四日市・沿岸地帯の街。
 何度か怪獣の被害を受けているが、国と民間企業団体の協力によって興された復興計画により、
既に普通に生活できるレベルまで復興されている街である。
 といっても、まだ建造中のビルなども多くあり、ビルの骨組みの並ぶ中を歩く市民。
 と、上のほうで鉄骨を吊るしていたワイヤーが切れ、鉄骨が落ちた。
 不幸にも、下で歩いていた一人の男に直撃。男は重傷を負って倒れ、昏睡する。
 周りの人々は、誰も全く騒がない。最初から見ていなかったかのように構わずに通り過ぎる。
 暫くすると救急車が来て、負傷した男を担架に乗せて病院へ運んでいく。
 去っていく救急車にも、誰も見向きもしない。


 ウルトラマンアルファ 31 怪獣のいない街・1
 忘却機・フォーゲットフォン、地底怪獣・アスゴル三代目 他 出現


 その四日市近辺の郊外に、3、4話に出た怪獣アスゴルの同種が又も出現した。特命防衛隊の
ソニックビート小隊(斎木、美樹、柏村の三名で構成)が向かい、難なく撃破した。アスゴルには
気の毒だが、今回の焦点は彼ではない。同時間帯のカメラの視点を四日市の街に移す。
 街からも割りとはっきり見える地点で戦闘が行われていたのだが、遠くにアスゴルの姿が見えて
いたにも関わらず、人々は無反応だった。自分のことだけをし続けている。

 戦闘と同時に、ディフェンスポートで周囲の観測データを取っていた由美子がそれに気づき、
川村隊長にそれを指摘。川村もおかしいとは思ったのだが、話によると、特防の上層部から
別系統で派遣され、現地の調査と情報統括、復興された都市のセキュリティの全権を任されている
組織が、復興作業時からずっと駐屯しているという。まずその組織に行動の優先権があるらしい。
斎木「又それかよ!?」
柏村「浅間山の『ぬし』騒ぎ辺りからずっとだな・・・最近どうなっとるんだ上は?」
川村「それに対しては我々に文句を言う権利はない。とにかく今は待機だ」
斎木、柏村「はい・・・」

 西野家でも異変が起きていた。
 大黒柱の一誠が、怪獣災害を被った各地の復興のための事業に関わっていることは20話で述べたが、
その仕事のために四日市方面に出張した彼が、もう長いこと帰ってこない。連絡が途絶えたとかいう
訳ではなく、電話すればちゃんと繋がるのだが、かなり忙しそうで、まだ暫く帰れないの一点張り。
声にも余裕がない。
「何かあったんですか?」
 達志が電話に出てみると、一誠は、うむ・・・と唸ったが、いや、直ぐ何とかする、皆心配せず
家で待っていてくれと答え、一応電話はそこで終わった。
「城先生・・・」
 不安げに呼ぶ恵。達志も、何か違和感を感じていた。

 電話を切った一誠の心中。
(只でさえここ暫くよくない話が多いのに、こんな話をしたら、達志君に又負担を掛けることになる。
それに、これはどちらかといえば我々地球の人間側の問題だ・・・)

 四日市の地下。
 問題の特防上層部からの別働組織によって造られた格納庫がある。暗くてよく見えないが、
その中心に、断続的にちかちかと青白い光を放つ、巨大な機械がある。角ばった重々しいフォルム。
「こんなことまでせにゃならんのかね。我々人類は」
「事態は貴方達が考えているよりずっと深刻なのです」
 機械の脇のほうに通路があり、そこで一誠と別の人物が話している。黒いスーツを着た女性、日高(ひだか)
諜報主任。問題の別働組織のリーダーで、かつて由美子や柏村がウルトラマンに関しての調査を情報部に依頼
していたが、その部署に所属している諜報員である。
 彼女の手にしている携帯電話が、ちかちかと光を明滅させ続けている。巨大な機械と呼応して。
この携帯は、巨大機械『フォーゲットフォン』の端末でもある。

 市内。アスゴルと特防の戦闘が見えていた辺りの区画。
「・・・ああああああああ!!」
 市民の一人が、異様な悲鳴を上げた。周りの人々は構わず通り過ぎていく。
 叫んだ男は、息を荒くしながら震える手で携帯を取り出して開く。携帯の画面から、青白い光がぱあああと
男の網膜に降り注ぐ。
 男は平静を取り戻し、雑踏の中に歩いて消えていく。
 そんな光景が、他の区画でも度々見られる。

「街は復興しましたが、又街を壊す怪獣が依然として世界各地に現れ続けるという根本的な問題は未だ解決
されていません。防衛軍やウルトラマンが幾ら怪獣を倒したところで、又現れるのだから焼け石に水です。
人々は自分達の平和だった生活が何時壊されないとも限らないと常に怯えています。防衛軍やウルトラマンを
心から信頼出来る人達ばかりならことは簡単なのですが、そう甘くはありません。国の情報操作によって
表沙汰にはなっていませんが、これまでに世を儚んで自殺したり、発狂してしまった者も少なくないのです」
「・・・・・・」

 フォーゲットフォンは、そうした事態に対し、民衆がパニックに陥るのを回避するために試験的に作られた
システムである。ここにある本体から、被災地からこの都市に移住してきた人々に配布した端末の携帯を
通し、精神に暗示を掛けて興奮を鎮める信号を含んだ光を送る。人々は、世界を脅かす怪獣や宇宙人などいない、
最初からいなかったのだという暗示を掛けられ、平静を取り戻す。そもそも四日市に作られたこの街も、
被災者の受け入れだけでなく、フォーゲットフォン運用によるシミュレーションを行うための実験都市という
意図が含まれていた。
「只、さっきも言ったように怪獣や侵略者は依然として地球を襲ってくるという根本的な問題が解決して
いないため、時間がたてば暗示は解けてしまいます。だから、暗示を何度も掛け続けるしかないのです」
「それこそ、根本的な問題からの逃げではないのかね」
 四日市の復興に携わった一誠は、フォーゲットフォンの存在を知らされてはいなかった。後になってから
日高達が勝手に計画を進めていたのを知った。だから、抗議に来たのである。
「役目として地球防衛を行っている者だけでなく、全ての人々が勇気を出し、一丸となって地球を守るために
動いていくことこそが、本当の根本的な解決への道ではないのかね」
「私も最初はそう思いました。だから、少しでも多くの人が地球防衛のために協力的な姿勢を示してくれる
ように働きかけを続けてきました。しかし・・・もう疲れました。自分から動かないで、只外からの助けを
待っているだけの人が実際に山のようにいるんだから仕方ないでしょう。それとも、かつての戦時中のように
再び徴兵制を発令して国民全員に兵役を義務付けますか? 貴方のご家族もその対象になりますが」
「・・・それは・・・!」
「言っておきますが、我々は一方的にフォーゲットフォンをばら撒いて人々を洗脳しようとしているわけでは
ありません。フォーゲットフォンの開発には、ここに住んでいる人々が自ら資金を提供しました」
「!?」

「宇宙や異世界からの侵略者とかが仕組んだ作戦でも何でもないのです。地球人が自らこの状況を作り上げました。
嘘だと思うなら、我々の上層部にでもこの街の住民達にでも直接聞いてください」
「何故!?」
「だから、恐ろしい嫌な現実から逃げたいからでしょう」
 一誠は日高の目を見る。
 嘘は言っていないと確信できる目だ。だが、怒りも悲しみも喜びも何もない、人として何か大事なことを
忘れてしまっている、何かを諦めてしまった目だ。
「阻止しようとなさるならご自由に。多分街の人々は貴方の言うことなど聞きませんが」
 一誠は周りを見回す。この施設が、入り込んだ者、事実を知った部外者は生かして帰さないとか言う
がちがちのセキュリティを敷いているわけでもなく、黒服のエージェント達が逃げ道を塞いだりしている
わけでもない。大げさに見回している一誠の姿を、日高は馬鹿にして笑ったりもしていない。只ひたすら、
もう何もかもがどうでもいいという顔。
 と、彼女の部下らしい黒服が一人来た。端末からの暗示信号では足りず、多くの市民がパニックに
陥っている区画が出たという。日高は対処策を部下に言い渡す。
 格納庫の上部が開いてエレベーターが出来、鎮座していたフォーゲットフォンの本体が上の街に上昇
していく。
 街に姿を現したところで、現地へ向かうため、移動モードに移行。どうなるのかというと。
 メカの手足が生え、巨大ロボットになって立ち上がった。
 端末とそっくり同じ形の超巨大な携帯電話が四肢だけ生やし、ずしんずしんと現地に歩いていく。
お笑い番組の罰ゲームかなんかで着せられる肉襦袢みたい。
一誠「何で二本足のロボットになって直に歩く必要があるのかね!?」
日高「かつて防衛軍で造られた、手足を生やして格闘で外部からの攻撃に対処する惑星破壊ミサイルが
あったそうで、そのテクノロジーをそのまま流用したそうです」
一誠「技術の話じゃなく、何のために!?」
日高「慣例です」

 現地に着いたフォーゲットフォン本体は、顔の部分にあたる液晶パネルから、青白い光を人々に
ぱああああーーーーーと降り注がせる。恐慌に陥っていた人々は、忽ち幸せそうな表情になって沈静化
していく・・・

 そこへ、別の黒服エージェントが、切迫した様子で別の報せを持ってきた。
 聞かされた日高の表情が張り詰める。
 アスゴルなどとは又別の怪獣が、この街に向かって侵攻してきているというのだ。

 山中を進んでくる怪獣は、地球原産ではない。異次元からこちらの世界への壁を割り、穴を開けて
突然現れた。歩む大怪獣の肩に乗っている人物。
 ピアノ線の先でぷらぷら揺れる蝶々のおもちゃを両手に持つ、悪趣味な色の衣装の道化師。
「ひゃあーーーーーははははは、いい感じいい感じ!! 絶好の機だったようだね!!」
 28話で前哨戦を仕掛けた夢幻怪人・アングラスが、再度の侵略を仕掛けてきた。

 四日市の危機はディフェンスポートにも知らされ、ソニックビート小隊は再び出動。怪獣の撃退という
名目があるので今回は問題はない。
 同時に、臨時ニュースを介して西野家も事態を知る。四日市には一家の大黒柱の一誠がいる。
彼の身を案じる恵と和子に応え、達志はウルトラマンアルファに変身。現地へ飛ぶ。
 一誠を守る決意と、又も現れたアングラスへの闘志を胸に込めて。

 更に、日高諜報主任も只敵の襲来を待っているだけではない。迎撃の用意をする。
「アーマード・フォーゲットフォン、発進!」
 フォーゲットフォン本体の端末は、通常サイズの携帯電話以外にももう一体あった。本体そっくりの
同型機。しかも、ミサイルやロケット砲などの火力兵器で武装している。手足つきの巨大な携帯電話が。
 頭痛が痛い一誠・・・

 続く。
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 四日市沿岸地帯の街に、郊外より、夢幻怪人アングラス操る怪獣・デスダイムが接近してきた。
 既に防衛線に陣取った、特命防衛隊・別働諜報部開発の忘却機・フォーゲットフォンの
端末兵器、アーマード・フォーゲットフォンは、怪獣への迎撃を開始した。


 ウルトラマンアルファ 32 怪獣のいない街・2
 尋問怪獣・デスダイム、夢幻怪人・アングラス、忘却機・フォーゲットフォン 出現


 アーマード・フォーゲットフォンは、デスダイムに向けて火器を一斉に撃つ。全身で爆発が起こり、
思わず後ずさるデスダイム。アングラスは自分に弾が当たるのを避けるため、早くも本来の醜い怪物の
正体を現し、デスダイムから離れて空を飛び、上空に滞空して様子を見る。尻からジェットを噴かして。
「ほほう、火力は捨てたもんでもないね。地球人のアホの一つ覚えと言えばそこまでだが。
ならば、やはりあの機能を使うしかないようだね」
 アングラスの意志に従い、デスダイムはパラボラアンテナのような形の左手を前にかざす。
左手から、異様な波動が発振される。
 四日市の街に向けて。

 街の人々が、一斉に頭を抱えて叫び出し、のた打ち回る。車道では、我を失ったドライバー達によって
次々自動車が追突し、大惨事になる。
 携帯電話の存在に思い至った者達は慌てて携帯を出し、不安を鎮めてくれるはずの光を自らに浴びせ
続けるが、思ったほど効果が出ない。恐慌に陥った人々は互いを殴りあったり自分の頭を壁に何度もぶつけたり。
 地下でアーマード・フォーゲットフォンに指令を出していた日高諜報主任は、地上の街の異常を
知らされ、何が起こったのかオペレーターに命じて分析。やがて、デスダイムの発している波動が原因である
ことが判明。

 デスダイムの出す『尋問波動』は、人々の不安を忘れさせるフォーゲットフォンの暗示信号と逆の効果を持つ。
つまり、これまでの怪獣や宇宙人の襲撃で壊される街、その他の恐怖体験や思い出したくない記憶を、
強制的に人々の脳内に呼び覚ましているのだ。それに耐えられない弱い心の市民達は、一斉にパニックに
陥ったのである。
 人々が恐怖するたび、その恐怖も波動となって反射されてデスダイムとアングラスに帰ってくる。それを浴びた
デスダイムとアングラスの顔が、にやりと満面の笑みになる。彼らは、地球人の恐怖をエネルギーとして
吸収するのだ。
アングラス「人の揚げ足を取ったり嫌がらせをしたりして、心の傷をほじくるのはやめられないねえ
うひゃひゃひゃひゃ!!」

一誠「何てことを・・・!」
オペレーター「防壁の厚いこの地下司令室にまでは影響は及んでいないようですが」
 日高は沈黙していたが・・・
「フォーゲットフォン本体の暗示信号の出力を上げなさい。敵の波動の効果を打ち消すのよ」

 両者の放つ波が街でせめぎ合い、人々は興奮と沈静を何度も行ったり来たりさせられ、更に悲惨な状況に
なる。それもアングラスの狙いからは外れない。要は地球人が精神的に地獄の苦痛を味わえばいいのだ。
日高「くっ・・・アーマード・フォーゲットフォン、怪獣を倒しなさい!」
 しかし、フォーゲットフォン本体が出力を上げるために大量のエネルギーを食っているため、その影響を
受けて端末のアーマード・フォーゲットフォンの動きは鈍っている。
アングラス「今だ、デスダイム!」
 デスダイムはアーマード・フォーゲットフォンに接近して格闘攻撃で打ちのめし、とどめに長い尻尾での
打撃を何度も叩きつけ、遂にアーマードは木っ端微塵に破壊されてしまった。

「・・・まだよ」
 日高は、フォーゲットフォン本体を前進させ、街から出してデスダイムと対峙させ、暗示信号の光を
更に激しく放つ。尋問波動と直接対決する気だ。
 そして。

