1話・流星降臨 前編

・大蜥蜴(とかげ)
・古代両棲怪獣ヴァドス 登場


真黒な用紙に所々白い絵の具で点を書いたような空。
すっかり太陽が沈んだ今、広い大海原を照らすのは星星の光のみだった。

そんな暗黒の海を、一艘の船がのんびりと進んでいた。
漁船だろうか、船の上は様々な道具でゴチャゴチャになっていた。
「〜〜〜ふ〜んふふ〜ん♪」
船を運転する初老の男性は、楽しげに鼻歌を歌っている。
今日ももう少し先へ進んだところで、大量を願いつつ漁を始める予定だ。
「そろそろ始めるかな。おい!」
「あいよ」
一声で息子と思われる若い男が、忙しそうに動き始めた。
「あ〜眠い……何でこんな暗いうちから動かなきゃ……」
だらだら文句を述べながらも、あんまり時間をかけると怒鳴られるので準備を急ぐ。
そして道具が見当たらないのに気づき、父親に尋ねようと操縦室の方を向いた……

その瞬間、何か鈍い音が鳴り船体が激しく揺れた。
あまりの揺れに船から落ちそうになる。
「ちょっと親……じゃなくて船長! 何やってんすか!」
流石にこれは我慢できず、大声で文句を言う。しかしすぐに怒鳴り返された。
「しらねぇよ! 俺は何もしてねぇぞ!」
「何もしてないって、じゃあなんであんなに揺れ……」
言葉を言い終わらないうちに、再び船が揺れた。しかも今度はさっきより強い。
「うわぁぁ!」
バランスを崩して転倒する。それでもまだ揺れは続き、今にも転覆しそうだ。
「何だってんだ畜生!」
息子の方は這いつくばって、海を覗き込んだ。
だがすぐに頭を引っ込めなければならなかった。唐突に大量の水飛沫が船を襲ったのだ。
それも下からではなく、上から。
同時に猛烈な波が発生、船を赤子のように揺らし始めた。
息子は何が何だかわからないまま、水を払って飛沫が飛んできた方を見た。
そこには何か、とてつもなく大きな物体が存在していた。微かな光に照らされ、少しだけその正体が見える。

蒼い、ゴツゴツとした皮。巨大な腕のようなもの。そして頭上高くで爛々と光り輝く目玉。
「化――」
物、と続けようとした息子ではあったが、その言葉が口から出ることは無かった。
何故なら1秒も経たぬうちに、巨大な物体が振り下ろした腕によって船は真っ二つに叩き折られていたのだから。


――同時刻、宇宙

地球の周囲を、何かがゆっくりと漂っている。
円形ではあるが、月ではない。それよりも遥かに小さかった。
その円形の物体は、急に自身を紅く発光させ活発に動き始めた。
そして暫くの間辺りをさまよっていたが、やがて狙いをつけたように一直線に地球へと向かっていった。

その場所は言うまでも無く、日本。

「起きろ――!」
「うぎゃあぁぁぁぁぁ!」
物凄い悲鳴が金属質な部屋内に響き渡る。そして数秒後に得体の知れぬ轟音が立て続けに起こった。
ベットの下で、男が腹に布団をまだ半分かけながら頭を抱えて悶絶している。
「ってぇな! 殺す気か!」
男は目の前に凶器である放棄を持って堂々と立っている、20代くらいの女に怒鳴った。
しかし女は全く反省してる様子も見せず、キッパリと言い返した。
「さっさと起きないから悪い! ほら早く着替える! そして司令室に行く!」
片手に抱えた服を男に押し付ける。それを受け取りながらも男はさっきとは変わって怪訝そうな顔をしていた。
「司令室ぅ? こんな朝早くからぁ? また何で……」
「捜査以来よ。さっさと来なさい」
めんどくさそうに説明しつつ、女はとっとと部屋を出て行ってしまった。
後に残された男ははぁ、と誰へとも無く生返事をした後、思い出したように慌てて着替え始めた。

渡星斗、23歳。
特殊事件対策専門チーム日本支部、別名火竜隊の新人隊員。
まだ入ったばかりで大した活躍をしていないためか、他の隊員からしばしば甘く見られてしまう。
しかもやる気はあるのだが、いつもから回りしてしまうためせっかく活躍の機会があっても無駄にしてしまうことが多い。

先程の女は城ヶ咲カゲリ。
星斗とは打って変わって火竜隊の超エリート。
エリートと言うとどこかプライドが高く、高圧的な態度を取りそうな感じがするが彼女はまったく違う。
どんな人にでも親しげに接することができ、星斗ともすぐに打ち解けた。
ちなみにお嬢様だったりもする。

「事件ー!」
着替え終わってないながらも大慌てで司令室に駆け込む星斗。
そこにはカゲリの他、3人の人間が座っていた。
「遅いんだよ、さっさと座れ」
そう言ったのは、やたらチャラチャラした服装の男。見方によってはヤンキーにも見える。
ちぇっ、と舌打ちをしつつも座る星斗。
それを見届けると、一番奥に座っていた男が立ち上がり、喋り始めた。
「いきなりの召集、すまない。だが今回、ここのところずっとなかった捜査以来が警察から来た」
「一体どんな内容なんです大野隊長!」
今度こそ成果を上げてやろうと意気込む星斗の目は爛々と輝いている。
大野といわれた男はそれを軽くスルーしながらモニターを指差した。
「これを見てくれ」
モニターには日本の地図が映っている。その上の方――丁度、オホーツク海の付近に無数の赤い点がついている。
「近頃、航行中の船が突然行方不明となる事件が相次いでいる。これはその船が消息を絶った場所を示している」
「全部オホーツク海に集中してますね」
いち早くその異常さに気づくカゲリ。隊長は満足そうに頷いた。
「そうだ。上の方もそれに気づき、今回我々に調査命令が下ったというわけだ」
一息おいて、続ける。
「今回は空からの現場調査を行ってもらう。今から20分後、ぴったり七時に出撃する。遅れるな!」
「「「了解!」」」

というわけでオホーツク海域の調査をすることになった火竜隊。それぞれ“ムーン”、“スター”、“フェニックス”と名づけられた専用の戦闘機に乗って現場へと向かう。
何故調査に『戦闘機』で行くのかというと、今から20年ほど前当時の対策チームが怪事件の調査に行った際、“怪獣”と呼ばれる存在と遭遇、全滅に近い大打撃を受けたためだ。
それ以来、火竜隊のような特殊チームは怪獣対策として武装することを特別に許可されたのだ。

「ぅお〜し、絶対に手柄をたててやる!」
“スター”の機内で一人、意気込む星斗。今日は久々の命令ということもあってか何時にも増して張り切っていた。
……が、
「無駄なことはよしときな。足手まといになるだけだ」
すぐ隣を飛行する“ムーン”からの通信。冷ややかな声が聞こえてきた。
先程、星斗が司令室に入った際に文句を言っていたヤンキー風の男の声だ。
「何ぃ! もっかい言ってみろ!」
「あぁ言ってやるよ。あ・し・で・ま・と・いになるだけだっての」
「むがー!」
興奮する星斗をよそに、実に冷静なこの男。

――新堂ハヤト。
カゲリと同期のメンバーにして、彼女に勝るとも劣らないエリート。
しかし性格はプライドが高く、他人を見下す傾向が強い。
そんなためか新人で、あまりパッとしないという見下されそうなオーラを放つ星斗とは度々激突する。

「喧嘩しない!」
そんな2人の間に星斗の前に座るカゲリが仲裁に入る。
最早、この一連のやり取りは見飽きるほど頻繁に起こる行事となっていた。

そしてそうこうしているうちに、目的の海域が見えてくる。
「低空飛行に切り替えます」
“フェニックス”からの通信だ。そしてすぐ後に大野からも入る。
「近辺の島々もくまなく調べろ。少しでも怪しいと感じたら上陸しても構わん」
「了解」
高度が徐々に下がっていく。それにつれて雲で白く濁っていた海も青みを帯びてくる。
星斗は誰よりも早く異変を見つけるべく、窓に顔をべったりつけて下を見下ろした。
他の機体も各自調査に入る。

――30分後

今のところ、特に怪しい点は発見されていなかった。
船の残骸も見つからず、これといって変な島もない。
「別に何もねぇじゃん」
不満そうなハヤト。手柄をたてたいという思いは星斗と同じだ。
「そうね……」
カゲリも同意する。消息を立った地点が重なったのもただの偶然ではなかったのかと思えてくる。
だが、その時。
「――光ってます!」
再び“フェニックス”からの通信。
「あぁ? 何が光ってるってんだ。遠野、テメェまたデタラメを……」
「デタラメじゃない、確かに光ってる!」
新堂の言葉を遮って星斗が叫ぶ。
無数にある島々のうち一つが、時通り青白く光っているのだ。
「本当、あれは一体何?」
物珍しそうにカゲリが声を上げる。
「わかりません、とりあえず着陸してみましょう……」


ゆっくりと着陸していく三機の戦闘機。その騒々しさに森から多数の鳥が飛び立っていった。
星斗はここでもいち早く降り立った。しかし周りを見渡しても何も見当たらない。
「どこら辺が光ったんだろ?」
「もう少し奥だったと思います。行ってみましょう」
ハヤトに遠野と呼ばれていた小柄の男が先陣を切って島の中へと入っていく。
星斗も慌ててそれについていった。

やがて一向はうっそうとした森に入る。
決してこの地域は温暖な地方ではないが、それでもこんな雰囲気となると熱く感じてしまう。
「暑っ苦しい所ね」
困ったようにカゲリは呟く。あまりこういう場所は好きではないようだ。
しかし森は一向に終らず、まだまだ続いていきそうだ。

ふと、星斗が振り向く。
「どうしたの?」
「いや……なんか今ガサゴソって音がしたような……」
「はっ、空耳だ空耳」
そうだよな、と自分に言い聞かせ、再び歩こうとする星斗。しかし、
「! 危ない!」
物陰から何かが、勢いよく飛び出しハヤトを襲った。
星斗は大声を出して彼を突き飛ばす。

襲撃者の正体――それはかなり大きなトカゲだった。
「こいつっ!」
自分が遅れを取ったことに腹を立ててか、躊躇せずトカゲに携帯用のレーザーショットをぶっ放すハヤト。
トカゲはそれを間一髪避け、元いた森の中へと戻っていく。
「逃がすか!」
再びハヤトが巨大トカゲに狙いをつけた、その瞬間。

突如、辺りに方向が轟く。低く、唸っているような感じだった。
「!? 今のは……」
「こっちです!」
遠野が飛び出す。一行もそれに続いて走り出した。
やがて森は終わり、開けた場所に出る。
そこは岩が露出し、草は僅かしか生えていない荒地だった。
「さっきの声は一体なんだ!?」
「確かこっちからしたような………! あそこを!」
遠野が少し先に聳え立つ山を指した。そこは青白く光っている。さっきの光の正体か。
そしてその発光地点から、何か、とてつもない大きさの物体がのっそりと起き上がった。
誰かが呟く。

「怪獣――!?」

その巨大な物体――それは紛れも無く“怪獣”だった。
青い皮膚を纏い、胸と頭部の所だけは岩石のようなもので覆われている。そして頭部には青白く発光する角が。
怪獣は再び咆哮し、寝起きの運動とばかりに周りを破壊し始めた。

「かかかか、怪獣ぅぅ!?」
先ほどまでの意気込みはどこへやら、すっかりビビッてしまう星斗。
「畜生! どうすんだ!」
ハヤトが叫び、カゲリが知るかと返す。
その間に割って入るように遠野が叫んだ。
「とにかくフェニックスのところへ戻りましょう!」

駆け出す4人。怪獣は彼等を発見したのか、叫びながら追ってきた。
「追ってくるんじゃないわよこのストーカー!」
カゲリが振り向き様にレーザーショットを放つ。それは怪獣の頭部に命中したが、全く効いてなさそうだった。
「馬鹿が、あんな堅そうなとこ撃っても効くか!」
今度はハヤトが、怪獣の足を狙って撃つ。今度は少しの間動きを止めたが、またすぐに歩き始めた。
「なにぃ!?」
愕然とする。カゲリは面白そうに叫んだ。
「アンタのも効いてないじゃん!」
ハヤトは何だと、と言い返そうとしたが星斗に止められる。
と同時に遠野が叫ぶ。
「喧嘩してる場合じゃないです、さっさと走ってください!」

しかし怪獣との差はどんどん縮まっていき、今にも追いつかれそうだ。
「どうすんだ!」
「………」
いきなり、星斗が怪獣の方を向いてレーザーショットを構え、立ち止まった。
「!? 何してんの!」
カゲリが怒鳴る。しかし星斗は動こうとはしない。
「ここは俺が引きつける! 早く行ってくれ!」
いきなりの事に少しだけ呆気に取られる三人。しかしすぐ我に返り止めようとする。
「馬鹿か! 死ぬぞ!」
それでも星斗は聞かない。やがて怪獣にレーザーを放ち、海岸とは別方向へ走り始めた。
怪獣は星斗に気を取られ、そちらへと方向転換する。
「何やってんだあの馬鹿! かっこつけやがって!」
思い切り拳を木に叩きつける。しかしもう星斗は見えない。
「星斗……」
こうなった以上、カゲリには彼の無事を祈るしかなかった。


「おらおら、こっちだぞ怪獣!」
先ほどから走ってはレーザーを撃ち、また走っては撃つの繰り返しだ。
正直かなりしんどい。このままでは確実に疲労して倒れこんでしまうだろう。
内心後悔していたが、最早どうにもならない。
とにかくは限界まで走るしかない――

と思ったとき、色々考えて走っていたせいか足元の岩に躓いてしまう。
「(やばっ!)」
気づいたときにはもう遅く、星斗は盛大に転んでいた。
「っつぅ……」
痛みにしばし悶絶する。しかし後ろから聞こえた咆哮ですぐに我に返った。しまった、今は追いかけられていたんだ。
だがすでに怪獣がすぐそこまで迫っていた。
後一歩怪獣が踏み出せば星斗は肉塊と化すだろう。だが、起き上がれない。
「うわぁぁぁぁ!」
もう駄目だ、と思い目を瞑る――

――刹那、周りの音が急に途絶えた。
それでも暫くの間は眼を開けることができなかった星斗だが、やがて目を開けて辺りを見回す。
いつの間にか、変なところに来ていた。
「ここは――天国?」
あの状況で自分が助かるはずが無い。その思いが星斗にまずそんな想像をさせた。
しかしすぐにその考えは否定された。何故なら、急に何者かが彼に語りかけてきたのだから。

“違う。”

「誰!?」
慌てて身構える。しかし謎の声は落ち着いた口調だった。

“慌てなくていい。私は、君の味方だ。”

味方、と言われてもいまいちピンとこない。
そもそも死者に仲間なんているのか。
「いまいち意味がわからないんですけど……あなたは?」
何が何だかわからず、とりあえず尋ねてみる。以外にも返答があった。

“私はM78星雲から来た、宇宙人だ。”

「宇宙人?」
ついに自分はどうかなってしまったのか。宇宙人なんているわけが……

“まぁ、そう簡単には信じられないだろうがね。”

宇宙人の全てを見越したような口調に、少し戸惑う。
その戸惑いを解消するためでもあったが、もう一つ質問をぶつけてみた。
「あなたはここへ何しに?」

“今この星には、大いなる災いが迫っている。私はその災いからここを守るために来た。”

「災い?」
一体何のことなのか。宇宙人は先ほど星斗を襲った怪獣――ヴァドスもその災いの一部だという。

しかしまたここで別の疑問が出てくる。
何故自分を救ったのか、ということだ。

“私はこの地球上では僅かな時間しか行動することが出来ない。故に、ここで活動するためには地球人の協力者が必要なのだ。”

協力者、つまり自分はそれに選ばれたということか。
しかし、どうやって協力すればいいのか?

