同然の付き合いだって
判れば、皆に自慢できるぞわーいばんざーーーーーい! 僕はウルトラマンの懇意だ〜い!!」
「・・・・・・・・・・」

 まともな動機で動いていない者も多いが、とにかく事態は激動しようとしていた。
 続く。
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 ウルトラマンアルファ 4 達志の決意
 地底怪獣・アスゴル二代目 出現


 西野哲夫少年は、ウルトラマンアルファ=城達志を探すための行動に出た。具体的には、
『ぜんしんがぎんいろであかいもようがあります
 めはたまごがたでひかります
 てからギャラシウムこうせんがでてかいじゅうをやっつけます』
 などの解説と、へぼいアルファの似顔絵が併記されたビラを大量にコピー。それを近所中に貼って回ろうとして、
恵に殴られた。
「痛いなあ、何するんだよ恵姉ちゃん」
「迷子の犬猫探しか!? 大体、城先生の正体を大っぴらにばらしてどうするのよ!?」
「だって、どうせ僕達にはもうばれてるし」
「大変なことになるでしょう! 先生だってこれまで事情があって秘密にしてたんだろうし、ビラは駄目!
自分の足で探すのよ」
 恵は家の中に入っていく。
「姉ちゃんは探さないの?」
「お母さんがまだ立ち直ってないから看病しないといけないのよ。後で行くから」
「ちえー。姉ちゃんが一番会いたがってたくせに薄情なんだから」
 ぶつぶつ言いながら去っていく哲夫に恵は背を向けつつ、
「・・・心配してないわけないでしょ・・・何処へ行っちゃったんですか、先生・・・」

「まあいいか。達志兄ちゃんがいないのにウルトラマンアルファは僕の友達だって言ったってホラだと
思われるだけだし、実際に見つけて皆の前で証明したほうがインパクト大きいだろうからね」
 哲夫は前向きに考え、自力で達志を探すことにした。
「といっても、何処から探したものか・・・恵姉ちゃんは人目につかなそうなところから探したって
言ってたけど、それでナメクジ人間に出くわしてひどい目にあったしなあ・・・ええい、虎穴にいらずんば
虎児を得ず!」
 小学四年なのに難しいことわざ知ってる。
 哲夫は、町外れの山の入り口から山中に入っていく。
 暫く山道を探し回るが一向に見つからず、息が切れてくる。
「勘が外れたかな・・・」
 と、背後で茂みの揺れる音。振り返ると、
「・・・哲夫君?」
 達志が顔を覗かせていた。

「哲夫君にもばれちゃったのか・・・恵ちゃんに聞いたのかい?」
「自分で突き止めたんだよ」
「そうか。流石だなあ」
 達志はとほほと苦笑。
「ねえ、達志兄ちゃん。帰ってきなよ」
「今はまだ駄目だ」
「どうして?」
 山の頂上で、達志は遠景を眺めて背を向けたまま、
「今僕が西野家に帰っても、ご両親との間に溝が残ってしまう」
「僕が説得してあげるよ。恵姉ちゃんだって」
「気持ちは嬉しいけど、僕は自分の意思で地球にとどまるって決めたんだ。だから、それに伴ってくる色んな
面倒の始末も自分でつけたい」
「どうするのさ?」
「ご両親は僕の正体がウルトラマンだってことを既に知ってる。地球を脅かす怪獣や宇宙人と戦い続ければ、
放っておいても目に付くはずだ。だから、地球と共にあろうという僕の意思と、恵ちゃんへの想いが、ご両親に
伝わるまで戦い続ける。そうすれば、何時か必ず判って貰える」
「どんだけ時間がかかるんだよ!? それに、途中で怪獣にやられちゃったら・・・」
 不純な動機で今回のことに当たっている哲夫だが、それはそれ、これはこれとして達志の身を案じている。
 達志は振り返ってサムズアップし、不敵に笑った。
「僕は強いんだぜ」

 そのとき、山中に地鳴りが走った。
 岩をかち割り、地上に出て吠えた巨大な影は、
哲夫「ああっ、アスゴルだ!」
 前回特命防衛隊(以下、特防隊)の記録映像に映った、かつてアルファと戦った地底怪獣アスゴルの同種。
達志「又か」
 本当にこんなことがしょっちゅうらしい。
 達志は哲夫を抱え、安全な麓へと素早く駆け下っていく。

 アスゴルも麓へと近付いていく。このままでは街に被害が出るのは必至・・・
「そうはさせるか、ケダモノめ!」
 野太い叫びと共に、アスゴルの足下から大きなドリルが回転しながら飛び出した。アスゴルはバランスを
崩して転倒。
 地上に出現する、ドリルを回し続ける特防隊の地底装甲車・プロライザー。
 過去の防衛隊・N-BIDの活動期において、地上兵器としても活用された地底戦車・ライザーシリーズ(源流は
U警備隊の名機・マグマライザーとも言われたり言われなかったり)の量産計画が持ち上がっていたが、
このプロライザーにいたって漸く実現し、ガーディアンにも多数の予備機が配備されている。今柏村隊員が
乗っているのは特防隊用として由美子隊員によって特別にチューンナップされたパワー重視型。
 特防隊本部でオペレートしている由美子。
「いったんさい、柏村隊員!」
「おうともよ! 殲滅してやるぞケダモノはっはっはーッ!!」
 プロライザーはロケット砲を出し、アスゴルに怒涛の攻撃。
「突出しすぎるな、柏村」
 斎木の警告の通信と共に、上空から二機の航空兵器も飛んできた。それぞれ斎木と美樹の乗った、
三角翼のVTOL機・トライビート。スペースジェットとジャイフローの両特性が取り入れられ、高空では
高速飛行、地上付近ではホバーとバーニアを併用して軍用ヘリ並の滞空や複雑な機動が出来るようになっている。
由美子「これからがしがしスーパーメカが増えるわよーほほほほほ!」

 空と地上からの同時集中攻撃を受け続けたアスゴルは怒った。口から火炎を吐く。
「当たるものか」
 斎木のトライビートは軽く交わすが。
 飛び去っていくと思われた火炎の軌道がUターンし、戻ってきた。
「何・・・!?」
 人類側の攻撃に対抗するため、アスゴルも短期間で新しい能力を身に付けたのである。
「危ない、斎木隊員!」
 美樹の警告も空しく火炎は機体を直撃。
「くそ・・・!」
 やむなく、トライビートが墜落する前に斎木は脱出。パラシュートで降下していく。
 続いて、アスゴルは地上のプロライザーを狙って火を吐く。
「うわっ、こ、こっちに来るな!」
 プロライザーは逃げるが、火炎はホーミングして追ってくる。

 麓に哲夫を降ろした達志は、
「じゃ行って来るよ、哲夫君。恵ちゃんには心配しないでって伝えといて」
「待ってよ、達志兄ちゃん!」
 哲夫の制止も空しく、達志は駆け出しながらアルファプラスを取り出してかざし、
「アルファーーーーーッ!!」
 眩しい光を放って身を転じていく。その光景に、哲夫は思わず声を失って見とれていた。

「うわーーーーーッ南無三!!」
 迫る炎から逃げ切れず柏村は絶叫するが。
 光と共に現れたウルトラマンアルファが、全身でプロライザーを庇って炎の命中を防いだ。
「おお・・・ウルトラマン! 人類の未来! 特防隊の未来! 俺の未来ひゃーーーははは!」
 勝手なことを言って狂喜している柏村をほっといて立ち上がるアルファ。
 新たな敵の出現に猛り立ったアスゴルは、アルファにもホーミング火炎を吐きかける。
 アルファは素早く避け、更に襲い掛かる炎をバック転や側転で交わし続け、そして、アスゴルに
急接近し、同時に素早く離れる。アルファを全速で追っていたホーミング火炎は急に止まれず、
途上にいたアスゴルに直撃した。全身が燃え上がってあちちちちとのた打ち回るアスゴル。
その隙を突き、アルファはギャラシウム光線を一閃。今回も危なげなくアスゴルを撃破した。