 ソニックビート小隊とウルトラマンアルファが丁度同時のタイミングで駆けつけたとき。
 本来戦闘用ではないフォーゲットフォン本体は、デスダイムとの根競べに敗れてエネルギーを使い切り、
停止したところをデスダイムの右腕の一撃で叩き潰され、スクラップになっていた。
 街の人々も、相反する信号で何度も互い違いに脳を刺激された挙句、全員精神崩壊して倒れていた。
 地下司令室で愕然としている一同。
「遅かったねえ、ウルトラマンアルファ」
 言い放つアングラス。
「人間の心はそんなに弱くはないと以前君が言ったので、今回は人間の心がどのくらい強いか試してみました」
『・・・・・・』
「だから言ったじゃん、素直に自分に都合のいい情報だけにどっぷり漬かってればよかったって。結局当の
人間達も自分でそういう方向に流れてるのが今回の件で判ったでしょ」
『・・・・・・・・・』
「まあしかし、気に病むことはない。君の責任じゃない。選択したのはこの街の住民達だしねえ」
 沈黙しているアルファをモニターで見つめる一誠。
(達志君・・・)

「言うな」
 最初に、ソニックビート小隊の斎木がキレた。
「もうお前はしゃべるなぁッ!!」
 美樹と柏村も同じ気分だった。三機ともデスダイムに攻撃しようと前進する。

 デスダイムは、悠然と尋問波動を発振。
 ソニックビート小隊に波動が照射され、三人は脳内の記憶をほじくりまわされる。
 斎木の脳内で、度重なる訓練と奮闘にも関わらず何度も撃墜、脱出を余儀なくされ、無力にウルトラマンと
怪獣の戦いを見るしかない斎木。
 美樹の脳内で、黙って宇宙に去っていく勇、そして極彩色の異次元で襲ってくるケムーリオス。
 柏村の脳内で、彼の目の前でいきなり巨大なハンターナイト・ヴァニルに変貌して街を壊す梶山参謀。
 三人は更に幼少期の怖い思い出や嫌な思い出まで引っ張り出され、絶叫する。ディフェンスポートで
由美子が尋問波動への対策を懸命に検討しているが、そう直ぐに出てくるものではない。
 焦った川上隊長の命令を受け、精神を壊される前に三人は後退するしかなかった。
「畜生・・・!!」

 次に、アルファが黙って前に出る。
 監視役のジャネットは、何時の間にか近くの山の高みに現れ、アルファの動向を見ている。

 デスダイムの放つ尋問波動を、アルファは素早い動きで回避し続けるが、追い縋って波動を撃ってくる
デスダイムの動きも素早く、反撃するタイミングを見出せない。気を抜いて接近すると強力な尻尾や右腕で
痛打を食らう。
「もたもたしてるんじゃないよ、デスダイム」
 アングラスはぱっと消えたと思うと、自分も巨大化してアルファの背後に現れ、不意打ちの蹴りを入れて
アルファを転倒させる。そこへデスダイムが襲い掛かり、怪力でアルファを無理に起き上がらせて右腕で押さえこむ。
 更に、左手のパラボラがすぼまるように変形し、理容店のパーマを掛けるあの機械のように変わる。それを
アルファの頭にかぶせ、尋問波動を直接頭に叩き込む。
『フォオオオオオオオオーーーーーッ!!!!!』
 ばちばちと稲妻が飛び散り、アルファが聞く者の精神に直接来る悲鳴を上げて暴れるが、デスダイムは
押さえつけて離さない。見守るソニックビート小隊。
柏村「これは、あれか・・・よくある、悪の組織に捕まって拘束されて頭に洗脳装置をかぶされるとかそーいうのか」
美樹「アルファ、しっかりして!!」

 アルファ=達志の頭の中で、過去の光景が次々襲ってくる。
一誠「うちには、人間でないものに身内はおらん!」
梶山「防衛軍は何も好きで敵と戦ってるんじゃない! できるだけ犠牲を防ぐため、あえてやらなければならない
汚れ仕事というものがあるのだ! それを我々ばかり悪いみたいに言いおって! 今度同じことが起こって
又被害が出たら貴様らのせいだからな!!」
長門「それがあんたらの仕事だろう! 国民はそのために税金を払ってるんだ! 怪獣や宇宙人と戦って、
死ななければならないときには死ぬのがあんたらの仕事だ! 僕達は別に礼を言う必要なんかない! 戦って戦って
最後の一人まで敵と心中してくたばれ!」
ズィーベン「これまで地球滞在の際に現地の人々と作り上げてきた関係をかなぐり捨て、戦士として黙って
帰還命令に従って宇宙へ帰っていった者達の立場はどうなる!? お前だけはその立場から逃れようというのか!?
許さんぞ、そんなことは!!」
恵「お父さんに追い出されてから、私が何度も連れ戻しに行ったのに、先生、中々帰ってきませんでしたよね。
私がどんなに心配だったか判りますか? そんな心配かけた城先生が、この人に偉そうなことをとやかく
言えるんですか?」
ジャネット「あの程度の不測の事態でここまでの危機に陥るようでは、今後貴方の言った大言壮語を実現
出来るか怪しいものですね。それとも、あれはその場しのぎの出任せですか?」
 人間を片っ端から貪り食うスラグロンやマテリスやベロス、片っ端から斬り殺すバラス星人・・・

 デスダイムに拘束されながら、段々ぐったりしてくるアルファ。
アングラス「ひゃひゃひゃひゃひゃ!! ウルトラマンアルファもこれで終わり・・・」
 どしゅっ、という音。

 デスダイムは、ゆっくりと視線を下げる。
 アルファが何時の間にか取り出していたアルファブレードの刃が、デスダイムの腹に、深く刺さっていた。
 じわじわと襲ってきた激痛に絶叫するデスダイム。
アングラス「な・・・何!?」
 思わず身を離して倒れこんで苦しむデスダイム。
 抜いたブレードを手にしているアルファは、又も、全身真っ黒の影で目とカラータイマーだけ光らせて
見下ろしている。
『人が過去のことを覚えているのは、失敗を教訓として同じ失敗を繰り返さないように努め、未来を
よりよいものにしていくためだ。お前達のように、他人の古傷をほじくり返すような不毛なことを
するためじゃない!!』
 デスダイムはまだ諦めず、左手のパラボラを伸ばして再び尋問波動を浴びせようとする。
 その前に、ウルトラ居合い抜きがデスダイムの左腕を斬り飛ばした。
 最大の武器を失ったデスダイムは、一方的に延々と殴られ蹴られた後、ギャラシウム光線で呆気なく
木っ端微塵にされた。

 こっそりと次元の穴を開けて逃げようとしていたアングラスの首根っこを素早く掴み、地面に激しく
叩きつける。それだけでアングラスは呼吸さえ困難になる。
「わ・・・わかった! もう地球侵略はやめるよ! 他の次元世界の奴らに精神攻撃をして侵略するから
許し」
 アルファは無言で、アルファブレードでアングラスの胴を貫いた。

 アングラスは絵の具が混ざり合ったような派手な色の血の泡を吹いてもがくが、最後に、苦痛混じりの
邪悪な笑いを浮かべる。
「君はさっき、又も綺麗事を吐いたが・・・過去の失敗を未来に生かそうという自覚を持っているのは、
君やその周りの極一部の者だけだ。ウルトラマンアルファ」
『・・・・・・・・・』
「大半の人間は、過去の失敗など何の教訓にもせず、その場しのぎの快楽のためだけに時間と資源を
浪費し、滅ぶのが判っていてもそのことから目を背けて同じことを繰り返す」
『・・・・・・・・・』
「君が何処まで綺麗事を吐き続けられるか、楽しみだよ・・・ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
 最後まで毒を吐き、アングラスは蒸発して消滅した。

 精神崩壊した街の人々が、防衛軍上層部から送られた医療班によって次々回収されていく。
社会復帰できる可能性はゼロ同然らしいが。
 その中には、28話でアングラスの甘言に乗せられて異次元に捕まり、達志とジャネットが見捨て、結局この街へ
流れ着いたあの連中も混じっていた。
 医療班の作業を見つめて立ち尽くす日高主任。
「どうせ俺達が何か言ったところであんたの上の連中は改めもしないんだろうから、何も言わない。
自分で考えてくれ」
 斎木は日高に言い捨て、ソニックビート小隊の三人は帰っていく。

 無人になった街を、遠くから見つめる達志。
「・・・帰ろう、達志君」
 一誠に肩を叩かれ、二人もその場から去る。

 ジャネットも最後まで見届けるだけで介入はしなかった。
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 ウルトラマンアルファ 33 悪魔と天使が同時に!?
 改造宇宙怪人・ゼラニオス、人造人間・リカ、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 ケムーリオス敗北からかなり間が空き、そろそろ次の作戦行動を行わないと本当に
本星からの支援を差し止められる(これがデフォルト状況)ので、ゼバット星人
地球侵略軍は久々に活動を再開する。
 いや、第1話からずっとウルトラマンアルファを強く敵視しているのは変わって
いないのだが、何度も強力な改造怪獣を送り込んでいるにも関わらず戦果が思わしく
ないので、決定打となる作戦を中々思いつかないのだ。
「ウルトラマンアルファは普段、城達志と言う地球人の男に化けて過ごしているという
情報を我々は掴んだ。色々考えたのだが、既に変身した後のウルトラマンアルファに
そのまま戦いを挑んでも勝ち目は薄い。そこで今回は、変身前の人間状態の時を狙って
謀殺する作戦を取る」
「おお、成る程」
「先ず奴の身辺に、地球人そっくりに偽装したスパイを送り、城達志の平時の動向を探る。
任せたぞ、人造人間・リカ」
「ははっ」
 ゼバット星人達の前で、小学生くらいの年恰好の少女・・・として、バイオ技術の粋を
集めて造られた有機質の身体の人造人間・リカがかしこまった。

 西野家。
「じゃ、今日はここまで」
 普通に恵の勉強を見ていた達志は、自室へ戻ろうとする。
「城先生」
「何? 恵ちゃん」
「最近、なんか疲れてませんか?」
「いや・・・気のせいだろう」
 笑って去っていく達志を見送る恵。

 恵から見えないところで、はあ、と溜息を付いて自室に入る達志。
「お邪魔しています」
「・・・・・・」
 部屋の中に、何時の間にか、ジャネットが立っていた。
 達志は皮肉げに笑い、
「ええ、四日市での戦いでは、心ならずも多くの被害を出してしまいました。僕の力が
至りませんでした。減点でも何でも・・・」
「別に減点はしません」
 答えるジャネット。
「あの状況は、私でもどうにもならなかったでしょう。二代目ウルトラ兄弟の勇士達でも、
例え元祖ウルトラ兄弟だったとしても、地球人自身の意識が変わらない限り、ああいうケースは
本当の意味では解決できません。どれだけ長い時間を掛けても地球人自身が解決しなければ、
地球人は永久にウルトラマンによる外からの庇護を受けるだけの弱い存在であり続ける」
「・・・・・・」
「ウルトラマンでも出来ないことはある。救えない命も叶えられない願いもある。そのことを
受け入れた上でそれでも絶望せず、人々を守りたいという気持ちを失わずに何度でも空しい
戦いに身を投じる。その行為を貴方が続けられるかどうか、それを見届けろ・・・と、
ズィーベン隊長やデリート隊長は仰いました」
「隊長が・・・?」
「くれぐれも私の意図ではありませんので。そこんとこ間違えないように」
 ジャネットは部屋から光と共に消えた。又何処かで見張るのだろう。

「慰労パーティ?」
「そう」
 達志の此処暫くの疲労振りを見た恵は、一誠と和子に達志の慰労パーティをささやかにでも
行って元気付けてはどうかと提案した。一誠と和子もその辺は承知していたので賛成。早速準備を
することになる。
 尚、恵は、事前にパーティを行うことを達志に伝えた。
「・・・いや、大したことじゃないし、それにこれはウルトラマンとして地球を守るための
当然の役目だから」
「いいの。私達が先生をねぎらいたいんです。やらせてください」
「・・・はい」
 達志としてもそりゃ嬉しいので結局は承諾。
 尚、こういうイベントだと、ギリギリまで当人には内緒にしておき、いきなりパーティを
開いて驚かせるというのがお約束なのだが、
『準備で急に皆が忙しくなって、しかも何か隠していてよそよそしくなり、それを「僕は
いらない子なんだー!」と勘違いした当人が何処かへ逃げ去ってしまう』
 というのもお約束なので、トラブルが起きるのを避けるため恵は先に伝えるという選択をした。
えーつまんないと言われても、
恵「傍から見てるほうは面白くてもこっちは迷惑なんです!!」
 後、ウルトラマンの日々の苦闘をねぎらうパーティというのも近所に言えるわけないので、
表向きは達志の誕生日パーティということにしておいた。

 恵の近所の従兄弟の哲夫もパーティに誘われ、どんな趣向で達志を祝おうかと考えながら
予定日まで過ごす中、桜ヶ丘小学校の彼のクラスに転校生が突然来た。
「青山リカです。宜しくお願いします」
 言うまでもなく、ゼバット星人のスパイの人造人間リカだ。
 人間達に悪印象を与えないよう、後ゼバット星人の趣味で、リカはかなりの美少女に造られていた。
当然クラスの男子の目を引き捲る。特に、偶然にも哲夫の好みにモロに嵌まっており、哲夫は
ぽわわ〜んとなってしまう。
 哲夫が達志の知り合いであることもリカは調べ上げていた。元より哲夫を伝に達志の下へ
案内してもらうつもりだったのだが、これは丁度いいと、リカは転校してきたばかりなので色々
教えてくれとにこやかに哲夫に言い寄る。哲夫もしまらない笑みで直ぐ了解し、他の男子の
冷たい視線も何のそのだった。

 リカは潜入を行う前に、ゼバット星人に重々注意されていた。
「いきなり直接的な行為に及んだら、絶対直ぐ殺される。この前、我々とは別経路で来た異次元の
侵略者がアルファを本気で怒らせ、そのためにマジでむごい殺され方をした。くれぐれも
じわじわとやれ。じわじわとだ」
 余りにもお約束に対して過敏すぎるとも取れる登場人物達だが、
「そりゃこれだけ何時も嫌過ぎる展開が続けば過敏にもなるわい」

 仲良くなった、というかリカに気を許した哲夫から、知り合いのお兄ちゃんの誕生パーティが
開かれるという話を聞き出したリカは、自分も参加していいかなと尋ねた。哲夫は何も考えずに
了解した。
 哲夫がパーティの場にいきなり友達を、しかも西野家には殆ど面識のない子を連れてきたので
一家は驚いたが、一緒に達志を祝ってくれるというなら無下に追い出すのも気が引ける。
とにかく達志の正体がばれないように気をつけるということで、一家も家に引き入れた。
既にばれているのだが、西野一家はリカが星人のスパイとは知らないから仕方ない。
 リカは達志と対面。まだリカの正体に気付かない達志は気さくに笑って、
「君が哲夫君のガールフレンドかい」
 古典的に過ぎる第一声。
「ちょ、ちょっと、やめてよ達志兄ちゃん、まだリカちゃんと僕はそこまでは」
 哲夫は勝手に過剰反応してにやけてぐねぐね身をよじっている。リカはそれには一切構わず、
おめでとうございますと言って達志と握手する。
 その瞬間、達志の心に、リカの思念が流れ込んできた。
(!!)
 達志は顔には出さず、心の中で身構える。
(君は・・・人間じゃないな!?)
(ふふふ・・・流石ウルトラマンアルファね。そう、私はゼバット星人に造られた人造人間。
貴方のデータを探り、地球侵略作戦に役立てるためにね)
 直接的な行為には及ぶなと言われたのに、何故いきなり正体を明かすのか。

