決まりました。大谷勇(おおたに・いさむ)。
自らの勇み足への自戒を込めて「いさむ」。


 ウルトラマンアルファ 11 片脚伝説・2
 改造双子怪獣・ゴールドギラス、改造双子怪獣・シルバーギラス、改造暴君・マグマパイレーツ、
 宇宙異次元人・ゼバット星人、改造双頭怪獣・パンドニオス 出現


 三年前。
 特命防衛隊は、実はその時点から存在し、組織として稼動していた。地球防衛軍ガーディアンの
数多の下部防衛組織の中でもまだ新造の実験的側面が強い部隊で、現在ほどの活動のノウハウも
確立していなかった。その特命防衛隊が当時活動を続けられていたのは、例に漏れず、ウルトラマンという
謎の存在の助力があったからである。
 当時の地球担当の宇宙警備隊員の名は、ウルトラマンズィーベン。
 その実力は確かで、多くの怪獣・侵略者を葬ってきた。だが、長い地球就任と戦いの日々の中で徐々に
体力を消耗し、一年目に差し掛かった辺りで限界が来た。同時に、地球人・大谷勇(おおたに・いさむ)に変身し、
特命防衛隊隊員として活動していたことが、当時まだ新人だったオペレーター・霧島美樹にばれたことで、それ以上
地球に留まることもかなわなくなった。勇は改めて自分の口から美樹に正体を明かし、おりしも地球を襲撃していた
侵略者の強力な怪獣兵器・パンドニオスとの最後の戦いに臨む。

「待って、勇隊員!」
 戦火の中、美樹に呼び止められて思わず足を止める勇。
「行かないで! この戦いが終わったら、あなたは・・・」
「美樹」
 背を向けたまま勇は言う。
「俺は、地球の平和を守る使命を帯びた、ウルトラマンズィーベンなんだ!!」
 じ ゃ ん!!
 ちゃらんちゃらんちゃらんちゃらんちゃらんちゃらんちゃらん じゃん! じゃん!
 ちゃ〜〜〜〜〜らちゃらりらりらちゃ〜ら〜〜〜〜〜
 何処からか流れるクラシックと共に、シルエットとなった二人の背景が、きらきら輝く青い光の世界になる。
「・・・ウルトラマンである以前に、あなたは勇隊員よ! ずっと私達と一緒に戦ってきた勇隊員よ!」
「美樹・・・」
「私・・・私は、あなたのことが」
「・・・判ってる」
 勇は振り向き、美樹に優しい笑顔を見せた。
「だからこそ、君に見届けて欲しいんだ。俺の最後の戦いを」
 その言葉を最後に、勇は戦場へ駆けていく。眩しい光に包まれて巨大な姿に転じながら。
「勇ーーーーーッ!!」

 ズィーベンと対峙する、赤い身体に二つの頭・・・というより、中途半端に嘴が左右についた二つの顔の怪獣。
「パンドニオス、ウルトラマンズィーベンを倒せ!」
 異次元から命令する、ゼバット星人。
 この頃から地球侵略を狙っていたのである。
 一度ズィーベンとの戦いで負傷し、一旦回収されて強化改造を受けたパンドニオスは、片腕をサイボーグ化
していた。ズィーベンとの格闘の中で不意を突き、腕をロケットで射出。鋭い爪が、ズィーベンの右足に
突き刺さった。
 苦悶の叫びを上げるズィーベン。
 片膝を付いて蹲ったところに、とどめを刺さんとパンドニオスが突進。
 激しい衝突音と共にすれ違い、両者が背中合わせに止まる。
 ズィーベンの残りの力を込めた、光を放つウルトラ手刀で、パンドニオスは逆に、二つの顔の根元の首を
胴から断たれ、ゆっくりと首が落ち、胴体も倒れ、絶命した。

「お・・・おのれ、覚えておれ! これだけでは終わらんぞーーーーーッ!!」
 切り札・パンドニオスの敗北で当面の戦力を失ったゼバット星人は、一旦地球侵略を諦めて撤退、雌伏して
力を貯めることにした。そして、現在のアルファや特防隊に対してもまだ同じ事を繰り返している。
だが、この回想においてはそのことは然程重要ではない。
 右足に深い傷を負いながら、ズィーベンはよろよろと立った。そして、残った左足で無理やり踏ん張り、
西の空に明けの明星が輝いたので一つの光となって宇宙に飛んでいった。無力に見送る美樹の後ろに、
遅れて真相を知った川上隊長が現れ、一緒にズィーベンの帰還を見送っていた。
「何故言ってくれなかったんだ」
 川上が取ってつけたように言った。

 以上の過去の出来事、9話で斎木が聞こうとしていたことは、後に川上の口から美樹以外の現在の
特防メンバーに改めて語られるのだが、今はそれどころではない。新生ギラス兄弟が襲ってきている
現在のディフェンスポートに話は戻る。
 そして、その危機的状況に、かつて地球を守っていた、そして現在はウルトラマンアルファの上司となり、
第1話でアルファに地球からの帰還を必死に呼びかけていたその人、ウルトラマンズィーベンが介入。
再び地球に現れたのである。
「ぬうう・・・ズィーベンめ、何処まで我々の邪魔をする・・・!」
 異次元で見ながら歯噛みするゼバット星人達を、マグマパイレーツのリーダー格のハーケンマグマが諌める。
「まあそういきり立つな」
「しかし・・・」
「あのウルトラマンは以前のお前達との戦いで深手を負い、今もそのままなのだろう。見ろ、あの杖を付いた
カ@ワの姿を。さして恐れることもあるまい」
「そ・・・そうか。なるほど、今なら勝てる!」
「その通りだ。やれ、双子怪獣、そのウルトラマンもアルファごと片付けろ!」
 命令を受けた双子怪獣は、ズィーベンバリヤーを破ってアルファとズィーベンを同時に粉砕できる威力の
攻撃手段を選択する。再び向かい合って両手を組んでギラススピンの態勢を取り、回転しながら更に宙に
浮き上がり、90度回転して頭の一本角をズィーベンに向ける。
「チャージギラススピンだ! 砕け散れ、ウルトラマン!」
 ハーケンマグマの号令一下、二大怪獣を核にした竜巻がズィーベンに突進。
 ズィーベンは片足を引きずって後ろに下がる。だが、その勢いで仰向けに倒れ、海の波が砕けて飛び散る。
ハーケンマグマ「馬鹿め! そんな身体で戦場に出てくるからだ!」
 あふれかえる波飛沫の奥から。
 何かが、光の力を噴射しながら一直線に飛び出した。
 その噴進の一撃は、飛んできたチャージギラススピンに真正面から命中し、突貫。
 双子怪獣を木端微塵に爆破し、無数の破片が海に飛び散った。

 敵も味方もなく見ていた一同が言葉を失う中、新生ギラス兄弟を葬ったメカの義足は、Uターンして戻ってくる。
 そして、海に倒れたまま構えているズィーベンの、かつて右足があった空き位置に、がしんと再び装着された。
 ウルトラの光の力を以って撃ち込まれる必殺武器『ウルトラ義足』だ。
 現役時代ズィーベンは、これもゼバット星人が彼に差し向けて造った、ズィーベンと同等のスペックを持った
偽者ロボット『ニセウルトラマンズィーベン』と対決。これをウルトラ手刀で寸断して葬った。そして
光の国に帰還後、自分と同等のスペックなら丁度いいと、倒したニセズィーベンの足のパーツをギッてきて
右足としてはめ込んだのである。射出機能なども新たに搭載して。

 ゼバット星人は又見苦しい捨て台詞を吐きながら撤退して行った。
 杖を突いて立ち上がったズィーベンは、東京湾岸一帯を見回す。アルファの姿がない。
『大勢が決まった辺りで逃げたか』
 ちっと舌を打つ。
 そう、ズィーベンはただ単にアルファを助けに来たのではない。直属の上司として、帰還命令に応じない
アルファを直接連れ戻しに来たのである。
『逃がしはせん。必ず見つけ出して捕まえ、宇宙警備隊に連れ戻してやる』
 そして、ズィーベンも眩しい光で特防隊の目を晦まし、その場から消えた。
「・・・勇」
 呆然と見ていた美樹を残して。

「ズィーベン隊長が・・・直接来たか・・・」
 街の暗い裏通りを、重い足を引きずっていく達志。まだ双子怪獣にやられたダメージは癒えていないが、それでも
身体に鞭打って逃げていく。
「逃げ切れるだろうか・・・いや・・・逃げ切ってみせる! 諦めないぞ、僕は!」

 続く。
____________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 12 片脚伝説・3
 改造暴君・ハンマーマグマ、改造暴君・ドリルマグマ、改造暴君・ハーケンマグマ、
 宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 前回の事件の直後、特命防衛隊一同が川上隊長から美樹と大谷勇=ウルトラマンズィーベンに
ついての経緯を聞かされた後、柏村は相変わらず研究室に篭っている由美子にその話をした。
由美子は然程驚いた様子もなく、秘蔵のデータから幾らかの事例を出して柏村に見せる。
それらを見て柏村は更に驚いた。
 過去、ウルトラマンが地球人に変身し、地球の社会に紛れ込んでいた例。しかも一つや二つ
ではなく、連綿と続いて地球はウルトラマン達によって守られ続けている。彼らは特に、
防衛組織の一員として紛れ込んでいることが多かったらしい。
「ということは・・・」

 以後、柏村は、特命防衛隊内の人員を片っ端から疑って掛かり、何時か探し出して正体を
見抜いてやると息巻いている。残念ながらこの物語においては、ウルトラマンアルファ=
城達志は特命防衛隊の隊員ではなく外の世界をうろついているので、柏村の努力は徒労でしか
ないのだが。
 因みに、それほどのびっくりデータを何故由美子が活用していないのかというと、単に
特命防衛隊での仕事として与えられている研究課題(現在においては地球に侵入する侵略者の
早い段階での探知)を優先しなければならないからである。
 まあ柏村は今のところほっとくとして、川上は後に自室に美樹を呼び、再び現れた
ズィーベンに対し、あくまでも特防隊の隊員として冷静に対処するようにと念を押した。
それは同時に、川上自身に対しての自戒の言葉であったかもしれない。
 美樹は何時もの無表情の中に感情を押し殺して答える。
「判っています。大谷勇・・・いえ、ウルトラマンズィーベンについてのことは、もう
終わったんです。そう・・・終わったんです」