 山の麓で見届けていた哲夫に再びアルファはサムズアップを送り、空を向いて飛び去っていく。
(そうさ。僕の本当の戦いは、まだ始まったばかりなんだ)

 続く。
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 ウルトラマンアルファ 5 日々に潜む恐怖
 生体無機物・マテリス 出現


 西野家。
 大黒柱の一誠は、町内会から回ってきた回覧板を読み耽っていた。先日、ナメクジ人間・・・
擬態インベーダー・スラグロンが街に現れて騒ぎになったのを機に、街全体で自警団を編成して
侵略者への地域レベルでの警戒態勢を強化する旨の通達である。嫌な世になったものだと
一誠は思う。
「お父さん、聞いてるの!?」
 彼の後ろには娘の恵がいる。恵は彼女の家庭教師の城達志が西野家に戻ってくるのを受け入れるよう
ずっと一誠を説得し続けているのだが、一誠は頑なに心を閉ざし続けている。
「城先生がウルトラマンだったのは、先生のせいじゃないでしょう!」
 せいってのも妙だが。
「ウルトラマンだったって、人間じゃなかったって、城先生は城先生に変わりない。お父さんも
本当は判ってるはず・・・」
「唐突すぎるじゃないか!!」
 一誠は背を向けたまま叫ぶ。
「お前だって最初は動転したんだろう」
「それは・・・」
「日毎ひっきりなしに巨大な化け物がうろついて街を壊し、往来の何処に人間に化けた宇宙人が
潜んでいるかも判らない、そんな状況下で家族を守っていくだけでも一杯一杯なのに、この上
人間でないものを家の中に置けと!?」
「・・・お父さん・・・」
「達志君は私達を騙していた、自分の正体を隠していた、その事実に変わりはない!!」

 今日も説得はならず、恵は内心へこむが、母の和子の前ではそれを隠し、甲斐甲斐しく
看病を続ける。そんな恵に和子は言った。
「恵。明日からはもう学校に行きなさい。母さんはもう大丈夫だから」
「お母さん・・・」
「母さんはいいのよ。何時城先生が帰ってきても。最初は確かに驚いたけど」
 母が判ってくれた事に喜びを禁じえない恵。
「只、お父さんについては、もう少し考える時間をあげて」
「でも・・・」
「人間は、そんな直ぐには変われないのよ」

 リビングで一誠は沈黙している。
(達志君。本来人は皆一つの家族であるべきなのだ。外見や生まれが違ったからといって、互いに
隔て合い、争うのは悲しいことだ。少なくとも私はそんな風に生きたくはない)
 かつて、自分が達志に言った言葉を思い出す。
「はい言いました。確かに言いました。だけど・・・ウルトラマンや怪獣やインベーダーは『人』じゃ
ないだろう! 私は・・・私は・・・!」
 一誠は、葛藤のループから抜け出せずにいた。

 一方。
 特命防衛隊は、宇宙からの未知の侵入者によって起こされた事件の調査を行っていた。
 マンションの一室で起こった惨劇。住民の一人が、寝室で寝ている間に頭を食いちぎられて死亡した。
捕食を行ったのは、その住民が頭に敷いていた、枕。
 ギャグではない。生き物でも何でもないはずの枕がいきなり生き物のように変形し、大きく裂けたと
思うと、その裂け目が牙の生えた口となり、頭に噛み付いて身体から毟り取ったのだ。その後、枕は
素早く動き回って他の部屋の住民にも傷を負わせ、通報を受けた防衛隊が駆けつけて漸く射殺された。
 最初の被害者の部屋を検分する特防隊と鑑識要員。ベッドにはおびただしい鮮血が飛び散り、
不気味な肉塊と化した枕の死体が厳重に封じられて運ばれていく。その光景を見て平然としているのは
由美子くらいで、一見がさつそうな柏村が一番応えてハンカチで口を押えて青ざめている。川上隊長や
斎木や美樹は平静を保っているが、勿論彼らにとっても気分のいい事態ではない。
 こういう事件は、今に始まったものではない。此処暫く、市民が日常生活をしている場所の周辺の
普通の生活用品や設置施設が宇宙の寄生生物に取り付かれていきなり怪物に変貌し、人間に襲い掛かるという
事件が散発している。
 これまでも侵略者の作戦によって、地球上に存在したものが何らかの力による処置で怪獣となる
事態はあったが、その脅威を一同は改めて痛感する。あからさまに怪獣的な姿をしているものや悪意むき出しの
宇宙人や人間とかなら事前に気付くだろうが、こんなやり方をされたら何から警戒していいのか判らない。
分析を担当していた研究員からも、どう手をつけていいのかわからず精神的に耐えられなくなってリタイヤ
するものが次々出ていたが、

「軟弱ねえ」
 由美子は吐き捨てる。
「地球に害を与えようとしている侵略者が、どんな攻撃をしてくるかわざわざ教えてくれるほうがおかしいでしょう。
そのくらいの覚悟も無い奴はさっさと降りなさい。これでこそやりがいがあるというものよふふふふふ」
 由美子は意気高く、変貌した生体無機物、作戦呼称『マテリス』のサンプルの分析を行い、探知手段の開発に
いそしんでいる。
(そこまで神経太いのはお前だけだ)
 他の特防隊メンバーは、とりあえず彼女に任せることにした。

 又一方。
 西野哲夫少年は、達志の行方について案じつつ、何とか自分の兄貴分の達志がウルトラマンアルファであることを
皆に知らせて自慢する方法はないか、まだ考えていた。それはそれこれはこれ。
 物思いの場所は学校帰りの公園。哲夫の友達も数名いる。
「どうしたんだよ、哲夫。ぼけっとして」
「ああ・・・いや、何でもないよ。ただ、なんか最近面白くないなーって」
「そうだよなー。大人達は怪獣や宇宙人にびくびくしてて、なんか周りの雰囲気暗いもんなー」
「何か刺激的なことでもあれば・・・ん?」
 友人の一人は、公園の遊具である、ライオンの形をした大きなオブジェの上に座っていたのだが。
 もそもそと動いたような気がする。
 その気のせいは、次第に確信となっていく。揺れがだんだん大きくなり。
 激しく振り落とされた。
「な・・・な、何だ!?」
 オブジェは四足で立ち上がり、目を開いて唸る。質感はペンキを塗られたコンクリートそのままだが、
生き物のように動いている。このオブジェにも、今突然マテリスが寄生したのだ。

「刺激的すぎる!!」
 子供達は悲鳴を上げて逃げ出し、オブジェ=マテリスは追ってくる。ほどなく追いつかれ、一人の少年が
押さえ込まれる。マテリスは牙を剥いて噛み付こうと構えている。
「助けてーーーーーッ!!」
 マテリスは牙を打ち下ろした。
 少年との間に咄嗟に入り込んだ、鍛え上げられた逞しい腕に。

「達志兄ちゃん!?」
 哲夫が叫ぶ。
 力なき者の助けを求める声に答え、城達志は現れたのだ。
 腕に噛み付かれたまま、力でぐいぐいと押し返してマテリスを子供から引き離す。噛まれた腕からは、
光の力が血となって眩しく光りながら垂れ落ちているが、達志は一向に怯まない。
「あれ・・・哲夫の従兄弟の姉ちゃんとこの家庭教師の人?」
「何だよ・・・あのきらきら綺麗に光ってる血!?」
 達志はもう片方の自由な腕でアルファプラスを出してかざし、
「アルファーーーーーッ!!」
 子供達の前で堂々と、ウルトラマンアルファに変身した。
 等身大のままマテリスと組み合い続けるアルファに、哲夫が尋ねる。
「なんで・・・隠さないの達志兄ちゃん!?」
『僕はこの星で生きていくと決めたんだ』
 テレパシーが子供達に伝わる。
『共にこの星で生きていく人達に、最早何を隠す必要がある? そもそも・・・隠していたから、恵ちゃんの
ご両親の信頼を裏切ることになったんだ』

