改造巨獣ゾーリミオスが、上空から大量の炎を吐きかける。
ウルトラマンアルファはアルファブレードを高速回転させて炎を弾いて防御しつつ、ジャンプして飛び、
ゾーリミオスに一気に接近する。
ウルトラマンアルファ 21 アルファ逆襲
改造巨獣・ゾーリミオス、量産ゾーリム軍団、宇宙異次元人・ゼバット星人、
ハンターナイト・アヴォル、ハンターナイト・ヴァニル 出現
目前まで詰め寄られたゾーリミオスは、目からの電撃に攻撃を切り替える。
しかし、アルファはウルトラ縮地を使い、テレポート同然の身のこなしで電撃を次々避け、更にブレードを
抜いて、ウルトラ居合い抜きを素早く奔らせる。
次元の穴からはみ出した巨大な頭部の全面に次々斬り付けられ、火花が走り、ゾーリミオスが苦痛に絶叫する。
異次元のアジトで焦るゼバット星人達。
「おいおいおい、何かやばい雲行きだぞ!」
「ハーケンマグマは一発でやられてしまうし・・・」
「落ち着け!」
リーダーのゼバット星人が一喝。
「まだあれがある!」
ゾーリミオスの援護のため、ゼバット星人は更に、巨獣ゾーリムの量産型・量産ゾーリムの群れを出現させた。
といっても、原典のようにアホほど巨大ではない。平均的な怪獣のサイズになったゾーリムそっくりの生首が、
ろくろ首のように尾を引きながら複数異次元から飛び出してきたのである。
火を吐きながら群れで襲い掛かり、牽制する。西野家に帰還出来る権利という餌を与えられ、ノッている今の
城達志=アルファは、その程度の攻撃は食らわず素早く避けて反撃し続ける。しかし、このままでは標的である
ゾーリミオスへの攻撃が滞ってしまう。
「煩わしい! どうしたものか・・・」
そこへ、アルファへの増援登場。
「隊長!?」
ウルトラマンズィーベンも、休息を経て復帰、飛来した。更に、地球に来た際に万一のために携帯していた
エネルギー補充装置・ウルトラコンバーターを、複数腕につけてブースターとしている。
それだけではない。そこまでの用意をしなければならない理由があった。
ズィーベンバリヤーを大きな球状にして封じ込めた何かを、頭上に掲げている。バリヤーの内部には何か
強力なエネルギーが充満し、眩しい光を発していて中が見えない。
「ズィーベン隊長、それは?」
「ゾーリミオスに決定的なダメージを与えるための策だ。今からこいつを奴の口に放り込んで飲み込ませる。
お前はその間、邪魔が入らないように量産ゾーリムを牽制してくれ」
詳しく聞きたいが、その余裕はなさそうだ。凄まじいエネルギーを発している何かを封じ込め続けている
ズィーベンは見るからに辛そうだ。長くは持つまい。
アルファは引き受けた。
間を置かず、斎木俊一と霧島美樹のトライビートも飛来。何時になるか判らない機体の強化改造を待っている
わけにはいかず、結局旧性能の予備の機体で駆けつけたのである。それでもアルファの側に加わり、量産ゾーリム軍団を
攻撃して引き付けることに専念する。
斎木「俺達だって、これくらいのことはやれる!」
その隙に、ズィーベンはゾーリミオスに接近。先程アルファの攻撃でダメージを受けたゾーリミオスは苦痛に
呻いている。その半開きの口目掛け、ズィーベンはバリヤーの球を思い切り投げ込む。
焦ったゾーリミオスが炎を吐くが、高速で飛んでくるバリヤーの球はその炎を勢いで押し退け、ゾーリミオスの
喉の奥深くに飲まれた。
もう出てこないと見たところで、ズィーベンはバリヤーを維持していた念力を解除した。ゾーリミオスの体内で
バリヤーが解ける。
直後、一帯の大気が震撼した。
先程まで以上に激しく苦しみ出すゾーリミオス。体内からは壮絶な爆音が響く。
「・・・一体何を放り込んだんですか、ズィーベン隊長?」
「アヴォルとヴァニルだ」
「!?」
ゾーリミオスの体内。
バリヤーに閉じ込められてもその中で必死に取っ組み合っていた両ハンターナイトが、力を一気に解放し、
場所など一切気にせず青と赤の力を撃ちあい、蹴りあい殴りあい、序でに内臓の内壁を破壊し捲る。
「ゾーリミオスに一度敗れた俺は、何か対抗策がないものかと色々考えた。だが、俺一人だけでは
そう強力な破壊力は出せるものではない。考えていたとき、そういえば、これまで宇宙各地に壊滅的な被害を
出してきたアヴォルとヴァニルの力があるじゃないかと思いついたのだ。
そこで、ゾーリミオスに吹っ飛ばされて姿を消していたアヴォルとヴァニルを独自に探し回り、漸く
見つけてきた。しかし、説得したところでどうせお互い同士のいがみ合いに手一杯で話なんか聞かないことは
見えていたので、ウルトラコンバーターで力にブーストをかけた後、ズィーベンバリヤーで無理やり
捕まえてきた。大変だったぞ」
「・・・・・・」
量産ゾーリム軍団と戦いつつ、唖然と聞いているアルファ。
「それで、二人をゾーリミオスに食わせたんですか!? 何かあったらどうするつもりですか!?」
ズィーベンは黙ってゾーリミオスを指す。
ゾーリミオスは、アヴォルとヴァニルの体内での猛攻に苦しみっぱなし。体表が破れ、青と赤のビームも
あちこちから漏れ出し始める。
「何かあると思うか?」
「・・・大丈夫っぽいですね」
言ってるうちに、防衛軍からプロライザーで編成された地上部隊も駆けつけ、特防のトライビート隊と
協力して量産ゾーリム軍団に砲撃を掛け始める。次第に撃墜されていく量産ゾーリム。
「もう後は放っておいても雑魚のケリはつくだろう。一気に勝負を決めるぞ、アルファ」
「了解!」
アルファも対ゾーリミオス側に戻り、空中でズィーベンと並んで構える。印を組んで力を貯める。
ズィーベンもウルトラ松葉杖を引っ込め、両手を組んでエネルギーを収束。
「ギャラシウム光線!!」
「ズィーベンショット!!」
二人の必殺光線が合わさり、ゾーリミオスに命中。同時に、体内で争う両ハンターナイトのエネルギーの解放も
最高潮に達する。
巨獣は遂に大爆発を起こし、粉々に砕け散る。無数の破片が廃墟に降り注ぐ。
現場中継を自宅で見届けた西野一家、ディフェンスポートの川上隊長や基地一同、その他多くの日本中の
人々が歓声を上げた。
アルファとズィーベンは、更に虚空に鋭い視線を向ける。次元の向こうのゼバット星人達に、その視線は
注がれていた。
ゼバット星人達は、又も怖気づいて情けなく撤退した。
さて、ゾーリミオスが粉砕された後、両ハンターナイト=長門と梶山はどうなったのか。
生還した。
事態を知った柏村と梶山下の地上部隊、留美や子供達が急いで街へ戻ってきた。彼らの目の前に
積み上がったゾーリミオスの破片の山の奥から。しかも、人間に戻って。
二人のいがみ合いはどうなったのかと懸念していた一同は、どんな結果であろうとも受け入れなければ
ならないと身構えていたのだが。
よろめいて歩く長門と梶山は、互いを支えあい、肩を貸し合っていた。
拍子抜けする一同の前に辿り着いた二人は、散々勝手な言動をして皆を心配させたことを詫び、
最後にお互い同士も詫び合った。
どうも、ハンターナイトとなって全力を出して戦い合ったことで、溜まっていた互いのストレスが
一気に全部長門と梶山の中から抜けてしまったらしい。結果的に二人が仲直りしたことに、
柏村や留美や皆は心の底から喜んだのだった。
一同の気付かないところ。
遥か上空、宇宙さえ見える辺りに、二つの小さな光が飛んでいく。別々の方向に。
青い色の光と、赤い色の光。
それらは、宇宙へと飛び去りはしなかった。
地球上の何処かに潜むように、地平の彼方に消えていく・・・のだが。
その件についてはまだ先の話としておこう。
気付かなかった一同は、今はただ、束の間の平和が戻ってきた実感を心から噛み締めていた。
続く。
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ウルトラマンアルファ 22 アルファ対ズィーベン・1
ウルトラマンズィーベン 出現
横浜での騒ぎも一段落つき、西野家の家父長・一誠からお許しを頂いた城達志は、胸躍らせて東京へ
戻ってきた。早足で西野家に向かう。
遠くに見える家の前では、恵、一誠と和子、そして哲夫が笑顔で待っていた。
一誠は、ウルトラマンを家族として迎えることで今後襲ってくるであろう色々な面倒のことを考えると
実は笑顔だけでもいられなかったのだが、まあ許可したのは自分である。後の面倒のことは後で考える
ことにした。それに、達志と再会した自分の娘の暫くぶりの心からの明るい笑顔を見れただけでも、
自分の選択は間違いではなかったと思えた。
激しく手を振って呼ぶ恵と哲夫に向かい、達志は頬をバラ色に染めて目を昔の少女漫画調に
きらきら輝かせ、うすた京介の描く駄目人間のようにダバダバ〜〜〜〜〜と異様な足取りで突進した。
だが、その突進を、横合いの裏路地から現れた人物が遮った。
松葉杖をついて片足を引きずって。
「・・・ズィーベン・・・隊長」
「どさくさに紛れて、適当に見逃してもらえるとでも思ったか?」
ウルトラマンズィーベン=大谷勇の纏う辛気臭い空気が、一帯に一気に伝染。
「しつこいですね!! こういうのは大きな心で見逃すのが粋というものでしょう!!」
「お前が言うな。俺は元々お前を連れ戻すために地球へ来たのだ。そのために、ここ暫く脇から
湧いて出た色んな面倒にも、やむなくお前と共闘して付き合ってきた。このまま帰ったら俺が
馬鹿みたいではないか」
「それはそっちの、宇宙警備隊の都合でしょう!」
「宇宙警備隊の都合だけではない。俺個人の信条においても、お前のこれ以上の地球滞在を認める
気はない」
「何ですか、隊長の信条って?」
「それは、これからお前と戦ってケリをつける序でに教えてやる。一緒に来い。河岸を変えよう」
「そんなことに付き合う義理は・・・!」
そのとき。
「又邪魔する気!?」
「どっかへいけ!!」
やばい雰囲気を察した恵と哲夫が、勇を排除するために駆け迫ってきた。
だが。
「う・・・うわ!?」「何これ!?」
勇=ズィーベンの発したウルトラ念力で二人とも軽く宙に持ち上げられ、浮かんだままじたばたするが
どうにもならない。
「恵ちゃん、哲夫君!? 隊長、何てことを! 二人には手を出さないでください!」
「この街の中で巨大化変身して戦ってもいいんだぞ」
「・・・・・・・・」
「これからもたちの悪い怪獣や宇宙人は次々地球に攻めてくるだろう。そいつらのやることはこんな
もんじゃないぞ。何をぬるいことを言っている。そんな気概でお前が大切な存在だと思っている
地球人達を守れるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
達志の目つきが変わった。
「判りました。戦います。取り合えず二人を降ろしてください」
光の国、勇士司令部。
「・・・・・・・・・」
遥か遠くの星の修羅場を、黙ってテレパシーで見届け続けるデリート隊長。
郊外に出て行くと、なんかてきとーに、ウルトラマン同士が戦うにうってつけな高台の広い丘があった。
周囲には風力発電用の細身の白い風車が多数並び、からから回っている。
達志にどうにか説き伏せられ、西野一家は安全な場所から遠巻きに見るしかない。
両者は既にウルトラマンになっている。ただし、周囲への被害を避けるため、どちらも等身大サイズだ。
そして既に戦いは始まっており、アルファはウルトラ縮地で素早く移動、ズィーベンはそれと同等の速さで
杖を付きながら動き回り、互いに有利なポジションの確保を狙い続けている。光線の撃ち合いも格闘も
まだ行われていないが、一帯の空気は既に痛いほど張り詰めている。
「この前、あのハンターナイトと化したアヴォルとヴァニルの凶行を見ただろう」
序でに教えてやると言ったとおり、ズィーベンは動き回りながら、テレパシーで自分の考えを語り出した。
「アヴォルとヴァニルだけではない。彼らがあれだけの破壊力を発揮したその原動力となったのが、長門
信次郎と梶山宏之という二人の地球人の愚かな憎み合いだった。そして、そういう行動に走るのは彼らだけに
留まらず、地球のみならず、宇宙中の文明あるところ全てに同じような事例が溢れている。残念ながら、
人という存在はそんなに賢くは出来ていない。ウルトラマンでさえ時としてハンターナイトになるのだ」
「・・・・・・」
「そういう、一時の感情だけで無茶な行動に走る者が、しかもウルトラマンの巨大な力を持っている者が、
地球というさして大きくもない場所で己の欲に任せて好き勝手なことを始めたらどんな事態になると思う!?」
「隊長は・・・僕にもそれが当てはまると?」
「違うか!? 地球防衛の継続の必要性を言い訳にしているが、本当はその一家と一緒にいたいだけだろう!?」
杖の先で、見ている西野一家を指す。
「・・・それは・・・」
「言語道断だ! これまで地球滞在の際に現地の人々と作り上げてきた関係をかなぐり捨て、戦士として黙って
帰還命令に従って宇宙へ帰っていった者達の立場はどうなる!? お前だけはその立場から逃れようというのか!?