 その大谷勇と城達志の追跡劇が、街の陰で行われていた。
 ズィーベン同様、人間体である勇も片脚に障害が残っており、松葉杖を突いている。にも
関わらず、地球人の平均を遥かに超越した肉体能力で懸命に走って逃げる達志に追い縋ってくる。
杖を突きながら進んでいるので小走りになっているが、その状態で達志と同じか凌駕しかねない
程速い。傍から見てると非常に不気味な走り方である。しかも、建物の屋根から屋根へと
達志が跳んで逃げても、同じルートでジャンプしながら追ってくる。
 空腹状態で達志の力が衰えていることもあるだろうが、もし勇の身体が完調だったらどんな
肉体能力なんだと達志は寒気を覚えた。
 その追跡劇を、物陰から観察している二つの影があった。黒ずくめの男に変身しているが、
その正体はマグマパイレーツのハンマーマグマとドリルマグマである。
 ゼバット星人の調査により、達志の正体がアルファ、勇がズィーベンであることは既に
見抜かれていた。先日の戦いから、ズィーベンはアルファを助けて戦うためにやってきたと
悪者一同は思っていたのだが、その割には両者は延々と追いかけっこをしている。本気で
戦い合っている勢いで。
「やはりおかしい」「仲間割れか?」
 異次元のアジトにいるリーダーのハーケンマグマに通信機で連絡を取る。ハーケンと
ゼバット星人達も首をかしげる。アルファが現在宇宙警備隊からの逃亡者で、それを
ズィーベンが連れ戻すために追っているという事情までは彼らには判らなかった。
ハーケンマグマ「判らん・・・が、これは好都合だ」
ゼバット星人「好都合?」
ハーケンマグマ「少なくとも、今アルファとズィーベンがこちらに対して共闘することは
ないわけだ。この機に、それぞれを別々に分断して各個撃破するという手を使わない手はあるまい」
ゼバット星人「おお、なるほど!」
ハーケンマグマ「というわけだ、ドリル、ハンマー。お前らそれぞれでアルファとズィーベンを
引き離し、別々に始末しろ!」
ドリル、ハンマー「ようし、判った!」
 二人は正体を現し、等身大のままで達志と勇にそれぞれ迫る。ハンマーが達志に、ドリルが勇に。

 突然現れた二人の星人に驚く達志と勇。
「マグマ星人!? 何故此処に?」
「答える必要はない。お前達は此処で死ぬんだからな!」
 両マグマ星人の攻撃を回避しながら、達志と勇は離されていく。

 達志は攻撃を避けながらアルファプラスを出し、何とかアルファに変身。等身大のまま
ハンマーマグマと戦う。
「この前、双子怪獣をディフェンスポートに差し向けたのもお前達か!」
「そうともよ。邪魔なお前と特防隊を始末した後、じっくり地球人どもを苦しめながら地球を
支配してやる!」
「そんなことを・・・させてたまるか! ハンドギャラシウム!」
 アルファは手から小出力の光線を手裏剣のように連続で飛ばして反撃するが、ハンマーマグマは
腕のハンマーを素早く振り回して光線を弾いてしまう。
「効かねえよ! こいつで砕けちまえ!」
 ハンマーマグマは一際強く腕を振るい、大きなトゲつきの鉄球を飛ばす。腕と鉄球は
鎖で繋がっている。
「ウルトラ変わり身!」
 アルファの叫びと共に、彼のいた場所に大きな丸太が突然出現し、アルファを狙った鉄球は
丸太に直撃してめり込んだ。
「何!?」
 アルファの姿を見失ったハンマーマグマは、思わず周囲を見回す。
 アルファは、出現させた丸太の直ぐ後ろの死角に隠れていた。
「アルファブレード・ストレッチ!!」
 丸太の後ろから、アルファブレードの刃を突き立てる。その刃は長く伸びて丸太の正面から
突き出し、更に伸び、アルファを探していたハンマーマグマの胸を貫き、とどめを刺した。

 達志から離された勇も、ドリルマグマ相手に全く臆しない。
「追跡の邪魔をしおって!」
 自身の変身アイテム『ズィーベンプラス』を出し、クリスタルを光らせて勇もズィーベンに
転じる。唸りを上げて回転しながら突きかかるドリルを回避して間合いを取り、後ろに倒れ込み、
同時にウルトラ義足を発射。
「馬鹿め、来ると判っていれば!」
 ドリルマグマは腕のドリルを振り回して義足を横に弾き、その勢いで前に飛び出して
倒れたままのズィーベンに襲い掛かり、ドリルでとどめを刺そうとした。
 そして、真正面から飛んできた熱光線の火線に貫かれ、燃え尽きた。
 余剰熱で先端から煙を上げる松葉杖を腕で構えたままのズィーベン。
 もう一つの隠し武器『ウルトラ松葉杖』にも、仕込み光線銃としてビームを撃つ機能が
備えられていたのだ。

ゼバット星人「い・・・一度に二人のマグマ星人がやられるとは・・・!?」
 ハーケンマグマも驚いていたが、やがて腕を組む。
「もう少し作戦を考える必要がありそうだな・・・」

 マグマパイレーツの介入により、今回もアルファは辛くもズィーベンの追跡から逃れた。
「運がよかったな、アルファ・・・だが、次は必ず捕まえる」
 ビルの屋上にズィーベンは立ち、街を見下ろしながら呟いた。

 続く。
________________________________________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 13 マテリス殲滅作戦・1
 生体無機物・グランドマテリス 出現


 特防隊、美山由美子の研究室。
「出来たわー!」
 これまで市民を脅かしていた生体無機物・マテリスの探知システムが遂に完成したのである。
研究室の真ん中に大きな機械がでんと置いてある。これはまだ試作型で、これから小型化して
隊員が常時携帯できるようにしなければならないのだが、センサーの周波数を変えることで
次の課題であるゼバット星人や、他の怪獣・宇宙人の探知にも応用できるという。無論、
他の探知対象が発しているエネルギー波の周波数を先に探っていかなければならないわけだが。
「じゃ、早速試運転よー!」
 装置の立ち上げを行っていたとき、斎木俊一が研究室に走りこんできた。血相を変えて。
「大変だ、美山隊員!」
「何よ、今装置の起動実験で忙し・・・」
 そのとき、丁度立ち上がった探知装置が、早速マテリスの反応を探知して鳴り始めた。
物凄く大きな音で。
「・・・何よ・・・この異常な反応は」
 呆然とする由美子の脇で、重い表情の斎木。
「・・・一歩遅かったんだよ、美山」
 続いて、ディフェンスポート中にけたたましい非常事態のサイレンが響き渡る。

 東京近郊の小都市が、既に壊滅していた。
 ビルの建ち並んでいた街は、コンクリートや鉄筋の瓦礫と有機的な質感のものが入り混じった、
よく判らないものの巨大な塊になってぶよぶようねっていた。街の住民達は既に皆マテリスに食われ、
一人も残っていなかった。
 それだけでは飽き足らず、超巨大なマテリス、作戦呼称『グランドマテリス』は、周辺の物体を
全て吸収・捕食して尚も膨れ上がり続けている。放っておけば他の街のみならず、最後には地球全土を
埋め尽くすだろう。
「最初は小型のサイズだったマテリスが、気配を隠しながら現地に集結し、一つの巨大な群体となったと
推測されます」
 現地の映像を出したアンドロイド・ミリーが淡々と推測を述べる。特防一同は声もなく映像を見つめる。
「美山・・・」
 黙っている由美子に斎木が声をかけるが、
「・・・敵がこっちに合わせてわざわざ手段を選んでくれるわけないって言ったのは、私だったわね」
「え・・・?」
 由美子は凄絶な笑いを浮かべた。
「上等じゃない」

 事態を知った城達志も現地に既に駆けつけ、近くの山頂から現場を見下ろし、市民を救えなかった無念を
かみ締めていた。
「何てことだ・・・」
 と、自分以外の気配を感じ、飛びのいて構える。
 何時の間にか、ウルトラマンズィーベンの人間体・大谷勇が近くに立っていた。
「・・・この状況でもチェイスをおっ始める気ですか、ズィーベン隊長」
「誰もそんなことは言っていない」
 勇は無表情のまま。
「まずはこのデカブツを片付ける。お前の身柄はその後で拘束する」
「・・・ご自由に。捕まりはしませんが」
 二人は素早く跳びながら山を降り、同時にアルファプラスとズィーベンプラスを揮ってウルトラマンに
変わって行く。
「ズィーベン隊長。御覧のように、地球には人々を脅かすこのような存在が次々押し寄せています。
そういった外敵から人々を守るためにも、僕はまだ地球を去るわけにはいかないのです」
「ぬけぬけと欺瞞を吐くな」
 ズィーベンは切って捨てる。
「お前が地球に留まりたい本当の理由は、もっと個人的なことだろう。目が嘘をついている」
「・・・折角いい話に持って行ってるんだから合わせてくれてもいいじゃないですか!」
「いや」
「ケチ!!」
 大人気ない口論をしているうちに、グランドマテリスにぎりぎりまで接近。

 グランドマテリスは直ぐに二人を感知し、先端に牙の付いた触手を何本も飛ばしてきた。ウルトラマンの
二人も捕食する気である。捕まらないように両者は巨大化せず、人間サイズのままでグランドマテリスの
周りを飛び回って逃げながら、隙を見てビームを撃つ。しかし、小さい姿で動き回りながらの小攻撃では
大したダメージは与えられない。
「射程外の遠距離まで離れてから、巨大化して大威力の光線で一気に焼き払いますか?」
「うむ・・・」
 一旦距離を離して二人で攻め方を考えていたとき、突如、グランドマテリスの周囲に稲妻が走った。
二人のウルトラマンが構えて見守るうちに、巨大なグランドマテリスが電磁バリヤーに包まれていく。
バリヤーは、一帯の周囲に何時の間にか配置された、無人で外部制御の大型車両に搭載されたパラボラ
アンテナ状のメカから発されている。
「ほほほほほーーーーー危険ですのでウルトラマンの皆さんは下がっていなさい!」
 バリヤー発生装置をディフェンスポートから操作し、ウルトラマンを不遜にも民間人と同等に
扱う物言いをする由美子隊員。グランドマテリスによって既に多くの犠牲が出ていることにも全く
動じていない。もっとも、おじけられてきちんと任務が遂行できなくなっても困るので、これはこれで
一つのプロ意識かもしれないが。
 由美子がこんなこともあろうかと用意していたこの『ブリガドーン・システム』は、地球の環境に
深刻な影響を与える怪獣を迅速に処分するため、バリヤーで包んで持ち上げ、そのまま宇宙へ捨てると
いうものである。
 グランドマテリスも中でもそもそ動いて抵抗しているが、流石にバリヤーまでは捕食・吸収できない
ようである。包囲したパラボラが上を向くに連れ、巨大な塊が上空へと軽々と持ち上げられて上昇
していく。最早出る幕なく、見上げ続ける二人のウルトラマン。

