第一話
「その果てし無い」


「あ、お母さん、UFOだ!!」
「1,2,3……今日は3機ね。運がいいわねぇ、何かいい事あるかもね!」
「うん!」

UFOの存在が未確認で無くなった時代。
10年前、人類は異星人‘リュートリニアン’達とのファーストコンタクトを果たし、
以降、地球人とリュートリニアンは多少距離をおきつつ友好な関係を築き上げてきた。
リュートリニアンは月面に都市を築き上げ、定期的に地球と交信。
母星を戦争によって失い、宇宙をさまよい続けたリュートリニアンにとって地球と月は第二の故郷同様であった。
そんなリュートリニアンと地球人の中で最も関わり合いがあるのが、特殊組織‘A&R’。
‘アースとリュートリニアン’と言う安直ながらも解りやすい意味の名前を持つ彼等は、
地球の日本海海上と月に基地を置き、常に高性能な飛行機で地球と月を行き来し
リュートリニアンとの関係を保つのがその役目である。
今日も今日とて、A&R隊員であるカミヤ・レイジは、星間飛行機エーアールαに乗り、月へと向かっていた。


「こちらレイジ、大気圏を抜けました。これから月に向かいます。」
『了解しました。…確か、レイジ隊員は今回が始めての地球外任務なんでしたっけ?』
「そ! これに憧れてここに入ったようなもんだからさ、ようやく夢がかなったよ!」
『いいかぁ、レイジ。気持ちはわかるが、これは重要な任務だ。気を抜くんじゃないぞ。』
「了解っ。」

レイジは幼少の頃から宇宙人の存在に憧れを抱いており、難度も競争率も高いA&Rの入隊試験にギリギリ合格。
入隊後他の隊員に遅れを取りながらも今回、ようやく月への任務を与えられたのだった。

「月まであと30分…。あと30分…。あと30分…!」
気を抜くな、とカサゴイ隊長に注意されたが、やはり興奮を抑える事はできないようで、
レイジの顔はこの人生で一番にやけていた。
レイジはレーダーで周囲の障害となる岩石に注意しつつ、レバーを思い切り引き、αを加速させた。
その時…。

「ん? 10時の方向に飛来物体? 月からの出迎え…なわけないだろうし…。」
レーダーに映るその存在。その飛来物体は、猛スピードでαに進んでいる。
間もなく、レイジはその存在を肉眼で確認した。
それは銀色の大型の宇宙船といった感じで、鋭いシルエットをしていた。

「あれはリュートリニアンの物じゃない? なんなんだ?」
と、その時、飛来物体の一部が光る。そして、レーダーに映し出された‘DANGER’の文字。

「まさか!?」
レイジはレバーを左に思い切り傾け、αを左方向に寄せる。
と、αの横を何か光り輝く物がかすり抜けた。…レーザーだ!

「! こ、こちらレイジ! こちらレイジ!! 現在、何者かに攻撃を受けている! 繰り返す!!」
レイジと飛行物体との交戦は衛星を通じてA&R日本海本部に映し出されていた。

「レイジ、そちらの様子はこちらも観ている! なんとかやり過ごすんだ!
月面基地のシュウとミスカに応援を頼んだ! 持ちこたえろ!」
「隊長、月面基地からの応答によれば、リュートリニアン都市からUFOは発進していないようです!!」
「と言うことは、異星人の襲来…? こんな事は何十年ぶりか…。」

エーアールαより一回り巨大で、様々な武装を装備したエーアールβ。別名、‘ダッシュバード・ネオ’。
かつての‘DASH’の主力戦闘機、ダッシュバード2によく似ていたため、この別名が付けられた。
それに搭乗したハジマ・シュウとヒジカタ・ミスカは、宇宙空間で戦闘を繰り広げるαと飛来物体を確認した。

「聞こえるか、レイジ! 今から奴に威嚇射撃をする! 当たるなよ!」
シュウはトリガーを握り、ボタンを押す。
βの両翼から赤いレーザーが発射され、飛来物体の近くをかすり、飛来物体はよろける。

「今よ! くっつけて!!」
助手シートに座ったミスカが叫んだ。直接飛来物体と接触し、交信を試みるためだ。
βはスピードを上げ、飛来物体に近づき、そのまま接触した。

「‘カロ・プヒプネ・コシカレル、コレトピリ・ローレン…’」
ミスカはマイクを握り、リュートリニアン語で「今のは威嚇射撃である、これ以上攻撃を続けると…」と警告した。
すると、飛来物体は動きをピタリと止めた。その行動に、シュウとミスカが油断したその瞬間……。

『パファファファファファファファ……馬鹿め!!』
突如β内のスピーカーから不気味な笑い声がしたかと思うと、飛来物体はその場から猛スピードで離れ、Uターンした。

「危ない!!」
何かを察したレイジはαのレバーを思い切り引き、βの方へ近づく。
と、飛来物体が再びレーザーを発射した。狙いはβである。

「しまった!!」
シュウは慌ててレバーを握るが、すでに遅かった。と、その時…

「うぉぉぉぉぉ!!」
レイジの乗ったαがβの前に現れ、盾となったのだ。
レーザーの直撃を喰らったαはエンジン部分を破損し、そのまま地球へと流れていった……。

「まずい、あのままだと地球の引力に引っ張られる!!」
αが大気圏突入できるような状態で無い事を悟ったシュウは再びレバーを握ったが…

『プファファファファ…させるかよぉ!!』
と、飛来物体から何かが射出され、βの前に現れた。その正体は……

「な…なんなんだありゃ!?」
周りの岩石と比較するに、それは体長約50メートルはあるだろうか。
人影のシルエットはしているが、その顔つきは異様で、大きな耳、長い鼻と象に似ていなくも無い。
その顔に付けられた赤く、巨大な不気味な目はβをギロリと睨み、脅しつけた。


レイジは暗闇を漂っていた。

―ここは何処だ? αのコックピットじゃない。だが、宇宙空間でも無い。苦しくない。むしろ…

『聞こえるか…レイジ…』

―!?

突如暗闇に響き渡る、謎の野太い声。

『聞こえるのか…』

―ああ、聞こえる。アンタは誰なんだ? ここは何処なんだ!?

『ここは私が一時的に作り出した異空間だ。外での時間は止まっている。苦しくは無いだろう。』

と、レイジの目の前に、銀色に輝く巨人が現れ、レイジに向かい深く頷いた。

『――説明しなければなるまい。私の名は‘ウルトラマン・クラウス’。M78星雲より訪れた。』

―ウルトラマン!? 聞いたことがある。 昔、地球に現れた…

『私は奴を―‘フリップ星人’を追って、ここまで来たのだ。
 …すまなかった、もっと早く奴を追い詰めていれば、君をこんな目に遭わせずにすんだものを…』

―フリップ星人? それが奴の名前なのか!?

『そう。奴は君達の言うリュートリニアンの母星を戦争に巻き込んだ張本人だ。
 奴は移住したリュートリニアンを、しいては地球を狙っているのだ。私はそれを阻止しようとしたのだが…』

―なんだって!? 奴が…奴がリュートリニアンを…!

『私の力で、君の乗っている戦闘機を地球に移そう。その後、早急にフリップ星人を…』

―クラウス!!

『どうしたんだ? レイジ。』

―俺を地球に移すヒマなんかない! 
 俺なんか放っておいて、今すぐにでもフリップ星人を倒してくれ!!

『しかし、私が奴を倒している間に君は大気圏に突入するか、酸素が底を尽きてしまう。そうなれば君は…』

―今、奴を放っておいたら、βが…仲間達が襲われる!! だから、俺をこのまま放っておくんだ!!

レイジの言葉に、クラウスは少しばかり考え込んだ。そして…

『レイジ。君に質問をする。
 あのフリップ星人は、ひょっとするとただの偵察員なのかもしれない。
 恐らくは、伏兵が少なからずいるだろう。だとすれば、奴は幾度も地球人やリュートリニアンを襲うだろう。
 奴の力は凶悪で強大だ。そのため、私は人間やリュートリニアンに力を貸そうと思っている。
 だが、この姿のまま地球や月に留まる事はできない。M78星雲とここでは環境が違うからだ。
 となれば、だ。方法は一つ。君と一心同体になりたい。』

―え? 一心…同体?

『そうだ。だが、それによって君はフリップ星人に集中して狙われるかもしれない。
 君は今死ななくても、いつ命を失うか解らないのだ…。それでも、いいのか?』

―ああ。今死ぬくらいなら、戦ってから死んだ方がいい!! それで、皆を奴から守れるなら…!!

『…そうか。わかった。君の勇気があれば、困難も乗り越えてゆけるだろう。これを渡す。』

と、レイジの目の前に拳サイズのダイヤモンドのような物が舞い降りてきた。
銀と赤が交互に輝くその不思議なダイヤは、握りやすいようにコーティングもされていた。

『‘ウルティメイト・ストーン’。それを握り、私の名を呼ぶのだ。必要あらば、力になろう……!!』

その言葉を残し、クラウスはレイジの目の前からすぅっと消えうせた。
全てを理解したレイジはストーンを右手に握り、手を勢いよく前にかざした。そして…

「クラウゥゥゥゥス!!!!!」

フリップ星人は腕から怪光線をβに向け発射させようとした。
シュウとミスカは死を覚悟した。もう間に合わない…。
と、その時。フリップ星人の背後から輝く何かが現れ、フリップ星人を投げ飛ばしたのだ。

「あ…あれはなんなんだ!?」
「光の…巨人…?」

『き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!! しつこい、しつこいぞ、ウルトラマン!!!』

『シェア!!』

クラウスの掛け声と共に、宇宙空間での戦闘が開始された。
フリップ星人は腕から赤色の怪光線を発射したが、クラウスはそれを避けフリップ星人に急接近し、
右ストレートを仕掛けた。直撃を受けたフリップ星人は
ひるみはしたがそのままクラウスの右手をつかみ、電撃を流した。
痺れるクラウス。フリップ星人はつかんだ手を放そうとしない。

『パファファファファファファ……そのまま屍となるがいい!!』
とそこに、フリップ星人に光線が直撃し、フリップ星人はその手を放した。…βの砲撃だ!

「本当にあの銀色に光ってる奴は味方なんだな!? ミスカ!!」
「ええ、あれはお父さんがいつも語っていた…光の巨人…ウルトラマンよ! 間違いないわ!!」
βの援護で危機を脱したクラウスは、フリップ星人から離れ、体制を整え直す。
と、フリップ星人は両腕に力をためたのち、一斉に光線をクラウスに向け発射させた。
多量の光線を紙一重に避けるクラウス。そしてクラウスの方も、両腕に力をためた。
光線の雨が止んだのち、クラウスは輝く両腕の拳を握り、そのまま両手を大の字に開いた。そして…

『ジュワァァァァ!!!』
即座に両腕をクロス、そして十字組みにさせ、必殺光線・クラッシュウムカノンを発射させた!!
銀色に輝くクラッシュウムカノンはフリップ星人に直撃し、フリップ星人はその場から消滅した。

「よっしゃぁあ!!」
「やっぱりあれはウルトラマンよ…!! またこの地球に来てくれたんだわ!」
戦いを終えたクラウスはβの方に振り向き、深く頷き、そのまま姿を消した。
壮大な光景を目の当たりにし、シュウとミスカ一時ぼうっとっしていた。と、

「! レイジは!? あの象鼻野郎の宇宙船は!?」
シュウは周りを確認したが、αの姿もフリップ星人の宇宙船も見あたらなかった。
そこに、地球のカサゴイ隊長から通信が届く。

『シュウ、ミスカ、今すぐ日本海本部に帰還してくれ。話がある。』
「りょ、了解!!」
シュウ達はレイジ等の行方よりも、ひとまずはカサゴイ隊長の命令に従った。

大気圏を突破し、日本海本部にエーアールβは到着した。格納庫にβを収入させたのち、
シュウとミスカは降り立った。半月ぶりの地球だが、足取りは重かった。
レイジはどうなったのであろうか…。隊長の話とは、まさか…。
と、シュウが突然立ち止まった。それに思わずぶつかるミスカ。
一体なんなの、と文句を言うミスカに、シュウは無言で指を向ける。
修理班達が必死に修復している、傷ついたエーアールαの方向に……。
それを見た二人は無言で司令室に駆け出した。
司令室に到着した二人を出迎えたのはカサゴイ隊長、オペレーターのルイ、エーアールγパイロットのナオキ、
そして…

「シュウ、ミスカ!!」
奇跡の生還を果たした、レイジだった。

「レイジ!!」
「てめ、あの状況で生きてたのか!!」
喜び合う3人。それを温かく見つめる仲間達。

「彼が…ウルトラマンクラウスが助けてくれたんだ!!」
「クラウス?」
「そう、彼が俺の夢の中でそう名乗ったんだ。」
「クラウス、か…。覚えやすいじゃねえかっ。」
「皆、再開に喜ぶところ悪いが、聞いてくれ。」
そのカサゴイのツルの一声で、司令室に沈黙が走る。

「A&R総本部から連絡があった。今回の異星人の襲来で、我々は今までよりも戦闘装備を増やす事となった。
これに関し、リュートリニアンに誤解を招からない様より深く親交を深める事にもなる。
これから今まで以上に様々な面で忙しくなってくるぞ。いいな。」

「「「了解!!!」」」

一致団結したA&R。そして、それを異空間から見つめるウルトラマンクラウス。

『レイジ。やはり、あの我々が倒したフリップ星人は奴の本体が造り出した分身体だった。
 これからも、奴は何を使って襲い掛かってくるか解らない。気をつけてくれよ。
 …それにしても君のその勇敢な性格は…マックスが言っていた…トウマ・カイトに…よく似ている…。』


続く
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第2話
「強大なる挑戦状」

索敵怪獣サーチュカン 登場

A&R日本海本部、ベース・ネプチューン。
その司令室で、A&R隊員達は戦闘のシュミレーションを行っており、
スクリーンには、先日のクラウスとフリップ星人の激闘や、過去の記録映像が映し出されていた。

「過去のデータを見ると、あのフリップ星人と類似する異星人は見受けられない。
となると、過去の先頭記録は今の段階ではあまり頼りにならないと言うことだ。
何より、我々は今回初めて‘戦闘’を目的にエーアール各機を動かすことになる。」
スクリーンに映し出された映像を見つつ、カサゴイ隊長は説明を続ける。

「…と言う事だ。さっそく、今から飛行訓練を行う。いいな!」
「「「了解!!」」」
カサゴイの命令が下ると、それまで座っていたメンバーはサッと立ち上がり、そのまま出撃ゲートへと入っていき、
ゲートの中のα、β、γと記されている三つの扉に、各担当のパイロットがそれぞれ入っていった。
扉の先にはそれぞれがエーアールα、β、γの格納庫への道が通じている。
格納庫に到着したレイジはα、シュウとミスカはβ、ナオキはγに搭乗。
それと同時に、格納庫内にルイのアナウンスが入る。

『全スタッフに告ぎます、今より出撃を開始、規定以外のスタッフはその場から離れてください。
エーアールαより順にエレベーターカタパルトに設置開始、ゲートを開いてください、繰り返します…』
アナウンスと同時に、スタッフ全員が各々走り始める。ある者は待機場所に、ある者はエーアールの誘導を。
各エーアールがエレベーターカタパルトに設置され、そのまま上へ上へと運ばれていった。

『ファーストゲート、セカンドゲート、サードゲートオープン。各エーアール、出撃開始。』
ルイのアナウンス終了と共に、3機のエーアールは一斉に発進した。
日本海大海原、ベース・ネプチューン上空を急上昇する3機。そこに、カサゴイの通信が入る。

『今からゴースト・ブロックを射出する。私の合図と同時にブロックを攻撃しろ。いいな!!』
『『『了解!!!』』』
と、ベース・ネプチューンより巨大な物体が発射された。
ゴースト・ブロックと呼ばれるそれは、硬いブロックに遠隔操作用ロケットブースターを取り付けたもので、
主に射撃訓練に使用される物である。
カサゴイの合図が入った。訓練開始である。
まずαに乗ったレイジがトリガーを握り、ブロックにキャノンミサイルを発射した。
発射された複数のミサイルは直線を描きながらブロックに迫るが、ブロックはそれをヒラリと避けた。

『ヘッタクソだな、レイジ! どいてな、こうやるんだ!!』
βに搭乗したシュウがレイジに茶々を入れつつ、ダブリューレーザーを発射する。
が、それもまた見事に回避された。

『それっていわゆる人の事言えないってやつじゃんか!』
『あれ? あいや、その、あれだ、まぐれだ!!』
『そう言うのってまぐれって言うのか!?』
『はいはいあんた達、こんなトコで痴話喧嘩するんじゃないの!! ほら、そっち行ったわよ!!』
レイジとシュウが海上600m上空で通信で口喧嘩をしていた隙に、ブロックはγの方へと向かっていた。

『おおーし、こんな訓練、γのアルティメットキャノンでさっさと終わらしちまおう。』
『馬鹿言え! あんなもんバルカンで十二分だろ!』
『当たんなきゃ意味ないのっ。』

「…ん、恐ろしくマイペースな奴等だ。」
訓練の様子を司令室のモニターで眺めるカサゴイ。

「あのぉ、指示とかはしなくていいんでしょうか?」
「いや、彼等にとって戦闘理由でエーアールを操る事はまだまだ未知数だ。
ここは彼等のやり方を見てみたい。」
その後十数分、レイジ達は未だゴースト・ブロックを破壊せずにいた。
カサゴイがそろそろ催促をしようかとしたその時…

「…はい、こちらA&R日本海本部……え!? 怪獣!?」
突如訪れた連絡。それは警察本庁からの出撃要請であった。
その内容は、東京第13エリアに巨大生物が出現、暴れているとの事であった。
唐突な出来事に、ルイは頭が混乱していたようだが、カサゴイはそれをフォローするかのように的確に指示した。

「ルイ、北京支部に応援を要請しろ!! 向こうのエーアール量産タイプも武装されていたはずだ!
現地の警察には民間人の非難を優先させろ! 怪獣に下手に手をださないよう指示するんだ!! いいな!!」
「りょ、了解!!」
『隊長! 俺達の出番ですか!?』
「ああ、その場から現場に急行しろ! ぶっつけ本番だが、覚悟はいいな!!」
『『『了解!!』』』
訓練もななまらぬまま、A&Rは初陣へと参戦した…!