“私が君に憑依し、普段は君の姿で行動する。そしていざという時に君は私となり、悪しき災いから共にここを守るのだ。”

憑依、と聞いて少し顔をしかめる。
そうしたら、自分の意思はどうなるのか。
しかし宇宙人はそこまで見越していた。

“安心したまえ、たとえ私が君に憑依しても、お互いの意識は残ったまま。変な言い方だが二心同体というやつだ。”

とりあえずは安心してもいいらしい。
「――共に地球を守る、か」
悪くないかもしれない、と星斗は思う。
決して英雄になりたいからではない。ここは、地球は、自分にとっても大切な場所だから。

「やってみる」

星斗ははっきりと、そう言った。宇宙人の満足そうな声が聞こえる。

“それでこそ、渡星斗だ。ハッハッハッ……。”

宇宙人は続ける。

“まずは練習といこう。奴――ヴァドスを倒しに行くぞ。……っと、その前にこれを受け取りたまえ。”

突如、星斗の前に2つの腕輪が現れた。
それぞれ、赤と青の宝石がはめ込まれている。
「これは――」

“それは君が私になるために必要なものだ。
私になりたいと君が真に思ったとき、この2つの腕輪の宝石を接触させたまえ。そうすれば、君は私になれる。”

「宝石を、接触ねぇ」
腕輪をはめながら色々と弄る。ふいに宇宙人が言った。

“では、始めようか”

それを聞いて星斗は慌てて尋ねる。
「あなたの名は?」
暫くの間返答が無かったが、やがて宇宙人は言った。

“そうだな……。 メテオ、ウルトラマンメテオとでも呼んでくれ。

宇宙人の声は薄れ、やがて消えた――。
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2話・流星降臨 後編

・古代両棲怪獣ヴァドス 登場


カゲリは必死に星斗を探していた。

あの後、何とか海岸までたどり着いた3人は速やかに乗り込み、ヴァドスの元へ急いだ。
やがてヴァドスは発見されたが、星斗の姿はどこにも無かった。

「どこ行ったのよ……」
最悪の予感が頭を過ぎる。それを振り払って、カゲリは捜索を続けた。


「おらおらおら! さっきはよくも追い回してくれたなこのトカゲ野郎!」
怒りに満ちた声を発し、ハヤトはヴァドスに猛攻を開始した。
頭部の周りをぐるりと一周するように飛行しながらの攻撃。ヴァドスにとっては蚊みたいなうるささだったであろう。
「落ち着いてください、落とされますよ!」
遠巻きに援護射撃をする遠野が忠告する。ハヤトの攻撃を見ているとこっちまでヒヤヒヤしてくるのだ。
「へっ、うるせぇよ。俺をなめんじゃねぇ!」
しかし全く聞く耳持たず。遠野は諦めて援護に徹することにした。

再び、ハヤトのムーンがヴァドスに突撃する。ヴァドスは右手で払ったが、簡単に避けられた。
そして背後から攻撃を受ける。
「よぉっし、そろそろ止めといくか!」
機体中の全エネルギーをレーザーに集中させていくハヤト。この一撃で終らせるつもりだった。
しかし……
「避けて!」
「なっ!?」
急にヴァドスが口を開いたかと思うと、そこから目も眩む熱線が飛び出てきたのだ。
完全に油断していたハヤトに避け切ることは出来ず、右翼に手痛い損傷を負ってしまった。このまま飛行することは不可能だ。
「くそぉ!」
徐々に高度を低下させていくムーン。仕方なしに、不時着を試みる。
だが、背後からヴァドスが再び熱線を吐こうとしていた。
「ハヤトさん!」
遠野がヴァドスの頭目掛けレーザーを連続で撃つ。とてつもない精密射撃で、どれも一寸の狂いも無く同じ地点に命中していた。
しかしそれでもヴァドスは動じない。想像を絶する防御能力だ。
そしてついに、熱線が放たれた――

ハヤトは覚悟を決めていた。いささか出しゃばりすぎた、罰が当たったんだろうと。
目を瞑り、来るであろう衝撃と痛みに備える。
――しかし、それは何時までたってもこなかった。
ゆっくりと、背後を振り返ってみる……

「なっ!?」

そこには、ヴァドスとは違う、巨大な影が立っていた。
全身が燃えるように赤い、巨人だ。
「こいつは――」
唖然とするハヤトを尻目に、巨人はヴァドスへ立ち向かっていった。

宇宙人との会話の後一瞬視界が真っ白になり、再び色が戻ってくるころには星斗は自分が恐ろしく高い地点でものを見ていることに気がついた。
そして目の前には、ヴァドスが“同じ目線”で立っている。
自分は巨人になっているんだ、と星斗は理解した。そして同時に、自分はこいつを倒さなくてはいけないと言うことも。
宇宙人との約束だ。
「行くぜ、怪獣!」
自分ではそう叫んだつもりが、巨人の口からは“ジュワ”という声となって出て行った。
しかしそんなことは気にせず星斗――いや、ウルトラマンメテオはヴァドスに勝負をしかけた。

まずは挨拶代わりの一発、とばかりにヴァドスの顔を思い切り殴る。
そして怯んだところにすかさずもう一発、更にもう一発と攻撃を加えていく。
しかし突如、ヴァドスが口を開いた。瞬時に危機を察知したメテオはそこから飛び退いた。刹那、白い熱線が放たれ台地を消し飛ばした。
メテオはいったん距離を置いて、再び攻撃を仕掛けた。しかし今度はその拳も止められてしまう。
ヴァドスはメテオの手を掴んだまま、体を捻らせ思い切り投げ飛ばした。
ぐぁ、激痛に苦悶するメテオ。しかしヴァドスは攻撃の手を緩めず、長い尾でメテオの体を何度も叩きつけた。

このまま負けてたまるか、メテオはそう思いつつ何度目かの尾を転がって避けた、そしてすぐにその尾を掴み引っ張る。
ヴァドスはバランスを崩し転倒した。
メテオはどこに馬乗りになり、後頭部を思い切り殴りつける。何度も、何度も。
それに怒ったヴァドスは勢いよく起きあがりメテオを落とすと、振り向き様に熱線を一発。
メテオはこれを慌てて避けると、体勢を立て直し飛び上がった。そして飛び蹴りをくらわす。
よろめくヴァドス。すかさずメテオは飛び掛ろうとする――が。

メテオの胸の辺りにある、今まで青く輝いていたランプのようなものが突如として紅く点滅し始めた。
すると同時に、メテオを耐え難い苦しみが襲う。
「(何だこれは!?)」
星斗の意識が、誰へとも無く尋ねる。すると、メテオの意識が語りかけてきた。

“先ほども言ったが、私は長く地球に留まっていることができない。
その時間は持って約三分! 制限時間が近づいた場合、胸のこのカラータイマーが点滅して危機を知らせてくれるのだ。”

「(ってことはあと少ししか時間が無いってこと……!? どうすれば…・・・ぐぁっ!)」
体勢を立て直したヴァドスが、お返しの一撃とばかりにメテオを尾で殴りつけた。
転倒するメテオに、ヴァドスは熱線を吐きかけてくる。

“仕方が無い、星斗、私の真の力を使え!”

「真の力――?」
何のことかはわからないものの、何故か自然に体が動いた。
拳を目の前に掲げる。その拳が、徐々に光り輝き始めた。

“精神を集中しろ、星斗。そして大宇宙をまたにかける流星を思い描け。今君の腕には、その力が宿っている!”

「俺の手に――流星が――」
メテオの腕は一段と強く輝き始めた。ヴァドスも、ハヤト達も呆気に取られてその様子を見ている。
そしてメテオの意識が叫んだ。

“振りかざせ、星斗! 流星を飛ばせ!”

光が最高潮に達する、その時。メテオは勢いをつけてその腕を振りかざした。

「メテオニック・ウェーブ!」

メテオの腕から離れた光は、一直線にヴァドスへと向かう。その姿は、まさしく流星そのもの。
ヴァドスは動かない。否、動けないのだ。その圧倒的な力の前に、ただ立ち尽くすのみ。
そして――

光がヴァドスを飲み込み、粉々に粉砕した。

「(終った――)」
そう思ったとき、星斗はその場に倒れこみたいくらいの疲労感を味わった。
同時にメテオの体も光の粒子となって消えていく。
薄れ行く意識の中、星斗は、メテオの声を確かに聞き取った。

“よくやってくれた、星斗。私の目に狂いは無かった。ハッハッハッハ……”



「何だったんだ……」
無事、不時着に成功したハヤトは巨人と怪獣の激闘の一部始終を見終わって、呟いた。
まるで夢のような出来事。しかし、頬をつねってみれば確かに痛い。現実だ。
暫くの間、その場に立ち尽くしていたハヤト。しかし、ふいにあることに気づいた。
「……ってあれ、星斗か!?」
激闘の地の中央に、倒れているのは紛れも無く星斗。どうやら戦いに巻き込まれたらしい。
通信機を引っ掴み、怒鳴る。
「おい! 怪獣と巨人が戦ってた場所に星斗がいる! 何か倒れてるしやばいぞ!」

その通信を聞いたカゲリは、慌てて機首を変更した。
すぐさま知らされた場所に出向けば、確かにそこに星斗が倒れていた。
「星斗!」
機体を着地させ、飛び降りる。そして駆け寄ってみると、星斗の体は不思議なくらい外傷が無かった。
そして息もしている。どうやら無事らしい。
「よかった……」
ホッと胸をなでおろす。上空から遠野が声をかけてきた。
「無事なようですね。とりあえず、早めに基地に戻りましょう」
そうするに越したことは無い。
3人は星斗をスターに載せ、島を後にすることにした。

丁度、日が暮れているころだった。
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3話・流星(メテオ)としての責任

・地底怪獣ゴートゲラ 登場


あれから、3日経った。
意識が戻って直後、星斗は隊長直々に無謀な行動は慎むようにと説教をされてしまった。
いつもなら、何で身を張って仲間を救ったのに怒られなきゃならんのかと文句を垂れるはずだったが、その時は違った。
今、彼の頭の中は殆どがあることで占められていたからだ。

――自分は、ウルトラマンなんだ。

意識が戻ってから暫くはあのことを夢かと思っていたが、隊員から聞いた巨人の話、そして何よりも自分の腕に残る腕輪がそうではないことを示していた。
つまり、自分はとてつもない力を手に入れたことになる。

嬉しいことは嬉しい。しかし、それに伴って押しつぶされそうな重圧が彼を苦しめた。
地球の運命は、俺のこの手にかかっているんだ。そう思うだけで、ぺしゃんこにされそうだ。
「……しばらく、考えてみよう」
あれ以来メテオは何も言ってこない。自分で考えるしかないのだ……。


星斗がウルトラマンとしての責任に悩まされているとき、東京の郊外では異変が起きていた。
「何じゃこりゃあ……!」
その日、いつものように店を開こうと家を出た魚屋の店主は、店の前に来たところで異様な事態に気づき、声を失った。

昨日まで綺麗に整備されていたはずの道路に、中央が盛り上がるようにして亀裂が入っていたのだ。
その亀裂は蛇のように長く続き、結局その全長は10メートルにも達していた。
そのことがすぐさま火竜隊に報告されたのは言うまでもない。

「また事件……ですか」
司令室へと集められた火竜隊の面々。
隊長から事件のあらましを聞いた遠野はため息混じりに呟いた。
「気持ちはわかる。しかし、起きてしまったのは仕方が無い」
しかしそう言う大野隊長自身も、困惑した様子だった。
自分がこの火竜隊の隊長となって以来、一週間も経たずに怪事件が連続して起きるなど今までに無かったことだ。
何か、嫌な予感が頭を過ぎる。
「まぁ〜た怪獣じゃねぇの?」
そんな中、ハヤトは極めて呑気であった。
元々この男、暴走族の頭だっただけに非常に自信家である。
たとえどんなことが起きようと、自分に解決できないことは無いと思っているらしい。
「不吉なこと言わないでよね。この前の件だってあるんだし……」
ついこの間、怪獣ヴァドスに追い掛け回されて死線を彷徨ったことが思い出される。エリート中のエリートであるカゲリも流石にあれには参った。
「いずれにせよ、何か危機が迫っていることだけは確かだ」
隊長が立ち上がりながらメンバーを見渡す。その目からはいつの間にか戸惑いが消えていた。
どこまでも切り替えの早い人だ。
「ハヤトに星斗、お前達は現場の調査へ向かえ。カゲリはいざという時に備え待機、遠野はこのまま例の怪獣について調査を続けろ。以上だ!」
それを聞いてハヤトと星斗が同時に声を上げる。
「「えぇ!? 何で俺がコイツと!」」
そして、全く同じことを言っていたことに気づきしばし沈黙する。
「息ピッタリじゃん」
カゲリが笑いをこらえながら言った。

「……ったく、何で俺がテメェと……」
「それはこっちの台詞だよ」
ブツクサ文句を言いながらも、片手でハンドルを握って車を飛ばす。
この車も火竜隊専用であり、“スパーク”と呼ばれている。

しばらく車を走らせていると、近未来的な都市からちょっと昔の街といった感じの風景に変わっていった。
「この辺のはずだが……」
周りを見渡すが、特に変わった様子は無い。皆いつも通り生活しているようだが……
「あそこだ」
星斗が指差す。その先には数台のパトカーと大勢の人がいた。
怒鳴り声も聞こえる。野次馬と警察が争っているようだ。
「やれやれ、めんどくさい連中だ」
見下すような口調のハヤト。お前も少し前までは同じようなことしてたくせに、と星斗は内心思っていた。
そして2人は現場へと急いだ。


「ひでぇなこりゃ」
道路の惨状を見てのハヤトの第一声はこうだった。
何せ、地震が起きたような有様なのだ。
「昨日までは普通だったんですが、今日の朝見てみたらこうなってて……」
魚屋の店主がダイナミックな動作を加えて説明している。よほど驚いたのだろう。
「ってぇことは夜のうちにこうなったってことか……」
しかしここで、ある疑問点が浮かぶ。
「何で気づかなかったんだ? これだけの有様になるんなら相当地面も揺れただろうに」
魚屋もそれが不思議なんだと言っていた。
「この辺は人が住んでないんです。殆どが店か、空家のどっちかですから。
でも、一番近い人の所だとこっから約100メートル……この程度の距離なら地震がありゃ気づくはずですしねぇ」
つまりその住人も気づいてないってことらしい。謎は深まるばかり。
「わけがわからないなぁ……。とりあえず、基地に戻って報告するか?」
「ちっ、そうるすか」
何もわからないまま、2人は戻ることに。

――夜

結局、例の事件は後日再調査ということになった。
星斗は何か拭いきれぬ違和感を感じつつも就寝することにした。

……しかし、眠れない。
「やっぱ……怪獣のせいかなぁ」
あんな怪現象、怪獣以外に理由があるとは思えない。
だとすればあまり悠長なことはやってられない。下手をすれば街中に怪獣が出現しかねない……。
「ちょっと出かけてこよ」
寝れないのに無理に寝てもしょうがない。
幸いなことに、夜間外出は禁じられてはいない。後で常識を考えろと言われるかも知れないが。
自分のバイクに乗って、一路例の現場を目指す。何かの意思が、星斗にそうさせていた。

