第11話

「リッダー」

追跡怪獣ガルバルドン 
赤き巨人       登場


<特別番組・リュートリニアンとは何か>

『…と言う事で、今回はゲストとしてベテラン小説家であり宇宙人評論家でもあるスドウ・マコトさんと、
 A&R日本支部隊長、カサゴイ・タクヤさんにお越しいただきました。』
『どーも。』
『カサゴイです。よろしく。』
『最初の議題として、何故リュートリニアンは地球語を話せないのかついて話し合っていただきます。』
『うむ。そもそも我々地球人とリュートリニアンは交流を始めて約10年になる。
 だが、未だにして向こう側は我々の言語を理解しようとせん。そのくせ、我々の方が
 向こうの言語を学まねばならんと言う実態を、どう見ているのだ? カサゴイ隊長さん。』
『これはまだ研究段階なのですが、リュートリニアンは母星を失い、地球圏に飛来した際、
 元より大きく姿形を変えました。それにより、我々で言う脳の部分もその一部を失い、
 一種の記憶障害になってしまったと考えられるのです。そのため、地球の言葉も覚えられない。』
『考えられる? リュートリニアン本人に聞いたのでは無いのか?』
『ですから、彼等は忘れてしまっているのです。母星の名前、場所、元はどんな姿をしていたのか、など。
 記憶障害は我々の医学的研究により判明したのです。』
『では、UFOの操縦やクレッセントの存在を把握しているのは何故だ? 都合が良すぎでは?』
『それらの生きる為に関しての情報は本能として記憶に蘇ったのではないかと。』
『では、逆に、我々人類がリュートリニアン語を学習できるのは何故だ?
 どうやってリュートリニアンは我々にリュートリニアン語を伝えたのだ?』
『A&R日本支部最高司令官、オオシマ・ケン長官が初めてリュートリニアン語を理解したのです。
 長官曰く、旧友の科学者の開発した翻訳機などを駆使して言語を理解したそうなんです。』

『ふん、それが無かったらどうなっていた事やら。正直に言うとな、私は昔からあの被害妄想な
 宇宙人達が気に入らなかったんじゃい。開発していた月の研究用都市は改築された上に住み着くし、
 そもそも、奴等が来たせいでフリップ星人とやらが現れてまた怪獣が出現しだしたんじゃろが。』
『待ってください、そこでフリップ星人とリュートリニアン達に繋げるのは…』
『何を言うか、奴等がここに逃げ込んできたからフリップ側も殴りこんで来たんじゃろが!!
 だいたい、リュートリニアンもフリップの事を我々に伝えたっていいもんじゃろうが!!』
『ですから!!! 彼等は記憶を一部失ったのですよ!! 誰が母星を破壊したか等を!!』
『何故そんな重要な事まで忘却するのじゃ!! 奴等もフリップと手を組んでるのではなかろうなぁ!?』
『そんな訳ないでしょうが!! あなたは頭から意見を押し付けすぎです。小説家ならもっと――』
―プチッ―

デジタル画質で映し出された討論会が、暗闇へと姿をくらました。
早い話、テレビのスイッチが切られたのである。

「ふんだ、リュートリニアンが悪いわけないやい!」
テレビのリモコンを手に、不機嫌そうに愚痴を捨てるハヤシ・ユウタは、
宇宙人が大好きなまだ小学校に入学して3年しか経ってないどこにでもいそうな少年である。
しかし、例え小3でも、討論で大人たちが何を言い合っていたのかは8割がたは理解できた。
大好きなリュートリニアン達が貶されている……ユウタはその事に激怒した。
うっぷんを晴らすため、ユウタはコートを着込んで外に出掛けた。友達と遊ぶためである。
ユウタが住む家の裏山は、まだ自然が多く残っており、夏には小さな清流で水遊びできるほどである。
人工物がありふれてしまっているこのご時世、こんなに自然が残っている場所はさほど多くない。
数分後、ユウタは川辺に到着、仲のいい友達のタケタニ・ユカとヤマナ・コウスケの到着を待った。
ユウタは懐から、クリスマスに親に買って貰った『精密再現・エーアールα』を取り出した。
そのよく出来たエーアールの玩具でA&Rごっこを始めるユウタ。

「こちらユウタ隊員、フリップ星人を発見、攻撃します!
バキュンバキュウン!! 
…ん? ……なんだアレ?」

赤く、燃え上がる物体が、この山に向かって墜落してくる。
隕石だろうか? だが、それんがなんにせよ、ユウタにとって得体の知れない存在である事は確かだ。
恐怖を覚えたユウタは川辺沿いに走り出した。
と、背後から爆破音がし、地震の様な衝撃が走った。その衝撃で、ユウタは転んでしまう。

「おーい、大丈夫かー!?」
「大丈夫? 怪我は無い!?」
そこに、遅れてやって来たユカとコウスケが。

「ぼくは大丈夫。…それより、何か落ちたよね…?」
「ああ、おれも見たぜ。…見に行こう!」
「やめなさいよ、まずは大人に知らせましょう!?」
「へ、どーせ‘夢でも見たんでしょう’とか言って相手にされないのがオチだい。な、な、行こうぜ。」
「もぉ…何かあったら私が一目散で逃げるからね!!」
3人は何かが墜落したであろう、川の上流へユカが持ってきたサンドウィッチを食べながら歩き始めた。
十数分後、3人はそれらしき場所へと到着した。砂砂利と森林の間に、何かの残骸の山がある。
不思議な事に、墜落したのなら、煙ぐらいあがってそうだが、そんな様子はない。
恐る恐る残骸に近づく3人。すると、残骸の山が揺れた。3人は慌てて最寄の岩に隠れる。
事態の行く末をそっと岩陰から覗いていると、残骸の中から、光る物体が、ぽんっと転がり落ちてきた。
バスケットボールサイズのそれは、わずかに発光している。
砂利に転がるその物体を見たユウタが……

「リュートリニアンだあああああああ!!!」

ユウタは興奮しながら岩陰から飛び出し、転がる物体へ駆け寄る。
ユカとコウスケも様子を見ながら徐々にそれに近づく。ユウタが物体を抱きかかえた。

「ユ、ユウタ、こ、これがユートユリアンなのか?」
「リュートリニアンだよ。すごいなぁ、初めてこの目で見た!!」
「でも、ちょっと弱ってるんじゃない? 私、テレビで見た事あるけど、もっと光ってたよ。」
「うん、そうみたいだ。リュートリニアンは温かいらしいんだけど、この子はちょっと冷たいや。
早く暖めないと…ひょっとしたら…お腹もすいているのかも。」
「とりあえず、このバスケットケースに入れてあげましょう。サンドウィッチも少し残ってるし。」
「よぉし、走って帰るぞ!! 早くぼくの家で暖めてあげるんだ!!」
「うん!」
「バスケットケースはおれが持つぜ!」
衰弱したらしきリュートリニアンをケースに入れ、スポーツ自慢のコウスケがそれを持ち、
今度はユウタの家に向かって全力疾走し始めた。

―A&R日本海本部―
山に墜落した、リュートリニアンのUFO。
その事に関しての情報は、すぐさまA&Rに…伝わらなかった。
それどころか、イレギュラー反応表示モニターにも何も表示されず、
オペレーターのルイはモニターを確認しつつもミスカと雑談し、
レイジ、シュウ、ナオキはトランプで遊び、
カサゴイ隊長は不機嫌気味でテレビ局から帰還、お茶うけにお土産の団子を食していた。
出撃要請も無い、おっとりとしたひと時……。

―ユウタ宅―

コタツは両親と来客が占拠していたため、3人はユウタの部屋のホットカーペットで暖をとる事にした。
カーペットに座り込み、バスケットケースを開けると、中からふわふわと光る物体が浮遊。
サンドウィッチが無い所を見ると、どうやら食べてくれたらしい。どう食べたかは謎だが。
先程より少し光を取り戻した様だが、まだ回復したとは言えない。
光る物体はカーペットに身を置いた。温かさにいやされているらしく、3人はホッとした。

「よーし、お父さんたちに事情を話そう。この子を見せたらきっと信じてくれるよ。」
「コイツを証拠として見せんの? どーかなぁ、
よく出来たおもちゃがあるから、それを使ったイタズラだって決め付けるぜ、きっと。」
「普段からイタズラしちゃってるバツよ。…あ、A&Rに知らせたらいいんじゃない?」
「電話番号を知らないよ。お巡りさんなら知ってると思うけど。」
「そのオマワリに説明するのがやっかいなんだって。コイツを見ておもちゃだと思われたら…
…そう言えばコイツ、名前とかあるのか? おーい、お前の名前はなんだーっ」
「駄目だよ、リュートリニアンはぼくたちの言葉が話せないんだ。
うーん、どうするかなぁ。なんとか皆を信じてもらえる方法は……」

『………ラ』
「え? なんか言った?」
「私、何も言って無いよ。」

『……ス……ラ…』
「お、おい、まさか、コイツが…」

『………ア……スト……ラ……』
「アストラぁ? それが、君の名前?」
自らを‘アストラ’と名乗ったリュートリニアンは、
その問に答えるかのように、ユウタ達の周りを浮遊する。が、それ以上は何も言わなかった。

「よ〜し、アストラちゃんね! 私たちがなんとかしてあげるからね!」
「アストラ…ちゃん? おいおい、せっかくカッコイイ名前なんだからちゃん付けは…」
「あら、女の子かもしれないじゃない。ね、アストラちゃんっ。」
「それってアストラが男だったらいじめになりそうなんだけど。」
名前が判明した所で、3人は再び作戦会議を始めた。