 アルファは渾身の力を込めてマテリスを蹴り飛ばす。
 地に叩きつけられたマテリスが苦しんだところで接近し、拳と蹴りで滅多打ちにする。抵抗する力もなくなった
ところで宙に放り上げ、何処からともなくアルファブレードを取り出し、
『ウルトラ居合い抜き!!』
 ばらばらに切り刻んでとどめを刺した。

「兄ちゃん!」
 哲夫の制止を振り切り、アルファは達志に戻って片腕を押えて公園の茂みへ消えていく。
 アルファが達志であることは哲夫の友人達にも知れたが、自慢するとかいう状況ではない。激しい戦闘で
公園のあちこちが破損し、寸断されたマテリスの破片が転がっている。特防隊が駆けつけてくるまで一同の
放心は続いた。
 暗い森を行きながら達志は微笑んで呟く。
「まだ序盤戦だ・・・へこんでられない」

 続く。
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 ウルトラマンアルファ 6 怒りのレスキューダッシュ!!
 拘束怪獣・ザガラン 出現


 西野恵の通う桜ヶ丘高校。依然述べたとおり、都内に古くからある桜ヶ丘中学校からエスカレーター式に
進学する形で近年併設された学校である。
 その全景。時間帯は午前中で生徒達は授業中、校庭に人気はない。
 城達志は、学校裏の山あいからその学校の様子を神妙な表情で一人見下ろしていた(因みに、前回
マテリスに噛まれて負傷した腕はもう治った。流石ウルトラマン)。
 この土地自体に、強力な負の想念の力、マイナスエネルギーの気配を感じ取ったからである。
 又マイナスエネルギーかとうんざりする諸兄もおられるかも知れないが、今回はどうしても必要な
要素なので、ご容赦を。
 昭和80年代初頭、そのマイナスエネルギーに敢然と立ち向かった先達がいた。怪獣は人間の悪い心に
よって生まれる、故に、学校教師となって社会に巣立っていく子供達を教え導いて悪い心をなくし、
怪獣の出現を食い止める、その斬新な試みを行った先達がいた。
 だが。
「何故その試みは、たった1クールで打ち止めになってしまったのだ!?」
 達志は悲しかった。(ナレーション)
 先達が訴えたマイナスエネルギーの脅威は、怪獣という形で現出せずとも未だに確実に人間社会を
蝕んでおり、以前なら考えられなかった些細なことでも直ぐ他者を殴り蹴ったり殺したりする者が
若者どころか大人からも頻発し、人として恥ずべき行為を恥じるどころか平然と開き直って行うような
者が続出している。マイナスエネルギー怪獣の格好の餌である。
 達志は怒った。(ナレーション)
「そこまで視聴率が大事か!? うおおおおおお!!」
 悲しみに耐えかねて山を駆け降り、校内の運動場の鉄棒を握り、見事な大車輪を連続する。
 城達志は教育の荒廃に嘆いた(のか、1クール打ち止めに嘆いたのか微妙だが)とき、取り合えず鉄棒で
大車輪を連発するのだ!(ナレーション)

 そして、それを見つけた年配の用務員のおっさんに学校から叩き出された。
「何考えてるのか知らんが、今の時世にこういう真似するとあんた冗談抜きで身が危ないぞ」
 路上に突っ伏している達志にそれだけ警告して去る。警察に通報したりはしない。寛大だ。
ウルトラマンとして変身前でも絶大な肉体能力を持つ達志を腕ずくで追い出したのも凄まじい。何者か。

 達志の想い人である恵は、看病していた母の和子に諭されて再び学校に来るようになっていた。しかし、
達志の行方が知れないことは相変わらず彼女の表情を曇らせていた。
「恵、生きてる?」
「あ・・・夏美」
 休み時間、友人の江口夏美が声を掛けてきた。
「家庭教師の人、まだ見つからないの?」
「うん・・・」
 達志がウルトラマンであることまでは周りには言っていない。当然だろうが。
「元気だしなって、きっと見つかるよ。何かあっても私に言ってくれたら相談に乗るからさ」
「うん・・・有難うね、夏美」
 夏美は恵と長い付き合いで、何かと親密にしてくれていた。
 だが、その真意。
(ふふふ・・・あと少しよ。このままあの鬱陶しいカテキョの男が何処かでのたれ死んでくれれば、恵は
私だけを見てくれる!)
 夏美は、達志が恵の強い興味の対象であることに嫉妬していた。自分だけを愛して欲しいと黒い腹の底で思っていた。
 え? 女同士じゃないかって? うん、そうだよ。それが?

 別の教室。
 男子学生の一人・良は、成績優秀な優等生として学校側から優遇されていた。小学生のときからクラス
委員の定番要員であり、現在もやはり委員を務めていた。そして、彼の優遇振りを妬む他の生徒達に、
クラス活動の面倒の全てを押し付けられていた。
「お前は俺達と違って出来る奴なんだからな。このくらいどうってことないだろ」
「お高く止まりやがって」
「勉強だけやってろよ」
 心無い言葉を投げられ続けても、自分は他の奴とは違うんだという自尊心に縋り、黙々と作業を続けていた。
それでも精神の安定を保つのは辛く、放課後に一人で夕日の裏山の高みで『お山の大将』を歌って心を
落ち着けたりしていたが(今時いるのかそんな奴)、今日は特にストレスが溜まっていた。

 又別の教室。
 男子学生の一人・真一は、逆に自分の成績にコンプレックスを感じていた。実際は劣等生というほどでもないのだが、
彼の家はいわゆるエリート家系で、両親も兄弟も皆各方面で高い業績を上げてもてはやされており、真一だけが
なんか平凡レベルだった。上昇志向の強い親からもひっきりなしにもっと頑張れとせっつかれ、コンプレックスのやり場を
なくした真一は、
(僕はきっと、この家の子供じゃないんだ。本当は何処か遠い宇宙の星から地球に流れ着いたんだ。何時かきっと
故郷の星から迎えが来てくれるんだ)
 そういうありもしない幻想に逃避して自分の心を守る、哀しい生き様をさらしていた。

 他にも、いじめとか喧嘩とか不正行為とかが日常の水面下で多発し、今日はいい感じのマイナスエネルギー日和で、
空は中途半端に曇っていた。
 放課後、夏美と良と真一は、旧校舎のうらびれた文科系クラブ棟の、更に薄暗い地下室へ向かう。そこにはマイナーな
部活や予算もろくにもらえない同好会のボロ部室がわだかまっており、三人はそのマイナー部活の一つ、オカルト
研究会に所属していた。
「ヨウセイハホントウニイルノデス」
 部長の女生徒・かなえは、何処を見ているのか判らない目で言った。誰に言っているのかは不明。
 かなえの音頭で、怪しいアイテムが吊るされたり壁に貼られたりしているいかがわしい部屋で、たった三人の部員は
実在するのかどうかも判らない対象に向かって、
真一(早く迎えに来てください宇宙人様)
良(下らない害虫どもが何かの事故で皆死んでくれたら素敵だな)
夏美(頼むから帰って来るなクソ家庭教師)
 勝手なことばかりを願っていた。
 尚、部長のかなえは、この生徒達の暗い想念を利用して悪を企む侵略者が化けたり操ったりしてるとかそういうのでは
ない。残念ながら、彼女もオカルトという信仰対象に逃避しているただの人間だった。
 そして。
 彼らの祈りを基点として、学校中の暗い想念が一箇所に呼び寄せられ、一帯の大気に満ちていたマイナスエネルギーを
怪獣として具現化させる。
 暗雲から稲妻が走り、集結し、しゅみみみみみんという音がして。
 実体化した怪獣・ザガランが校庭で雄叫びを上げた。