「まあこれでも不安なら、宇宙にグランドマテリスを追い出したところでウルトラマンのお二人が
大出力の必殺光線かなんかで撃って始末すれば・・・」
 由美子がそこまで言ったとき、状況が変わった。
 バリヤーの中で群体となっていたグランドマテリスは、無数の小型マテリスに分離を始めた。
そして、お互いに争い、共食いを始めた。
「ほほほー、私達にやられるくらいならと自滅を選んだのかしらー」
「・・・違う」
 隣で呟いた川上。
「? 何がです、隊長?」
「『蟲毒』というのを知っているか、美山?」
「はあ、暗殺用の強力な毒虫を育て上げるために、無数の毒虫を閉鎖空間に閉じ込めてお互いに
共食いさせるという・・・
 !!」

「いかん!」
 見届けていたズィーベンも気付いた。バリヤー内のマテリスの数は見る見る減っていくが、
同胞を食って残ったマテリスは、確実に大きく屈強で凶悪な姿へと変貌していく。
ズィーベン「このままでは、より強力になってたちの悪くなったマテリスが誕生してしまうぞ!」
アルファ「かといって・・・今バリヤーを解けば、又マテリスが地上に降り注いで大変なことに!」
 迷っているうちに、スパークするバリヤーフィールドの中に、一匹の獣のような虫のような
おぞましいシルエットが蠢き出す。
 強大な力を身に付けたそれは、力押しでバリヤーの壁を引き裂き、轟音を立てて地上に
帰還した・・・!!

 続く。
__________________________________________________________

 特命防衛隊の美山由美子隊員は、突如現れた超巨大な生体無機物の群体・グランドマテリスに対し、
自らの開発した広範囲バリヤー発生装置『ブリガドーン・システム』により、グランドマテリスを
バリヤーで包んで上昇させて宇宙に捨てる作戦を取る。だが、そのバリヤーの中で群体のマテリスは
お互いに共食いを始め、最後に残った一匹が他の全てのマテリスの力を取り込んで異常強化。バリヤーを
力で破り、再び地上に降下してきた!


 ウルトラマンアルファ 14 マテリス殲滅作戦・2
 生体無機物・ヴァルガーマテリス 出現


 地響きを立て、自分が滅ぼした街の廃墟に再び降り立った新形態のマテリスは、大きさこそ
ウルトラマンと然程変わらないものの、強力な力による不吉なオーラがにじみ出ている。毛むくじゃらで
筋骨隆々とした体、虫のように節くれだった手足、そして目はなく、頭部の殆んどを占める牙の並んだ大きな口。
唸りながら獲物はいないかとばかり一帯を見回している。とにかく危険なのは一目瞭然だ。
 アルファとズィーベンは巨大化して地上に降り、至急マテリスを倒すべく挑みかかる。
 だが、街一つ分のマテリスが共食いで一体となった身体は密度が上がっており、恐ろしく頑丈だ。パワーも
上がっており、手足を振り回すだけで、押さえつけていた二人のウルトラマンが翻弄される。両者のカラー
タイマーが鳴り出す。
 やがて、片足のために踏ん張りが利かないズィーベンが投げ飛ばされた。
「ああっ、ズィーベン隊長!?」

 ディフェンスポートで息を呑んでモニターを見守る特防隊。
 川上隊長は横目で美樹の様子を見る。何時ものポーカーフェイスを保っているように見えるが、美樹の手は
血の気が失せるほど固く握られている。

 山向こうに消えたズィーベンは、それっきり戻ってこない。
 残ったアルファも一人ではどうしようもなく、マテリスのパワーと素早い動きでの打撃に打ちのめされ、
遂に力尽き、次第に透明化し、姿を消した。
 二人のウルトラマンを敗ったマテリスは、次の獲物を求め、他の市街地を目指して侵攻を始めようとする。
 だが、その前に、一度バリヤーを破られたブリガドーン・システムが、由美子の指示でもう一度作動。
最大出力のバリヤーフィールドでマテリスを封じ、ひとまず足を止めた。
 しかし、マテリスは諦めずにバリヤーに体当たりを続けている。長くは持たないだろう。

 新たに作戦呼称『ヴァルガーマテリス』と変更された目標を今度こそ殲滅するため、特防隊が直接現地に
向かうことになった。ウルトラマンがかなわなかった以上そうするしかない。斎木、美樹、柏村は何時も通り
トライビートで出撃するが、トライビートの火力だけでは充分な効果は期待できない。牽制のために使い、
主力として、機動司令塔が直にハイパードリルを目標に叩き込む。
 機動司令塔に乗り込むのはこれも通常通り川上とアンドロイド・ミリー。更に、由美子も同行する。
初手の失敗でマテリスを更に強化させてしまった責任・・・というより、此処まで来たら何としても
自分の手でとどめを刺したいという意地である。
 かくして、機動司令塔がバーニアを噴かしてディフェンスポートから分離。トライビート隊と共に
現地へ飛んでいく。

 夕闇迫る中、現地に到着した機動司令塔は、拘束されているヴァルガーマテリスの正面に移動する。
 ヴァルガーマテリスは檻の中の野獣のように、バリヤーを破ろうと爪を何度も叩きつけながら興奮している。
そろそろバリヤーの最大出力維持も限界である。破れれば、ヴァルガーマテリスは全速でまっすぐ飛び出して
来るだろう。勢いが付いて避けようもあるまい。そこへ真正面からドリルで突貫するという直球勝負である。
 機動司令塔の前部が展開してハイパードリルが現れ、高速で回り出す。充分な勢いに達したところで、
由美子「バリヤーを解除します!」
 過負荷で煙を上げ、爆発寸前だったバリヤー発生装置の無人車両が漸く停止。
 戒めが突然なくなったヴァルガーマテリスは、機動司令塔に向けて全力で突進してくる。機動司令塔も
迎撃態勢は万全で、ドリルをヴァルガーマテリスに向けてバーニアを全開、突撃する。
 そのまま正面衝突し、ドリルが突き刺さる・・・
 と思われたところで、
川上「何!?」
 ぎりぎりのところでヴァルガーマテリスは手足の爪を地に突き立てて踏ん張り、力のベクトルを
上に逸らし、巨体からは考えられない身のこなしでジャンプ。ドリルを回避した。
 通り過ぎた機動司令塔の後ろに着地し、素早く振り返り、ばねのように身を縮めて力を貯め、後ろから
機動司令塔を狙う。機動司令塔は無防備に背面を晒している。
斎木「いかん、牽制だ!」
 周りで待機していたトライビート隊が銃弾を連射し、必死にヴァルガーマテリスの気を逸らす。
その間にミリーの手際いい操作で機動司令塔は180度回頭して再び正面をヴァルガーマテリスに向けるが、
これで当初の目算はご破産になってしまった。ヴァルガーマテリスの回避力は予想外のものだったのである。
 唸りながら牙を剥いて狙うヴァルガーマテリス。小回りの利かない機動司令塔は攻めに回るどころか、
ドリルを向けたまま迂闊に動けない・・・

 そのとき、突如光と共に、ウルトラマンアルファがヴァルガーマテリスの直ぐ後ろに姿を現した。
川上「おお・・・!」
 アルファは即座にヴァルガーマテリスを羽交い絞めにして動きを封じる。
 緒戦で一時撤退し、暫く山中でじっとして休んだことで達志は消耗した力をどうにか回復し、再度変身。
等身大状態でヴァルガーマテリスのぎりぎり後ろに迫ってから巨大化、不意を突いたのである。
 尚、ウルトラマンの出現を目の当たりにした柏村は慌ててきょろきょろ。特防隊の誰かがウルトラマンに
変身して現れたと思って探したのだが、勿論無駄足となった。
 それはともかく、アルファの力はまだ充分には回復しておらず、長くはもたない。押さえ込むので精一杯。
 川上は、アルファの意図を理解した。この隙に、ヴァルガーマテリスにドリルを突き立てろというのだ。
「突撃!」
 川上の指示で機動司令塔は再びヴァルガーマテリスに攻撃を掛ける。
 だが、もがくヴァルガーマテリスにアルファが振り回されて大きく動き回り、狙いが定まらない。
狙いを外して空振り、何度もやり直し。押え続けるアルファの疲労が目に見え、もうカラータイマーが鳴り出す。
由美子「このままじゃ・・・!」

 と。
 あらぬ方向からビームが撃ち込まれ、直撃させられたヴァルガーマテリスが悲鳴を上げる。
美樹「あれは・・・!」
 山間から、ウルトラマンズィーベンも休眠状態から復帰して姿を現していた。ウルトラ松葉杖の仕込み
光線銃でビームを撃ち込んだのだ。この一撃が、ヴァルガーマテリスに確かなダメージを与える。
川上「今だ!」
 今度こそ、ハイパードリルは機動司令塔の全速前進の勢いを乗せ、ヴァルガーマテリスの胸に叩き込まれた。
ヴァルガーマテリスは大ダメージを受け、明らかに弱体化。その隙に、アルファはヴァルガーマテリスから
離れて間合いを取り、
『ギャラシウム光線!!』
 久々の必殺光線でとどめを刺す。
 歓声を上げる特防隊。
 人々に恐怖を与え続けた生体無機物は遂に爆散。完全殲滅された。

 だが。
 事件が終わった直後、アルファはズィーベンから逃れるため、即座に現地から離脱。
 どうにかズィーベンを引き離すことには成功したものの、その全力の逃亡過程で、ただでさえ戦闘で消耗
していた力を使い切ってしまった。
「だ、誰か・・・食べ物を・・・」
 深夜の暗い路地裏で倒れたまま、一歩も動けない達志。
 意識が遠のいていく・・・