許さんぞ、そんなことは!!」
地上で名残惜しそうに見つめる霧島美樹の視線を振り切り、一筋の光となって宇宙へ帰ってゆく、
三年前のウルトラマンズィーベンの映像。
他にも、身を裂かれる想いで名残を振り切って帰還する、歴代戦士達の映像が次々と・・・
「僕は・・・!」
二人のウルトラマンの戦いは加熱し、両者は宙に浮き、アルファブレードとウルトラ松葉杖のつばぜり合いになる。
「僕は、自分の私情にも大きな力にも飲まれません! 地球を守るウルトラマンとしての本分は守ります!
恵ちゃんや哲夫君や、お父さんやお母さんと同時に、地球全体も守り抜いて見せます! やってみなきゃ判らない
でしょう!」
「ほう、大きく出たな」
ズィーベンは鼻で笑い、杖による素早い打撃のラッシュでアルファを圧倒する。
「所詮口だけよ! お前もいずれ現実の巨大さに押し潰される羽目になる!」
「・・・隊長のその言い草は・・・」
「?」
「アヴォルとヴァニルが暴走したときの理屈と、同じなんじゃないですか?」
「・・・・・・!?」
ウルトラマンの能面のような顔に、確かに変化が起きたのをアルファは察した。
「僕のこと私情剥き出しって言いますけど、隊長だって、自分がかつて地球に留まることが出来ずに結局
宇宙へ帰ることになっちゃったから個人的に怒ってるだけじゃないんですか!?」
「・・・何を・・・」
「隊長が現役当時、本当に地球の誰かを心から好きだったなら!!」
アルファは叫びと共に、力にあかせ、打ち込んできたズィーベンの杖を、ブレードで弾き飛ばした。
「例え宇宙警備隊から追われることになっても、周りの全てを敵に回しても、大事な人のために地球に留まって
戦い続ければよかったんです!!」
「・・・・・・・・・・・」
痺れる手を呆然と見つめるズィーベン。
「地球防衛の役目を忘れ、自分の都合だけを優先するのは、確かに本末転倒です。だけど、不完全で欲に
まみれた『心』があるからこそ、僕達は・・・只機械的な作業として宇宙の平和を守り続けるため『だけ』の、
『モノ』じゃない!! 違いますか!?
大体、そこまで人間の心を疑うんだったら、ズィーベン隊長は何でかつて地球を守ってたんですか!? 本当は
人間を信じてる・・・いや、信じたいんじゃないんですか!?」
その頃。
特命防衛隊の霧島美樹隊員は、トライビートに乗って日本上空のパトロールをしていた。
その顔は、何時も通り表情が乏しい。ここ暫く色々あって精神的に疲れているのが、仏頂面に拍車をかけていた。
トライビートをベースとした新型の高性能戦闘機はまだ開発中。それを待っているに忍びなく、斎木俊一は
飛行訓練や射撃訓練に以前以上に力を入れている。しかし、美樹のほうは最近アルファと共に頻繁に現れる
ズィーベンのことが気になって、斎木ほど訓練に身が入らない。
(勇・・・あなたはもう本当に、手の届かないところへ行ってしまったの?)
憂鬱な感情に耽っていた美樹の目が、突如、大きく見開かれた。
「!?」
超高空の場の眼前に、大きな穴が広がっている。次元の穴であることは、ゼバット星人との何度もの交戦による
経験で直ぐ察せたが、その穴に、強力な力でトライビートが引き寄せられている。幾ら操縦桿を引いても
脱出できない。
至急ディフェンスポートに緊急連絡を入れるが、その直後には既に穴の中へと。
穴の中の別世界は、一面灰色・・・というより、色の全くないモノトーンの世界。空一杯に、マーブル色の渦が
うねっている。
ごん きいいいい〜〜〜〜〜 ごん かーーーーーんと一帯に響き渡るゲテモノBGM。
マーブルの空の中心には、巨人のような真っ黒のシルエットがそびえ、不気味な笑い声を・・・
続く。
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ウルトラマンアルファ 23 アルファ対ズィーベン・2
改造誘拐怪人・ケムーリオス、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現
「わはははは、特命防衛隊の隊員を捕らえることに成功したぞ!」
霧島美樹を異次元空間にさらった首謀者は、やはりゼバット星人だった。しかし、実行犯は別にいる。
前回のラストでモノクロの異次元世界の中に現れた改造誘拐怪人・ケムーリオスである。今回はシルエットでなく
全貌が見える。ただし、極彩色のゼバット星人の異次元世界の中でケムーリオスだけモノクロだ。
上背だけはある妙にひょろひょろした体、強盗か変質者と間違われそうな黒いストッキングを被って
覆面にしたような頭のてっぺんには、シャワーのような形の一本の長い触角。小さいがぎょろぎょろよく動く目が
頭部の四方に配置され、それ以外には鼻も口も耳もない、不気味極まる顔。2020年の未来世界から老化対策のために
過去の世界の人間の若い肉体を求めていらっしゃった、いにしえの由緒正しきあの侵略者の同族である。
しかし、2020年まで後15年もないんだが、後15年位したら人類はこんなのになっちゃうんだろうか?
それはともかく、数々の改造怪獣を我々の世界に放ってきたものの、ウルトラマンアルファやズィーベンや特防隊に
ことごとく打ち破られてきたゼバット星人は、正攻法では勝てないと判断した。今頃。
そこで今回は、無力な普通の人間を自分らの異次元空間にさらって人質とし、それを盾に地球側勢力に降伏を
迫るという陰険でせこい作戦に切り替えたのである。
「せこくて悪かったな!! 普通にやっても勝てないからしょうがないだろう!!」
ゼバット星人のリーダーはこっちに向かって逆切れした。
異次元への誘拐作戦にあたって、そのエキスパートであるケムール人の改造体・ケムーリオスを用心棒として
使ったのである。美樹以外にも既に、航空機で空を航行していた多くの一般人が捕まっている。
「よし、もっと人間共を集めるのだ、ケムーリオス!」
「ほおおっほおおっほおおっほおおっほおおっ!!」
ケムーリオスは妙な笑いを上げて了解し、更に戦意高揚のためにじんじんじんと踊りを踊った。サン@リーの
あのCMで森高@里と一緒に踊っていた踊りだった。よく判らない。
ゼバット星人は例によって巨大なホログラフを空に展開し、人類に対して脅迫を行った。異次元に漂う
トライビートのコクピットの中で気絶したままの美樹が映され、他の航空機も一緒に漂っている。
悔しがる特防隊。美樹や他の人質の安全も気がかりだが、そもそも異次元世界にどうやって乗り込んで
助けに行けばいいのか判らない。又美山由美子の技術的対策の考案待ちとなる。
斎木「こんなんばっかりかよ、俺達!」
柏村「・・・まあ落ち着け、斎木。焦っても始まらん」
由美子だけは、うまくすればゼバット星人の探知装置開発を促す機会になるかもしれないと楽しげだが。
脅迫が大々的だったため、アルファとズィーベン・・・から既に人間体になってる城達志と大谷勇、それに
西野一家も事態を知った。もう決闘なんかしてる場合じゃない。特に、表情にこそ殆ど出ていないものの、
かつての同僚・・・以上の存在だった美樹の危機を知った勇は、心中穏やかではいられない。勇と美樹の
関係を伝え聞いていた達志も、それを察する。
「ズィーベン隊長・・・あなたの大切な人というのは」
「・・・それはもう昔の話だ」
「だったら、何でそんな辛気臭い顔してるんですか」
「辛気臭いのは地だ!」
「ああもうイライラする!」
「知るか!」
勇もイライラしている。
「皆が皆お前みたいにはなれんのだ! 勝手なことばかり言いおって!」
「何ですか? 自分がふっきれなかっただけなのをまだ根に持ってますか?」
「何とでも言え!」
ウルトラマン同士の対話とは思えないレベルの低さ。
「・・・とにかく、そんな話は今はいいんです! 美樹さんや他の人質を助けなきゃ」
「お前が行け。地球全体を守り抜いて見せるといったろう」
「ズィーベン隊長!!」
「今更どの面下げて美樹の前に行ける!?」
アルファ=達志の言葉の暴力の連打で、勇はすっかりへタレてしまっている。
「そんなもん、自分の面子だけでしょうが! ここで行かなくてどうしますか!? 美樹さんは、隊長に来て
ほしいと思ってるはずです! 間違いありません!」
「絶対か!? 絶対間違いないのか!? 命賭けるかー!? 黒板に字で書く『命』違うぞー!!!!!」
ぢきん
達志は変身プロセスを思いっきり飛ばしていきなり等身大アルファになり、無言でアルファブレードに手をかける。
だが、二人の間に、恵が立ちはだかった。
『・・・恵ちゃん?』
「城先生」
恵はアルファを正面から睨む。
「お父さんに追い出されてから、私が何度も連れ戻しに行ったのに、先生、中々帰ってきませんでしたよね」
『・・・それは・・・』
「私がどんなに心配だったか判りますか? そんな心配かけた城先生が、この人に偉そうなことをとやかく
言えるんですか?」
『・・・・・・・・・』
アルファはしばしの沈黙の後、踵を返して歩み出す。
ディメンジョンステルスで次元の壁を割り、単身、異次元へと突入。
『ズィーベン隊長』
一言言い残す。
『絶対、来ると信じてますから』
アルファが異次元に突入してからゼバット星人の勢力圏に辿り着くまでなんやかんやあったのだが、
めんどいので一気に対決の場面にする。アルファを迎え撃ちに現れたケムーリオスとの対決だ。
巨大なケムーリオスに対してアルファも巨大化。
登場時は妙に動きがもたもたしていたケムーリオスだが、戦闘に入った途端異常に速い。
360度足場のない異次元を、ほおっほおっほおっと笑いながら素早く走り回って撹乱する。ウルトラ
縮地に勝るとも劣らない。そして、不意を突いて頭の触角のシャワーから溶解液を飛ばしてくる。
アルファも回避に専念せねばならず、中々攻撃に移れない。ウルトラ居合い抜きで隙を狙うが、
ことごとく斬撃を交わされる。
考えていたアルファは、突如、アルファブレードを関係ない方向に勢いよく投げ放った。そして、
ケムーリオスに突進して組み付く。
「ほおっほおっほおっほおっほおっほおっ!!」
剣では無駄と見て格闘に出たか、だが私の力を甘く見たな、と言っている。
肉体能力を大幅に改造強化したケムーリオスは、物凄い怪力で押し返してくる。アルファは
あえなくぎりぎりと押されるが、それでもケムーリオスの動きを必死で止め続ける。
「ほおっほおっほおっ(無駄なことを)」
ケムーリオスが勝ち誇って笑い、更に力を加えてアルファの腕を折ろうとしたとき。
ざしゅっ、と音がした。
ケムーリオスの背に、アルファブレードの刃が深く突き立っている。
絶叫するケムーリオス。
アルファはブレードを捨てたのではない。絶妙な回転を加えて投げ放ち、ブーメランのように
戻ってきてケムーリオスに刺さるように仕向け、戻ってくるまでの間ケムーリオスの動きを止めて
位置を固定し続けたのだ。
苦しむケムーリオスからアルファはブレードを抜いて取り返し、後ろに下がる。そして、
ギャラシウム光線を頭に叩き込んでとどめを刺す。
致命傷を受けたケムーリオスは頭のシャワーから液体を撒き散らし、ほおーほおーほおーと
断末魔の叫びを上げながら異次元の奈落へと落ちていった。
カラータイマーが鳴り始めているアルファに、
「そこまでだ!」
何時の間にか、複数の光線砲を用意して彼を包囲していたゼバット星人の軍団が制止の声を掛けた。
ケムーリオスとの戦いで消耗するのを待っていたのだ。しかも、リーダーのゼバット星人の側には、
美樹のトライビートや他の航空機群が人質に取られている。
「下手な真似をすると、こいつらを乗機ごとぶっ潰すぞ」
『くっ・・・!』
光線砲群がチャージを開始し・・・
別方向から出し抜けに飛んできた光線の火線に、一瞬で全て破壊された。
「な、何事だ!?」
『・・・ズィーベン隊長!!』
勇もズィーベンに変身し、アルファ同様ディメンジョンステルスで異次元に突入して追ってきた。
そして、ウルトラ松葉杖からビームを連射し、間一髪でアルファの危機を救ったのだ。
ズィーベンは瞬時にリーダーのゼバット星人の目前に迫り、松葉杖の銃口を突き付ける。