暗黒のような体色、身長60mはある巨体、赤い目つきは悪く、鋭い牙や爪、岩のような皮膚、轟く咆哮……。
これを‘怪獣’と呼ばずしてなんと呼べばいいのだろうか。
何の前触れも無く東京湾から上陸したこの怪獣・‘サーチュカン’は、
その見た目から反する事も無く、街を破壊し続けている。
逃げ惑う人々。それを誘導する警察官達。事態を報道するニュースキャスター。

「現在、東京都全域に緊急避難命令、関東地方全域に怪獣警報が発令されています!!
これはおよそ数十年ぶりのこととなります!! あ、今、怪獣が肉眼で確認できます!! カメラさん、あっちへ!」
迫りくるサーチュカンに向かうキャスター達。当然警察官に阻止されるが、彼等は構わず報道を続ける。

「あ、あれをご覧ください! 戦闘機です! 3機の戦闘機が怪獣に立ち向かう模様です!!」
A&Rの到着である。すぐさま戦闘が開始された。

『まだ民間人の非難が終わってない! 十分ひきつけてから攻撃をするぞ!!』
『『了解!!』』
αとβはサーチュカンにぐっと近づき、至近距離からミサイルやレーザーを発射した。
全弾ヒットするが、サーチュカンは咆哮するだけで効いているかどうかまったく解らない。
すれ違いざま、サーチュカンは両腕の爪で2機に切りかかる。

『危ねぇ!!』
攻撃をなんとか回避する2機。振り向くサーチュカン。その隙に、γがバルカンで攻撃する。

「よし…よく解ってるじゃないか…!!」
その様子をモニターで確認するカサゴイ。隊員達の判断に、
カサゴイは彼等が口は悪くとも戦士としてはしっかりしてくれる事を再確認した。

「隊長、間もなく北京支部の応援が駆けつけるそうです!!」
「そうか…。」

αとβは再び急降下、サーチュカンの真上から攻撃を仕掛ける。
これはさすがに効いた様で、悶えている。
さらに、その場に5機のαよりも小さな戦闘機が飛来した。北京支部のエーアール量産タイプ隊だ。

「よし、これで百人力か! うおぉぉぉぉ!!」
レイジは北京支部と合流し、共に攻撃を仕掛けた。
と、突然、サーチュカンの目が光ったと思うと、口から赤い光線を発射させたのだ!!

「!?」
避けるレイジ。だが、今の攻撃で3機の量産タイプが撃墜させられてしまった。
再び光線を放つサーチュカン。今度は避けきれず、右翼に直撃を喰らってしまった。

「まずい! だ、脱出する!!」
脱出ボタンを押すレイジ。だが、先ほどのショックで壊れたか、全く反応しない!

『レイジ!! 早く脱出するんだ!! おい!!』
解っている。だが、脱出しようにもできない。
揺れる機体の中で、レイジは懐から輝く石…ウルティメイト・ストーンを取り出した。
あれ以来、レイジは変身していない。果たして、今回もレイジの声にクラウスは答えてくれるのだろうか…。
だが、迷っている必要は無い。レイジは機内でストーンをかざした。そして…


「クラァァァァァァウス!!!」

銀色に輝く巨人が光の中から現れ、墜落しかけたαをつかみ、地上にそっと降ろした。

「クラウス!!」
「来てくれたか!!」
ウルトラマンクラウスの姿を確認したサーチュカンは、咆哮と共にクラウスに突進を仕掛ける。
クラウスはそれをジャンプで回避し、そのままサーチュカンにキックをお見舞いした。
サーチュカンはよろけつつも、その尻尾をクラウスに叩き付けた。
ひるむクラウス。サーチュカンは先の光線を発射した。危険を察知したクラウスはそれをバック転で避ける。
光線を乱射するサーチュカン、その度バック転や側転で回避するクラウス。
光線発射の隙を狙い、クラウスはぐっとサーチュカンに駆け出し、ドロップキックを喰らわした。
が、サーチュカンはそのままクラウスの足をつかみ、地面に叩き付けた。
倒れるクラウスに押しかかるサーチュカン。と、突然、クラウスの胸のダイヤの様なものが点滅し始めた。
俗に言う、カラータイマーである。クラウスは故郷と環境の違う地球上ではエネルギーを極端に消耗する。
活動時間は、持って約3分…!
クラウスは苦し紛れにサーチュカンを蹴り飛ばし、立ち上がる。
そして、エネルギーを振り絞り、必殺・クッラッシュウムカノンを撃ち込んだ!
直撃を喰らったサーチュカンは爆発し、クラウスは見事勝利を得た。

「ぃやったぁぁ!」
喜び合う一同。クラウスもほっと胸をなでおろし、空へ飛び立とうとしたその時……

『ブァファファファファファファファ……この程度で大喜びかぁ、地球人共ぉ!!』

「な!? この糞喰らえな笑い声は…まさか!?」
クラウスを含めた一同が笑い声のするサーチュカン爆発後にできた煙に注目した。
すると、そこに超巨大なフリップ星人の半透明のホログラムが現れたのだ!!

『プファファファファファファファ……そいつはただの偵察役だ!!
 その程度に手こずっている様では、全然俺を楽しませてくれそうにはないなぁ! ファファファ…
 ウルトラマンクラウス、俺は欲張りだからなぁ、地球人にもリュートリニアンにも手をつけるぞ!!
 果たして守りきれるのかなぁ? パファファファファファファファ…!!』
クラウスは右手人差し指中指に念を入れ、フリップ星人にダブルフィンガービームを発射する。
が、相手はただの立体映像だ。効くはずが無い。

『ファファファファ…まぁせいぜい、悪あがきするがいい!! パファファファ…』
その後、フリップ星人の立体映像はすぅっと消えうせた。
クラウスも怒りに満ちながら、その場を後にした。
時すでに、夕暮れである。

現場収集のため、地上に降り立ったβとγ。サーチュカンの暴れた跡地はまさに災害地であった。

「あの象鼻星人…とんでもねぇ伝言係を寄越しやがったぜ…。」
「それより、レイジは!? αはこの辺にあったはずなのに…。」
と、その時…

「おーーい!!」
夕日をバックに、手を振り駆け寄る人影。レイジだ。

「レイジ!!」
「なんだお前、まーたウルトラマンに助けられたのか? 少しは成長しろよな!!」
「悪い悪い。でもさ、皆も無事でよかったじゃないか!」
「ん、ま、この後始末は大変だがな…。とにかく、本部に帰って隊長に報告だ!」

一番星が輝きだした。戦いを終えた戦士達は、その場から去っていったのだった……。


次回 ウルトラマンクラウス第3話

「出撃! ベース・グラナダ」
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第3話
「出撃! ベース・グラナダ」

月面獣クレッセント
巨大甲殻生命体ディスト 登場

太陽系第三番惑星、地球。
その衛星・月。
かつて、その表面は岩山とクレーターでボコボコであり、生物も確認されず、なんとも寂しげな星であった。
だが、今は違う。
20世紀の後半、よく絵本や漫画で描かれていた未来予想図。
銀色の高い建物が立ち並び、その間を飛び交うカッコイイ飛行機…。
それはあくまで地球人の「理想」だった。未だ地球上では果たされていない。だが。
そんな「理想」の世界が、今の月には栄えていた。
その主は人間ではなく、遥か宇宙遠くより訪れた異星人・リュートリニアンである。
そして、その月面都市付近を見守るかのように漂っているのが、
A&R月面浮遊基地、‘ベース・グラナダ’である。

今、1機の飛行機が、ベース・グラナダに収入された。
その飛行機は、A&R専用機・エーアールα。
パイロットは…そう、この間、月への旅をフリップ星人に邪魔されたカミヤ・レイジだ。

「カミヤ・レイジ、只今参りました!!」
「おぉ、ようやく来たかね、レイジ君。」
「はい!! この間はお迎えに参れず、申し訳ありませんでした、オオシマ長官!」
「なぁに、あの状況では仕方あるまい。シュウ君のβにでも便乗しようかと思ったが、止められたしねぇ。」
月面基地司令室。ここにレイジが訪れた理由は、月に出張していたオオシマ・ケン長官を地球に送るためだった。
前、リュートリニアンとの交信と同時に、この役目も命じられていたレイジだったが、
先程も言ったフリップ星人襲来により、今まで延期になっていたのだった。
(なお、シュウとミスカはそれまで月面任務だったが、エーアール強化において地球任務へと移った。)

「さて、つのる話は後にして、とりあえず都市見学と行こうか? 案内しよう。」
「はい!!!! よろっしっくっお願いっしっまっすっ!!!」
都市見学……それが目的でA&Rに入ったようなものであるレイジにとって、
たとえ長官の目の前であってもその興奮は隠すのは無理に等しかった。

「あー、タカシマ君、エレベーターを起動させてくれ。」
「了解。」
と、一人の隊員がパネルを操作する。すると、警告音が流れると同時に、基地全体がゆっくりと動き始めた。
そして、ベース・グラナダが都市の一番高い建物の上に浮遊すると、
基地から細いチューブの様な物が出て下に伸び、チューブ先端が建物の天辺に付けられ、固定された。
ベース・グラナダからリュートリニアン都市へと続くエレベーターの完成である。

「接続、OK。酸素、OK。オオシマ長官、どうぞ。」
「解った。さぁ、こっちだ。」
司令室の赤い扉が自動に開いた。エレベーターの入り口だ。
レイジとオオシマはエレベーターに乗り、都市へと降りていった。

「うおお…すごい、すごい!!」
エレベーターの窓はキチンと透明で出来ている。その為、外の景色がよくわかる。
青く輝く地球をバックに、銀色に輝く都市がそびえ立っている……。
例えレイジでなくとも、この絶景に見とれるのは当然だろう。そしてその時間にも、終わりが近づいた。

「さ、レイジ君。到着したぞ。この扉を開けたまえ。」
停止したエレベーター内で、オオシマが指図する。
レイジは言われたままにボタンを押し、扉を開いた。すると……!

『『『『『『『リー・ガー・ニーナーーー!!!!』』』』』』』

ようこそ、友達!
リュートリニアン語でそうレイジを出迎えたのは、白く、バスケットボールサイズの光の物体達であった。
これこそが、リュートリニアンである。例え実体は無くとも、客を温かく迎え入れる高等種族なのだ。

「ア、アキアス・ニーナー!!」

は、始めまして、友達!
あまりの嬉しさにわずかに涙ぐみながらリュートリニアン語で挨拶するレイジ。
彼はこ彼等に会うが為に、今の今まで努力して来たのだ。

「ラディ・カーンキリウ、テクリナ・レイジ。」

彼はレイジ。案内してやってくれ。
そうオオシマが言うと、光の物体達はレイジの顔に近寄った。

(以下、同時翻訳)

『ふーん、ウルトラマンに助けられたんだ。凄いね!!』
「知ってんの? ウルトラマンを。」
『おうさ、俺達に知らねぇ事なんざねぇんだよ!!』
『なんでも聞いてね。最も、数日やそこらじゃ説明しきれないけど…。』
真っ白な、長い廊下を歩くレイジとオオシマ、それにまとわり付く複数の光の物体。
ハタから見るとなんとも不思議な光景である。

『そうだ! これからいいもん見せてやろうか!』
「いいもの?」
『そろそろ発表してもいい頃だろう。オオシマも此方へ。』
「なんでしょう、それ。長官は何か知ってるんですか?」
「見てからのお楽しみさ。私も直接見るのは初めてでね。」
光の物体達が先頭に躍り出、レイジ達を誘導し始めた。

しばらく―

「ここは…運動場? と言うか体育館?」
レイジ達は薄暗くかなり広いドームのような場所へ案内されていた。向こう側がよく見えない。
が、床は何故か岩場もある地面で、よくわからない場所だった。
と、突如、鈍い音と振動がした。また、鈍い音と振動。この感覚は…

「足音…?」
と、同時に、うなり声が聞こえる。ライオン等の物では無い。そう―

「怪獣!?」
薄暗い影の向こうから2つの超巨大な存在がぬぅっと現れた。

『‘クレッセント’。我々の同胞さ。』

真っ黒なボディ、のど部分にツキノワグマのような白い月の輪印が付いた約40mの怪獣。
その名は体が示すよう、クレッセント(三日月)。見た目は凶悪だが、性格は穏やか…らしい。

『元は我々の母星の野生動物。君達で言う熊の様な物だ。見た目はアレだが、警戒しなくていい。』
「この2匹のクレッセントは、彼等の母星でペットとして飼育されていたそうだ。
ここの環境に慣れさせるまでつい一昨日までこの場所で仮死状態にしていたらしい。」
『我々にとってはともかく、地球人にとってはおぞましい姿をしていますからね。
今まで発表のタイミングを窺ってたんです。』
「へ〜……。」
確かにその姿は先日現れた恐ろしい敵、‘サーチュカン’に少し似ている。
…だが、クレッセントとサーチュカンには絶対的に似つかない所があった。それは、優しい瞳。

『こいつ等も、今まで何かと苦労してきたからね。ようやく安住の時を迎えた訳だ。大事にしてやらないと。』

レイジは思いにふけていた。
このクレッセントの様に、例え巨大な体を持つ者でも助けが無くては生きて行けない。
ウルトラマンクラウスになれるという大いなる力を、より一層、皆のために使わねば…と。
クレッセントの大きな顔が、レイジ達にぐっと近づく。その巨体からは、優しい空気が満ち溢れていた。

突然、ドーム内に響くブザー音。レイジとオオシマは自分の左手手首に注目した。
ブザー音の主は、少し大きめ腕時計。A&R専用携帯無線機だ。ベース・グラナダからの通信であった。

「こちらオオシマ、どうした!?」
『都市から約10kmの地点に敵と思われる巨大生命反応、近づいています! お戻りください!!』
「解った! すまないが出撃だ、レイジ君!!」
「了解!! さよなら、皆! またいつか!」
『ダ・レン、ニッシャー!! (さようなら、気をつけて!!)』


大急ぎで司令室に戻った2人。

「敵の位置は!?」
「現在約3kmの距離に! もの凄いスピードです!!」
「長官、俺が敵を足止めします! その間に皆の避難を!!」
「解った、気をつけてくれよ!」
「了解!!」
レイジは大至急に格納庫へと走って行った。

「よぉーし! 全リュートリニアンに地下シェルターに避難するよう指示するんだ!
同時に、ベース・グラナダ・戦闘態勢に入れ!」
「「「了解!!」」」
今までもの静かだった司令室が一転、緊張感漂う戦闘司令室へと変わって行った。
警戒音が鳴り響き、隊員達が慌しくパネルを叩く。ある者はリュートリニアン語で避難命令を指示をしていた。
司令室正面モニターがより一層広く表示され、様々なデータが画面隅に表示される。
と、画面脇から飛行物体が生命反応の確認された方向へ飛び行った。
レイジの乗ったエーアールαだ。
敵の距離は、約2.5km。

巨大甲殻生命体・ディストは、その巨大な銀色の体を猛スピードで飛ばせていた。
カミキリムシにも見えるその外見。奴もまた、フリップ星人の手先なのだろうか。
その姿を確認したレイジ。空中戦が開始された。
レイジがキャノンミサイルで先手を撃つ。が、ディストはそれをヒラリと避け、目から光線を発射。
レイジはそれを避けようとレバーをぐっと握ったが、
もしこの攻撃をかわせば、光線が都市に直撃するかもしれない…。
とっさに判断を変えたレイジは、レーザーバルカンを発射。敵の光線にぶつけ、光線同士で消滅させた。
が、その隙に、ディストはスピードをさらに上げ、エーアールαをすり抜け都市に接近。
焦るレイジはとっさにUターンした。

「来ました!! 距離、1キロ!! 第2防衛ラインです!!」
「護身用レーザー、発射!」
ベース・グラナダから巨大なレーザーが発射、ディストに真っ直ぐ向かう。
が、それも当然の様に避けるディスト。しかしその隙にベース・グラナダはミサイルを一斉射撃した!
何発かがヒットしたが、ディストは咆哮するだけでスピードを止めない。
ついには第1防衛ラインを突破された!!

「リュートリニアンの避難は!?」
「完了されています!! ただ、飼育ドームの方が……。」
「クレッセントか……さすがに日本海本部の救援はまだ先になるであろうし……!!」
悔やむオオシマ。だが、ディストは止まりはしない…!!