―マリアナ海溝―

世界で最も深い、海の底―
その水深、エベレストすら飲み込む約1万メートルの位置―
わずかな生物を除き、この海溝の水圧に耐えられる存在はそうそう無く、
そのわずかな生物の絶対数も多いとは言えず、死の世界に片足を踏み入れている暗黒の世界である。
そこにしぶとく潜んでいる連中―フリップ星人達。
水を自在に操るウルトラマン・バルキーが造り出した特殊空間の中で身を潜ましている彼等は、
そこから手下である怪獣を造り出し、例の黒いオーラで地上に送り込んでいるのである。
しかし、場所が場所なため、1度に大量生産・出撃ができないのだが難点だが、誰にも邪魔されない分、
じっくりと練る事ができ、事実、先日送り込んだグラップラーはまずまずの戦果を残した。
そして今まさに、1匹の怪獣がまたもや地上に送り込まれようとしていた…。

「フリップ。奴の位置が特定できたよ。やっぱり、日本。ふふっ、何かと縁のある国だね。」
「ヴァファファファファファ……奴め、特殊コーティングで墜落まで姿を隠した様だが…無駄だったな。
しかし、奴が行動をする前に仕留めねば……面倒な事になる。準備は出来ているか、バルーパー。」
「ああ。1度狙った目標は何が何でも追い詰めるだろう。期待してもいい。」
「プファファファファフ…ゆけぇ、ガルバルドン! 方法は問わん! 確実に奴を仕留めろぉぉぉぉ!!」

『グゥオオオオオオオオオォォッ!!!!!』

例の小学生3人組は、再びUFO墜落地点へ川沿いに向かっていた。
ユウタの腕の中には、アストラと冷気に襲われないために入れたカイロが入ったバスケットケースが。
UFOの残骸をアストラと共に調べ、決定的証拠になりそうなUFOのパーツを探すためである。
3人は冒険気分で歌を歌いながら川沿いを歩き、そして残骸のある場所へ到着した。

「おかしいなあ。爆発があったんだからケーサツがこの辺に調べに来てそうなのに、誰もいないや。」
「最近のケーサツはガサツだからな。ま、さっさと調べようぜ。」
ユウタがバスケットケースの蓋を開け、アストラを外に出す。
若干体力回復したためか、先程より明らかに動きと輝きが違う。宝探しが始まった。
3人は残骸の中からめぼしいパーツを見つけるたびにアストラに見せるが、どれも無反応。
軽いパーツ、重いパーツ、先鋭で危なそうなパーツ、やたらデカイパーツ…
大小様々なパーツを引っ張り出したが、これと言って決定打になるパーツが見つからない。
コウスケがむしゃくしゃして残骸の山に蹴り付ける。いててと足をぴょんぴょんさせるコウスケの横で、
その姿に笑いつつもユウタとユカが何かを発見した。蹴った反動で残骸の山の一部が崩れ落ち、
残骸の中から七色の光があふれ出した。アストラは先程と打って変わって動き回る。ビンゴらしい。
その七色交互に光る物体はUFOのエンジン部分らしく、どう見ても地球産の物体ではない。
3人が協力してエンジンを取り出そうとしたその時…突如、暗黒のオーラが空を覆った。
オーラが日射を隠し、辺りは暗くなる。アストラはあからさまに慌ててバスケットケースに非難する。
危険を察知したユカがケースを持ち、3人がその場から後ずさりする。
と、黒いオーラから火球が発射され、残骸の山をさらに粉々に砕け散らせた。当然、エンジンも…。
瞬く間に、黒いオーラから巨大な怪獣が出現、同時にオーラも消え、日光が怪獣の姿を照らした。
追跡怪獣、ガルバルドン…。胴体はクレッセントタイプのシンプルな形だが、その頭部は
メカギラスの様に機械で出来ている。ガルバルドンは電子頭脳でターゲットを確認、咆哮した。

「か、かかかか、かかかかか、かかか怪獣だあぁぁぁ!」
「にににににににに、逃げるぞ!!! ユユユ、ユカ、バ、バスケットケースを放すなよ!!!」
「わ、解ってるわよ!!!」
3人の中で1番平常心を保っているユカが両腕でバスケットケースをしっかり抱きしめ、
これまでの人生で一番速いスタートダッシュをきった。
ガルバルドンはそのずんぐりむっくりな体型にも関わらず移動速度は妙に速く、
さらに電子頭脳で確実に目標を捉え続けるため、
3人が山を出て町の路地裏に入ってもしつこく追いかけてくる。
のんびりしていた町の人々もガルバルドンの脅威の姿を見て顔色を変えながら東西南へ逃げ回った。
3人は路地裏、道路、民家の庭、空き地など逃げ惑う人々の間をすり抜けながら逃亡場所を転々と変えた。
だがどこに逃げようとも、ガルバルドンは3人を追い続ける。ついで、放つ火球が街を廃墟へと導く。

「くっそー、あんのやろ、間違いなくぼく達を始末する気だな!」
「きっとアストラが狙いなのよ! 早く町から出なきゃ!」
「…おい、もういいじゃん、そんな宇宙人! なんでおれ達がこんな目に遭わなきゃなんないんだ!」
「…おいコウ、今なんて言った!」
「奴の狙いはアストラなんだろ!? 
置いていけばいいじゃん! コイツは飛べるんだしなんとかなるだろ!」
「ちょっとコウスケ!! こんな状況にいきなり無責任な事言うんじゃないわ!!」
「ふざけんな、だからっておれ達が死んじゃ意味無いだろ!」
「だか皆で逃げるんじゃないか! アストラだってぼく達の友達なんだ!!」
「何が友達だ!! ちょっと関わっただけじゃねぇか!! そんな宇宙人元々信頼できないんだよ!」
「いいかげんにしろぉ!!」

2人が取っ組み合いを始めてしまった。バスケットケースを抱きかかえながらユカが止めに入るが、
2人は地面に転がりながら殴り合い、砂まみれになっても喧嘩をやめようとしない。
コウスケがユウタにパンチをお見舞いしようとしたその時、ユカの悲鳴と共に爆音が。
ガルバルドンが放った火球が近くの民家に直撃、民家は爆発、炎上。さすがに2人は喧嘩を止めた。

「と、とりあえず逃げるか。」
「この先の空き地の裏側に秘密の抜け道があるんだ。そこへ逃げよう!!」
再び3人は走り出し、空き地へと向かった。

イレギュラー反応はばりばりに表示され、出撃要請の電話が鳴り響く。
A&R、出撃である。
一方、3人は空き地へと到着したが、最悪の状況を目の当たりにした。
空き地の裏側が、烈火の勢いで燃えている…!
さらに来た道には既にガルバルドンが立ち塞がり、3人は完全に脱出ルートを失ってしまう。
ガルバルドンがさほど遠く無い位置から3人を見下ろし、機械のその目が、完全にマークする。

「…ごめん、おれが変な事言わなかったら、喧嘩なんかせずに、逃げれたのに…。」
「最初に手を出したのはぼくの方だよ。…ぼくこそ、ごめん。」
そんな事やってる場合ではないのだが、ユカはそのやり取りをじっと見守っていた。
3人とも、覚悟を決めたのだ。
だがその時、ガルバルドンを攻撃する飛行物体が。それは……

「A&Rだ!!!」
A&R基地とこの場所がわりに近かったため、到着が早かったのだ。
エーアールαとダッシュバード・ネオが連携を組みガルバルドンの胴体を攻撃、
その隙に後方からγがガルバルドンの弱点であろう、機械の頭部に攻撃を仕掛ける。

『よぉっし、効いてる効いてる!!』
『よし、このまま押し込んだらどうにかなりそうだな! 至近距離からカッターバルカンで仕掛ける!』
『了解! …ちょっと待って、東K25ポイントの空き地に子供が!!』
『何ぃぃぃ!? …くっそ、マジかよ!』
 レイジ、ナオキ、俺たちが子供達を救出している間に怪獣の注意を逸らしてくれ!!』
『『了解!!!』』
エーアールαとγがガルバルドンに一斉射撃を仕掛け、βがその場から旋回し、空き地へ降下。
空き地の隅にβが着陸、シュウとミスカが降り立ち、立ちすくむ3人のもとへ駆け寄った。

「おい、大丈夫か、皆!!」
「大丈夫!? 怪我してるじゃない!」
「あわ、わ、私たちは大丈夫です!」
3人の無事を確認した2人は3人を連れβに乗り込もうと振り返った途端、
βの右翼が爆発、飛行不可能になってしまった! 犯人は当然、ガルバルドンの火球である。

「…やっべぇ! レイジ、ナオキ! どっちか来てくれ、βが駄目になった!!」
『よっしゃ、待ってろ、今すぐに…のわああああああ!!』
ナオキのγも撃墜され、残りはレイジのαのみとなった。
レイジはとっさにウルトラマンクラウスに変身するためウルティメイトストーンを取り出した。