 続く。
__________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 15 ウルトラマン青空学級・1
 海棲怪獣・キバクジラ 出現


 地球から遠く離れた別の惑星。
 かつてこの星には豊かな自然環境と、それらとうまく共存しながら繁栄していた文明があった。
だが、その平和だった世界は間もなく滅びようとしていた。
 美しい青と緑に彩られていた地表は今や荒れ果てて真っ赤になり、汚い灰色の廃墟があちこちに
点在している。その廃墟の一つが炎と煙を上げている。最早生きている住民もいないその廃墟を
踏み砕き、二つの巨大な人の影が果てしなく戦っていた。
 燃え上がる炎の中で二つの影はシルエットとなり、全容はよく判らない。只、一方は赤い光、
もう一方は青い光を全身から絶え間なく発している。何かよく判らないが、見ているだけで不吉なものを
感じさせる光。
 やがて、両方が一際強い光を放ち、互いに体当たり。その衝突でお互いのエネルギーが反発し合い、
凄まじい爆発が起こる。その爆風と熱は崩壊していた街を更に跡形もなく消し飛ばし、両巨人も
弾き合って吹き飛ばされ、全てが、白い光の中に消えていった・・・

 そんなことがあった過去から結構年月は進み、現在の地球。

 ウルトラマンズィーベン=大谷勇は、高層ビルの屋上で宇宙警備隊とのテレパシー交信を行っていた。
『俺が地球に来た目的は、ウルトラマンアルファを捕らえて宇宙警備隊に送還させることだ』
『しかし、この件を放置しておくと、地球に深刻な影響が出るのは免れません』
『うむ・・・』
 通信の相手は、宇宙警備隊のズィーベンの同僚、デリート隊長。
 階級としてはズィーベンと同格だが、頻繁に現場に出向くズィーベン(片足でありながら)に対し、
相変わらず管理職として多くの隊員の統括を担っている。
『取り合えず今伝えた捜索目標に対して細心の注意を払い、発見した際の処置が今のところ
アルファ君の確保に優先されるということで、一つ宜しく』
『・・・判った』

 交信を終えた後もデリートは思索する。
 実は彼個人としては、これまでの業績から鑑みて、アルファが地球に留まり続ける事を話によっては
大目に見てもいいのではないかと考えている。その判断の背景には、かつてウルトラマンバーンが
志半ばで地球勤務から退くという事態となってしまい、そういった無念を再び後続の戦士に味わわせたく
ないという想いがある。
 ただし、あくまでも話によってはであり、かつ現段階では彼の個人的な考えである。これまでの慣例を
破るとなれば、各方面での色んな軋轢も生じてくる。突然のことで関係者を混乱させた責任はきっちり
取らせなければならず、身柄を確保してきちんと話し合いをする必要がある。
「そのためにも、これからのことがハードルの一つになるでしょう。乗り越えられますか、アルファ君?」

 再び地球。久々の西野家。
 家父長の一誠が城達志を家から追い出して以来、娘の恵はろくに一誠と口を聞かない。一誠が声をかけようと
してもわざと無視する。互いの関係は極めて険悪になっていた。
 といっても恵は恵で、この前バラス星人事件に巻き込まれて生命の危機に追い込まれ、ウルトラマンとして
常に命を賭けた戦いに身を置いている達志との間には思ったより大きな壁があることを思い知らされて
いたのだが、それはそれとして此処まで来た以上意地でも一誠に対して折れたくないので、反抗的な態度を
取り続けている。
 一誠は恵に気付かれないよう、新聞やネットで、ウルトラマンアルファが怪獣や宇宙人から地球を守る
ための奮闘を続けている旨のニュースを目にし、苦悩し続けていた。
(どうしたものか・・・)

 で、話の中心の達志。前回、漂泊の果てに遂に行き倒れ、生命の危機に晒されていた彼だが。
 結論から言うと、その危機からは免れていた。
 具体的には、気を失って倒れていたところを、善意の人々に拾われた。
「大丈夫ですか?」
 廃墟同然の街の中、プレハブの中のベッドで目を覚ましたところで、看病していた若い美女が声を掛けた。
 彼女の名は、石田留美(いしだ・るみ)。
 多くの怪獣や侵略者の跋扈で日本のあちこちにこうした戦災地があるのだが、そういった地を巡回して
難民を援助して回っている有志の団体のメンバーである。

 留美から炊き出しの食糧を振舞われ、必死にかきこむ達志。決して上等な料理ではないが、空腹続きの
彼にとっては十分なご馳走である。
「無理もないよ。皆おなかをすかしてるからね」
 脇で見ていた少年、佐久間健二(さくま・けんじ)が、大人びた口調で言う。他にも、多くの
子供達が達志を興味深げに覗きこんでいる。彼らは怪獣災害で親を失った子供達で、留美達によって
面倒を見られ、勉強なども教えてもらっている。いわゆる青空学級といった様相である。

 子供達になつかれ、特に邪険にもしないでいる達志に対し、援助団体のリーダーの青年、長門信次郎
(ながと・しんじろう)は、ゆっくりしていくといいと勧めた。
「それにしても、民間人からこれだけの犠牲が出ているというのに、困ったものだ」
 長門は、にこやかだった表情を曇らせる。
「困ったもの・・・というと?」
「防衛軍だよ。実質的に怪獣を倒しているのは、殆どの場合ウルトラマンだ。その上、怪獣災害への
フォローもろくにできていない。無駄飯食いも甚だしい」
「・・・・・・」
「長門さん、一生懸命戦ってる防衛軍の人達のことを余り悪し様に言うのは・・・」
 留美が注意するも、長門は態度を崩さない。
「結果に繋がっていないのなら同じことじゃないか」
 達志が居心地の悪さを感じていたとき。
 激しい地鳴りが起き、一帯に警報が鳴る。子供達は青ざめて怯え、留美や長門はそんな子供達を
庇う態勢に入る。
「何事ですか?」
「怪獣だ!」

 破損したビル街の上すれすれを浮遊し、滑るように飛び回っている巨大な怪獣・キバクジラ。
 ・・・ガマとかサメとか、とにかく末尾に『クジラ』が付く種があるらしい。キバクジラはこの街の南、
横浜辺りの海の沖を根城にし、しばしば陸に上がってくるのだが、起源に関わらず海から来るという点でも
『クジラ』種は共通している。
 魚か鯨のようなうつぶせの平たい体で、口にはセイウチのような鋭く長い二本の牙。逃げ回る市民を空から物色し、
食べようと襲っている。プレハブから出てきて見届ける達志と青空学級の一同。
達志「あれは・・・」
留美「この街が怪獣災害で寂れてから、ああやってしょっちゅう襲ってくるんです」
長門「あいつは・・・僕達人間を餌だと思い、此処を餌の穴場だと思っているんだ!」
 悔しがったり悲しんだりする一同。達志が見ると、特に健二が拳を握って涙を流している。
健二「僕の父さんと母さんは・・・あいつに食い殺されたんだ!」
達志「・・・・・・」
 とにかく、長門や留美は協力して子供達を避難させ始める。達志もそれを手伝う。
 そうしているうちに、彼らに気付いたキバクジラが、食べようと迫ってきた。一同は必死に逃げ、近くに
丁度いい隠れ家となる地下道を見つけ、そこに入る。だが、怪獣は執拗に地下道の周りをうろついている。
怯える子供達。
 達志は、黙って地下道から出る。
長門「おい君、何を!?」
達志「僕が怪獣の注意を引き付けて遠ざけます。その間に遠くへ逃げてください」
 長門達が制止するも達志は構わず、目立つように怪獣の前を走り抜ける。キバクジラも気付き、達志を追って
地下道から離れる。
 人目につかない辺りに来たところで、達志はアルファプラスを取り出す。幸い今回は長門達にご馳走になったので
満腹だ。全力で戦える。
「アルファーーーーーッ!!」

 光が迸り、次元の壁をぱりーんと割って空からウルトラマンアルファが出現した。怪獣と対峙する。
 地下道から見る青空学級。
健二「ウルトラマンだ! ウルトラマンが来てくれたよ、長門さん!」
長門「ああ、そうだよ健二君! 無駄飯食いの防衛軍よりよほど頼りになるウルトラマンだ!!」

『健二君を泣かせ、人々を苦しめたお前をこの場で倒す!』
 アルファは素早く動き回り、怪獣を牽制する。だが、キバクジラも巨体に似合わず素早い。空を泳ぎながら
アルファの動きに確実に追いすがり、牙で噛み付こうとしたり、口から火を吹いたりして襲ってくる。
埒が開かないと見たアルファはビルがあらかた崩れた広い場所で足を止め、アルファブレードを出し、
ウルトラ居合い抜きで一気に仕留めようと構える。キバクジラもまっすぐ迫ってくる。
 だが、そのキバクジラの進撃が、突然の一斉砲撃で阻まれた。キバクジラは大きくよろめく。
アルファも何事かと見回す。
 廃墟の広場の横合いに、何時の間にか、防衛軍の地上部隊が大きく展開していた。地底戦車・
プロライザーの量産機部隊。地下から穴を掘ってやってきたらしい。車体の上部の砲身から煙がたなびく。
砲撃したのは彼らである。
 そして、部隊を指揮する防衛軍の幕僚の一人、梶山宏之(かじやま・ひろゆき)参謀。軍服に逞しい身を固めた、
軍帽の下で異常に鋭く光る目の、まだ若い男。
「砲撃続行。怪獣を殲滅せよ」
 梶山は冷徹な声で命令を下した。

 続く。
__________________________________________________________

 ウルトラマンアルファは、怪獣災害で廃墟となった街の難民達を苦しめる怪獣・キバクジラと
対決する。だが、決着が付くかと思われたとき、防衛軍の地上部隊が突如介入。怪獣を砲撃してきた!