やがて現場に着く。昼間に比べて暗いため、良く見えないものの特に異変はなさそうだ。
「やっぱ、心配のしすぎかな?」
頭を掻いて、少し恥ずかしそうに辺りを見回す。
夜の静かな風景は「そうだ、心配しすぎなんだよ」と言ってるようだ。
「……戻るか」
誰へとも無く呟いて、星斗は踵を返した。

……が、刹那、夜空に低い咆哮が轟いた。
「!?」
慌てて振り返る、と、道路が先程までよりもかなり盛り上がっていた。しかも更に盛り上がり続けている。
「な、な、ななななななな!?」
呆然とする星斗をよそに、道路は盛り上がり続け、やがて粉々に吹き飛んだ。
そして中から、のっそりと巨大な生き物が這い出てくる。
後にゴートゲラと名づけられる怪獣だ。
「に、逃げろぉー!」
つい、思い切り叫んでしまった。
そしてこの近くには最低100メートルはいかないと人が住んでいないことを思い出す。
「(ここでメテオになって食い止めれば被害を止められる……)」
そう考えた星斗は、メテオに変身しようとする。
だがしかし、そうなる直前に、メテオになったときの苦しみが蘇ってきた。
特にあの、カラータイマーが点滅したときの苦しみは今でも覚えている。
「くっ……」
中々、メテオになれない星斗。そうしてる間にも、ゴートゲラは4つの足を駆使して進んでいっている。
このままでは住民に被害が出る。しかしそれでも決心がつかない……。

ふと、顔を上げた。すると視界に、人影が見えた。昼間に会ったあの魚屋だ!
「あわわわ……」
すっかり腰を抜かして、その場から動かない。あのままでは……!
「逃げろ!」
しかし魚屋は動かなかった。恐怖で体が硬直しているのだろう。
もう、迷って入られない。
星斗は建物の影に入って、2つの腕輪の宝玉を重ね、叫んだ。

「メテオーッ!」

夜の大地に降り立つウルトラマンメテオ。
今にも魚屋を踏み潰しそうだったゴートゲラは、ゆっくりとこちらを向いた。
そして咆哮、向かってくる。
「(来い!)」
メテオは身構え、ゴートゲラの突進を止める。数十メートル後ろに下がりつつも、その体をきっちり掴んだ。
デュワ、とメテオが叫び、ゴートゲラの体を持ち上げ、飛び立った。
そして上空から周りに被害の及ばない、安全な場所を探す。
丁度、ビル建設予定地である広場があったので、そこにゴートゲラを投げ飛ばした。
轟音と猛烈な砂埃を上げて大地に激突する。
メテオもすぐに追って着地した。かなり広めの広場であったが、メテオとゴートゲラがいるだけで殆ど余裕がなくなってしまった。
「(なるべくここから動かないようにしないと……)」
そう考えてるうちに、起き上がったゴートゲラが再び突撃してきた。
メテオはそれを横にかわすと、尾を引っ掴む。ゴートゲラは痛そうな悲鳴を上げた。
そうして出来た隙をついて、ゴートゲラを連続で殴り、最後にとび蹴りをお見舞いする。
しかしそれでもゴートゲラは倒れない。やはり打撃だけでは限界があるようだ。
かといって、ここでメテオニック・ウェーブを使えば周りに被害が及ぶことは必死、それではわざわざ戦う場所を選んだ意味が無い。

と、そんなことを色々と考えていたからだろうか。メテオに隙が生じていた。
それをゴートゲラは見逃さなかった。後ろ足で地面を蹴り、メテオに思い切りたい辺りをくらわす。
メテオは避けることができず、直撃を受けて転倒してしまう。更にゴートゲラはその上に乗って、至近距離から火炎放射をあびせた。
熱さに耐えながらゴートゲラをどけようとするが、中々動かない。
しかも運が悪いことに、ここでカラータイマーが点滅し始めた。
「(ぐぁっ……!)」
耐え難い苦しみがメテオを襲う。そのせいで力が出ず、ゴートゲラを動かせない。
このままでは、やられる……。

そう思ったとき、突如ゴートゲラの頭部の近くで爆発が起こった。悲鳴を上げながらよろめく。
チャンス、と思ったメテオは素早く立ち上がり、辺りを見回した。先程の爆発は、一体……。
「何か騒がしいからきてみりゃ、またあの巨人か!」
フェニックスだ。そして乗っているのは勿論ハヤトだった。
「だがテメェは敵じゃなさそうだから今回は助けてやる。毎回こう行くと思うなよ!」
もし、ハヤトが目の前の巨人が星斗だとしったらためらいも無く攻撃をしてくるかもしれないな、と内心で思った。
しかしそんなこと気にしてる暇じゃない。ゴートゲラは再び立ち直り始めている。
最早時間が無かった。メテオはできるかどうかわからないが、メテオニック・ウェーブを当てるためある方法をとることにした。

ゴートゲラが向かってくる。メテオはそれを受け止め、先程のように持ち上げた。
しかし飛び立ったりはせず、そのままゴートゲラを上へと投げ飛ばしたのだ。
空高く舞い上がるゴートゲラ。メテオはすかさず、上空に向かって腕を構えた。
青白い光がメテオの腕に収束する。
そして星斗の意識が叫んだ。

「メテオニック・ウェーブ!」

腕から放たれた閃光は、真直ぐにゴートゲラへと向かっていき――その体を粉砕した。

その爆発の閃光は、夜の街を明るく照らすのだった……。

「結局、寝てるうちに解決しちゃったのね」
カゲリが面白くなさそうに言った。
「起こしたんですよ、僕。でもカゲリさん一向に起きなくて……」
「起こさなくて正解だぜ、そりゃ。何せカゲリの寝起きの悪いことといったらありゃしない。一撃で象10頭は吹っ飛ばせるぜ」
「何ですって!」
とたんにカゲリとハヤトの間で口論がおき始める。
特にカゲリはハヤトに手柄を持ってかれたのが非常に面白くないらしく、いつになくカッカしていた。
「あーあ……。この分だと当分治まりそうにないですね。どうします星斗さん」
呆れた様子で遠野が星斗に尋ねる。
「ほっとけ。俺達には関係ないよっと」
「そうですね」
と小声で話しつつ、こっそりとその場を抜け出す2人。

部屋へと戻る道の中、遠野は再び星斗に尋ねた。
「あの巨人は、僕らの味方なんですかね?」
星斗は一瞬ドキッとしながらも、努めて落ち着いて答えた。
「そ、そうじゃないの? 怪獣2体も倒してくれたし」
遠野はその言葉を聞いて、そうですよね! とどこか嬉しそうに答えて走り去っていった。
その後姿を見送りながら、星斗は聞こえるかわからない言葉をメテオに送っていた。

「俺、頑張るよ。責任にも、恐怖にも負けない。絶対に……」
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4話・白昼の巨神兵 前編

・決戦兵器AU1号 
・怪鳥レドリアル 登場

美しい東京の夜。
東京タワーやその他の高層ビル群がライトアップされて、まるで宝石のようだ。
そんな中、港に一人の老人が佇み、じっと海を見ていた。
「来たか……」
老人の顔は険しい。
その隣に、付き添うようにして小さな犬が寄り添ってきた。
老人は先程とは打って変わって、優しそうな表情でその犬に声をかける。
「行こうか」

老人と犬は、共に歩いて世闇に消えた。


火竜隊基地・司令部。
丸い机に、隊員の面々と偉そうに髭を生やした外人の男が座っている。
恐らく本部の人間だろう。
男がネイティブな発音の英語でなにやら話した。
脇に控える通訳がそれを訳す。
「前回、そして前々回の怪事件の際出現した謎の巨人についての諸君達の意見を尋ねたい……と仰られています」

急にこの地球に現れ、颯爽と怪獣を倒して去っていく謎の巨人。
その報は怪事件専門対策チーム本部にも伝わり、論議を巻き起こしていた。
そしてこの度、その巨人を直に目の当たりにした日本支部の意見を聞いてみよう、ということで本部から人間が送られてきたのだ。

「何とも言えませんが、今のところ我々に敵意は持っていなさそうです」
大野隊長は静かにそう述べる。隊長自身は、まだモニター越しにしかその巨人を見たことは無いのだが。
男は隊長の顔をうかがい、探るようにして目を細めた。
「そう言える根拠は?」
そこで急に、遠野が横から口を出す。
「彼は前回、コードネーム・ゴートゲラの戦いで最初、周りに被害が及ばないよう戦う場所を選んだような動作が確認されています。
もし彼が我々などどうでもいいと思っているならば、わざわざそんなことはしないでしょう」

遠野の口から聞きなれぬ新語が飛び出す。
怪獣が2体出現したことにより、本部は少し困ったことになっていた。
それは怪獣の呼び方。
20年前のように1体だけしか出現しないのなら単に“怪獣”と呼べばそれで済むが、2体以上となると判別に困ってしまう。
そこでつけられた各怪獣の名前、それを総じた呼び名がコードネームだ。

遠野の意見に全くの正論だ、と言わんばかりに星斗は大きく頷く。
しかしその横に座っているカゲリは複雑そうだ。
「でも、完全に味方と断定するにはまだ情報が足りなさすぎるんじゃ……」
それに同意するのはハヤト。
「同感だ。敵とは言わないが、まだ色々と調べてみなきゃわからねぇよ」
「でもお前助けられてたじゃん」
不服な星斗は思わずそう口に出す。しかしハヤトは不思議そうに言った。
「何でお前が知ってるんだ?」
一瞬ギク、と冷や汗を掻く。そして何とかその場を誤魔化そうと適当な言い訳をでっち上げた。
「いや、あの、その時はまだ気絶してなかったんだよ」
暫くの間じっと星斗を見ていたハヤト。だがそれならいい、と言ってそれ以上の追求はしてこなかった。
胸をなでおろす星斗。

「まだ暫くは、様子を見るとするか」
それぞれの意見を聞き、暫く考えた後に男はそう言った。
味方にせよ敵にせよ、情報が足りない以上結論を出すことは出来ない、と。
そして少しの間をおき、男が遠野の方を向く。
「では議題を20年ぶりに出現した怪獣に切り替えるとする。遠野君、頼む」
「は、はい!」
慌てた様子で懐から紙を引っ張り出し、それを読み始める遠野。
「怪獣について私が独自に調査したことと、本部の見解をまとめたものをここで発表します」
「順を追って説明すると長くなるので省きますが、結論を述べますと……」
そこでふぅ、と大きく息をついて続ける。
「今回の2体の怪獣――コードネーム・ヴァドスとゴートゲラが出現した背景には、何者かの力が働いてるようなのです」
「どういうことなんだ?」
真っ先に星斗が質問した。他の者も身を乗り出す。
「まず最初の怪獣・ヴァドス。オホーツク海の孤島で、あれが最初に出現したエリアを本部の調査隊が調査したところ……
明らかに人工物と思われる建造物が地下に埋まっていたのです」
しんと静まり返る部屋。
遠野は続ける。
「そこには大量の栄養分と思われる液体がありました。恐らく何者かが、あそこでヴァドスを飼っていたのでしょう」
「飼っている、ねぇ……」
ハヤトの脳裏に、あの狂ったように暴れるヴァドスの姿が鮮やかに蘇った。
あれだけの奴を大人しくさせ、“飼ってしまう”存在。それは一体何なのか……。
「更に次に出現したコードネーム・ゴートゲラ」
再び話し始めた遠野。ハヤトは考えるのを中断して彼の話に耳を傾けた
「巨人によって粉砕されたあれの残骸、それの中に機械のようなものが発見されました」
そしておもむろに遠野は何かを取り出した。
それは鈍く輝く、銀色の金属。
「これはその機械の一部です。我々がその機械の性能を調査したところ、あれは一種の消音装置だということが判明しました」
消音装置――そう聞いた星斗は以前、あの怪獣によって道路が破壊されても誰もそのことに気づかなかったことを思い出した。
事件が解決してもわからなかったあの理由は、こういうわけだったのか。
「成程……。そうだとすれば、由々しき事態だな」
隊長が頷く。誰がやってるのかは知らないが、放っておくわけにはいかない。

遠野の話を聞いていた男が急に立ち上がった。そして威勢のいい声で隊員達に呼びかける。
「犯人が誰にせよ、これは緊急事態だ。今日から全世界の対策チームも本格的に調査に乗り出すこととする」
そして引き続き君達にも活躍してもらう――とまで男が言ったとき、急にけたたましいサイレンがあたりに響き始めた。
「何事だ!」
隊長の叫びに返すようにして、基地のオペレーターが非常事態を告げる言葉を述べた。
『緊急警報、緊急警報。都内上空に怪獣らしき反応を確認。火竜隊は速やかに出撃してください。繰り返します……』
「言ってるそばから、か」
男が大きなため息をついて言った。訳している通訳の女性も不安そうな表情だ。
隊長が星斗達を見渡し、少し間を開けて叫んだ。
「聞いての通りだ。速やかに出撃して、反応の正体を突き止めろ。いいな!」
「「了解!」」
その場から素早く走り去る星斗。その腕にある宝石が、静かに瞬いていた……。

「こいつ!」
大空を舞う怪鳥・レドリアルの猛攻を必死に避けるハヤト。
今までの怪獣は全て大地を闊歩する鈍重な連中ばかりだったので、こういう音速で飛ぶ怪獣相手は慣れていない。
隙を見てカゲリがスターのレーザー・ガトリングガンを放つが、いとも簡単に避けられていく。
「速い……!」
遠くから精密射撃を試みようとしている遠野も、あまりのスピードに手も足も出ない状況となっていた。
「………」
星斗はスターの後部座席に乗りながら、メテオに変身できないかと考えていた。
しかしカゲリが前にいる以上、それはできない。どうすれば……
「きゃあっ!」
「っ!」
その時、レドリアルの羽から放たれた真空破がスターの羽に命中、それを破壊した。
たちまち高度を下げていくスター。カゲリは必死に制御しようとするが、ちっとも言うことを聞いてくれない。
このままでは墜落してしまう。制御が出来ない以上、不時着も厳しい。
「仕方が無い……星斗、脱出するわよ!」
「! わ、わかった!」
不幸中の幸いというやつだ。脱出してから変身すれば、さほど怪しまれないだろう。
この時だけ星斗は怪獣に感謝した。
少しの合間の後、ボンと鈍い音をたて座席がすっ飛ぶ。
具合がいいことにカゲリと星斗は離れたところに飛ばされた。
すかさず、腕をクロスさせて宝石を接触させる。
「メテオーッ!」
光が星斗を包み、その姿を掻き消した。