「クラウっわっわあああぁぁぁぁぁ!!!」
だが、変身する直前にガルバルドンの火球攻撃がαの左翼を破壊し、αは地上へ堕ちて行く。
しかも、そのショックでレイジはウルティメイトストーンをコクピット内に落としてしまう。
αをなんとか胴体着陸させた後、必死になってストーンを探すが、見つからない…!
空き地に孤立してしまったシュウ達はお互いに身を寄せる。別場所で不時着したナオキが
ブレイクシューターで注意を逸らしているが、ガルバルドンはそれに反応する事無く空き地に迫る。
しゃがみ込む子供達を背にシュウとミスカも攻撃を仕掛けるが、それが効いてる様子は無い。
ついに、ガルバルドンが火球を確実に当てられる場所に到達し、
最大出力の火球を発射するためか機械の口元に炎を溜め始めた。
攻撃を諦めたシュウとミスカは少しでも盾になろうと自分達の身を子供達の上に覆い、
ナオキは「そこへ行くな、こっちに来やがれ」と叫びながらブレイクシューターのトリガーを引き続け、
レイジは未だ行方のつかめないストーンを大量の汗をかきながら必死に探し続けた。
そして、シュウとミスカの温もりを感じ取りながらうずくまるユウタとユカ、コウスケは…

「…ごめん、皆。さっき、おれが墜落場所に行こうだなんて言ったから…」
「なによ、謝ってばっかりでコウスケらしくない。」
「そうだよ。第一、謝る事ならぼくだっていっぱいある。」
「いーや、もうこんな時だ。おれの気がすまないんだよ、謝らしてよ。特に…アストラに、さぁ。」
「わかった。じゃあ、皆で謝ろうよ。」
そう言いながら、ユカがバスケットケースを開ける。

「ごめん、アストラ…。ぼく達がいながら、こんな目に遭わせちゃって…」
「もし、あなたが男の子だったら、ちゃん付けしちゃってごめんね…」
「あのさ、その…友達じゃない、とか言って、ごめん。
それと、お前が悪い事をした訳じゃないのに、ひどい事言って、ごめん…」
走馬灯の様に、ここまでの出来事をフラッシュバックさせてゆく。ほんの半日間の出来事だが―。
その時、ガルバルドンが火球を発射した。とてつもなく熱く、大きな、火の玉を。
巨大火球は、真っ直ぐ、空き地に、放たれた。現場の全ての人間が、硬く目を閉じた。

―光が。たとえ目を深く閉じていても眩しく見える程の光が、バスケットケースから放たれた。
光は巨大火球に立ち向かう。光と火球がぶつかり合ったその瞬間、眩い閃光が、音も無く辺りを包む。
3人の少年少女が、ゆっくりと、ゆっくりと目を開ける。―いない。アストラが、ケースにいない。
シュウとミスカも、紅蓮の炎が襲ってこない事に疑問を感じ取り、ゆっくり、後ろに振り向く。
辺りを包み込んでいた光が、少しづつ、吸収されていった。その巨大な、赤い巨人に。
5人の目の前には、追跡怪獣でも巨大化球でも無い、赤い、巨大な背中が、仁王立ちしていた。

「…アストラ、なの?」
「クラウスじゃないのか? …赤い、ウルトラマン…?」
巨人は、ガルバルドンをじっと見計らい、ゆっくりと構えた。
ガルバルドンの電子頭脳は一瞬混乱を引き起こしたが、
状況を推理し、すぐにその巨人が狙っていたターゲットと同一である事を導き出した。
巨人と、ガルバルドンの戦いが始まった。

『トアァァァァッ! ッハァァァァァッ!!!!』
クラウスの叫びとは少し違う、まるで格闘家が気合を入れるごとくの叫びと共に、
巨人―アストラがガルバルドンに飛び掛り、押し出す。第一に空き地から距離を置くためだ。
だが、ガルバルドンは野太い両腕でアストラをつかみ、後ろの方へ投げ飛ばす。
再度、ガルバルドンが空き地へと迫るが、ガルバルドンの背後からアストラがしがみ付く。
ガルバルドンは体を上下左右に振るが、アストラはしがみ付いたまま離れない。
ここでアストラ、ガルバルドンの巨体をぐっと持ち上げ、
空き地へと正反対の方向へ思いっきり投げ飛ばした。これで、空き地との距離が確保できた。
倒れる巨体に走り向かうアストラ。だが突如、瓦礫の中からガルバルドンの長い尻尾が奇襲、
アストラの足を取った。地面に転んだアストラに巨体が圧し掛かる。
さっきは隙を突いたから投げれたものの、パワー勝負となればアストラの方が断然不利である。
万事休す…。と、ガルバルドンの体の側面に別の光が激突し、巨体をアストラから離した。
その光は…銀色の巨人ウルトラマンクラウス! なんとかストーンを発見したレイジが変身したのだ。
敵が倒れている内にアストラに手を伸ばすクラウス。立ち上がったアストラをじっと見つめる。
クラウスは、この赤い巨人の正体を知らない。アストラの方も、何も語らない。
だが、倒す相手が共通しているので、ここは一先ず共闘する事にした。
起き上がったガルバルドンが咆哮する。2人の巨人が気合の叫び、構えた。時は、夕暮れ。
巨体が咆哮と共に突進するが、2人の巨人は同時にジャンプしそれを避け、敵の背後を取った。
2人でガルバルドンの長い尻尾をつかみ、力をあわせて思い切り引っ張り倒す。
そうやって2人で協力しつつガルバルドンに痛手を負わすが、ガルバルドンも並みの存在では無い。
火球や尻尾、怪力、そして電子頭脳が生み出す戦いへの適応な判断力が戦いを激戦化させる。
そして…皆を守るために戦う2人を見て、自分が今、何をすべきかを悟った者達がいた。それは…

「が…がんばれええええ、アストラぁ、クラウスぅぅ!!!」
「いけぇぇぇ、そこだぁ、やっちめぇぇぇぇぇ!!」
「がんばって!! アストラちゃんなら勝てるよぉぉ!!」

ヒーローショーでは、ヒーローがピンチになると、会場の子供達がヒーローを応援し、
ヒーローは勝利を得る。何故か? ヒーローが、子供達の声援でパワーを得る…設定だからだ。
だがこれは、本物のヒーローにも当てはまる事である。
応援とは、己が本当に信じる者に、己の気持ちを伝える手段だ。
自分が必死に守るべき存在が、自分のために、自分の勝利を信じて、声をかけてくれる。
自分を信じる者がいる…。それが解れば、自然と、力も湧いてくるのだ。
クラウスが普段よりも威力3割り増しのクラッシュウムカノンを放ち、
ガルバルドンの巨体の動きを止める。その隙に、アストラが大ジャンプ、空中からきりもみキック!!
鋭いキックはガルバルドンの機械の頭部を粉砕、さらにそのまま胴体をも切り裂く。
肉の塊になったガルバルドンは、クラウスのダブルフィンガービームにより溶け、この世から姿を消した。

エネルギーを消費したクラウスが先に空へと飛び去った。
アストラは、例の空き地にゆっくりと近づき、危機が去った5人を見下ろした。
夕焼け小焼けが、アストラを神秘的に映し出す。

「ありがとぉぉぉぉ、アストラァァァァ!!」
「ありがとー、アスト……ってちょっと待って、日本語、通じるんだっけ?」
「んー、そうかぁ。…あ! ねぇねぇ、A&Rのお姉さん!!」
「赤いウルトラマン…バルキーやバルーパーとも関係あるのかしら……って、え、何、どうしたの?」
「あのさー、リュートリニアン語で、‘ありがとう’って、どう言うの?」
「ありがとう? あぁ、ありがとうなら…‘リッダー’って言うのよ。」
「リッダー? うん、わかった。 アストラー! リッダー!!」
「リッダー!!」
「リッダー!!!」
『リッダー……ユータ…ユカ…コースケ…』
子供達が精一杯手を振って、感謝をアストラに伝え、そしてアストラも、ぎこちなく答えた。
アストラは再び光に包まれ、元の光の発光体となり、今度はバスケットケースに戻る事無く、
どこかへ飛び去っていった。

シュウとミスカは、新しいウルトラマンの出現に、この先どうなって行くのだろうかと不安を覚えた。
先日出現した2人のウルトラマンは、結局はフリップ星人の手の中の存在だった。
そして、今回の赤いウルトラマンは…? 共闘こそしていたが、まだ敵なのか味方なのかは解らないのだ。
だが、今は、アストラとの別れを惜しみつつも、最後まで、アストラの光が見えなくなるまで、
手を振って、うっすら涙を流しながら、だけど明るく別れの言葉を叫び続ける
3人の子供達の後姿を、じっと見守るのであった。


次回 ウルトラマンクラウス 第12話

「嗚呼、悲しき人生也」
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第13話 「返ってきたウルトラマン」

地底野生怪獣ラーヂコッヅ 登場


「クラウスゥゥゥゥゥゥ!!!!」

山中、ウルトラマンクラウスはA&Rエーアール隊と連携を組み、
突如として現れた巨大怪獣と戦闘を繰り広げていた。
ラーヂコッヅと言う名を付けられたこの怪獣は、名前以外、別段これと言った特徴は無く、
ティラノサウルスに適当に角をくっつけて怪獣にしたてた様な容姿である。
クラウスもエーアールもその怪獣に警戒する事と言ったらせいぜいその鋭い角ぐらいで、
後は普段よりも楽勝な具合で怪獣を追い詰めていった。
ラーヂコッヅもこりゃかなわんと思ったか、地底への穴を掘って文字通り尻尾を巻いて逃げて行った。