 ゼバット星人に何度も念を押されたリカは覚悟を改め、敵地への潜入前の勉強として、
これまで潜入作戦で地球侵略を狙った先人達の作戦データを色々研究した。そして、ある先人の
非常に有効な作戦を発見した。
 友好的で無害な存在として地球の人々と事前に仲良くなり、守られるべき立場になる。
その後で、ウルトラマンとしての正体を隠している相手だけにテレパシーで自分の正体を明かす。
ウルトラマンとしては当然人間に化けている侵略者は倒さなければならないが、テレパシーを
持たない周りの普通の人々は侵略者の正体に気付けない。その状態でウルトラマンである者が
侵略者の化けている人間を攻撃すれば、周りの人々は気でも狂ったのかと攻撃したほうを
警戒する。真相を明かすには、ウルトラマンである者が侵略者の正体を見破った方法、つまり、
自分がテレパシーを使えるウルトラマンであることを人々にばらさなければならない。
 二代目ウルトラ兄弟の一員・シグマという戦士が傾倒していた大いなる力の戦士は、この
罠にまんまと嵌まり、潜入していた侵略者は倒したものの、自分の正体が周りに知れるところと
なってしまい、その戦いを最後に宇宙に帰らなければならなくなってしまったという。
 これだわ、とリカは確信した。上手くすれば、不戦勝でアルファを地球から追い出せる。
たっぷり精神攻撃して痛め付けてやろう。

(私の正体を見破ったのは見事だわ。けど、私を攻撃できる? 何と説明して? 私の正体を
周りに教えることは同時に、貴方がウルトラマンであることが周りに知れることなのよ。
貴方にそれが出来る? ふふふふふ・・・)
(・・・・・・・・・)
 達志は唖然としている。
(ふふ、声も出ないのかしら?)
(いや)
 達志は、何の気なくテレパシーで言った。
(僕の正体、この家の人達にはもうばれてるし)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 は?)
 何を言ってるのか判らないリカ。

 結構情報通のゼバット星人だが、達志の正体を既に西野一家が知っているという情報までは
まだ掴んでいなかった。当然、リカも知らなかった。何度もテレパシーで達志が説明した後・・・
「じゃ、何であんた地球にいるのよ!?」
 思わず大声で激昂してしまった。西野一家も驚く。
「うん、まあ色々あって・・・ああそうか、あの有名な故事かあ」
 達志はリカの作戦意図を理解し、
「うん、あれは有効な手だよね。あの手は確かにこれ以上ない卑劣な手だけど、純粋に戦略として
考えればすっごい頭いいと思うよ。僕もそれについては高く評価してる。機会があれば使ってみたい
くらい。只、今回は巡り合わせが悪かったのと、もう少し地球人との信頼関係を深くしておく
べきだったね」
『もう少し頑張りましょう』の判子を押して達志はリカにあげる。
「しかし、あれだね。ウルトラマンは正体がばれたら地球にいられなくなるという固定観念に
捉われてるのは、敵宇宙人側もそうなんだねえ。そろそろその辺から抜け出そうよ」
 達志に悪気は全くない。しかし、リカはプライドを痛く傷付けられた。
「あっ」
 半泣きで真っ赤になってリカは表に飛び出す。そして、
「ゼラニオスーーーーー!!」
 結局自棄になって手下の怪獣を呼び出した。

 街中に突然異次元から転移してきた巨大な敵・ゼラニオスは、ゼラン星人の改造強化体だ。
学帽に学生服に半ズボン、背中にランドセルをしょった聾唖者の小学生の輝夫君。でも、
頭だけは、ただれてしわしわの皮膚、黒く落ち窪んだ目に牙の生えた口、夢に出そうな醜悪な顔。
そんなものが、サイズだけ大怪獣レベル。縦笛でアマリリスを吹きながら、住宅を踏み潰して
こっちに歩いてくる。眺める西野一家。

恵「・・・宇宙人の手先だったんですか? あの子」
達志「そうみたい。じゃ、ちょっと行ってくる」
 達志はアルファに変身した。

 対峙するアルファとゼラニオス。アルファから見ればゼラニオスは小学生の体格である。
然程強敵にも見えない。
『あの新技を使ってみるか』
 アルファはアルファブレードを出し、抜き身にしてゼラニオスに向かって投げる。すると、
ブレードはくの字型に変形し、ブーメランとなって飛んでいく。対ケムーリオス戦の時
ブレードに回転を掛けて投げ、死角から戻ってきたブレードはケムーリオスの背に突き立ち、
大ダメージを与えた。それにヒントを得て新たに編み出した技『ブレードブーメラン』である。
 地上で見ているリカ。
「ははははは、ばかめ! ゼラニオスに飛び道具を使うとは!」
 ゼラニオスの背中のランドセルが、カチカチと妙な機械音を立て始める。すると、
その内部から異様な波動が発振され、ブレードブーメランに干渉。
『・・・何!?』
 ブレードブーメランは不自然に向きを変え、逆にアルファを襲ってきた。アルファは
慌てて回避するが、ブーメランは何度も襲ってくる。
 かつて、伝説の武器・ウルトラブレスレットの変形したウルトラスパークも逆に操った、
ゼラン星人のあの妨害電波。それが、電波関係ないはずのブーメランの制御をも奪う
強力なコントロール波に改造されているのだ。
「直接手を下すまでもない、お前は自分の武器で滅び去るのよ、ウルトラマンアルファ!
ははははははは!」
 リカは勝ち誇る。

 だが、又も、そこまでだった。
 ぶしゅっ、という音。二箇所から同時に。
 何度避けてもきりがないと悟ったアルファは、ブレードブーメランを、自ら食らった。
咄嗟に前に出した左腕に刃が深く刺さっているが、ブーメランの攻撃はそこで止まった。
カウンターで突き出した右手からのハンドギャラシウムの小さな光弾で、ゼラニオスは、
喉を撃ち抜かれた。
 喉から鮮血を流し、ゼラニオスは倒れ、絶命した。めちゃめちゃ打たれ弱かった。

 西野家に帰って達志は左腕を恵に手当てされ、その後、慰労パーティはささやかに、
しかしのどかに盛り上がった。哲夫のみが、リカが宇宙人の手先だったことに呆然として
ソファーで脱力していた。

 逃げ帰ったリカはまだ何のダメージも受けていないということで、地球侵略作戦から
いきなり外されて処刑されるとかいうことはなく、再度出撃の機会を待つことを許される。
しかし、ゼラニオスを無駄死にさせたことについてはゼバット星人に正座させられて
半日罵倒気味で怒られた。泣きながら、
「おのれ、ウルトラマンアルファ・・・この屈辱は必ず晴らしてやる!!」
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 ウルトラマンアルファ 34 リカとゼバット星人
 宇宙狂科学者・ドルカン星人、爆弾アンドロイド・チェリオ、
 人造人間・リカ、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


 ゼバット星人の異次元アジト。
 星人達のリーダーの下に、人造人間リカがやってきてある要請をした。
「怪獣になりたい?」
「そうです」
 リカは後学のために又過去の侵略者の資料を漁っているうち、地球に送り込まれるスパイに、
有事には巨大怪獣に変身して直接ウルトラマンと戦う者が多く居るというデータを見出した。
「直接戦う力があればウルトラマン等に負けはしません。何故私の体をこんな地球人と変わらない
非力な体に造られたのですか?」
「そりゃ、お前を造った目的が敵地に潜入させての情報の調査だからだろう。余計な力は必要ない。
直接戦闘は改造怪獣にやらせればいい」
「そこを何とか」
「却下」
 リーダーは折れない。

 食い下がった末、潜入調査がしやすいように新たな能力として光学迷彩で保護色を使って姿を消せるように
なったが、そこまでだった。仕方ないので、姿を消しながら今回も地球へ城達志の身辺調査に向かう。
前回リカの正体がばれたため、もう素性を偽って近づく手は使えない。
(こうなったら、姿の消えた状態で気づかれないように近づいて殺るしかない・・・)
 暗殺用に、小型のナイフや鈍器などを隠し持ってきている。
 物陰に隠れていたリカはふと、近くの塀に目が行った。そして、愕然とした。
 あちこちの塀や電柱に、リカの写真つきのコピービラがべたべた貼ってある。
 ビラを作って貼ったのは、哲夫だった。リカが宇宙人の手先だったと知っても諦めきれず、いなくなった
リカを見つけ出すために。『おこるといじげんからかいじゅうをよびだすすがたがけなげです』とか
又平仮名で解説が書いてある。
「本当にこれで見つかるの? 哲夫君」
 達志と一緒に様子を見ている恵が尋ねる。
「やってみなくちゃわからないよ。僕も達志兄ちゃんを見習って積極攻勢に出ることにしたんだ。
こうしていれば、何時かリカちゃんは僕の下へ帰ってきて、そして・・・」
 夢見がちになっていたところを、姿を消しているリカに後ろから殴られた。
 哲夫はうつぶせに卒倒。何故そうなったのか判らず驚いている達志と恵を他所に、リカは又激昂して
その場から走り去った。

「どうも上手くいかないわ」
 ずっと姿を消しているのも力を消耗するので、住宅地から離れて繁華街に出た辺りで姿を現し、
リカは愚痴りながら歩いていた。
「私にウルトラマンを倒せるだけの力があれば・・・」
「その願い、かなえてあげようか? お嬢ちゃん」
 声を聞いて顔を上げると、にこやかに笑う初老の紳士がいた。
 リカは、その男が宇宙人の変身した姿だと直ぐ見抜いた。
「誰? あなた・・・」

 特命防衛隊・北米支部。
 アリゾナの荒野に建てられていた兵器工場が爆破され、壊滅的なダメージを受けた。
「何てこと・・・!」
 炎上する工場を見ながら歯噛みするダイアン隊長。

 同じように、各地の特防の軍事施設が散発的に爆破され、被害を受けるという事態が相次いでいた。
 爆破犯は、人間、しかも若い女性に偽装して人工的に造られた機械人間、アンドロイド。
 人間社会に紛れ込んだ後、驚くべき運動能力を発揮して特防の施設に潜入し、破壊工作を行う。
施設に詰めているセキュリティに妨害されてにっちもさっちも行かなくなったときは、体内に仕込まれた
高性能爆弾で自爆して任務を遂げる。爆発に巻き込まれ、既に多くの犠牲者も出ている。
 ディフェンスポートでもオペレーターとしてミリーを使っている今、人間そっくりの精巧なアンドロイドが
居ること自体はそう驚くことでもない。意外な事実だったのは、自爆したアンドロイドの残骸を回収して
調べたところ、地球の技術によるものではない素材や技術が使われていた辺りである。

「俺も驚きましたよ」
 北米支部からの通信回線でモニター越しに語る沖田茂樹隊員。情報を持ってきたのは彼だった。
「日本支部も何時狙われるか知れません。用心してください」
 沖田も既に懸念している通りだが、特命防衛隊はこの事件を宇宙からの侵略者によるものとし、捜査を
行うことになった。
 沖田は最後にオペレーター席のミリーに、
「お前も気をつけろ。もし敵のアンドロイドが来ても、タイマン勝負とか言うことは考えるなよ」
「はい」
 通信が終わる。
斎木「しかし、特防狙いでまだよかったぜ」
柏村「全くだ。一般市民の居住区ででも無差別に爆破テロとかされたら・・・」
川上「いや、可能性はゼロではない。厳重にパトロールを行うのだ」
一同「了解!」

 リカは宇宙人の男と一緒に、町外れの廃屋に来た。
 男は、他惑星侵略に当たっての潜入工作員を用途に合わせて改造する技術を持った技術者だと名乗った。
今地球各地で破壊工作を行っているアンドロイドも、彼の手によるものだという。
「見たところ、君は人造人間として非常に興味をそそる素材だ。どうだ、私の手で強化改造を受けて
見ないかね。ウルトラマンを倒したいという君の希望にも沿えると思うがね」
 リカは考えた。上司達の意向を無視して勝手な行動をするのは気が引ける。だが、今の調子では
ウルトラマン打倒は夢のまた夢であろう。結果、男の誘いに乗ってついてきた。

 廃屋の地下に建造された研究室へ降りる。未知の文明の機械が敷き詰められている。改造手術用の
ベッドや、転がるアンドロイドのパーツ群も見られる。
 準備をするので待っていてくれと言い、男は通路の奥に消える。
 所在無く待っている間、リカは、何かの気配を感じた。どうしても気になる。気配の方向を見ると、
中途半端に扉の開いた部屋があった。
 ついそろそろと近づき、覗いた。
 やめておけばよかった。

 大きく透明な水槽が幾つも並んでいる。水槽の中には保存液が満たされ、その中に漬けられているもの。
 バラバラに斬り刻まれた、人間の女。
 一人分や二人分ではない。大きな部屋一杯に並ぶ、無数の猟奇死体の標本。
 リカの絶叫が響き渡る。

「おやおや、見てしまったのかね。いかんいかん、うっかり閉めるのを忘れていたようだね」
 男が白々しく後ろから現れる。リカが興味を起こすことは計算済みだった。
「地球人そっくりに似せたアンドロイド工作員を造る為には、本物の地球人を隅々まで徹底的に調べんと
いかんからね。サンプルを採集していたのさ」
 嘘だ。絶対個人的趣味だ。

「さあ、君も改造手術を受けたまえ。ウルトラマンも防衛軍も一発で倒せる力を与えてやろう。
そうだ、やはり強力な爆弾による自爆攻撃がいい。若い女の身体がバラバラに飛び散る光景は
実に美しいからねふへへへへへへ」
「いや! やっぱりいや!」
「何を言うかね。君の目的は地球侵略のための戦力強化なのだろう。強力な力を持つ怪獣兵器に
攻撃されて死ぬのも、私に斬り刻まれて死ぬのも、結果的に死ぬなら同じだろう。君のやろうと
しているのはそういうことなのだよ。私と変わらんのだよ」
「そ・・・それは・・・!」
「君のような子供の姿なら、周りの者達はどうしても油断する。不意を突いて自爆攻撃で
吹っ飛ばすには打って付けの素材だよ」
 男はリカを追い回す。リカは恐怖の余り、光学迷彩で消えられることも忘れて悲鳴を上げて
逃げ回る。しかし、次第に追い詰められていく。
「さあ、こっちへ来るんだ・・・」
 袋小路に追い詰められたリカに男の手が伸びようとしたとき。