静かに大地に降り立つメテオ。
ゆっくりと上を向くと、レドリアルがこっちに向けて咆哮、威嚇していた。
戦闘場所が空中なのは好都合だった。以前のように周りへの被害を心配する必要が無い。
大地を蹴って、レドリアル目掛け飛んでいく。
奴は真空破で迎撃してくる。それを鮮やかに避けると、腹に思い切り拳をめり込ませてやった。
悲鳴と共に口から血が飛び散る。さほど防御力は無いらしい。
「(それなら、一気に勝負をつける!)」
レドリアルの上に回り込むと、その背中を勢いをつけて蹴りつける。レドリアルはたまらず落下していく。
更にそこに追い打ちをかけるように威力を落としたメテオニック・ウェーブを叩き込み、更に殴りつけた。
圧倒的な強さでレドリアルを叩きのめしていくメテオ。相手が弱すぎるのかもしれないが。
「(止めだ!)」
今度はフルパワーで、メテオニック・ウェーブを放とうとする。
これが決まればレドリアルは木っ端微塵に砕け散るだろう。だが、その時……

急に謎の影が両者の間に割って入った。
驚くメテオに容赦なく、光線を放つ影。メテオは避けれず直撃をもらい、墜落していった。
だがその影はメテオをそれ以上追おうとはせず、レドリアルに掴みかかった。
苦しそうにもがくレドリアル。しかしそんなことは気にせず、影はその腕により一層力をこめた。
そして何やら手刀のような一撃を放つと、レドリアルの胴を真っ二つに切り裂いた。
レドリアルは悲鳴を上げる暇も無く絶命し、ただの肉塊と成り果てて地上に落下した。

「(な……)」
呆然と、その影を見上げるメテオ。
先程まで高速で動いていたせいではっきりとしなかったその形がよく見えてきた。

ロボットだ。全身銀色で、洗練されたデザインの巨大ロボット。
それが、静かにメテオを見下ろしているのだ。

ハヤトも遠野もカゲリも、何も手を出せず事の成り行きを見守っていた。
ロボットは静かに着陸すると、メテオに向け手を突き出した。刹那、金属質な声が響く。

『ウルトラマンメテオ確認。コレヨリ、ターゲット消去ヲ開始スル』
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5話 白昼の巨神兵 後編

・決戦兵器AU1号 登場


突如メテオの前に現れた巨大ロボット。
街を蹂躙しながらメテオに掴みかかってきた。
たちまち始まる取っ組み合い。
メテオは何とかして投げ飛ばそうとするが、ロボットの重みと馬鹿力のせいによってできない。
逆に背中に手痛い一撃をもらい、ロボットの足元に倒れこんでしまう。更にそれを踏みつけてくるロボット。
しかしこちらも負けじと、何度目かの踏み付けを転がってかわし足を思い切り蹴る。
ロボットがバランスを崩した所で地面を蹴って体当たりをかました。盛大に海中に倒れるロボット。
「(もうすぐカラータイマーが点滅する……。その前に決着をつけてやる!)」
腕を構え、エネルギーを貯める。メテオの腕が眩しく光り輝いた。
腕を振りかざし、光をロボット目掛け飛ばす。
「メテオニック・ウェーブ!」
眩い光がロボットに吸い込まれていく。
メテオは勝利を確信していた。今までこのフルパワーでのメテオニック・ウェーブに耐え切れた敵などいないのだから。
だが……
「(!?)」
ロボットは健在だった。多少の傷はついてるものの、致命傷とはなっていない。
「(馬鹿なっ……!)」
驚きと戸惑いでメテオの動きに大きな隙が生じる。
そこをついて繰り出された、ロボットのきつい一撃。それはメテオを大きく吹き飛ばし、水面に叩きつけた。
思わずうめき声がもれる。更にそこで、カラータイマーが点滅し始めた。
「(しまっ……)」
そう思ったときには、目の前いっぱいにロボットの巨大な足が広がりつつあった。
慌ててその足を受け止めるが、力が入らない。
このままでは……

刹那、ロボットをレーザーが急襲した。
ムーン、及びフェニックスのレーザー砲だった。
「けっ、かっこよく現れてボロクソに負けてんじゃねぇよ!」
ハヤトが毒を吐きながらもロボットの気を引こうと懸命に邪魔している。
しかしメテオニック・ウェーブにすら耐えたロボットには蚊が刺したほどの痛みだろう。
そうこうしてるうちに、背中の装甲が開き、中から無数のミサイルが放たれる。
「やばっ……!」
ギリギリの所で緊急回避をするが、追尾型のミサイルらしくまだ何発かが追いかけてくる。
それを必死に避けながらハヤトは遠野に向かって叫ぶ。
「遠野! あいつに弱点かなんかはないのか!?」
「今探してます!」
ハヤトに言われるまでも無く、先程から遠野はロボットの内部をスキャンしていた。
しかし何せ今まであまり使ったことが無いものだから、少し戸惑っている。
それでも何とかスキャンが完了した。
「スキャン完了……。弱点は………足の付け根です! 足の付け根を狙ってください!」
「一回言えば十分だ!」
遠野が言い終えないうちにハヤトは行動に出た。
ロボットの攻撃を掻い潜り、足の付け根を目指す。
しかしもう少しというところで弱点を守るように設置された機銃によって羽を損傷、離脱せざるを得なくなった。
「くそぉ!」
パネルに拳がたたきつけられる。
その様子を遠巻きに見ていた遠野は、密かに付け根に狙いをつけていた。
「………」
レドリアルのときのように音速で飛んでいるわけではないので、比較的やりやすい仕事のように思えた。
だがそう簡単にはいかない。またも発射された無数のミサイルがフェニックス目掛け飛んできたのだ。
「……っ!」
仕方なしにその場から離脱するフェニックス。
ロボットは勝ち誇ったような咆哮を轟かせていた……。

だが突如、視界の端から何かが現れると、次の瞬間にはロボットは衝撃で大きく揺れていた。
メテオだ。カラータイマーの点滅はより早くなっているが、それでもまだ立ち上がっている。
メテオの中にある星斗の意識は、先程の遠野の言葉をしかと聞いていた。
奴の弱点は足の付け根。そこにメテオニック・ウェーブを当てられれば……。
しかし、無念にもそんな力はメテオに残されてはいなかった。かといって肉弾戦ではあれを破壊するのは不可能だろう。
最早方法は一つに限られていた。メテオは最後の力を振り絞ってロボットの背後に回ると、その体をがっしりと押さえつける。
そして必死の思いでハヤト達に伝えようとした。今がチャンスだ。ロボットを撃て、と。
気づいてくれるかどうかはわからない。だがこれにかけるしか道は無いのだ。

そして奇跡は起こった。メテオの様子を見ていたハヤトは瞬時に彼の意図を理解したのだ。
「押さえてるうちに撃てってのか……。……おい遠野!」
「言われるまでもないです!」
すでに遠野は動けないロボットに狙いをつけていた。そして機体内の全予備エネルギーをレーザーに充填する。
この一撃に、全てをかけるつもりだった。
ロボットは必死にもがき、メテオを振りほどこうとするができない。背中のミサイルを全弾ぶち当てても、メテオは崩れ落ちないのだ。
そして遠野の指が発射スイッチに触れる。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
フルパワーのレーザーが放たれる。それはメテオニック・ウェーブに勝るとも劣らない光を放ち、真直ぐロボットの足の付け根へと飛んでいった。
絶叫するロボット。最後の抵抗を試みるが、メテオがそれを許さない。
そして――

命中、そして爆発。
ロボットの足は木っ端微塵に吹き飛び、支えを失ったロボットは無念そうに海中に没した。
それを見届けたメテオ。崩れるようにして、光の粒子になって消えていった。

「ウルトラマン?」
隊長が怪訝そうな顔で遠野を見ていた。
「えぇ、そうです」
遠野が急に巨人に名をつけたいと言い出したことは、隊員たちを驚かせた。
ハヤトがけっ、と呆れた様子を見せる。
「何だその子供っぽい名前。もう少しまともなのつけれないのかよ」
それに対し遠野は口を尖らせ抗議する。
「だってあのロボットが言ってたじゃないですか。“ウルトラマンメテオ”って」
そういえば、と横にいたカゲリが納得する。
脱出の際少し傷を負ってはいたが、任務に差し支えは無いようだった。
それよりも重大だったのは星斗だ。どこでこんな傷を負ったのか、まさに満身創痍だったのだ。
本人曰く流れ弾に当たった、とのことだが真相は不明である。
「まぁ、いいんじゃないか?」
隊長は軽くそう答える。
もしかすると今後、怪獣同様第二の巨人とかが現れるかもしれない。そのときに固有名詞はあった方が便利だろう。
「じゃ、決定ですね」
遠野は笑顔でそう言うと、先のロボット強襲事件を調査すべく自分の仕事部屋に戻っていった。
その姿を見送りながらカゲリが呟く。
「結局、あの巨人――ウルトラマンは味方なんですかね」
隊長はわからん、と答えた上で更に付け加えた。
「だが私は、彼が我々にいつか最高の贈り物をしてくれそうな予感がするよ」
最高の贈り物? とカゲリが聞き返す。
しかし隊長はそれには答えず、司令室へと戻っていた。

日が沈み、東京に再び夜が訪れた……。

港で、昨晩と同じように老人は佇んでいた。
あの巨大ロボットが沈んでいる方を見て、どこか悲しそうな表情をしている。
しかし老人は特に何も言わず、世闇の中へとゆっくりとした足取りで戻っていった。
その少し後を、あの犬がてちてちてち、と軽い足音をたてて追っていく。
そして犬も、闇に消えた。


次回予告
突如日本に飛来した円盤。そこから出てきたのは宇宙人!
初めて見る宇宙人に戸惑いを隠せない火竜隊の面々。
彼等は何者なのか、そして地球来訪の目的とは?

次回・「彼方からの来訪者」
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6話・彼方からの来訪者

・科学星人ゼルカド星人 登場


今、この日本で歴史に残る重大事件が起ころうとしていた。

夜、とある小さな町を巡回していた警官が、夜空を高速移動する謎の発光体を発見したのだ。
飛行機かな、と最初は思ったらしいがどうにも違和感があるので本部に連絡。しかし本部の方はめんどくさがってそのまま火竜隊に仕事を回してしまった。
かといってそれだけの目撃情報で動くほど火竜隊もお人よしではない。
この件は特に調査されることも無いまま放っておかれる、筈だった。

しかし再び発光体が第一発見現場から遠く離れた青森県にて再発見。そして何と、近くの田舎町に降り立ったのだ。
こうなると警察本部も火竜隊も黙ってはいられない。
速やかに非常事態宣言が発令され、更には自衛隊も出動。降り立った円盤の周囲にずらりと戦車が並んだ。
上空には火竜隊のスター、ムーン、フェニックスも待機している。

「円盤、円盤ですよ円盤!」
興奮した口調の遠野。大学で宇宙人研究所とか何とか言う怪しいサークルに属していた彼は、こういう話に目がないのだ。
一方、ぐっすり昼寝をしていたときに叩き起こされたハヤトは極めて不機嫌。先程から何も言わず、ただピリピリとした空気だけを伝えていた。
「しかし、本物が出るとは思わなかったわ」
遠野とは正反対で宇宙人とかは絶対に信じないと決めていたカゲリも、目の前に円盤が降り立ってしまっては疑うわけにはいかなかった。
「ねぇ星斗……ってしまった、いなかったんだっけ」
意見を求めようとカゲリは振り向いたが、誰もいないことに気づきあっと手を叩く。
前回のロボット事件での傷が未だに癒えない星斗は、今回基地の医療室で休息中だった。
尤もいつも星斗はアシスタントでメイン操縦はカゲリであったため、悲しいことだが大した影響は出ていない。

一方、円盤着陸地点から数キロはなれた山中。ここでは登山グループが登山の真っ最中だった。
うっそうと茂る森の中を張り切って進んでいく。その足取りは軽やかで、かなり慣れている様子だ。
ところが、少し進んだ先でメンバーの一人が誤って転倒、怪我を負ってしまった。
仕方が無いので怪我人ともう1人付き添いの人間が先に山を下りることにした。
無念そうに見える怪我人。付き添いの人間はそれを慰める。

が、もう少しで麓だといところでいきなり後ろから絶叫が聞こえてきた。
この声は上の方へ登っていったメンバーの一人だ。何かがあったに違いない。
二人は慌てて近くの警察へと飛び込んだ。

2人の報を受け、一応地元の警察が何人かいくことにした。
登山者の1人の案内を受け、山を登っていく。
やがて一向は2人の登山者が登山を断念した地点よりも上に来ていた。
先に向かった連中が悲鳴を上げたとすれば多分ここら辺だ。
しかしそこには何も無い。警察は気のせいじゃなかったのか? と思いつつももう少し先まで調査することにした。

そして数十分後、いい加減誰もが気のせいだったと思い始めたとき、それは突如現れた。
木の影から音をたてずに、まるで幽霊の如くすぅっと現れたのだ。
それは人の形をしているが目や鼻と思える器官が無く、顔面の大半がチカチカと光る発光体によって占められていた。
そしてその肌の色は、鮮やかな紫色。更にその手は鎌の如く鋭くて、指が無かった。
それを見た途端、警官を含めた全員がでたぁぁぁぁ、と素っ頓狂な声を上げて元来た道を戻り始めていった。
一人の警官がその際拳銃を発砲したものの、弾丸は怪人の数メートル手前で急停止、空しく地面に落下した。

去っていく人間達の様子を悠々と見ていた怪人。
彼は何やらゼェゼェという息の切れたような音を発しながら、再び木の影に消えていった。

「宇宙人がでたぁ? じゃ、目の前のアレは一体何っすか?」
せっかくの昼寝タイムを邪魔され、更には目の前の円盤にはターゲットが乗ってないかもしれないと知ったハヤトはもう爆発寸前。
遠野に宥められながら必死に耐えているようだった。
「わからん……。まだ確定情報ではないから、見間違えかもしれんがな」
隊長も困っている様子。円盤着陸後、これといった動作も見せていないことからいつ外に出たのかもわからない。
とにかくもう少し様子を見ることに。このまま動きが無ければ辺りを散策することにしよう。

そう皆が思い、また暫くの退屈な時間を過ごそうと余所見をしたとき、円盤から少し離れたところが輝き始めた。
「!?」
いきなりの事態に唖然とする人々を無視して、光は更に強くなる。
そして、その光は地面を離れ円盤の前に移動、徐々に変形して人の形を創り始めた。
光が止んだとき、円盤の前に立っていたのは50メートルほどもある、巨大な怪人。
もしこの場に先程の登山家や警官がいれば、自分たちが見た怪人と同じ姿であることを発見しただろう。
「何だありゃあ!?」
流石のハヤトもこれには驚いた。先程までの不機嫌さもどこかへすっ飛んでいく。
怪人は、またあの息の切れたような音を発した――その刹那、腕を真直ぐに伸ばしそこから光弾を発射、戦車を破壊し始めた。
「!」
いきなりの攻撃に戸惑う火竜隊。しかし怪人はそんなことお構いなしに攻撃を続けてきた。
たちまちあたりは地獄絵図と化す。たまりかねた火竜隊が、攻撃を始めようとする。