 ウルトラマンアルファ 16 ウルトラマン青空学級・2

 海棲怪獣・キバクジラ 出現


 量産プロライザー隊の一斉砲撃は予想外に苛烈だった。これまでより確実に威力が上がっている。
目に見えて弱っていくキバクジラ。動きも鈍くなる。
 戸惑って見ていたアルファだが、まあ状況が好転したと前向きに考える。となれば、ウルトラ居合い抜き
よりもっと威力のある攻撃で確実に仕留めたほうがいい。アルファブレードを取り下げ、印を結んで構え直し、
『ギャラシウム光線!!』
 稲妻のように光が飛び、キバクジラはあえなく爆砕した。
 青空学級の子供達の歓声。

 アルファが達志の姿に戻り、青空学級の下に帰って来ると、妙なことになっていた。
 青空学級と、後からやってきた防衛軍の梶山隊が対峙することになったわけだが、空気が凄まじく険悪。
 青空学級リーダーの長門健次郎は嫌味たっぷりに、
「よくも今頃のこのこと姿を現せたものですね。ウルトラマンをタイミングよく援護するように見せれば
体面を保てるとでも思いましたか?」
 梶山参謀は全く悪びれず、
「怪獣に対抗するために火力兵器の強化開発を続けており、漸くそれが実を結んだので今駆け付けたと
いうだけの話だ。妙な勘繰りは止めてもらおうか」
「今更駆け付けたところで、これまで犠牲になった街の人達は帰ってこない!」
 長門は怒りを露にするが、梶山は引かない。
「別に防衛軍は手をこまねいていたわけではない。怪獣に対抗するために武装の強化を続けているのだと
今言ったろうが。それまでの必要な犠牲だったのだ。諦めろ」
「何だと!?」
 周りで見ている子供達の情操教育に思いっ切り悪い光景が展開。青空学級だけでなく、梶山の
部下達も嫌そうな顔をしているが、基本的に上官には逆らえないので黙っているしかない。
「まあまあまあまあまあ」
 石田留美の仲裁でどうにかその場は収まるが、両者、特に長門と梶山のわだかまりはそう簡単には
拭えない。気まずいまま両者は一旦別れる。当面の戦力の整った梶山隊が暫くこの地に駐屯すると聞き、
長門は更に渋面を作った。

「ごめんなさい、嫌な場面を見せて」
 何となくまだ留まっている達志に留美はわびる。
「只、判って欲しいのは・・・どっちも街を守りたい、なるべく多くの人々を犠牲にしたくない、
その想いが強すぎるだけだと思うんです」
「はあ・・・まあ、それは判ります。判る、つもりです」
「誰でも、大事な人を守りたいという気持ちは同じはずなのに・・・何でこういうことになるんでしょうね」

 梶山隊の駐屯地。テントの中で、梶山は駐屯地一帯の地図を前に頭を掻き毟っていた。キバクジラや、
第3、4話のアスゴル等もそうだが、しょっちゅう表に出てこないだけで、実際には地球産の怪獣は
日本といわず世界中あちこちの地区に姿を見せずに潜伏し、思い出したように野犬やクマのように現れてうろついて
周りを荒らし回るのである。どうすればなるべく被害を出さずに済むか、その対策に梶山は毎日頭を抱え、目を血走らせ、
もうノイローゼ寸前だった。部下達もその心情は理解できるので、多少梶山が周りの者に当り散らすような
発言をしても何も言えずにいた。
 そこへ、一人の来訪者。
「おお、来たか柏村!」
「お久しぶりです、梶山参謀!」
 特命防衛隊の柏村勝。彼は特防に所属する前、元々は梶山の部隊にいたのである。梶山隊が苦闘していると
いうことで、援護のために今回特防から一時的に派遣されたのである。彼としても、ウルトラマンアルファが
この地にも現れたということで、アルファを戦力として手に入れるために真実に近づくいい機会だと思い、
喜んで任務を引き受けた。
 それはそれとして、かつての上司の苦闘振りを見る柏村。
「大変なようですな」
「ああ、全くだ。何から手をつけていいものやら・・・」
「ご安心ください。この俺が来たからにはもうケダモノどもに好き勝手はさせませんぞはーっははは!」
 相変わらず何の根拠もない自信ぶりだが、その明るさを見ているだけでも今の梶山には心強いものがあった。
何カ月かぶりに梶山も笑う。
「そうか。うむ、頼むぞ柏村」

 達志は身を張って青空学級一同を守ったことで彼らの信頼を得、子供達にもなつかれてもう暫くいてくれと
頼まれ、何となく留まり、子供達の養育の手伝いをしていた(正直、確実に食料が得られるからという理由もあった)。
しかし、自分は怪獣や侵略者と戦ったりズィーベンに追われたりしている身であり、いずれはこの場を離れなければ
ならないと思っていた。

 子供達が一日の授業を終え、食事をしている中。
 生徒の一人・よし子は、皆に見つからないよう、自分に与えられた食事の幾らかを隠し持った。
 そして、自由時間の合間を見て、その食料を街外れにこっそり持っていく。
 瓦礫で出来た空洞の一角に、よし子は、一匹の小さな野良の子犬を隠し飼っていた。
 唯でさえ食料が少ない状況で、子犬を皆の下へ連れて行って飼ってくれというわけにはいかないと思い、自分だけで
面倒を見ていたのである。
「ごめんね、これっぽっちで。明日はもう少し持ってくるからね」
 餌付けされた子犬は、すっかりよし子に懐いている。その可愛らしい様に、寧ろよし子のほうが癒されていたかも
知れない。

 よし子が去っていき、人気もなくなった夜の廃墟。
 駐屯している防衛軍の兵士の一人が、一帯を見回っていた。そして、よし子が飼っていた子犬がいる辺りへ
近づいていく。
 はい、もう大体予想ついたでしょう。ごめんなさい。悪かったです。すんません。
「ぐわああああっ!?」
 子犬が入っている辺りの空洞の中から音もなく忍び寄った無数の触手が、兵士を絡めとる。本隊に連絡する暇も
与えず洞穴に引き込み、闇に響く悲鳴と凄まじい咀嚼音。
 直ぐに静かになる。画面が空洞の奥に寄っていく。
 くーんと鳴く小さな子犬の、らんらんと赤く光る目・・・

 続く。
__________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 17 心を折る魔獣
 狡猾魔獣・ベロス 出現


 前回のラスト辺りより、防衛軍の兵士、民間人問わず、横浜の戦災地一帯で行方不明者が多発
するようになった。これまでのことを考えても、人間を捕食対象とする野良の怪獣に襲われた可能性が
高いと考え、現地に駐屯し続けている梶山参謀下の部隊はその線で調査することにした。
 丁度、特命防衛隊の美山由美子隊員が開発した生体無機物マテリスの探知装置の小型携帯化がものになり、
同時に探知対象を変える周波数変換用のダイヤルが取り付けられた試作型のセンサーを、前回から駐屯地に
やってきた柏村勝が一基持ってきていた。これまで戦災地一帯に現れた怪獣のデータを元に周波数を設定し、
柏村が先頭に立って捜査を開始した。

 青空学級の少女・よし子は、今日も廃墟で隠し飼っている子犬の下へ餌を持っていく。
 懸命に餌を食べる子犬を微笑みながら見ていた最中、不意に人の気配を感じ、振り向く。
 そこには、青空学級のリーダー・長門信次郎が立っていた。
 よし子が密かに子犬の面倒を見ているのに気づき、つけてきたのだ。
「長門のお兄ちゃん・・・これは・・・」
 言葉に詰まるよし子に向け、長門は笑った。
「言ってくれればよかったのに」

 長門は子犬をよし子と共にプレハブに連れて帰り、皆で子犬を飼うことにした。
 石田留美も二つ返事で賛成し、他の子供達も大喜びで子犬に群がり、多少の食べ物くらい皆で分けてやると
いうことで満場一致。よし子は喜ぶ。
 そんな光景を、すっかり青空学級の一員と化した城達志は微笑んで見守っていた。
 この後起こる事態など、知る由もなかった。

 この後起こる事態。
 柏村達が、怪獣反応の発信源を突き止めた。梶山も直々に同行していた。
 青空学級のプレハブの前。

「やめてーっ!! やめてよおお!!」
 よし子が泣き叫ぶ。
 梶山は部下達に指示し、子犬を問答無用で連れて行こうとする。当然青空学級一同は反目し、子供達の
激しい抗議に対し、兵士達は迷うが、梶山は命令を取り下げない。その冷徹ぶりに、普段怪獣に対しては
攻撃的な態度をとる柏村さえも、ちょっとどうかという表情を見せる。
留美「何かの間違いです! この可愛い子犬が怪獣だなんて・・・」
梶山「外見など当てにならん。そういう罠に嵌って多くの人間が怪獣に食い殺されてきたのだ。いいから
さっさとそいつをよこせ。邪魔するなら貴様らも連行するぞ」
 留美の腕を乱暴にひねり上げようとしたとき、長門がそれを掴んで止める。

長門「これは何の嫌がらせですか?」
梶山「嫌がらせ? 何を馬鹿な」
長門「わかってるんだ。僕達が今まで貴方達に楯突いて来たもんだから、その子犬が怪獣などという
話をでっち上げて殺し、僕らに嫌がらせをするつもりでしょう。その手には乗りませんよ」
留美「・・・長門さん?」
 長門の目の色も梶山のそれと同じ。異様な光を放っている。
柏村「・・・ちょっと待ってくれ。探知機に怪獣反応が出ているのだ。一応事実関係を確かめないことには」
長門「貴方達の都合なんか知りません」
 長門は言い捨てる。
長門「僕達は、普通に食べていくのも苦しい日々の中でささやかな幸せを見つけて生きてるんです。何で
余計なことをするんですか? 自分達に都合のいい、僕達だけが気持ちいい情報の中だけで生きてて何が
悪いんですか!?」
 段々口調がヒステリックになってくる。そろそろ言ってることが何かおかしい。怯える子供達を後ろに庇いながら、
達志は、妙な違和感を感じていた。
梶山「・・・話にならん。構わんからほっといて犬を回収しろ」
 兵士達は戸惑いつつも、子供達を押しのけ、子犬を捕まえて無理に外へ連れて行く。連れて行かれる子犬は
嫌がって暴れる。暴れた末に。
 ぶしゅっと音がした。
「え・・・?」
 子犬の体から、先端の鋭く尖った触手が飛び出し、兵士の一人の胸を貫いていた。