「い、いいのか!? 貴様が撃った途端、この女を捻り潰してやるぞ!」
リーダーは手に持ったトライビートを見せ付けて脅す。
『やってみろよ』
「・・・ひっ!?」
『同時にお前の脳天にも風穴だ。そんな度胸があるのなら、やってみろ。ほら』
「・・・・・・・・・・・」
ゼバット星人達は結局、人質を全部置いて死に物狂いで別次元へ逃げました。
二人のウルトラマンは異次元から空を割って脱出。近場の山中に航空機と人質を全て戻し、
最後にトライビートを降ろして美樹を外に出し、無事を確認。既にアルファとズィーベンは人間体に
戻っている。
「・・・勇・・・」
気がついた美樹と勇の間に、重い空気が流れる。勇は、黙って踵を返して去ろうとするが、
ばぎっ どがっ ずがあああッ
レオ38話でゲンがダン隊長をボコったのと同じ勢いで達志が勇を殴り倒し、悶絶させてから、
驚いている美樹の前に引き摺ってくる。
「彼女と喋ってください、隊長」
「貴様・・・ッ」
「何でもいいから喋れや!!」
有無を言わさず二人きりにし、達志は憤然と離れていき、遠くから見張っている。
勇は渋々口を開き、二人は、その後のお互いの経緯とかをぽつぽつと話し始めた。
アルファとズィーベンの決着は付き、ズィーベンは、今回は引き下がって一旦宇宙警備隊に
帰ることにした。だが、引き下がるのは自分だけで、お前が地球に留まるのを快く思わない
者達は今後もまた地球に来るだろう、敵は怪獣や侵略者だけではない、お前の行く道は
地獄だぞと念を押した。
「承知の上です」
「そうか・・・ならもう何も言うまい」
勇=ズィーベンは、最後に去り際に、
「恵、といったか」
「?」
「あれはよく出来た女だ。大事にしろ」
達志と美樹に見送られ、ウルトラマンズィーベンは宇宙に飛び去っていく。
又折りを見て個人的にこっそり来ると、美樹と約束して。
笑って見送る美樹の表情に、もう以前ほどの暗い陰はない。
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ウルトラマンアルファ 24 ソニックビート計画・1
宙戦巨兵・ヴァルマー星人 出現
特命防衛隊の空の戦力である戦闘機・トライビート。だが、次々襲来するたびに強くなる怪獣や侵略者に
対し、従来の性能では厳しくなってきたため、より強化された新型戦闘機の開発が進められていた。
そして遂に、空中での機動性と航続能力を大幅に高め、更に大気圏と宇宙の行き来も可能となった新型機
『ソニックビート』の試作型が開発された。
試験飛行の予定が組まれるが、性能の向上に従い、パイロットのより優秀な操縦技術が求められるように
なっているのがネックとなっていた。これまでのトライビートは機動性で劣る分、飛行時の安定性が
重視され、技量の低いパイロットにも優しいつくりになっていたのである。
このときのために地道に訓練を重ねてきた斎木俊一が待ってましたとばかりにテストパイロットに
名乗り出たが、そこへ、海外支部で活動していたもう一人の空戦のエキスパート・沖田茂樹(おきた・しげき)が
対抗馬として帰国した。見るからにプライドが高くて気の荒そうな男。
実際にテストに使われる機体と別に、念のためにもう一機予備の機体が用意してあるからまあそう気負わずにと、
開発に携わった美山由美子は一応言ったが、斎木と沖田は既に無駄にぎりぎりと対抗意識を燃やしていた。
現在ディフェンスポートに滞在している沖田は、斎木に対して敵意剥き出しなのはまあ仕方ないとして、
どうしたことか、由美子、そして、アンドロイド・ミリーにも妙によそよそしい。基地内で出会っても、
目を合わせずにむっつりとして通り過ぎる。ミリーは、何時も通りの無表情を保っている。
いぶかしむ斎木。
「・・・何だ、あいつ?」
「ああ、あれはね」
こっちも特に気にしていないっぽい由美子が答える。一応その前に斎木は場所を移した。
沖田にはかつて、ミリーという名のハーフの女性で、特防隊の同僚であるオペレーターの恋人がいた。
だが、インベーダーとの過去の交戦の際、その戦闘の巻き添えで、ミリーは敵宇宙人の一兵士に殺された。
斎木「・・・・・・」
沖田は悲嘆にくれた。
これはよろしくないと思った由美子と当時の技術スタッフは、沖田の傷心をケアするため、密かにある
計画を立ち上げた。
斎木「・・・まさか・・・」
沖田は愕然とした。
死んだと思っていたミリーが、そのままの姿である日突然目の前に現れ、微笑んだのだから。
斎木同様、聡い方はもう気づかれただろう。勿論本物のミリーが生き返ったわけではない。
現れたのは、沖田の心を癒そうと、由美子達がミリーそっくりに造った、精巧なアンドロイドだった。
これを彼女の代わりと思って恋人にしなさいと、由美子は心からの笑顔で言った。
沖田は激怒した。
斎木「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それで、沖田はミリーと外見だけそっくりなアンドロイドと顔を合わせるのが嫌になり、そのために暫く
海外に転属していたらしい。
由美子「わっけわかんないわよねー。以前のミリーの人格も機能もほぼ完全に再現してるのに」
なお、どれほど以前のミリーと同じに振舞っても沖田を癒せなかったアンドロイド・ミリーは、やがて、
自主的に表情を変えるプログラムを閉鎖した。ただし、オペレーターとしても極めて有能なので、特防隊の
メンバー・・・というか、備品としては、勿体無いのでそのまま配備され続けている。事情を知っている殆どの
基地関係者は、ミリーに対しては腫れ物を触るように誰も深く関わろうとしない。ミリーも特に文句も言わない。
斎木「・・・いや、そりゃ普通怒るだろ。代用品だけ用意すりゃいいってもんじゃあるまい」
由美子「何で? 元の人間と同じ機能を持ってるんだったら問題ないじゃん。人間には心があって機械にはないとか
わっけわかんないこと言う奴もいるけど、生物だって結局は外部からの刺激に反射的に反応してて、それが結果的に
感情表現と認識されてるだけじゃん。肉でもメカでも変わらないじゃん。何が違うの?」
斎木「・・・いや・・・そんな風に考えられるのはお前だけだから」
同じ頃、丁度非番で、私服で基地の外の街にいた霧島美樹は、喫茶店に城達志を呼んで個人的に会っていた。
達志は何故呼び出されるのかいぶかしんだが、来なかったらあなたがウルトラマンであることを防衛軍にばらすとか
脅されたので青くなって西野宅から飛んできた。途中で町内のゴミ置き場で盛大にこけ、頭にポリバケツを被ったまま
うわーっ今度は暗闇の世界かーーーーーッと訳の判らないことを叫びながら視界を失った状態で奇跡的に
喫茶店に辿りつき、ポリバケツを被ってのご来店はご遠慮頂いておりますとウエイトレスに極めて冷静に対応された。
ウルトラマンズィーベンであった大谷勇とかつて辛い別れをした経験のある美樹は、本気で達志の正体を
ばらそうとは思っていない。冗談だと断って笑い、達志は激しく脱力した。
そこまでして達志を呼び出したのは、相談があったからである。美樹も沖田とミリーの経緯については知っており、
基地内の嫌な空気をどうにかできないものかと思っていたのである。話を聞いた達志も確かにどうかと思ったが、
「何故、その話を僕に?」
「あなたなら、何か思いつくんじゃないかと思ったから」
非常に力押しであったものの、自分と勇のよりを戻してくれた達志の度量を、美樹は高く評価していた。
達志は真剣に考えるが、
「難しいですね」
そりゃそうだろう。本物のミリーはもうこの世にいない。アンドロイド・ミリーがどれだけ元のミリーを忠実に
再現したところで、それは本物ではない。しかし、何か代案でもないかと美樹は食い下がる。
「美樹さんは、どうしてこの件にそこまで入れ込むんですか?」
「美山隊員が元のミリーの人格まで完全に再現したという言を仮に信じて、その『人格』を『心』とするなら・・・
ミリーが感情表現のプログラムを閉ざしてしまったのは、勇と会えなかった間の私が塞ぎ込んでしまってたのと
同じなんじゃないかって、何となく思えるから」
「・・・美樹さん」
「ミリーが元のミリーそっくりに造られたのは、彼女のせいじゃない」
「そうですね。製造者の美山さんのせいですね」
「そうね」
その点においては両者強く同意した。
何か思いついたら連絡すると答え、達志は美樹と一旦別れた。
後日、いよいよソニックビートのテスト飛行が行われる。斎木と沖田がそれぞれ順に機に乗り込んで予定ルートを
飛びつつ様々な試験機動を行い、その結果で問題点等を検討して更なる改良に生かす。別に斎木と沖田のどっちの
操縦が優れているとかを競うわけではない。にもかかわらず、沖田は殺気満々だ。
当初と打って変わって沖田に対しての敵愾心がおさまってしまっている斎木に対し、沖田は、美山から何か
聞いたようだが、変に同情して手を抜いたりしたらぶっ殺すぞと目を血走らせて恫喝した。
最初のテスト飛行のパイロットとなった沖田の発進準備のカウントを、オペレーター席でミリーは只淡々と
読み上げる。沖田は鉄面皮を守り続ける。周りの者ばかりがいたたまれない。嬉々としてデータ収集の用意をしている
由美子を除いて。
ソニックビートはディフェンスポートから発進した。
大気圏の上限すれすれを飛ぶソニックビートのコンディションは、現在順調。沖田は予定に従って飛行を続ける。
飛ぶソニックビートの映像を隊員達と共に黙って見ていた川上隊長の耳に、非常事態の警報が響いた。
「何事だ?」
巨大宇宙人が一体、宇宙を直接飛行して地球圏に侵入してきたと、レーダーを観測していた別のオペレーター(人間)が
報告する。過去に地球を侵略してきた宇宙人とデータが一致することから、恐らく今回も侵略目的であろうと推測される。
別モニターに出された巨大宇宙人の映像を見た川上の目が、僅かに見開かれた。他の数名の隊員も。
川上は考えた後、斎木は沖田の後のテスト飛行が待っているため待機、一般兵による量産トライビート一個中隊を
率いて迎撃に向かうよう、美樹に命令した。巨大宇宙人について予備知識のあった美樹は、即座に了解する。
『川上隊長・・・何かあったんですか?』
異変を感じた沖田から通信が来る。
「領空侵犯してきた宇宙人がいるのだが、霧島に迎撃命令を下した。お前は予定通りテスト飛行を続行しろ。
何かあったら連絡する」
『はあ・・・了解』
「こんなときに又攻めてくるなんて・・・あの敵が!」
美樹は編隊を率い、自分専用のトライビートで飛ぶ。やがて、既に大気圏に侵入した敵が、空の彼方から飛んできた。
普通に人の形に近く、隆々とした体格の巨人。前回ケムーリオスに捕まったこともあって、美樹にとって巨大宇宙人は
なんか気分的に嫌だ(ズィーベンやアルファは別)。
交戦に入る。敵は巨体の割りに素早く飛んでトライビート隊の銃撃を交わし、手からのビームで反撃して
中隊の2機を墜とす。美樹は舌を打ち、自機を前に出して先行して攻めるが、彼女の機体操作をも巨人は上回り、
トライビートの後ろに回りこんでしまう。
「しまった・・・!」
美樹の機を射程に入れた巨人が、ビームを撃ち込んだとき。
地上から突如飛来した別の巨人が、そのビームを手で払いのけ、美樹を守った。
「・・・ウルトラマンアルファ!」
振り向いた美樹は、うっかり『城君』と言い掛けて慌てて言い直した。
アルファと巨大宇宙人は向き合って滞空し、互いに隙を狙う。一騎打ちが始まると思われたそのとき。
「あああああああああああ!!!!!」
雄叫びを上げながら、一機の戦闘機がその場に突っ込んできた。
美樹「ソニックビート!?」
無論、さっきまで別の空域で試験飛行してたやつ。乗っているのは、沖田。
川上との通信の後、何か嫌な予感がし、はやる心を抑えきれず、試験飛行のルートを逸れて飛んできた。
その予感は的中していた。
これについても、もう察した方もおられよう。
襲来した宇宙人・ヴァルマー星人は、沖田の恋人・本物のミリーを殺した宇宙人の同族だ。
敵の姿を見て復讐心に全身を支配された沖田は、美樹の制止も聞かず、獣のように吼えながら突撃する・・・!