 学校は大騒ぎになり、生徒や教師達が一斉に悲鳴を上げて逃げ出す。
 それを尻目にザガランは、尚発生しつつあるマイナスエネルギーの基点の匂いをかぎ当てる。旧校舎のオカルト研究会の部室。
 これだけの騒ぎになっても、部員達はまだ祈祷に一心不乱だった。トランス状態に陥っていたのである。
 ザガランは身体から複数の触手を伸ばす。それらは壁を突き抜けて旧校舎に侵入し、祈っていた部員達を捕まえて引き上げる。
そして、ザガランの体内に押し込んで閉じ込めてしまい、自身のエネルギーの源とする。
「夏美!?」
 逃げる生徒達の中、恵は、怪獣に捕まった生徒の中に夏美がいるのに気付いた。怪獣の身体は半透明になっており、
中心に閉じ込められた生徒達が見える。
 一瞬躊躇うが。
 駆け戻り、校内から掃除用のモップを見つけ、それをかざし、
「夏美を放しなさい!」
 怪獣に突っかかっていく。
 そんな恵を見たザガランは、彼女の心の中に達志と会えないことへの不安を見つけ、恵もエネルギーの源と認識した。
「きゃあっ!?」
 触手を伸ばして捕まえ、取り込んでしまう。

 パトロール中にマイナスエネルギーカウンターの反応から怪獣出現を知り、駆け付けてきた特防隊の斎木、美樹、柏村
(由美子は生体無機物マテリスの探知システムの開発中で留守番)だが、怪獣の体内に学校の生徒達が捕まっているのを
視認し、迂闊に攻撃できない。
斎木「どうすれば・・・?」
 そのとき。
 ディメンジョンステルスの状態からばりーんと空が割れ、その中から眩しい光と共に、巨人が出現した。
柏村「おお、ウルトラマンアルファ!」

 達志の懸念していたとおり、マイナスエネルギーの蓄積によって怪獣が出現してしまった。警戒し続けていた
達志=アルファだが、何よりもこの場に現れたのは、勿論恵が怪獣に捕まったからである。
(よくも恵ちゃんを!)
 怒ったアルファに対し、ザガランは自分の身を守るため、胸を張って体内に透けて見える生徒達を見せ付ける。無論、
そうすればアルファは人質を気にして攻撃できないだろうと判断してのことである。
 だが、アルファは怯まず、
『ウルトラ大車輪!!』
 取り出したアルファブレードを長く伸ばして地に突き立て、それを軸にして両手で掴んで地面に水平に回転し、
ザガランに連続キックをかましてきた。何故怯まないのかと混乱し、蹴られ捲くるザガラン。
 下手に躊躇するといいようにされる。それよりは構わずさっさと向かっていって相手の判断を狂わせたほうがいいという
判断が見事に図に乗ったが、それだけではない。アルファは、まだ怒っていた。

(何故1クールで打ち止めになってしまったのだーーーーー!?)

 余程根に持っているらしい。そのことをこの怪獣に怒ってもどうなるものでもないのだが、怒りのやり場がないので
とりあえず敵に当り散らす。
 遠くの星から来た男は、愛も勇気も教えてくれない。そんなもん、社会に出て自分で学べ。
 へろへろになったザガランに対し、アルファは一歩下がって構え、フィニッシュをかける。
『レスキューダッシュ!!』
 ウルトラ縮地の応用技。敵の座標に向かってテレポートする。同じ座標に入ったところで敵の体内の人質を捕まえて
抱えて助け出し、同時に元の次元に実体化して敵を内部から破壊、そのまま背後へ突き抜ける。
 構成物質レベルで破壊されたザガランは、断末魔と共に何故か気を付けして後ろに倒れ(倒れるときもしゅみみみみみんと
音がする)、爆発して無に帰した。

 学校の裏山で、アルファは助け出した生徒達をそっと地上に降ろし、そして、達志に戻って逃げ出す。
「城先生ーーーーーッ!!」
 恵の怒号に後ろ髪を引かれながら。
「一所懸命ーーーーーッ!!」
 捨て台詞を叫ぶが、そういいながら結局何処へともなく去っていくので説得力は全くない。
 ちなみに、助け出されながら一部始終を見ていたこの場の他の学生達にも又正体がばれた。
良「あの人が・・・ウルトラマン・・・?」
かなえ「うるとらまんハホントウニイタノデス」
真一「そうか・・・僕を迎えに来てくれる宇宙人はウルトラマンだったんだ! 待ってくれウルトラマーン!」
 夏美に至っては、達志がウルトラマンであるとかいう話は頭からどうでもよく、恵が達志に執着しているという事実のみが
許せなかった。
「何よあんな奴・・・ただの不審人物じゃない!」
 そのとおりだった。(ナレーション)
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ウルトラマンアルファ 7 鉄壁! ディフェンスポート
 改造深海怪獣・グビリオス、量産グビラ軍団、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 異次元空間。ゼバット星人の地球侵略軍団のアジト。
「おのれ、おのれおのれウルトラマンアルファめ! これほどの屈辱があろうか、いやない反語!」
 ゼバット星人達は、第1話でゼットニオスと量産ゼットン軍団をウルトラマンアルファに
倒されたことで悔しがっていた。
「何としても八つ裂きにしてやらねばならん!」
「しかし、どうしたものか。何時も突然現れて怪獣や宇宙人を倒して去っていくアルファの素性も
居場所も、我々は未だに突き止めておらんのだぞ」
「ええい、かくなる上は・・・取り合えず場所のわかっている特命防衛隊の基地を、むかつくので
憂さ晴らしに襲撃して壊滅させてやる!」
 その程度の奴らである。軍事力だけは無駄にあるのでたちが悪い。

 特命防衛隊・日本支部の拠点『ディフェンスポート』は、東京湾岸の埋立地に面して建てられている。
過去、晴海に立てられていたBIDベースの資材を流用、改造して建てられたものである。初期状況の
説明のために本編登場が大変遅れた。申し訳ない。
 そのディフェンスポートで、川上浩嗣隊長は美山由美子隊員の研究室に向かい、生体無機物マテリスの
探知システムの開発状況について尋ねた。中々進まないという。
「そりゃ、普段身の回りにある普通の器物がいきなり怪獣になって襲ってくるんですからね。条件設定に
時間もかかりますよ」
「それは判るが、とにかく急いでくれ。このままでは犠牲者が増えるばかりだ」
「判ってます。勿論諦める気はありませんよ」
「うむ。で、実は、更に面倒を増やすことになるのだが」
「何ですか?」
「先日の交戦以来音沙汰のない侵略者・ゼバット星人の件だ」
「ああ」
「奴らは過去複数回我々と交戦し、ウルトラマンアルファの助力もあってこれまでの侵略は全て阻止
されているが、向こうの拠点の所在も未だに掴めていない。これも早急に解決しなければならん」
「まあ、今までの作戦を見てもなんか行き当たりばったりで、戦略意図のよく判らない連中ですけどね」
 むかつくので憂さ晴らしとかゼバット星人が言っていたのを聞いたら、特防一同は激怒するだろう。
 とにかく、その件も並行して出来る限りで進めて置くと由美子が了承したとき、基地内に警報が
鳴り響いた。由美子には開発研究の続行を命じ、川上は司令塔へ急ぐ。

「わはははは、久しぶりだな特命防衛隊の諸君!」
 ディフェンスポートの正面の海の上の空に、ゼバット星人の巨大な立体映像が浮かんでいた。大げさな
身振りの映像と共に、音声が響いてくる。
「今日は貴様らの基地を壊滅させに来た。我々の挑戦を受けるがいい!」
 同時に東京湾の沖から、星人の怪獣兵器が浮上した。しかも又軍団で。
 司令塔で見届ける川上。
「グビラか」
 縦に平たい魚のような身体は白・黒・黄色の混ざった派手な斑模様。そして鼻先に付いたドリル。
かつての怪獣頻出期に出現し、当時海底科学基地を襲撃した結構強敵な奴。
 前回量産ゼットンを多数出して消耗したのか、二桁には至っていないが、複数いるだけで面倒といえば
面倒だ。そのグビラ軍団が、一斉に基地に向かって侵攻してくる。川上は即座に迎撃命令を出す。
 斎木、美樹、柏村がそれぞれ乗り込んだトライビートが出撃。グビラ軍団に攻撃を掛ける。グビラ軍団は
いきなりハイジャンプしてドリルを突き立てようとしてきたり、頭から毒汐を飛ばしてくる。交わしながら
攻撃を続けるトライビート隊。牽制にはなっているが、いずれ限界が来るだろう。