 何もないはずの中空から、いきなり打撃が飛び、男の背を激しく蹴った。初老の男は
呻いて倒れる。
 蹴った足だけ先に出し、次元の穴から、ゼバット星人のリーダーが身を乗り出してきた。
リカ「リーダー!?」
ゼバット星人リーダー「逃げるぞ。来い」
 リーダーはリカの手を引き、異次元へ救い入れた。
 他にもゼバット星人の兵士達が来ており、自分達の征服目標である地球を横取りされて
たまるかと、光線銃や鈍器でアジトの機械群を破壊して回り、適当で撤退した。
 破壊活動のためにアジトの廃屋から火の手が上がり、結果、特防は事件の主犯の隠れ家を発見。
ソニックビート小隊が攻撃のために出撃する。

「おのれ、ゼバット星人め。長いこと地球を狙っていながらろくに戦果を挙げていない
弱小の癖に、こんなときだけゲリラ戦とは姑息な真似を・・・最早これまでか」
 初老の男は、猟奇な性癖に相応しいグロテスクなドルカン星人の正体を現し、巨大化する。
 飛んでくるソニックビート小隊。
柏村「ふん、巨大宇宙人といえど、強化型戦闘機のソニックビートなら楽勝よ!」
美樹「待って、あれを見て!」
 ドルカン星人の出現に呼応し、彼の造った女アンドロイド達がアジト跡から一斉に走り出してくる。
そして一箇所に集結し、ナノマシン融合して一体になって巨大化していく。
 シルエットこそ見事なプロポーションの女性だが、全身メカ剥き出しの不気味な巨大アンドロイドが
誕生した。
『チェリオ! 特命防衛隊を倒すのだ!』
 名を呼ばれたアンドロイドは星人の命に従い、口から強力なレーザー光線を吐いてソニックビート
小隊を狙ってくる。星人も手から光線を打ち、迂闊に近づけない・・・

「アルファーッ!!」
 駆けつけた達志がアルファプラスで変身。ウルトラマンアルファとなってハイジャンプし、
空からチェリオにキックを見舞う。激しい打撃を受けたチェリオは後ずさって身構え、
アルファとの対決となる。
 両者拳や手刀の応酬をしながら間合いを取り合い、やがて、チェリオの後ろに回り込んだ
アルファがチョップを放とうと素早く走り寄る。
 チェリオはセンサーでそれを感知し、首を180度回転させ、首だけアルファを向いて口から
レーザーを放つ。アルファが間一髪で回避する。チェリオは更に首をぐるぐる回転させ、
そこら中見境なくレーザーを撃ち出す。次々爆発する大地。
 遂にアルファは避けきれなくなり、巻き起こった爆発で倒れる。チェリオはその隙を狙って
飛びかかり、アルファを押さえつける。凄い怪力で振りほどけない。

 チェリオの体内から、カウントダウンの音が、かちかちかちと聞こえてくる。自爆の時限装置だ。
アナログらしい。
 だが、此処で爆発させるわけには行かない。等身大のときでも特防の施設に甚大な被害を
出したほどだ。巨大化したこの状態で爆発したらどれほどの大被害が出るか判らない。
『フ・・・フォアアアアアアッ!!』
 アルファは雄叫びを上げ、渾身の力でチェリオを無理やり引き剥がした。
 アルファを掴んだままの両腕が千切れ、身体からぶら下がっているが、構わず空高く
チェリオの身体を投げ飛ばす。被害が及ばない高所まで投げられたところで、チェリオは
大爆発して四散した。
『お・・・おお、美しい!!』
 ソニックビート小隊と戦っていたドルカン星人が、その爆発に思わず見とれる。
「ふざけるな!!」
 斎木の怒号と共に、三機のソニックビートから一斉にホーミングミサイルが掃射され、
ドルカン星人も粉々に吹き飛ばされた。恍惚感に酔いながら。

 ゼバット星人達と異次元空間を移動してアジトへ戻っていくリカは、彼方に見える
地上の戦いぶりを振り返る。粉砕されてバラバラのパーツになって地上に転がるチェリオの
無残な残骸が見えた。
「戦うためだけの化け物になるというのは、ああいうことだ。お前はああなりたいのか」
「・・・・・・」
 ゼバット星人のリーダーの言葉に、リカは返答を返せなかった。
 今回はそのままゼバット星人達はアジトへ帰り、この事件はこれで終わったのである。
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 第20話で、ゾーリミオスとの決戦に赴くウルトラマンアルファに、前座扱いで瞬時に両腕を斬り落とされて
倒れ、それっきりだった改造暴君・ハーケンマグマ。
 実は、奴はまだ生きていた。


 ウルトラマンアルファ 35 怨念兵器リターンマック・1
 怨念兵器・リターンマック、改造暴君・ハーケンマグマ、
 改造宇宙忍者・ゴーストバルタン、改造異次元超人・ファイヤーヤプール 出現


 ハーケンマグマは、辺境宇宙の一角に来ていた。青息吐息で。
 両腕は失われてそのままである。当然大量に流血し、地獄の激痛を伴い、それでも逃げ延びたその後も
激しく難儀したが、生き延び続けてきた。アルファへの憎悪だけを心の糧にして。
 宇宙の多くの星を蹂躙した後刹那的に滅ぼし、地球の侵略も狙ってきたが、今やそんなことはどうでもいい。
アルファを倒した後、それに連なるものも全て皆殺しにする、それ以外のことはもう考えられない。
 これまで共闘していたゼバット星人は、最近守りに入ってしまって当てにならない。元から当てに
ならなかったが。マグマは自力で行動を始めていた。
 そんな彼と奇遇にも合意し、現在行動を共にしている二人の同道者がいた。片や、バルタン星人の残党。
もう一人は、ヤプールの残党。

 バルタン星人は、初代の時期からの老兵であった。判りやすく口周りには長い白髭。そろそろ体力的にも
衰えてきている。バルタンといえば初代ウルトラマン地球就任期から延々とウルトラ戦士との因縁の戦いを
続けているという印象があるが、実は、R惑星に仮移住して以来長く滞在を続けているうちに本陣での一般市民の
生活は段々安定してきており、もう無理して地球を狙うこともないのではいう和平派まで出始めている。
それでも地球侵略を狙うのは、余程腕に自信のある者か、最早個人的な因縁で執拗にウルトラ戦士や地球を
憎んでいる者だけである。今ここに居るのは無論後者。
 ピース9〜11話での総力戦を最後に地球との交戦も長く途絶えてしまっており、今のところ
カイザー1〜2話までバルタン族単独による大規模作戦の予定はない。この場のバルタンは扱いとしては
9代目になるのだろうが、それを名乗るには余りにも心許ない戦力だった。
 一方のヤプール。これも、最初期の地球近辺での勢力がついえた後もしつこく地球やウルトラ戦士を
狙い続け、最近のあの映画は皆さんの記憶にも新しいところだろうが、あの戦いで本勢力(巨大ヤプールの姿は
全ヤプール人が合体したものということらしいので、多分そうなのだろう)が神戸湾の底深くに封印されて
しまって以来、事実上活動はストップ。それでも、爆破されて破片となってもその一個一個が悪意を放ち続ける
執念深いヤプールは、かろうじて自分の分身を宇宙に離脱させていた。それが成長したのが今この場の
ヤプールである。姿も巨大ヤプールのそれである怪物的なものになっているが、力はかつてとは雲泥の差。
後、まがってしまったかおはなおせなかった。タロウでの改造版。
 かくして揃った三人。名前だけ見ればそうそうたる顔ぶれだが、実際は長く貧しい潜伏生活でひいひい
言っているみすぼらしい姿である。地球侵略など到底望めない。そこで、彼らはこの場にやってきた。

「これだ・・・」
 リーダー格のマグマが呟く。
 彼らが苦しい探索活動の末に発見したのは、宇宙の平和の破壊を望む何者かの邪悪な勢力が残したといわれる
オーバーテクノロジーだった。巨大な円盤にも見えるメカニックの塊。外観こそ古びているが、何か、非常に
危険な気配を放っている。
 怨念兵器・『リターンマック』。
 力による他惑星の強制支配や滅亡、ウルトラマンへの復讐等、純度の高い邪な願いを持ち続ける者に応え、
強力なパワーを与えてくれる機械。これまで多くの強豪怪獣や宇宙人が何度倒されても折に触れて蘇ってきた
原因の一端は、この兵器によるものだという。
 その伝説を証明するかのように、巨大な円盤は三人の邪心に反応し、再び起動した。
 地鳴りのように機械音がしたと思うと、円盤から青白い稲妻が三人に走る。三人は稲妻に打ちのめされて
翻弄されるが、最初は強烈な苦痛だったのが、じわじわと強く邪悪な力が体にみなぎり、光の中で彼らの
シルエットが変貌していく。
「おお・・・勝てる、これなら勝てる・・・今度こそ、あの忌々しいウルトラマンアルファをぶっ殺してやれるぜ!
ハハハハハーーーーーッ!!」

「と、いう感じの事態が今起こっています」
 ジャネット人間体が達志に情報を持ってきた。
 力を得たマグマ達は太陽系に向かってきている。今の彼らは、ウルトラマンと地球への激しい憎しみによって
見境がなくなっている。阻止しなければ地球は容赦なく蹂躙されるであろう。
「今回の件は地球防衛のための宇宙警備隊の正式な活動となり、私も出撃します。いらっしゃいますか?」
 無論、達志も行く。

 ウルトラマンアルファと女ウルトラマン・ジャネットは地球から飛び立ち、太陽系を進んでいく。
 アルファはマグマ達に強い怒りを感じていた。
「僕は奴らを許せない。当初の目的は地球侵略だったはずが何時の間にか個人的な恨みにスケールダウンして、
しかも関係ない周りの者に迷惑を掛けることを屁とも思わないような本末転倒で勝手な奴らは許さない!」
 めっちゃ個人的な理由で宇宙警備隊を抜け出して、散々好き勝手してきたあんたがそれを言うのかと
ジャネットは思う。
「そもそも、ハーケンマグマは貴方への恨みから・・・」
「先に手を出したのはあいつだ。元より僕との因縁と関係なくあいつは地球侵略を狙い、実際東京を再び水没
させようとしたり神奈川を壊滅状態にしたり、ろくなことをしてきていない。負い目を感じる必要などないね」
「言ってくれるじゃねえか」
「!」
 マグマの声と共に、巨大な質量のものが眼前に空間転移してきた。
 リターンマックの上に、凶悪宇宙人二人、凶悪異次元人一人が乗っている。いずれもより恐ろしい姿に
変わっていた。
 ハーケンマグマの巨大な両腕は多関節で自在に動き、一節一節が巨大な鋭い刃。物が掴めるのか疑問だが、
彼としてはこの刃でアルファを斬り刻めれば何でもいい。体そのものも強靭な筋肉で膨れ上がっている。
『ゴーストバルタン』となったバルタンも、同様の変化。体がより逞しくなり、彼ら種族の特徴であり武器である
両手の多機能なハサミも巨大化して強力になっている。
『ファイヤーヤプール』となったヤプールは、他二人とは違う様相を見せ、火力が上げられている。どうなったのかと
いうと、彼ら種族の地球侵略開始に当たっての超獣一号機、ミサイル超獣・ベロクロン。その絶大な威力を持つ
ベロクロミサイルが搭載され、全身からあのサンゴの枝のような生体ミサイル発射器官が生え、更に左手の先は
ベロクロンの頭部に変わり、口から大型ミサイルと火炎を切り替えて発射できる。巨大ヤプール本来の能力である
多種類の破壊光線発射機能もパワーアップしている。
 かような強化を遂げた三人は更に、同行してきたリターンマックのバックアップを受けている。

 しかし、その光景を見てもアルファは怯まない。
アルファ「逆恨みをするのは勝手だが、僕は頭を下げる気はないぞ」
マグマ「直ぐに下げる気になるさ」
ヤプール「もっとも、許してやる気はないがな」
バルタン「この戦力相手に、お主ら二人だけでどう戦う気じゃ? ボフォフォフォフォフォ」

「二人ではない。もう一人居る」

 かつん、かつんと、微妙にバランスの悪い乾いた足音。
 振り返るアルファ。
「・・・ズィーベン隊長!?」
 かつての上司が、ウルトラ松葉杖をついて現れた。
「俺もデリートから正式に任務を受けた。さっさと片付けるぞ」
 三人の光の巨人と、三人の復讐の鬼が対峙し、宇宙の真空が張り詰めていく・・・
 続く。

 尚、足場のない宇宙空間でどうやって杖の音を響かせて歩いてきたのか。それは誰も知らない大宇宙の謎である。
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 辺境宇宙で怨念兵器・リターンマックを手に入れ、それを作動させて強力な力を身につけた改造暴君・
ハーケンマグマと、その仲間となったゴーストバルタンとファイヤーヤプールは、憎きウルトラ戦士達への
復讐と地球への侵攻を行うため、太陽系へと侵入してきた。ウルトラマンアルファ、女ウルトラマン・
ジャネット、そしてウルトラマンズィーベンの三人がこれを迎え撃つ!