続く。
_______________________________________________________________
特命防衛隊は、新型戦闘機・ソニックビートの試作機の飛行実験を行っていた。だがそこに、
過去にも地球侵略を企てた宇宙人・ヴァルマー星人の巨大化強化体が襲来。川上隊長は霧島美樹隊員
指揮下の一個中隊を送って星人の迎撃を図るが、別空域でソニックビートの試験飛行を行っていた沖田茂樹
隊員が事態を知り、いきなり飛来して強引に戦闘に介入。ヴァルマー星人は沖田にとって、かつて彼の恋人・
ミリーを殺害した仇だったのだ!
ウルトラマンアルファ 25 ソニックビート計画・2
宙戦巨兵・ヴァルマー星人 出現
「おおおおおおおおお!!!!!」
ソニックビートの性能は、確かにトライビートよりも格段にアップしていた。沖田の操縦技術と
相俟って、先程までの苦戦が嘘のように、素早い機動で星人のビームをことごとく回避し、カウンターで
銃弾を叩き込む。弾丸の威力も上がっており、全身で起こる大爆発に星人は圧倒される。
だが、
「いかん、やめろ沖田! その機体には・・・!」
かすん かすん
「・・・!?」
突如、操縦桿のトリガーを幾ら引いても弾が出なくなった。焦る沖田。
今回のソニックビートは最初から試験飛行しか想定していなかったため、十分に弾が積まれていなかったのだ。
それ以外の装備もまだ搭載されていない。
もたもたしているうちに、星人が接近して直接ソニックビートを殴った。
幸いかする程度だったのと、ソニックビート自体が装甲も大幅に強化されていたため破損はしなかったが、
衝撃だけで大きく姿勢を崩す。
美樹「沖田隊員、一旦戦線を離脱して!!」
沖田「くそおッ・・・!!」
やむなく、ソニックビートはふらふら飛びながら地上へと降下していく。
ソニックビートの戦闘中に陣を立て直したトライビート隊とウルトラマンアルファの共同戦線に対し、星人は
不利と見たか、これも一旦撤退した。
現場にいた一同が帰還した後、美山由美子は貴重なデータが大量に取れた、実戦に勝るデータはないといって
大層喜んだ。だがそれはそれとして、命令無視して勝手に戦闘に参加し、あまつさえ危うく死地に陥ったかどで
沖田は川上に厳しく叱責され、当面の作戦行動参加を禁じられ、割と素直に承服した。無論激しく落ち込んでいるが。
ヴァルマー星人の再来襲に対して厳戒態勢をとるということで、ソニックビートの起動実験も一旦中断となり、
斎木はお預けを食らうことになったが、状況が状況なので特に不満もなかった。
「結果的にデータ収集には役立ったんだから別にいいのにねー」
とか言っている由美子を、川上は自室に呼んだ。
「何でしょう、隊長」
「美山隊員。かつて、君がアンドロイド・ミリーを開発した件なんだが」
「はあ」
「君は、落ち込んでいた沖田隊員を慰めようという意図で彼のためにやったのであって、他意はないんだな」
「当然」
「でも、沖田は怒ったわけだな」
「そう。何ででしょうね? 私も判りません」
「判らないのは君の勝手だ。だが、沖田が怒ったのも彼の勝手であって、君自身の考えは関係ない」
「・・・・・・」
「違うか? 沖田のためにやったというのなら、彼がどう思うかが最優先ではないのか?」
「・・・え? あれ?」
由美子は真剣に悩む。挙動は滑稽だが。
「君が何を考え、どういう理念に基づいて行動するかは君の自由で、私の考え通りにしろと強要する権利もない。
だが、他の多くの隊員が同時に勤めている場では、おのずと個々に求められる行動規範というものがある」
「・・・それは、まあ」
「その辺を無視して、君が自分だけに忠実に生きたいというのであれば、他の適当な場所へ行ってそこで
やってくれというほかはない」
「え・・・え・・・解雇通告ですか!?」
それは困る、研究資金の元手が、と由美子は焦る。
「今私がやめたら・・・地球防衛のために進行中のプロジェクトも色々止まっちゃいますよ?」
「やむをえまい。何とかして他の技術者を見つけるしかないだろう。隊の中で人間関係に亀裂が生じ、
まともに組織が機能しなくなるほうが問題だ」
由美子は延々と考えた後・・・
「すんませんでした」
頭を下げた。
「しかし、ミリーはどうしましょう? もう造っちゃったわけだし、今や基地のシステムの色んな重要部分を
任せてますから急に廃棄というわけにも・・・」
「うむ。只廃棄すればいいという問題でもないだろうしな・・・」
謹慎処分を食らった沖田は、特防隊所有の宿舎の近辺の街の裏通りを、やる事もなく仏頂面でぶらついていた。
風貌もあって殆どチンピラだ。擦れ違う人々もびびって避けている。
そんな彼をこっそり尾行する者がいた。美樹。
川上から要請され、沖田のコンディションはどうか、反省の色は見えるか等を見届けていたのである。
彼女もミリーの一件で思うところがあったので役目を引き受けていた。そして、又彼女が個人的に呼び出し、
城達志も何となく尾行に付き合っていた。
達志「しかし、こうやってつけてるだけでどうにかなるんですか?」
美樹「だから、今どうすればいいか考えてるんじゃない・・・」
答えてから沖田の方に向き直った美樹が、言葉を失う。何事かと同じほうを見た達志も。
尾行に気づいていない当の沖田も。
沖田の前に何時の間にか、ミリーが立っている。
達志「あれが、ミリーですか・・・何でこんなところに来たんでしょう?」
美樹「いえ・・・おかしいわ」
感情表現のプログラムを閉鎖したはずのミリーが、沖田に向かって微笑んでいる。
当の沖田は、
「こんなところまで来て・・・何のつもりだ手前!? こんな俺を笑いに来たのか!?」
ミリーは、くすくすと笑いながら入り組んだ路地へ逃げていく。
「待ちやがれ!」
沖田も追っていく。美樹と達志も適度に距離を開けて追う。
達志「ミリーは笑わなかったんじゃ・・・?」
美樹「ええ。あれはアンドロイド・ミリーじゃないわ。勿論既にいないはずの本物のミリーでもない。
となると・・・」
沖田を追っていた二人を、急に現れた別の人影が遮った。
驚く二人。
更にもう一人現れた、ミリーだった。やはり笑っている。
達志「美樹さん・・・」
美樹「ええ」
美樹は懐からレーザー銃を抜き、ミリーを撃つ。
ミリーは異常な速度で回避し、同時にその姿が変貌。
「やっぱり・・・!」
人間の姿に変身して地球に潜入した、等身大のヴァルマー星人だった。
達志「ミリーに化けて沖田さんを騙すつもりだったのか!」
美樹「例え沖田隊員が正体に気づいたとしても、今の彼は逆に敵のやり口に激昂して冷静さを失うわ!
卑劣な・・・!」
沖田を助けに行こうとするが、正体を見せた星人は素早い動きで美樹と達志の前進を同時に阻む・・・
果たして、沖田は別の地点で美樹の予想通りになっていた。
「貴様ーッ!!」
血が昇って動きが大振りになり、幾らレーザー銃を撃っても(護身のために一応携帯していた)、
既に正体を見せた星人の素早い回避で交わされる。逆に隙を突いて接近され、蹴り飛ばされて路地裏の壁に激突。
ずるずると崩れ落ち、歩み寄ってくる星人を尚も睨むが、激突のダメージで体が思うように動かない。
「ぐ・・・!!」
貫手を叩き込んでとどめを刺そうとした星人に。
殆ど上空から跳んで来た影が、キックを入れて吹っ飛ばした。
沖田「え・・・!?」
金属の音で路上に降り立ったのは、又も、ミリー。
今度は本物だ。
といっても、今存在しているアンドロイドという意味での本物だが。
ディフェンスポートでは、突如ミリーがいなくなって騒ぎになっていた。
川上「何処へ行ったんだ!?」
オペレーターA「ああ、彼女がいないと記録されたデータの整理が・・・」
オペレーターB「うわーモニターの画面が真っ白だよー! ミリー、何処ー!?」
よろめくヴァルマー星人をミリーは見据え、
「攻撃プログラム『01』を起動します」
ロード音。
やがて路地の周囲から、ミリーの戦闘用オプションがわらわらと出現。
一見、ラジコンのおもちゃの戦闘機や戦車。だが、その中に仕込まれているのは、実弾。
ミリーの操作で星人を包囲し、一斉掃射。なんか爆発が半端ではなく、翻弄されて力をそがれていく星人。
弱ったところで、ミリーが接近して星人の手を掴んで、高圧電流をぶち込む。
熱電撃で星人は炎上し、のた打ち回った後、炭化して果てた。
炎をバックにミリーはういーんと振り返り、沖田の無事を確認した。表情は変えず。
沖田「・・・お前・・・」
一方、達志・美樹組対もう一人のヴァルマー星人。
美樹を庇って達志はアルファに変身し、巨大化する星人に対して自分も巨大化。てきとーに立ち回った後、
ギャラシウム光線。星人はあっさり爆発した。
『え・・・ちょっと、僕の出番これだけ?』
たまには。
ミリーが自主的に沖田の危機を察して助けに向かった件に関しては、後で由美子がなんかすごくてきとーな
説明を入れたが、話の流れとしてはどうでもいいので省く。要するに、人間にしろ機械のプログラムにしろ、
『心』というものはとかく不可解、という感じ。今後はいきなりミリーがいなくなったりする非常時を想定し、
データのバックアップに力が入れられることとなった。
ヴァルマー星人騒ぎが終わった後、改めてソニックビートの試験飛行は再開され、斎木の試験操縦の結果も
含めて問題点が見直され、若干の改良の後、正式採用となった。今後は実戦に投入される。
用事の済んだ沖田は、再び日本を離れて海外での任務に戻ることとなった。空港へ送りに来た特防一同は、
意図的に沖田とミリーを二人きりにする。沖田は苦虫を噛み潰した顔をするが、前ほど怒ってはいない。
ミリーを見ると、なんか異様な表情を色々作っている。沖田を笑顔で送り出そうとしているらしいが、
長いこと表情プログラムを閉鎖していたのでうまくいかない。
「無理に笑わんでもいい」
沖田は言う。
「今後は、お前が自分の判断で笑ったほうがいい、笑いたいと思ったときに笑ってくれ。そして、最高の
笑顔が出来るようになって、機会があったら又俺にも見せてくれ」
じゃあな、と背を向けたまま手を振って沖田は去っていく。
ミリーは、空港を離脱する旅客機が見えなくなるまで見送った。無表情で。
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ウルトラマンアルファ 26 強すぎる意志
獣化超人・ナツミ 出現
西野恵の級友・江口夏美は、物陰から偶然その場面を見た。
夏美の恵への歪んだ想いを阻む者、城達志。いつの間にか西野家に帰還し、又家族同然に暮らしていると
いうだけでも煩わしいのに、その達志が、別の女と逢っている。しかも人目を避けるように。
別の女とは、特命防衛隊の霧島美樹である。ケムーリオスによって異次元にさらわれ、ウルトラマンアルファと
ウルトラマンズィーベンに救われるという数奇な体験をして以来、美樹は何かと理由をつけてちょくちょく
達志を呼び出して逢っていた。又宇宙に去ってしまったズィーベン=大谷勇について、美樹が知らない
彼の側面を達志から色々聞かせてもらうことで、寂しさを紛らわせていたのである。達志も美樹の心情が
判らないでもないので、西野家での生活に差しさわりのない範囲で応じていた。特防隊に達志のことが
知れるとまずいため目立たないようにし、結果両者とも人目を避けるような素振りになっていた。
だが、夏美はそんな事情は知らない。美樹が特防隊の隊員であることも、想いを寄せる相手が勇であることも
知らない。達志が、恵より年上で憂いを秘めた美女である美樹に心変わりしたのではないかと判断しても
無理からぬことであろう。
夏美が6話で達志の正体を知ったとき、恵は夏美に、このことは周りには黙っておいてくれと懸命に頼んだ。
夏美は恵を密かに愛しており、恵からそっぽを向かれないためにも、彼女の大親友というポジションを維持
せねばならない。だから、当たり前じゃない、誰にも言わないから安心しなと大見得を切り、恵に縋りつかれて
感謝され、その夜は自室で一人大いに盛り上がった。
そうまでして人が隠してやってるのに何じゃおのれはと、夏美は達志を八つ裂きにしたくなった。
しかし、そこは思いとどまり、別の方法を取ることにした。即ち、達志が恵に内緒で別の女に逢っていることを
こっそり恵にばらせば、
(放っておいてもあのクソウルトラマンは恵から見放されるという寸法じゃケケケケケーーーーーッ!!!!!)