ついに都市内に侵入したディスト。その巨大な体はさらに巨大な飼育ドームに圧し掛かった。
何発かの圧し掛かりに耐えたドームだったが、約10回目でついに一部が崩壊。クレッセントに危機が迫る。
自ら外に躍り出た2匹のクレッセント。宇宙空間でも生息可能だが、戦うとなると、相手が悪い…!
クレッセントより一回り巨大なディストが、2匹に襲い掛かろうとしたその時……。

「うおぉぉぉぉぉっ!!! クラウゥゥゥゥゥゥス!!!!」

銀色に光る物体が、ディストを殴り飛ばす。その正体は、そう

「ウルトラマンクラウス!! あれがそうか!!」
歓声が巻き起こる司令室。事の行方をシェルターから見守るリュートリニアン達。

『シェアァァ!!』
クラウスはその巨体を持ち上げ、とにかく都市外へと運ぼうとするが、ディストは6本の足でそれを防ぐ。
なかなかディストを持ち上げられないクラウスは、作戦を変更し、その場で仕留めることにした。
当然、大爆発を起こすクラッシュウムカノンの使用などご法度である。
クラウスはディストにがっぷりとしがみつき、ひたすら拳を叩きつける。
リュートリニアン達のシェルターは建物の真下だ。被害が出ないよう、小振りで戦うしかない。
しかしそんな事をディストが気にするはずもなく、6本の足を巧に使い容赦なく攻撃を続ける。
その時、2匹のクレッセントがクラウスに加勢したのだ! 彼等はそれぞれディストの足にかぶり付く。
十数秒の四つ巴の末、2匹のクレッセントがディストの足を噛み切った。
あまりにもの激痛に痛々しい咆哮をするディスト。同時に、わずかに力が抜けた。
クラウスはディストを都市外に投げ飛ばす。
さらにベース・グラナダが攻撃をしかけ、ディストは空高く舞い上がった。
クラウスは両腕に力をため、クラッシュウムカノンを上に発射!
ディストは爆発し、宇宙のチリとなって消えた…。

数時間後―

事件の収集を終え、オオシマは月での任務をひとまず終えた。
月に別れを告げ、地球への帰路に付くエーアールα。
機内、レイジがレバーを握る後ろで、オオシマは指にはめた宝物の指輪をハンカチで丁寧に磨いていた。

「宝物―ですか?」
「ああ。いかなる時でもこの指輪だけは外さなくてね。私の体の一部のようなものさ。」
「へぇ…。ところで、長官。あのクレッセント達に、名前は付いているんですか?」
「当然さ。片方の大きい方が‘ラスター’、小さい方が‘ロン’。」
「ロン? へー、名づけ方のセンスは我々と同じなんですね。…あ、ダッシュバード・ネオ!」
αを出迎える、β。シュウの通信が入った。

『すまん、遅れた! お久しぶりです、長官! 地球で皆帰りを待ってます!
早くカラテの稽古を付けてください!!』
「ああ、そうだったな。さて、じゃ、早い所帰ろうかね。」
「了解!!」
αはスピードを上げ、地球へと向かう。
オオシマの顔は、とても満足気であった。


次回 ウルトラマンクラウス 第4話

「正義の意味」
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第4話
「正義の意味」

放火怪獣ナーバー 登場


「はぁぁぁぁっ!! ったぁぁぁっっ!!!!」
「おっと、また必要以上に力んでるぞ!! 力だけで押そうとするな!!」
「はい! やぁぁぁっ!!」
いかにも体育会系な叫びがこだまする、A&R日本海本部内道場。
そこでは共に黒帯胴着を身に着けたシュウとオオヤマ長官がカラテの稽古に勤しんでいた。
それを道場隅で見守るレイジとミスカ、ナオキ。彼等も胴着を着ている。白帯だ。
本来、A&Rは飛行訓練およびリュートリニアン語の学習重視で、この様な格闘訓練は必修科目では無かった。
だが最近、強大な力を持つ敵の出現により、隊員本人にも力を付けさせるようになったのだ。
今、シュウとオオヤマの組み手が終了した。
オオヤマはまだまだ戦えそうだったが、シュウの方はヘトヘトである。

「確かに君にはかなりの力がある。だがただ力を出せばいいってもんじゃない。」
「は、はい…。解ってるんですが、その、調節、ですよね…?」
「頭で考えるのは簡単だ。だが、それをモノにするには並み以上の精進が必要でな。
私も、近年になってようやく理解した所さ。ま、カラテ道に終わりは無いがな。よし次、来なさい!!」
「お願いします!!」
続いてミスカの稽古付けが始まった。

「やってるやってる。相変わらず激しいネー。」
稽古が続く中、一人の男がラフな格好をして道場に入り、レイジの横にすぅっと立ち、そう呟いた。

「え? …あ! あなたは! 長官!」
「ん? なん……おお〜、君も帰ってきたか!」
「Oh、訓練の邪魔してゴメンネ、続けて続けてっ」
「あ、あの、失礼ですが、ひょっとしてあなたは……」

そのいかにもなアメリカン日本語を話す、ナイスミドルな外国人は、そうー

「ショーン博士ですね!? 始めまして、カミヤ・レイジと言います!!」
「Oh、youが期待のルーキーだネ? 話は聞いてるヨ!」

‘DASH’OB、ショーン・ホワイト。

かつてDASHの隊員であった彼は、DASHの解散後、自身の能力を平和のために使おうと、
凄腕の技師として世を渡り歩いた。A&R結成前後も、エーアールの開発やリュートリニアン語解読など、
A&Rの一員として数多くの結果を残して来た。
そしてこの2年間、彼はアメリカに出張に行っていたのだ。
ちなみに、オオシマとはA&R結成以前からの友人同士である。

「…博士! …お久しぶりです!」
稽古を終え、司令室へと戻った一同。
そこには、ショーンとの再会に純粋に喜ぶカサゴイの姿があった。

「ハァーイ、お久しぶり、カサゴーイ! またここで働くことになったヨ!」
「光栄です! アメリカでの成果の数々、耳にしています! 博士、これからエーアールのうんぬんかんぬん…」
普段の冷静さと威厳さが微塵も感じられない、そのはしゃぎよう…。

「なぁ、隊長って、あんな性格だったっけ…?」
「元々DASHの存在に憧れてたらしいし…仕方ないんじゃない?」
あきれる、と言うか、隊長の珍しい面に珍しがる隊員達…。
と、ショーンと話を終えたカサゴイがバッと隊員達に振り返る。

「あー、ん、これより、ショーン博士の開発したエーアールβ用の新兵器のテストをする事となった!
シュウとミスカはβに乗り、出動! ナオキとレイジは博士と共にγに搭乗! いいな!」
「「「了解っ!」」」
妙にほのぼのとした空気が流れる中、普段より微妙に威厳の入っていない出撃命令が下った。

―β格納庫―

「なあ、いつの間にやらβがパワーアップしてるっぽいんだが…。」
「あの博士、仕事が恐ろしく速いのよねぇ…。」
色々ツッコミながらβに搭乗する2人であった。

A&R基地上空。
そこにはエーアールβ、γ、そして射撃訓練用のゴースト・ブロックが浮遊していた。

『OK、操作パネルに‘ATTACK MODE’と入力!』
『了解!!』
γのショーンから下る指示の元、シュウがコクピットのパネルを操作する。
すると、βの両翼がカッターナイフの様に鋭く変形した。

『そのままゴォーストにアタァァック!』
『了解!』
アタックモードに変形したβは、そのままブロック・ゴーストに突撃。
それをヒラリと避けるブロック。

「ハッハッハッ、頑張れ!」
「あの、博士、あれって昔の戦闘機と同じ機能ですよね?」
「そう、ダッシュバード2の、ネ。」
「元々βはダッシュバード・ネオって呼ばれるくらい2とよく似ていたから、
これでさらにダッシュバード・ネオって名前が似合うようになりますね。」
「本当は、あんな改造なんかしたくなかったんだけど……ネ。」
「…へ?」
γ内に、少し思い空気が流れる。

「ボクがβをダッシュバード2に似せて造って、ダッシュバード・ネオってニックネームを付けたのは
ただのちょっとした遊びだったんだ。懐かしさをかねての、ネ。
元々エーアールはボク達とリュートリニアンを結ぶ渡り鳥として造ったモノ。兵器なんかじゃない。」
「し…失礼しました! そんな事も考えないで、俺は…!」
「Oh、別に怒ってなんかないヨ! 敵が現れてしまったのなら、戦うための備えは必要サ。
それに、youは…」
「へ?」

その時、操縦席に座っていたナオキの元に通信が入る。

「ぅへい、こちらγ……はい? 怪獣!? …ん、よし、了解!!」
今度は、緊迫した空気が流れる。

「関東エリア第13―Eポイント、火ぃ吹く怪獣が出現だとよ! 
聞こえてるかシュウ、訓練は中止、現場に急ぐぞ!」
『『了解!!』』

―β機内―

「なーんか前にも似たようなことなかった?」
「同じパターンだな。あの象鼻エイリアン、どこかで俺達の事監視してるんじゃねぇの。」
「かもね。」
今日は何かとツッコミたい事が多い2人。

―省略―

時すでに、夜。
街を覆う、火の海。
犯人はその間を蠢く影、巨大怪獣・ナーバーだ。
その姿は、胴体こそオーソドックスな恐竜スタイルだが、頭は火炎放射の様な形をしている。
住民の避難は終わっている。近頃、全国的に避難訓練を怠っていないから…かどうかは定かではないが。

『こいつぁいいアタックモードの訓練相手だな! 』
駆けつけたβとγ。
βはさっそくアタックモードにチェンジ、攻撃を仕掛ける。
その後方からγが援護射撃、チームプレーでナーバーを押し続ける。
γのコクピットでは、右座席でナオキが攻撃と操縦をし、左座席でレイジがそれをサポートしていた。
が、レイジの目はどうにも冴えていない。さっきのショーンの言葉に、軽くショックを受けたからだ。

ナーバーに体当たりで攻撃し続けるβ。
本当は、後ろにいるショーン博士は、こんな光景を見たくないに決まっている。

‘いつか、DASHが解散できる日が来るといい’

誰が伝えたか知らないが、かつてショーンがDASH現役だった頃、
‘史上最強の完全生命体’との戦いので呟いた言葉だという。
その後、彼の願いは叶った。
DASHの解散。現れなくなった怪獣。リュートリニアンと言う新たな人類の仲間。
全てが、ショーンにとって理想の、未来の姿だった。
だが…

『やろぉぉぉぉ! 喰らえぇぇぇぇ!!!』
今、目の前に広がるのは、燃え上がる街、怪獣の雄叫び、それと対峙するエーアール…。
レイジは、何故か申し訳のない気持ちになった。
自分のもう一つの姿が、ウルトラマンである事と関係があるのだろうか…。
その時。

「Hey! ナオキ! ボクとレイジを地上に降ろして!!」
「はぁぁっ!? 何言ってんすか、地上は今えらい事になってんですよ!?」
「実は新開発した対怪獣用兵器を試したいんダ! 今がチャンスなんだヨ!!」
「ぅえー!? んー、解りましたよ! どーなっても知らないっすからね!!」
「Oh! thank you!!」
轟音を鳴らしながら地上に着陸するγ。防火チョッキを着用したレイジとショーンが降り立った。
離陸し、再び攻撃を開始するγ。

「博士!? 兵器は!?」
「そんなモノ、…ない。」
「へ? …どうゆうことです!!」
辺りは炎がもうもうと燃えている。その場にいるだけで、大量の汗が身体を冷やす。

「単刀直入に言うヨ。
キミは……ウルトラマン。
じゃ、ないの?」

「…へ? え? ○×△@●×?△♯!!??」

「ハハハ、どーやらウメボシ、じゃなくてズボシのよーだネ。
だったら、話は早い。今すぐ変身して、あの怪獣を倒してくれ。」
「そ、それはどういう…」
「いいからさっさと変身シヤガレ!!」
「は、はいぃ!!」
慌ててナーバーの方に振り向くレイジ。そして…

「ク、クラウゥゥゥゥス!!!!」

火の粉が舞い上がる烈火の渦の中、光り輝く巨人が現れた。
ナーバーはその存在に気づくや否や、お得意の火炎放射を発射する。

『ヘァッ!!!』
ウルトラマンクラウスも十八番の側転でそれを回避、そのままダブルフィンガービームで攻撃。
ビームはナーバーの右腕に命中、ナーバーは雄叫びをあげつつ背後の炭化したビルに倒れこむ。
すかさずクラウスはもう一発ビームを撃ち込み、倒れたナーバーの元へ駆け寄った。

「Hey! 怪獣はクラウスに任せて、君達は消火活動に移るんダ!!」
『『了解!!』』
無線で指示するショーン。
指示と同時に、βはノーマルモードへ戻り、γと共に消火活動を開始。
さながら、空飛ぶ消火器、と言った感じである。
一方、クラウスは倒れこんでるナーバーに圧し掛かり、連続チョップでダメージを与えていた。
と、ナーバーの口元が一瞬光る。危機を察知したクラウスはすかさず後ろへバック転。
思ったとおり、ナーバーは火炎を放射。もう少し回避が遅かったらクラウスは顔面に直撃を受けていた所だ。
ナーバーはすくっと立ち上がり、今度は上を向き、そのまま光を吸収し始めた。
どうやら、溜め火炎放射を試みるらしい。クラウスも両腕に力を溜め始める。
激闘を繰り広げる2体の周りで消火活動に全力をかけるβとγ、
そしてそれらの様子をじっと見つめるショーン。
ナーバーの口に光の粒子が貯まり、そしてクラウスの両腕に光エネルギーが圧縮される。
次の瞬間、ナーバーの口から最大出力の火炎放射、クラウスの腕からクラッシュウムカノンが発射された。
ぶつかり合う光と炎。クラウスは腕を十字に組んだまま、ナーバーは前かがみになったまま合戦を続ける。
炎の勢いが光を消したかと思われた瞬間、光が再び蘇り、そのままナーバーを襲う。
ナーバーは爆破、辺りは火の海だけとなった。

「おぅ、クラウスの奴、手伝ってくれるのか?」
γで消火活動を続けるナオキが目にしたのは、ビームで火を消すクラウスの姿。
クラウスは自らの水分を指にため、ダブルフィンガービームの応用で炎を消し去っていた。
すでにカラータイマーは鳴っており、しばらく火を消し回った後、今度はその姿を消した。
町を包んでいた炎はほとんど鎮火、残るわずかな火の手もβとγによりまさに風前の灯と化していた。
時、午前5時―

光の粒子に包まれ、地上に舞い降りたレイジ。
彼の目の前には、ニコニコしながら手を振るショーンの姿が。
レイジはなんとなく目をそらす。
博士に、自分の正体がバレた、て言うか、バレていた…。
すると、ショーンが近づき、レイジの肩を、ポン。

「Nice,fight!」
あくまで明るく振舞うショーン。

「…解ってるヨ。正体がバレてた、どうしよう、て思ってるんでしょ?
実はそうでもない。ボクがさっき変身シロと言ったのはちょっとしたカケだったんダ。」
「…賭け?」
「そう。今日ボクが始めてyouを見た時、怪しいなとは思ってたんダ。
期待のルーキーだとか、ウルトラマンに助けられたとか、
ウルトラマンが活躍してる時はいつも見当たらないとか。そして何より、そのまっすぐな目。
それらがボクの‘ウルトラマンだった親友’に、ソックリなんだ。」
「ウルトラマン…だった?」

時、午前5時半。日の出が出始める頃。炎は完全に消え去った。

「そう。それでさっき、君が本当にウルトラマンであるかどうかをチェックしてみたのさ。
いやぁ、sorry。」
「そう…だったんですか。」
「ダイジョーブ、皆にはトップシークレットにしておくヨ。
自分がウルトラマンです、なんて言いがたいし、ちょっと気まずいしネ。」
「すみません。」
「それで、1つ質問があるんダ。…君は、その力をどう使っていきたいと思ってる?」
「…え? そりゃぁ…皆を守るため、正義のため…。」
「じゃあ、もういっこ。君の言う‘正義’って、なんだい? ひたすらフリップ星人や怪獣を倒す事?」
「え!? …それは、そのう………」
「ハッハッハ、イジワルしちゃったネ。そう、正義なんて、漠然としたモノさ。
自分のやってる事が正義なのなら、敵も自らがやってる事が正義になる。
絶対悪はあるかもしれないけど、絶対正義なんか、無い。」
ショーンの言葉に、さらに沈黙するレイジ。

「でも、皆を守るって言う目的は、絶対に間違ってない。こんな事態だからこそ、君の力がいる。
ボクも全力でバックアップする。だから守っていこう。みんなを、ネ。」
「…ショーン博士…!!」
日の出。街は廃墟となり、途方も無い状況であった。でも何故か、その朝は清々しい。

「さぁて、お腹もハングリーだし、とりあえず帰ろうか。」
「はい!!!」
2人の上空に、β、γが飛来。2人は手を振ってシュウ達に無事を伝えるのであった。


次回 ウルトラマンクラウス 第5話

「ゼットンの孫」
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第5話 
「ゼットンの孫」 前編

空想怪魚ガラン 登場



‘絶対的に、確実に、そんなものは存在しはない。だが。
 仮に「神」という存在があるとするならば、神は今の地球の住民達にいかなる印象を持つのだろうか。
 今の我々の行動が神に好かれるか否かで問えば、答えは当然、否であろう。
 いつの日にか、我々はその手の信者の言う神の徹裁とやらを受ける日が来るのかもしれない。
 それは、決して避けて通れる事ではないのかもしれない。
 だが、我々が動かなければ、誰が腐りかけた地球を、人類を救うと言うのだ?
 だからこそ。
 だからこそ我々は、これまで活動を続けてきたのではないだろうか?
 そしてこれからも活動を続けて行くのではないだろうか?
 …違うだろうか?
 グランドキングが倒された今、新たに生まれるお前が、その役目を果たすのだ……!!


 次回、1月号(12月18日発売!)に続く。

「いやぁ〜、今回もまた引っ張るねぇ〜。」
A&R司令室。先の放火怪獣との戦いの後始末も終え、ホッとしたひと時を過ごす隊員達。
椅子に座りコーヒーを飲みつつ読書にふけるシュウ。
その手には人気雑誌‘月刊コミックマスター’が握られている。
シュウが今読み終えた作品は、この雑誌の目玉でもある‘THE アンバランス’。
作者は‘外山さとし’。現在第5巻までが発行されているSF大作漫画である。
何十年もの前の伝説の特撮作品、「アンバランス」のアレンジコミカライズである今作は、
その内容をおおまかに言えば主人公のライバルである科学者が生物兵器を次々に造り出し、
主人公と激闘を繰り広げる、というものである。
ストーリーだけ聞くとただの善悪モノの作品と思われがちだが、その圧倒的な作画、
魅力的かつ深い設定のキャラクター達、想像力豊かなモンスター、巧く交わった様々な伏線…。
様々な要素が交わり、今一番旬な漫画として人気を博している。
その証拠に、シュウの他にも、レイジやナオキ、さらにはルイまでもが
‘THE アンバランス’の単行本を読みふけっているのだ。さらには……

「ちょ、隊長まで読んでるんですか!?」
声を荒げるのはミスカ。
ミスカの目の前で紅茶(砂糖多め)をすすっているカサゴイの手に握られているのは、その漫画の第4巻。
本人曰く実は漫画が好きでないと言うミスカにとって、シュウ達はともかく、
隊長が漫画を、それも皆と同じ作品を読んでいる事に驚きを隠せなかった。

「ん、読んじゃ悪いかね。」
「いや、その。」
「この作品はだな、出てくる怪獣達の描写が細かく描けているんだ。
仮にもそういった存在と渡り歩いている我々にとって、これはなかなか共感できる所があってな。」
「はぁ。」
「実は私も最初はたかが漫画だと舐めていたんだが、いざ読むとなかなかどうして。君も読むか?」
「え? あ、いや、結構です。あ、私、ちょっとトイレに…。」
「そうか。面白いと思うんだがなぁ。」

ふと、第2巻を読み終えたルイがオペレーター・モニターを見た。すると…

「隊長、つい先ほど関東エリア第2―Kポイントで、一瞬だけイレギュラー反応が確認されたようです。」
「Kポイント? 確か前もその場所でイレギュラー反応が確認されたな。」
「はい。その時は特に異常が無かったのでこれと言った調査はしませんでしたが。」
「ふぅむ。しかし連続となると少し妙だな。念のため、誰か調査に行ってくれないか?」
すると、隊員一同はサッとカサゴイから目をそむける。
理由は当然、今日は‘THE アンバランス’をゆっくりと読んでいたいからだ。
が、レイジは不意にちらっとカサゴイを見てしまった。運悪く目が合うレイジとカサゴイ。