 ウルトラマンアルファ 36 怨念兵器リターンマック・2
 怨念兵器・リターンマック、改造暴君・ハーケンマグマ、
 改造宇宙忍者・ゴーストバルタン、改造異次元超人・ファイヤーヤプール 出現


 三対三で、各々が自然に互いの相手を選んで戦い始める。
 先ず、ジャネットとファイヤーヤプールがぶつかる。
「消し飛べ、ウルトラマン!!」
 ファイヤーヤプールはいきなり、全身のベロクロミサイル、左手のベロクロンの口からの大型ミサイル、
そして鎌のような右手からのビームなど、火力を総動員してきた。暗い宇宙が眩しく光る。
「グローピス!!」
 対してジャネットはカプセル怪獣・グローピスを召還。カプセルを投げると白い光の渦が湧き上がり、
その中からグローピスが現れる。グローピスは両手のクローを開いて電磁バリヤーを展開、ファイヤー
ヤプールの弾幕の一打目を防ぎ、後ろからグローピスを飛び越えたジャネットが、討ち漏らしのミサイルを、
腕が何本にも見える拳の連打で弾き、体に当たる前に爆破。
「何!?」
 驚くヤプール。ジャネットは更にヤプールに接近戦を挑もうと迫る。
「いかん・・・!」
 射撃戦に特化しすぎているファイヤーヤプールは、不利な格闘戦を避けようと後退しつつ執拗に
弾を撃つ。ジャネットはものともせずミサイルを弾きながら追い詰める。
「この相手は、くみしやすそうですね」

 ズィーベンはゴーストバルタンと対決。
「フォフォフォフォフォ、わしの動きについてこれるか?」
 ゴーストバルタンはズィーベンの周りを素早く動き回り、更に残像で得意の分身を大量に発生させる。
その状態でズィーベンを包囲し、ハサミから威力の倍加したバルタンロケットを一斉に撃つ。
 しかし、一向に当たらない。
 ズィーベンは涼しい顔で松葉杖を突きつつ、僅かな動きで体の位置を微妙にずらし、それだけで弾を
回避し続ける。
「おのれ・・・何故当たらんのじゃ!? げふぉっげふぉっ・・・」
 調子に乗って加速を続けたゴーストバルタンの方が息が切れてくる・・・

 アルファはアルファブレードを抜き、ハーケンマグマの両腕の巨大な刃と打ち合い、拮抗しながら
凄絶なドッグファイトを展開。
マグマ「しぶとい野郎だ・・・おとなしく斬られやがれ!!」
アルファ「僕は、只のんべんだらりと長いこと地球にいたわけじゃない。ロートルのズィーベン隊長に
しつこく追い回されたり、陰険なジャネットにねちねちねちねち嫌味言われて尻を叩かれ続けたり・・・
けど、そうやってしごかれ続けた御蔭でスキルはこれまで以上にアップしてるんだ」
マグマ「何ぃ・・・!!」
アルファ「これまで宇宙警備隊員として苦闘を続けてきたズィーベン隊長やジャネットも同様だ。お前達が、
出所もよく判らない胡散臭い力で多少底上げしたくらいで・・・追いつけるものじゃない!!」
 アルファはブレードを振り下ろす勢いだけで、ハーケンマグマを弾き飛ばした。
「ぐぅ・・・ッ!!」
 大きなダメージを受けたマグマはそれでも諦めず、アルファへの憎しみを燃やす。

 マグマの仲間二人も、不利に陥っていた。
 ゴーストバルタンは遂に息を切らして動きが鈍ったところでズィーベンに急接近され、ウルトラ松葉杖で何度も
打ちのめされて吹っ飛ばされる。ファイヤーヤプールは弾が切れたところで同じくジャネットに格闘戦に持ち込まれて
叩きのめされ、とどめにグローピスにクローで掴まれてパイルバンカーの連打と電撃の連続攻撃を食らい、
グロッキー状態。
「おのれ・・・我らヤプール、怨念となりても必ずや復讐せん!」
「勝負はまだ一回の表じゃ!」
 それでも彼らもマグマ同様、往生際悪く悪意を燃やし続ける。

 三人の執拗な悪意に、リターンマックが反応した。
 リターンマックが、再びマイナスエネルギーを青白い稲妻として大量に放つ。
ズィーベン「何だと!?」
 稲妻は邪悪な三人に命中。すると、マイナスエネルギーが彼らの体に補充され、三人は再びフルパワーで
復活してしまった。ヤプールとバルタンの撃った弾も全て補充された。
マグマ「ははははは! 俺達は何度倒されてもリターンマックの力で蘇るのよ!」
ヤプール「どれだけお前らが頑張っても同じことだ!」
バルタン「お主らこそ何時まで持つのかのう、フォッフォッフォッフォッ!」
 ここに来てリターンマックを危険視したウルトラマン三人は一箇所に固まり(グローピスも)、リターンマックを
優先して攻撃しようとするが、フル回復した三悪党がそれを妨害し、思うように行かない。確かに、このままでは
ウルトラマン側がジリ貧になる・・・!

 と。
 リターンマックの表面で、激しい爆発が起きた。
 即座に大破するほどの威力ではない。だがこの爆発で、つい先日ドルカン星人は一撃で倒された。
 ホーミングミサイルの一斉掃射。
 特命防衛隊の、ソニックビート小隊が駆けつけたのだ。
斎木「地球を守っているのは、ウルトラマンだけじゃないんだよ!」
柏村「折角新型機が出たのに、中々まともな活躍がなかったからな。暴れさせてもらうぜ!」
 かつての凶悪宇宙人の一団が、巨大な機動兵器を駆って地球に迫っているのは、特防にもキャッチされていた。
N-BID時代に大型戦闘機ヴァルチャーの太陽系外周への移動時にも使用されたワープエンジンは、あれからの技術の進歩で
小型化されており、今回ソニックビートは緊急措置でそれに換装して一気にこの場まで跳んで来たのだ。
 小隊はウルトラマン側を援護すべく、リターンマックに猛攻を掛け始めた。リターンマックも稲妻を
放って応戦するが、ソニックビートの回避性能の前にはかすりもしない。
「うぬぬ・・・地球人野郎が生意気な真似を!」
 マグマは小隊を排除しようとするが、
「お前の相手は僕だろう!」
 アルファが割って入り、マグマの足を止める。マグマはリターンマックの損傷が気になってアルファとの
戦いに集中できない。
 ズィーベン・ジャネット組とヤプール・バルタン組も戦いを再開。マグマ同様攻守が逆転している。
 ゴーストバルタンが奇声を上げて巨大なハサミでズィーベンに襲い掛かるが、死角から銃撃されて
吹っ飛ばされる。
 撃ったのは、リターンマックを攻撃する斎木・柏村と別動してウルトラマン側のフォローに入った美樹。
ズィーベンの前を通り過ぎながら、コクピットの中で振り向いて親指を立てて笑いかける。
(美樹・・・)
 彼女が明るい笑顔を取り戻していることが、ズィーベン=勇は素直に嬉しい。戦いにも更に気合が入る。

 ファイヤーヤプールも、変わらずジャネットとグローピスのコンビネーションにペースを乱される。
特防の介入で、既に大勢は決した感じ。
「おのれ・・・おのれおのれえッ!! おいヤプール、バルタン、あれをやるぜ!!」
「あれか」
「おう、やらいでか!」
 三悪党は後退したと思うと、リターンマックの下に集まる。そして、三人の半身が、リターンマックの
機体に融合していく。リターンマックの正面に、剥製のように三人の上半身が並んで生えた状態になる。
マスターが合体することで、リターンマックはより強力なマイナスエネルギーを発揮するのだ。
「手前ら皆、跡形もなくしてやるああああ!!」
 マグマの怒号と共に、リターンマックが膨大な負の力を湧かせ始める。収束して一気に解放すれば、
ウルトラマン達もソニックビート小隊も消滅するだろう。
ズィーベン「力に取り付かれて大義も本分も忘れたか」
ジャネット「引導を渡してやりましょう」
 三人のウルトラマンもリターンマックに対峙して並び、光の力を貯め始める。グローピスも、ソニックビート
小隊も援護射撃の準備。この一撃で決着がつく。

「ギャラシウム光線!!」
「ズィーベンショット!!」
「本邦初、ジャネットブレイザー!!」
 各必殺光線が一斉発射。ソニックビートのミサイル群も、グローピスの電撃も。
 リターンマックから放たれたマイナスエネルギ
 そして。

 宇宙を股に掛けて非道の限りを尽くしてきたハーケンマグマの接写された悪鬼の形相が、光の中で
炭化して塵になって消えていく。ファイヤーヤプールもゴーストバルタンも。
 怨念兵器リターンマックは、集められた勇士達の渾身の合体攻撃の前に、今度こそ、無に帰した。

「さらばだ、ハーケンマグマ」
 黙祷し、それでさらりと終わらせたアルファは、ズィーベンとジャネットが見詰めているのに気付く。
「な・・・何ですか?」
「ロートルがどうとか言ってたな」
「陰険がどうとかとも」
「あ・・・いえ、それは親愛の情を込めた、今流行のツンデレという奴で・・・いや、本当に感謝
してるんですから。そんな怖い顔しないで」
 迫ってくる二人。
 アルファはごめん許して助けてーーーーーと逃げ出し、二人の巨人に待てこらーと追われていく。
斎木と柏村は巨大な三人のウルトラマンが何をしているのか判らずきょとんとしている。
美樹だけがとほほと苦笑していた。モノアイの顔で表情は判らないが、グローピスも。
 腐ったベタオチが出来るほどに、今この場は束の間の平和だった。

 おしらせ
アルファ「何時も応援有難う! もう知ってる人もいるだろうけど、オリジナルウルトラマンシリーズの
投下先・・・じゃなくて、時間帯がもう直ぐ大幅に改変されるんだ。皆気をつけてチェックしてね」
ズィーベン「まあ、今回の話は節目としては丁度よかったかも知れんな。三クール目も締めが近いし」
ジャネット「この話が最終回とうっかり勘違いする人もいそうですね」
アルファ「ともかく、時間帯が変わっても、これからもオリウルシリーズを宜しくね! 序ででいいから
『ウルトラマンアルファ』もねー! じゃあ又ねー!」
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 ウルトラマンアルファ 37 光の罠・1
 改造光怪獣・プリズミオス、改造宇宙有翼骨獣・ゲランディオス、
 苦情宇宙人・ノアン星人、宇宙異次元人・ゼバット星人、人造人間・リカ 出現


 ウルトラマンアルファは、突如地球に飛来した宇宙怪獣と今日も戦っていた。
 骨のような外殻を持つその重量級の怪獣は、大きな翼で素早く飛び回り、しかもなんか半端に
スタミナがあり、幾ら痛め付けても中々参らない。逆に結構な威力のビームを吐いてくる。
長引くと不味いと思ったアルファが、隙を突いてギャラシウム光線でけりを付けようとしたとき。
 出し抜けに、予想外の方向から、そのギャラシウム光線と同じくらいの威力の眩しいビームが
飛んできた。
 呆然と見るアルファの前で、ビームは一撃で怪獣を貫き、木っ端微塵に爆破してしまった。
 アルファがビームの飛んできた元を目で辿ると、近くの山中に、高さがアルファの腰ほどにも
迫る巨大なキャタピラ自走式のビーム砲があり、砲口から煙を上げていた。
「よし、成功だ!」
 ビーム自走砲『マインドビームカノン』を遠隔操作していた白衣の若い男、小倉(おぐら)博士は満足げに叫んだ。

 小倉博士は特命防衛隊所属の技術者であり、マインドビームカノンも彼の手によって特防で建造された。
ディフェンスポートで小倉は特防日本支部一同に説明をする。

「かつて『イレイズ』と呼称されるウルトラマンが現れて地球を守ってくれていた時期、彼が東京都心で
敵の罠に落ちて拘束された事態がありました。しかし、その危機を案じた日本各地の人々がイレイズに
声援を送り、その結果、既に尽きていたはずのイレイズの光エネルギーが回復し、彼は危機を脱することが
出来ました。
 人類のウルトラマンを助けようという感情の動きが、何らかの過程によって光エネルギーに変換されて
ウルトラマンに送られるという現象が起こっている。そう推測、いえ、確信した私は、この作用を
地球防衛のために使えないかと研究開発を進めてきました。その成果が、マインドビームカノンです。
地球を守ろうという意志を持った人間の精神・身体状況に反応して人工的に光エネルギー『マインドビーム』を
引き出し、ビーム砲に充填して発射し、怪獣を粉砕します。原理上はウルトラ戦士の使う光線技全部再現
できるはずです」
 おお、と驚く一同。
「・・・十分なエネルギーさえあれば」
 マインドビームカノンが撃たれた際のエネルギー供出は、小倉の助手達が受け持った。頭に精神・身体状況の
感知用の端子の付いたヘッドギアを被っているが、全員椅子にもたれてぐったりしていた。
由美子「エネルギー補充の問題があるわね」
小倉「ええ。それについても対策は考えてあります。より多く強力なマインドビームを発生させられる被験者を
募るのです」
川上隊長「例えば?」
小倉「ウルトラマンを助けて悪い怪獣をやっつけようというモチベーションの高い人間です」

 小倉は特防の広報部を介し、マインドビームカノンの被験者を大幅に募り始めた。ウルトラマンが大好きな
子供達に向けて。

 ウルトラマンの戦いに協力したいという子供達は思いの他多く、忽ち沢山の希望者が集まり出した。その
中には勿論、この物語の子供の代表格である西野哲夫もいた。ここに来てこんな機会が来るとは思っても
いなかったらしく、今まで以上にやる気になっていた。
「大体うちの作者は子供サービス悪すぎるんだよな。本来ウルトラマンは僕ら子供のためのヒーローなのに」
 テンション上がっている哲夫の口上を西野一家は笑ってはいはいと聞いていた。
「達志兄ちゃん、これからは僕も一緒に戦うからね! 大船に乗ったつもりでいてくれよ」
「ああ、有難う」
 多くの希望者の子供達はいれど、ウルトラマンアルファである達志当人にこんなことを言えるのは
自分だけだと、哲夫は鼻が高かった。勿論周りには言えないが(5話でアルファに哲夫と一緒にマテリスから
助けられた哲夫の友人達数名だけは達志の正体を知っており、好意で秘密にしている。尚、その友人達も
マインドビームカノンの被験者に立候補している。彼らもアルファの大ファンだ)。
 そんな西野家、特に哲夫の様子にうんざりしながら、外の物陰から偵察している者が居た。ゼバット星人から
送られたスパイ、人造人間リカである。光学迷彩で姿を消しているので気づかれていない。
 しかし、結構重要な情報を得られた。異次元アジトへ持って帰る。

 達志が自室へ戻ると、何時の間にかジャネットがいた。
「・・・又?」
 僕のプライバシーはどうなってるんだと愚痴りたくなったが、ジャネットは真剣な顔をしている。
「・・・どうしたの、ジャネット?」
「あなたも思うところがあるのではないですか、アルファ?」
「・・・うん」
 達志も浮かない顔になる。

 地球人が自主的に地球を守っていこうという姿勢になっているのはいいことだと思う。しかし、この不安が
何なのか二人にも判らないのだが、何か胸に引っかかるものがある。
「あれですね。人類の期待がかかった凄い発明が出てくるときって、ウルトラでは必ず何かあるんですよね」
「・・・それか」
 カイザー劇場版もそうだった。
 とにかく二人は十分気をつけて事態を見守ることにした。
 達志の不安げな様子に気づいてつけてきていた恵も、ドアの陰から二人の会話を聞いていた。
(城先生・・・)

 ゼバット星人の異次元アジト。
 先に地球に怪獣・ゲランディオスを送り込んだのは、今回一時的にゼバット星人と共同戦線を張った侵略者・
ノアン星人だった。しかし、ゲランディオスはあっさりやられてしまい、ノアン星人達は改造怪獣
ゲランディオスを依頼されて造った張本人であるゼバット星人達に怒っていた。
「どういうことだ! 使えない怪獣兵器をよこしおって」
「知らんがな。あんな横槍が入るとは我々も思わなかったのだ。ウルトラマンの光線技と同等のビーム兵器を
地球人が造っていたとは・・・」
 今回改造の素体にしたゲランダは結構優秀な宇宙怪獣だったんだがなあ、と愚痴るリーダー。彼らは元祖M78
世界の住人なので、原典のネオフロンティア宇宙でも似たような末路を辿っていることまでは知らない。
確かに、ヴァンヴァリアルくらいの戦闘力はマークしているのだが。
 ちなみに、ノアン星人もゼバット星人と組まねばならないほど、侵略者勢力としては弱小。当人達にも
目立った戦闘能力はなく、全身タイツに申し訳にパーツをつけただけの貧相な姿。そのくせ文句だけは言う。