『あー、こちらシュウ。どうする? 追うか?』
『ん〜、別にいいだろ。あの程度の強さだったらまた現れてもサクっと撃退できるっしょ。』
『そだな。』
フリップ星人とその一行が世間から姿を消したここ数週間、A&Rの防衛への緊張感も薄れ、
近頃はフリップ星人とは何も関係ない‘野生の怪獣’がぽつぽつ出現するようになった。
その野生の怪獣達は、フリップ星人がいつも送り込んできた強力な手下怪獣達とは違って
戦うには少々物足りないと感じてしまう存在であった。
今日も無事怪獣を追い払った一同は、そのままとっとと基地へ帰ったのだった。

―A&R日本海本部、ベース・ネプチューン―

泣く子も眠る午前1時。A&Rの隊員達も一部の夜間勤務員を除いて床に入り、
昼間は騒がしい食堂も今は静寂に包まれている。
そんな食堂の中央席には、4人の男女が歓談に耽る姿が。
レイジと、トウコに、ショーン、そしてオオシマ長官。
このメンバーの共通点はズバリ‘レイジの正体を知る者’である。
以前、レイジがクラウスに変身した日に、こうして深夜の食堂で秘密の集会をした事があった。
それ以来、レイジが変身したその日の夜はこのメンバーで食堂に集まる事が暗黙の了解になっている。
基本的にはその日の戦いの検証等をしているのだが、結局最後は楽しいお茶会となる。
今回、普段の4人とは別に、ビッグゲストが食堂に訪れていた。
ウルトラマンクラウス、本人である。
と言っても、変身道具ウルティメイト・ストーンから放たれる声のみだが。

「―すると、ウルティメイト・ストーンはM78星雲以外の星では宝石扱いになってるのか?」
『ああ。特に‘ゴドラ’と‘ゴドレイ’の惑星間での貿易が盛んになっている。
 あの星ではストーンが特に高く売れるそうだ。……戦争が起こるほど。』
「戦争が!? あなたは、その戦いに…?」
『いや、私はその頃別の場所で行動をしていた。気づけば戦争はすでに冷戦状態になっていた。今も、だ。』
「ふむ、この石は争いを引き起こす魔性の様なものを持っていそうだな。」
『正解だ、オオシマ。このウルティメイトストーンには‘悪魔の宝石’と言う別名がある。
 そうでなくても、私の様な存在が身を隠せる時点で、これが普通の石では無い事がよく解るだろう。』

「魔性の石、か…」
常時、懐にこの石を入れているレイジは不思議な感覚に陥った。
そんな石を身に着けながら、三食食べたり仕事をしたり戦闘機に乗ったり…。
レイジは検めて自分に圧し掛かった責任の重要さを思い知った。

「さて…今日の所はもう解散しようか。」
オオシマのシメで、今日の話し合いは終了した。

―翌日、午後―

ハジマ・シュウは、この日またも現れたラーヂコッヅを軽々と追い払った後、現場付近の岩山を調査をしていた。
放射能反応や汚染物は確認できなかったが、岩場に何か光ってる物体が転がっているのを発見。
それを拾ったシュウは銀色に輝くその物体を一応採取ケースへと入れた。
その直後に、別場所を調査していたレイジが合流、やれやれと基地へ帰還したのだった。

―ベース・ネプチューン―

帰還したレイジ達は、カサゴイ隊長に調査報告をし、食堂で美味しい料理を食べ、
司令室で適当に過ごし、各々個人部屋に帰った後、レイジとシュウはそれぞれある事に気が付いた。
―シュウ個室―
「あ、さっき拾った綺麗な石の事、報告すんの忘れてた…。…ん? あれ? 何処いった?」
―レイジ個室―
「…え? ん? あ? ウルティメイトストーン、何処いった!? え? ウソん!? あれれれれれ!?!?」
―シゲノ・ナオキ個室―
「売ればいくらになるんだろ、この石…。」

―さらに翌日・昼時の食堂―

「―ごめん、レイジ。よく聞こえなかったから、もう1度…」
「だからー、そのですねー、はい、あのー、変身するために絶対不可欠なウルティメイト・ストーンをですね、
ええ、ですから、はい、そのー……なくしちゃったんですよ、トウコさん…。」
「ホントに? 見つからないの?」
「マジです。昨夜一晩中探しましたがまだ見つかってません。」
「…今ここで慌てるのは他の皆に迷惑をかける上に怪しまれるから自粛するけど、私の今の心境、解るよね?」
「…はい。」
「じゃ、私今から食堂の後片付けしなくちゃいけないから、その後なんとかしましょうか。」
「お手数をおかけします…。」
顔の表情こそ普段のトウコだったが、体中からは明らかに不審なオーラが放たれていた。
後片付けを終えた午後1時半、ウルティメイト・ストーン捜索が開始された。
ショーン博士に頼めば「ストーンを発見するヨ! マッシーン」でも作ってくれそうだが、残念ながら彼は出張中。
オオシマ長官も現在重要会議中である。そこでレイジは、テレパシーでクラウスとの交信を試みるが、音沙汰なし。
そもそも、普段はストーンの中に潜んでいるクラウスは、
レイジにストーンを強く握られ、なおかつ強い信念で名を呼ばれた時にのみ、
ストーンから離れレイジと同化し、巨大化する事が出来る。ストーンに入ってる間は、クラウス本人は無力。
レイジに持ってもらわない限り、ウルトラマンクラウスは‘ただの綺麗な石’なのだ。
クラウス自身が独立してストーンから離れて行動するのも不可能。理由は地球の環境の問題である。
意外な事に、戦闘能力は抜群だが、地球環境への適応能力はウルトラ種族の中でも特に低いクラウス。
今、レイジとストーンの距離が離れているこの状況はかなり危険である。下手すれば永遠に変身できない。
一刻も早くストーンを見つけなければ、万が一の時……。そうならない様に、早急な発見が求められる。
とりあえず、食堂や司令室やエーアール格納庫、レイジの個室に、
さらにはトイレまでありとあらゆる場所で探したが、見つかりはしなかった。
ストーンの存在は極秘。他の者に捜索依頼をする訳にもいかず、捜索は難航した。

この時、焦っていたためか2人の頭の中には
「もしすでにストーンが誰かに拾われていたら」と言う考えはつかなかった。
と、基地内に警報が。
例のラーヂコッヅが三度地上に現れたらしい。やれやれ、またかよと指定の位置につく各係員達。
レイジも捜索を中止して司令室へと急ぐ。またさっさと片付けるんだろうな、と思いながら。
だが、司令室には実に数週間ぶりに緊張感が漂っていた。問題は、モニターに映し出された映像にある。
モニターには、予想通り山中を暴れるラーヂコッヅの姿が映し出されていた。だが、何かが違う。
よく見ると、前と比べて体は一回り大きく、角の数も明らかに増えてより凶悪な姿で、そして何より……
口から赤色の破壊光線を放っている。破壊光線は森の木々を燃やしつくし、大規模な山火事を惹き起こしていた。

「…なぁ、あれって昨日のラーヂコッヅとは違うよな? 似てるけど違うよな? ルイ。」
「見た目は明らかに別固体なんですけど、生体反応認識コードは昨日現れたラーヂコッヅと
まったく同様なんです。ですんで、同一の怪獣かと…。」
「マジかよ、恐ろしい勢いで進化してやんの。」
「どうします、隊長。エーアールはまだ点検修理中ですよ?」
「…あー、おほん。…えぇい、いかんいかん! 最近手こずる敵がいないからと言って、
我々A&Rとしての緊張感が欠けているぞ!! しゃきっとせい!!
エーアール各機修理が済み次第、順に出撃しろ!! ルイ、修理はどこまで進んでいる!?」
「あ、はい! αが30%、βが73%、γが95%です!」
「よし、ナオキとシュウはγに乗って現場へ急行、レイジとミスカはαとβの修理が済み次第出撃だ! いいな!」
「「「「了解!!」」」」
久しぶりのワンダバダワンダバダな雰囲気が隊員達の士気を挙げた。
シュウとナオキはエーアールγの格納庫へと出向かい、レイジはαの修理が済むまで再びストーン探索に戻った。
司令室に待機せねばならなかったが、カサゴイ隊長に用事があるのでと伝え、5分間の許しを得たのだ。
いよいよ一刻も早くストーンを発見せねばならない事態なのに、レイジは出撃せねばならない。
少しでも可能性のある場所を考え、その場所をトウコに伝えて探し出してもらうしかない。
トウコと合流したレイジは、急いで用件を言い放った。

「この基地の下水道だ!!」
「下水道!? なんでそんな結論に達したの!?」
「もしかしたら、俺の不注意でストーンを流してしまったかもしれないんだ! 
これだけ探して何処にも無いんだったら、その可能性だってある!」
さすがにトウコは悩んでしまった。いくら人のいいトウコでも、下水道にまで手を出す勇気はない。

「あ…いや、その…ただ可能性を言っただけだから、本気にしなくていいけど…」
「…ううん。探す。私、最後まで探す。だって、少しでも可能性があるのなら、諦めたくない…!」
「…ありがとう。俺も、エーアールだけで奴を倒してみせる。必ず!」
タイムリミットの5分が過ぎた。零時は司令室へと戻り、トウコも下水道に立ち向かうため気合を入れた。