「ゼバット星人め!」
 事態を知った城達志が、状況を見渡せる海岸の倉庫街に走ってきた。倉庫の陰に隠れ、
「アルファーーーーーッ!!」
 アルファプラスをかざして光を放ち、ウルトラマンアルファに変身。今回もディメンジョンステルスで
敵に肉薄してから空を割って飛び出し、体当たりでグビラの一頭を突き飛ばして登場。そのまま参戦。
柏村「おお、来たかウルトラマンアルファ!」
美樹(・・・ウルトラマン・・・)
 海に半身を出して立つアルファはアルファブレードを取り出し、抜き身にして軍団に斬りかかって行く。
今回は、ウルトラ居合い抜きでいきなり一網打尽にしない。というより、出来ない。
 西野家から追い出されて以来漂泊の身のアルファ=達志は、短期バイトを転々として食うや食わずの
日々を送っており、今日は特に消耗していた。要は腹が減って、強力な技を使えるほど充分に精神が統一
できないのだ。
 それでも大苦戦するというほどでもなく敵と渡り合っているが、もたついているのは否めない。

「ウルトラマンアルファ!? やはりきおったか」
 ゼバット星人達も驚く。予測しとけよという気もする。
「・・まあ待て、そう焦る事はない。当初の計画を続行しよう」
「どういうことだ?」
「見て判らんか。アルファは今グビラ軍団に阻まれて自由に動けない。無論特防の迎撃隊もだ。
つまり、特防の本拠を攻めるチャンスというわけだ」
「な・・・なるほど」
「この隙に当初の予定通り、最大の戦力を特防の本拠へ送り込むのだ。出でよ、改造深海怪獣・グビリオス!!」
 星人の召喚に応じ、ゼットニオスの時同様、グビラの強化改造型怪獣がディフェンスポートの更に眼前に
次元転送された。四足から直立状態になって均整の取れたスタイルになり、鼻だけでなく、両手の先にも
巨大なドリル。そんなグビリオスが、波を踏み分けてディフェンスポートに迫っていく。
「アルファの相手は後でゆっくりしてやる。基地が壊されるのを見ているがいい!」

 だが。
 ポートに向け、腕のドリルの一撃を放とうとしたグビリオスは、突然の横からの衝撃に吹っ飛ばされた。
ゼバット星人達「何!?」
 周辺の埠頭を構成していた大きなブロックの一つが、ジェット噴射して飛んできてグビリオスに叩きつけられたのだ。
「ミリー、もっと叩き込め」
「了解」
 返答したのは、川上の位置する司令塔でメインオペレーターを勤める少女、ミリー。
 彼女の操作により、他の埠頭のブロックも次々飛んできてグビリオスを叩きのめす。しかも、一度ぶつかっても
リモコンで方向転換して又戻ってきてぶつかる。
 怪獣相手に砲台の弾丸をちくちく撃っていても大したダメージは与えられないと考えた川上が発案した、
質量迎撃兵器『アタックデコイ』だ。後年、A&Rの訓練システム、ゴーストブロックにこのシステムが受け継がれたり
受け継がれなかったり。

 かなりのダメージを受け、よろめいているグビリオスに、
「とどめだ、ミリー! 機動司令塔、分離!」
「了解」
 司令塔の上部が分離してバーニアで姿勢制御して浮上し、巨大な機動兵器となる。
「アタック!」
 機動司令塔に自ら乗り込んでいる川上の号令とミリーの操作で、司令塔がグビリオスにジェットの大噴射で突撃。
更に、衝角になっている司令塔の前面が展開して超巨大なドリルが出現。高速回転してグビリオスの胸に突き刺さり、
追加ダメージで高圧電流まで放たれる。
 ゼバット星人達が絶句する中、主戦力のグビリオスは、ウルトラマンアルファではなく、特命防衛隊の攻撃で
撃破され、海に倒れて大爆発した。
 後はもう、アルファとトライビート隊によってグビラ軍団が一方的に掃討されるだけだった。
「お・・・お・・・おのれーーーーーッ覚えてろーーーーー!!」
 ゼバット星人達は撤退した。

 アルファが去った後、川上は機動司令塔をポートの上に戻して接続し、トライビート隊を呼び戻して
隊員一同に訓辞を垂れる。
「今回ディフェンスポートは守り抜かれたが、ゼバット星人は又襲ってくるだろう。他にも生体無機物への対策など、
我々には多くの課題が残されている。この勝利に気を抜くことなく、今後も地球を狙う敵に目を光らせるのだ」
「了解!」
 敬礼する隊員達をオペレーター席で見つめるミリー。人形のように全く表情がない。事実ミリーは、特命防衛隊の
テクノロジーによって開発されたアンドロイドであった。

 続く。
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 ウルトラマンアルファ 8 二人ぼっちの宇宙人!?
 電送教授・プロット星人 出現


 西野家の家父長・一誠は、妻の和子が説得を始めたにも関わらず、ウルトラマン家庭教師・
城達志を自宅に戻すことを頑なな態度で拒否し続けていた。そこで、和子は別の手を講じた。
 休日、一誠がリビングでくつろいでいると、和子が掃除序でに何やら大荷物を次々運んで
いくのが見える。
「何をしてるんだね」
「達志君の部屋にあった荷物を処分するんですよ」
「・・・え?」
「だって、一向に帰ってこないんだから仕方ないでしょう」
「え・・・しかし、勝手に」
「もう達志君を家には入れないんじゃなかったんですか?」
「あ・・・うん、そうだ、その通りだ」
 一誠はそう主張していたことを思い出し、平然と構える・・・つもりだが、煙草を不自然に
勢いよく吸ったり、明らかに挙動が怪しくなってきている。これならしめたもの、この手を
地道に続けようと和子は思った。処分したという達志の荷物も、レンタルの屋外収納庫を
借りてそこに隠しているだけである。
「と・・・ところで、恵は何処に?」
「出かけてくるって言ってましたよ」

 城南大学。
 新技術の研究・開発でその筋では名高い。優秀で肉体的にも優れたかつての在籍者が某悪の
秘密結社にさらわれて改造手術を受け、脳改造寸前に脱走して密かに世界の平和を守っているとか、
地球の赤い光を授かったこれも優秀な在籍者が現在も光の巨人(光の国出身ではないが)として
いまだ現役であるとか、様々な都市伝説を残している大学だ。
 その城南大学の研究棟の一室で、此処暫く研究活動で篭りっぱなしの傍ら、丁度食事をしている、
庭野教授という名の人物。口髭にスーツ姿。落ち着いた風貌で、日毎黙々と熱心に研究に打ち込み、
生徒達からも一目置かれている。只、色々一風変わった嗜好があって、今している食事もその一つ。
「やはり目玉焼きは美味い」
 どんな食事のときも必ず目玉焼きをつける。目玉焼きが大好物。
 満足げに目玉焼きを食べていた庭野は、
「久し振りだね、城君」
 身じろぎ一つせず、音もなく何時の間にか部屋の一角に現れていた、達志に声をかけた。
 達志がこの大学に在籍していたことは、以前述べた。
「最近どうしたのかね。少しは顔を出さないと単位危ないよ」
「色々事情がありまして」
 そう、元々ウルトラマンとして戦っており、その上最近西野家を追い出され、宇宙警備隊にも
帰れない漂泊の身となり、大学に来るどころではなくなっているのである。
 そんな達志の腹が、ぐーとなる。漂泊の身なのでずっとハラペコだ。
 庭野の目玉焼きをじっと見る。
「あげないよ」
 庭野は目玉焼きを抱え込み、どんどん腹に収めていく。