夏美は全身真っ黒なシルエットで異常に釣り上がった眼と口だけ真っ赤に光らせて人知れず心の中で哄笑した。
顔はゼラン星人の魚眼レンズ演出。もう怪獣や凶悪宇宙人と変わらない。
恵と二人きりになる機会を作った夏美は、こんなこと言っていいのかなー、恵を傷つけないかなーと思い悩む
ような素振りに努めながら、自分の目撃情報を告げた。
恵は驚き、どういう状況だったかを何度も確かめる。夏美はしてやったりと真っ黒な腹の中でほくそ笑み、
見た事実を告げていく。ここまでくれば変な工作をして危ない橋を渡らずとも、事態は自分に都合よく動いて
行くだろうと夏美は踏んだ。
恵はじっくり考えた後、判った、わざわざ教えてくれて有難うねと夏美に感謝した。
(計画は完了した)
(いよいよ貴様も最期だ、ウルトラマンアルファ)
(精々残り少ない平和を謳歌するがいい)
(ケーーーーーッケケケ!!)
心の中の世界の回転する作戦室で、擬人化されたオウムみたいなでかい頭の夏美、白い毛むくじゃらで頭は
真っ黒で牙が生えた夏美、肩と首の区別が付かず頭が銀色で口が肛門みたいな夏美、青い体色の昆虫みたいな
姿で長い手の先がハサミの夏美、四人の夏美が向き合ってぐるぐる回りながら笑った。
恵も達志と二人きりになる機会を作り、問い詰める。夏美は又物陰から密かに様子を伺う。最早ストーカー。
達志はあからさまにうろたえたが、恵に更に詰め寄られ、やがて、とつとつと説明を始めた。
恵は一通り聞いた後。
夏美のほうにまで聞こえてくる音で、拳骨で達志の脳天を殴った。
夏美は腹の底で笑いが止まらない・・・
「何でちゃんと先に説明しないんですか、城先生!?」
達志は巨大なたんこぶの出来た頭をさすり、
「いや、だって・・・何といっても特防隊がらみだし、恵ちゃんを巻き込むわけには行かないと思ったから・・・」
? 特防隊?
想定外の単語が出てきた。首をかしげる夏美。
「そういう遠慮はなし! 先生はもう私達の家族と同じだって言ってるのに、まだそんな他人行儀言ってたら
本当に怒りますよ!」
「そうだったね・・・済まなかった。今後はちゃんと話すよ」
達志が素直に謝ると、恵はばつが悪そうにもじもじ指を突き合わせ、
「・・・ずっと先生がいなかったときだって、心配したんですから」
うわ、何そのリアクション!? 私の前でも見せたことないのに!? 何でそんな流れに!?
夏美は動揺するが、当たり前である。達志には別に疚しいところはなく、事情を普通に説明しただけなのだから。
真相を知ってすっきりした恵は後日、先に話を知らせてくれた夏美に改めて礼を言い、自分の聞いた真相を
夏美にも聞かせた。夏美は強張った笑いではあ、はあと頷くしかなかった。
夏美の自宅、閉め切られた暗い彼女の自室。
「おのれ城達志ーーーーー!! 何という卑劣な真似をーーーーー!!」
別に達志は卑劣な真似はしていない。卑劣なのは夏美だが、今の彼女にはそんな理屈は通らない。
「こんなめでたしめでたしなぬるい結末なんか視聴者は喜ばんのじゃ!! 互いのエゴが醜く交差して血塗られた
ジェットコースタードラマになるのが今風でウケるんだからそれに合わせろや!!」
勝手なことばかり喚いた後、恵の顔とかカラダとかを想起して身悶えしながら部屋をごろごろ転がりまくる。
そして。
真っ赤な逆光の中に黒く浮かぶ夏美のシルエットが、ぼきぼきと音を立てて変貌し、何かどう見ても人間ではない、
言い知れない不吉さを秘めたものになっていく。
「あの城達志も邪魔!! それ以外のものも邪魔!! 私と恵以外のものはこの世界から消えてなくなれ!!」
江口宅を押し潰し、中から、眼が爛々と光って牙を剥いた、硬い毛で全身を覆われた巨大な獣人が立ち上がった。
家には恐らく家族もいたはずだが、その安否など夏美にとってはどうでもいい。
江口夏美は恐ろしい奴だ。残忍な奴だ。恵への想いを遂げるためには手段を選ばない。何だってやるのだ。
それがまさに江口夏美なのだ。
『こんな世の中があっていいものだろうか!? この末世の世にわしは汝らに警告する!!』
訳の判らんことを脳に響く声で喚く。
『昔エルサレムではイエス・キリストが生まれ、インドでは釈迦が生まれた! そして日本には親鸞聖人あり!』
えらく話が大きくなる。
『末世は、まさに近づいておるずぉぉぉぉ〜〜〜〜〜お前は神を信じなさい! ほれ信じなさい! ほれ信じなさい!』
踊りながら街を踏み砕いていく。
ディフェンスポートでは、通報を受けた特防隊が右往左往している。
「おかしいんですよ!」
オペレーターの一人がパニック気味に報告。
「怪獣出現の前には基地の観測機器に微弱なりとも何らかの反応が見られるものなんですが、今回は異常な震動波も電波も
検知できず、マイナスエネルギーカウンターにも何も引っかからなかったんです!」
渋面を作る川上隊長。
「従来の観測システムに引っかからない怪獣・・・!?」
そんな次元の話ではない。今回の件には怪獣も宇宙人も関係ない。夏美が恵への歪んだ愛というか欲望と達志への
憎悪を暴走させたらなんかこうなった。それだけだ。
『海は真っ黄色で山は真っ茶色で花はとっくに死んでいるとかそんな感じ!?』
獣化超人・ナツミは喚きながら、西野家のある住宅地へ近づいてくる。
「城先生・・・」
「行って来るよ、恵ちゃん。お父さんとお母さんと一緒にちゃんと避難してて」
迎え撃つために出て行く達志を見送る恵。一誠と和子も頷く。
駆け出しながらアルファプラスをかざす達志。
「アルファーーーーーッ!!」
ウルトラマンアルファは普段自分や西野一家の暮らしている街を守り、獣化超人と戦う。
目の前で意味不明なことを叫んでいる化け物が、恵の友人の夏美であったことなど知る由もない。彼女の恵への感情を
達志は知らないのだから。その上、怪獣になって理不尽に街を壊し、人々を脅かすというアプローチの仕方をしてきたので
余計判らない。
獣化超人は手強い。というか、相手しているだけで正気度が減ってくる感じで凄く嫌だ。突然四つんばいになって
唸りながら素早く迫ってくると思ったら、無意味に犬のようにその場に穴を掘ったり、激しいステップで踊ったりする。
達志の思いは一つ。さっさと済ませて西野家に帰りたい。
手傷も負うが、冷静さの維持に努めて漸く動きを読んで隙を見つけ出し、ギャラシウム光線を叩き込む。
炎上し、灰になっていく獣化超人は、最後に叫ぶ。
『勝った者は、常に負けた者の怨念を背負って生きていくのだ!! それが勝ち続ける者のさだめだ!!』
『いや、ここでその台詞を引用されても・・・』
夏美の恵への想いが間違っていたのか、許されないものであったのかは誰にも判らない。判るはずがないんだよ!!
只、怪獣になって暴れ回り、関係ない人達を殺して回るのは迷惑なので倒された。
突然行方をくらましてしまった夏美を案じて何も知らない恵は悲しみ、何も知らない達志は慰めた。
この件はそれで終わった。この世では。
あの世に逝った夏美は、恵の名を叫んで天使の綺麗なお姉さん達を見境なく追い回す。そのかどで地獄に落ちたら、
今度は極卒の虎縞ビキニのお姉さん達を追い回す。止めに来た地獄のむくつけき鬼や閻魔様もものともせず、
獣化超人と化して引っかき、噛み付く。情欲のためなら鬼となる。
どうしたもんだろうか。
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ウルトラマンアルファ 27 ジャネット来訪
女ウルトラマン・ジャネット、カプセル怪獣・グローピス、
暗黒宇宙大魔王・テンペスト星人 出現
それは、突然来た。
テレパシーで呼び出しを受けた城達志は、ウルトラマンアルファに変身し、大気圏外へ。
そこには、もう一人のウルトラマンが待っていた。
正統シルバー族と、セブンタイプが混ざり合ったような顔。体格は細身のアルファから
見ても一回り小さく華奢にさえ見える。女ウルトラマン。
『君は一体何者だ? 何のために地球に・・・』
女ウルトラマンは、返答の代わりに、いきなり高速で接近して格闘を挑んできた。
『ちょっ・・・!?』
何故戦いを挑まれるのか判らず、虚を突かれたこともあってアルファは防戦一方。
華奢そうな身体の何処にそんなパワーがあるのか、打撃を止めるアルファの身に強烈な
振動が響く。アルファは一旦離れて構え、
『何故ウルトラマン同士の僕達が争わなければならない!?』
『今更何を』
女ウルトラマンからテレパシー。
『貴方は既に一度、ウルトラマンを相手に戦っているではないですか』
アルファは誰のことかと考え、ウルトラマンズィーベンを思い出す。
『ズィーベン隊長・・・君は、隊長と縁の者か!?』
ズィーベンは、自分が地球を去っても、アルファが地球に留まり続けることを快く思わない
他の者が又アルファを狙うだろうと言っていた。この女ウルトラマンがそうなのか?