しかしその刹那、怪人が急に人語を話し始めたのだ。
「私はゼルカド星人。ここから遠く離れたゼルカド星よりやってきた」
怪人、ゼルカド星人は続ける。
「地球人よ、我々に降伏せよ。さすれば命までは奪わん。我々が欲しいのは貴様等の命ではなく、この地球なのだ」
「ざけんじゃねぇ!」
ゼルカド星人に対し思い切り悪態をつくハヤト。
いきなり攻撃を始めておいて、地球をよこせだと? ふざけるのも大概にしろ、と怒りをこめて吐き捨てる。
しかしその言葉を聞いてもゼルカド星人は落ち着いた様子だった。
「貴様の気持ちもわかる。しかし、現実を考えてはどうだ? 
私一人でもこの戦闘力。しかも私がちょっとゼルカド星に連絡すれば、私以上の強者がぞろぞろと来るのだぞ?」
そう言われ、ハヤトは黙ってしまう。
火竜隊の総力を持ってすれば、こいつ一人に勝つのは不可能なことではないだろう。
しかし恐らくは倒しきる前に母星に連絡され、ゼルカド星の軍団を呼んでくるだろう。そうしたら、最早手遅れ、成すすべは無い。
かといって、このまま降伏するというのも……。
「隊長! どうします!」
仕方なしに隊長の判断を仰ぐ。しかし隊長もおいそれと命令を下すわけにはいかなかった。
「政府が今緊急閣議を開いている……。怪獣ならまだしも、相手が人語を話す知的生命体となると我々の独断で攻撃するわけにはいかん」
「でも……!」
そんな鈍いことをしていたら、最悪間に合わなくなる。
相手が知的生命体なら、じっと我慢できる時間も限られているだろうから。
再び、ゼルカド星人が話し始めた。
「さぁどうする! 降伏か、抗戦か。我々はどっちでもいいのだぞ!」
まさしくどうしようもない状況だった。
誰もが絶望し、未来を悲観し始めた。

だが、その時。
遥か彼方から別の光が飛来。地上に降り立ったかと思うと、中からウルトラマンメテオが現れた。
「! ウルトラマン……!」
「またきやがった!」
息を呑む火竜隊の面々。一方まだいまいちメテオのことを知らない自衛隊や警官たちは宇宙人の仲間が来た、と大騒ぎ。
しかしメテオはそれを気にも留めず、ゼルカド星人に話しかけた。
「ゼルカド星人。君のやっていることは間違っている。たとえどんな理由があろうとも、侵略行為は許されない!」
飛び出てきたのは星斗の声ではなく、メテオ自身の声。
今いるこのメテオは、星斗ではなかったのだ。

話は数十分前に遡る。
ニュースの速報でゼルカド星人の出現を知った星斗は、メテオに変身しようとした。
しかしそれは敵わず、代わりにメテオの意識が久しぶりに話しかけてきた。

“星斗。今君の体はとても戦える状況ではない。大人しく休んでいるんだ”

しかしそういわれても、目の前の状況を放っておくわけにはいかなかった。
「でも、このままでは……!」
焦る星斗とは逆に、メテオは落ち着いている。
優しく、落ち着かすようにして再び語り掛けてきた。

“心配することは無い。今回は、私が単独でゼルカド星人に話をつけてこよう”

「単独で……!?」
そこで初めて、星斗は腕輪にはめられた宝石が光っていることに気がついた。
メテオは言う。

“ただし、三分経つ前に君の体に戻らなくてはならないから、生き帰りの時間を含めれば実質二分あればいいといったところだがな……”

一分。そんな時間であの宇宙人を何とかすることなどできるのだろうか。
メテオは続ける。

“だがたとえそれでも、やらざるを得ない。星斗、君は『来るべき戦い』に備え、ちゃんと休んでおくんだ”

「来るべき戦い?」
メテオはそれがいつあるのかは私にもわからん、と言ったきりそれに関してはなにも言わなかった。
暫くの沈黙の後、メテオが再び口を開く。

“では、行くとしよう。いいか星斗。くれぐれも動くな”

そういい終えた時宝石が一段と光り輝き、やがて消えた。メテオは行ったのだ。
星斗はああ言われたものの、本当はついてくつもりだった。
しかし、体が言うことをきかない。
くそっ、と漏らしながら星斗は窓を見た。そして痛感する。

「俺は……無力だ……」

「ほう……貴様は……」
ゼルカド星人は巨大な発光体の左右にある小さな目を細めた。
彼もメテオの噂は聞いている。彼の住む、M78星雲のことも。
「それ以上、何も言うな」
メテオはぐっ、と構え、戦闘に備えた。
「よかろう。私も余計な話をしている暇は無いのでね……」
ゼルカド星人も構える。相手が地球人でないのなら、降伏しろとか何とかと言う話し合いは無用。
邪魔者は排除、ただそれだけだ。
「ゆくぞ!」

ゼルカド星人が駆け出す。それとほぼ同時にメテオも。
お互いの蹴りがぶつかり、綺麗なクロス型を表した。足を元に戻したメテオは間髪入れずに拳を繰り出す。
それをガードしたゼルカド星人は一端距離を置くと、先程の破壊光線を放ってきた。
メテオはそれを全弾打ち落とし、レドリアル戦のときも使った威力を低めたメテオニック・ウェーブで応戦。
ゼルカド星人がそれを防御しているうちに一気に距離を縮め、腰の辺りを思い切り蹴った。
苦しげな声をあげバランスを崩す星人。メテオは容赦なく再度キック、次に手刀。最後にとび蹴りをくらわした。
「ぎゃあっ!」
たまらず星人は崩れ落ちる。更に追い打ちをかけようとするメテオ。
だがゼルカド星人の放った破壊光線に当たり、自分も倒れてしまう。
星人はその隙に起き上がり、まだ倒れてるメテオ目掛け手の鎌を振り下ろした。
受け止めるメテオ、だがここでカラータイマーが点滅。力が急激に抜けていく。
「ククク……そういえば貴様は三分しか地球で活動できないのだったなぁ」
「くっ……」
懇親の力をこめて鎌を跳ね返し、起き上がる。
更に再度蹴りをお見舞いし、一端距離をとった。そして腕を掲げる。

「!」
ゼルカド星人の表情が強張る。それを無視してメテオの腕には光が収束していく。
メテオが終わりだ、と叫んで腕を振り下ろそうとした。しかし、
「待て! これが何だか貴様にわかるか!」
星人が取り出したのは、複雑そうな機械だった。
メテオの声はそれを見て焦りを帯びる。
「! それは……!」
星人は愉快そうだ。
「そう、連絡装置。しかも特殊なやつで、壊される瞬間に電波が発信されるというものだ」
つまりは、あれを破壊すれば奴の母星に連絡がいってしまうということだ。
星人は追い打ちをかけるように続けた。
「言っておくが私を倒しても同じことだぞ。フハハハハハ!」
手が出せないメテオ。このままでは時間が来てしまう。
もう、手は無いのか……

だがその時、ゼルカド星人の近くを何かが通り過ぎたと思ったと同時に、あの装置がなくなっていた。
「ありゃあ!?」
「会話内容はこっちにだって聞こえてんのよ!」
カゲリのスターだ。いつの間にかサブアームに機械を掴ませていた。
慌てる星人。
「しまったぁ! ちょ、こいつめ待て!」
「それより自分の心配をしたらどうだ?」
はっとしてメテオのほうを振り返るゼルカド星人。一端消えた光が再び腕に集まっていた。
星人の表情が固まる。
「ま……まて……話せば………わわわわかるぅぅぅ!」
だがメテオは聞く耳持たず。
「どうせ貴様も、人類が降伏した所で結局皆殺しにするつもりだったんだろう? そんな奴が、何が『話せばわかる』だ」
「や……やめろぉぉぉぉぉ!」
ゼルカド星人の叫びも空しく、メテオの腕から放たれた最大パワーのメテオニック・ウェーブは容赦なく星人に激突。
その体を木っ端微塵に砕いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゼルカド星人の断末魔の叫びとともに。

遠く離れた火竜隊の医療室。
そこで黙って外を見ていた星斗は急に腕輪の宝石が輝きを取り戻したことに気づいた。
「! メテオ……!」
メテオは何も答えなかった。だが、星斗にはわかる。
彼は無事なのだ。

「ありがとう」
星斗は聞こえぬ御礼の言葉をメテオに述べ、再び外を眺めた。
季節は冬。丁度、雪の降り始めのころだった。



次回予告
夜の街に噂される『地底人伝説』!
住民からの頼みで星斗とカゲリが調査させられることに。
そして彼等が地底人が出たという洞窟の先で見たもの……
それは巨大な怪獣だった!

次回・「地下800メートルの戦い」
・地底怪獣テレスドン 登場
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7話・地下800メートルの戦い

・地底怪獣テレスドン 登場


「「地底人ぃ?」」
火竜隊基地司令室。その何とも奇妙な指令を聞いて一同は一斉に聞き返した。
「まぁ、そうだ」
隊長も複雑そうな表情をしている。
しかし受けた指令は果たさなければならないので質疑応答もそこそこに概要の説明に入る。
「何でも、今町では地底人伝説なるものが流行っているらしい」
その内容というのは、この地上の遥か下の地下には高度な文明を持った地底人が王国を築いているらしいというもの。
議論は議論を呼び、ついにはそれ専門の研究チームまで出来てしまったほどとのこと。
「けっ! 馬鹿馬鹿しい。何でそんな迷信のために働かなきゃならないんっすか」
心底呆れた様子のハヤト。他の者も口には出さないまでもいまいち信じていなさそうだ。
それは勿論隊長だって同じである。
「私だって噂程度の信憑性で依頼されてはたまらんさ。だが……」
隊長の顔が参ったといった表情になる。そして少しの間を置いて続けた。
「その地底人とやらを実際に見て、しかも被害にあった人がいるとなれば話は別だ」
それを聞いて驚く一同。見ただけならまだしも、被害にまであってるとは。
遠野が身を乗り出す。

「それで、その人はどうなったんです?」
何故かその言葉は楽しそうな響きを帯びている。
しかしそれは気にせず星斗も同じことを尋ねた。
「まぁ命に関わることではない。よほど地底人の姿を見たのがショックだったのか気絶しているだけだ」
なーんだ、とつまらなそうな遠野。この男、少し危険である。
その後頭部をべし、と叩くのはカゲリ。
「で、調査に行って来いと」
隊長はそうだ、と返しながらも全員が行くわけにはいかないとも付け加えた。
「万が一留守中怪獣が出現したりしたら一大事だからな。星斗、カゲリ。お前たちが行け」
「私が!?」
「俺が!?」
いつぞやの時のように、ほぼ同時に叫ぶ2人。
その様子を見て今度はハヤトが噴出した。
「そうだ。まぁそんな危険な任務じゃなさそうだし大丈夫だろう」
隊長もまた随分いい加減だ。しかしこれでも今まで問題という問題を起こしていないのだから不思議である。
あっ、と思い出したように隊長が付け加えた。
「そうそう。今回は地底人の専門研究チームの人に同行してもらう。――どうぞ」
言い終えると同時にドアが開き、靴音を立てながら隊長の横に歩いてきた。
一同はその姿を見るまでの僅かの間、地底人研究チームの人と聞いていかにもなおっさんが来ると思っていた。
だが実際に来たのは……

「上杉サヤカ。歳は23です。よろしくお願いします!」
それは目も眩むような美しさを秘める、若い女性。

一同、沈黙。

「えぇぇぇぇ!?」
そして次の瞬間には思わず露骨に驚いていた。
「どうした?」
「あ、いえその……ちょっとね」
と適当に誤魔化しながら星斗は横にいるカゲリに小声で話しかけていた。
「(やっぱ、偏見ってのは当てにならない。俺は今つくづくそう思ったよ)」
カゲリも大きく頷きながら同意する。
「(流石にビビったわ……。まさかこんな若くて、しかも女の人とはね)」
「あの〜……」
不安そうな表情の研究者、サヤカ。
それに気づいた星斗は再び大声で誤魔化す。
「え? あぁいや何でもないですから! さぁ行きましょう!」
カゲリを押しながらさっさと部屋を出る。
サヤカの方も素直というべきかそれとも単純というべきか、ともかく安心してついていった。
その後ろでハヤトが物凄く悔しそうにしてることも知らずに。

「すげー!」
任務内容のおおよその説明を聞いた後、乗ることになる車両の確認のため格納庫にきた星斗は大声を上げた。
そこにあったのはキャタピラつきの大型車。背部にはドリル方のサブアームまでついてた。
「先程説明したとおり、地底人を見たという洞窟からこれに乗って地下に進みます」
星斗の驚きようを無視して、サヤカは淡々と説明を続けた。
いまいち性格がつかめない人だ。
「では時間も無いのでそろそろ行きましょうか! 何かご質問は……」
カゲリがハイ、と手を上げてから尋ねる。
「もし途中で地底怪獣とか出てきたらどうするんですか?」
この前のゴートゲラのこともあり、確かに予想できることではあった。
それを聞いたサヤカはあっさり答える。
「それは逃げるしかないですね!」
「あらら」
ガクッ、と肩の力が抜ける。肝が据わってるのかただ深く考えてないだけなのかわからない。
激しい不安を感じつつも、二人はサヤカについていくことにした。

――地下100メートル、110メートル、120メートル……。

目的の洞窟に着いた3人は、早速あのドリルマシンに乗って地下へ潜ることに。
そのスピードは予想以上に速く、いとも簡単に100メートルを越してしまった。
「しかし、途中にいたモグラとかミミズは哀れね」
任務と全く関係ない感想を漏らすカゲリ。まぁ確かにそうではあるが。
それとは別に星斗はサヤカに質問していた。
「何でサヤカさんは地底人の研究者なんかに?」
先程からずっと疑問に思ってたことだ。こんな美貌持っててしかも若いなら、モデルでも目指しそうなものだが。
サヤカは戸惑いつつも一応答えてくれた。
「私の父の夢なんです」

サヤカの話によれば、こういうことらしい。
彼女の父は子供のころから地底人の存在を信じて疑わなかった。
大人になったら絶対地底人を発見してやる、と意気込んでいたらしい。
そして大人になった彼は発明者となり、地下を安全にかつ速く、そして深くまで進める機械の開発を始めた。
その道のりは長く険しいものでやっと完成したと思ったら、最早それに乗って地底を旅するのは無理だというくらいまで年老いていたのだ。

「その半年後、父は落胆しながら寂しく死んでいきました」
沈黙する二人。サヤカの声意外にこ聞こえるのはドリルの回転音ぐらいなものだ。
「その時私は決めたんです。父に代わって夢を成し遂げようと。そしていつか天国に行ったときに教えてあげようと」
そうした結果、今のような趣味か職業かわからないような仕事に就いたらしい。
二人は何も言う言葉が見つからなかった。

丁度その時、何やら今までと違う音がしたと思うと突然落下するような感覚に襲われ、更に数秒後車体が激し揺れていた。
「な、何だ!?」
慌てて外を見る三人。
暫くの間は砂埃で何も見えなかったが、やがて見えてきた光景に言葉を失った。

そこは壁も、床も、おおよそ空間の90%以上が銀色で占められた世界。よくよく見ると、人工物であることがわかる。
また4箇所にある巨大な柱は滑らかな流線型。どう見ても地上の建造物とは異質な物だ。
「ここは……」
ドリルマシンのドアを開き、外に出ながら星斗は呆然と呟いた。
「本当にあったんだ……」
続いて出てきたカゲリも心底驚いている様子。
そして何よりも一番感動したのはサヤカだった。
「見つけた……見つけたんだよ、父さん……」
思わず泣きたくなる。それをぐっとこらえて彼女は言った。
「先へ行きましょう。こうなったら、一目地底人を見てみたいんです」