 食事が終わったところで、達志は思い出したように言った。
「いや、目玉焼きの話ではないのです。今日は色々とケリを付けに来たのです」
「ほう。何のケリかね?」
「込み入った事情のために、大学から籍を外しに来たのです」
「何・・・? 一体どうした事情で? 君の頭脳を失うのは大きな損失・・・」
 驚く庭野に、
「その事情の一環は、貴方です、庭野教授。いえ・・・
 地球侵略を狙う宇宙からの工作員、プロット星人」
「・・・・・・」
 庭野は達志をじっと見詰め、
「そうか・・・君は、宇宙警備隊からの使者・・・」

 城南大学に在籍中、達志は庭野と共に、実体を持つ物体を電気信号に変換して別の場所に
転送する、電送システムの開発研究を行い、互いの頭脳をもって実用寸前にまで研究をこぎつけていた。
だが、その段階で、達志は庭野が宇宙人で侵略者であることを見抜いた。プロット星人は、本星の
侵略部隊を高速で地球圏に電送するために、電送システムの研究を行っていたのだ。
 知らずにその研究に手を貸してしまっていた達志は、正体が恵や他の人々にばれて暫く身辺が
ごたごたしながらも、今回こうして星人の計画を阻止しに来る機会を窺い続けていたのだ。
「残念です、庭野教授。貴方には、学問だけではない、人がよく賢明に生きていくうえでの
様々なことを教わった。変えがたい恩師だと思っています。ですが、それはそれ、これはこれです。
貴方の地球侵略の野望は、何としても阻止しなければならない」
「そうか・・・そうだな。私も残念だ。君がウルトラマンであることを見抜けなかったのは迂闊だった。
だが、知ってしまった以上、確かに私もケリを付けねばなるまい」
「そうですね。それに、僕には、ウルトラマンとしてだけでなく又別に・・・この星に生きる者として、
地球を守らなければならない理由がある」
 胸に浮かぶ、恵の面影。
 アルファプラスを静かに取り出す。
「アルファーーーーーッ!!」
 眩しい光と共に、達志は超人に転じる。

 白昼、大学の生徒や講師達は仰天し、一斉に騒いで逃げ出した。
 いきなり研究棟から二つの巨大な影が現れ、もみ合って戦いを開始したからだ。
 一方はアルファ。そしてもう一方は、庭野教授の異形の正体、プロット星人。
 黒い細身の身体の上には・・・白いひれのように広がったひだの中心に、二つの黄色い目。
目玉焼きそのものの頭と顔。
 力の押し合いではケリがつかないと見た両者、一旦離れて間合いを取り合う。かすかな足音しかせず、
此処に至るまで二つの巨体のもみ合いにも拘らず、周囲に殆ど被害が出ていない。それをなし得る
技量の両者。
『見事だ、城君』
『貴方こそ、教授』
 不謹慎といわれても仕方ないが、アルファは地球防衛のためのはずのこの戦いに、奇妙な充実感を
覚えていた。
 だが、それは突然の介入者によって破られる。

「城先生!」
『びくっ!?』
 光の巨人はあからさまに動揺した。
「やっぱりドンピシャだった!」
 西野家から出かけた恵の目的地は、この城南大学だった。達志が此処に在籍していたのは恵も
知っており、必ず達志の消息を掴む何らかの手掛かりがあると思って来たのだが、まさにビンゴだった。
「今日こそはうちに帰ってきてもらいますからね!」
『いや・・・恵ちゃん、今は不味い!』
 情けなく響くテレパシー。
「何が不味いんですか!? お父さんは私が説き伏せてあげますから、ほらちんたらしてないで
キリキリ帰ってくる!」
 50mの巨人相手に全く怯みもしない恵は、続いてプロット星人を睨む。
「貴方もです、宇宙人! 何が地球征服ですか!? 迷惑ですからとっとと帰ってください!」
『君は・・・』
 プロット星人はかすかに思い出した。
『確か城君が家庭教師をしている高校生がいると聞いていたが・・・そうか、君が・・・』
『恵ちゃん、危ない、下がるんだ!』
 動揺したアルファは、身のこなしを間違えた。巨大な身体が、大学内に敷設された電線に接触して
電線が切断された。切れた電線は勢いよく垂れ下がり、ショートして高圧電流の火花を放ちながら、
地上にいた恵のほうへ・・・
『ああっ!?』

 寸前。
 呆然としていた恵を、プロット星人が手を伸ばして咄嗟に張ったエネルギーフィールドの壁が守った。
電線は見えないバリヤーに弾かれ、火花を散らして地に落ちた。
『・・・庭野教授』
『私の意図しないところで犠牲が出るのは、私の主義に反する』
 星人は空を指し、
『だが、それはそれ、これはこれだ。城君、此処では君も思うように戦えまい。場所を移そう』
『・・・・・・』
『教え子を危険に曝したいのかね』
 やがて、アルファは承服し、両者は地上から飛び去っていく。只見上げる大学の人々と、恵の
胸中を置き去りに。
「・・・城先生の・・・馬鹿ーーーーー!!」

 大気圏外の宇宙空間で戦いが再開される。
 プロット星人はアルファの周囲を高速機動、分身を作り出して取り囲み、幻惑する。
 アルファはアルファブレードを出し、ウルトラ居合い抜きで斬ろうとするが、幻の分身にばかり
ヒットし、一向に本体を捉えられない。やはり腹が減っていると駄目なのか。
 消耗したアルファのカラータイマーが鳴り始める。
 機を見た星人は、指をVサインにし、二本の指の間からビームを出してアルファを攻撃。更に、
本体を不定形の液体と化し(白い色で中心に黄色のコアがある。やっぱり目玉焼き)、変幻自在の
攻撃で次々アルファに素早くぶつかってダメージを入れてくる。手も足も出ないアルファ。
 アルファは脱力して宇宙空間に漂う。ろくに攻撃を出せないと見たところで、星人は一旦攻撃を
やめて元の姿に戻り、
『城君、交渉だ』
『交渉・・・?』
『君の頭脳を失うのは、私としても非常に惜しい。我がプロット星に来て、私と共に研究活動を
続ける気はないかね』
『・・・・・・』
『私の目的は地球侵略の本隊を電送システムで地球に送り込むことだが、何、我が本星の超技術を
もってすれば、無血侵略も難しいことではない。決して地球人から犠牲を出さないことを、
私の名誉に掛けて約束しよう』
 先ほど、戦いに巻き込まれそうになった恵を星人が守ったのを思い出すアルファ。
『・・・本当ですか、教授』
『ああ、本当だ。だが、その約束を確実なものとするためにも、技術方面での君の協力が欲しい』

 そして、プロット星人が宇宙空間で既に既に開発していた電送装置の試作型が、二人の下に
バーニアで飛んできた。巨大宇宙人の二人がらくらく中に入れる大きなものだ。試作型だが、
十分実用に耐えるものになっていると星人は言う。これで二人は一気にプロット星に飛ぶのだ。
 起動し始めた装置の中で、星人は自分の優秀な教え子と共に故郷に行ける喜びを噛み締めていた。
そんな星人に、アルファは言う。
『庭野教授。一つ言い忘れていたことがあります』
『何かね、城君?』
『この電送装置開発の基礎理論研究には、ウルトラマンの僕も関与しました』
『うむ。それが?』
『実は、このシステムはまだ不完全なのです。ウルトラマンである者の構造を電気信号化して、
電送できるようには出来ていません。拒否反応を起こし、爆発するのです』
 愕然とするプロット星人。
 装置を止めようとするが、アルファは星人を押さえ込んで動きを封じた。
『教授の申し出は光栄ですが、やはり恵ちゃんや他の知人達の星である地球の主導権を、他の星に
明け渡すわけには行きません』

 電送装置は宇宙で大爆発して分解。プロット星人の野望は阻止された。
 当面は。

 庭野教授の姿に戻ったプロット星人は、ぼろぼろになりながらも、宇宙から生還して地上の
山中の一角に単身不時着していた。
 一度正体を現した今、もう大学には戻れない。アルファとの戦いで機材関係を失い、本星への
連絡も取れない。潜伏しながら、もう一度電送装置の開発を続け、再度の機会を狙うことにする。
何時完成するかは判らないが。
 教え子の決意を見届けた庭野は、何処へともなく呟いた。
「城君。君の行く道は、茨の道だよ」