 後はもう、地獄の光景が連続。
 やはり怪獣だった子犬は、全身から次々触手を繰り出して周囲の兵士を捕らえ、殺してどんどん捕食していく。
それを養分に一気に巨大化し、狡猾魔獣・ベロスの正体を見せる。体中から触手の生えた、直立した巨大な犬。
どういう進化経路を辿ったのかは判らないが、ベロスは、可愛らしい子犬に擬態することで人間を油断させて
近づかせて捕まえ、捕食することを生きる術としていた。よし子の前ではおとなしくしていたのも、よし子が
食料を持ってきてくれるからだけだった。
(迂闊だった・・・!)
 ベロスの正体に気づけなかったことを達志は悔い、とにかく一刻も早くベロスを倒すために一同の目を忍んで
物陰に隠れ、ウルトラマンアルファに変身して出現した。
 柏村も残った兵士達を率い、プロライザー隊で事態の収拾に出る。目の前には請い求めていたウルトラマン
アルファがいるのだが、今はそれどころではない。怪獣の脅威から人々を守るのが先だ。
 ベロスはアルファに対して間合いを取り、触手を素早く飛ばしてアルファを拘束。思うように動きが
取れないアルファをじわじわと引き寄せ、鋭い爪や牙で切り裂こうとする。
 だが、柏村のプロライザー隊が正確に砲撃して触手を切断、アルファの窮地を救う。
 触手での攻撃を封じられたベロスは、接近して爪を振り回して襲ってくるが、最早然程の脅威ではない。
アルファはウルトラ縮地で素早く回避しながら反撃の隙を狙う。そして、ハンドギャラシウムを飛ばして
ベロスの目を潰す。顔を押さえて絶叫するベロス。
 その隙を突き、必殺のギャラシウム光線が撃ち込まれ、ベロスはあえなく爆砕した。

「いいご身分だな、貴様ら」
 事後、梶山は青空学級の一同を責める。
「我々はちゃんと警告したのにな。あの犬ころは実際に怪獣だったよな」
 事実なので留美やよし子達は反論できない。
「一時の感情だけで何の根拠もない綺麗事や理想論だけほざいて、実際に事が起こったら後始末は我々や
ウルトラマンに任せきりか。そのために俺の部下が大勢死んだ。どうしてくれる!? え!?」
 俯いて震えているよし子相手に怒鳴り散らす。
「防衛軍は何も好きで敵と戦ってるんじゃない! できるだけ犠牲を防ぐため、あえてやらなければならない
汚れ仕事というものがあるのだ! それを我々ばかり悪いみたいに言いおって! 今度同じことが起こって
又被害が出たら貴様らのせいだからな!!」
 次の瞬間、プレハブ内に鉄拳の音が響き渡った。
「それがあんたらの仕事だろう! 国民はそのために税金を払ってるんだ!」
 逆切れした長門が梶山を殴ったのだ。
「怪獣や宇宙人と戦って、死ななければならないときには死ぬのがあんたらの仕事だ! 僕達は別に礼を
言う必要なんかない! 戦って戦って最後の一人まで敵と心中してくたばれ! 後ついでにパン買って来い!
僕焼きそばパンとフルーツ牛乳な!」

 かくして、凄絶で不毛極まりない殴り合いが展開される。長門も梶山もお互いに自分の集まりのことしか考えていない。
意見が合わないにしてもこの憎み合い方は異常だ。見かねて皆が必死で止める。
柏村「梶山参謀、もうその辺で! 落ち着いてください!」
よし子「お兄ちゃん、もういい! もういいよ!」
 よし子にとって子犬が怪獣だった事実も悲しかったが、今眼前で起こっている事態のほうが耐えられなかった。

 どうにか梶山隊が引き上げたあと、長門は皆を遠ざけ、自室に篭って煩悶する。
「僕は間違っていない!! 戦える力のある連中が僕らを守るために何処までも際限なく戦って死んで、
焼きそばパンとフルーツ牛乳を買ってくるべきなんだ! 勿論自腹で!!」
 そして、暗い部屋の中。
 長門の目が青く光り、やがて、その光が全身から溢れ始める。

 駐屯地のテント内の自室でも、梶山は梶山でエゴ丸出し。
「この国は、この地球は我々防衛軍が守っているのだ! そのことも理解していない脆弱な民共が何をほざく!?
貴様らは我々に生かされているのだ! それだけでも有難いと思えウジ虫共が!!」
 そして、暗い部屋の中。
 梶山の目が赤く光り、やがて、その光が全身から溢れ始める。

 星も見えない闇夜の空一面に、青い光と赤い光が立ち昇り、激しく拮抗を始める・・・

 続く。
____________________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 18 妄執の鎧・1
 ハンターナイト・アヴォル、ハンターナイト・ヴァニル、狡猾魔獣・ベロス二代目、
 改造暴君・ハーケンマグマ、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 郊外から、横浜の戦災地に迫る巨大な影。
 それは、前回現れた狡猾魔獣・ベロスの同種の怪獣だった。この地に多くの難民=適度な餌である
人間が多数いることを嗅ぎ付け、自分も捕食しにやってきたのだ。
 期待に舌なめずりをし、意気揚々と街に入り込んで食事を始めようとした。
 最早それどころではない状況になっていることに気づいていなかった。不運なことに。

 街にいたのは、15話冒頭で暗示的に描かれた、あの青と赤の二人の巨人だった。
 空はどんより曇っているが、両者自体がうっすらと光を発しているため、今回は全貌が見える。
各々の基調色をした鎧を纏っている。互いのディテールに若干の違いはあるが、共通しているのは・・・
ウルトラマンに酷似している。いや、ウルトラマンそのものだ。
 睨み合っていた両者は、場違いに現れたベロスに、ゆっくりと振り向いた。

「遅かったか・・・!」
 両巨人を捜索する緊急任務を帯びていた大谷勇は、今になって街に辿りつき、歯噛みした。
「あれは・・・何なんですか? ズィーベン隊長」
 声に振り向くと、勇が来た気配を既に察した城達志が現れていた。
 勇は、デリートから聞き及んだ情報を伝える。
「ウルトラマン・・・いや、『ウルトラマンだったもの』だ」
「だったもの・・・?」
「お前は『ハンターナイト』というものを知っているか?」
「! かつて・・・惑星アーブ壊滅の悲劇に伴って現れたという、あの忌むべき伝説の」
「そうだ。当時、アーブを守っていたウルトラの戦士が、力及ばずアーブが滅んだ際の悲しみや
憎しみの感情に囚われ、その怨念が実体化した鎧を纏い、凶行に走ったという事例。
 人工太陽プラズマスパークによって与えられた大きな力を宇宙の平和と秩序維持のために行使する
ことを忘れ、己の妄執に囚われたウルトラマンは、ハンターナイトになる」
「・・・・・・」
「その事例が、もっと古い時代にも存在していたのだ。宇宙警備隊のほぼ黎明期に」
 勇はかいつまんで話す。

 古い時代、二人の優秀な、親友同士のウルトラ戦士、アヴォルとヴァニルがいた。
 互いに力を合わせ、宇宙の多くの難事件を解決してきた。
 だが、彼らの力を以ってしても尚、解決し難い問題があった。それは、宇宙各地の文明の住民同士の
価値観の違いであった。
 宇宙の平和と秩序を守るために一定のルールを定めようとしても、一方の種族が正しいと思っていることが、
もう一方の種族にとっては許せない悪だったりする。どれだけルールを整理していったところで、平和を
愛するはずの民同士の争いは際限なく発生する。
 宇宙中を駆けずり回って調停を続け、それでも争いはなくならず、行き詰まり始めた二人の戦士の
信条が、次第に逆方向にずれ始めた。アヴォルは、人々の犯す如何なる邪悪な罪をも『広い宇宙の大いなる
愛』で際限なく許し・・・というより、根本的な問題が解決していないときでも半ば捨て鉢に看過する
ようになり、一方のヴァニルは、罪を犯した者に際限なく罰を与え、それでも効果がないときは無条件で
殲滅する方向に走り始めた。

「・・・・・・・・・
 それで、お互いが自分の考えを頑として曲げず、対立の果てに、15話の冒頭に至ったわけですね」
「そうだ」
「はあ、そうですか」
 他に何と反応すればいいのか。
「激しい戦いの末、互いの力のぶつかり合いで起きた大爆発で、両者の肉体は一度跡形もなく消し飛んだ。
だが、精神が残っていて、かつ合体する適性のある相手さえいれば、我々ウルトラマンは何度でも復活
できるのはお前も承知だろう。アヴォルとヴァニルは魂だけになってもお互いを完全に消し去らんという
執着心を捨てず、それぞれ宇宙中をさまよい、自分の寄りましとするに丁度いい存在を探し、蘇っては
同じことを繰り返し続けている。そのたびに、巻き込まれた地では甚大な被害が出る。そして今回は、
地球上で激しく対立し、憎みあっている者同士に白羽の矢が立ったというわけだ。ことあるごとに
かような大事の中心となる、つくづく地球は因果な星だな」

「しかし、何故長門さんと梶山参謀が・・・?」
「お前はずっとその二人の動向を見ていたのだろう。思い当たることはないのか」
「・・・・・・」
 長門と梶山の尋常でない争いが思い起こされる。
「アヴォルとヴァニルに魅入られてからいがみ合いが加速したのか、元より長門と梶山の本性がそうだった
のかはわからんが、魅入られるような適性が二人に潜在していたのは間違いないだろう」
「・・・いいです、話はわかりました。で、どうするんですか!?」
 長門と梶山・・・だった存在、アヴォルとヴァニルは、今達志と勇の目の前で凄惨な争いを続けていた。
空気を読まずにうっかりそこへ介入してしまったベロス二代目は、戦いに巻き込まれて滅多打ちにされた
挙句、全身バラバラにされて既に絶命し、周囲に放置されていた。そりゃ確かに人間を捕まえて貪り食おうと
したけど、だからといってここまでされにゃならんのか、何故だという苦悶と絶望の表情が生首の顔に
刻み込まれていた。
 ベロスを八つ裂きにしても尚両ハンターナイトの怒りはおさまらず、殴り合いを再開する。唯でさえ
崩壊寸前の街が更に壊されていく。
「そのうちお互いの光線やその他の超能力の撃ち合いを始め、周囲が壊滅に至るのは必至だろう。
無論、止めねばならん」
「それだけじゃなく!」
 青空学級の一同は防衛軍の地上部隊によって安全圏であろう位置まで下げられていたが、そこに留まって
長門のお兄ちゃんもうやめて目を覚ましてーと必死に呼びかけている。柏村隊員も、梶山参謀元に戻って
くださいーと声を荒げて叫んでいる。
「元の人間に戻さなくちゃいけないでしょう!」
「どうやって? 俺にはそんな力はないぞ」
「・・・僕にもありませんよ」
 事態を知った特命防衛隊本陣が、斎木と美樹の搭乗したトライビートを送ってきたが、地上で必死に
叫ぶ柏村によって、暴れる両巨人が元は人間であるということを知らされたため、下手に攻撃できない。
美樹「どう見てもウルトラマンだけど・・・あの二人の巨人も、誰か人間が変身してるの?」
斎木「くそ、どうすれば・・・!」