―その頃、エーアールγ・コクピット―

「…おい、ナオキ、その石はなんだ。」
「え? ああ、綺麗だろう。昨日基地で拾ったんだ。持ち主が現れるまでγのお守りにでもしようかな、と。」
「それ、俺が落とした石だ! 昨日あの怪獣が現れた場所に落ちてたんだよ!」
「はぁ!? そんな境遇の石なのか、これ!? ヤバイんじゃないのか!?」
「ひょっとすと、あの怪獣の異常なまでの急激な進化と何か関係があるのかも…」
「なんでそんな石を無くすんだよ! つか、無くしたにしてもとりあえず隊長や科学調査判とかに報告しろよ!」
「そんな重要な石だとは思わなかったんだよ!! ああ、ちきしょー、なんつーこった!」
だが、引き返すわけにもいかず、γはそのまま現場へと急行した。

姿や戦闘能力もろとも進化を遂げたラーヂコッヅは、いよいよ人里へ足を踏み入れようとしていた。
そこに、エーアールγが駆けつけバルカン砲でラーヂコッヅを足止めする。
昨日までならその程度の攻撃で簡単に追い払えたが、今回はそうはいかない。
バルカン攻撃をいともしない上に、赤色の破壊光線でγを撃ち落とそうとしている。
他のエーアールと比べ図体の大きいγは、光線回避に苦労を要した。紙一重である。
と、ラーヂコッヅに別方向からの攻撃が直撃、ラーヂコッヅの頭に火花が散る。エーアールαとβだ。
ラーヂコッヅは、さぁきやがれと言わんばかりに咆哮し、口をバックリ開け光線を乱射した。
エーアール達はなんとか回避し続けたが、運悪くγの左翼に光線がかすり、バランスを崩したγは胴体着陸する。
空中からは残ったαとβが砲撃、地上からはγから脱出したシュウとナオキがブレイクシューターで応戦。
空陸からの攻撃でラーヂコッヅを包囲する。
だが、ラーヂコッヅはケロっとした顔で攻撃の嵐に耐え、一瞬の隙を狙ってαを打ち落とす。
胴体着陸も不可能なため、緊急脱出装置を叩き、空中でαから脱出、パラシュートを開くレイジ。
普段ならここで変身する所だが、今回はご存知のようにウルティメイトストーンが無い故に
そのまま地上へ降り立った。無線で他隊員達に無事を知らせ、ブレイクシューターで怪獣への攻撃を再開する。
残るエーアールβはアタックモードにチェンジ、ラーヂコッヅへ斬りかかった。
先程よりは効いてはいるが、それでも大打撃的なダメージへは繋がっていない。
諦めず、βに乗ったミスカはレバーをぐっと引いてさらに攻撃を与えようとしたが、
ラーヂコッヅの尻尾が猛威を振るう。ついに、尻尾に叩きつけられてしまい、βもむなしく墜落。
ほとんどなすすべを無くしたレイジ達はシューターのトリガーを引きながらも絶望感に見舞われた。
当然ながら、ウルトラマンが現れる気配も無い。

「うがーっ、お前にはこれがいるんだろバッキャロー!!!」
ヤケになったナオキが走りながらラーヂコッヅに例の綺麗な石を思い切り投げつけた。
投球能力のないナオキの投げた石がラーヂコッヅに届くはずも無く、石はコロコロと山の中を転げ回った。
転げ回った末、一人の人間の足元へたどり着いた。その人間は、そう―

「ほえ?」
レイジなのだが、突然目の前に探し求めていたウルティメイトストーンが転がってきたがために、
今の状況がつかめずにいた。基地で探していた物が山の中から転がってきたのだから、当然である。
つんつんとストーンをつつき、本物かどうか確かめるレイジ。その姿、かなりマヌケである。
ある事を思い返した。昨日、現場調査をしていた時、思い切り転んでしまったのだ。ひょっとすると、その時…。
ようやっとストーンをつかみ、クラウスとのテレパシーを試みた。

『クラウス!』
『…レイジか。』
『ごめん! ほんっっとーにごめん!!』
『君にクラッシュウムカノンをぶちまけたい所だが…
 2度とこんな事をしでかさないと約束するなら、今回は止めておこう。…どうなんだ? ん?』
『約束する! 約束するよ!!』
『…解った。…本当に、2度と無くすんじゃないぞ…?』

「クラウスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

光の中から降臨したと同時に、クラウスはクラッシュウムカノンをラーヂコッヅに撃ち込む。
ナオキ達が「撃つの速っ」と感想を述べている合間に、再びカノンを放つ。
さらにもう一発、オマケにもう一発、トドメにもう一発としつこくクラッシュウムカノンを連射する。

よっぽどストレスが溜まっていたらしい。もうカラータイマーが鳴っている。
ラーヂコッヅのいた場所にはもんもんと猛煙が立っていた。
クラッシュウムカノンを何発も喰らったのだから、生存しているワケがない。合唱。
…と、思いきや、煙の中から生きたラーヂコッヅの姿が。だが、複数生えていた鋭い角は一本もない。
クラッシュウムカノンによってすべて破壊されたのだった。思いっきり戦意を失ったラーヂコッヅは、
勘弁してくださとばかりに敵意の無さをアピールし、今度は深く深く地底へと逃げて行ったのだった。

―ベース・ネプチューン―

シュウは報告を怠った事に関してカサゴイ隊長にこってりと注意を喰らい、
他の隊員達もしっかりと指導を受けたのであった。気の緩みは、様々なミスを惹き起こす。今回得た教訓である。 


…忘れていた。
下水道に全身ビニールコートとマスクで装備して勇敢に立ち向かい、すっ転んで異臭に塗れたトウコの事を。

「…この借りは高いよ。」
「わかってます。…で、何をすれば…?」
「今度の休日に、私とケーキを食べに行く事! 当然、オゴリね。じゃ、シャワー浴びてくるから。」
自業自得とは言え、やれやれと財布の中身を心配するレイジ。
これってほとんどデートの誘いなのだが、その辺全然気付いていない21歳であった。


次回ウルトラマンクラウス 第14話

「白銀の悪魔達」
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閑静な住宅街に、一軒の立派な家が。どうやらその家は新築らしく、家の前では人が数人立っている。

「ついに…ついに、念願だったマイホームが、目の前に…! 
ううう、仕事への苦悩20年、どれほど長かった事か…。」
「その苦悩の20年がついに報われたのよ、あなた!」
「そうだよ、お父さん毎日がんばってたもん!」
「まいにちずーっとおねんねしないで、おしごとやってたもんね!」
「さぁ、入ろう、新しい生活の始まりだ!!」
その時、突如激しい揺れが起きたかと思うと、家族の目の前にあった家がガラガラと崩壊した。

「じ、地震か!? おい、ミドリ、アキオ、あき子、大丈夫か!?」
「私達は大丈夫! それより家が…家が…!!」
「え? あ!! のああああああああああ!! に、20年の苦労が〜〜〜〜!! 地震めえぇ……」
「あ、あなた、周りを見てみて!」
地震など、起きてはいなかった。崩壊した家はこの新築家だけ。要するに、家が勝手に崩壊したのだ。

「って事は………。 け、け、け、欠陥住宅だああああああ!!!!」


第14話 「白銀の悪魔達」

巨大白蟻ホワイトアリンドウ 
銀色害虫シルバーアンタレス 
昆虫皇女クイーンアリブンタ 
混血奇虫アトレス・ガクロン  登場

『相次いで発見される欠陥住宅!! 発生する崩壊!! 後藤建築会社、経営の危機!!』

「まことに、まぁことに申し訳ございません!! 被害にあった方々には全額負担させていただきます!!」
あまり濃くない髪の毛に脂汗を濡らしながら、後藤建築社長の後藤が記者会見で精一杯の謝罪を申し立てていた。
このシーンから判るように、重大な欠陥が報告された家はすべて後藤建築の建てた家であった。
長い歴史を持つ後藤建築は元々評判が良かったのだが、今回の事件で評価が奈落の底へ、株価も暴落し、
散々な結果となった。これ以来、後藤建築が少しでも関わった家からは住民が逃げるように引越して行き、
引越し料金や引越し先家賃は社長の言葉通り全て後藤建築が負担した。

―A&R日本海海上基地 ベース・ネプチューン―

この基地建設にも、どこかに後藤建築が関わっていないかどうか入念な点検がされたが、
結果は‘該当無し’であった。

「しかし、後藤社長もお先真っ暗だな。ここまで頑張ってきたのに。」
「自業自得なんだけど、ちょっと可哀相だよなぁ。…ん? ルイ、なにやってんの?」
「私の実家宅が確か後藤建築製だったもんだから、気になってネットで色々調べてるのよ。
…で、ちょっと気になるデータを見つけたんだけど……隊長、いいですか?」
「ん? ああ、構わんぞ。」
ルイは司令室のパソコンをいじり、パソコンに表示されたデータを司令室メインモニターに映し出した。

「で、どこが気になるんだ?」
「ここです。‘欠陥場所はいずれも木材柱の腐敗であり、木材を品質も確かめずかき集めた結果だと思われる’」
「まぁ、そうだわな。」
「で…こっちには‘いずれも崩壊は家の地盤沈下から惹き起こされている’と書いてあるんです。」