 達志も、どうにか生きて地球の人里離れた場所に戻ってきていた。彼も、何処へともなくお辞儀し、
「お世話になりました、教授」
 そして、又地球防衛のための明日も知れないさすらいの旅路に付くのである。
「目玉焼き、食べたかった・・・」
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 ウルトラマンアルファ 9 アルファに会いたい!?
 斬魔・バラス星人 出現


 東京湾岸のディフェンスポート。
 特命防衛隊の柏村勝はいらついていた。彼には以前から、謎の存在・ウルトラマンを特防隊の
戦力として手中に収めたいという野望があり、ウルトラマンアルファの足取りについての情報を
ひっきりなしに諜報部に尋ねに行っているのだが、調査の進捗は思わしくない。諜報部としても、
まず優先すべきは現在地球を脅かしている怪獣や侵略者についての調査であり、今現在も、又地球に
進入・潜伏しているという新たな侵入者の捜査を行っているところで、アルファの足取りは二の次に
なっていた。
 柏村は研究室に行って美山由美子に愚痴るが、彼女は彼女で生体無機物マテリスの探知やゼバット星人の
本拠を突き止めるための研究開発に没頭している最中であり、そうそう柏村に付き合ってもいられない。
彼女とて羽目をはずせるものならはずしたいのだが。
 研究室から追い出されて腐っている柏村に、通り縋った霧島美樹が声をかけた。
「何だ、霧島」
「悪いことは言わない。ウルトラマンのことについては、深入りしないほうがいいわ」
「何だと? 何故お前がそんなことを言う?」
 答えず、美樹はそのまま去っていく。
「何だ、あいつ?」

 斎木俊一も以前から美樹の挙動については気になっていた。ウルトラマンを見たり話題が出たりすると、
彼女は妙に含みのある様子を見せる。何か知らないかと川上浩嗣隊長に尋ねる。川上はうむと言って
考えた後、何か話そうとしたが、そのとき、非常事態発生の警報が鳴った。特防隊への出動要請である。
川上は斎木に、又の機会に話すと言って出動準備を始めた。

 アルファの所在を知りたいのは、柏村だけではなかった。
 6話に登場した桜ヶ丘高校の生徒・真一は、西野恵の下に向かい、彼女にアルファ=城達志の所在を
尋ねていた。しかし、そんなもん恵だって知りたい。
 親から学力の向上をせっつかれる日々に飽き、宇宙への旅立ちという逃避を望む真一は、ウルトラマンなら
自分を星の世界へ連れて行ってくれると信じ、アルファ=達志との再会を強く望んでいた。オカルト研究会の
付き合いで良とかなえも同行しており(彼ら二人はそう入れ込むでもなく何となく真一の様子を傍観しているが)、
更に恵の友人の夏美も来ていた。ただし夏美は、そうそう見つかるものではない、中途半端に横から介入
するなと真一を制止し続けている。勿論、達志が帰ってくると恵が達志のほうに入れ込み、恵に歪んだ好意を持つ
夏美にとって都合が悪いからである。
「中途半端じゃない! 僕は本気でウルトラマンアルファに会いたいんだ!」
 口論になっている場へ、恵の従兄弟の哲夫が走ってきた。又地球に侵入した宇宙人を探して、特防が調査活動を
行っているという情報を掴んできたのである。宇宙人が暴れれば、それを止めるために又アルファ=達志が現れる
かもしれないと哲夫は主張し、一同は現場へ行ってみる。夏美もやめとけと言いながら結局恵についていく。
 哲夫の情報収集能力が特防付の諜報部に負けず劣らずという現状はどうなんだろうか。

 現場。微弱な異常電波がキャッチされた東京市街地の一角。
「これは・・・」
 又も、実際に映像にしても現在ではまず電波に乗せられないであろう光景。
 市民や警官、パトロール中だった防衛隊員等多くの人間が、ばらばらに斬られてあちこちの路上に散乱している。
切断面の切り口はレーザーメスで切られた跡並に鮮やか。普通の人間がやれる手口ではない。
 しかも、犯人の目撃者はまだいない。目撃した時点で皆漏れなく殺されているということである。
 柏村は例によって青くなって吐き気に耐えている。普段態度がでかい割りに猟奇な場においては気が小さい。
斎木も気分を悪くし、同時に敵の残忍な手口、そして又も自分達が出遅れて犠牲者が出るのを防げなかった
不甲斐なさに怒りを覚える。尚、今回も由美子は研究作業で欠席。
川上「しかし、何のためにこんなまねを・・・?」
美樹「侵略作戦にしては計画性が見られませんね。被害者に共通項もないし・・・」

 現地は防衛隊によって封鎖されているが、腕白な哲夫は街のあちこちの抜け道を熟知しており(そこはまあ、
こういう番組の子役の必須スキル)、兵士達の死角を突いて恵達共々こっそり侵入していた。
 しかし、今回はそのスキルが後に仇となるのである。
 今どういう事態が起こっているのか、哲夫はそこまではまだ知らなかった。
「とにかく、防衛軍に見付からないように適当に隠れながら・・・」
 警戒しながら移動していると、兵士ではない一般人の男が一人立っているのに出くわした。
「あ、叔父さん、今どんな事件が・・・」
 尋ねるが、返事がない。男は黙って突っ立っている。

「ちょっと叔父さん、無視しなくても・・・」
 哲夫が手で押して動かすと。
 男の首が、ぼとっと路上に落ちた。
 続いて胴体も倒れ、大量の血が散乱する。既に斬られて死んでいたのだ。
 一同は恐怖で絶叫。
「あ、あわ・・・あああああああ」
 真一は腰を抜かしてまともに言葉も出せない。
「何だ? 何でこんなところに子供が!?」
 叫びを聞きつけた兵士達が走ってくるが。
 その兵士達も、何かはっきり見えないものに斬られ、悲鳴を上げて次々にばらばらになって倒れる。
 血まみれになった路上に、下手人は足を止めた。そして、ゆっくりと子供達を見る。
 暗色の鎧に覆われた宇宙人・バラス星人。目だけが真っ赤に爛々と光り、両手が巨大で鋭利な刃物に
なっている。
 怯えて動けない子供達にも星人は狙いを付けて刃を構え、超高速で襲い掛かろうと踏み出した。
 そして、脇から飛び出してきた達志・・・いや、既に変身したウルトラマンアルファに、
寸前で体当たりで弾き飛ばされた。

 両者は巨大化し、市街で対峙。
 星人は高速機動を開始し、アルファの周りをぐるぐる回って撹乱。序でに、星人が通った途上の
建造物が、それだけで片っ端から寸断されて倒壊する。はあはあはあという荒い息と狂った笑いが
一帯に響き渡る。
 アルファは記憶していた。バラス星人は宇宙警備隊でも指名手配されていた、トップクラスの
宇宙の凶悪犯だ。星人が彷徨っていく途上のものは、建物も人間も関係なく斬り刻まれる。そして、
それは他星の侵略が目的ではない。只単に、斬りたいだけだ。

 この場で絶対に倒さなければならない。相変わらずベストコンディションではないが、アルファは
アルファブレードを構え、ウルトラ居合い抜きの態勢に入る。全神経を集中し、それによる精神力の
極度の消耗で、もうカラータイマーが鳴り出す。
 地上の一同が息を呑む中、やがて、激しく刃物同士が打ち合う音。
 星人の足が止まる。互いに背を向けあう巨体同士。
 アルファが、がくんと片膝を付く。
恵「城先生!?」
 直後、バラス星人が高らかな哄笑を上げた後、ばらばらになって崩れ落ちた。