「・・・行きます」
 前に踏み出した達志を見据える勇。
「どうする気だ? あの二人を元に戻す術はないんだろう」
「ええ、ありません。ないですよ、策なんか。だけど、あの二人が人でないものになって争っていることで、
悲しい思いをしている人達がいる。なら、その悲しみを止めるため、策がなくてもとにかくやるしかない。
やらなきゃいけないでしょう!」
 一喝した達志は、アルファプラスを取り出す。
「アルファーーーーーッ!!」
 光と共に現れたウルトラマンアルファは、戦場の真っ只中へ挑んでいく。

 ウルトラマンや、ウルトラマンと一体となった人間は、音声でなく精神感応、テレパシーで会話しているが、
何万年分ものお互いへの憎しみを込めたアヴォルとヴァニルの想念が、場に踏み込んだアルファの心に一方的に
流れ込んでくる。長門と梶山の罵詈雑言の言い争いに変換されて。それだけでアルファの精神力が著しく
消耗する。足がふらついてくるが、それでもアルファは前に踏み込む。
 とにかく二人に掴み掛かって引き離そうとするが、二人分の力にかなうはずもなく、振り回され、突き飛ばされて
倒れる。両ハンターナイトはアルファなど眼中にない。とにかく相手を物理的に痛め付け、精神的に貶めることで
いっぱいいっぱいだ。その志の低さに自分も殴り掛かりたくなるのを懸命にこらえ、尚も掴み掛かるアルファ。
 やがて、両ハンターナイトはアルファも邪魔者と判断し、ベロス二代目同様、先に排除にかかることにした。
攻撃態勢に入る両者に対して警戒するアルファ。

アヴォル『愛って何なんだ!? 正義って何なんだ!?』
 アヴォルが合わせた両手を真っ直ぐ前に突き出す。その手の先から、『青い色のなんでもとかすあわ』が
激しく噴出された。アルファがすんでのところで避けると、命中した後ろのビルが瞬時にどろどろに溶ける。
ヴァニル『闇が怖くてどうする!? あいつが怖くてどうする!?』
 回避直後のアルファを、更にヴァニルが両手を合わせて狙う。今度は、手の先から『赤色の高熱火炎』が
噴き出した。これも取り合えず避けるしかなく、街が忽ち火の海になる。
 溶解泡と火炎の同時攻撃で、アルファは回避行動を更に加速し、ウルトラ縮地で避け続けるしか手がない。
このままでは消耗してカラータイマーが鳴り出すのは目に見えている。
留美「長門さん、もうやめてーーーーー!!」
柏村「正気に戻ってください、参謀ーーーーーッ!!」

「策がなくてもやるしかない、やらなきゃならない・・・か」
 アルファの本気を見届けた勇は、自分も続いてズィーベンプラスを出し、ウルトラマンズィーベンに
変身。アルファの援護に入り、飛んできた泡と火炎をズィーベンバリヤーで止めた。
『隊長・・・来てくれたんですね』
『それが今この場での俺の役目だからな』
『・・・じゃ、最初から手伝ってくださいよ』
 しかし、まだ事態が好転したわけではない。アルファとズィーベンには両ハンターナイトを元の人間に
戻さなければならないという当面の命題があるため、全力が出せない。一方、頭に血が昇りっぱなしの
両ハンターナイトはパワーセーブも何もなく本気でかかってくる。
アヴォル『優しさから始まるパワー!! それが勇者!!』
ヴァニル『足踏みしてるだけじゃ進まない!!』
 睨み合う二体二の図・・・

 その様子を、更に高みから見下ろす者達。
「ふふふ、機会を待った甲斐があったぜ」
 異次元に身を隠しているマグマパイレーツのリーダー、ハーケンマグマ。それに追随している
ゼバット星人の軍団。
ゼバット星人「アルファとズィーベンは不利な戦いで消耗している。今なら倒すのはたやすいな」
ハーケンマグマ「それだけじゃつまらん。どうせなら、あの二人の悪ウルトラマンをもっと煽って暴れさせた
方が愉快なことになるとは思わんか?」
ゼバット星人「ふむ、なるほどな」
ハーケンマグマ「それに伴って、面白い改造怪獣が用意してあるのさ。ふふふ・・・」
 ハーケンマグマの傍らに控えている、彼からも遥か見上げるほどの異様に巨大な影。それは・・・

 続く。
__________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 19 妄執の鎧・2
 改造巨獣・ゾーリミオス、ハンターナイト・アヴォル、ハンターナイト・ヴァニル、
 改造暴君・ハーケンマグマ、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 異次元のゼバット星人の拠点。悪者一同は横浜の戦況を観測しつつ、
ゼバット星人「で、何をする気なんだ?」
ハーケンマグマ「地球人は近年、宇宙人の超科学を『メテオール』とか名付けて防衛軍の武器に
どんどん試験的に取り入れることで戦力を増し、俺ら侵略者にとってもやりにくくなっている。俺らも
未知の領域から新しい力を試験的に取り入れていかなければいかんと思うわけよ」
ゼバット星人「ほうほう」
ハーケンマグマ「この前新生ギラス兄弟を倒され、仲間の改造マグマ星人の二人も失った俺は、新しい
戦力を手に入れるため、この異次元空間を基点に、他の平行宇宙の情勢を探って回った。これまでの俺らの
宇宙だけで怪獣を探しているだけじゃ、いずれ頭打ちになると思ったからな」
ゼバット星人「で、見つかったのがこいつか?」
 ハーケンマグマが従えている巨大な影を恐る恐る見上げるゼバット星人達。
ゼバット星人「確かに凄そうだが・・・」
ハーケンマグマ「おうよ。元々この怪獣を手先として使った連中も、奴等の世界における地球を狙って
いた。しかし、奴等の目的は地球の支配じゃねえ。地球と人類を跡形もなくぶっ壊して滅ぼすことらしい」
ゼバット星人「何と・・・!? 何のためにそんなことを!?」
ハーケンマグマ「その辺は俺にも判らん。しかし、奴等の目的なんかどうでもいい。重要なのは、奴等が
使っていたこの怪獣が俺達にとってどれだけの戦力になるかだ」
ゼバット星人「・・・確かに。では、早速戦場に投入してみようではないか」
ハーケンマグマ「まあ待て。まだ話の続きがあるのさ」
ゼバット星人「何だというのだ!?」
 いらつくゼバット星人にハーケンマグマは勿体つけて続ける。
ハーケンマグマ「実は、こいつは余りにも巨大すぎて、地球へ送り込む次元の穴を開けるには膨大な
エネルギーが必要になる。だが、それについても、俺達の手を煩わせる必要はない。ふふふ・・・」
 ハーケンマグマには、ある確信があった。

 二大ハンターナイトと、アルファ・ズィーベン組の戦いは続く。
アヴォル『本当は敵なんかいない!!』
ヴァニル『黙って下向いてちゃ聞こえない!!』
 なんでもとかすあわや高熱火炎を何度浴びせてもズィーベンバリヤーで防がれるため、両ハンターナイトは、
背を合わせて守りを固めているアルファとズィーベンを中心に、互いに真逆の方向に回り込み始めた。
前後から挟撃する。
 ヴァニルの火炎はアルファがアルファブレードの高速回転で弾き、アヴォルの溶解泡はズィーベンが
バリヤーで止める。攻撃が効かないことにいらついた両ハンターナイトは、更に技の威力を上げる。
ジリ貧になってくるアルファ・ズィーベン組。
『ズィーベン隊長、このままじゃ押し切られます!』
『やむを得ん・・・一旦別方向に跳んで撹乱する!』
『了解!』
 二人は互いの防御手段を解除すると同時に、別々に素早く跳んで攻撃を交わす。
 目標を失った両ハンターナイトの攻撃の軸線は、真正面から全力で衝突した。
 すると、ぶつかった泡と火炎の激流が、螺旋のように絡み合い、ベクトルがそれて上空へ向かっていくではないか。

ハーケンマグマ「いよいよだ!!」

 空高く飛んだ青と赤の螺旋の激流は、何もないはずの天空の中心辺りで何かに衝突し、激しく弾ける。
 正確には、その位置に、ハーケンマグマの用意した改造怪獣を出現させる次元の穴の展開用のポイントがあったのだ。
激流はその位置に見事に命中。両ハンターナイトの込めた膨大なエネルギーが発生する。それがハーケンマグマの
狙いだった。
 暗い空から、超巨大な次元の穴が渦のようにゆっくりと開き、同時に発生した膨大なエネルギーも自分の力として
吸収しながら、隠されていた改造巨獣・ゾーリミオス・・・の、頭が出現した。
 愕然と見上げる地上の一同(自分のこと以外はどうでもよく只暴れ続けている二大ハンターナイトを除く)。
 でかい。でかすぎる。爬虫類様の頭に牙の並んだ口。その口を一度開くだけで、ウルトラマンの十人くらいは軽く
飲み込めるほどでかい。口の中には、ウミユリか何かの海洋生物のように先の細かく割れた不気味な舌がびろびろ
蠢いている。光りながらぎょろぎょろと下界を見回す眼。
 そして、現時点でまだ頭しか出していない。
美樹「あんなのが、全身を現して降りてきたら・・・」
斎木「地上は、壊滅する・・・!」

 異次元でも改めて驚いているゼバット星人達。
ゼバット星人「おお、す、凄い・・・!」
ハーケンマグマ「俺も見つけたときは驚いたぜ。しかし、もっと驚いたのは・・・こいつのいた世界の地球に、
よりによってこの怪獣を操る連中を相手にしていた光の巨人が、二人いたらしい」
ゼバット星人「何と、その世界にもウルトラマンと同じような戦士が!?」
別のゼバット星人「しかも二人も!?」
ハーケンマグマ「ああ。だが、愚かなことに・・・そいつらも、地球を滅ぼそうとしていた連中の罠に嵌り、
お互い同士を敵と思って延々戦い合い、今起こった様相と同じように、自分達のエネルギーで巨獣を呼び込む
次元の穴をあけてしまったんだそうだ。何処の世でも人間やウルトラマン共の間抜けさは同じよ!
はぁーーーーーっははははは!!
 さあ、ゾーリミオス、地べたを這いずる虫けら共にお前の恐怖を見せてやれ!」