『待って・・・!』
言いくるめようとする前に、別の方向から不意討ち。
相手はもう一体いた。青みがかったメタリックボディの、ロボット怪獣。
バーニアを全開にして死角から迫り、長いクローの付いた片手を伸ばしてアルファを後ろから
押さえつける。腕に仕込まれたパイルが稼動し、衝撃が何度も叩き込まれ、更に電撃が流されて
感電するアルファ。
カラータイマーが鳴り、意識が朦朧としたところに、女ウルトラマンのハイジャンプからの
必殺の跳び蹴り。
アルファの意識が飛び、世界が暗転した。
アルファ=達志の意識は、西野家で回復した。目を覚ますと、恵や一誠、和子が心配して
見下ろしていた。
寝かされていた布団から身を起こすが、おかしい。散々攻撃を受けたのに、殆ど身体に
ダメージが残っていない。
恵「この人が治してくれたんです、城先生」
恵の指した先には、まだ少女といっても差し支えない若く小柄な女性が座っていた。暗色系の
ぴったりした衣装を着た、表情の乏しい少女。
彼女が自分を攻撃した相手の変身した姿であることを達志は直ぐ察し、警戒するが、遅れて、
恵の言ったことを認識。
「治してくれた・・・?」
「はい」
ウルトラマンの光の力を達志の身体の治癒に当てたのだ。
少女は、ジャネットと名乗った。デリート隊長直属の部下で、デリートとズィーベン双方の意図で
遣わされたと言う。
「何のために?」
「ウルトラマンアルファ。貴方はズィーベン隊長の帰還命令を跳ね除けたとき、この西野家の方々と
地球全体の双方を守り抜き、ウルトラマンとしての本分を果たすと仰った。それを見届けるためです」
「何・・・!?」
達志は内心焦る。本当は・・・割と勢いで言った。
ジャネットはデリートとズィーベンの命を受け、アルファが自分の言ったことを何処まで実践できるか
監査し、その結果を宇宙警備隊本陣へ報告するためにやってきた。
「誰か正式に認められた代表者が出て監査を行わないと、個人的な感情に走った者が勝手に貴方に攻撃を
掛けかねません。割と沢山いるんですが、そっちのほうがいいですか?」
「・・・・・・」
確かに困るといえば困る。
「デリート隊長の今回の措置は寧ろ寛大です。感謝していただきたい」
「はあ・・・それはどうも有難うございます」
棒読み。
「即座に結論は出しません。暫く様子を見て、総合的な採点を行った上で私の判断を上層部に報告
します。それまでは貴方の地球防衛のための活動を逐一監視させていただきます。異存はありますか?」
和子「あの・・・城先生を監視するために、貴方もこの家に留まるということですか?」
ジャネット「ご心配なく。私はウルトラマンです。地球滞在中の身の振り方は自分で何とでもします。
そちらに負担は掛けません。何処にいても私はウルトラマンアルファの行動を監視し続けます。
そう、何時も見ています。見ていますから。おはようからおやすみまでライオンのように」
ジャネットは魚眼レンズ効果の歪んだUPの顔でにたーーーーーと笑い、眼が青白く光った。
筆者は『第四惑星の悪夢』とか『悪魔と天使の間に』とか大好きだ。
断っておくが、イレイズの時のように侵略者が化けているとか言うのではない。本当に
宇宙警備隊からの使者だ。残念ながら。
達志は仏頂面をしていたが、
「では、さっき僕に攻撃を食わせ、更にカプセル怪獣を使って不意討ちまで掛けたのも、僕が地球に
留まる資格のテストの一環か?」
アルファに不意討ちを掛けたロボット怪獣は、ジャネットの使役するカプセル怪獣・グローピスであった。
カプセル怪獣といえばおおよそ時間稼ぎのための雑魚という印象があるが、筆者の一連のシリーズに
おいてはそれは当てはまらない。油断すると寝首をかかれるような奴ばかりだ。
「ズィーベン隊長は以前仰ったはずです。地球を狙う怪獣や侵略者が本気で手段を選ばなければ
こんなものではないと。寧ろ、今回は西野家の皆さんには手を出さずに地球人に影響の及ばない
宇宙へ呼び出し、しかもダメージを受けた貴方の治療というアフターサービスまでしている。
別に、あのまま宇宙に放置してもよかったのですよ」
言ってることは判る。判るのだが。
この女の言うことは、一々癇に障る。ジャネットも、意図的に嫌味を言っている。彼女も、
アルファが地球に留まることを個人的にはよく思ってはいない。
「あの程度の不測の事態でここまでの危機に陥るようでは、今後貴方の言った大言壮語を実現
出来るか怪しいものですね。それとも、あれはその場しのぎの出任せですか?」
数日後、新たな敵が地球圏に来襲した。
『ははははは!! わしは暗黒宇宙の大魔王・テンペスト星人!!』
地球侵略を狙う巨大宇宙人は、宇宙を飛びながら大声で笑う。実際、策略も何もなく単身での
自らの戦闘力のみの力押しで多くの星を制圧し、滅ぼしてきたつわものだ。
『地球には宇宙警備隊の戦士が駐留しているというが、何、取るに足らん。今回もわしの小手先
一つでねじ伏せ、卑小な人間どもに地獄を見せてくれるわ! 先ずは』
両腕を前に構え、眼前に見えてきた青い地球の地上に、まだ遠い宇宙から大威力の破壊光線を
撃ち込もうとした。
次の瞬間。
地球からテレポート同然の速度で飛んできたウルトラマンアルファの膝が、テンペスト星人の
顔面に叩き込まれ、顔が大きくひしゃげた。
『ぶぎゃああああーーーーー!?』
無様な悲鳴を上げ、星人は月に叩き落される。
それを追ってアルファは月面に降り立ち、顔を押えてのたうっているテンペスト星人の前に、
全身真っ黒なベタで目だけ光らせて仁王立ちになる。
『・・・何が地球征服だ』
地獄の底から響くようなアルファの声。
『幼稚な頭脳と精神で、無駄に力だけ持て余して暴れに来ただけの癖に、何が暗黒宇宙の大魔王だ!?
迷惑なだけなんだよ!!』
アルファはウルトラ縮地で残像を残して超高速で飛び回り、拳で星人を滅多打ちにする。
反撃する暇を与えない。
ぼこぼこにした上で蹴りを入れて地上に転がすと、今度は、アルファが予め月面に設置しておいた、
ワイヤーで信管を引かれて炸裂する爆弾や、巨大な竹槍や熊挟みなどのトラップが一斉に作動する。
『待て! ちょっと待て! わしは、ここまでされにゃならんのか!?』
『笑止! その程度の覚悟で地球を襲ったお前が悪いのだ!!』
巻き起こった爆発で高く吹っ飛ばされた星人に、アルファはとどめのギャラシウム光線を
最大出力で放ち、暗黒宇宙の大魔王は断末魔の叫びを上げて塵となった。
離れた場所では、ウルトラマンとなったジャネットとグローピスが黙って監視している。戦いに手を貸すと
いう選択肢もあるが、それはアルファの地球滞在資格テストにおいて減点対象となる。
月の静寂に、アルファの荒い息がぜえぜえとこだまする。
地球上では、恵や両親が不安を覚えながら空を見上げ続ける。
宇宙警備隊・勇士司令部。
『戦う相手を間違えなければいいのですが』
相変わらず状況を彼方から見届けながら、デリート隊長は呟いた。
____________________________________________________________
ウルトラマンアルファは、愕然としていた。
何時もの通り、街に襲来した怪獣を迎撃し、ギャラシウム光線で爆破した。
だが、その爆風の勢いが予想外に大きく、周辺の住宅地は、軒並み吹き飛ばされた。
廃墟と化した宅地群。近所の人々は、皆倒れて死んでいる。
西野家の家屋も崩壊し、瓦礫の中に、血と煤にまみれて目を見開いたまま倒れて動かない恵。
『恵・・・ちゃん・・・
あああああああーーーーーッ!!!!!』
アルファのテレパシーの思念が、暴風のように一帯に吹き荒れる・・・
ウルトラマンアルファ 28 オムニバス・パラドックス
夢幻怪人・アングラス 出現
「恵ちゃーーーーーん!!!!!」
「何ですか」
「・・・はえ?」
何時の間にか、倒壊どころか全く何時も通りの西野家の自室。和子によって、達志の私物も
全て元の位置に戻されている。その部屋のベッドで彼は、全く無事な恵に呼ばれて目を覚ました。
「恵ちゃん・・・何故無事で?」
「何を寝ぼけてるんですか。勝手に私を夢に出さないでくれます?」
「・・・夢?」
「もう朝ご飯できてますから、さっさと起きて食べてください。お父さんとお母さんも待ってますから」
「あ・・・はい」
恵は何時も通り憮然として一階へ降りていく。
「夢か・・・夢ね。そう、そんなわけないよね」
すっきりして着替える。
一方、異次元空間のゼバット星人の根城。星人達はアルファとズィーベンの二大ウルトラマンの
直接攻撃でびびって以来、地球侵略活動の再開をまだしあぐねて隠れ続けていた。
「そろそろ動かないと、本星からの支援物資も差し止められると思うんだが」
「しかし、ズィーベンが帰ったと思ったらなんか又新しいウルトラマンが来たそうで、しかもそいつも
結構な実力者らしいからな」
情報だけは早い。
「もう少し様子を見るか」
「そうしよう」
翌日。
「地球侵略は我々の急務だ。早急に事を運ばなければならない」
ゼバット星人のリーダーは拳を握って力説した。
「我等の故郷・ゼバット星は、核兵器実験の失敗で壊滅して今はなく、生き残った同胞達は急遽設営した人口居住星で
苦しい生活を強いられている。一刻も早く、緑の星・地球に移住する態勢を整えねばならんのだ。諸君の力を
一つにして事に当たってほしい」
うおーと士気高く呼応するゼバット星人一同。その一角で、兵士同士が、
「俺達の星って、壊滅したんだっけ?」
「確かそうだったろう」
「そうか。では、頑張らねばならんな。うおー!」
翌々日。
「今回は、ウルトラマンアルファ捕獲作戦を実行する」
ゼバット星人のリーダーは拳を握って力説した。
「何度も我々に屈辱を与えてきたにっくきウルトラマンアルファを計略によって捕らえ、ゼバット星の動物園に入れて
晒し者にしてやるのだ!」
うおーと士気高く呼応するゼバット星人一同。その一角で、兵士同士が、
「あれ・・・俺達の星って、既に壊滅して跡形もないんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ? 気のせいだろう、縁起でもない」
「それもそうだな。うおー!」
翌々々日。
ゼバット星人と地球は、和平協定を結んだ。
大モニター越しに双方の代表が顔を合わせ、厳粛に、しかし穏便に対話を行う。以降は、本星を失って難儀している
ゼバット星の住民に地球側が徐々に援助を行っていく。どちらの人々も、戦いが終わって平和が来たことに
安堵の微笑を浮かべている。
「故郷を離れての地球圏への長く苦しい駐留は無駄ではなかった・・・ううう」
「リーダー、涙を拭いてください。もう泣くことはないのです」
ゼバット星人リーダーを慰める兵士達。
ディフェンスポートで、特命防衛隊の一同も喜ぶ。
川上隊長「宇宙に生きているのは我々地球人だけではない。これを契機に、宇宙全ての人々が仲良く暮らせる日が
来ることを私は切に願うよ」
美樹「そうですね」
翌々々々日。
「はあ? 宇宙人?」
市民(子供らしい)からの通報の受話器をとった斎木隊員は、ぞんざいな応対をする。
「あのね、君、大人をからかっちゃいけないよ。そういうのはこども相談室にでも」
「待て、斎木。そういう対応はいかん」
「はあ・・・」
川上は斎木をしたり顔で諭す。
「如何に宇宙人がまだ未知の存在とはいえ、我々特命防衛隊はそういう万一の事態に対応するために作られた組織だ。
市民からの善意の協力には、小さなことといえども真剣に応対しなくてはいかん」
「はっ、失礼しました」
うむと川上は頷き、電話応対を代わる。
都内、桜ヶ丘小学校。
西野哲夫はテストで100点を取り、教室で先生にほめられ、クラスの皆からも賞賛されていた。
「怪獣オタクでウルトラマンオタクの君がここまでやるとはなあ」
「えへへ・・・いや、僕もずっとウルトラマンに憧れてるだけじゃいけないと思ったんです。ヒーローに近づくためには