 マインドビームカノンへの対策をどうするかという話をしていたところに、リカが帰ってきて情報を報告。
地球人の精神力だけであれだけのビームが撃てたという事実にノアン星人は驚き、更にいきり立つ。
「やはり地球人は忌むべき存在だ! 放っておけば宇宙全てにとって癌になる!」
 自分達が宇宙の意志の顕現者だとでも言いたげに、一丁前に厭戦的な批判をする。弱小でヘタレな種族だから
するのかも知れないが。
「ウルトラマンだけでさえやりにくいのに、そんな恐ろしい反則武器を使われてたまるか!」
 何とかしてよ〜とゼバット星人リーダーにのび太ノリで泣きつく。まあゼバット星人にとっても困った事態であり、
リーダーは考えていたが、
「・・・あれを使ってみるか」

 小倉の呼び掛けに応えて数十名の子供達が集まった。ビームの威力が上がるに越したことはないと、
小倉はほぼ全員を採用した。全員にヘッドギアをつけてシミュレーションで訓練をする。小倉の私設研究所の
広いフロアに子供達が並び、歴代公式ウルトラ戦士やオリウル戦士、本作の主人公であるウルトラマンアルファの
光線技(といっても、アルファは必殺の威力を持つ光線技はギャラシウム光線くらいしか使ってないが)など、
一連の光線技のポーズの練習をする光景は異様であった。勿論どの子も真剣である。
 ポーズをとると大モニターの画面内に仮想設定された怪獣が次々光線を食らって爆発し、威力の数値が成績として
表示される。子供は気力も体力もあり、成績はめきめき上がっていく。
 十分実用に耐えうると小倉が評価した矢先、ディフェンスポートから連絡が入った。丁度怪獣が現れたという。
次元の穴を開けて現れたことから、又もゼバット星人の侵攻だろうと特防は仮定。まあ当たりなのだが。
いい機会だと、小倉は子供達の力を早速マインドビームカノンで試すことにした。

 現れた怪獣は、見た目なんか地味。スタンダードな長い尻尾の恐竜体型で、体表が満遍なく削り出した
ばかりの岩のようで、テトラポッドの突起部のような頭には目も鼻も口もないのっぺらぼう。
 ウルトラマンである達志とジャネットは、一応遠方の目立たない位置から見届けている。何かあったとき直ぐ行動に
出れるように。
 先行して何時ものソニックビート小隊、斎木と美樹と柏村の三機が出る。機銃やホーミングミサイルで
攻撃するが、効いている様子がなく、怪獣は平然と突っ立っている。しかし、反撃する様子もない。
「どういうことだ?」
 ディフェンスポートの司令塔で首をかしげる川上隊長。悩んだが、此処は試しにと、小倉にマインドビームカノンの
使用許可を出す。小倉は意気揚々と了解。子供達も。
 じっとしている怪獣の正面にマインドビームカノンがやってきて停止し、狙いを定める。
 小倉の研究所にいる子供達の付けたヘッドギアから、マインドビームエネルギーが直接送られるように
なっている。小倉の合図を受けた子供達は、揃って溜めのポーズをとり、ギャラシウム光線の発射態勢に
近付けていく。
「発射!!」
 子供達がモニターに映った怪獣に向けて発射ポーズをびしっと決めると、ビームカノンの砲口から
眩しいマインドビームが迸り、怪獣に直撃した。対ゲランディオスのときより遥かに大きい威力で。
「やった・・・」

「え・・・?」
 小倉は、異変に気付いた。
 ビームが直撃したのに、怪獣は爆発しない。さっきからずっと照射しっぱなしなのだが、爆発しない。
爆発力として炸裂するはずのエネルギーは何処に行っているのか。計測器を見て気付く。
 怪獣の身体に、吸収されている。
「・・・いかん! ビームを止めるんだ!」
 しかし、止まらない。小倉や助手達が幾ら制御しても勝手にビームが出続ける。怪獣が、自分から
無理やりビームを吸っている。
 子供達は、光線発射態勢のまま動かない。動けない。彼らの身体自体が眩しく光って光そのものとなり、
段々透明になって消えていき、やがて、フロアから全員消えた。ヘッドギアだけががしゃんがしゃんと
床に落ちる。
 子供達の身体そのものまで怪獣によって光に変換され、エネルギーとして吸収されたのだ。
 続いて、岩のようだった怪獣の体表が、光り始める。最初は柔らかく、次第にキラキラと美しく光り輝く、
それ自体光を発する結晶のようになっていく。
 ゼバット星人の張った罠、改造光怪獣・プリズミオスが、正体を現し、女性のハミングのような
通る声で鳴いて両腕を挙げた。

 異次元アジト。
「勿論、改造素体はあの残酷なる光怪獣・プリズ魔だ」
 おおー凄いとノアン星人達が絶賛する前で、ゼバット星人リーダーは不敵に笑う。
「かつて南極から現れ、あらゆるものを、勿論人間も、全て光に変換して自らに吸収し、多くの犠牲を
出したあの怪物の機能を更に強化して再現している。当時は手も足もない氷山のような只の塊だったがな」

 呆然としている小倉の横で、実験に立ち会っていた由美子は先に我に返り、消えた子供達は
どうなったのか素早く分析し、
由美子「子供達は、まだ生きているわ」
小倉「本当ですか!? 一体何処に!?」
由美子「・・・・・・怪獣の中に、光になって閉じ込められてる・・・」
小倉「!!!!!」

 プリズミオスの体内・・・というのか? 真っ白な光で埋め尽くされて他には何も見えない世界。
(助けてーーーーー!!)
 哲夫が絶叫するが、声は音にならない。
 無音の世界で、光と一体化した大勢の子供達が、上も下もない状態で恐怖に怯えて漂いながら
もがき続けている。

 強い光の力を手に入れたプリズミオスは、既に沈黙しているマインドビームカノンに向かい、
ゆっくりと溜めのポーズを取った後、ギャラシウム光線を発射した。
『ギャラシウム光線!!』の白毛筆テロップもちゃんと画面一杯にどーーーーーんと出る。
 マインドビームカノンは、木っ端微塵に爆破された。
 更にプリズミオスは、ビームカノンの残骸も光に変換し、吸い込んで食べてしまった。
 ソニックビート小隊の三人も、地上で見ていた達志とジャネットも、愕然としている。

「ウルトラマンの光や、それを信奉する者の心から生まれいずる光は、無条件で自分達を守ってくれる
神聖なる力だとでも思っていたのだろうが、そんな都合のいい力など存在しない。あるわけがない」
 笑って語るゼバット星人リーダー。
「力は力以上でも以下でもない。人間の愚かな感傷の付け入る余地などない。ちょっとベクトルの
向きを変えてやるだけで、いとも容易にかつての主人に牙を剥く」
「まさにその通り」
「それを下手に崇め奉るからこのような目に合うのだ」
 ノアン星人達も尻馬に乗る。
 地上では、どうしたものか迷い続ける達志とジャネット。
 聳え立つ美しき結晶の魔獣は、空に向かって美声で吼え猛る。
「どうだウルトラマンアルファ!? 体内に地球人の小僧どもを閉じ込めた、このプリズミオスを
攻撃できるか!? 倒せるか!? ふははははははは!!!!!」

 続く。
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 特命防衛隊の新兵器、人間の心を光エネルギーに変換して発射できるマインドビームカノンに対抗するため、
ゼバット星人は、改造光怪獣・プリズミオスを地球に送り込んだ。プリズミオスはありとあらゆる光エネルギーを
吸収する能力を持ち、果たして特防はゼバット星人の罠にはまり、マインドビームのエネルギーを提供していた
有志の大勢の子供達が、マインドビームカノンから発射されたビームごと、光に変換されてプリズミオスの中に
吸い込まれ、人質となってしまった! どうする、ウルトラマンアルファ!?


 ウルトラマンアルファ 38 光の罠・2
 改造光怪獣・プリズミオス、苦情宇宙人・ノアン星人、宇宙異次元人・ゼバット星人 出現


「アルファーーーーーッ!!」
「は!?」
 呆気に取られるジャネットの前で、達志はいきなりアルファプラスをかざし、変身した。
 ジャネットは巨大なアルファを見上げ、
「何を考えてるんですか、アルファ!? 敵はどんな光線も吸収し、自分の武器として逆用する得体の知れない
相手ですよ! 考えなしに挑むのは・・・」
『もたもたしてられないんだ!!』
 テレパシーが響く。
 アルファの視覚は、怪獣の中で助けを求める子供達を捉えている。具体的な状況も。
『光そのものにされた哲夫君達が、じわじわとだが、怪獣の体にエネルギーとして吸収されている。長い時間を掛けて
いたら、哲夫君達は完全に吸収されて消えてしまう!!』
「な・・・!?」
 予想以上に事態は悪い。

「しかし、どうやって助ける気ですか!?」
『レスキューダッシュ!!』
 間髪入れずに技名叫び。ウルトラ縮地を応用した超高速移動で敵の内部に飛び込み、閉じ込められている人質を
素早く助け出す。第6話以来の使用である。
 アルファは瞬時に姿を消す。無論、プリズミオスの内部に飛び込んだのだが・・・

 出て来ない。
 いや、出て来れないのだとジャネットは気づく。
 入ったはいいが、光エネルギーの実体化そのものであるウルトラマンの体は、光を大好物とするプリズミオスとは
親和性が高すぎた。プリズミオスはウルトラマンアルファをも餌として認識し、体内に捕らえ、出て来れなくして
しまったのだ。
 白一色の光の世界で、アルファは小規模のバリヤーフィールドを作り、その内部に哲夫達を収め、とりあえず
彼らが光として取り込まれるのは阻止した。だが、光の世界から出られないアルファ自身の体から、光エネルギーが
じわじわと吸われていく。脱出しようにも360度全方位見た限りでは出口らしきものも壁も引っかかりも何もなく、
もがくしかない。
「二重遭難・・・!」
 ジャネットも助けに行きたいが、無策のまま飛び込んでは恐らく同じ目に合う・・・

 プリズミオスはそのまま悠然と東京都心に侵攻し、破壊の限りを尽くす。
 防衛線を張っていた戦闘機編隊や戦車隊を、罰当たりにも、スペシウム光線やエメリウム光線で一掃。ビル群を、
八つ裂き光輪やバーチカルギロチンで次々切断して倒壊させていく。ウルトラマンアルファや、彼を愛する子供達の
心の力を光エネルギーとして取り込んでいることで、ポテンシャルが恐ろしいことになっている。
 ソニックビート小隊はもう一度実弾射撃を試す。ビーム攻撃と違い無効にはならないが、並の銃撃程度では
大したダメージは与えられない。ドルカン星人やリターンマックを撃破した必殺のホーミングミサイル一斉掃射さえ、
プリズミオスにとっては並である。
 異次元アジトで、ゼバット星人やノアン星人は笑いが止まらない。

「ちょっと待って下さい!! 何度も説明したとおり、今回の目標に対してはビーム攻撃は全く無意味で・・・」
 川上隊長が特防北米支部への直通回線に必死に叫ぶが、北米支部は大統領の意志の下、レーザー衛星での怪獣への
狙撃を勝手に決定した。世界の警察様は、とにかく相手よりでかい力で際限なく爆撃すれば何でも片がつくと思っている。
プリズミオスの中に捕らえられているアルファや子供達のことも知ったことではない。電話口のえらい人らしい相手は、
勝手に死ねとはっきり言い捨てた。
 日本支部の意向を無視し、大気圏外から、大出力のレーザーが東京に向けて放たれた。二次災害も知ったことではない。
 そして。もうお分かりと思うが。
 皮肉にも、東京の完全壊滅は、プリズミオス自体によって回避された。
 プリズミオスは衛星からの高出力レーザーも全て平然と吸収し、カウンターでそのまま空に撃ち返した。
 撃墜された軍事衛星は狙い済ましたようにワシントンに落下し、大惨事となる。
 更にプリズミオスは念を押し、海の向こうに向け、M87光線、ライトニングノア、スパークレジェンド、グリッター
ゼペリオン光線、その他諸々を余裕で届かせ、北米各地は壊滅していく。
川上「やめろおおおおおーーーーー!!!!!」
 光での攻撃はプリズミオスには絶対に効かないことが演出された。食いすぎで吐きそうなほど。

 指令席に突っ伏している川上にアンドロイド・ミリーが淡々と尋ねる。
「物理攻撃ならダメージを与えられる可能性はあります。機動司令塔を発進させてハイパードリルで突貫しますか?」
「・・・駄目だ。ドリルが当たる前に間違いなくビームで狙撃される。それに・・・目標の中には、これまで地球を
何度も救ってくれたウルトラマンアルファと、地球の明日を担う多くの子供達が人質になっている! 救出しない限り
とどめは刺せん!!」

 小倉博士に向けて物凄い勢いで、子供達の親からの非難が来る。必ず救出すると言明することで特防がどうにか
抑えているが、実際には具体的な手段も上がっていない。小倉は精神的にボロボロになっている。
「私の・・・私のせいで・・・!!」
「悔いてるんだったら、ぼけっとしてないで対策を考えなさいよ」
 はっと顔を上げる。
 由美子は愚痴っている時間も惜しみ、データとにらめっこして黙々と対策を練る。アイデアが出なくても目の下に
隈を作って練り続ける。
 小倉も黙って隣に座り、作業を始める。

 西野家。
 恵と両親は近所の哲夫の家に向かい、哲夫の両親を慰めていた。あのエキセントリックな性格の哲夫からは
想像付かないほど普通の人達で、しかも一方的に特防を責めるような物言いはしていない。そもそもマインドビームカノンの
被験者に自ら志願したのは哲夫で、その辺りは理解している。といって、一人息子が怪獣の体内に捕まっている状態で
悲しんでいないかというとそんなわけはなく、しかし一般人である彼らが怪獣相手に勝てるわけもなく、ただ哲夫の
無事を祈って悲嘆にくれるしかない。
 哲夫を助け出さない限りこの場に居ても意味がないと思い、恵は一人外に出る。しかし、どうやって。子供達を
助けようとした一番の希望であるウルトラマンアルファ=達志自体も、怪獣に飲まれてしまっている。
そう、達志である。哲夫には悪いが、恵が一番心配しているのはやはり達志だ。
「城先生・・・」
 こんな思いは何度もしてきた。その度に恵は勇気を振り絞って達志を信じ、達志もそれに応えて必ず生還してきた。
先ず自分が信じなくて誰が信じるのか、それは判っている。判っていても、激しい不安で足から力が抜けて崩れそうになる。
祈るように、胸の前で両手を組んで強く目を瞑る。
「城先生・・・!」