 ゾーリミオスが口を開くと、喉の奥から地上に向かって地獄の業火が振り撒かれた。
 廃墟のビルの十棟くらいが瞬時に吹き飛び、状況など全く感知せずに又殴り合っていた二大ハンターナイトが、
巻き起こった爆風で吹っ飛ばされてぶっ倒れた。
留美「ああっ、長門さんが!」
柏村「梶山参謀ーーーーーッ!!」
 今の攻撃で怒った二大ハンターナイトは、無謀にも今度はゾーリミオスを排除しようと飛び立ち、空へ向かっていく。
だが、接近したところで、ゾーリミオスが頭を振り回しただけで張り飛ばされ、それぞれ別々の何処か遠くの
山向こうまで吹っ飛ばされていってしまった。流石に大ダメージを受けたのか、それっきり戻ってこない。
 ゾーリミオスは、次の火炎放射のチャージを始める。我に返った斎木と美樹がトライビートで砲火を浴びせるが、
全く効いていない。知らん顔。
『うぬ・・・!』
 ズィーベンが空に飛び、渾身のズィーベンバリヤーを広範囲に張る。
 そこに地獄の業火が叩き付けられる。ズィーベンはバリヤーを維持して踏み止まるので精一杯。
カラータイマーが鳴る。
『ズィーベン隊長!!』
『今のうちにあの巨獣を攻撃しろ、アルファ!!』

 アルファはズィーベンの身を案じるが、彼の行為を無駄にするわけにもいかない。地を蹴ってゾーリミオスへと飛ぶ。
地上に向かって火を吹いているためにゾーリミオスは全くの無防備。だからといってこの異常な巨体に攻撃がどれほど
効くかは判らないのだが、とにかく抜き身のアルファブレードを叩き込むべく、雄叫びを上げて突っ込んでいく。
 だが、その寸前、アルファの死角から次元の壁を破って飛び出してきたハーケンマグマが、右手の巨大な刃を不意打ちで
アルファの背に叩き込んだ。
『やっぱり、直接相手を攻撃しねえと醍醐味がねえからな』
 仮面の下の口を邪悪に歪めて笑うハーケンマグマ。
 痛打に呻いて失速するアルファに、ゾーリミオスがゆっくりと視線を向ける。
 巨大な眼から大量の電撃が迸る。尚、電撃放射は改造による後付け機能。
 膨大な電荷で爆発が起こり、アルファも遠くへ吹っ飛ばされていく。
 残ったズィーベンも遂に力尽き、バリヤーが耐久力の限界を超えて爆発、崩壊。その爆風で、地上に降り注がんとした
業火の第二波が相殺されたのは最後の執念か。ズィーベンも、地上へ叩き落されていく。

 超巨大なゾーリミオスと暗灰色の空を背景に、勝者となったハーケンマグマは脇の下に反重力飛行用の黒いマントの
ような皮膜を靡かせ、高らかな笑いを廃墟に響かせた。

 続く。
___________________________________________________________

 ウルトラマンアルファ 20 達志と一誠
 改造巨獣・ゾーリミオス、改造暴君・ハーケンマグマ、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 横浜での惨事は、日本のみならず世界に報道された。
 東京の西野家宅で、ゾーリミオスとハーケンマグマによってウルトラマンアルファ=城達志が
敗北した場面をテレビ中継で見せられた西野一家は仰天した。序でに、たまたま来ていた親戚の
哲夫も仰天した。

「お父さん!」
 恵は改めて父に怒る。
「城先生はあそこまでぼろぼろになって怪獣や宇宙人と戦ってるのよ!」
「・・・それは彼の判断でやっていることだ。我々が頼んだわけじゃない」
 長門信次郎と言ってることの概要が同じ。
「見損なった! お父さんの愛は隣三軒にも満たなかったんだね! キモッッッ!!!!! 何で生きてるの!?」
 恵の発言も愛がなさすぎる。皆自分勝手すぎる。

 翌日、娘と顔を合わせず、一誠はスーツに着替えて仕事に行く。
 気まずい様子を見守るしかない哲夫。
「おばさん・・・」
「大丈夫よ」
 和子は、何かを確信していた。

 横浜上空に次元の穴から首だけ出現したゾーリミオスは、ずっとそのままの状態を維持している。
半開きの口から炎が漏れ出し、その度に下界の民間人達は恐怖する。二人のウルトラマンや二人のハンター
ナイトがいともあっさり敗れた後、ゾーリミオスはその威力を誇示するため、時折横浜以外の外の地方都市にも
火炎を吐いて届かせ、被害を出していた。横浜から離れているからといって安心はできないということである。
怯える人々を見て、ハーケンマグマやゼバット星人は笑いが止まらなかった。
 横浜の難民達は既に疎開していた。青空学級の石田留美や子供達、そして柏村勝を筆頭とした梶山参謀下の
地上部隊は、あれっきり姿を見せない二人のハンターナイト=長門と梶山を捜索し続けている。長らく
ウルトラマンの力に固執してきたものの、それがもたらすものの一端を見せ付けられた柏村は、複雑な心境だった。

 ディフェンスポート。
「二体の鎧の巨人も、その危険性を考えれば放っては置けん存在だ。柏村には捜索を続けてもらおう」
 川上隊長はそう方針を定めた。ゾーリミオス対策には柏村抜きで当たることになる。梶山の変貌によって
心ここにあらずの今の柏村は、確かに戦力としては期待できない。
 とはいうものの、トライビート隊の攻撃が全く効かなかったゾーリミオス相手にどうするのか、特命防衛隊は
頭を痛めていた。ゾーリミオスは機動司令塔よりも遥かにでかい。直接出動してハイパードリルで攻撃したとしても、
どれほどの効果があるかは疑問である。その前に、動きの鈍い機動司令塔では、接近する前に長射程の火炎
放射でやられるだろう。現在、美山由美子隊員がトライビートを強化、武装の威力と機動力を更に上げるための
開発研究を進めているが、何せ急なことで、何時完成するかは判らない。
 全く無力だったことに斎木俊一は悔しがり、霧島美樹は、行方の知れないウルトラマンズィーベン=大谷勇の
安否への不安を隠せずにいた。

 横浜郊外、山中の道路沿い。
 手痛いダメージを受けたウルトラマンアルファは、既に人間体・達志の姿となり、暫く休んだことで体は大方
回復していた。だが、余りにも強大な今回の敵に対し、対抗策が全く見出せず、遠くの空に見えるゾーリミオスを
見つめながら途方に暮れていた。空は変わらず暗い曇り空のままだ。
「ズィーベン隊長はどうしたろう・・・」
 本来自分を追ってきた追っ手である彼にさえ縋りたくなるほど達志の精神は疲弊していたが、いないものは
どうしようもない。
 と、俯き気味に視線を移した道路の果てから、一台の高級車がやってきた。そして、達志の前で止まった。
「・・・達志君?」
「・・・恵ちゃんのお父さん!?」
 車から降りてきた一誠が、呆然と達志を見ていた。

 一誠の仕事は総合企業の重役であり、ここ暫くの怪獣災害で被害を受けた各地の援助のためのプロジェクトに
携わり、今も丁度そのために外回りをしている最中だった。そんなことに携わっているんだったら恵に叱責
されたとおりもう少しグローバルな考え方もできそうなものだが、仕事とプライベートではやはり考え方に
差が出るということだろうか。
 車の運転手を待たせ(専属の運転手つき)、一誠は達志を伴って少し離れた場所へ行く。達志がウルトラマンで
あるということ前提の話を、事情を知らない者の前でするわけにもいかない。
 西野家に帰ってくることを一誠に認めてもらうため、達志がずっと戦い続けていることを、一誠は既に恵や
哲夫から聞いていた。
「だけど・・・今回ばかりは、駄目そうです」
 達志は自嘲して弱音を吐いた。
「お父さん、申し訳ありません。ご期待に添えなくて」
 勝手に一誠が期待していたことにしているのはちょっとあれだが。
「やはり、僕が西野家に帰還することは、夢のまた夢だったんです」


「そうか」
 一誠は嘆息し、
「つまり、君とうちの娘との絆も、その程度の言葉で諦め切れるようなものだったと」
「!!」
 達志は焦った。
「そんなことは・・・そんなことはありません!!」
「あーあ、がっかりだなー」
「聞いてくださいお父さん!」
「あの怪獣をやっつけたら、よきにはからわないこともないのになー」
「・・・・・・!!!!!」
 達志の心に、すっごく単純に火がついた。
「本当ですか!?」
「てゆーかー」
 一誠は背を向けたまま、
「私は関係ない。娘と君とで決めることだ」
「・・・お父さん・・・」
「お父さんお父さん言わんといて」
 一誠は歩み去っていく。
「ごたごたが片付いたら、一度戻って来い。母さんも哲夫君も待ってる」
 そして、車に乗り、自分の出来ることをやるために走り去っていった。

 廃墟の街に、眩しい光が迸る。
 次元の壁を叩き割り、ウルトラマンアルファが再び出現した。
「のこのこ舞い戻ってきたか」
 呼応して、ハーケンマグマもアルファの途上に空間転移してきた。
「だが、今の貴様などもう恐れるに足らん。ゾーリミオスにやらせるまでもない、俺のハーケンの錆にしてやるぜ!」
 右手の刃を振り上げて斬りかかり、アルファとすれ違う。
 澄んだ音を立て、アルファは、アルファブレードの刀身を鞘に収める。
「ぎゃあああああああッ!?」
 凶器であるハーケンマグマの右腕のみならず、両腕が肩口から落ち、鮮血が飛び散る。
 異次元のアジトで戦慄するゼバット星人一同。
 ハーケンマグマをウルトラ居合い抜きで一瞬の間に斬り捨て、悲鳴を上げて地上に倒れてのた打ち回るのに構いもせず、
アルファは頭上で唸り声を上げる巨獣・ゾーリミオスの威容に向かって更に歩み出す。佐橋俊彦の分厚い編成の
オーケストラと女声コーラスが廃墟に響き渡る。
 逆襲開始。

 続く。
______________________________________________________