「…ん? 柱が原因なのに地盤から崩壊? 私は建築技術にはなんの学は無いが、それは少し変だな。」
「地盤も柱も両方グダグダだったんじゃないんすか?」
「柱はともかく、地盤に元々問題があるのなら、崩壊した家の隣接の家にも何かしら影響があるはずなんです。
何より、家そのものは後藤建築製だけど、地盤は別の業者が造った家も結構あるんです。その家も…」
「地盤が沈下?」
「そう。」
「木材が腐ってその連動で地盤が崩れるってのは……んー、その逆もありえねぇな。」
「確かに、出来すぎた話だな。
まとめると、まず地盤が沈下し、それから腐敗した柱が折れて完全に倒壊した……。それも、どの家も?」
「はい。」
「他の警察やマスコミなんかはその事に気付いているのか?」
「遅かれ早かれ気付くでしょう。て言うかもうすでに感づいているかも。」
「よし、レイジとナオキはエーアールβで木材を取り扱っている工場へ行くんだ。群馬だったな?
ミスカとシュウはラシックで新潟にある建築博物館へ出向かってくれ。いいな?」
「はぇ!? 別に我々がそんなとこまで首突っ込まなくてもいいでしょう!?」
「これも何かの縁だろう。それに、お前達も最近出撃が無くて体がなまってた所だろう? さぁ、行って来い!」
カサゴイ隊長は時より気まぐれを言い放つのだが、今回はその中でも特に際立っていた。

―群馬・関沢木材工場―

この工場は、海外から輸入した木材を各建築会社のリクエスト通りに加工し、安く売る商売を行っている。
後藤建築とも関わりがあるのだが、他の建築会社もこの工場の木材を使用しているため、
後藤建築の木材の扱い方が悪いと言う事になり、この工場そのものは特に問題視されていない。

「―と言うワケなんですよ。だからウチで取り扱っている木材には問題無いんですってば。」
「では、木材腐敗の理由はなんだとお考えなんですか?」
「そりゃもう、後藤さんとこの木材の扱いが悪かったとしか言いようが無いですよ。
ウチの木材を使っている建築会社は他にもいるんですよ? 
言っておきますが、ウチはシロアリ対策なんかは万全にしていますからね。」
「白蟻? ああ、そうか、白蟻が木材を食い尽くしてしまった可能性もあるのか。」
「いや、ですからそれはないでしょうって。ウチは害虫対策として現地から届いた木材を瞬間的に加熱して、
白蟻などの卵を死滅させています。白蟻なんてありえません。
第一、私も建築関係者として例の腐敗した木材を見ましたがね、ありゃ白蟻レベルを越えている。」
結局、木材そのものは工場にある時点では問題は無い、て事は判明した。一方、シュウ達の方は…

―新潟・一宮建設博物館―

「―確かに、今回の連続崩壊に関しては私達も疑問が残るんです。
このデータを見てください。崩壊した家は新築家が多いのですが、築10年の家等も崩壊しているのです。
もちろん、同時に。」
「うーん…。例えばですねぇ、その、家を食い尽くしてしまうような害虫なんかは存在しないんでしょうか?」
「ええ、こんなご時世です。突然変異した白蟻なんかが出現したのもありえない話ではないのですが、
それを踏まえても今回のケースは特殊なんです。同じ後藤建築で、そして必ず地盤にも異常がある…。
後藤建築があえて自分の首を絞めるような家を建てるとも思えないし…。」
「あの、地盤沈下の方の原因は?」
「目下のところ調査中です。あと2,3日経てば何かしらデータがでるかと思いますが。」
「…わかりました。今日のところはもう引き上げますが、また相談に来るかもしれないんで。」
「ええ、私達も何か判り次第お知らせします。」
「よろしくお願いします。」

―A&R日本海海上基地―

「―ふーむ…疑わしい部分はあるにはあるらしいが、特定はできず、か…。」
カサゴイ隊長は集められたデータを下に様々な仮説を立てていたが、確信までには至っていない。
他の隊員達も各々データを照合している。…と、突然。

「隊長!! 関東ブロックG地点に怪獣が出現!! 現地からの映像です!!」
「これは……巨大な蟻!?」
「へっ、間違いねぇな。今までの流れから言って、コイツが何か絡んでるに違いねぇ!」
その赤い巨大な怪獣は、2足歩行で両肩から巨大な鋭い突起物が生えたまさに怪獣的なスタイルをしている。
それが巨大な蟻と言われた由縁は、その顔立ちが蟻に酷似していたからだ。
緑色に光る巨大な目を持ち、噛み付かれるとただでは済みそうに無い口元…。
低い奇声を放つその蟻怪獣は、次々にビル街を破壊していった。

「A&R・出撃!! これ以上被害が出る前に奴を倒せ!! いいな!!」
「「「「了解!!!」」」」
モンスターコード‘アリブンタ’を倒すべく、基地より3機のエーアールが出撃した。
現場へと急行するエーアール達に、基地のカサゴイ隊長から通信が入った。

「関東ブロックJ地点にも怪獣が出現した! 訓練したフォーメーションβ―γを行え! いいな!」
「「「「了解!!!」」」」
簡易空母であるエーアールγには、何時からエーアールβの予備機が随時収納されるようになった。
通常、エーアールαにはレイジ、βにはシュウとミスカ、そしてγにはナオキ…と搭乗分担されている。
しかし、複数の敵が同時に別々の場所に現れた際に、エーアール3機が分散するのは戦力上好ましくない。
そこで、シュウとミスカが乗ったβがγに一時的にドッキングし、ミスカがγの機内へ入る。
そして、そのままγに積まれたβの予備機にミスカが搭乗し、そのままγから出撃するのだ。
これにより、エーアールはβ予備機を加えて総勢4機となり、2機ずつでそれぞれの敵に立ち向かえるのだ。
これが、フォーメーションβ―γだ。

ただし、エーアールβ・別名ダッシュバード・ネオは、基本的に2人で操縦する。
βは性質上、2人で協力して操縦する事で本領を発揮するため、
これを1人で操縦するとなるとかなり状況が違ってくる。
βは2人で操縦しないと、本来の40%ほどの動きしか出来ないのだ。
フォーメーションβ―γの難点である。
とは言え、基地に戻る時間も無い時など使い所を間違わなければ、このフォーメーションは有効だと言える。
αとβ(シュウ)はアリブンタの元へ、β2号機(ミスカ)とγは新たなる敵が待ち受けるJ地点へと急いだ。

―G地点―

『いたぜぇ、レイジ! 奴だ!』
異様に腹が膨らんでいる巨大怪獣アリブンタは、エーアール達の到着に動じる事無くビルを破壊し続けている。
αとβは先ず連携を組みアリブンタを背後から攻撃する。
必然的にアリブンタはエーアール達に敵意を抱き、エーアールに威嚇するかの如く奇声を発する。
だが、アリブンタには空への攻撃手段が無いらしく、ただ腕をぶんぶん振り上げ続けるだけだった。

―J地点―

その銀色に染まった怪獣は、例の如く蟻の様な顔立ちをしていた。
しかし、胴体や尻尾は異様に長く、蟻と言うよりはむしろサソリやムカデの特徴を捉えていた。
急遽、モンスターコード・‘アンタレス’と名付けられたその怪獣…と言うより怪虫は、
口から何もかもを溶かしかねない強力な硫酸を撒き散らしていた。
駆けつけたエーアール達にも酸の猛威を振る舞い、戦場は激戦地となっていた。

―その頃、一宮建設博物館―

巨大蟻怪獣の出現に民家崩壊との関連性を睨んだ博物館員達が、
昆虫学者と協力してアリブンタとアンタレスに特徴該当する昆虫を調べだしていた。
図鑑やネットなど、様々なデータをしらみつぶしに調べ上げ、ある1つの回答を見つけ出していた。

「‘アトレス・ガクロン’!?」
「ええ、つい先月、南米で発見された新種の蟻だそうです。
アトレス・ガークと言う学者が発見したらしく、学会への正式発表はこれからだそうです。」
「しかし、生態データは記録されているんだな? 特徴は?」
「まず、雄と雌では体色からして大きな違いがあり、雄は銀色、雌は真紅色と異なった体色・姿形だそうです。
また、幼虫は生まれた頃は白蟻に酷似しており、成長するにつれに体色や姿が雄雌それぞれに変わっていくとか。
さらに、アトレス・ガクロンは強烈な熱を好む体質で、卵も熱に耐えうるほどだそうです。
それと、アトレス・ガクロンの雄は外敵から身を守るため強力な酸を……」
「待ってくれ、アトレス・ガクロンはどこに卵を産み付けるんだ!?」
「データによると……大木の中です。」
「……群馬の関沢木材工場が扱っている木材は…どこ産だ?」
「えっと、たしか、南米の熱帯雨林……え? …まさか!」
「関沢木材工場に連絡して、木材の取り扱いを前面ストップさせろ! 危ないのは後藤建築だけじゃない!!」
「は、はい!!」

―同時刻、J地点・アンタレス出現場所―

シルバーアンタレスは、ぐったりと横たわり、絶命していた。
見た目こそ凶悪な姿をしていたが、実際のところは所詮ただの大きな虫で、
強力な酸を噴きまわるもエーアール達の上空からの一斉射撃であっさり生命活動を停止してしまったのだった。
とは言え、酸の濃度の高さは確かで、とばっちりを喰らったビルや車はほとんど溶けていた。
しかしこうなればシルバーアンタレスもただの邪魔な屍である。
ミスカとナオキはアンタレスの屍の対策を現場処理班にまかせ、G地点へと向かった。