 達志=アルファは、未だに真っ白で何もない光の世界に閉じ込められている。
 プリズミオスに向かってエネルギーを発散してしまうだけなので、無駄にもがくのはやめ、昏睡している哲夫達を守っている
バリヤーフィールドを維持することだけに神経を集中していた。しかし、じっとしていてもじわじわとエネルギーを
吸われているのには変わりない。自分が力尽きたらバリヤーが解け、哲夫達も再びプリズミオスの毒牙にさらされる。
全員遠からずお陀仏だ。
『どうしたものか・・・
 ん?』
 何もない、真っ白な世界のはずだった。だが、視線の遠く先に、しみのような小さな一点が見える。ウルトラマンの
超視覚で凝視。
『・・・・・・恵ちゃん!?』
 それは、本物の西野恵だった。
 光の世界の中にいるわけではない。彼女がいるのは、相変わらず自宅の近所の路上だ。だが、アルファ=達志には
捉えられた。自分を閉じ込めている空虚な世界の中で、達志にとってこの世で一番大切な存在、恵だけが見えた。
宇宙全ての無辜の人々を守る強い心の光を固持し続けることも大切だが、生憎、一番は恵だ。
 辛そうな恵の表情まで見える。自分がちんたらこんな場所に留まっているために、彼女が辛い思いを必死に
堪えなければならない状態にいることが理解できる。
 帰らなければならない。
 周りには他に何もない。遮るものは一切ない。目標さえはっきり見えれば、後はそれに向かって一直線に飛ぶだけだ。
造作もない。
 達志は、生身で宇宙の果てまで飛べるウルトラマンなのだ。
『恵ちゃーーーーーん!!!!!』

 異次元で祝杯を上げていたゼバット星人とノアン星人は、杯を取り落とした。グラスがスローモーションで落ち、
がしゃーーーーーんと割れた。
 荒廃した東京の街を映すモニターの中で、プリズミオスの背中が風船のように膨らんでぶち割れ、中から、
ウルトラマンアルファが絶好調な調子で飛び出してきたからだ。
「馬鹿な・・・馬鹿な!? 何故出てくる!?」
 アルファは、地球からは捕捉出来ない、彼からも視覚では見えていない異次元アジトの大モニター画面に
アップになり、星人共に向かって臆面もなく言ったものだ。
『愛!!!!!』
 ズルでもインチキでも八百長でも何でも愛。

 手を出せずに居たジャネット、異変の報告を受けた特防一同、見ていた多くの人々が息を呑む中、20話でゾーリミオス
相手に怯みもせず突き進んだあのときの佐橋女性コーラスが、世界中に大ボリュームで轟き出す。
 子供達を地上にそっと下ろしたアルファは、身を破られた苦しみに悶絶しているプリズミオスに向けて、必殺の
ギャラシウム光線を放とうとポーズして・・・慌ててやめた。
 うっかり光で回復させてしまうところだった。
『光でない物理攻撃なら、効果はあるんだったな』
 アルファはウルトラ縮地で跳び、一気にプリズミオスに肉薄した。そして、
『ナックルストリーム!!!!!』
 技名を叫ぶが、原理そのものは何のことはない、相手が捉えられないほどの高速移動を周りで続けながら、ひたすら
拳で殴り続けるだけだ。だが、その威力とスピードが半端でないのは、月でテンペスト星人を同様にボコボコにしたあの鉄拳の
連打で証明済みだ。
 それでも、プリズミオスは素の体そのものも防御力は並ではない。だから。
 砕けるまで殴った。
 後のことなど考えずひたすら走り回って殴った。

 逆襲開始時は正午頃だったのが、空一杯に夕陽が赤く差している。
 ボロボロになって煙を上げ、もう使い物にならない両拳をだらりとぶら下げ、息を切らしているアルファ。カラータイマーも
鳴り響き続けている。
 沈黙して対峙していたプリズミオス。
 その体が、次第に光を失って只の岩の塊となり、そして、砂のようにさらさらと風に飛び、更に砕け、完全な無にまで
還元された。
 固唾を呑んで見守っていた全ての人々が、大きな歓声を上げた。

 アルファの生還と勝利が日本中に臨時ニュースで流され、それを聞いて安堵する恵。
「結局、又暴走して自分で片付けちまいやがった」
「!? あなたは・・・城先生の上司の・・・」
 突然の声に恵は驚き、見ていたテレビから庭先に目を向ける。
 ウルトラマンズィーベンの人間体・大谷勇が、松葉杖を突いて立っていた。
 事態を聞いて緊急で援護に来たのだが、無駄足だったようである。
 勇は皮肉げに笑っていたが、突然、恵に頭を下げる。
「有難う。俺の部下を助けてくれて」
「え・・・いえ、私は何も」
「いや、あいつを助けたのは、君だ。あいつと争いになっていたときのフォローといい、君には面倒を掛けっぱなしだ」
 勇は真剣な眼差しを上げ、
「これからも、あいつを助けてやってくれると助かる」
「・・・助けるとか、そんな話じゃありませんよ。城先生は、もう私達の家族ですから」
 恵は笑った。
 後、勇は、この話をしていたことは達志には秘密にと頼んだ。俺がこんなことを言っていたと知ったらあいつは
又つけあがると毒づいて。

 事件終了後、マインドビームカノンの正式採用は当面見送りとなった。完全封印とならなかっただけでも僥倖だろう。
小倉は特防一同に深く頭を下げる。まあ悪意でやったわけでなし、今回は色々巡り合わせが悪かったということで、
これに懲りず研鑽してくれと言って川上は済ませた。
 特に体に異常も見られず無事だった子供達は、笑顔で家へと帰っていく。哲夫に懐かれ、両手に包帯を巻いた
達志も、恵との再会を待ちわびて。

「やってらんねーよ」
 祝杯はやけ酒となり、ゼバット星人やノアン星人達はアジトでべろんべろんに泥酔してマグロとなっていた。
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 都内の街の一角。空はどんよりと曇っている。レオ初期の背景のように。
 城達志、ジャネット、ズィーベンの人間体の大谷勇は、ある産婦人科の病棟全体を見渡せる
位置に揃って立っている。一様に重い顔。
 病院の中から、彼らの脳にテレパシーで声が響く。
『どうしたね? 何もしないのかね?』
 一見穏やかに聞こえるが、明らかに嘲った声。


 ウルトラマンアルファ 39 妄執の輪廻
 ハンターナイト・アヴォル、ハンターナイト・ヴァニル、怪獣寄生体・スカルホーン 出現


 同じ頃。
 郊外の地方都市近くの麓に、一頭の巨大な怪獣が横たわっている。
 既に死んでいる。ウルトラマンアルファが出るまでもなく、特命防衛隊のソニックビート小隊に
一斉射撃を受けて倒された。周辺には特防下の調査団のテントが点在し、危険がないか分析が
行われた後、死体は処分される予定。
 この山の地中に以前から生息し、時折地上に姿を見せていた地底怪獣・・・身体の随所に赤く
鋭い角が生えていることから、作戦呼称『スカルホーン』と命名・・・は、実は、山の麓に住む
地元民によって、土地の『ぬし』といわれ、恐れられつつも崇められていた。ちょっかいを
出さない限り特に派手に暴れ回って被害が出たということもなく、どうにか共存してきた。
まあ、前に信州の雪山に出たユキギララのようなものだろう。
 だが、そのスカルホーンが、突然凶暴化して暴れ、麓近辺の街にも被害を出した。
 原因について取り沙汰されるべきだったのだろうが、特防に報せが入った時点で既に死傷者も
出ており、とにかく大至急片をつけねばならないということで、特防はやむなくスカルホーンを
ホーミングミサイル掃射で殺傷した。

 現場の近辺にある、暴力団ともつるんでいて悪徳で名高い不動産業者のビル。
「上手くいきましたね、社長」
「おう、ちょろいもんよ」
 大体事情は判ったと思う。
 こいつらはスカルホーンの住む山を伐採して切り崩し、買い取ろうとしていたのだが、
怪獣が邪魔で、しかもスカルホーンを畏怖する地元民の抵抗もうるさかった。そこで、密かに
スカルホーンが山中で食べている植物や飲んでいる水などを調べ、強力な興奮剤を混ぜて
暴れさせたのである。
「しかし、特防の連中が死体を調査するそうですが、直ぐばれませんかね」
「何、それが判ったところで、でかい畜生の怪獣野郎はもう死んじまってるからどうにもならん。
何か文句言ってきても、そこはそれ、地元の知事へのコネを使えば情報操作なんぞ何とでも
ならあな」
「ごもっともで。しかし、いい世の中ですわな。怪獣がばんばん建物をぶっ壊してくれるから
私ら不動産関係には幾らでも仕事が来るというもの」
「全く怪獣様様だわな、はっはっは・・・ん?」
 顔をしかめる社長。
「ん? んん・・・?」
 きょとんと見るあからさまにヤクザな部下達の前で、椅子から中腰に立って調子悪そうに胸を
押えて呻いた後。
 社長の身体が、じわじわと、そして眩しく、赤色に光った。
 と思うと。

 ぱ ん

 風船のようにいきなり膨らみ、肉片となって飛び散った。
 体内から出現するもの。
 べっとりと全身に鮮血がこびりついた、銀と赤のツートンカラーの、鎧を纏った怪人。
 ヤクザ達を、兜に覆われて目の位置が判らない顔でねめつける。
 恐怖に捕われて絶叫したヤクザ達は、即座に拳銃を出して一斉に怪人を撃つが、びくともしない。
『お前らが生きていること、生まれてきたこと自体が罪だ』
 音のない声をヤクザ達の脳に響かせた怪人は、事務所内を歩み回ってヤクザ達を追い回し、
一人一人丁寧に首をへし折ったり手足を腕力のみでむしったりしながら全員始末した。
 その後、又赤い光を発したと思うと、忽然と姿を消す。

 続いて赤い怪人は、スカルホーンを見下ろす上空に浮かびながら転移してきた。
 姿が透明になっており、地上に滞在している調査団は気付かない。
 怪人は、スカルホーンの死体から立ち昇るマイナスエネルギー、理不尽に殺されたことへの
怨念を感じ取る。
『お前のその強い無念の意志の力、借り受けるぞ。俺にはやらねばならんことがある。あいつが
いる・・・直ぐ近くに』
 怪人は降下し、怪獣の死体の中に吸い込まれるように入っていく。そして。
「な、何だ!?」
「どうして生き返るんだ!?」
 驚く調査団の前で、死体となっていたはずのスカルホーンは身を起こし、立ち上がる。
巨体から赤い光が走ったと思うと、全身の赤い突起が更に伸びて鋭くなり、より凶悪な姿に変わる。
 ろくな武装のない調査団を無視し、街ヘ向かって前進。建物を踏み潰して。

 時間帯は若干遡る。
 西野哲夫の桜ヶ丘小学校での級友・タケシの母が、二人目の子を身ごもっていた。もうじき
生まれる予定で既に入院生活を続けており、タケシはもう直ぐ兄になることで気負ってやる気に
なっていた。
 タケシの招待で哲夫は彼の母の病院に招かれ、哲夫は皆で祝って欲しいということで、恵や
達志も連れてきた。母親はベッドに横たわったまま喜んで迎え、恵と達志も彼女の懐妊を
心から祝い、皆で談笑していた。
 そんな達志の晴れやかな想いを、頭に突然響いてきた声がぶち壊した。
『久し振りだね、ウルトラマンアルファ』
 達志=アルファが見たのは横浜での一度だけだが、誰だか直ぐに判った。
 ウルトラマンの道を踏み外したあの青い悪魔、ハンターナイト・アヴォルだ。
 場の和やかな空気を乱さないよう辛うじてポーカーフェイスを保ち、テレパシーで問う。
『お前・・・あれから何処にいたんだ!?』
『改造巨獣ゾーリミオスの思わぬ介入で痛手を受けた私は、ダメージを癒して再び再起し、憎むべき
ヴァニルを滅ぼすため、この地球の地に潜伏していた。そして、再起の機は然程間をおかず訪れた。
アングラスとかいう異次元の侵略者や、宇宙から次々来る邪悪な宇宙人の暗躍、それによって
誘発される地球人の暗い感情の高まりによるマイナスエネルギーの蓄積によって、ね。御蔭で、
もうじき私は再びこの世界に甦れる』
『そして、又周りの迷惑も顧みずにヴァニルとの戦いを始める気か!? そんなことはさせないぞ!』
『ほう。まあ、それは造作もないことだろうね。君が手段を選ばない覚悟があるのなら』
『・・・どういう意味だ?』
『私が何処に雌伏していて、何処から君に声を送っているか判るかね?』
 達志は、感覚を研ぎ澄ませて声の元を探った。
 そして、蒼白になった。

『ウルトラマンが他の星の生き物と合体し、命を一つとして共有できる力を持つのは、我らにとっては
周知のこと。よって、私もそうさせてもらった』
『き・・・さ・・・ま・・・!!!!!』
 達志は、おぞましい感覚と激しい怒りを必死で押し殺す。
 アヴォルは、生命力回復のためのよりましとすべく。
 タケシの母の胎内にいる、これから生まれてくる子供と、合体していた。
『卑劣すぎるぞ、貴様!! 今直ぐ出て来い!!』
『いやです』
 目も鼻もないアヴォルの金属質の顔が、達志の脳内で笑顔を見せる。その表情の不快さは、
アングラスに勝るとも劣らない。
『ほら、早く私を始末してみたまえ。君に、これから生まれてくるこの子を巻き添えに出来る覚悟が
あるのならね。ほら早くやってみたまえ。ほらほら』

 達志は苦悩の末、ジャネットと、前回来てまだ地球に留まっていたズィーベン=勇に事情を話した。
自分だけでは解決できずに結局二人に相談したことで、地球滞在資格テストの減点対象にはなるだろうが、
もうそんなことは言っていられない。
 ジャネットと勇も言葉を失う。彼らにとっても、減点がどうとか言う話どころではなく、本気で
怒りを覚える。
勇「ウルトラマンとしての誇りを、本当に失いやがったか・・・!」
ジャネット「何という情けない・・・!」
達志「・・・でも、あれですよね」
二人「?」
達志「僕達に危害を加えようとしてくる敵が、一々手段なんか選んでくれるわけない・・・
そうなんですよね」
二人「・・・・・・・・・・・」

 鉛の塊を飲んだような感覚で、三人はとにかく病院へ向かう。しかし、何の策も浮かばない。
無論、タケシの母やタケシ本人、西野一家にもまだ内緒である。こんなこと言えるわけがない。
 何も出来ずに病院を前に只立ち尽くし、アヴォルは何も知らないタケシの母の腹の中から
いやらしく挑発のテレパシーを送ってくる。
 勇は、延々考えた後。
「アルファ」
「はい?」
「お前は、これからもこの地球に留まり続け、西野家の皆や他の人々を守っていきたい。
どんな障害があろうとも。その思いに嘘はない。そうだな?」
「・・・はい。しかし、何故今それを・・・」
 達志は答えながら、内心覚悟していた。ならば、他の無関係な人々を巻き込まないため、心を
鬼にして、母親の中の子供ごとアヴォルを始末しろ。そういわれると思っていた。
 だが、違った。
「ならば、これからも地球の英雄、旗印となっていくためにも、お前が手を汚すべきじゃない。
恵君や哲夫君も悲しむ」
「え・・・?」
「既に地球での思い出を過去のものとしている俺がやれば、お前の面目は立つ」
「・・・ズィーベン隊長!?」
 勇は病院へ向かおうと杖を突いて歩み出す。焦る達志とジャネット。
「しかし、それでは!!」
「判っている。この外道に手を染める以上、俺はもう地球に立ち入ることは出来ないだろう。
例え周りの者が許しても、俺自身が俺を許さん。だが・・・お前が以前無理やりにでも美樹と
もう一度話し合う機会を作ってくれたことで、俺は以前よりはうんと救われている。もう
思い残すことはない」
 勇は振り向いて笑う。
「さよならだ、アルファ・・・いや、一人の地球人、城達志」
「隊・・・長・・・!」