レイジはぶつくさ言いながらA&R専用万能乗用車、‘エーアール・ラシック’を運転している。
目的地は当然Kポイント。東京の住宅街だ。
しばらくし、Kポイントに到着したレイジ。ラシックを駐車し、イレギュラー・レーダーを手に降り立つ。
平日の昼間の住宅地だからか、辺りは静かだ。異常な様子など、一見無い。
レーダーを確認しながら適当に歩き回るレイジ。レーダーにはなんの反応も無い。が。
レーダーに集中するがあまり、道のカドから現れた自転車の存在に気が付かなかった。
この後の光景を想像するのは難しい事ではないが、あえて音で表現すると…

ガッシャーンッ

「ってぇ〜…。あ! す、すみません!! 大丈夫ですか!?」
「った〜…。あ、大丈夫です、気にしないでくださいっ。いたた…」
「あっちゃ、怪我してる……とりあえず、ご自宅か病院に運びます!」
「…あ、ホント、いいんです。大丈夫ですって。」
「いえ、俺の責任なのに、このままハイさよならってのは気持ち悪すぎなんです!」
「…へ?」
自転車に乗っていたその気の弱そうな若い女性は、ぶつかった相手の服装を見渡す。

「…えっと、じゃあ、あの、とりあえず家までお願いします…。」
「はい!!」
壊れた自転車をラシックのトランクに積み、女性を助手席に乗せ、彼女のナビで彼女の家へと出発した。

(…この女…)
(クラウス? …どうしたんだ?)
(レイジ、気をつけるんだ。彼女は…何かしら秘密を握ってるいる。ひょっとすると…)
(まさか、こんな美人にフリップ星人が化けているとでも?)
(いや、それは無い。ただ、用心に越したことは無い。今ぶつかったのも、わざとかもしれん…。)
(…解った。)

「…あ、ここです。」
ラシックを止めるレイジ。彼が左側に目をやると、ちょっとした屋敷のような大きな家が建っていた。
2人は車を降り、レイジはトランクから自転車を取り出す。
女性は閉ざされた門横の「如月」と書かれた表札の下にあるインターホンを押し、誰かと会話している。
すると、カチっと言う音と同時に、門がギギギと開いた。

「…どうぞ。」
自転車を担いだまま門の中へ入るレイジ。
レイジは玄関脇に自転車を置き、ふと女性の方に振り向く。
季節柄、当然長袖だが自転車を運転するため軽い服装を着こなしていた。
そのため、その細く、かつしっかりとした体のラインがはっきりと解る。
今では珍しい、髪に色を一切つけない自然な黒髪の、綺麗な短髪。
おとなしい印象を受ける、そのつややかな顔。着物が良く似合いそうである。
その姿を一言で言えば―

「かわいい…」
レイジが代弁した。

せっかくなのでどうぞ、とそのまま家の中に案内された。
その内装は、家の外見と対等するごとく、恐ろしく豪華な内装となっている。
玄関は大理石でピカピカで、そこだけでも8畳分の広さがある。
脇には巨大な水槽が設置され、その中で泳ぐ巨大な魚がここの豪華さをより一層を象徴する。
唖然としたレイジは、とりあえず何か話題をだそうと水槽の魚に目をやった。

「この熱帯魚、変わってますね。」
「…ええ、‘ガラヌムテール’って魚なんです。日本で飼ってるのはここだけらしいんです。」
確かに、変わっている。青いボディ、全身各部分に生えている鋭い角、陸生生物のモノにも見えるヒレ。
どちらかと言うと…怪獣…。
だが、今のレイジにそこまで頭が回る余裕は無い。
接客部屋に案内されたレイジ。
ふかふかのソファに座り、同じくテーブル越しのソファに座った女性と会話を始めた。

「あ、俺、カミヤ・レイジって言います。もし怪我の治療費がいるなら、責任上、俺が払いますが…。」
「…いえ、治療費だなんて。ただの擦り傷です。今消毒して絆創膏貼ったんで、もう大丈夫です。
…あ、忘れてました。私、如月冬子と言います。」
「トウコ…さん?」
「はい。…あの、失礼ですけど、カミヤさんて、A&Rの隊員さん…ですよね…?」
「あ、はい。」
「…すみません、持ってきたい物があるので、ちょっと御待ちいただけます…?」
「え? あ、どうぞ。」
そそくさと退室するトウコ。
レイジは室内を見渡した。小さめの、豪華なつくりのシャンデリアや、高そうな花瓶。
その豪華な部屋に見とれつつも、さっきの変わった熱帯魚の事を思い出した。
よく考えれば、あんな魚がいるわけが無い。水族館にだってあんな魚はいない。
かつての‘DASH’の記録によると、怪獣の幼体を自室で育てていた女性がいたらしい。
その怪獣の名前は、確か、エレキン……

その時、ノック音が聞こえた。
部屋に入ってきたのは、トウコではなく、ハーブティーを運んできたタキシードを着た、いわゆる執事だ。

「いらっしゃいませ…」
「ど、どうも。」
ティーカップを丁寧に置き、お茶を注ぐその執事。年齢は50代後半といった所か。

「広いでしょう、この屋敷…」
「あ、はい。立派な造りですね。」
「この屋敷は、トウコ様の苦労により建てられたものなのです。
人はこの家を見るたびに成金だ、金遣いが荒そうなどと暴言を吐くのです。嘆かわしい。」
そうなんですか、と適当にあいづちをうちつつお茶をすするレイジ。
それと同時に、こんな家を建てるなんて、彼女はなんの仕事をしているんだ? という疑問も沸いてでた。
すると、何かを持ったトウコが部屋に戻ってきた。今度は執事が退室した。

「…すみません。あの、とりあえず、これを見てください。」
と、彼女から数枚の紙を渡される。それには何やら絵が描かれていた。それは…

「え、え、グランドキング?」
なんとその紙には街で暴れるグランドキング、という「THE・アンバランス」の1シーンが描かれていた。
さらにその絵は、ファンが好きで描いた絵では無さそうだ。あまりにも巧すぎる。
つまり…

「外山さとし。私のもう一つの名前です。」
「ええぇぇぇ!? ま、マジですか!?」
「…はい、マジなんです。」
「ちょっと待ってください、このシーン、見たこと無いですよ!? グランドキング、復活するんですか!?」
「…ふふふ、そうなんです。」
微笑みながら会話する2人。なるほどこの漫画での稼ぎなら、執事付きの屋敷に住めても不思議ではない。

「それで、あの、A&Rの隊員さんなら怪獣とも実際戦ってるんですよね? 
参考がてら、色々と聞きたいんですが……。」
「どうぞどうぞ、それくらい協力しますよ!!」
その後、話に盛り上がる2人。レイジはA&Rでの体験談、トウコは作品制作秘話を…。
気づけば夕方になっていた。それぞれ仕事に戻るため話はおひらきとなった。
トウコに見送られ、上機嫌でラシックのハンドルを握るレイジ。夕日が綺麗だ。
しばらくし、本部に報告を入れる。

「こちらレイジ、なんの異常も無し! これから戻ります!」
『何言ってるんだ!! その場所から強烈なイレギュラー反応が出てるんだぞ!?』
「…え?」
ラシックを止め、レーダーを確認する。なんとすぐ近くの地点から強大な反応がキャッチされていた!

「ウソだろ!?」
ラシックから降り辺りを見回す。すると、東の…太陽が沈む方向に、巨大な黒い線が空中を漂っていたのだ!
その得体の知れない光景を見て、何も言えずただ呆然とするだけのレイジ。
その黒い線は徐々に別の線を生やし始めた。線と線は複雑に絡み、ひとつの形となってゆく。
挙句の果て、線に厚みが出来始め、色もつき始めた。そして、徐々にその姿を硬めてゆく。
最終的に、鋭い角が生え、奇声を上げ始めた、その巨体。レイジはその姿を、どこかで見たことがある…。

「ガラヌムテール!?」

まさしく突如、として出現した巨大怪魚から逃げ惑う人々。
ラシックには特に兵器は無いし、本部のエーアールの到着を待っている暇は無い。
レイジは迷わずウルティメイト・ストーンを取り出した。

「クラァァァァァァウス!!!」

『シェアッ!!』
光の中から現れたクラウスは、そのまま怪魚にキックを喰らわす。
その怪魚は奇声と共に倒れこむ。クラウスは怪魚の尻尾をつかみ、巨体を振り回す。
クラウスは手を離し、そのまま怪魚を投げ飛ばした。飛ばされた怪魚は砂埃にまみれ…姿を消した。
突然消えた怪魚の姿を探すクラウス。どこにもその姿が無い…。
と、その時、クラウスの頭上から消えたはずの怪魚が降って来たのだ!
頭に怪魚の全体重が圧し掛かったため、首にダメージを負いもだえるクラウス。
怪魚はヤツデの様に平べったい手のひらでクラウスを叩きつける。
さらに長い尻尾でクラウスを叩きつけ、今度はクラウスを投げ飛ばす。
痛みと衝撃でもがくクラウス。もがき、転がりつつもダブルフィンガービームを
怪魚の鼻部分の角めがけて発射するが、避けられる。
再度ビームを撃つと、怪魚の右手にヒット。奇声を上げ、倒れたクラウスに突進する怪魚。
怪魚がジャンプし、クラウスにボディプレスを仕掛けたが、後転でそれをどうにか避けるクラウス。
腹を地面に思い切り打ちつけ、怪魚はダメージを受けた。よろよろと起き上がる両者。
カラータイマーが鳴り始めた。クラウスにはもう時間が無い。
クラウスは残りのエネルギーを振り絞り、腕に力を溜める。必殺光線のモーション。
すると、怪魚はそんなクラウスの姿をあざ笑うかのように口をパクパクさせる。そして…
消えた。それも、足から頭へ順に、徐々に。例えるなら、消しゴムで絵を消すかのように…。
今度は、完全にその場から姿を消した。クラウスは愕然としながら、空高くへと飛び去った…。

夕日により世界がオレンジ色に染まる。
レイジは先程と打って変わってどんよりとした面持ちであった。
あの怪魚には見覚えがある。つい、さっきの話だ。彼女の家で―トウコの家で―

怪魚はクラウスと戦い、姿を消したことをラシックの無線で本部に伝えるレイジ。
彼は再び、トウコの家に行きたかった。
理由はもちろん、あのガラヌムテールの確認。そして何より、トウコの安否―
しかし、本部からの帰還命令には従わねばならない。
今回の件の報告も直接せねばならないからだ。
だが、レイジは、トウコの事だけは、報告しまいと誓った。
当然、彼女がこの件の重要人物である事は十分解っている。本部には確実に報告せねばならない。
だが…
何故か、トウコの事を他人に話したくは無かった。彼女が外山さとしであると言う事以前に―

ともかく、レイジはラシックのハンドルを強く握り締める。
クラウスの言っていた事は、こうゆう事だったのだろうか…。
また必ず、何かあるに違いない。レイジはそう確信しつつ、Kポイントを後にした―


続く
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第6話 
「ゼットンの孫」 後編

空想怪魚ガラン
幻想恐竜ゼットン
妄想機神グランドキング 登場


泣く子も眠る丑三つ時。A&Rはさる強大なる敵と激戦を繰り広げていた。
その相手は、実名共に、その強さが今もなお語り継がれている邪悪体―ゼットン―。
ゼットンの戦闘データは記録されていた為、未知の存在では無いものの、その凶悪ぶりも健在である。
ダッシュバード・ネオはアタックモードに変形、ゼットンに切りかかった。
が、ゼットンはそれをものとせず、奇怪音を鳴らしながらネオに火球を打ち込む。
間一髪でそれを避けるネオ。続いてエーアールαとγが連携を組み一斉射撃を仕掛ける。
すると、ゼットンは防御用のプロテクターを発生させ、攻撃を防いだ。
さらに、プロテクターを解除すると同時に、再び火球を発射。
αとγはそれを避けた後、さらに一斉射撃。ところが…
ゼットンは忽然として姿を消した。消しゴムで消したがのごとく。
攻撃目標を見失ったαとγの放ったビーム等はそのまま向かい側の山の一部を吹き飛ばした。
その後1時間、エーアール達は付近を飛び回ったが、結局ゼットンが再び現れることは無かった。

帰還した隊員達。各々ヘルメットを取り、座席へぐったり座り込んだ。

「だぁぁ、なんでゼットンなんかがいきなり……」
文句を言うシュウの横で、あのゼットンの消え方に動揺しているレイジ。
―あの怪魚と同じ消え方―
一昨日、ウルトラマンクラウスとなり激戦を繰り広げたあの怪魚と、今回のゼットンの共通点。
これが共通しているという事は、あの女―トウコとも―
カサゴイの労いで、今日はもう寝ることとなった。眠れなどしないが―。

翌日。
レイジは再びトウコの豪邸を訪れていた。Kポイントの再調査という前提で、今回はシュウも同行した。
が、その場にシュウはいない。レイジは2手に別れて調べよう、とシュウを外したのだ。
インターホンを鳴らすレイジ。手には少し高級な菓子の包み。
インターホンから老人の声。この家の執事、モリだ。
門が開き、レイジは少しずつ前進する。一見、豪邸に変化は無い。
豪邸の中に入り、まず注目したのは、玄関脇の巨大水槽。そこに、あのガラヌムテールは…いた。
水草が生い茂った水槽の底でつまらなそうにボーっとしている。
姿こそ酷似しているが、とてもあのクラウスと互角の戦いを繰り広げた巨大怪魚と同一のものだとは思えない。
と、廊下から声が。トウコの声。レイジは息を呑む。
ひょこっと姿を現したトウコは、とても元気そうだった。少しホッとしたレイジ。だが―

「…如月さん、その手はどうしたんですか?」
「…ああ、ちょっとお湯を扱っていたら火傷しちゃったんです。でも仕事には差し支え無いですよ。」
「そう、です、か。」
彼女の右手の火傷。レイジは嫌なことを思い出した。あの巨大怪魚も右手にクラウスのビーム攻撃を喰らった。
いや、考えすぎか…と言い切れないのが、今の現状だ。
ひとまず例の接客室に入った2人。
レイジは菓子の包みをトウコに手渡し、とりあえず世間話を始めた。そして、本題へ…。

「そういえば如月さん、新しい怪獣の案は思いついたんですか?」
「…ええ、ちょうど今ここにイメージイラストがあるんです。」
トウコは封筒から原稿用紙を取り出し、レイジに見せる。

「玄関のガラヌムテールを参考にしたんです。名前は、‘ガラン’。」
レイジはあまりにものショックに、その場で発狂しそうになった。
そこに描かれている怪獣、ガランは、3日前激闘を繰り広げたあの怪魚と、紛れも無く似ていたからだ。

「こ、ここここここ、これ、3日前このすぐ近くに現れた怪獣とそっくりじゃないですか!!!」
「…え!? そうなんですか? でも私、その怪獣の姿は見てないし、
この絵の下書きを描いたのは4日前なんですよ…?」
「見てない? すぐ近くで暴れていたのに!?」
「私はその時仕事をしていて、仕事部屋は集中できるように消音加工されているんです。
それに振動は感じていたんですけど、近くで大掛かりな工事をやっていたんで、その振動かとてっきり…。」
実は、3日前現れたあの巨大怪魚に関しての映像・写真は一切存在しないのだ。
突如現れた上、たったの数分で姿を消してしまったし、人々は逃げるのに必死でカメラを取る余裕も無かった。
そのため、レイジを除くA&Rやマスコミなどでは目撃証言でのみ、その存在を把握しているのだ。
となると、トウコは偶然このガランを描いたことになる。
だがそれはいくらなんでも…

「じゃあ、あの、この近い内に、ゼットンの絵なんかは描いたりしてますか…?」
「…ゼットン? ああ、読者さんへのプレゼント用に昨日サイン色紙に描いていました。
そういえば、ちょうど昨日の夜に本物が現れたんです…よね?」
レイジはまたも驚愕した。ゼットンの絵も描いていた? それも昨日に?

「そういえばこのガランもゼットンも、寝ぼけつつうつらうつらしてたらいつの間にか出来ていたんです。
……確かに……ちょっと……変かも……。」
両者共衝撃の事実を知ったがために、その場が静まり返る。
そんな空気の流れを止めたのが、部屋に入ってきた執事のモリだった。

「失礼いたします…。先程カミヤ様からいただいた菓子によく合いそうなお茶をご用意しました…。」
テーブルに数枚のクッキーがのった小皿と、ミルクティー入りの高級そうなカップが丁寧に並べられる。
冷めないうちにどうぞ、と軽くお辞儀した後、モリは部屋から退室した。
2人は無言のままカップを手にする。
甘くて濃厚な茶をすする音だけが室内に響き渡る。

最初に口を開いたのはレイジだった。

「いい人ですね、モリさんて。」
「…ええ。私のお爺ちゃんの友人だったそうなんです。私がこの家に引っ越した後、
自主的に家事を手伝ってくれて。仕事のアシスタントなんかもよくしてくれるんです。」

しかし最近、モリの様子がどこかおかしいと言う。
態度や言語、家事のやり方に決して問題は無い。だが、何かが違うらしい。

その後、よけいに会話が行き詰ってしまった。このままでは埒が明かない。レイジは強行手段を取る事にした。
時間が来た、と退席するレイジ。そのまま屋敷を後にする。
見送りをしていたトウコが屋敷へと戻ったのを門越しに確認したレイジは、大きなつばをごくりと飲む。
レイジは門にゆっくり手を触れた。わずかに動く。まだロックされていない。
音を鳴らさない様、慎重に玄関先をしのび歩く。監視カメラの存在は確認できないが、行くしかない。
ゆっくり、ゆっくりとドアに手を触れる。開いた。
先程歓迎された時とは打って変わって、妙に入りがたい空気がもわっと流れ込む。。
ガラヌムテールが住む水槽のエアーポンプなどの音が、レイジの足音をかき消してくれた。
一歩一歩、辺りを窺いながら廊下を歩む。目標地点は、トウコの仕事部屋―。
ここは―トイレか。だとするとその横は―バスルーム。その先が応接間で、その先が―台所。
台所から食器を洗う音が聞こえる。恐らく、モリがさっきのティーカップを洗っているのだろう。
と、台所の入り口の横に、2階と地下に続く階段が。
仕事部屋は消音加工されているらしいので、恐らく仕事部屋は地下であろう。
足を下り階段に乗せる。片足を1段目に乗せ、全体重をかけた瞬間……
ミシッ
割と大きい、きしむ音。レイジは冷汗をたらす。
…食器を洗う音は消えない。どうやら気づいていない様子。
下手に時間をかけて降りるのは逆効果と判断したレイジは、そそくさと階段を下りた。
階段を下りた先は、ドアが1つだけ。
ゆっくりとドアノブに手を回す。これもまたロックがかかってない。
今さらだが、これはどう見ても不法侵入なのだが、ここまで来たらもう後戻りできない。
ゆっくりと、部屋への隙間が開く。そして、部屋から音楽が漏れて来た……

マックス!! マックス!! マックス!! でんででんでんっ
マックス!! マックス!! マックス!! でんででんでんっ
ウルトラマンッマァァァァァァックス!!!