―G地点、アリブンタ出現場所―

タフネスだけは妙にあるアリブンタは、αとβの上空からの攻撃に耐え続けたが、
そこに駆けつけたエーアールβ2号機とγの加勢によって、アリブンタもまた、あっさり絶命した。
膨らんだ腹を不細工に上に向け、仰向けに倒れているアリブンタ。
もしかすると、あの膨らんだ腹の中には得体の知れないものでも入ってるんじゃないかと警戒したレイジ達は、
アリブンタの屍に着火弾を撃ち込んだ。屍もろとも腹の中にあるものを燃やし尽くすためである。
しかし着火直後、カサゴイ隊長から緊急通信が入った来た。
アリブンタに、絶対に炎を与えるな、と。
なんで後30秒早く通信を入れてくれないのかな、と、レイジ達は隊長に心の中で訴えた。
燃えるアリブンタの屍をいざ消火せんと降下するエーアール達。だが時すでに、とっくに遅かった。
屍の腹が極限までに膨らんだかと思うと、バックリ破裂、中から現れた何者かがエーアール達の横をすり抜けた。
それは、1体や2体ではない。約40体程の影が、空を覆った。

『あれは…白蟻か!?』
クイーンアリブンタの子供達、‘ホワイトアリンドウ’は、体長こそ2〜3メートル程だが、
それでも40体も集まれば強圧な存在感を持ち、空をゆうゆうと舞っていた。
この光景、虫嫌いの人間が見たらショック死確定であろう。
カサゴイ隊長の連絡によれば、一宮建設博物館からの緊急通信で、
一連の昆虫怪獣達に炎等の熱を与えてはならないと伝えられたらしい。
アリブンタ、そしてアンタレスは姿こそ違えど、両者ともアトレス・ガクロンと言う同じ昆虫らしい。
原因は不明だが、アンタレスとアリブンタは巨大化したアトレス・ガクロンのそれぞれ雄と雌だと言う。
ともかく、今は新たに誕生した化け物白蟻達の殲滅が優先である。
なるべくアリンドウ達に熱を与えないように、2機のエーアールβはアタックモードにチェンジ、
ちょこまか飛び回るアリンドウ達に体当たり戦法を仕掛ける。
主に火器が武器であるαとγは、アリンドウの群れの周りを飛び回り、牽制を開始した。
生まれたばかりのアリンドウ達はまだ戦闘の心得が無いが故、次々にβに切り殺され、死体が次々に墜落する。
ところが、残りが後10匹程になると、戦況は急変した。
次々に倒されていく兄弟たちを見て、残されたアリンドウの闘争本能に火がついたのだ。
打って変って動きが速くなったアリンドウ達に今度はエーアール側が押され、
ついにはレイジの乗ったαがアリンドウの体当たりを喰らい、墜落してしまう。

「クラウスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

光の中からウルトラマンクラウスが降臨したはいいが、いかんせん今回は普段と様子が違う。
相手は数メートルの昆虫軍団。スペック的にはクラウスと天と地の差はあるが、熱光線を与えるわけにはいかない。
ここで、どこぞのウルトラマンなら「ウルトラ蝿叩き」とか「ウルトラ虫返し」とか特殊技を使うところだが、
クラウスにはそこまで心の余裕はない。となれば、ダブルフィンガービームを群れの横スレスレに撃ち、
アリンドウ達を牽制させ、βが仕留めるしかない。えらく地味な活動だが、平和のためには地味も糞もない。
クラウスは両腕からビームを発射、空飛ぶアリンドウ達に混乱を起こさせる。
アリンドウ達も、いくら熱には強いと言っても、当たらないに越した事は無い。
ヒラリヒラリとビームを避けるが、その隙にβが体当たりを仕掛ける。
次々に倒されるホワイトアリンドウ。結局、最後の1匹までこれと言った抵抗もできず、全滅した。

所詮、虫である。


その後、昆虫学者や建築士達の徹底の調査の結果、南米に生息するアトレス・ガクロンが
大木に産みつけた卵が大木ごと日本に運び込まれ、関沢木材工場で害虫駆除のため加熱された。
しかし、この加熱によりアトレス・ガクロンは卵の中で異常発達し、
その木材が家の柱として使われた直後に孵化、木材を食い尽し、さらには雄のアトレスが地盤に侵入、
持ち前の強力な酸で地盤を要所要所溶かし、崩壊へと導いてしまったのであった。
今後の対策としては、南米から輸入された木材全てに新開発の殺虫剤を撒く事となった。

そして、関沢木材工場の木材を利用している後藤建築以外の建築会社達も各社、建築物の点検を開始した。
この研究結果発表により、後藤建築は多少肩が軽くなり、今度は木材工場側が批判の対象となったのだった。

「―だってさ。」
「あれだけ騒いだわりに、当の犯人達はあっけなかったな。」
「アトレス・ガクロンも、子孫を残すために必死になって大木に卵を生みつけただけなんだろうな。
熱に強いのも、今の地球の環境に耐えていくための進化だったんだろうし。」
「なんだよレイジ、えらくまっとうに語るじゃん。」
「でも確かに、ここ最近の地球の暑さは尋常じゃないわよね。
アトレス・ガクロンの気持ち、わかるかも。ですよね、隊長。」
「そうだな。
北極が地図から消えたのも、どれくらい前の事だったか――」


次回 ウルトラマンクラウス 第15話


「裏切りの戦い」
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死者が蘇る―
フィクションのB級ホラー映画の台本ではない。
文字通り、死亡した人間が、永遠に目を閉じたままである筈なのに再び開眼し、肉を求め、さ迷い歩く。
事の発端は宗教団体‘死屍曾孫(シシソウソン)’から1本のビデオテープが送りつけられた所から始まった。
死屍曾孫とは‘死’を信仰とし、崇拝し、そして神とする、いわゆるカルト教団である。
信仰者は皆、真っ白いコートで身にまとい定期的に謎の儀式を行う不気味な集団として世間に知られていた。
しかし、名こそは知られているがその集会所や信者達の身元の正体等謎のベールに包まれた部分が多く、
ある意味侵略宇宙人以上に得体の知れない存在だと人々から恐れられている。
‘死’を尊重するが故、ヴードゥー教のような実在するマイナー宗教の派生とも考えられたが、
目下のところ死屍曾孫の存在はどの宗教団体にも関係無いらしい。と言うか、拒否っている。
いつぞや、死屍曾孫の集団が各々ミイラ化した犬や猫の屍を手に繁華街を横断した事件は記憶に新しい。
話を戻すと、先日、この死屍曾孫からTV局KBCに、謎のビデオテープが送られてきた。
テープの内容は、真っ白な部屋の真ん中に、男が仰向けに倒れている映像から始まる。
男はムクリと立ち上がり、ノロノロと歩き回り始めた。別段変わった所は無い。
ただし、その男の胸の心臓部分にポッカリと空洞が開いてる所を除けば。
数分後、映像は切り替わり、「死屍曾孫、死し者に命与えし―」とメッセージが流れ、映像は終了した。

KBCはこのビデオテープの内容を悪質な悪戯だと判断…いや、そう信じ、テープを焼却処分した。
しかし、後日この映像が何者かの手によってネット上で流出されていたのだ。
瞬く間にこの謎の映像は話題となり、映像専門家やその手のマニアの協力による細かい検証結果、
‘この映像に合成・CG処理は一切加わってない’と満場一致したのだった。
そこからは怒涛の勢いであらゆるメディアで‘死屍曾孫、死者復活か!?’と取り上げられ、連日騒然となった。
怪獣がぽこぽこ現れるご時世でも、‘死人が蘇り、歩く’のは異例だった。
フリップ星人の仕業だ、と唱える者も多いが、フリップのアプローチとしては妙に地味だし、
何より当のフリップ本人はバルキーのまっずい手料理を食べて体を壊し深海アジトで寝込んでいる最中であった。

そして―事件は起きた。
映像の騒ぎ以来死屍曾孫の集団が毎日のように各所の街に出没し、
‘我等、命、操りし―’とぶつぶつ呟きながら街中を徘徊して回るものだから、人々の不安は悪化。
事態を重く見た警察隊が出動し街を徘徊する死屍曾孫の集団を力ずくで逮捕しようと信仰者達に触れた瞬間、
警察官達は次々と気を失って倒れてしまった。発砲許可もおり、警察隊は拳銃を構えたが、
何故か拳銃が次々に壊れ、抵抗も出来ぬまま警察隊は全滅、死屍曾孫の集団は何処かへと消え去ったのだった。


ウルトラマンクラウス 第15話 「裏切りの戦い」

ゾンビ 蘇生

―A&R日本海海上基地―

「嫌ですよ隊長、あの集団だけには絶対関わりたくない!!」
「しかしなぁ、ナオキ。個人の依頼ならともかく、これは警視庁から直々の依頼なんだ。断るわけにゃいかん。」
「じゃあなんですか、今回の事件にもナントカ星人とかナントカサウルスとかが絡んでるってんですか!?」
「それを調べるんじゃないか。死屍曾孫事態、以前から謎のベールに包まれてた集団だしな。」
「あの教団って3年前に初めて存在が確認されたみたいなんですよ。フリップ星人襲来よりも以前の話です。」
「今回はあの象鼻宇宙人はシロだな。やってる事が陰湿すぎだ。」
「…ふぅん。普段なら怪獣出現、よし出動となる所だが……今回は特殊だな。どこから手をつければいいやら…。」
「とりあえず、またあの連中がどこかの街に現れたら即出動、って事にしませんか?」
「俺は嫌だぞ俺は嫌だぞ俺は嫌だぞ昨日はカレーもチャーハンも大福も食ってねぇぞ食ってねぇぞ食ってね」
「落ち着けナオキ、何もお前が行けとは言ってない。…疲れてるんじゃないか?
もう寝たらどうだ。それに明日は非番だろう? ゆっくり休養して来い。」
「…そーさしてもらいやーす…」
若白髪の髪の毛をボサボサ掻きながら、ナオキは司令室を後にした。