興奮しつつ、それでいて慎重に三人は長い通路を進んだ。
地底人が今だに生存してるのか、そして友好的なのかそれとも敵視しているのか。何もかもわからないが慎重に行くに越したことはない。
レーザーショットを構えながら、一歩一歩進んでいった。
やがて通路を終え、再び開けた場所に出る。
そこは何かの研究室のようだ。赤やら青やら、様々な色の液の中に得体の知れない物体が浮いている。
何だか見ていて気味が悪い部屋だ。
「何だここ……」
「さぁ……」
呆気に取られて周りを眺める三人。誰も後ろから近づく人影に気づくものは無かった。

全くもって突然、最初は何が起こったかわからないほどいきなりのことだった。
体が、動かなくなってしまったのだ。
「!?」
慌てる三人。しかしどうにもならなかった。
そんな彼等の前に、一人のサングラスをかけた男が近づいてくる。
「地上の者だな……」
静かな口調だった。しかしどこか怒っているようにも聞こえる。
あんた誰よ、とカゲリが叫ぶ。
「誰でもいい。お前達には今すぐ死んでもらうのだからな」
その言葉を聞いて肝を潰す星斗。
「は!? 何で殺されなきゃ……」
「黙れ!」
男のその威圧感に満ちた声だけで、全く声が出なくなってしまった。
男は再び静かな口調に戻って言った。
「まぁどうせ死ぬのだしこれだけは言っておいてやるか。……我々はお前達が地底人と呼ぶ存在だ」
そんなことは言われなくても知っている。
「我々はこの薄暗い地下に住み、いつも、地上に対して憧れを抱いていた」
男は続ける。
「しかし地上には既にお前達人間がいた。我等は何度か、お前達に接触を試み地上に住まわしてくれないかと願ってきた」
そこで男の声は露骨に怒りを帯びた。
「お前達は全てその申し出を断った! 我等が……我等がお前達とほんの少しだけ違うことを理由に!」
男はおもむろにサングラスを外した。
星斗は男のその顔を見て、絶句した。

男のサングラスの下には、本来あるはずの目が無かったのだ。まるで、のっぺらぼうに鼻と口だけをつけたような感じ。
彼は忌まわしそうにその顔を手で拭う。
「たったこれだけ、たったこれだけを理由に我等を否定したのだお前達は!」
何も言葉が出なかった。ただ、男の話を聞くしかない。
「我等は呪った。お前達を。そしてそっちが我等を否定するのなら、我等もお前達を否定しようと心に決めた!」
そして……と男は後ろを向き、中央の唯一何も無いところに指を指した。
「我等は、お前達を滅ぼし地上を奪うことに決めた!」
男が言葉を言い終えた刹那、男が指した先の床がぱっくりと割れた。
そして中から、巨大な物体がせり上がってくる。
「これは……!」
カゲリは思わずその物体を見て声を上げた。

それは怪獣だった。皮膚は地底に相応しい茶色で、頭部は平べったく長い。その頭部の上の方には小さな目が2つ。
「見ろぉ! これが我等の技術の粋を集めて完成した究極の生物兵器! “テレスドン”だ!」
いつの間にか、三人の周りには数人の男女が並んでいた。
皆同じようなサングラスをかけている。
男は振り返り、にんまりと実に嫌な笑いを浮かべた。
「さて、お前達の処刑の時間がやってきたぞ……」
手も足も出ない。このまま自分達は殺されてしまうのか……。

と、星斗の心を絶望感が支配したとき、急にメテオの意識が語りかけてきた。

“星斗! 安心したまえ。今君達を動けるようにしてやる。そして君の仲間たちを逃がした後、あのテレスドンを倒すのだ!”

「メテオ……!」
と、星斗が驚きをあらわにするころにはすでに動けるようになっていた。
「あれ? 動ける……」
カゲリが不思議そうに呟いた。それを無視して星斗は二人の腕をむんずと掴み、走り出した。
「!? 何故貴様等動ける!」
男が叫ぶがひたすら無視する。目の前に立ち塞がった二人の地底人に思い切り体当たりをかまし、走り続けた。
突然のことにまだ理解できていないカゲリ。とりあえず、とばかりに叫ぶ。
「ちょ、星斗痛い! 何すんの!?」
しかし星斗はまたもそれを無視して走ることに専念した。
そして通路のところまでくると、二人をそこに押し込み自分はそれを守るようにして立った。
「星斗!?」
「逃げろ!」
「え……?」
「いいから逃げろっての!」
何が何だかいまいちよくわからない。一体星斗は何をする気なのか。
しかし彼の真剣な表情を見て、それに同意した。
「……どうなっても、知らないからね」
カゲリはサヤカの手を引っ張り、足早にその場を去っていく。

星斗はその様子を見届けた後、一人地底人たちの所へ歩いていった。
「身を犠牲にして仲間を逃がすか? ご立派なことだ」
彼の行いを嘲笑する男。だが無駄なことだ、と星斗に言う。
「たとえお前の仲間が地上に逃げ切れたとしても、いずれこのテレスドンによって殺される運命なのだ。
つまり死ぬのが多少遅くなっただけのこと。それがわかっているのか?」
しかし星斗はそんな男の話など聞いてはいなかった。
逆に男に問い返す。
「お前達は、何故サングラスをかけているんだ?」
男は不思議そうな表情をしている。この男はこの期に及んで何を……
「それはもしかして、強い光が苦手だからじゃないのか?」
「!」
地底人達の間にどよめきが起こる。
暫くの間うろたえていた男だが、やがて元気を取り戻した。
「底まで見抜くとはな。だがこの状況でどうする? 残念だがそこらの証明程度の光では我々は痛くも痒くも無いぞ」
男はそう告げながら思わず笑みを浮かべる。
しかし、そこでおかしなことに気づいた。星斗が笑っていることに。
「貴様、何を笑って――」
その言葉を遮るように、星斗は腕をクロスさせその両腕にはめられた宝石を重ね合わせた。
「ならばお前達にこの光は致命傷となるはずだ! メテオォォォ!」
刹那、眩い光が辺りを包んだ。

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
「ひ……光が……」
「やめてくれぇぇぇぇぇ!」
地底人達の阿鼻叫喚の嵐。
メテオに変身する瞬間に起きた光は、地底人達が苦しむのに十分すぎるほど強かったのだ。
やがて光は止み、メテオが地底に降り立つ。
その周りには多数の地底人が倒れていた。先程の男も例外ではない。
それを少しの間、哀れそうに見ていたメテオ。しかしすぐにテレスドンへと目線を向けた。
奴が動き出す前に片付けなければ。
しかし、ふいに下で声がした。苦しそうで、今にも息絶えそうな。
「おの……れ……」
一人の地底人の男だった。テレスドンのそばに体を引きずるようにして寄せている。
「もう許してはおけぬ……。地上人も………道……連れ……に………」
血反吐を吐きながらも男はテレスドンのところにたどり着いた。そして、その皮膚に触る。
彼が何をしようとしているのかを理解し、慌てて止めに入るメテオ。
「やめ………!」
「……してくれる……!」
男の手がぼんやりと、薄暗い緑色の光を発し始める。
その光はテレスドンへと移り、その体を包み込んでいった。
そしてカッ、と見開かれる瞳。少しの間をおいた後の、甲高い咆哮。
テレスドンは目覚めてしまった。
「まずい……!」
メテオはすぐさま飛び掛る。だが奴の太い尾で叩きつけられ、吹き飛ばされてしまう。
再度咆哮するテレスドン。ゆっくりと、歩き始めた……。

何とか立ち上がったメテオは、再びテレスドンに挑みかかった。
瞬時に近づき、その体に拳や足をめり込ませる。
テレスドンは多少のうめき声をあげはしたが、それだけだった。すぐにカウンターの一撃が来る。
「(くっ……!)」
ギリギリで避ける。しかし奴は巨体に似合わないスピードで第二撃、第三撃と繰り出してきた。
二発目を防御して防ぎ、三発目でその手をしっかりと掴む。そのまま勢いよく背負い投げをかました。
大きく吹き飛ばされるテレスドン。床にたたきつけられ、床の瓦礫が舞い上がる。
しかしそれでも奴は平気で立ち上がってくるではないか。どこまで固い体をしてるのか。
地を蹴って体当たりをしてくる。何とか押さえようとしたが、し切れず仰向けに倒れてしい、更に圧し掛かかられて首を絞められる。
振りほどこうと抵抗を試みるが、中々話さない。やがてカラータイマーまで点滅し始め、まずい状況に追い込まれてしまった。
「ぐぅ……!」
意識が飛ぶ直前の所で腹を蹴り、どかせることに成功する。危ないところだった。
しかし休む暇を与えてはくれず、テレスドンはなおも飛び掛ってくる。
再度首を狙われたが、今度は受け流すことに成功し背中を蹴りつけてやる。思惑通りバランスを崩して転倒した。
先の仕返しとばかりにそこに馬乗りになり、首を何度も叩きつけた。いつかのヴァドス戦を思い出す。
だがヴァドス以上に頑丈で力強いこいつは、たちまち起き上がりメテオを振り落とすと尾で叩きつけて来た。
それは何とか回転して避けるものの、そろそろ限界だ。早く止めを刺さないと。
しかしここは地下。メテオニックウェーブを使えば周りの柱を破壊し、この建物自体を崩してしまうかもしれない。そうしたらメテオである自分はともかくカゲリ達はひとたまりもない。
その上ゴートゲラのときのように空に飛ばしてそこを狙うということもできない。何とか別の手段を考えなければならなかった。
しかしメテオは何も言ってくれない。このままでは時間が尽きてしまう!

「(そうだ!)」
ピンチに陥ると以外に思い付きがいいものだ。メテオはメテオニック・ウェーブの時と同様、腕を掲げエネルギーを溜め始めた。
やがて最高にまで高まるエネルギー。いつもならここで腕をかざすのだが、そうはしない。
突如メテオはエネルギーを腕にためたまま駆け出した。と同時にテレスドンも向かってくる。
ぐっ、と溜めてある方の腕を後ろに引く。まもなくテレスドンと激突しそうだ。
そして腕を伸ばせばもう届く、というその時、
「メテオ・ナックル!」
一気に腕を突き出し、拳をエネルギーが溜まったままテレスドンにめり込ませたのだ。
凄まじいエネルギーの前に容易く破れていくテレスドンの皮膚。
そして完全にメテオの腕が貫通する。その間、テレスドンは悲鳴すら上げることはできなかった。

やがてエネルギーが消え、元の腕に戻る。それをゆっくりと引き抜いた。
戦闘態勢のまま固まっていたテレスドンは、それと同時に徐々に崩れ落ちていく。
そして数秒後、土へと帰って行った。

「散々な目にあわせてもらって、申し訳ございません」
ペコリ、と頭を下げて誤るサヤカ。
カゲリは慌てて顔を上げさせた。
「いいんですいいんです! こんなこといつものことですから!」
それでもしばらくは申し訳なさそうな表情をしていたサヤカだが、やがて笑顔を取り戻した。
「でも火竜隊の皆さんのおかげで父の夢をかなえることが出来ました!」
敵対的であったにしろ、実際地底人は存在したのだ。それだけで彼女には満足だった。
本当はもう、いないのだが。
「もし今度お会いできたら、その時は何かご馳走しますね!」
それを聞いて星斗は飛び上がる。
「え!? 本当ですか! いやぁありがとうございますぅ!」
が、すぐさまカゲリに脇腹を殴られた。
蹲る星斗を無視してカゲリは笑顔で答える。
「きっとそうさせてもらいます」

それでは、と去っていくサヤカ。
その後姿を見ながらカゲリは呟いた。
「しっかし、あんたもよく無事だったわね。ウルトラマンとテレスドン……だったっけ? あの二体の戦いに巻き込まれて」
ギク、とする星斗だが、笑って誤魔化す。
「うん、まぁ、俺って優秀だから!」
だが、
「調子にのるな!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
再度カゲリに殴られるのだった。

次回予告
ある日を境に夢を見なくなってしまった星斗!
理由がわからず悩むが答えは見つからない。
しかし時を同じくして人々が次々に無気力になっていく事件が発生!
ついにそれは火竜隊のメンバーにまで……!?
一体この現象は何なのか!

次回・「侵略者の罠 夢の見過ぎにはご用心!」

・催眠宇宙人ドリフェス星人 登場
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夢――それは眠りの最中に起こる不思議な現象。
それは普段の日常の生活から現実では起こりえないような出来事までを見せてくれる。
人はそれを見て喜怒哀楽、様々な感情を露にするのである。

しかしこの素晴らしい現象も、時にはとんでもない事件を招くこともあるのだ……。


8話・侵略者の罠 夢の見過ぎにはご用心!

・催眠宇宙人ドリフェス星人 登場


火竜隊基地の星斗の部屋。
朝を迎え星斗は伸びをしながら今日一日のことを考えていた。

ふとその途中で、何か違和感を感じる。
何だろう。何かが足りないような。
「あ、そういえば……」
ぽんと手を叩いてやっと思い出す。
ここのところずっと、彼は夢を見てなかったのだ。
最初はただ忘れているだけだろうと考えていたのだが、それが二週間ぶっ続けともなると流石に不思議に思い始めていた。
何でだろう、と少しの間考える星斗。
しかし携帯通信機器から大音量で飛び出てきたカゲリの声に急かされ、それ以上続けることは出来なかった。

そして特に事件も起きることも無く五日がすぎる。
星斗は相変わらず夢を見ることは出来ないでいた。
「何でだぁ?」
いよいよ不安になってくる。この前までは三日に一度はちゃんと覚えている夢を見ていたのに。
「ほうひたの?」
カゲリがくっちゃくっちゃとパンを頬張りながら尋ねてきた。
物を口に入れながら喋るなといった上で、星斗は事の次第を説明した。
それを聞いたカゲリは特に気にする様子も見せなかった。
「別に夢を見なかったところで死ぬわけでもないんだし、いいんじゃない?」
まぁ、それはそうではあるが。
この女に相談しても無駄だと言うことを理解した星斗はそれ以上何も言わずにおいたのだった。

それとほぼ同時期、火竜隊基地の近辺ではちょっとした事件が起きていた。

ある日、とある建設現場で頭領の男が首をかしげていた。
本来作業場に出てきていなければならないはずの男が一人いないのだ。
風邪でもこじらせたのかと思い、その場で電話してみる。しかし何故か誰も出ない。
「今こっちに向かってんのかなぁ」
そう思いとりあえず作業を始めることに。だがその男は一向に現れる気配を見せなかった。

夜、作業が終った後結局現れなかった男に腹を立てた頭領は彼の家まで行くことに。
しかし玄関の呼び鈴を鳴らしても誰も出てこない。
留守かもしれないと思い、怪しまれないようにそっと窓から覗いてみると、何と男はちゃんといるではないか。
彼は布団を片付けもしないでその上で座ってボーっとしていた。
いよいよ怒りが頂点に達した頭領はドアを蹴り飛ばして家に入り込んだ。
「コラァ! テメェなめてんじゃねぇぞぉ!」
もしこの声を誰かに聞かれていたら、絶対ヤクザと勘ちがいされていたことだろう。それほど凄い声だった。
しかし男の反応はというと……
「はぁ………」
驚いても無ければ恐れても無い。反省の色は皆無だ。
頭領はますます真っ赤になって怒鳴る。
「テメッ……無断で仕事サボっておいてはぁ………だぁ!? なめんのも程々に――」
「はぁ………」
そこでついに頭領の頭の中で何かが切れた。
思い切り男をぶん殴り、首根っこを掴まえ揺さぶる。
「テメェェェェ! 俺を怒らせやがって! どうなるかわかってんだろうなぁ!」
元々怒っていたではないか。
しかしそんな突っ込みすらせずに、男の言う言葉は相変わらずはぁ、のみ。
流石の頭領もこれには参ってしまった。
「おっかしいな……。いつもなら俺に怒鳴られた途端ひっくり返って怖がってる奴なのに。どうしちまったんだ?」
考えてもわかるわけが無い。
とりあえず念のため、男を病院に引っ張っていくことにした。