レイジはズッコけた。
これは数十年前に流行った伝説の曲、‘Over the MAX’だ。
その時期地球を守っていたウルトラマンマックスのイメージソングで、当時大ヒットした。
当然ソレを聞いているのは仕事中のトウコだ。まあ、仮にも怪獣漫画を描いている彼女にとって、
クラシックなどよりもこういう曲の方が集中するにはいいのかもしれない。
体勢を立て直したレイジは、改めて部屋を覗く。
こちらに背を向け、もんもんと仕事机に張り付くトウコ。
その広い机の上には、漫画を描くための画材が大量にちりばめられている。
机の横にある本棚には、様々な資料。参考用か、怪獣の人形もある。
ラゴラス、グランゴン、バグダラス、ヘイレン、スラン星人、ちゃぶ台付きメトロン星人……。
怪獣好きのシュウが見たら狂いそうな位喜びそうな部屋だ。
しかし…よく見ると、トウコの耳にはヘッドホンが。
このうるさいくらい耳に付く歌は、あのヘッドホンからの音漏れということになる。
となると、いくらなんでも耳に悪いはずだ。レイジはドアを閉じた後ツカツカとトウコの元へ歩む。
横からトウコの様子を覗いた時、レイジは驚愕した。
筆は動いている。気持ち悪いくらい、ものすごいスピードで原稿用紙に絵を描き込んでいる。
だが…それを描くトウコの目は……両方とも真っ赤に染まっている。充血などではない。
白目をむく、と言う言葉はあるが、この場合は…赤目をむく、だろうか…?

「如月さん!!!」
いくらノイローゼ気味で仕事をする漫画家が世に多いと言っても、これは異常である。
肩を揺さぶるが、トウコは全く反応しない。ついで、原稿には……
‘THE・アンバランス’主人公、ソラオに襲い来る、ガラン、ゼットン、グランドキング……。
そんな場面が、普段の絵柄とは明らかに違う、あまりにも荒く、おぞましい絵柄で描かれていた。
慌てふためくレイジの元に、通信が。

『レイジ!! どこにいるんだ!? えらい事になったぞ!!! 室内にいるなら早く外へ出ろ!!』
シュウからだ。もんもんととりつかれた様に絵を描き続けるトウコを心配しつつも、部屋を後にした。
屋敷を出ると、時はすでに夜。だが、西の方角は、妙に騒がしく、とても明るい……
理由は、ものの数秒で判明した。

「ガラン…ゼットン…それに、グランドキング!?」
そう、その3体が、街を襲撃していたのだ!
ガランが建物を粉砕し、その横でゼットンが火球で辺りを焼き尽くしているかと思えば、
腹部の光が常に明滅しているグランドキングが、その巨体でありとあらゆる物を踏み潰す…。
絶景と言うか、絶望と言うべきか。

『本部と北京支部が応戦に来る!! それまで合流して住民の避難誘導だ!! Lポイントに来い!!』
「解った! すぐ行く!!」
意を決したレイジはLポイントへ駆け出した。

数分後、合流した2人は逃げ惑う人々を誘導。現地の警察隊も加わり、
辺りは怪獣達の咆哮と人々の悲鳴で騒然となった。
ゼットンの奇怪音がレイジたちに近づく。
そして、火球発射のモーション…! レイジ達が身を伏せたその時…!
複数のミサイルが、ゼットンを直撃、よろけつつその方向に振り向くゼットン。
そこには、エーアール達の勇士が。さらにその後方からは至急来た北京支部のエーアール量産タイプ達の姿も。
βにはミスカ、γにはナオキ、そしてαにはカサゴイ隊長が搭乗していた。

『全エーアールに告ぐ! 住民の避難が終わっていないため、一先ずはあの3体を西におびき寄せる!
いいな!!』
『『『『了解!!!』』』』
総勢8機のエーアールが、それぞれ連携し、3体に注意をそらす。
αが見事なアクロバッティングでゼットンの火球攻撃を避けつつ、至近距離からゼットンを攻撃。
ゼットンの興味は完全にαへと移った。続いてβと量産タイプ3機が連携、ガランを混乱させる。
そしてγ、2機の量産タイプがグランドキングの目の前に躍り出て、グランドキングの注意を寄せた。
ガランの風邪を引いたようなガラガラ声、ゼットンの自らの名前を連呼する奇怪音、
グランドキングの機械と機械が摩擦する際に出る耳を突くような高音…。
カサゴイの思惑通り、それぞれが各エーアールに攻撃をし始めた。

『隊長ぉ!! グランドキングの方はメガビームキャノンで一気にカタを付けましょうぜぇ!!』
『待てナオキ、それは私も賛成だが今はまだタイミングが早い!!』
『そうよ! まだ避難の終わっていない人が大勢いるわ!』
混乱が続く中、レイジはシュウが避難誘導に徹しているスキにその場を離れ、3体の巨体に走り向かう。そして…

「クラウスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

『ズィィヤァ!!』
光に包まれ君臨したクラウス。3体は同時にクラウスに反応した。
クラウスは3体並んだ内の真ん中にいるグランドキングに飛び掛る。
グランドキングに飛び掛ったクラウスは再度ジャンプ、グランドキングの背中を取った。
ガランとゼットンがクラウスに襲い掛かろうとするが、エーアール達がそれを阻止。
クラウスはグランドキングの後ろから頭に連続パンチを浴びせ、なおかつ蹴り飛ばす。
前によろけるグランドキングの背中に再び乗りかかるクラウス。
だが、グランドキングは瞬時に手足を飛行形態に変形させ、クラウスを乗せたままその巨体を空中へ飛ばす。
なんとかその場から離れようとするクラウスだが、グランドキングは自身の尻尾でその体を締め付けていた。
上空へ飛んだグランドキングは急降下、クラウスごと地面に激突した。砂埃が辺りを覆い隠す。
と、砂埃の中からピンピンしたグランドキングが。一方、クラウスは……
ガランとゼットンに徹底的に痛めつけられていた!
無残に転がるクラウスを容赦なく踏みつける2体。さらにそこに、グランドキングが歩む…。
と、グランドキングの目の前に飛行物体が躍り出た。ナオキのγだ。

『ほほぉ〜、貴様等、単独でも十分強そうなのに、集まりに集まってクラウスリンチか?
上等な身分じゃねぇか!! このシゲノ・ナオキのプレゼント、とくと味わっちめぇ!!』
γの先端部分が変形、巨大な発射口を出現させる。そして、エネルギーチャージ。
グランドキングが状況を察知して防御体制に入ったが、時すでに、遅し……!!

『アァァァルティメェェェェット!! メガ!! ビーム!! キャノォォォォン!!!!』
巨大な発光線がグランドキングの上半身を包んだかと思うと、巨大な爆音と共にグランドキングが咆哮!!
気づけば、グランドキングの上半身は、跡形も無く消え去っていた。

『ふははははは!!! 人間様を舐めてんじゃねぇぞ!!! 特にこの俺を怒らせたらどうなあばりゃああ!!』
γの後部が爆破。先のビーム発射反動でただでさえ機体にガタが来ていた上、
ゼットンの火球を喰らったためだ。哀れ、γは地上に墜落してゆく……。
だが、クラウスにチャンスが訪れた。グランドキングは倒され、ゼットンもその場から離れた。
クラウスはガランの足をつかみ、自身が立ち上がると同時にガランを転倒させた。
そのスキ、ゼットンにダブルフィンガービームを発射したが、クラウスはミスを犯した。
ゼットンにビームを打つという事は、その倍返しを覚悟しなければならない。
クラウスのビームを吸収したゼットンはオウム返しにビームを発射。
よりによってそのビームはクラウスのカラータイマーに直撃した。
直撃と同時にカラータイマーが鳴り始める。クラウスは思わず片ひざを付けた。
直後、背後からガランが体当たり! 倒れたクラウスに、ゼットンがさらに火球を打ち込む。
悲痛の声をあげるクラウス。カラータイマーの点滅が激しさを増す。
各隊員達が必死に2体に攻撃を仕掛けるが、それにかまわず2体の狙いはクラウスのままだ。
クラウスが力を振り絞りよろよろと立ち上がる。すかさずガランが背後からそれを取り押さえた。
力の入らないクラウスをがっちり捕まえるガラン。そして、ゼットンの火球発射のモーション…!
2体の狙いは、クラウスの胸に確実に火球をヒットさせ、とどめをさす事……!!
クラウスは最後の力を振り絞り、ガランを背負い投げた。同時にゼットンの火球が放たれる。
宙を一回転したガランに、火球が直撃。ガランは燃えながら地面に叩きつけられた。痛々しい悲鳴を上げる。
そして…クラウスの方も、ぐったりと倒れる……。
倒れたクラウスは、光に包まれ………姿を消し去った。
その場には、下半身だけのグランドキング、燃え上がるガラン、
そして、相変わらず奇怪音をあげるゼットンの姿だけが残った……。

『そんな……クラウスが……負けた!?』
『くっ……!! 総員!! 残るはゼットンのみだ!! 徹底的に叩き潰せ!!! いいな!!!』
『『『了解!!!!』』』

心底疲れ果てた顔色で、ヨタヨタ歩く人影――レイジだ。
胸を押さえながら歩くその姿は、目だった外傷こそ無いが、痛々しい。
ゼットンの姿が目に飛び込んできた。火球を発するゼットン、対峙するエーアール…。
そして、もうひとつ。燃えている家。いや、他にも燃えている家は多々だが、特に燃え方が激しいその家は…
――トウコの屋敷!!!
レイジはヨタヨタ足で燃え上がる家に駆け込む。

「如月さぁぁぁぁぁぁん!!!! いるなら…返事をぉぉぉぉぉぉ!!!!」
燃えているドアを蹴り飛ばし、中に突入する。
今のレイジの頭の中に、すでにトウコが避難している、と言う考えは浮ばない、いや、浮ぶはずが無かった。

「如月さん!! 如月さぁぁぁぁぁん!!!!!」
トイレから、応接間から、台所から吹き出る炎がレイジの行く手を阻む。
階段は廊下の先だ。進まなければ…。炎をかいくぐり、なんとか地下へと続く階段にたどり着く。
いよいよ力が入らなくなってきた足腰を意地で動かせ、階段を下りる。が、途中、転げ落ちてしまった。
転げ落ちながら地下室へのドアを突き破る。地下室の中はさらに熱温度が上がっていた。
火の手はここからか!? 半分意識を失いつつも、レイジは地下室を見渡した。
トウコは……いた!! 彼女は仕事机の脇に倒れこんでいた。机はまるで火山の噴火の様に燃え上がっている。

「と…トウコぉぉぉ…!!」
何処かがこげる臭いがする。髪の毛か? 足か? だがそんな事を気にしている余裕は無い。
レイジは気を失ったトウコを背負い、そのまま地下室を脱出。どこかで爆発音が聞こえた。
階段をトウコを背負いながら苦痛の顔で上るレイジ。地下から炎の手が迫りくる。
なんとか階段を上り終えたレイジ。ヨタヨタ歩きで廊下を歩き出そうとしたその時、何者かが立ち塞がった。

「…モリさん!?」
「いらっしゃいませ…。A&Rへのお土産にこれなどいかがですか?」
と、タキシードを着た異様なまでに冷静なモリが、何かを持ち上げた。それは……
燃え尽き、ほぼ炭と化した……ガラヌムテールの焼死体……。

「先程突然燃え上がってしまいましてねぇ。気づいてみれば屋敷もこの有様です。」
「…貴様。人間じゃないな!?」
「…なんと! カミヤ様とあろう方が、今の今まで私の存在を何とも思わなかったのですか?
馬鹿ですねぇ…ふふっ、ほんと、馬鹿…馬鹿…ふふふふ、ふははははははは………
プファファファファファファファファファファファファファフ!!!!!」
モリの顔が突然溶けたかと思うと、憎きあの顔へ変貌した……

「…フリップ星人!!!!!」
「そぉ!! 何今さら気が付いてるんだ? 極度の間抜けだな!! プファファファファ…」
「どうゆう事だ!! 彼女となんの関係がある!?」
「大有りだ! その女はなぁ、自分が描いた物に生命を宿す事ができんだよ!!
比喩表現などでは無いぞ!! ただし今までその女は自分の本当の能力に気が付いていなかったがなぁ!!」
「え…?」
「勿体無い話だと思わんか? その女が強い念を念じて生物を描けば、その生物は生命を宿すのだぞ!
このガラヌムテールの様にな!! 使わん手はなかろうよぉ!! 」
「仮にそれが事実だとして、何故お前がそれを知っている!」
「なぁに、昔の事件の事を調べてみりゃ、その女に結びついただけだ!! 
能力を使えば使うほど何かしらで寿命が縮めるのが欠点だがなぁ!!!」
「…!? ??? 何が言いたいんだ!?」
「ハ、貴様に話すだけ時間の無駄だったな!! さぁ、その女にはまだ働い……ぬぅ!?」
と、タキシードを着たフリップ星人の後頭部に光線弾が当たった。

「よぉ、象鼻宇宙人!!」
「…シュウ!!」 
A&R専用武器、ブレイクシューターを構えたシュウが、フリップ星人に一撃を喰らわしたのだ。

「てんめぇの気持ち悪い馬鹿笑いは外まで聞こえてんだよ! 覚悟しやがれ!!」
「ふん、…月並みだが、命拾いしたなぁ! カミヤ・レイジ!! せいぜい俺を倒す思考でも練っとくんだな!!
バファファファファファファファファファファ……」
その場からフッと消え去ったフリップ星人。レイジは心底ホッとし……廊下に倒れこんだ。

「レイジ!? おい、レイジ!! レイジぃぃぃぃぃぃ!!!!」
シュウの叫びを聞き終わらないまま、レイジは意識を失った……。

目を覚ましたレイジ。そこは…A&R本部のメディカルルームだった。
シュウとナオキが付き添っていた。あの夜からもう二日間も経ったらしい。
ゼットンは…あの後、突然燃え出し、ガランと同じく焼け死んだと言う。
トウコは、別室で寝かされているそうだ。
まぁとりあえず今は休んどけ、とシュウが暇つぶしに「THE・アンバランス」を全巻貸してくれた。
退室した2人。レイジはしばらくベッドの上でぽけーっとしていた。
あの夜の事は夢では無かったのか? 全てのことが、あまりにも非現実的すぎた。
…なんとなく、THE・アンバランスの第2巻を適当に開いてみた。87ページ。
そこには、主人公ソラオとケンカするヒロイン、ナツミの姿が。
そういえば、一番最初にあの屋敷に訪れた時、トウコからこんな話を聞いた。


『当然、ここだけの話なんですけど、ヒロインのナンバラ・ナツミは私の母がモデルなんです。
名前も、性格も、顔も、プロフィールも、全て……。』


ナンバラ・ナツミ。
ナダ・ソラオの腐れ縁であり、なんだかんだでいつもソラオと行動している。
たくましく、プロフェッサー・柔堕の送り出すモンスター軍団に勇敢に立ち向かう可憐な女。
実は彼女は‘ゼットン人’と呼ばれる戦闘民族の養子であり、
それは彼女にとって忘れたくても忘れられない事なのだ。
そう、彼女はいわば―


ゼットンの娘―



次回 ウルトラマンクラウス 第7話

「恋するメカギラス」
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第7話

「恋するメカギラス」

四次元ロボ・メカギラス 登場



「つまり話を総合すると……あの如月と言う女性はお金持ちで、フリップ星人がその財産を狙っていた、と。」
「はい。それで象鼻エイリアンがあの夜のドサクサに紛れて如月家を襲撃し、
危険を察知したレイジがその場に駆けつけ、その後に俺が突入した…て感じですか。」

司令室。シュウ達は意識を取り戻したレイジから医務室で事情を聞き、今回の事件の状況整理をしていた。

「しっかし金持ちの金を狙うなんざ、フリップ星人ってのも底が知れてますね。」
「いや、人間社会はなんだかんだで金と言う力に弱い。奴はそれを熟知している事になる。厄介だな。
ところで、あの2人は?」
「痛み分け者同士、仲良くやってるみたいっすよ。ったく、金持ち美人とお喋りか。うらやましいこった。」
「あら、美人だったらここに2人もいるんだけど? ナ〜オッキっ君っ。」
「そうですよ〜。」
「おやぁ、幻聴が聞こえるなぁ。」
「でも彼女、家が燃え尽きて財産を全て失ったんでしょう? 身寄りもいないらしいし。ちょっとかわいそう。」
「うむ。それに、彼女自身、フリップ星人に個人的に顔を覚えられてしまった。
彼女の身の安全のため、しばらくここに滞在させる可能性もある。」
「すると、レイジとしばらく一つ屋根の下? おやまぁっ。」
「やばいな、ナオキよ。奴にはお前よりも早く春が訪れるかもしれんぞ。」
「はいそこ妬かない妬かない。思春期はもうとっくに過ぎてますよ〜。」
「はっはっは。…さて、次の任務が舞い込んできた。作戦を聞いてくれ。」

―メディカルルーム―

「え…? もう絵が描けない…?」
「…手が動いてくれないんです。筆を持っても、持つだけで、その先は何も…」
ソファに座り、スケッチブックとシャープペンを握るトウコと、その隣に座るレイジ。
あの夜、緊急患者として運ばれた2人だったが、これと言った外傷はなく、今は静養に尽くしていた。
彼女自身には、フリップ星人に対しての記憶は一切無いらしい。
実際のところ、あの家でレイジと別れる度、記憶が飛んでいたそうだ。

「私…一体どうなるんでしょうか。」
「今んとこ、しばらくここで過ごした方がいいってさ。リハビリもゆっくりやってこう。」

世間では、今ちょっとした騒ぎが起こっていた。先日現れた3大怪獣の件だ。
怪獣が3体同時に出現する事も珍しい上、ウルトラマンが敗北したという過去にも類を見ない大事件だからだ。
何より、3大怪獣のうちの1匹、グランドキングの存在。
元来、グランドキングは漫画「THE・アンバランス」の完全オリジナル怪獣であり、
怪獣が普通に出現するご時世であっても、グランドキングそのものはあくまで空想の存在なのだ。
しかし今回、漫画と同じ姿のまま、グランドキングは世に出現した。記録映像も残っている。
これにより、様々な声が飛び交った。
何故グランドキングが? 外山さとし(如月冬子のペンネーム)と侵略者はグルじゃないのか? …等。
しかも、外山さとし本人は消息不明、漫画は打ち切りと、なんとも後味の悪い事件となってしまった。