「なんか変ですね。めんどくさがり屋なのはいつもの事ですけど…。」

―ナオキ個室―

ベッドにゴロリと横になったナオキは、ベッドの横にある本棚からアルバムらしき冊子を取り出し、
1枚の写真を手にしてはぁっとため息をついた。
その写真の内容は、苦笑いをしているナオキの横で、満面の笑顔でグッドラックサインをする若い男。
若い男の方は、白いコートを羽織っている。
ナオキは写真をまじまじと眺めている内に、いつのまにやら深い眠りについた。

―翌日―

あまりコーディネートが良いとは言えない私服姿で、ナオキは街の喫茶店で1人コーヒーを啜っていた。
そこに、1人の男が喫茶店に入店した。

「おーッス! 兄貴、お久っ!」
「よぉ、タカユキ。まぁ座れや。…で、調子はどうよ。」
「どうよって、そんな事言わずながもっしょ! ニュースとか観てみろよ、連日話題沸騰だぜ。」
「ったく、お前はなぁ…」
「やめよやめよこの話題は。それよかさ、そっちはどうよ、特にルイちゃんとの仲とかさぁ。」
「…は?」
「A&Rの同僚のスズミヤ・ルイだよ! 写真見たぜ、そこそこ良さそうじゃん。」
「また人のケータイにジャックしたのか? ふざけんなよ。…あー、頭痛がしてきた。」
「まぁまぁ。で、どこまで進展したんだよ。 ん? ん?」

シゲノ・タカユキ。
名前が示す通り、シゲノ・ナオキの実の弟である。調子が良い所は兄に似てるどころかそれ以上らしい。
2人は外から見れば仲のいい兄弟の図だが、実際はそうでもない。会話する2人の顔は何処かぎこちない。
会話そのものは弾んでいる様だが、いつ決壊してもおかしくない雰囲気ではある。

―その頃 某ゴーストタウン―

高齢化社会の煽りで過疎化が進んだ結果なのか、
建物は乱立しているが人気は一切無いこの街に、エーアールαとβが飛来した。
子供達の楽しげな声など聞こえない運動公園に機体を着陸させ、レイジ、シュウ、ミスカの3人は降り立つ。
イレギュラー反応が確認されたこのゴーストタウンに、一体何があるのか。
3人は公園を出て商店街の方へ歩む。光弾銃ブレイクシューターを構えながら、慎重に。
先程まで晴天だった天候は何時のまにやら曇りへと変わり、昼なのに辺りは薄暗い。
しばらく歩いていると、‘ようこそ太陽商店街へ!’と書かれた看板があった。商店街の入り口だ。ただし、
威勢の良い魚屋も商売上手な八百屋も立ち読みお断りの本屋も品揃えの良いビデオ屋も愛想の良い電気屋も無いが。
野良猫の気配すらしない。どの店もシャッターで固く閉ざされており、閑古鳥が鳴くにも程がある。
と、1軒だけシャッターが開いている店が。玩具屋だ。しかし、営業しているわけがないが。
荒れた店内で、置いてけぼりにされた薄汚れたアントラーの人形を拾うレイジ。虚しい。兎にも角にも、虚しい。
その時、店の奥からゴトリと音がした。とっさにシューターを構える3人。
シュウが冷汗を掻きながら、ゆっくりと奥へと入る。直後、シュウが大声を上げた。人がいる、と。
衰弱しきってるのかガリガリに痩せたその老人を店外へ運んで寝かせると、応急処置を始めた。
脈は無く、心音もせず、瞳孔もアサッテの方向へいっている。医学上では死亡、でなければ仮死状態である。
しかしシュウは、俺が見た時は間違いなく動いていたと言い張った。ならば、蘇生させるしかない。
シュウは一端道具を取りにエーアールに戻り、レイジとミスカはそのまま蘇生処置を行った。
ミスカが心臓マッサージを試みたところ、老人が手をピクリと動かした。

『下がれ、レイジ!!!』
突如、レイジの頭にウルトラマンクラウスの声がよぎった。ミスカを引っぱって瞬時に老人から離れるレイジ。
ミスカが何をするのと言い放とうとしたその直前、老人が考えられない速さでスタっと立ち上がった。
目を丸くするミスカに、シューターを構えるレイジ。殆ど生命活動停止していた筈の老人が、2人を睨む。
睨む、と言う表現は不適切かも知れない。何故なら、老人の目は瞳が無く真っ白だったからだ。
老人が手をぷらぷらと揺らめかせながらうめき声を発し、2人にノロノロと迫る。
大量の冷汗を掻きながらシューターを構えるレイジを盾に、えも言えない恐怖に脅えるミスカが後退る。
と、後退るミスカの背中に、何かが当たった。ミスカは、後ろに振り向くと同時に悲鳴をあげ、その場に転んだ。
ミスカの目に飛び込んできたのは、両腕が見当たらないボロ布の男。老人と同じくうなり声を上げている。
瞬時にレイジはミスカを起き上がらせ、2人で揃ってエーアールのある運動公園へ急ぐ。
公園に戻ると、そこではシュウが不気味な怪人集団に襲われ、必死に抵抗していた。
2人の存在を確認したのか、乱戦中のシュウは怪人達の一瞬の隙を突いて2人の元に駆け寄った。
シュウの説明によると、道具を取りに公園に戻った途端、
どこから沸いたのか怪人の群れが襲い掛かってきたと言う。
怪人達は商店街で遭遇した瞳の無い老人や両腕の無い男と同じ類らしく、皆白目をむいてうめき声を上げている。
エーアールへの道を閉ざすかのように、怪人達がノロノロと3人に襲い掛かる。移動動作は速くは無いらしい。
その姿、まさに―ゾンビ。
兎に角、群がるゾンビ共に敵う勝算も無いため3人は公園から逃げ出した。

しかし、そのまままかり通りそうに無かった。ゾンビの無数の集団が、東西南北から沸いて出てきたからである。
3人はシューターを構えて牽制させるが、ゾンビ達はまったく動揺しておらず、ついには囲まれてしまう。
本部に連絡する余裕もなく、囲まれた3人はただただ恐怖に脅えるしかなかった。
ゾンビ達の中には白目をむいてるだけでなく、眼球そのものが無い者や歯が酷く欠けている者、
さらには歯を剥き出しで涎を垂らしながら片腕が欠けた者もいる。本来なら美女だっただろうに。
いよいよ隙も無くゾンビ達に囲まれた3人は、そのままゾンビの絨毯に飲み込まれ、姿を消してしまった―

だが、ここでおめおめとゾンビの餌食なんぞになる主役では無い。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!! クラァァッッウゥゥゥッス!!!!!!!」
ゾンビの絨毯から光が放たれ、光の爆発が起こり、ゾンビ達は吹っ飛んだ。ウルトラマンクラウス、降臨。
ただし、人間と等身大サイズである。ここで巨大化すればシュウとミスカも巻き込みかねない。
クラウスは最寄にいたゾンビ達を殴り飛ばし、まずは2人を探す。
悲鳴が聞こえた。クラウスは束になってるゾンビにまとめてクラッシュウムカノン(極最小出力)で吹き飛ばし、
気絶していたミスカを抱いて飛翔、公園のエーアールに乗せ、今度はシュウを救出に再び舞い戻った。
右腕アッパーで片腕の無いゾンビを吹き飛ばし、そのまま腕に光の剣・クラッシュウムソードを装備、
ゾンビ達をまとめて叩きのめしながらシュウを探すが、いくら戦えどゾンビの数は減らず、
エネルギーもかなり消費し、カラータイマーが鳴り始めた。
しかし、そこでようやっと倒れているシュウを発見、シュウを担いで飛翔、エーアールへと戻ったのだった。

―同時刻―

「…何度も言ってるじゃん、やめらんないんだよ。やめたくても。今日ここに来るのだって苦労したんだぜ。」
「裏切れ。俺が全力でサポートしてやる。あんな気の狂った場所にお前がいる理由なんぞ無ぇ、裏切れ!」
「無理だって言ってんだろ、解ってくれなねぇなぁ、兄貴はよぉ!」
「解ってたまるか!! だからやめろっつたのに、何でお前はあんな…」
「待て、ケータイだ。…もしもし? はい、そうです。はい…はい。…すぐに行きます。
……悪い、兄貴。急用が出来た。…じゃあな。」
「待て! 行かせねぇぞ、このままじゃあお前…」
「いいのか? 俺達に下手に手を出したら兄貴だけじゃなく回りの人間もタダじゃすまないんだぜ?
兄貴の想い人もな。A&Rであろうがなかろうが関係ねぇんだよ。…じゃあな。」
「っく…!」
余韻を残しながら、タカユキは喫茶店を後にした。
無理やりにでも行かせたくなかったナオキだが、他の者を盾にされたのではどうしようもない。
しかし、この後に彼は体を張ってでも弟を止めなかった事を悔いに陥る事となる…。

次回

「Shaun of The Living Dead 」
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