だが、同じような事件はこれだけではなかった。
子供が突然学校をサボりだしただの、近所のラーメン屋のおっちゃんが消えただの、
状況は様々ではあったが、いずれもサボったり消えたりしている当本人がはぁ、しか言わなくなってしまったということが共通していた。
この異常な現象は、ついに火竜隊に報告されるまでの騒ぎへと発展していくことになる。

報を受けた火竜隊は早速調査を開始。
だが全く原因の見当がつかないため、思うような進展が無い。
一番困るのは当の被害者がはぁ、しか言わないことだ。これでは推測すら出来ない。
「だー! もうやだ、何でこんな埒の明かない調査を続けなきゃならないのよ!」
調査開始から四日目の夕方、ついにカゲリがキレた。
一緒に調査をしていた遠野がそれをなだめる。
「まぁまぁ、まったく進展がないというわけでもありませんよ」
「一体何がわかったってんのよ!」
そう言われた遠野は懐からメモ帳を取り出し、パラパラとめくり始めた。
そして暫くのところであった、と言ってその内容をカゲリに見せる。
「? 何コレ」
それはどうやら、被害者がおかしくなったと思われる時間帯をメモしたリストのようだ。
遠野は説明する。
「このリストを作成してる途中、どの被害者もある共通点があることに気づいたんです」
それは、とカゲリが問う。どこか遠野は得意そうだ。
「それはこの時間帯の間に全ての被害者が、長い短いは別にしてとにかく寝ているんです」
「寝てた?」
つまりは、その寝ている間に何かが起こったということか。
問題はその『何か』の正体なのだが。

それを聞いた星斗は一人部屋に入って考えた。
そしてある人に質問してみることにした。
「……メテオ、聞いてるなら返事してくれ」
暫くの間沈黙が流れる。
しかしやがて、どこからか声がしてきた。

“何だ星斗”

運よくメテオと話をすることが出来た。
早速気になってたことを尋ねる。
「あのさ、人の夢に入ることって、どっかの宇宙人ならできるのか?」
さっきふいに思いついたことだ。
被害者が眠っているときに異変が起きた可能性が高い。だとしたら夢の中で何かが起こったということも考えられるのではなかろうか。
他の者に話せば笑われてしまうような話だ。星斗だって少し前なら考えもしなかっただろう。
それをこうして思いついた背景には、今話しているメテオとの出会い、そしてこの間のゼルカド星人の襲撃があった。

“夢……? まぁ、不可能ではないな”

「マジ!?」
思わず飛び上がって念押しする星斗。まさか本当に可能だとは。
メテオは不思議そうだ。

“何か例の事件について思いついたのか?”

星斗はメテオに自分の考えを述べた。
それは、この一連の事件は宇宙人の仕業ではないか。その宇宙人は夢を利用して人類をフヌケにするつもりなのではないだろうか、と。
メテオハしばし黙っていたが、やがて感心したような声を出す。

“……よく考えついたな。それは私でも思いつかなかった。だが、あり得る事かもしれない”

いやはや、今日は何時にも増して勘が冴えているようだ。
星斗は更にメテオに何か言おうとする。が、そのことについてはメテオは既にお見通しのようだった。

“ならば何とかして夢の中に入れないか、と言いたいのだろう?”

まさしくその通り。

“やったことはないが……できないことはないかもしれない。だが……”

“どの人物の夢に出てくるのか、わかるのか?”

張り切っていた星斗は、その言葉の前に固まる。
しまった、一番肝心なことを考えてなかった、と。

推理するところまでは良かったがこれでは行動の取りようが無い。
仕方が無く、今日のところは諦めることにした。


――が、翌日。事態は更に悪化していた。

「たいへんたいへんたいへんたいへんたいよ星斗!」
「誰が変態だ!」
早朝から何ともありきたりなボケと突っ込みを交わすカゲリと星斗。
しかし彼女の慌てようはただ事ではない。
何だよ何かあったのか、と星斗はモーニングコーヒーを飲みながら彼女に尋ねた。すると、
「ハヤトが……ハヤトが例のはぁ、状態になっちゃったのよ!」
それを聞いてせっかく飲んだコーヒーをぶちまけてしまう星斗。
「何だってぇ!?」
「ともかく速く来て!」
そう言われ、星斗は寝巻きのままハヤトの部屋へと駆け出していった。

「おいハヤト」
「はぁ……」
「おいってば」
「はぁ……」
「………このアホバカタコナスハヤト!」
「はぁ……」
まさしく、例の症状だった。
ハヤトの目は死んだ魚のように虚ろで、生気がない。
隊長もまさかといった様子だった。
「おいおい、勘弁してくれよ……。事件を捜査する側がこれじゃあ話にならん」
とは言ってもなってしまったものはどうしようもない。
一方遠野は凄く興味深そうに観察していた。
もう何というか、マッドサイエンティストのようである。

星斗は気づかれぬように司令室から抜け出し、メテオと会話していた。
「メテオ、これはチャンスかもしれない」
第三者から見れば、仲間のうち一人がやられたのに何と不謹慎な発言だと思うことかもしれない。
だが、星斗にはある確信があった。
「もしこれが宇宙人、もしくはそれの類だったとしたらいつか邪魔な火竜隊を襲うんじゃないかと思ってた」
続ける。
「そして今それが実現した。やってしまった以上、犯人はきっと次も火竜隊隊員を狙うはずだ。色々騒がれないうちに」
黙ってそれを聞いていたメテオじゃ、やがて口を開いた。

“……星斗、何か悪い物でも食べたんじゃないのかい?”

いや、いくらなんでもそれは酷いだろメテオ。
――というわけで星斗はその晩、こっそりと各隊員の部屋を巡回。謎の犯人の出現に備えた。
しかしもしこれで何事も無かったらメテオに笑われてしまう上、ここまでした労力も無駄になってしまう。
だから星斗は自分の推理が正しいことを内心で祈っていた。

カゲリ、遠野、隊長の順に巡回する。狙うとしたらメインの彼等が一番確率が高そうだからだ。
だが一週目は何も見つけず。少し落胆しつつももう一度巡回する。
今度は隊長、遠野、カゲリの順番に。しかしこれも駄目だ。
「頼むぜ謎の犯人さんよ……」
犯人にお願いしてどうする。気持ちはわかるが。
もうすがりつくような気持ちで三週目を実行することに。

――そして、ついに見つけた。
そぉっと覗いたカゲリの部屋で、ベットのそばに佇む謎の影。
奴は何やら変てこな動作をしている。一体何をしてるのか……。
その時、突然影が光になった、と思えば次の瞬間にはその光がカゲリの中へと飛び込んでいったのだ。

“――急げ星斗! 早くしないと手遅れになるぞ!”

言われるまでもなかった。星斗はすぐに宝石をあわせ、今回は無言でメテオに変身する。と言ってもその大きさは人間程だが。
駆け出すメテオ。その体が徐々に光と化していく。
そしてカゲリのベットと激突すると思われた瞬間、目の前の景色は消え何やら見知らぬ世界にたどり着いていた……。

「(ここは……夢の中?)」
何ともメルヘンチックな場所だった。これがカゲリの夢の中と言うなら何とも変な感じだ。
しかしそんなことを気にして入られない。早く犯人を――

「――ちっ、見つかっちまったのならぁしょうがないにゃいのな」
探すまでも無く、向こうから声をかけてきてくれた。
反射的に声のした方を振り向く。すると、何とも奇妙な姿の怪人が視界に飛び込んできた。
形的には人間と似ているが、指が六本で爪が鋭く、更に皮膚の代わりにに紫の鱗に覆われていて目がでかい。
その怪人は自分はドリフェス星人だ、と名乗った。
「まったくいいとこで出てくれるのにゃあ。せっかく夢を介して人間共に催眠術をかけて地球を征服しようと思ってたのにさ」
コッチは全然聞いてないのに勝手にベラベラと喋るドリフェス星人。しかもその声には反省の色が全く無い。
「テメェ、この俺が見つけたからには覚悟しろよぉ〜?」
こいつのおかげでどれだけ仕事が増えたか。とりあえず一発ぶん殴ってやらないと気がすまない。
だが星人は恐れてはいなかった。
「ハッハッハッ。僕をボコボコにするぅ? 無駄なことは止めたみゃえよ。君は僕に手を出すことなんてできゃあしないんだからにゃ!」
ブチ。

どこまでもむかつく野郎だ。ここは一気に粉砕してやると思って、メテオ・ナックルをかまそうかと構えた。が、
「おぉっとぉ! 止めたほうがいいよぉ! もしここで戦ったら、この女は精神崩壊しちゃうよぉ?」
「なにっ……!?」
何ということ。人の夢の中で戦い、少しでも夢を傷つければその人の精神は崩壊してしまうらしいのだ。
メテオの動きが止まる。
「ウヒャヒャヒャ! 残念だったねぇ!」
星人は愉快そうに腹を抱えて嘲てくる。むかつくが手を出せない。
奴は更にこんなことまで教えてくれた。
「しかし君は凄いねぇ。いや僕は最初さ、君を真っ先に狙ったのさ。だけど何度やっても君はフヌケにならない。
若干の効果はあったのかもしれないけどね。さすが宇宙警備隊を名乗るだけのことはあるよ!」
あぁ、そういうことだったのか。
ここ最近ずっと夢を見なかったが、それはこいつのせいらしい。
ますます腹が立つ。
「テンメェ〜! 人の夢奪いやがって、絶対許さねぇぞ!」
「へぇ〜。どうやってやるんですきゃあ?」
奴の言うとおり、許せなくても制裁する術がない。
しかもそろそろ時間も無い。――しかし、

“星斗、安心したまえ。少し手助けしてやろう”

メテオの意識がそう語りかけてきた途端、ドリフェス星人とメテオの体が宙に浮いた。
「アレレレレェ!?」
いきなりのことに慌てる星人。それはメテオ、というか星斗も同じこと。
「これは……」
暫くの間浮いていったが、やがてそれは止まり代わりに周囲に薄く青い壁が形成され始めた。
どうやらバリアらしい。

“君と奴の周囲にバリアを張った。これで彼女の夢を傷つける心配は無いぞ!”

形勢逆転だった。途端に元気付くメテオ。それに対し焦るドリフェス星人。
「ゲゲゲ! こ、こうなったら……これでもくらえ!」
星人は腕を前に突き出しビームを放ってきた。いきなりのことで避けきれずに直撃を受けてしまうメテオ。
しかし、傷は一つもつかなかった。
「?」
何故だ。確かに直撃はもらったはずなのに?
「あれれ、もう一度ぉ!」
再びビームを放つ。それも命中するが、相変わらず傷はつかない。
「………」
「………」
数秒間、お互い睨めっこをする両者。
やがてメテオが口を開いた。
「……お前、もしかして………超雑魚?」
星人はそれには答えない。代わりにくるりと後ろを向いた。
「あーあ! もう地球侵略も飽きちゃった。いい加減帰ろう!」
とは言ってもここはバリアの中、帰れるわけが無い。
メテオは星人の肩をがっちり掴んだ。
「まぁまぁ、そう急がないで。時間まで俺と遊んでくれや!」
ニヤニヤ声のメテオ。そして顔面蒼白のドリフェス星人……。
「ヤメテェェェェェェ………」

翌日、火竜隊司令室。
面白くなさそうにハヤトが文句を垂れていた。
「ったく、まさかこの俺がフヌケになっちまうなんざぁ……」
今までフヌケになっていた人々は全て元に戻った。
いつぞやの男も頭領にしごかれてしっかり働いている。

「あぁおしい。どういう原因か知りたかったのに……」
悔しがっているのは遠野。いい加減にしないとまたカゲリに殴られそうだ。
そして一方、星斗は別のことに悩んでいた。
「うぅ……眠い………」
彼の目には大きな隈ができている。そう、今彼は不眠症に悩まされていたのだ。
その不眠症の原因はと言うと……

夜、星斗がベットに横になって寝付く。そこまではいい。だがせっかく見れるようになった夢を見始めた途端、
「ハーロー! 元気ですかぁ?」
滅茶苦茶軽快な声と共に現れたのは、何とドリフェス星人。
実はあの後、ボコボコにされた奴は必死に命乞いをしてきた。まぁ誰も殺してはいないということでメテオは許してやったのだが、それが運の尽き。
それから毎晩、こうして寝る度に奴が現れ、騒ぎ立ててくるのだ。
「うっせぇ!」
そしてすぐに起きてしまう。こんなんなら、まだ夢を見ないほうがマシと言うもの。

夢は多くのことをわれわれに授けてくれる。
だが、見過ぎにはくれぐれもご用心!

次回予告
日本に怪獣上陸! それは何とあのヴァドスだった!
星斗はメテオになって迎撃するが、パワーアップしたヴァドスの前に手も足も出ない。
カラータイマーも点滅し始め、当に絶体絶命と思われたその時。
空の彼方から謎の影が現れて……!?

次回・「ヴァドス再び」

・古代両棲怪獣ヴァドスU(ツヴァイ)
・???                  登場
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9話・ヴァドス再び

・古代両棲怪獣ヴァドスU(ツヴァイ)  
・???                  登場



話は変わり、日本。
ここ最近ヴァドスを撃破したおかげで起こっていなかった船舶の事故が再び増え始めていた。
火竜隊の中ではまたヴァドスが復活したのではないか、という噂が流れ始めている。
「どう思う? 星斗」
前回のドリフェス星人のおかげでここのところずっと寝不足が続いていた星斗。
ようやく奴はどっかへ行ってくれたみたいで、昨日からは安眠できているのだが……それでも眠い。
そのためカゲリが意見を求めてきても一瞬何のことだか全然わからなかった。
「え、あ、うぅんと、それは無いと思うけどなぁ」
とりあえず適当に答える。運よく質問の内容には適した答えだったので怒られずには済んだ。
頷き、やっぱそうだよねぇと同意するカゲリ。

星斗はカゲリのおかげでようやく目覚めてきた頭の中でそのヴァドスのことを思い浮かべた。
ヴァドス。自分がメテオになって最初に戦った怪獣。
あいつをメテオニック・ウェーブで粉砕したときの光景は今でも良く覚えている。
あれが復活するなど、到底不可能のはずだが………。

そこまで考えたとき、突如基地内にアラームが鳴り響いた。
続けて放送が入る。

『三浦半島沖を警戒中の米軍艦より報告。日本へ進行中している謎の反応を確認。
それに伴い火竜隊への出撃命令が下されました。火竜隊は至急出撃してください。繰り返します……』

いきなりの出撃命令。しぶとく残っていた眠気が一気にすっ飛んでいく。
「隊長!」
ハヤトが立ち上がり隊長を見る。
彼は頷き、一同を見渡して張りのある声で叫んだ。
「今の放送は聞いたな。速やかに出撃するぞ!」
「「了解!」」


轟音を立ててカタパルトが開いていく。
徐々に見えてきた青い空と光に目を細めながらも、星斗は謎の反応の正体をアレコレ想像してみた。
「なぁ、一体謎の反応って何だと思う?」
発信前の準備で色々と忙しそうなカゲリは、顔の方向こそ変えなかったが答えてくれた。
「そうね……。まぁ多分所属不明の潜水艦とか、あるいは怪獣じゃない?」
どうせなら潜水艦の方であって欲しい。そう星斗は思った。
ついに開ききるカタパルト。それに伴いムーンが出撃し、続いてフェニックスも出撃していった。
「いいわね、星斗」
カゲリが聞いてくる。このやりとりは出撃のたびにかわされているものだ。
「あぁ」
そういつも通りに返事をする。
しかしこの時星斗は、心の隅に引っかかる正体不明の不安感にまだ気づいてはいなかった……。

出撃から十分ほど経つと、もう現場の海域が見えてきた。
まだその反応の正体と思しき物体は見えていないが、すでに自衛隊も出撃しているようだ。
その中にはチラホラと米軍の機体も見える。
「何だかしらねぇが。これじゃああまり出番はなさそうだな」
目下に広がる光景を見たハヤトがポツリと呟いた。
確かにこれでは、たとえ怪獣が現れようともたちまち返り討ちにしてしまいそうだ。
自然と星斗も気が緩む。今回はまぁ自衛隊と米軍のお手並みは意見かな、その程度に思っていた。
だが――

“星斗、気を緩めるな。奴が来るぞ!”