「応援してくれたファンの皆になんて言えばいいか…」
「君の責任じゃない。全てはあのフリップ星人が災いの種なんだ。俺が絶対、奴を仕留める。」
「…もうこれ以上、私に関わらない方がいいと思うんです。でないと、カミヤさんの体が持ちません。」
「…俺A&Rよ? 多少の問題は無問題(モウマンタイ)さ。
それに、誰かを守るのが…俺の使命だと思ってる。ここまで関わった以上、君を命がけで守ってやる!」
「カミヤさん…」

決してノロケでは無い(と思う)ので、あしからず。

―司令室―

「クレッセントを?」
「そうだ。リュートリニアンの話によると、どうもクレッセント達を地上で遊ばせてやりたいらしい。」
「遊ばせるぅ? まぁ、月じゃあ遊ぶスペースも限られてるだろうけど…どうやって運ぶんです?
生きた怪獣を大気圏突入なんてさせた事ないですよ。γは壊れちゃってるし。」
「そこで! ボクの開発した重量物体空間移動装置の登場サ!!」
「ショーン博士!?」
ぬぅっと司令室に姿を現したショーン。ショーンはモニター前にずいずぃっと出、
モニターを使用し作戦の説明を始めた。

「まず! ダッシュバード・ネオに装置をセェッツ! 宇宙に出て、そこから地球の目標地点を狙い、
装置を作動させ、特殊ビームを目標地点にシュート! ビームを発射している間にクレッセンツ達を
ビームの中に入れたら、後はエレベーターみたく地上へGO!
名づけて、プロジェクト・ビーム・エレベーター!! 装置はもう取り付けてあるヨ!」
「素晴らしい、流石ショーン博士です! 早速作戦開始だ。各人エーアールαとβに搭乗! いいな!!」
「あの、それはいいんですけど、誰がαに乗るんです?
俺、ヤですよ。機体にレイジの癖が付いちゃってるし。シュウ、乗ってよ。」
「俺だって嫌だよ。てワケで、ミスカよろしく。」
「なんで私に振るのよ。てか隊長、隊長は前の出撃でαに乗ってすごく活躍してたじゃないですか。」
「私は地上で指令しにゃならん。…んー、そうだな……。
昨日、チャーハン食べた者はいるか?」
「チャーハン?」
「そうだ。」
「食ってません。」
「私も。」
「えっと、俺、食いましたが。」
「そうか。私も昨日、チャーハンを食べた。よし、ナオキ、今回はお前がαに乗れ。」
「はぃぃ!? え、でも、あれ、その…あ、間違えました、チャーハンじゃなくてピラフでしたっ!」
「往生際が悪いぞ。四の五の言わず、A&R出陣! いいな!!」
「「了解!!」」
「…りょーかい。」

―省略―

α、βの2機は空高くへ舞い上っていた。
多々の雲とすれ違いながら、地球と離れて行く。
時間的にまだ昼ごろなのだが、周辺が徐々に薄暗くなってきた。大気圏を抜ける瞬間も近い。
辺りは暗さを増し、星の輝きが見え始めた。そして、完全に空気が無い世界へ出陣。
宇宙だ。
衛星軌道上に、約100メートル台の巨大なカプセルの様な物と、2機の小型UFOが漂っていた。
リュートリニアンのUFOと、2匹のクレッセントが入った保護カプセルだ。

『ラーデー・ガイク、ニーナー。ディガ・クレッセント、ルバソーター。』
クレッセント達をよろしく、友人達よ。と、リュートリニアン。
早速βは地上に機体を向け、遥か下界、地上に向け狙いを定めた。
地球は常に自転している。自らも少しずつ動きながら狙わねばならない。
後、慣性の法則やらなんやらが絡んでくるが、そこは今は気にしないように。
と、βから地球へ向け青く、太いビームを発射した。
目標地点は日本のA&R訓練場。周りには緑があふれ、山岳地帯もあったりと怪獣にはもってこいの地域だ。
しばらく後、地上からビーム到達成功の連絡が。
早速、αが保護カプセルを誘導し、ビームの中へ入れた。
ビームの中にすっぽりと収まったカプセルは、そのまま地球へと一定スピードで降下した。
すかさず、αもビームの横を沿って降下。カプセルとαは同時に大気圏に突入、
αは摩擦熱に襲われたが、カプセルの方はビームに包まれている為なんの変化も無かった。

『ぐっぞー、やっぱ慣れてない機体で大気圏突入はキツイっての!!』
『おいナオキ! クレッセント達はどうだー!?』
『はいはい、大丈夫大丈夫ー! ったく、怪獣の癖にいい身分だぜ!』
αとカプセルは大気圏を突破、後は地上に降りるだけだ。

『…ん?』

ナオキは一瞬、我が目を疑った。
いない。クレッセント達が入ったカプセルが、ほんのついさっきまで隣にあったはずのカプセルが、
忽然と姿を消していた。

『ぅえええええぇぇえええぇええええええ!!!!!????』
『どうした!?』
『クレッセント達が…いねぇええぇぇぇえええぇえええ!!!!』

地上のA&R訓練場の広場。
そこではクレッセント達の到着を待ちわびていたカサゴイ隊長やその他A&R員達が待機していた。
が、そこに訪れたのはエーアールαのみ。すぐに騒ぎが起こった。

「ナオキ、カプセルはどうした!?」
『知らないっすよぉ!! つい今いきなり消えちまったんですぅ!!』
「隊長、レーダーにもカプセルの存在は見受けられません!」
「光線ルートは目標地点からズレてません!」
「くそ、何が起こったんだ? フリップ星人の仕業だとしても、一体どこへ…?」

その頃―A&R日本海本部―

ここは、日本海と陸地を見渡せる、屋外休憩スペース。
潮風がゆるやかに体に伝わるこの場所は、A&R員達の憩いの場として親しまれている場所だ。
紙カップコーヒーを飲みながら日本海を眺めるレイジとトウコ。
レイジは今、あることに頭を悩ませていた。
自分の正体をトウコに話す事だ。
トウコはフリップ星人に狙われる存在…と言うほどでもないと思うが、安心して暮らせるほど心の余裕は無い。
ならば、自らがウルトラマンである事を告げ、トウコに安心させるか?
…しかし、『俺が守る』と言った手前、ウルトラマンという存在に頼るのもどうか、とも思う。
ここは‘男’として、トウコを安心させたい。だが、念には念を入れてという事も……。

「…どうしたんですか?」
「え? いや、ちょっと考え事を…。あの、さ、如月さんにとって、ウルトラマンって、どう思う?」
「ウルトラマン、ですか。私にとっては…正直、得体の知れない存在、と言うか。」
「得体が知れない?」
「そう。母はウルトラマンを尊敬してたみたいですけど、私にしてはどうにもつかみ所の無い存在なんです。
地球に住み着いて、事あるごとに怪獣を倒して、それはいいんですけど、何かこう、逆に言えば、
何でそこまで尽くすのかと思うし、そこまで恩を着せられたらそれを理由に何を請求されるか、
なんて思っちゃうし…。」
思えば、今はもう燃え尽きてしまったあの家のトウコの仕事部屋には、
怪獣の人形はあれど、ウルトラマンの人形やらはほとんど無かった。
あの時部屋にかかっていた‘ウルトラマンマックス’の歌も、あの時はトウコは操られていたので、
普段は聞きもしなかったのだろう。
と言うことは、むしろ自分がウルトラマンである事を言わない方がいいか、と思った途端に……

「ハァァイ!! Mrレイジ! デートかなぁ!?」
レイジの正体を知るショーン博士が、2人の間に入り込んできた。やばい

「ん? ナイーブな顔して、邪魔しちゃったかナ?」
「いやいやいやいや、どうぞ、俺の事なんて気にせずに、どうぞ、ごゆっくり!」
「ボクはこの娘と話しにきたんだヨ! ハァイ、Nice to me to!」
「あ、ナイス、ミー、トゥー、トゥー。」
レイジは雑談し始めたショーンとトウコから一寸離れた。余計な事は言いやしないか…
今のとこ、特に目だった会話はしていないが…あ、今、話題がウルトラマン関係に移った。
しかもその正体はどうのこうの言ってる。これはまずい。やばい。
そして、恐れていた事態が起きた。

「Hey,レイジ!! こっちへカモン!」
「はぁ(やばっ)。」
「ここで重大発表! 実はこのカミヤ・レイジ君は……」
「(わー、わー、わー、わー!!)」
「ウルトラマン・クラウスの仮の姿なのでーす!!」
「(ぎゃー、何のためらいも無くストレートで言っちゃったよこの人!!)」
だが。トウコはきょとんとしている。あまりにストレートすぎるが故、意味不明なのだ。

「Oh、じゃあ、論より証拠。レイジ、ここで変身してみてヨ!!」
「(何言ってんだこの人……。)」
「あー、おほん。実はね、ついさっき地球へ輸送中だったクレッセンツが、行方不明になった。
原因は不明だが、ボクの考えだと、多分クレッセンツは異次元に連れ出されたんだと思う。
でも、今の段階だとボクの技術をしてでも異次元には入れない。
そこで、君に調査を依頼したい。ウルトラマンクラウスとして。」
「……しかし……」
「しかしもお菓子も無いよ。事は一刻を争うんだ。それに……」
ショーンはそっとレイジに耳打ちをする。

「彼女にも君の正体を知らせておく必要があると思うんだ。何故って、今は解らないけど。」
「……解りました。」
レイジは懐からウルティメイト・ストーンを取り出し、海を背にトウコ達に振り返る。

「如月さん。この事は…俺と君と、ショーン博士だけの秘密だと、約束してくれる?」
「…ええ。私も、もうちょっとやそっとの事では、驚きませんから…。」
「…解った。それじゃあ……」

「クラウスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

トウコとショーンの目の前に、光の巨人・ウルトラマンクラウスが君臨した。
クラウスは2人を見つめた後、空高くへと飛んだ。

『レイジ。クレッセント達はやはり四次元に連れさられている様だ。あの博士、只者では無いな。』
『解った。異次元へ行けるのか?』
『無問題(モウマンタイ)だ。私を誰だと思っている?』
空をマッハのスピードで飛ぶクラウスは、目の前にワープホールを出現させ、四次元へ突入した。
あらゆる色が混じりあい、歪む四次元空間を漂っていると、2つの影を発見。…クレッセントだ!
そしてもう1つ。クレッセント達より一回り大きい、巨大な影。
…ロボットだ!!
地上‘らしき’部分に降り立ったクラウス。
クレッセント達の前に立ち、ロボット…メカギラスと戦闘を開始した。

『ジェィアァ!!!』
怪獣のような姿形をしたメカギラスは、口からミサイルを発射。
クラウスはダブルフィンガービームでそれを撃ち落す。
同時にメカギラスにつかみかかるが、メカギラスはそれを振り放す。
振り放されたクラウスに目から破壊光線を放つ。クラウスはバック転でそれを避け、
一気にケリを付けようとクラッシュウムカノンを発射したが…何故か効かない!
どうもメカギラスは四次元の空間を自在に操る存在の様で、
カノンが直撃する直前にカノンをどこかへ吸い込ませたらしい。
メカギラスは再びミサイルを連射、クラウスはそれを大ジャンプで避け、
そのままクレッセント達の元へ着地した。
すかさず腕をクロスさせ、クレッセント達とメカギラスごとワープした。

ワープ先は、クレッセント達が送られる予定だったA&R訓練場であった。
驚く人々の声を背に、クラウスは早速右腕から光の剣‘クラッシュウム・キャリバー’を装備、
メカギラスに切りかかった。
意外にも勝負は早く付き、首を切断されたメカギラスは機能を停止した……。

―省略―

「復帰、おめでとう。これからもどんどん活躍してくれよ。」
「はい!!」
司令室。そこには隊員服を着て完全復帰したレイジの姿が。
ささやかな祝いの菓子とジュースも用意されていた。

「しっかし、なんであのロボットはクレッセントに手ぇ出さなかったんだろうな。」
「そ〜れはだね、あのロボがクレッセンツを敵と思わなかったからサ!!」
「あれ、(神出鬼没の)ショーン博士、研究室にいたんじゃ……」
「そこであのロボットのICチップらしきモノを調べていたんだ。そしたらあのロボットは形の似ていた
クレッセンツにIike、あるいはそれ以上のIoveな感情を抱いていたのサ。」
「って事はあのロボットは恋したの? 信じられないわねぇ。」
「Oh、アンドロイドが人間を愛した例もあるヨ! 可笑しな話じゃない。
元々はクレッセンツをフリップ星人の元へさらう予定だったんだけど、愛がそれを阻止したのサ。」
「となると、壊しちまったのはちょっとかわいそうだったな。」
「いや、あのロボットのパーツの一部はエーアールの強化パーツとして働いてもらうヨ。
γにも取り付けるから、楽しみにしててね、ナオキ!」
「なんでそこで俺に振るんですか!」
笑いが起こる司令室。俺はこの場に帰ってきたんだな、と実感するレイジであった。

翌日。
A&R食堂。そこには腹をすかせたナオキの姿が。

「おばちゃ〜ん、チャーハンひと……ってあれ、如月ちゃん!?」
「あ、今日は、これからここで雑用として働く事になりました。宜しくお願いします!」
A&Rがまた、賑やかになった。


次回 ウルトラマンクラウス 第8話

「裏切りの序幕」
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第8話

「裏切りの序幕」

巨海人バルキー
用心棒バルーパー 登場



気持ちのいい朝。
目を覚ましたレイジはかけ布団をどけ、のっそりと床に立った。
寝癖でボサボサとなった髪をぽりぽりとかき、大きなあくびを1つ。
顔を洗い、トイレにこもった後、寝間着を脱ぎ、のっそりと隊員服に着替え始めた。
耐水・火性も備えた特殊ズボンを穿き終え、シャツを手に取った。
と、再び眠気が。それをなんとかあくびで誤魔化そうとしたその時……

『バファファファファファファファファファファファファファ………
起きろぉ、地球人どもぉぉぉぉぉ!!!!!』
レイジは一気に目を覚まし、シャツを放り投げ司令室へ直行した。

「たたたたた隊長、奴です、奴が……!!」
司令室にはすでにカサゴイ隊長がおり、モニターに釘付けであった。
モニターには……フリップ星人の姿が!!
レイジの後から隊員服姿のミスカ、寝間着を着たままのナオキとルイ、
そして上半身裸のシュウが駆けつけた。

「うっわ゛!! 象鼻星人!!」
「朝っぱらからなんなのよ…」
『ファファファファファ、この放送は全世界にジャックしてある!! よぉぉく聞け、
A&Rおよびマスコミども!! 今から6時間後、日本時間で正午だ!!
俺が主催の楽しいイベントを東京タワーでやるからな!! 心待ちにしておけ!!
ブファファファファファファファファファファ………』
モニターからフリップ星人の姿がすぅうっと消えた。
同時に、A&Rの連絡情報部から内部電話が。受話器を取るカサゴイ。

『カサゴイ隊長、全国から一斉に出撃要請が出てるんです!! 世界各国の支部もこんな状態の様です!!』
慌てる連絡員の説明を聞かなくても、連絡情報部内の慌てぶりは電話越しにも十分聞こえた。
どうやら向こうは民間人からの電話の対応に大忙しらしい。

「まいったわねぇ…全世界に同じ映像が流れたのは確かみたい……。」
「どうします? 正午で東京タワーなら、作戦はある程度練れますよ。」
「うぅむ…フリップ星人の考えてる事がいまいちつかめんな。」
「自分の怪獣を使ってタワーを壊すとかだったら、いつだってやりそうだし……」
「6時間だったら各国のA&Rやマスコミも駆けつけられますよ。よほど注目を浴びたいようですね。」
「よし、今から北京支部とロシア支部に相談してみよう。ルイ、繋げてくれ。」
「あ、はい。」
可愛らしい水色の寝間着を着たまま、ルイはオペレーション座席に座り通信を始めた。
と、モニター前に2つのバーチャル・ビジョンが現れ、北京支部とロシア支部との交信が始まった。
モニターにはそれぞれ人の顔が。北京支部の長邦隊長とロシア支部のクラウザー隊長だ。
以下、同時翻訳。

『やぁ、カサゴイ。用件は当然、フリップ星人の事だろう?』
「ええ。そこではどういう対応に出ます?」
『我等北京支部、出撃準備完了。随時戦闘開始可能だ。』
『こちらでは今のところ様子を見ている。フリップ星人のハッタリかもしれんしな。』
「ふぅむ。では、北京支部は現地で我々のバックアップ、ロシア支部は万が一に備えそこで待機…
と言う事でいいでしょうか?」
『御意。早速出陣開始指令を下す。』
『こちらも了解した。スタンバイはしておこう。』
「宜しく願います。」
通信を終え、隊員たちに振り向くカサゴイ。

「よし、いつまでもボケっとしていないで、A&R出撃準備開始だ!! いいな!!」
「あの、隊長。」
「なんだ!」
「寝癖がえらい事になってますよ。」
まるで巨大爆発アフロの様になった自分の髪を、カサゴイは慌てて押さえるのであった。

―午前11時半、東京タワー前―

現場は騒然としていた。休日ながらも東京タワーは臨時休業、タワー周囲1kmは封鎖、
空には各国のエーアールや報道ヘリが飛び回り、地上も各隊員や報道陣、やじ馬がこぞっていた。

『えー、これまでにも幾度と怪獣を送り込んできたフリップ星人が今回、
本格的に宣戦布告を表しました! えー、今のところ東京タワーには何の異常は無いようですが、
時間は刻一刻と迫って現場も騒然として参りました!!』
「はい、現場の田所さん、よくわかりました。えー、現場とは引き続き中継を繋げていきます。
変化があり次第続報を流すので、東京および関西地区の方々は常にテレビかラジオをつけ続けてください。
なお、現在東京都全域に緊急避難命令、関東全域に怪獣警報が発令、交通機関も前面ストップしています。
えー、なお、放送予定だった‘起動戦隊メカレンジャー’の放送は中止とさせていただきますので、
ご了承下さい。引き続き報道をお伝えします。」
どのテレビチャンネルも、この様な状態だった。
と言うより、全世界のメディアがこの事に注目していた。