僕自身も努力しないと」
「よく言った。その姿勢を忘れるなよ」
「はい、城先生!」
担任・城達志の激励に哲夫は頷いた。
翌日。
「相変わらず哲夫君は駄目だなあ」
哲夫は今日も学校のテストで散々な点を取り、自宅で両親に叱られ、恵の家に愚痴を言いに来たら達志にもきつく言われた。
「こんなことじゃ、憧れのウルトラマンに顔向けできないぞ。一度くらい100点取って見せたらどうだい」
「うー、もう言わないでよ・・・」
哲夫はしょぼくれるが、ふと、
「達志兄ちゃん」
「なんだい?」
「昨日、うちの学校にいなかった?」
「何言ってるんだ。僕は恵ちゃんの家庭教師だぞ。公の学校にいるわけないだろう」
「・・・そうだよね」
翌々日、ゼバット星人の根城。
「今回は人間の脳をサルの脳と入れ替えて知能を低下させ、我々の奴隷にする作戦を行う」
翌々々日。
「今回は地球上から全てのパンダを盗み、動物園に楽しみにやってきたガキどもを泣かせる作戦を行う」
翌々々々日。
「今回は都内の自販機のジュースにマンダリン草を混ぜ、それを飲んだガキどもの体を虚弱化させる」
世界中が混乱の渦にあった。客観的に考えればどう見てもおかしい、前後の因果が繋がっていない状況に人々は振り回されるが、
そのことを知覚できずに翻弄されていた。
街のビルからビルへ、奇怪な男が異常な跳躍力で、しかも人知れず飛び回る。
赤・黄・緑のサイケ模様の、道化師のような悪趣味な衣装。顔はあからさまに人を小馬鹿にした嘲笑の表情。両手には、
羽を揺らす蝶のおもちゃが先に付いた針金を持ってぶらぶらさせている。
揺らすたびに蝶の羽から広範囲にりんぷんが飛び散って街に広がり、それを浴びるたび、人々の認識や発言内容が
ばらばらになり、ちぐはぐな行動を繰り返す。しかも、それをまったくおかしいと思っていない。
楽しげに踊りながらりんぷんを撒き散らしていた男は、ビルの屋上でふと足を止め、一点を見据えた。
「もうばれたのかい?」
視線の先には、女ウルトラマン・ジャネットの人間体の少女が立っていた。
「グローピスがいなければ、危ないところでしたけどね」
ジャネットの隣には、カプセル怪獣・グローピスが黙って控えている。人間サイズで。こいつも人間サイズに
なれるらしい。
「グローピスはロボット怪獣、機械です。人間の知覚に訴えて認識を狂わせる攻撃は通用しません」
きりきりときしんで頷くグローピス。彼がこの異常事態に気づき、ジャネットに気づかせたのだ。
ジャネットの指摘したとおり、怪人物の持つ蝶のおもちゃにはそういう効果があった。
ディフェンスポートでも、丁度メンテナンスに出されていたアンドロイド・ミリーが戻ってきて色々指摘して漸く
特防一同は異常に気づき、慌てて色々修正を行っていた。
「何でゼバット星人と和平協定を結んだなんて思ったんだろう・・・?」
「何で市民の通報に対してカビの生えたお約束対応なんかしたんだろう・・・?」
「御蔭でとんだ茶番を演じさせられたぜ」
ジャネットとグローピスによって現実に引き戻された達志も男の前に現れる。
「何のためにこんな真似をした?」
男はにやりと笑うと、蝶のおもちゃを一際強く振り回した。
りんぷんの霧と共に世界が一転し、極彩色の異次元世界になる。
「ゼバット星人・・・!?」
しかし、彼らの異次元とは又微妙に雰囲気が違うのを達志とジャネットは感じる。
「ああ、ゼバット星人なら、私の力の影響を序でに受けて彼らも楽しい夢を見ている頃さ。邪魔をされると困るからね」
男は『アングラス』と名乗った。別次元から、地球世界を侵略に来たという。
「この世界の人間の精神は実に脆弱でいいね。例え見え見えの嘘であっても、自分に都合のいい情報を提示すれば
ころりと騙され、自分だけの次元に閉じ篭って出てこない。そこら辺をちょいと刺激してやればこの通りさ。それに
乗じて我々がこの地球を頂く、というわけさ」
「人間の心はそんなに弱くはない!」
達志は一喝する。
「人間は厳しい環境に自ら挑み、適応していこうという心もちゃんと持っている。お前のまやかしは何時までも
通じはしないぞ!」
「ふうん。へえー」
アングラスは鼻で笑うと、蝶の棒を更に魔法の杖のように振る。すると、異次元世界が更に変化していき、達志達の
周囲に、小規模の閉じた別空間が無数に展開する。そのそれぞれの内部が見える。
クラスで一番の成績になって皆からほめられる万年落ちこぼれ。
会社でも一目置かれ、家庭でも家族皆から慕われる、うだつの上がらないよれた中年サラリーマン。
ミスコンで一位になって男の熱い視線を浴びる、醜く太った主婦。
「・・・・・・・・」
その他にも無数の現実世界が嫌になった人々が、世界の中心でアイを叫んでおめでとうおめでとうおめでとうと
いもしない人々から拍手され、その中でさわやかなふにゃけた笑顔を浮かべたまま、幾ら達志やジャネットが呼び掛けても
見向きもしない。
「私のまやかしは何時まで通用するのかなーーーーーひゃーーーーーはっはっはっは!!」
アングラスは哄笑。
「こうやって人間どもを現実世界からどんどんいなくしていけば、そのうち地球には誰もいなくなる。そんな世界を
制圧することなどいともたやすいひゃはははははは!!」
転げ回って笑った後、達志の前にずいと近づく。
「ウルトラマンアルファ、城達志君。君も、地球を守るという使命だけを押し付けられ、誰とも知れない見ず知らずの他人のために
馬車馬のように働かされる宇宙警備隊の現状にさぞうんざりしているだろう」
「・・・・・・・・」
「こっちの世界に来ないかね? こっちの世界で自分に都合のいい情報にだけどっぷり漬かっていれば、
もう辛い思いをして何時までも戦い続ける必要もない。結果だけを求めてうるさく追い回す上司や監視官もいない。
楽しいよ〜〜〜〜〜」
アングラスの姿が、じわじわと変貌する。そして。
「城先生」
恵が現れた。
「もう戦わないでください、先生。私、本当はもうこれ以上先生が傷つくのは嫌なんです」
上目遣いでもじもじして、達志にすがり付いてくる。
「ううん・・・先生なんて嫌、本当は呼びたかったんです・・・あ・な・た」
鉄拳の音が轟いた。
瞬時に達志から転じたウルトラマンアルファに恵は殴り飛ばされ、一見足場も何もない下のほうに叩きつけられ、
アングラスの姿に戻って転がった。
『恵ちゃんはそんなこと言わない』
アルファは静かに言う。
『あの子は、僕がへたれていると直ぐにぼかぼか殴ってきて、世間の荒波に叩き出す。そして、ありもしない空しい
夢から覚まさせてくれて、しかも、本当はその陰で僕のことを何時も心配してくれている。
そんなツンデレな恵ちゃんが大好きだ!!』
臆面もなく叫ぶ脇でジャネットはうんざりしている(序でにグローピスも)が、構わずアルファは続ける。
『お前も同類だ、アングラス』
「何・・・?」
よろよろと起き上がったアングラスはアルファを睨む。
『小難しいことを延々とぬかしたが、要は地球侵略という蛮行を都合のいいように正当化するための理論武装だろう!
お前の言うようなことは、もうセブンとかマックスとかで耳にタコが出来るほど繰り返されている! 陳腐以上でも
以下でもないデッドコピーだ! もっと気の利いた理屈を持って来い!!』
「・・・・・・・・・・・・」
『お前、今自分のやってることが本当にかっこいいと思うか!? 他人が醜い行動をしてるから自分も同じように
醜い行動をするのか!? 自分の姿を一遍ロングで引いて離れた場所から見直してみろ!!』
「あ〜〜〜〜〜はいはい、きれいきれい」
アングラスは小指で耳をほじった後、ぴょんと後ろに跳んで距離を取り、本当の姿を現した。
両手に蝶のおもちゃを持ち、サイケ模様なのは変わらないが、妙に頭でっかちで小太りの不細工な怪物。
「鼻息荒くして、何マジになってんの?
わっかりましたー。じゃ、改めて出直しましょう。只・・・絶対私の言うとおりにしてたほうがよかったと
後悔するはずよ。じゃあね〜」
アングラスは撤退を開始。背を向けると、尻には何故か大きなロケットが突き刺さっており、それを噴射して
軽やかにジャンプしながら遠ざかっていき、異次元の果てに消えた。
「ジャネット」
「はい?」
「君とグローピスの協力がなかったら僕はアングラスの計略を見抜けなかったかもしれないが、これは
減点対象になるのかい?」
「いえ。言い忘れましたが」
ジャネットは説明。
「私達がアングラスに敵対したのは、自己防衛のための自主的な行動です。貴方から救援要請をされた
訳ではありませんので、対象にはなりません。今回の姿勢を忘れないように」
アングラスが消え、現実世界に戻った両者はその場を去っていく。
周りでは、これも現実に引き戻され、異次元から帰ってきた人々が、あの気持ちいい世界に戻してくれーと
転がり回って呻いているが、達志とジャネットはそこまで面倒は見ない。さっさと帰る。
自分で現状を何とかしようという気がないくれくれ乞食まで助けるほどウルトラマンは暇ではない。
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たまには季節ものをやることにする。
まとめサイトに掲載されると判らないだろうから書いておく。これを書いてるのは
2007年1月。
冬の信州・浅間山一帯。
スキーに来ていた女性・渚(なぎさ)は、突然の吹雪の煽りを食って遭難し、深い雪の中を
途切れそうな意識と共に歩いていた。その刹那、渚はふと山あいの光景を見た。
山向こうに、巨大な影が見えた。次第に全貌が見えてくる。
二本足で立つ、毛足の長い白い犬・・・のようなもの。頭頂には角が一本。両腕は、
翼竜のような大きな翼。
巨大なそれは、何の気もなさげに身を振り回し、翼の一端が山の中腹にぶつかった。
それだけで雪崩が起きた。
渚は逃げる暇もなく、呆然としながら、雪の激流に飲まれていった。
ウルトラマンアルファ 29 断絶の雪
雪獣・ユキギララ 出現
後日、特命防衛隊が浅間山にやってきた。只、今回は何時ものディフェンスポートの面々
だけではない。北米支部からの部隊がわざわざ来日、同行している。というより、北米支部の
部隊の戦力のほうが明らかに多い。最近梶山隊で実用化された強化型のプロライザーに、
雪上で活動するための除雪装置を搭載し、がりがり雪を削って進んでいく。序でに木々も
なぎ払っていく。そんな地上部隊が、歩兵も含めてぞろぞろ。
北米部隊を率いる女隊長・ダイアンは、今回遭難した女性・渚の古くからの友人。
その渚は、既に凍死体として発見されている。
「・・・今回の流れ、大体判ったね」
哲夫が呟く。
たまたま、ええーたまたま、リゾートに来ていた西野一家は、兵士達が山に向かってぞろぞろ
歩いていくのを眺める。
地元民の間に伝わる伝承では、この山地一帯には、古くから雪に隠れて住んでいる山の
『ぬし』がいるという。観光客からも、吹雪に紛れて何か大きな影が動いているのを見たという
話が幾つか入っている。恐らく怪獣であろうと特防は推測し、捜索を行っていた。
幾らか時間が経過した後、一人の兵士がダイアンに報告しにきた。捜索活動を妨害する者が
いるという。
山の『ぬし』の使いである雪の精霊『ミユキ』。
その伝承に該当する外見である、白い着物を着た少女が、捜索隊を妨害している。
少女は深い雪の中をこともなげに素早く移動して回り、兵士達を翻弄する。冷静さを失った兵士が
発砲し、誤射によって負傷する兵士も出てくる。
少女・ミユキは何処か悲しげな微笑を浮かべながら、私達は人知れずひっそり山奥で暮らして
いるのに、人間達が一方的に山に踏み込んできて自然を荒らしているとかなんかそんな感じの
ことを言う。しかし、それを伝えられても、ダイアンは捜索活動の中断の指示は出さない。
親友を死に追いやられているダイアンには、ミユキの言葉は陳腐な文句にしか聞こえない。
「山は自分達の縄張りだから、踏み込んで死んだ者が不運だったとか、そういうこと?