「それはいけません!」
「!!」
 達志より先に素早く跳躍して勇の道を遮ったのは、ジャネットだった。
「既にデリート隊長にも事態を報せました。今、どう処遇を下すか熟考しておられる最中です」

 M78星雲・勇士司令部。
「・・・どうしたものか・・・」
 懸命に頭を捻っているデリート。彼を以ってしても、即座に答えの出る問題ではない。

「答えが出るまで、軽率なことは・・・」
「そんなことを言ってる場合か! もたもたしていたらアヴォルが復活してしまうぞ!」
「いけません! ウルトラマンである前に人の道からも、一人の人の未来を絶つようなことは、
私個人としても納得が行きません!」
「・・・どうあってもか」
「聞くまでもありません」
 睨みあう勇とジャネット。

 両者は戦い始めた。人間の姿のままでだが、それでも尚、迂闊に近付くと只ではすまない、
常人なら殺し合いレベルのマジ勝負。物凄い速度で動きながら打撃をぶつけ合っている。
「ちょ・・・ちょっと! 内輪同士で争ってどうするんですか!?」
 達志が止めるも、聞く様子はない。
 そして、更に事態は悪化する。

 街から、人々の悲鳴が響いてくる。
『アヴォルーーーーーッ!!!!!』
 怪獣スカルホーンと合体した赤い怪人・・・ハンターナイト・ヴァニルが、アヴォルを
殲滅すべく、侵攻してきた。ヴァニルも、既に他の生命体と一体化してなら活動できるまでに
甦っていたのだ。
 ヴァニルは達志達と違い、アヴォルと合体した赤ん坊の安全のことなど最初から考慮していない。
アヴォルを滅ぼすことしか頭にない。
斎木「何であの怪獣が生き返ったんだ!?」
美樹「しかも、あの変わり果てた姿は・・・?」
 ソニックビート小隊が再度の攻撃を試みるも、ヴァニルとの合体で遥かに強化されたスカルホーンは
全く応えていない。
『来たか』
 アヴォルも、ヴァニルが間もなく自分の下に来ることは見越していた。それでも動じていない。
達志=アルファが嫌でも身重のタケシの母の中の子=アヴォルを守らざるを得ないことも
見越しているからだ。
『ほら、ウルトラマンアルファ、行かなくていいのかね? 街が壊されて人々が苦しんでいるよ』
「・・・・・・・・・」
 達志は歯が折れそうなほど口を噛み締めるが、確かに今は怪獣の進撃を止めるしかない。
「アルファーーーーーッ!!」
 アルファプラスを光らせ、ウルトラマンに変身。
 突進して怪獣の巨体を全身で止めるが、怪力でずるずると押される。しかも、スカルホーンは
赤い突起の鋭く尖った腕をアルファに叩きつけ、何度も痛打を与えてくる。確実にダメージが溜まる。
『アヴォルーーーーーッ!! 殺してやるアヴォル、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
 脳内に、自分だけのレベルの怒りしかないヴァニルのけだもの同様の叫びが響き渡る。

 絶対に踏み入らせるわけにはいかない後方の病院では、勇とジャネットが戦うべき相手を
間違えて小競り合いを続け、ウルトラマンにしか見えないアヴォルの巨大な虚像が病棟から
浮かび上がり、苦しむ者達を見てげらげら笑っている。
『そうだ、思惑など関係なく君達は私を守るしかない。世の中には「許される罪」というものが
厳然と存在するのだよ。どれほど人の犯してきた罪が重かろうと、その代償を支払うだけの器が、
家畜以下の連中にはないのだから仕方ないじゃないか。もう皆自分のしたいことだけして
刹那的に生きて無為に死ねばいいのだよあははははははは!!!!!』

 いきなり映る、こことは別のある巨大な病棟の地下施設。
 四日市の実験都市で精神崩壊した人々が、それぞれの独房で人形のように暗い天井を只見詰め
続けたり、泣き喚きながら暴れ回ったり。それを黙って監視し続ける日高情報主任・・・

 続く。
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 ウルトラマンアルファ 40 命の決死圏
 ハンターナイト・アヴォル、ハンターナイト・ヴァニル、怪獣寄生体・スカルホーン 出現


 アルファはむかついて仕方なかった。アヴォルのクズぶりは言うに及ばず、ズィーベン隊長とジャネットは
冷静な判断力を失って事態の打開もせずに同士討ちをしているし、ヴァニルの取り付いた怪獣がさっきから
尖った手でぼかぼか殴ってきて痛いし苦しいし、もうマジで全部投げ出したい。
『邪魔をするな貴様! どけ! 俺はアヴォルの野郎を死なすんだ!』
 ヴァニルが頭に響く声でずっと喚き続けている。
『知るか! 出来るもんなら僕がやりたいわいそんなこと! 僕だってあいつを一発殴れたらどんなに
気分いいか・・・』
 ・・・ん? 待てよ。
 僕もこいつも、アヴォルに一矢報いたいという気分は同じ。なら・・・

『待て! 聞けヴァニル!』
『ああ!?』
『このままお前がこの怪獣の体を使って周りの被害も省みずにあくまでも病院ごとアヴォルを攻撃すると
言うなら、僕も命を賭してでもお前を阻止する!』
『何ぃ・・・!!』
『それはお互いに大損だろう。だが、お前が僕の提示する条件を飲んでくれる用意があるなら・・・アヴォルを
倒すため、お前に協力してもいい!』
『・・・・・・』

 怪獣スカルホーンが、アルファと組み合ったまま、動きを止める。
柏村「どうした・・・?」
 上空を飛びつつ様子を見るソニックビート小隊。

『でたらめを言っているのなら、貴様も一緒に始末してやるぞ!』
『嘘じゃない! 策はある! 今思いついたんだけど』
 アルファは、ヴァニルにその策を伝える。
『・・・・・・』
『適宜に選んだ地球人と一体化する方法を取らず、自ら人間に変身して地球に駐留していた僕は、物理的に相手に
干渉することしか考えていなかった。だが、この方法なら可能性はある! お前の協力を得られれば、成功確率は
更に高まる!』
『・・・・・・・・・』
『とりあえず、その怪獣の体を使って暴れるのをやめろ! それから、攻撃する相手はアヴォルだけに絞ること!
この条件が飲めないなら、僕はお前と刺し違えてでもお前の願いを通させてやらないぞ!』
『・・・・・・・・・・・・』
『ヴァニル!!』
『・・・・・・・・・・・・・・・』

 スカルホーンは倒れた。
 既にその中からヴァニルは抜け出し、怪獣は元の死体に戻っていた。
 事態が飲めないソニックビート小隊の眼下で、アルファも全身から光を発したと思うと、その姿が消える。

 だが、アルファの戦いはまだ終わっていない。
 彼は今ヴァニルと共に、真っ赤な光が辺りを支配する世界に居た。初代マンがハヤタと初対面して命を二人で一つに
して蘇生させたり、迎えに来たゾフィーと対話したりした、あの世界。
『貴様・・・もし妙な企みをしていたら、舌を引っこ抜いて針千本飲ませて目でピーナッツ噛ませて鼻からラーメン
食わせた後死なすからな』
『好きなように。とにかく、目的地へ急ぐぞ。作戦コードネームは・・・「戦いの場所は心の中だ」!!』
 上も下もない赤い空間を二人は飛んでいく。

 一方。
『やめなさい、二人とも!!』
 M78星雲から直通で飛んできたデリートのテレパシーによる叱咤で、傷だらけになって戦っていた勇と
ジャネットは、やっと正気に戻った。
勇『デリート・・・』
ジャネット『何かあったのですか?』
デリート『何かあったのですかじゃありません。既に貴方達が戦う事は無意味です。アルファ君が事態を打開する
ための行動に出ました』
ジャネット『! どうやって・・・?』
デリート『とにかく、暫く様子を見ましょう』

 アルファとヴァニルのたどり着いた場所。そこは、タケシの母の胎内にいる新生児、それを構成しているもので、
肉体とは別の物理的でない要素、概念としての精神や生命によって形作られているフィールドだった。
 アヴォルの寄生によってその世界は真っ青に染められ、その中心部に、アヴォルの本体がいた。
『ギギーーーーーッ!?』
 変な声で鳴くアヴォル。
 目に見えない、壁らしきものがある位置に、四肢の力で逆さに虫のようにへばりつき、首だけ捻ってアルファと
ヴァニルを見ていた。
アヴォル『おのれ・・・その手があったのか!!』
アルファ『こっちとしても、ここに至って「悪魔の住む花」をやるとは思わなかったけどね』
 人間と一体化できるのは、アヴォルだけではない。アルファは新生児の生命の世界へ自分もダイブし、
その中に潜んでいたアヴォルと直接対決する作戦を取ったのだ。しかも、ヴァニルという援軍を得て。
『・・・ふふふ、成程、思ったほど馬鹿ではないらしいね。しかし、いいのかな? この世界自体がタケシ君の
弟か妹かになって生まれてくる子の生命そのものなのだよ。ここで私とヴァニルを本気で戦わせたら、赤ん坊
自体にどのような影響があるか・・・』
『そのために、二人で来たんだ』
 アルファはヴァニルの方を向き、
『ヴァニル。お前の望んだ戦いの場だ。好きなだけ思い切りやっていいぞ』
『・・・何?』
『僕はお前とアヴォルの戦いの余波をウルトラ念力で食い止め、子供への影響を防ぐ、そのことだけに専念する。
だから、お前は絶対にアヴォルを倒してくれ』
 ここに来て、ヴァニルは初めてアルファの顔をまともに見る。
『・・・何のつもりだ?』
『何のつもりも何もない。僕だって、あのアヴォルのやり方にはいい加減頭にきてるんだ。お前がその恨みを
晴らしてくれ』
『・・・・・・』

『お前は、さっき取り付いていたあの怪獣の境遇に対して義憤を感じたから、あの怪獣と一体化してたんだろう。
最初は色んな世の理不尽への義憤からスタートしたんだろう、お前は』
 策とは関係なくアルファは言う。
『信じてるんだよ、お前を』

 両ハンターナイトの戦いが開始された。
 ずっと彼らがそうしてきた通り、最初は互いの力が拮抗していた。激戦による飛び火を、アルファは念力による
障壁で只抑え続けるしかない。介入する余裕などない。
 長く戦いが続いた後、これまでと流れが変わった。
 互いに大きなダメージを受けているのだが、アヴォルの方が、先に息を切らし始めた。
 一方、ヴァニルの纏う雰囲気には、どうしたことか、余裕のようなものが見受けられる。
『ふ・・・ふふふ』
 笑っていたりする。
『何だ・・・何がおかしい、ヴァニル!?』
 引きつったアヴォルの叫び。
『お前は私に直ぐに倒されるんだぞ! なのに、何故そんな風に笑っていられるんだ!?』
『俺にもよく判らん・・・が』
 ヴァニルは横目に視線を送り、ぼろぼろになって、それでも挫けないアルファを見る。
『永らく忘れていたな・・・自分だけのためでなく、他の奴のためにも戦えるんだってこと』
『何!? 何を言っている!?』
『そして、何でだか判らないが、そのほうが余程身が入るんだってことを、な』
『訳の判らんことを!! いいからさっさとくたばれーーーーーッ!!』
 両者は今まで以上の力を振り絞り、正面衝突し、赤と青の眩しい光が迸った。
 大勢は、もう決していた。

 満身創痍のヴァニルが、アヴォルを見下ろす。
 アヴォルの息は既にない。鎧は砕け散り、殺虫剤を食らった虫のように四肢を異様な方向に曲げて仰向けに
倒れ、最後まで生に執着して宙に手を伸ばしたまま、硬直していた。その姿も、煙のように蒸発して
無に帰していった。
『・・・終わった・・・のか・・・?』
 よろよろと、アルファがヴァニルに近づいてくる。
『判ってやってくれ』
 ヴァニルが言う。
『アヴォルの奴も最初は俺と同じように、宇宙全ての奴らの幸せを願って戦いを始めたはずなんだ。なのに、
何でこんなことになっちまったんだろうな』
『そんなもん、やけくそになったお前らの自業自得じゃないか』
『・・・きつ・・・まあ、その通りだがな』
 やがて、周囲の生命の世界から、アヴォルによって満たされていた青い光が消え、柔らかな白い光に
満たされていく。
 同時に、ヴァニルの体も、煙を立てて蒸発を始める。アヴォルを倒した今、もう彼がこの世に留まる
理由もなくなった。消えていくだけである。
『俺達は駄目だったが・・・ウルトラマンアルファ、お前はなるべく沢山の奴らの幸せのために、精々
頑張って足掻いてくれ』
『どうしろと・・・?』
『いいんじゃねえか。先ず、お前にとって一番大切な奴を全力で守ることから始めれば』
 恵の面影が、アルファの脳裏に浮かぶ。
『・・・それだけで一杯一杯だよ』
『だろうな』
 ヴァニルは最後にもう一度鼻を鳴らして笑った。
『最後の頼みだ。俺をここまで連れてきてくれたあの怪獣を、ささやかでいいから弔ってやってくれ。
 じゃあな』

 後日。
 タケシの次の子が無事に生まれた。弟である。
 タケシは喜び勇んで、父と一緒に病院へ急いで向かう。しかし、その途上で何故か親父と一緒に影踏みを始め、
楽しそうにちんたらちんたら行く。何故影ふみなのかは不明。不明ったら不明。頑張って原典を探してください。

 ズィーベンとジャネットはデリートに重々の戒告を受けたが、まあ今回は事態が事態だったということで
デリートも余りきつく言うのはやめておいた。
 アルファ=達志と彼ら二人は、ヴァニルとの約束を果たすべく怪獣スカルホーンの住んでいた山へ向かい、
墓を作ってスカルホーンを弔った。定番の、木で作った十字架に花輪が掛けてあるだけのめっさ適当な墓だが、
要は弔おうとする気持ちなのでこれでいいのである。
「ヴァニル・・・」
 帰り道、達志は澄み切った空を見上げて呟いた。
「ちゃんと約束果たしたから、アヴォル共々もう迷い出てくるのはやめてくれよ。頼むから。マジで」
ジャネット「余韻をぶち壊すのはやめましょうよ」
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