「…これが奴の狙いなんでしょうね…。」
「ああ。奴が何をするしないにしろ、こうして世界を困惑させている。
ある意味我々は既に奴の手に落ちている様なものだ。」
東京タワーの真下で警戒に当たっていたレイジ、そしてオオシマ長官。
隙あらばフリップ星人と対話しようと言う試みである。
他の者は別場所で警戒を勤め、緊迫した空気が流れ込んでいた

―正午―
時は来た。
現場にいた一同はしん―となる。
そして…それは、間を入れず訪れた。
東京タワーの東正面側の空中に、3つの黒い円い物体が、音も無く姿を現した。
量産型エーアールが物体に狙いを定めたが、黒い物体は光を放った。慌てて退避するエーアール。
光が消えたかと思うと、3つの巨大な人影が、東京タワーの前に姿を現した。
タワーをバックに並んだ3体の内の真ん中にいるのは―堂々と腕組みをしたフリップ星人。
そして、その両脇を固めているのは……

「う、う、ウルトラマン!!!???」
この時、レイジは変身していない。
A&R、報道陣、やじ馬、テレビの視聴者、全てが驚愕した。
フリップ星人の右側にいる、複雑な頭の形をし、青いカラータイマーをあしらう赤い目の黒い巨人―
そして左側にいる、濃いブラウンカラーの体色をし、黄色いカラータイマーを胸に埋め込んだ巨人―
その姿は、色こそ違えど―間違いなく―ウルトラマン。

『プファファファファファファファファファファファファファファファ……
紹介しよう、この黒いのが‘バルキー’!! そして茶色いのが‘バルーパー’だぁぁ!!!
さぁて2人とも、地球人に丁重に挨拶しなぁぁ!!』
フリップ星人に指示されるがまま、2人のウルトラマンは街を破壊し始めた。

「た、たた、大変です!! 突如出現したかと思うと、ためらいも無く攻撃を仕掛けてきました!!
うわ、うわわ!!」
逃げつつも報道を続ける報道陣、攻撃を開始するA&R。
量産型エーアール達が3体に攻撃を仕掛けるが、怪光線により次々に撃ち落されてしまう。

「……バルキー……。」
「…長官? どうしたんです…?」
「いや、なんでもない。それよりも、奴等との対話は諦めた方が良さそうだな…。」
「はい。…長官、俺が地上から攻撃します! 長官はシュウ達の所へ!!」
「解った! 場所が場所だ、タワーの崩壊も考えられる! 注意しろよ!!」
「了解です!!」
オオシマは駆け出す。オオシマが姿を消したのを見計らって、
レイジは懐からウルティメイト・ストーンを取り出した。
相手が相手だ。変身にためらう暇は無い。しかし……

「…クラウス? どうしたんだ? 居ないのか…?」
ストーンが反応しない……。

一方、ダッシュバード・ネオとエーアールγは各国のエーアール達と共闘していたが、
3体には一向に歯が立たない。次々に撃ち落されるエーアール。
と、黒いウルトラマン…バルキーが、東京タワーに振り向く。

『やばい、タワーが…!!』
バルキーがタワーに手を伸ばした次の瞬間……
光がバルキーを吹き飛ばした。ウルトラマンクラウスだ!!

『クラウス! くっそ、全面でクラウスを援護するぞ!!』
『OK!!』
『御意!!』
ウルトラマンクラウスとエーアール対3体の巨悪が火蓋を切った。

「そ、想像より遥かに騒然な光景が、我々の目の前で繰り広げられています!!
えー、状況を整理すると、フリップ星人と‘ばるーぱー’がエーアールと戦闘を繰り広げ、
ウルトラマンクラウスと‘ばるきー’が東京タワー目前で格闘を繰り広げている模様です!!」
レポーターの言うように、タワー前でクラウスとバルキーが激戦を繰り広げていた。
両者はつかみ合い、バルキーがクラウスを押し倒す。クラウスはバルキーの顔面に拳を叩き込み、
その隙にバルキーを蹴り上げ、体勢を立て直す。バルキーも構え直し、今度は睨み合いとなった。
睨み合う2人の後方でエーアールの爆撃音、怪光線発射音、そしてフリップ星人の高笑いが響きあう。
クラウスとバルキーは両者、隙を見切り、同時に攻撃を仕掛けた。
クラウスのラリアットがバルキーの胸を、バルキーのストレートパンチがクラウスの顔面を直撃する。
そのまま両者は地を転がり合い、バルキーはそのままフリップ星人の元へ戻る。
と、フリップとバルーパーも攻撃を止めた。
立ち上がったバルキー、フリップ、そしてバルーパーがクラウスの方に振り返る。

『プファファファファファファファファ……
今日はここまでだぁ!! 地球人共ぉ! だがな、これだけが俺の力だと思うなよぉぉぉ!!
これからも惜しみなく戦力を放出していくからなぁぁぁ!! 少しは俺を楽しませてくれよぉぉ!?
行くぞ! バルキー! バルーパー!! バファファファファファファファファファ……』
フリップ星人が両腕を天に掲げると、黒いオーラを発し、3体は姿を消し去った。
そして、場は急激に静かになった。撃ち落され燃えるエーアールと、
空を飛ぶエーアール達の轟音を除いて……。

―数日後―

『あの2体のウルトラマンはこれまでに確認されていない模様で、
A&Rは2体をそれぞれ‘ウルトラマン・バルキー’、
そして‘ウルトラマン・バルーパー’と呼ぶ事で統一した模様です。
尚、ウルトラマンクラウス、そして過去に現れた2人のウルトラマンとの関連を調査中との事で――』
『――んでやねん!! なんで味噌汁にカレールーを入れるんや!! あかんて! こら!!』

レイジは食堂のテレビのチャンネルを回した。
うんざりするニュース報道から、おきらくなお笑い番組に。
昨日は関連のニュース特報ばかりでうんざりしていたが、今日は普通にバラエティーを放送している。
食堂にはレイジとトウコ、ショーンが座っていた。
普段なら楽しい会話に華を咲かすメンバーだが、この日は……

「…じゃあ、あの2人は…本当に関係ないの?」
「そう…思いたい。でも、未だにクラウスは何も話してくれないんだ。」
「んー、何か隠したい事があるんダヨ。ウルトラマンにもそうゆう事の1つや2つはあるサ。」
「でも、事が事。こうも黙っているって事は、何か重要な事が絶対あるんだ。
あの時だって、変身するのをためらっていたくらいし。」
「レイジ、そう問い詰めるのはやめましょう。博士の言う通り彼だって、言いたくない事が―」
「―俺とクラウスは一心同体だ。クラウスが何かに葛藤してるんなら、俺にも悩む義務がある。
…クラウス。1人で悩まないでくれ。今さら隠し事なんて…必要ないだろ…?」
レイジは光を失ったウルティメイト・ストーンを強く握り、見つめた。
すると、ストーンが一瞬光ったかと思うと、眩い閃光が食堂を覆った。
光に驚き目を伏せたレイジ達はゆっくりと目を開く。そして、目の前には――
クラウスが。人間と同じ大きさになったクラウスが、そこに立っていた。

『すまない、レイジ…。確かにそうだ。私は君で、君は私なのだ。
自分自身に隠し事をするなんて、私もまだまだだな…。』
「いいんだ。そんなに自分を責めないでくれ。それより、クラウス。あの2人の事だけど…」
『ああ。片方のバルキー…。あれは私にも解らん存在だ。しかし、もう片方の茶色いウルトラマン、
バルーパー。あれは、本当の名ではない。』
「じゃあ、バルーパーってのは、偽名なの…?」
『そうだ。彼の本当の名は…‘ウルトラマン・レヴィン’。
かつて、罪を犯し、
M78星雲から追放された男――』




次回 ウルトラマンクラウス 第9話

「写真」
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第9話

「写真」

どこかの誰かさん  登場

 ポーーーーーン――――

木魚を叩く音が1つ。
その日、神谷零時は笠御伊隊長の命令の元、
イレギュラー反応が確認された夕日落街へ調査へ出かけていた。
近頃、ネットワークの繋がりがどうにも悪い。インターネットや携帯電話が一切機能を停止しているのだ。
A&Rはイレギュラー反応とこの一連の事件に何か関係あるのではないかと睨んだ限りである。
それはそうとどういう訳だか知らないが、この街にはやたらと神社が多い。兎に角多い。
ついでに言うと、工場や、ボロアパート等もあちらこちらに散ばっており、基本的に空気は悪い。
スモッグが充満し、野良犬の遠吠えが聞こえ、木魚を叩く音が響く街。
なんだここ。
時は夕暮れ。零時はなんの当ても無くふらふらさまよっていた。

 ぎゃーてー ぎゃーてー はーらーぎゃーてー

お経だ。
延々と続けお経が、各お寺から聞こえてくる。
お葬式でもあるのかな。

「己のこっころを信じなさいっ そぉっれ信じなさい そぉっれ信じなさい」

変な歌を歌っているサングラスをかけたおっさんが、零時の目の前にずずぃっと現れた。

「あの、すみません。一体全体この街はなんなんですか?」
「ふっふっふ、君が、神谷零次君だね?」
「零時です。」
「おぉ、すまんすまん、礼二君ぢゃったか。」
「零時ですってば。」
「むむぅ、トシのせいか耳が遠くてな。礼次君。」
「ですから。零児ですってば。……あ。」
「はっはっはっは、引っ掛かってやんの。」
「どうでもいいけど、ホント、この街はなんなんです? どうしてこうもお寺が多いんです?」
「さーてね。とりあえず、俺の家にこんかね?」
「なんでそうなるんですか。」
「話をさっさと進めたいからに決まってんだろ、阿呆。話も家で聞いてやるから。」
「はぁ。」

 ポーーーーーーーン―――――
 ポク ポク ポク ポク ポク ポク
 はんにゃーはーらーみーかーっらーたー
 ちーーーん――――

「ふふ、ここが我が家、と言うか生まれ故郷だよ。」
「はぁ。」
そこはボロい2階建ての工場のような所。
おっさんは何故か陸上選手の様なモーションで2階に続く外階段を上る。
零時も後から付いていった。
なんか工場の入り口に円谷なんとかと書いてる看板があった気もしたが気のせいだろう。うん。

「ぅお〜い、皆、帰ったぞ〜」
零時は驚いた。
扉を開けた向こうにはどこかで見たような怪物達がごろごろいたからだ。
いや、名前は知らない。だが、どこかで見たことがある……。

「ああ!! ペロリンガの塗装が殆ど落ちてるぢゃねーか! ったく管理人は何やってんだ。」
「ペロリンガぁ?」
「おぅ、シーボーズ、撮影でもしたのか? 元気そうぢゃん。おっと、元から死んでたな、お前!」
怪物達に親しげに話しかけるおっさん。怪獣達は着ぐるみらしく、生きてなどいないのだが…

「まぁ座れや。」
「あ、どうも。」
「どっこいしょっと。ちと早いが飯にすっか。おーい、酢貝丼と眼兎龍茶、2つづつ持ってきてくれ。」
「ええ? いや、いいですよ、そんなお気遣い無く。」
「いいからいいから。毒なんざ入れねぇよ。」
ちゃぶ台が置かれた小さな座敷に座る2人。

 ポク ポク ポク ポク ポク
 さいみょーはんだーはらーえーだーみーだー
 ぽーーーーーーーーん―――――

「ふふ、ここが我が家、と言うか生まれ故郷だよ。」
「はぁ。」
そこはボロい2階建ての工場のような所。
おっさんは何故か陸上選手の様なモーションで2階に続く外階段を上る。
零時も後から付いていった。
なんか工場の入り口に円谷なんとかと書いてる看板があった気もしたが気のせいだろう。うん。

「ぅお〜い、皆、帰ったぞ〜」
零時は驚いた。
扉を開けた向こうにはどこかで見たような怪物達がごろごろいたからだ。
いや、名前は知らない。だが、どこかで見たことがある……。

「ああ!! ペロリンガの塗装が殆ど落ちてるぢゃねーか! ったく管理人は何やってんだ。」
「ペロリンガぁ?」
「おぅ、シーボーズ、撮影でもしたのか? 元気そうぢゃん。おっと、元から死んでたな、お前!」
怪物達に親しげに話しかけるおっさん。怪獣達は着ぐるみらしく、生きてなどいないのだが…

「まぁ座れや。」
「あ、どうも。」
「どっこいしょっと。ちと早いが飯にすっか。おーい、酢貝丼と眼兎龍茶、2つづつ持ってきてくれ。」
「ええ? いや、いいですよ、そんなお気遣い無く。」
「いいからいいから。毒なんざ入れねぇよ。」
ちゃぶ台が置かれた小さな座敷に座る2人。

 ポク ポク ポク ポク ポク
 さいみょーはんだーはらーえーだーみーだー
 ぽーーーーーーーーん―――――

数分の沈黙後、ちゃぶ台に肘を置きおっさんが呟きだした。
「しかしまぁ地球も全然変わんねぇな。
空気は汚ねぇ水は汚ねぇ人間は汚ねぇ。進歩しねぇなぁ ったくよぉ。」
「はぁ。」
「…愛想ないねぇ、君。ぢゃあ、これならどうだ!! 変身!」
ぽん! とおっさんは胡座をかいたまま変身した。何故かツギハギ傷がある赤い胴長の宇宙人に。

「! お前は!!」
「そうそう、ウルトラマンはそうでなくっちゃ。
昔からウルトラマンってのは攻撃的だと相場が決まってるんだ。」
「なんだと!?」
「セブンもマックスも、君の先輩方も似た様なもんだったよ。おう、来た来た。」
そこに、料理ののったおぼんを運んできた奇妙な怪物。
首は無く、青白い干からびたようなその怪物は、
ゾンビの様なうめき声を上げながらおぼんをちゃぶ台に置く。
どうもこれが酢貝丼と眼兎龍茶らしい。

「さ、食いな食いな。しつこい様だが毒なんざ入れてねぇからよ。」
いただきます、と赤い宇宙人が丼に妙に細長い手を伸ばしたが―

「おっと、この手じゃあ丼と箸は持てねぇなぁ。変身!」
と、再びおっさんの姿へと戻った。
かつかつと丼を貪るおっさん。
零時も釣られて丼に手を伸ばした。どうも酢貝丼の正体は貝が中心の海鮮丼らしい。
カラスのカァカァと言う鳴き声と丼を流し込む音だけがちゃぶ台座敷に響く

「げふぅ、ごっそさん。さて…」
先に丼をたいらげたおっさんは、つまようじで歯をほじくりながら、眼兎龍茶の缶をぷしゅっと開けた。
つまようじを捨て、眼兎龍茶をごくごく飲むおっさん。間もなく、缶を空にする。

「ふむ、やはりこの茶は格別だな。うん。」
「…聞きたいことがあるんだが、ひょっとして、あんたは最近のネットワーク不信と、何か関係が…?」
「無い訳ねーだろ。でなきゃお前、こんな振る舞いする訳ねーだろよ。」
「何故そんな事をした! 今世界では混乱が起こってるんだぞ!?」
「ほんと、ウルトラマンって血圧高いのね。しかしまぁあれだよなぁ、
折角五月蝿い携帯を機能停止してやったのに、あくまで携帯にすがり付こうとするもんなぁ。」
「……。」
「さて……用事もすんだし飯も食ったし君とも話せたし、ぼちぼち帰るわ。」
「…今、思い出した。君は確か…1度、地球を見捨てた侵略者なんじゃ…?」
「うあ、遅っ。今頃気づいてんの? 変身っ。」
おっさんは再び赤い宇宙人に姿を変えた。

「じゃ、まぁ、とりあえず外に出ようか、クラウス君。」
ふっ と、おっさんもとい赤い宇宙人は姿を消した。
零時は眼兎龍茶を一気飲みし、外へ駆け出す。
すると、倉庫の建物の横で胡座をかく巨大な宇宙人が―

『はっはっは……ここから見る夕焼けだけは唯一好評価できるなぁ。うん。』
零時は巨大化した赤い宇宙人を見上げる。

「あんたは確か、この星が嫌になって母星に帰ったと聞いた。何故またここに?」
『んーーー――― まぁ、あれかなぁ。

親父が死んだから―』

 ポク ポク ポク ポク ポク ポク ポク

『……まだちょっと時間があるな。なぁ、クラウス君、ちょっと怪獣ごっこでもしないか?』
「へ?」
『用は戦おうって事だよ。いいぢゃん、ちょっとだけだよ。』
「…じゃあ…まぁ…」
光が、夜になりかけた街を、照らす。ウルトラマンクラウス―降臨。

『シュァッ』
クラウスは赤い宇宙人と距離を置く。赤い宇宙人の方もゆっくり立ち上がった。
赤い宇宙人が、勢いよく助走を始めた。クラウスも、クラウチングスタートの体制に。
と、両者がお互いに向け走り始める。両者、ジャンプし、相打ち―
クラウスが赤い宇宙人を投げ飛ばし―
赤い宇宙人がクラウスを蹴飛ばしー
クラウスが赤い宇宙人の腹ににエルボーアタックを仕掛け―
赤い宇宙人がクラウスの足を取り倒転させ―
両者の空中キックが互いの顔面に炸裂した――。

 ポク ポク ポク ポク
 さいみょうがるはんだらみーだんらー
 ぽーーーーーーん―――

『あ〜…面白い! 久しぶりに運動したよ。』
『…もういいのか?』
『ああ。もう時間だしね。おし、最後に記念撮影と行こうか。はい、並んで並んで。』

『なんだい、堅苦しいね、君。もっとリラックスリラックス。』

『せっかくなんだからピースサインでもしようよ。俺は無理だけど。ほら、ほら。』

『はい、チーズ。』

『現像出来たら写真、送るよ。ん、お迎えが来た来た。』

『あの手ぇ振ってるオレンジ色の奴、俺のせがれなんだ。馬鹿な奴でなぁ。』

『じゃ、ばいばーい。』

 
 ぽーーーーーーん――――
 
 ポク ポク ポク ポク
 
 ちーーーーーーん――――

レイジは、眼を覚ました。
場所は――A&R屋外休憩所の、ベンチ。
むっくり起き上がり、辺りを見渡した。隣のベンチではトウコが本を読んでおり、
休憩所の中央でシュウとナオキがキャッチボールをしている――。
なんだ、夢オチか。
レイジはトウコと軽く会話した後、背伸びをし、ぽつぽつと柵へ歩んだ。
そこから見える大海原。
もう12月だが、温かい日光が寒さを感じさせない。
と、レイジの頭に、紙が1枚ヒラリと落ちてきた。手に取るレイジ。
その紙は―1枚の写真だった。
夕暮れの中、赤い宇宙人と仲良く肩を組み、
ピースサインをするウルトラマンクラウスの姿が写った写真が――