そんな話で引き下がれるわけないでしょう!!」
相手は明らかに超常の力を使っている。人間ではない。もう遠慮はするなとダイアンは
指示し、兵士達も呼応する。
本来の日本の管轄である何時もの特防の面子は捜索には携わらず、というか、上に顔の聞く
ダイアンの指示によって携われず、やむなく今回の事件の事実関係の調査を行っていた。
美樹「どうだった?」
斎木「あれだろう。遭難者が何か怪獣を怒らせるような行動をしたとか、或いは怪獣とは
関係なくアクシデントで死んだとか、そういうのだろう?」
山の麓の本陣で待っていた特防本隊の下へ、憮然として戻ってきた柏村と由美子が、
黙って記録映像を出す。由美子のテクノロジーを駆使し、山岳一帯にあった観測機器のデータや
上空の監視衛星の記録などから洗い出して纏めた結果。
観測された怪獣は、雪のどっさり積もった山中で気紛れに暴れて山の雪を崩し、その雪崩に
巻き込まれて遭難者は死亡した。何遍確認しても。
過失でも何でも、怪獣が原因という事実に変わりはない。
重い溜息をつく一同。
ダイアンは捜索隊の指揮を最前線で直接取り、周到な罠を徹底的に張る。そして、遂に
ミユキを捕らえた。
拘束されてもミユキは態度を変えず、かつて人間と自分達は上手く共存していたのに、人間達の
文明の進歩によって自分達は次第に限られた土地に追いやられた、私達は被害者だと言い張る。
だからといって友人を殺されたダイアンの怒りは収まらず、彼女は激情にあかせてミユキを
痛め付け続ける。ミユキは遂に叫ぶ。
「ユキギララーーーーー!!!!!」
名を呼ばれた山の『ぬし』が、大地を鳴らして山の奥から出現した。
ユキギララが歩き回るだけで山の雪が崩れ流れて多くの被害を出し、口から吐く冷気が
当たるもの全てを凍らせる。その姿に兵士達は恐怖し、ダイアンはミユキを突きつけて人質が
いることを主張するが、怒りに駆られたユキギララはお構いなしに迫ってくる。やむなく
ダイアンはミユキを打ち捨て、部隊を連れて一端後退。雪中に倒れ、既にかなり消耗している
ミユキを見て、ユキギララは更に激怒する。
ダイアンは態勢を立て直し、プロライザー隊を率い、大挙してユキギララへの攻撃を開始。
ユキギララに救い出されたミユキも怒り、ユキギララに反撃を指示。凄絶な攻防が始まり、
雪山は地獄と化す。特防日本支部はダイアンの待機命令を受け、見ているしかない。
地元民達も、もう自分達にはどうしようもないと力なく傍観している。
観光客達は特防日本支部の指示で避難。西野一家を先に退かせた達志は、戦場へ向かう。
「どうするつもりですか?」
何時の間にか現れ、見ていたジャネットを、達志は一瞥。彼女の力を貸してくれと頼めば、
地球滞在の資格テストにおいて減点対象となる。だが、そんなことは関係なく、元より力を
借りる気等達志にはない。
黙ってアルファプラスをかざし、ウルトラマンアルファに変身する。そして。
敵を攻撃するための能力は使わない。一切。
といって、今戦っている互いの武器を無力化させたり、手からアコースティックなBGMと共に
有難い虹色の光かなんかが出て怒りに駆られた者同士の憎しみを鎮めるとか、そんなご都合な力も
生憎アルファにはない。
そこで、お互いの砲火が飛び交っている戦場のど真ん中を、ウルトラ縮地で、超高速で
動き回り、砲火を遮る。自前の巨体で。
遠くから目を見張るジャネット。特防日本支部。そして西野一家。
アルファの身体の前面にダイアン隊の大砲火、背面にユキギララの氷の弾丸の混じった猛吹雪が
一斉に直撃。
ダイアン「・・・何のつもり、ウルトラマン!?」
ミユキ「・・・愚かな他所の星の者よ・・・そんなことをしても、もう私達の怒りは収まらない!」
両陣営は一端呆気に取られたが、又戦闘を再開。
アルファは高速移動を再開し、もう己の意地を以って、お互いの攻撃をお互いに届かせない。
全身が砲火でボロボロになり、手足が折れて変なほうに曲がり、結晶のような質感の眼やカラー
タイマーも終いには割れ砕け、光を失う。
それでももう意地だけで立ち、動き回り続ける。
遠くのほうで見ている恵が、ご両親や哲夫がもういい、やめてくれと叫んでいるが、続ける。
ジャネットのテレパシーが脳に響く。
『・・・何故そこまで・・・!?』
彼女の内的宇宙で、血まみれの達志が言う。
『・・・僕だって・・・誰よりも大切な恵ちゃんや、ご両親や哲夫君を何かの弾みで誰かに
傷付けられたり殺されたりするようなことがもしあったら・・・多分、今戦ってるこの人達と
同じようになるだろう・・・どっちの言い分も判るから、攻撃は出来ない・・・しかし、その
どっちの言い分も判る同士が殺し合うのを放っておくわけにも行かない・・・となれば』
達志は笑って、
『こうするしかないだろう』
「・・・・・・何故」
「・・・・・・くっ・・・!!」
ミユキにも、ダイアンにも、次第に迷いが生じてくる。
「それでも・・・それでも、人間を許すわけにはいかない・・・!!」
「渚は・・・もう帰ってこない!!」
アルファの視界が、暗転した。又。
そして、達志の姿に戻った状態で意識が戻った。又。
今回もジャネットの治療を受け、達志は一命を取り留めた。といっても、この前より遥かに
ダメージは大きく、暫くは安静状態である。周囲では西野一家が安堵の息をつき、特に恵は
何でこんなことをするのか、少しは考えて行動してくださいと絶叫しながら下を向いて
号泣していた。達志は力なく笑いながら何度も詫び、既にこの場にはいないジャネットと
テレパシーで会話。
ジャネット『こんなやり方を続けていたら、貴方は何時か死にます』
それでも、達志はやめる気はない。
達志『地球の土になれるなら、それはそれで』
ジャネット『・・・ああそうですか』
達志『ところで・・・ミユキさんと、ダイアンさんはどうなった?』
両者とも流石にショックを受け、戦いはやめた。
だが、仲直りは出来なかった。
ミユキとユキギララは山奥の更に奥の、人間がおいそれと立ち入れない何処かに消え、
その後、地元民にももう姿を見た者はいない。ダイアンは部隊を連れ、結局日本支部とも
ろくに会話も交わさずに黙って北米へ帰った。
達志『まあ・・・しょうがないね。各々の考え方までは強制できないから』
冬の浅間山に何時までも吹き荒れる吹雪の場面がフェードアウトし、この話は終わった。
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信州・碓氷峠一帯。
なんか今回も信州。ロケ序でに2話纏めて撮ったらしい。
山中の街道を攻めていた某暴走族集団・・・チーマーとか珍走団とか、今のご時世は
何と言うのかいまいち不明だが、そんな感じの見るからにたちの悪いライダー達。実際に
たちが悪く、他のドライバーや観光客にちょっかいを出したりしていた。
その報いかどうかは知らないが、怪獣に襲われた。
調子に乗って夜の山道を騒音を立てて大勢で走っていたら、何時の間にか道沿いの森の上に
半身を見せ、巨大な影が四足で凄いスピードで走っていた。驚いた一同は、振り切ろうと
スピードを上げて道を飛ばすが、道と併走しながら怪獣ははあはあ息を立てて一緒に走ってくる。
「何で付いて来るんだよー!?」
「あれか、下手に逃げると野犬とか猛獣は追ってくるのと同じ理屈・・・なのか!?」
ひたすら飛ばし続けた暴走集団は、結局ハンドルを切り損ね、全員転倒したりガードレールに
ぶつかったり崖から転落したりして、重傷を負って入院する羽目になった・・・
ウルトラマンアルファ 30 何となく暴走
衝動怪獣・サドン 出現
通報を受けた特命防衛隊は調査を開始した。
作戦コードネーム『サドン』と名づけられた怪獣の存在は直ぐに確認されたが、どうやっているのか、
現れたと思ったら瞬時に素早く姿を消す。神出鬼没。もう一つ不可解な点として、現れた際の行動が一貫
していない。暴走族を驚かせて事故らせたという事実がある一方で、山中で迷子になっていた観光客の少年を助け、
麓近くに送り届けたという報せがあったのである。
嘘ではないらしい。当の子供の証言によると、迷っているところに突然巨大な怪獣が現れ、追い詰められ、
襟首をつままれて持ち上げられ、食われるのかと思って身をすくめていたら、そのまま怪獣は山を駆け下り、
少年をそっと地面に降ろし、そのまま去っていった、らしい。
他にも、観光客の捨てていったゴミを集めて指定された投棄場所に持って行ったり、川や湖の汚れを
洗い出したり、火の元を踏みつけて山火事を防いだりしている。では、暴走族のようなたちの悪い連中
だけ襲うのかと思ったら、今度は、調べた限り特に悪いことをしたわけではない観光地の売店や普通の民家に
いきなり走りこんで破壊したりする。日によって行動内容がバラバラで、何がしたいのかわからない。
取り合えず、現地での捜査の一方で由美子がディフェンスポートに残って怪獣の行動原則を分析してみる
ことになった・・・のだが。
前回同様、特防の組織内での発言権だけ無駄にでかい一団が、又介入してきた。
上層部御用達の研究団らしいが、それを指揮しているリーダーの女性が、何を思ったのか、サドンは
『いい怪獣』であると断定したのである。人間にとって有益な行動をランダムに行っているのは、何が
『いい行動』なのかまだ完全に把握しておらず、試行錯誤しているだけで、本当は『私達と友達になりたい』のだと。
そこで自分達が先行してサドンを『説得』する。上手く教育できれば、特防にとっても有用な戦力に
なるはずだ、と言い張って聞かない。
川上隊長や他の一同は困ったが、分析を続けつつ由美子は、ためしにやらせてみたらと答えた。
碓氷峠。
山中でぼーっとしていたサドンの前に研究団は現れ、刺激しないようにそろそろと近寄っていく。
サドンはじっと見ている。研究団の最前に女団長は立ち、思い切り胡散臭い笑顔を浮かべ、夜も寝ないで昼寝して
考案したジェスチャーを取り、変な身振り手振りでサドンへのコンタクトを試み続ける。周りでは他の研究員が
観測機器を出してせせこましくサドンのデータを取り続ける。
サドンは黙っていたが、ぷるぷると身を震わせて。
巨大な音で放屁した。
匂いは一帯に充満し、研究団は全員卒倒し、サドンが歩み去って行った後ガスマスクをつけた救護班に回収され、
入院した。屁が特に有毒物質を含んでいなかったのは不幸中の幸いだった。
由美子の分析結果が出た。
「サドンの頭部をスキャンし、検知された脳波からその思考ロジックを図式化したものです」
モニターに映像が出る。
賭博場。サイコロが振られてランダムに目が出続ける。ルーレットが回されてランダムに数字が出る。
スロットマシンが回されてランダムに数字が出る。
怪訝な顔をする特防一同。
由美子「これが奴の思考ロジックです」
川上「・・・つまり」
由美子「そう。奴の行動は全て乱数式に決定されています。要するに、行動に特に意味はないのです。我々が
善とする行動も悪とする行動も、特に意味もなく『何となくそうしたいから』だけでやっているのです。
外部から与えられた刺激も、その後の奴の行動とは特に関連していません」
美樹「そんな・・・」
斎木「奴は『いい怪獣』ではなかったってことか・・・」
由美子「いいとか悪いとかいう次元の話は関係ありません。それに、そう珍しいことでもないでしょう。
猫だって気が乗らないときは魚を見せても見向きもしない日もあるし、人間だって・・・」
言った由美子は、一同が彼女を見ているのに気づく。
柏村「うん、まあ、そうだな」
美樹「そういうこともあるわね」
由美子「・・・何であたしを見て言うの?」
とにかく、今後の行動内容が一切不確定であるというのはやはり危険であり、放っておくのはまずいという
結論になり、怪獣サドンは殲滅ということになる。
深夜、山中で寝ているサドンを、出来るだけ遠方から包囲する大部隊。地上には柏村の指揮する
プロライザー隊、空には斎木のソニックバードとそれに従うトライバード編隊。いずれにも超長射程の
ミサイルや砲が搭載され、川上の号令で一斉射撃という手はずになっている。
美樹から情報を知らされた達志は、ジャネットと共に現地に密かに趣き、山の高みから現場を見ている。
前回の肉体的ダメージは一応不自由がないレベルに回復している。
ジャネット「今回はどうしますか?」
達志「うん・・・」
山の麓を見ると、安全域に人々が集まっている。たまたま『いい行動』をしたサドンによって救われた
人々である。サドンの助命嘆願を行ったのだがやはり通らず、黙ってみているしかない。人々の中には、
最初にサドンに助けられた少年もおり、悲しそうな顔をしている。
川上のカウントダウンが響く。
達志は溜息をつくと、アルファに変身。
ウルトラマンの巨大な姿がサドンの近くに現れ、驚いた川上はカウントを中断。
アルファは手をごそごそやり、出し抜けに、彼サイズのでかいラジカセを取り出した。
スイッチを入れると、サドンが最初に暴走族と接触したときと同じ、バイクのけたたましい排気音が
べうんべうんと響き渡る。その音でサドンは起き、ラジカセを興味しんしんで見る。
アルファは音を鳴らしたままじわじわと後退し、出し抜けに走り去る。サドンもつられて追ってくる。
追われて暫く走った後、アルファはジャンプして空に飛ぶ。
サドンも追ってきた。
空中を走って。落ちる前に足を互い違いに上に上げるを超高速で連続して。
そのまま両者は、夜空の彼方へ飛び去っていく。
宇宙へ出たアルファは最大速度を出し、地球の自転の軌道にあわせてぐるぐる回って飛び、回転の輪を
段々広げていく。サドンも全く速度を落とさず付いてくる。
いい頃合と判断したところで、アルファは鳴りっぱなしのラジカセを、太陽系の外、遥か彼方目掛けて
全力で放り投げた。忽ち小さくなっていくラジカセ。サドンもそれを追って飛んで行く。
こうして、怪獣サドンは太陽系から去っていった。
真空の宇宙で何故ラジカセの音が聞こえるのかは言うまい。ほら、耳を澄ませてごらん。ウルトラの世界の
宇宙では、
ぴん ぽん ぷん ぴゅいいい〜〜〜〜〜ん
という音が、昔からエンドレスで鳴り続けているじゃないか。
地球に帰った達志は西野家に戻り、ベッドにぶっ倒れて寝込んだ。ひたすら全速力で飛び回った後に
襲ってきた全身の筋肉痛に呻きながら。見下ろす恵とジャネット。
恵「運動不足です、城先生」
達志「面目ない・・・」
ジャネット「ところで、バイクの音を鳴らしたらサドンが追ってくるというのは、自信があったんですか?」
達志「カン」
ジャネット「サドンが興味を持たなかったらどうするつもりだったんですか?」
達志「カン」
まあ、その後サドンが帰ってくる様子はないので、結果オーライ。
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