「ひいっ、ひいっ、死にたくないよ、助けてーーーーー!!」
 あれだけ意気込んでいた真一は、多くの人間が目の前で惨殺された状況を目の当たりにした途端に
完全に怯え、こけつまろびつその場から逃げていった。もう宇宙への夢などどうでもよかった。
以後、自分の平穏な日常を守るため、完全に普通の勤勉な生徒に戻ったそうである。
 他の子供達も流石に即座に台詞が出ず、人間体に戻った達志の憔悴した後姿を見詰めている。
夏美だけは、達志と恵を近づけないように懸命に身を奮い立たせて間に立ちはだかっているが。
「ごめんね」
 それだけ言う達志。
「先生・・・」「達志兄ちゃん・・・」
「ごめんね」
 そして又、神速で立ち去る達志。今回ばかりは、恵も哲夫もどう声を掛けていいか判らなかった。
 走り去っていきながら達志は、恵達にこんな恐怖を味わわせないためにこれからも一層
戦い続けると改めて誓った。
 それは極めて困難な課題だが。
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 異次元空間。
「おのれ、おのれおのれウルトラマンアルファあんど特命防衛隊め! これほどの屈辱があろうか、
いやない英訳せよ!」
 ゼバット星人の地球侵略軍団は7話と同じ悔しがり方をしていた。
「こうなったら、更に怪獣軍団の数を増やして地球を攻めてやる!」
「次はどの怪獣をカスタマイズあんど量産してやろうか?」
「いや、いっそ複数の種の怪獣を適当にごちゃ混ぜにして軍団を編成し・・・」
「それでは埒が開かないぜ、ゼバットさんよ」
 異次元に、突如黒い影が数人現れ、ゼバット星人達を驚かせる。
「あ・・・あんたらは!」
「いい話があるんだが、乗ってみないか? ふふふ・・・」


 ウルトラマンアルファ 10 片脚伝説・1
 改造双子怪獣・ゴールドギラス、改造双子怪獣・シルバーギラス、改造暴君・マグマパイレーツ、
 宇宙異次元人・ゼバット星人 出現

 ディフェンスポートは、これまでにない危機を迎えた。まだ10話なのに。
 眼前の東京湾は荒れ狂い、押し寄せる高波が港湾の施設を押し流す。堅固なディフェンスポート
のみが持ちこたえている。
 沖で海を荒らしているのは、天まで届くような竜巻。自然のものではない。渦の中心部にいる
二頭の怪獣が巻き起こしている。
 そいつらはゼバット星人の転送装置によって突然現れた。頭頂に一本角、背に巨大な刃のヒレを
付けた怪獣。片方は全身金色、もう片方は銀色。そして、そいつらは互いに向き合って両手を組み合い、
組み合った手を中心軸にぐるぐる回り出し、その回転で強力な竜巻を発生させている。
 ディフェンスポートの機動司令塔で見届ける川上隊長とアンドロイド・ミリー。
川上「こいつは、まさか・・・」
ミリー「はい。過去に地球に襲来した怪獣のデータバンクに記録されています。双子怪獣・ギラス兄弟の
同種です」

 異次元で、ゼバット星人達は興奮している。
「凄い、これは凄いぞ!」
「そうだろうよ。かつての俺達自慢の怪獣兵器・ブラックギラスとレッドギラスに、更に強化改造を
加えたものだ」
 ゼバット星人達に地球侵略用として、その怪獣兵器を高値で売り付けた三人の黒い影の全貌が
明らかになる。かつてブラックギラスとレッドギラスで東京に大水害を起こした邪悪な宇宙の略奪者、
マグマ星人。その流れを組む宇宙海賊『マグマパイレーツ』である。
 三人の各々も、サーベルやフックに換装できるあの片腕を自ら強化改造している。腕を巨大な刃物にした、
ハーケンマグマ。腕を回転式のドリルにした、ドリルマグマ。そして腕を棘付きの鉄球にした、ハンマーマグマ。
彼らとゼバット星人は手を組み、ディフェンスポートのみならず、東京市街一帯を再びギラス兄弟による高波で
水没させる狙いである。

 ディフェンスポートから斎木、柏村、美樹の三人のトライビート隊が迎撃に出たのだが、強風の中で
姿勢を保ち続けるのが精一杯で、迂闊に竜巻に近づいて攻撃することも出来ない。そうしているうちにも
竜巻はじわじわとポートに近づいてくる。アタックデコイをぶつけてみるが、竜巻に吹き飛ばされて
次々粉砕され、効果がない。
柏村「ぬああああおのれえええッ!」
斎木「川上隊長、どうすれば!?」
 司令塔で苦渋する川上。
「機動司令塔のハイパードリルで突貫するか・・・」
「竜巻はハイパードリルと同量、あるいはそれを凌駕するエネルギー量を常時マークしています。
返り討ちにあう可能性があります」
 ミリーが冷静に報告。
「このまま見ていてもいずれ攻め落とされる。基地下部の人員は万一に備えて全員退避の用意。上部の司令塔は
突撃を敢行する!」
 ミリーは特に文句も言わず分離作業のオペレーションを始め、司令塔が分離のためにバーニアの噴射を開始。
 川上が分離の指示を出そうとしたとき、基地を震わす爆音が響いた。
 ウルトラマンアルファ介入。機動司令塔の突撃寸前に、ディメンジョンステルスで空を割って不意打ち、
一気に竜巻に接近。全身からエネルギーを炎のように巻き上げ、体当たり。
 衝撃で回転の勢いを失ったゴールドとシルバーの新生ギラス兄弟は、海に叩き落された。アルファも海に降下。
ゼバット星人達「ウ、ウルトラマンアルファ!?」
マグマパイレーツ「ふん、そう恐れることはない」
 新生ギラス兄弟は然程ダメージを受けた様子もなく直ぐ立ち上がり、アルファに対して構える。

 ディフェンスポートを守って立つアルファ。
(僕一人で地球を守り続けるのは至難だ。万一のときのためにも、特命防衛隊には命を繋いでもらわなければ)
 新生ギラス兄弟、角から光弾を連射。二頭がかりの射撃に対し、アルファは避けるので精一杯。ウルトラ縮地が
使えれば回避など楽勝なのだが、アルファ=達志は今日も放浪生活で腹が減っていた。
(庭野教授・・・僕はどうすれば)
 恩師の面影が脳裏に。
(何故あのとき、ケチケチせずに目玉焼きを分けてくれなかったのですか・・・)
 想いにふけっているうちに、シルバーギラスが腕でアルファを海に叩き伏せた。ゴールドギラスが牽制で射撃
しているうちに死角から接近したのだ。ゴールドの光弾とシルバーの打撃で滅多打ちにされるアルファ。
柏村「どうしたんだ、アルファの動きが鈍いぞ!?」
斎木「あのゼットン軍団を一掃したアルファが・・・?」
 それはそうである。アルファといえど、ろくな補給もなく何時までもフルパワーで戦い続けられるわけはない。
カラータイマーが鳴り出す。
美樹「二人とも、ぼけっとしてないで援護を!」
斎木、柏村「そ、そうだった」
 トライビート隊が双子怪獣を銃撃するが、さしたるダメージは与えられない。逆に光弾で反撃され、
思うように近づけない。
ハーケンマグマ「特防隊などかまうな、双子怪獣! 一気にウルトラマンアルファを倒してしまえ!」
 命令を受けた双子怪獣は、よろめくアルファから下がって間合いを取り、光弾の一斉射撃を掛けようと
エネルギーをためる。角が眩しく光り出す。アルファは朦朧として避けることも出来ない。
「アルファーーーーーッ!!」
 柏村の叫びも空しく、光弾の嵐が降り注ぐ。

 だが、その嵐はアルファを襲うことなく、寸前で、見えない壁に弾かれた。
 何が起こったのかと目を見張るゼバット星人とマグマパイレーツ、そして特防隊。
 守られたアルファが呟く。
『ズィーベン隊長・・・!?』
 アルファの前には、何時の間にか、片手でバリヤーを正面に展開している、もう一人の光の巨人が
立ちはだかっていた。
 もう片方の手は、宇宙金属の巨大な松葉杖を海についている。
 そして、片足は、機械の義足。
 その巨人の姿を見て、他の者以上に驚愕している者が、もう二人いた。
 川上浩嗣隊長と、霧島美樹隊員。

 続く。
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