 ぎゃーてー ぎゃーてー はーらーぎゃーてー

 ぽーーーーーーん――――



  

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第10話

「静」

格闘猛獣グラップラー 登場


『ジェイィィアアアア!!!』
白昼の街中で、ウルトラマンクラウスと巨大な紺色の人型猛獣が激戦を繰り広げていた。
その二足歩行の異様なまでに筋肉質な猛獣は、全身毛むくじゃらで、頭は狼に酷似し、
手はゴリラの様に、足はボクサーの様にがっしりしている。
その猛獣…グラップラーは、狼の様な低いうなり声を上げながら、
アクロバットな動きでクラウスを翻弄していた。
クラウスが攻撃を仕掛けるたび、ジャンプし、バック転し、余裕しゃくしゃくで回避し、
しまいにはカウンターを仕掛けるグラップラー。
クラウスが勢いよく放ったパンチを受け止め、そのまま腕をつかんだままクラウスを背負い投げ、
見事に背中から地面に叩きつける。柔道の試合なら『一本!!』判定だ。
気絶するクラウスを背中から持ち上げると、両腕でクラウスの脇を持ったまま素早くブリッジの体制へ。
プロレス技で言うジャイアント・スープレックスだ。クラウスは頭を強打する。
そのショックで気絶から目覚めるが、今度は激しい頭痛でのた打ち回る。
グラップラーはハイジャンプし、何とか立ち上がったクラウスの左肩にカカト落としを直撃させる。
嫌な音がした。左肩を押さえ、苦しそうに膝を地面に付かせるクラウスの姿を、
グラップラーはあざ笑うかのように肩をポキポキならしながら傍観する。
すでにカラータイマーが鳴り始めてから数十秒。
勝利を確信したグラップラーは突如現れた黒いオーラに包み込まれ、どこかへと消え去った。
クラウスの敗北である。

―A&R日本海支部―

左肩を負傷したレイジが、メディカルルームに運び込まれた。
骨折や脱臼こそしていなかったが、レイジは激しい痛みに苦しんでいた。
かつてのDASHの頃からのベテラン医師であるカミザワ医師がレイジの治療をしている間、
司令室では巨大猛獣のデータ整理をしていた。

「あの黒いオーラは先日のフリップ星人やウルトラマンバルキーらが東京タワーから
撤退した際にも出現しています。同一のモノと見て間違いないかと思います。」
「オーラはフリップ星人達のワープゲートと見ていいようだな。一体何処から…」
「でもそんなワープ法があれば月へも一瞬よね。
なんでリュートリニアンよりも地球を襲う事を優先してるのかしらね。」
「ひょっとすると、あのオーラは地球上でしか発生できんのかもしれんな。
それならば先日のクレッセント達が連れ去られたのが大気圏突入後だったのも頷ける。
すると、奴等の居場所も…」
「それよかあの狼男だよ。見た限り、カラテや柔道、プロレスにも心得があるぜ。総合格闘家だな。」
「クラウスが光線を発射する隙さえ与えないものね。私達もかる〜くひねられちゃったし。」
そう、あのグラップラーは、空を飛ぶエーアール達でさえもハイジャンプで蹴散らしてしまうのだ。
戦闘記録映像にもそんなグラップラーの敵ながらも素晴らしき武勇舞が記録されていた。
その映像は、司令室意外でもテレビニュース等で映し出されていた。

―長官室―

テレビに映し出されたその映像をかつてない程の強張った顔で見つめているオオシマ長官―

―メディカルルーム―

「くそ…くそ…くそぉぉぉぉぉ!!」
仮眠ベッドの上で悔しがるレイジ。
なにせ、レイジもといウルトラマンクラウスは、あのグラップラーに一切太刀打ちできなかったのだ。
過去にも敵に負けた経験はあるにはあるが、
ここまで極端に攻められた上、パンチの1つも与えられなかったのはその時よりも遥かに屈辱的だった。
枕やシーツを投げつけ、反抗期の子供の様に荒れるレイジ。
カミザワやトウコ、看護士達も距離を置いている。
と、カミザワの肩を叩く手が。手の主はカミザワ達を医務室から出る様に指示した。

「何を荒れているんだね。レイジ君。」
オオシマ長官だ。
一通り暴れ終え、少し落ち着きを取り戻しベッドで座り込むレイジにゆっくり話しかけた。

「長官…。」
「痛みはもう大丈夫なのか。」
「はい。」
「あの獣に負けてしまった事に腹を立てているのか? 確かに、その気持ちはよく解る。私だって悔しい。
しかし、だ。君がいくら憎んでも、怨んでも、あの獣やフリップ星人達には伝わりはしない。
‘負け犬の遠吠え’と言う言葉を君も知っているだろう。」
「…」
「いいか? 君は‘ウルトラマン’と言うヒーローなんだ。ヒーローが手の付けられない子供の様に
ただ荒れ狂うだけじゃ眼も当てられない。ヒーローはな、負けるまで負けないんだ。」

「…長官? 今、なんと…」
「おっと、ショーンやトウコ君は君の秘密を誰にもばらしてなどいないよ。私の独断だ。」
「…俺は、負けました。完敗です。だから…」
「だからなんだ。ヒステリックに暴れる元気はあるのだろう?」
「それは…」
「そうだ。君は戦いに敗れた。だが、まだ戦える。それは、負けではない。
確かに、これがカラテや柔道の試合ならば君は‘負け’だ。だが、これは命を懸けた戦いなんだ。
どちらかが尽きるまでは、勝敗は決定しないのだ。
……君に地球を守る意志があるのなら――後で道場に来い。それじゃあ。」
「……」
退室したオオシマ長官の言葉に疑問を抱きつつも、冷静さを取り戻したレイジは、
ベッドから降り、医務室から出る。扉の先ではトウコが出迎えてくれた。
が、レイジは特に会話もせず、廊下を無言で歩き出す。それに付いて行くトウコ。

「ねぇ、長官と何を話してたの?」
「……」
「その…何かできる事があったら…少しは力になれるから。」
「…じゃあ…シュウに、道場に来るように言っておいてくれないか?」
「シュウ隊員に? うん、すぐに伝えてくる。」
振り返り、レイジの進む道と反対側へ走り出すトウコを見つめながら、レイジは己の決断を固める。
レイジは再び道場へと歩き出した。

―A&R内格闘道場―

しん―と静けさが漂う広い道場の中央に、白いものが1つ。
カラテ着を着用し、姿勢正しく正座をするオオシマ長官だ。
オオシマは眼を閉じ、集中力を高めるため黙祷をしている。
道場の入り口にレイジが。レイジは道場での礼儀である御辞儀をした後、道場内に足を踏み入れる。

「来たかね。レイジ君。」
「はい。」
「早速胴着に着替えたまえ。」
更衣室に入り、胴着へと着替えたレイジは、更衣室を出て柔軟体操を始める。
そこに、シュウがやって来た。

「オスっ。えっと、俺はどうすりゃいいのかな。」
「おや、シュウ君。レイジ君、君が呼んだのか?」
「はい。勝手な事してすいません。」
「いや、むしろ好都合だ。シュウ君、少し我々に付き合ってくれないか?」
「え? ああ、はい。」
胴着を着た3人が、道場の中央に集結する。

「よし。それでは、組み手を始めなさい。
ただし、レイジ君は眼を隠し、なおかつ私がよしと言うまでそこを一歩も動いてはならん。いいね?」
「え!? どう言う事ですか!?」
「簡単な事だ。シュウ君の攻撃を、動体視力を使わずして避けるのだ。
シュウ君も、手を抜いてはならんぞ。」

オオシマのこの言葉対しに、当然の如く、レイジとシュウの2人はオオシマに質問ぜめを押しかけるが、
オオシマはこれまでに見せた事の無い厳しい口調で半ば無理やり組み手を開始させる。
レイジはオオシマから受け取った目隠し布を身に付け、両足を肩幅ほどに広げ、構える。
と、シュウがレイジの胸に拳を軽くぶつける。だが、オオシマは手を抜くなと厳しく指導する。
嫌々ながらもシュウは先程より力を込めてまわし蹴りを仕掛ける。
避けれず、直撃を受けしりもちをつくレイジ。すぐさま立ち上がるが、再び蹴られてしまう。
その後も、蹴りや正拳突きにより痛みが全身に連打し、耐えられず畳の上に倒れこむ。その時。

‘奴はきっと近い内、またやって来る。それまでに君が奴の動きを越える能力を得ると言う事は、
 いかに集中して訓練しても不可能に近い。君が得るべきは、‘動’に対抗する‘静’なのだ。
 半端に鍛えて無駄な‘動’を得るぐらいならば、‘静’を身に付けろ。’

レイジの脳裏に、言葉が走った。クラウスの声ではない。オオシマ長官の声だ。
だが、何故オオシマの声が? 今の言葉はレイジがウルトラマンであると言う前提での言葉だ。
レイジの正体を知らないシュウもいる前でこの言葉を口で発するワケがない。
つまり…これは、オオシマのテレパシー…なのか?
長官がテレパシーなど使えるのか。先程からどうにもオオシマの言動・行動に腑に落ちないレイジ。
だが、いちいち言う事も御もっともである。確かに、あのグラップラーの動きに翻弄され、焦り、
攻撃を回避する事すらできなかった。自分に必要なのは、その‘静’(せい)の心なのかもしれない。
特訓はその後も続けられた。シュウが抜けた後も、レイジとオオシマのマンツーマンで、深夜まで…。

翌日、司令室。

「変な特訓だったなぁ。長官曰く、レイジのストレス発散のためだとか言ってたけど、
あれじゃ逆にストレス溜めるぜ。」
「こう言うのもアレだけど、長官って時々ヘンな事するのよね。
あの赤い指輪を異様なまでに丁寧に磨いたり夜間ぶっ通しで星を眺めてたり。」
一同が雑談にあけ暮れる中、突然アラームが荒ただしく鳴り騒ぎ出す。
怪獣襲来の警報である。
襲撃怪獣は、そう…

「グラップラーです!!」

―長野県山中―

民家も少ない広い田んぼ畑に、巨大なグラップラーが立ちぼうけていた。
暴れない所を見ると、クラウスとの再試合を待っている様である。
そこに、エーアールγが飛来、グラップラーの回りを大きく旋回し始めた。
グラップラーはそれに気を取られる事無く、顔色1つ変えずクラウスの到着を待ち望んでいた。
その姿を遠くから見上げる―レイジ。ラシックでγより現場に先回りしたレイジは、
廃屋の脇からグラップラーを見つめていた。道場でのオオシマとの会話を思い出しながら。

『アラーム…? 奴が、もう!?』
『予想よりも行動が早い…。もしや、我々が対策を練ってる事に警戒しているのかもしれん。』
『でも、俺はまだ‘静’の心をを収得していません。今出れば、また…』
『確かに、まだ目標には遠く及ばんが…来てしまったからにはしようがない。
 だがな、レイジ君。君はスジは得ている。戦いの中で、‘静’を得るのだ。…それしかない!
 君の勝利を、信じている。』

正直、今のレイジは徹夜の特訓によりくたくたであった。だが、休んでいる暇は無い。
…意を決した。
レイジはウルティメイト・ストーンを強く握り、太陽にかざし、共に戦う友の名を叫んだ。

「クラウスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」
のどかな田んぼに、銀色の巨人が降臨した。
眼が合うウルトラマンクラウスとグラップラー。だが、お互い微動だにしない。
‘先に動いた者が負け’な状態である。
先手を取ったのは、グラップラーの方であった。グラップラーは体毛をなびかせながら、
目にも止まらぬ速さでクラウスに駆け寄る。その事にクラウスが気づいた時にはすでに遅く、
殴り飛ばされてしまった。そこからは、まるでスローモーションのような出来事であった。
殴り飛ばされ、後ろへ放り出されたクラウスの胸にグラップラーの足の爪先が襲う。
胸に爪先蹴りを喰らわした後、今度は両手でがっしりとクラウスの頭をつかみ、地面に叩きつける。
叩きつけられ、地面に寝転んだクラウスからバック転で離れて距離を置くグラップラー。
この間、約3秒。クラウスにとっては何が起こったのかなど解りもしなかった。
その後も、一方的に痛めつけられるクラウス。γが援護に出ようとしたが、
クラウス自身がそれを拒否するかの様なジェスチャーを行った。これは、1対1の戦いである。
γから送られる現場の映像を真剣な表情で見つめる本部の居残り達。
カサゴイもルイも何も言わずただ映像を見守っていた。そして誰よりも真剣な面持ちのトウコ…。
当然の事、クラウスもといレイジは‘静’の心をなんとかして使おうと努力はしていた。
だが、グラップラーは一寸の隙を与える事も無く攻撃を続ける。
散々ダメージを喰らわした後、グラップラーは突然ゆうゆうとダンスを始めた。
その隙にクラウスはヨロヨロで立ち上がり、ぎこちない構えをする。
小刻みにステップを踏むグラップラーは、しまいには足を繰り返し大きく蹴り上げ始めた。
「あれってまさか…‘カポエイラ’か!?」

γのシュウがその姿を見て驚く。カポエイラとは、ブラジルで古くから伝わる格闘術の事である。
‘ダンス格闘’の異名を持つこの格闘術は、解りやすく説明すれば
踊るように体をくねらせながら、足技を中心に相手とやりあうのである。
‘回避’と‘攻撃’…その両方を重点的においた格闘術が、カポエイラなのだ。

グラップラーがカポエイラの舞を踊り始めてから数十秒後、クラウスのカラータイマーが鳴り始める。
残された時間は少ない。だが、グラップラーに攻撃を与えれるタイミングが読み取れない。
グラップラーの舞には、一尾たりとも隙を生じさせていないのだ。
さらに、鳴り出した自身のカラータイマーの音が、集中を閉ざさす。
これでは‘静’どころではない。
 
 
五月蝿い。騒がしい。黙れ。シャラップ。少しは静かにできんのか。
 
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ

精神集中どころか、普段以上に平常心を失うクラウスもといレイジ。
その姿を、田んぼのすぐそこにある雑木林から覗く2人の男の姿が…。
片方の男が、怪しげなリモコンを手に取り、操作する。すると…
クラウスの上空のエーアールγから何かが噴射された。
それは、前のナーバーとの戦いの際でも使われ、火災鎮火用の泡状の消化剤であった。
消化剤はクラウスの顔を覆う。これにより、クラウスの視界と聴覚は遮られてしまった。

「ば、馬鹿ナオキ、何やってんだ!!!」
「知らねぇよぉ! いきなり発射されたんだ! γの誤作動だよぉぉ!!」
「ちょっとどうすんのよ、これじゃクラウスが混乱するじゃない! 水は発射できないの、水は!」
「んなもんねぇよ! くっそ、どうなってんだ!」
エーアールγのコックピットでは突然のトラブルによる混乱が招かれていた。
その頃、当のクラウスはと言うと……消化剤により視界と聴覚が完全に閉ざされていた。
しかもこの消化剤、手で掃うだけでは簡単に取り除けない強力な粘着質を誇る。
完全な闇へと迷い込んだクラウス。最初はその状況に混乱した。最初は。
しかし、クラウスは悟った。そうか。これが、‘静’なのか。
何も聞こえないし、何も見えない。だが、グラップラーの殺気は、
その姿が見えていた時よりも数十倍にも感じ取れている。
解る。グラップラーが今何をしているのか、この手に感じ取れる様に解る。
ここにきてついに、クラウスの快進撃が始まった。

右足を大きくクラウスの頭へ振り回したグラップラーは、突如として激しい痛みに襲われた。
何故か田んぼ畑に倒れこんでいるグラップラー。
実は、グラップラーの右足をがっちり受け止めたクラウスが、グラップラーを地面に叩き付けたのだ。
グラップラーの足をがっちりつかみ、今度は大きく振り回し始めるクラウス。
ウルトラ一族お得意の、ジャイアントスイングである。
吹っ飛ばされたグラップラーは素早く立ち上がったが、それと同時にドロップキックが突っ込んできた。
さらに吹っ飛ばされるグラップラー。今度はのろのろと起き上がる。
起き上がったグラップラーの目の前にはすでに仁王立ちしたクラウスの姿があった。
連続パンチ、ローキック、ハイキック、ひるんだ所で、一本背負い。
それまでのうっぷんを晴らすかの様に、一方的にクラウスが攻めまくる。
間合いを取った両者が、同時に空高くへジャンプした。
両者、右足を上に大きく開き…そのまま斜めに自由落下。カカト落とし勝負だ。
空中でぶつかり合い、大きな音と共に、両者が地面に着地、立ち上がった。
数秒の間の後、クラウスは膝を付き、そしてグラップラーは地面に重く倒れた。
もう、起き上がることは無かった。クラウスの勝利である。

「え…? なに、勝ったの? え、ホントに勝ったの? …ぃやぁったぁぁぁ!!!」
γの中で喧嘩していた3人が、クラウスの勝利に気づき、今度は喜び合い始めた。
司令室でも歓喜の声が上がる。トウコもレイジの勝利と生存に胸をなでおろしていた。
相変わらず顔に消化剤がこびり付いたままであったが、見事勝利を得たクラウスは、
空高くに飛び去っって行ったのであった。

「…ふぅ、なんとか答えを導き出してくれたか。しかしショーン、
わずかな時間にγにあんな小細工を仕掛けるなんて、その仕事の速さは尊敬に値するよ。」
「Oh、君こそよくこんなアンビリーバボーな策略を考えつくよネェ。最初聞いた時は君を疑ったヨ。」
「正直、危険なカケではあったがね。さぁて、本部に帰るとするか。」
「今日は食堂でクラウス勝利記念定食が出るだろうからネ、早く帰らないとSold outするヨ!」
「おう、そうだったな。じゃ、今日はレイジ君におごってやるとするか。」
「No、レイジだけにおごったら皆にねたまれちゃうんじゃない?」
「む…仕方ないな、今日はもう太っ腹に行くとするか。皆におごろう。」
「やったね!」
雑木林を抜け出したオオシマとショーンは、隠しておいたエーアールαに乗り込む。

「こちらオオシマ、‘出張会議’が終了した。これより帰還する。」
「出張は出張でも、ホントは会議じゃないんだけど…ネ。
ま、内緒ってコトで。」


オオシマが操縦するエーアールαは、日本海本部へと帰っていった。
こうして、強敵グラップラーとの戦いは、終わったのであった。
だがこれは、これから始まる戦いの、ほんの静かな序章にすぎなかった。

ほんの、静かな―



次回 ウルトラマンクラウス 第11話

「リッダー」
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