ここ最近よく喋るメテオ。今回も話しかけてきた。
しかしそれは緊張感に溢れている。
「(メテオ? 奴って一体――)」
カゲリに聞かれるとまずいので小声で話す。しかし言い終えないうちにそのカゲリが大声をあげた。
「星斗! アレ見て!」
反射的にカゲリが指す方向をを凝視する。
遠くの方で、不気味に光る巨大な水柱が立ち上っていた。
それ自体はすぐに消えるものの、それに代わって巨大な影が現れる。
あの発光、そして巨体。間違いない。あれは――

「ヴァドス!」

それは確かにヴァドスだ。だがその皮膚は以前と違いどす黒い。
そして何より一番の違いは、胸部に彫られた謎の紋章。
「何だアレ?」
尋ねてみるものの、答えられる者などいるわけがない。
とにかく今は奴の撃破が最優先だ。すぐさま攻撃が開始される。
しかし火竜隊や自衛隊、更には米軍の攻撃を受けてもなお、ヴァドスは怯む気配すら見せない。
防御能力は以前より格段に上がっているようだ。
「なら……これでどうだ!」
スター、ムーン、フェニックスが三機一斉にエネルギーをチャージ、それをレーザーとして一気に放出する。
狙うは胸の紋章部分だ。ああいうのがあるとつい狙いたくなるのは人間の本能か。
そして命中。三発とも狙いは寸分の狂いも無い。これには流石のヴァドスも少し動きを止めた。

ぎろり、と奴の頭がこちらを向き、口から続けざまに熱線が三発放たれた。
それぞれが別々の機体を狙っている。
すぐに回避行動に移るが、予想外の動きのため動きが少し遅れていた。ムーンとフェニックスは避けるが、スターはエンジンを損傷してしまう。
「っ!」
スターはたちまち高度を落とていく。
カゲリはヴァドスのほうを見ると、忌々しそうに吐き捨てた。
「このトカゲっ! 最近落ちてばかりじゃない!」
とは言ってもやられたのは仕方が無い。已む無く限界まで陸地に近づき脱出用のレバーを引く。

頭上のフードが吹き飛び体が宙に舞い上がった。
星斗はカゲリが陸地に近づいていくのを確認した後、周りの様子を確認する。
皆戦いに集中していて、誰もこっちは見ていない。――チャンスだ。
そして間髪入れず星斗は腕を掲げ、メテオに変身した。

メテオが光を纏いながらヴァドスの目の前に着地する。
周りの者は一斉に感嘆の声を上げた。
「ウルトラマンッ……!」
モニターを見ていた大野隊長もつい立ち上がってしまう。
ヴァドスは天を仰ぎ咆哮している。そして突進してきた。

それを落ち着いて受け流し頭に肘うちを叩き込む。更に顎を蹴り上げた。
よろめいたヴァドスは顔をブルブル振るって気を取り直し、再度向かってくる。
すかさずがっちり受け止め、投げ飛ばした。相手は巨大な水飛沫を上げながら海面に激突する。
しかしそれでも怯みはしない。雄たけびを上げて熱線を吐いてきた。それは海面を蒸発させながら一直線に飛んでくる。
危うく当たりそうになるが横に避け、体勢を立て直そうとする。だがそこできつい尾の一撃が。
吹き飛ばされ海面に激突し、仰向けに倒れてしまう。体中を這い回る激痛。
暫くの間悶絶する。その隙に首根っこをつかまれ、投げ飛ばされ、更に熱線をくらった。
点滅し始めるカラータイマー。時間が無い!
ヴァドスはなおも熱線を連続で発射してくる。だが僅かな隙を突いて脱出することに成功した。
今度こそ体勢を立て直し、構える。奴は逃げられたことに腹を立て、三度突進してきた。
その顔を飛び上がって思いきり蹴りつける。奴はよろめき、隙が出来た。今だ、と思い右腕にエネルギーを溜める。
すぐに相手もこちらの動きに気づいたようだが、もう遅い。放たれるエネルギーの渦。
それは真直ぐにヴァドスに向かい、激突した。たちまちのうちに光がヴァドスを包み込む。
――終った。誰もがそう思っていた。
だが、

奴は健在していた。紋章が光り輝き、メテオニック・ウェーブのエネルギーを吸収している!

そんな馬鹿な。

唖然とするメテオ。気のせいかもしれないが、ヴァドスの顔がどことなくにやけているように見えた。
やがて消え去る光。相手はどこも傷ついてない。エネルギーを吸った紋章だけが、不気味に輝いていた。
そして奴の口が開き、熱線が吐き出される。物凄いエネルギー量、それは今までの熱線の比ではない。
吸い込まれるようにして熱線はメテオの腹にぶち当たった。途端に体中を迸る激痛、そして浮遊感。

海面に激突するまでの数秒感が、永遠に感じられた。

一体何が起こった?
――負けた? 俺が、ウルトラマンメテオが?
そんなこと、そんなことがあるわけ……

今起こった出来事を何とか理解しようとしていた星斗の意識は、そこでぷっつりと途絶えてしまった。
それに伴い、仰向けに倒れたまま動かなかったメテオの体も薄れ、消えていく。
ヴァドスは勝ち誇ったように咆哮した。その叫びは、呆然とする人間達の心を容赦なく痛めつける。
ウルトラマンが負けた。こんな化け物を、どうやって倒せと?
人々の間を、絶望が駆け巡った………。

だが突如、そんな重たい空気を吹き飛ばすようにして、海面に何かが衝突した。
立ち上る水飛沫。しかし不思議と音はしない。
そして少し遅れて光が辺りを覆う。凄まじい光だ。あまりの眩しさにモニター越しに事を見守っていた隊長すら目を手で覆ってしまう。
たっぷりその状態が数秒間続いた後、光は消えた。
恐る恐る目を開けた一同の目に飛び込んできたもの。それは全身を紅と銀で覆った、巨人。

「ウルトラマン?」
それは間違いなくウルトラマンだ。だがメテオではない。
彼とは明らかに形状が違っている。
ヴァドスはそれを一目見るやいなや、忌々しそうに咆哮した。
巨人は落ち着いてその様子を見ている。その体からは相当な自身感が感ぜられた。

ゆっくりと構える巨人。
その戦いを、人々は黙ってみていることしか出来なかった。

次回予告
突如現れた謎の巨人。
その力は凄まじく、瞬く間にヴァドスを叩きのめしていく。

だが最後に止めを刺そうと、巨人が光線を放った瞬間。謎の物体がそれを防ぐ。
それはかつて、メテオを後一歩というところまで追い詰めたあのロボットだった……!

次回・「テラント」

・古代両棲怪獣ヴァドスU
・決戦兵器AU2号
・ウルトラマンテラント 登場
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第10話・テラント  2

・古代両棲怪獣ヴァドスU
・決戦兵器AU2号
・ウルトラマンテラント 登場


今日何度目かの水飛沫が飛散る。
天高くそびえ立つ巨大な水の塔は、上空を旋回するムーンやフェニックスにすら届きそうだ。
「あーぁ。これじゃ全く出番がねぇな」
ハヤトが不満そうに呟く。真下で繰り広げられるド派手な試合を観戦しながら。

ロボットがウルトラマンに馬乗りになり、その拳を振り下ろしてきた。狙うのはウルトラマンの頭部。
だがそれは受け止められ、しばらくお互いの力比べが続く。これを制したのはウルトラマンのほうで、ロボットを仰け反らせその隙に立ち上がる。
すぐに立ち直ったロボットは間髪いれず殴りかかってきた。ギリギリでかわし、伸びきった腕に手刀をめり込ませる。
だが痛みを感じないロボットは怯む様子も見せず、もう片方の手で掴みかかってくる。それを左手で受け止め、更に腹部に蹴りを入れる。
僅かだがロボットの姿勢が崩れた。チャンスは今だ。
一瞬のうちにウルトラマンの右手がどす黒くなる。
「黒い――光?」
常識的には有り得ない現象が、目の前に起こっていた。
確かにウルトラマンが手に纏っているのは光だ。だが、黒いとは……。

ウルトラマンが天を仰ぎ、吼えた。メテオと同じウルトラマンとは思えない、獣のような動作だ。
そして飛び上がる。斜め下に、ロボットの頭部が見えた。一気に腕を振り下ろす――

火花が散る。しかし、倒れたのはロボットではなかった。
盛大に海面に激突しているのはウルトラマン。怒りと苦痛で悶え苦しんでいる。
と同時に、逆に起き上がった者がいた。
――ヴァドスだ。
ウルトラマンの猛攻を受けながらもまだ生きていたヴァドスは、隙を見て倒れたまま熱線を発射、ウルトラマンを吹き飛ばしたのだ。

ヴァドスが咆哮する。その目は怒りの炎が燃え上がっていた。
起き上がろうとしたウルトラマンを思い切り踏みつける。何度も、何度も。
更にそこへロボットまでもが加わり瞬く間に試合からリンチへと化す。
「なぁ、援護するべきだと思うか?」
ハヤトはその様子を別に焦る様子も見せず、何とも暢気に見ていた。
「どう……なんでしょうかね」
遠野のほうも同じ様子。あんな残酷な戦い方を見せられては、むしろ怪獣の方を応援したくなるってものだ。
だがそこへ、隊長から通信が。
「そういうわけにもいかないだろう。あのウルトラマンが敵か味方かはわからんが、一つだけはっきりしてる事がある」
「それは?」
少し間を空けて、隊長は答える。

「怪獣は敵だ、ってことだよ」

正直気が進まないながらも、ウルトラマンの援護を開始する火竜隊。
せっかくのいいところを邪魔されてか、ヴァドスが怒りの熱線を吐きかける。
しかしそこに僅かな隙ができ、ウルトラマンはリンチ地獄から脱出してしまった。
反射的に振り向くヴァドス。その顔に拳がめり込む。
大きく吹き飛ばされ、ヴァドスは三十メートル以上先の海面に激突した。
背後からロボットの一撃が来る。だがその動きは焦っているのか隙だらけで、簡単に避けられた。
がら空きになった腹を一撃。ロボットも仰向けに倒れた。

ウルトラマンが飛び立つ。そしてヴァドスとロボット、両者を一つの視界に入れられるところで止まった。
再度、ウルトラマンの腕に光が収束する。今までの中で一番でかい光だ。
そして三度目の正直、やっとその腕から閃光が放たれた。

それは凄まじかった。メテオニックウェーブなど比ではない。
海が蒸発し、周りの景色が白一色に染まる。
素早くヴァドスがその胸にある紋章で吸収しようとしたが、無駄だった。
閃光のエネルギーはヴァドスの吸収できるそれより遥かに膨大な量であった上、
そもそも閃光が体全体を包めるほど巨大なのだから吸収活動自体意味を成さない。
瞬く間に、ヴァドスとロボットは同時に消し飛ばされていった。

空高く、どす黒い巨大なきのこ雲がもうもう立ち昇る。
先程までは青々としていた海も、今は白く濁り、沸騰している。
それ自体は周りの膨大な水によってすぐ消えるが、抉り取られた海底は二度と元に戻らないだろう。
「……なんてこった」
ウルトラマンが手に光を溜めた時点で遠野とハヤトは逃げて事なきを得た。
が、あの戦いの中辛うじて残っていた何隻の軍艦と戦闘機がほぼ全て消し飛ばされてしまった。

――甚大なる損害だ。
あの一瞬で、膨大な金と時間と、そして人命が無駄になった。
たとえそれが自分たちを守るためであったとしても、彼――ウルトラマンのやったことは許されるものではない。
――糞が。
無意識のうちにハヤトはそう呟いていた。自然と拳に力が入る。

ウルトラマンは目の前に広がる惨状を、さも満足気に眺めていた。
そして一通り見回した後、天を仰いで、再度咆哮する。何度も、何度も。
その様子は、最早人類を守る守護神ではない。

悪鬼、そのものだった。

「ぐぅ……ぅぅ……」
戦闘が終ってから数分後、星斗はようやっと目を覚ました。
全身が激しく痛む。特にヴァドスの放った熱線をまともに受けた胸の痛みは酷い。
「そうだ……あいつ、ヴァドスは……」
「死んだよ、星斗」
いつの間にか、目前に等身大のメテオが立っていた。
しかし輪郭がぼやけていることから、実体ではないことが窺われる。
「メテオ……? 一体、どういう……」
メテオは答えない。ただ、どこか悲しげな様子で海を見ている。
そこでようやく星斗も海を見た。そこに広がっているのは、想像を絶する情景。
「こ、これは……!」
愕然とする。まさか、ヴァドスが?
「違う。これをやったのは……別の存在だ」
いつものように星斗の内心を悟ったメテオが先に答える。
別の存在? どういうことだ。あの後に何者かが現れたとでも?
「一体誰が!」
星斗の脳裏に様々な人のことが浮かぶ。遠野、ハヤト、自衛隊の人達、そして――カゲリ。
だがメテオは答えない。言い出すのを渋っているようだった。

「メテオ!」
必死の思いで聞き出そうとする。そんな星斗の心にあるのはただひとつの感情、憤怒。
やがてメテオは諦めたようにこちらを振り向いた。
そして喋りだす。
「――これを、これをやったのは……」
「俺だ」
ふいに割り込んできた第三者の声。
驚いた星斗は反射的にそっちを向いた。
そこに立っていたのは、どこか怪しい雰囲気を漂わせる男。
直感的にわかる。この男、地球の人間ではない。
「お前は誰だ!」
叫ぶ星斗。
男は嫌な印象を受ける薄笑いを浮かべ、それに答えた。

「……ウルトラマン、テラント」


次回予告
突如現れた、ウルトラマンテラントと名乗る謎の男。
あの惨状を生み出したのがウルトラマンだと知って、星斗はショックを隠しきれない。
だが彼は言う。俺は、自分なりのやり方でこの星を守ったまでだ、と。
そこで今まで黙っていたメテオがついに口を開く。そこから飛び出したのは、彼の忌まわしき過去の記憶だった……。

次回・「警備隊の影」

・ウルトラマンテラント 登場
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