前置き。
今回の話は戦闘もないですしドラマも大してありません。ただ永遠と説明して終わりです。
そして前回書いた次回予告とも微妙に食い違ってる部分があります。
その点をどうかご了承ください。

第11話・警備隊の影

・ウルトラマンテラント 登場


暫くの間、沈黙が続いていた。
聞こえるのは波が打ちつけられる音と、上空を旋回するスターやムーンのエンジン音だけ。
その間男はずっとあの嫌な薄笑いを浮かべていた。

背筋が凍る。
この男、何を言っている?
ウルトラマンだと? そんな馬鹿な。
「そんな馬鹿な、とでも思ってるだろう」
全てを見通したような男の声。
それは、いつも星斗の心を見透かしていたメテオとどこか重なる。
「だが残念なことに、俺はウルトラマンなんだ」
両腕を天に掲げ、太陽の光を一身に浴びる。
もし星斗が先程の戦いを見ていれば、あのウルトラマンと全く同じ動作をしているということがわかっただろう。
男は手を下ろし、再び星斗と――傍らに立つメテオを交互に見た。
「お前も相変わらず甘いなぁ、メテオ。お前の力ならばこの男の意識を潰し、体を乗っ取ることもできただろうに」
メテオの表情が強張った――ように見えた。実際には変化はないのだが。
やがて、絞り出すような声でメテオは男に語りかける。
「……私は、私はそのような事は断じてしない」
少し間を空けて、続ける。
「貴方とは違うのだ。………テラント前隊長」
「隊長?」
何だか全く話が読めない。隊長って何だ? 」

男はそんな星斗を見て、さも哀れそうな表情をする。
「何だ、何も知らないのか。教えてやればいいものを……」
大きな息が男の口から漏れる。
そして、仕方がないな、と前置きして話し始めた。
「俺から話してやろう。……俺と、そこの男の秘密を、な」



今から数千年前の話だ。
俺は、今そこの男が所属している『宇宙警備隊』の隊長を務めていた。
隊長になる遥か以前から一族の中でも最強クラスの力を持っていた私は、皆から英雄と呼ばれていてな。
今思えば、あのころが俺の最盛期だったかもしれない。


「何で、その英雄があんな事を?」
わけがわからなかった。宇宙警備隊と名乗るのならば、宇宙の平和を守ることが仕事だろう。
それが、何故。
「話は最後まで聞け」
男は再び語りだす。
・昆虫怪獣マジャバ 登場
確かに俺は英雄と呼ばれていた。
だが、仲間内からはあまりいい目で見られていなかった。
……戦い方が、彼等の考えと相容れなかったばかりに。

「あんな男を隊長にして、大丈夫か?」
「え、何で?」
「いや、たださ、噂じゃあいつ、怪獣軍団を倒すために星一個潰したって話だぜ」
「マジか。……そんなことしたら、大隊長黙ってねぇんとちゃう?」
「まだ“噂、だからな。下手に手出しは出来ないんだろうよ。……それに癪だけど実力は本物だからな」

俺は目的を成し遂げるためなら手段は選ばなかった。
凶悪な宇宙人の星に行きそこの住民を皆殺しにしたり、または二度と復活できないよう星ごと粉砕したこともあった。

……だがそのおかげで、救われた星は数知れない。
だから俺は自分のやってきたことを一度だって間違った事だと思ったことはないさ。

「しかしあの運命の日、俺は全ての栄光を一瞬にして失った」
徐々に男の声が感情を帯びる。
それは紛れもない憎しみと、怒りだ。
「俺はある時、同僚の男と共にある星へ調査に向かった」
続ける。
「そこの星には狂暴で危険極まりない宇宙怪獣が多数生息していた。そのまま放っておいたら何をするかわからなかった」
ふいにそこで、メテオが横から割って入り喋り始めた。
「だが一方でそこには、普通の平和な住民が暮らしており高度な文明を築いていた。
彼等はその文明の力で怪獣達を操り、大人しくさせていた」
そのことは調査に行って初めてわかった事実だった。
テラントと一緒に行った同僚は、これならば問題はないと考え、しばらく様子を見ようとの提案を上げた。
「しかしこの男はそれに反対した」
メテオは真直ぐ男を指差している。
男はそっぽを向き、フンと鼻を鳴らす。
「一度も会ってもいない住人達。連中がどういう思想を持っているかなんて、俺にはわからない」
続ける。
「だからもしかしたら、奴等が怪獣達を操り他の星に侵略を開始するかもしれない。そう思ったのも仕方のないこと」
テラントと同僚の男は暫くの間、もめた。
しかし結論は出ず、業を煮やしたテラントはつい先走った行動をしてしまう。

「まさか……」
嫌な予感が浮かぶ。
メテオは悲しそうな声で、そうだ、と言った。
「この男はやってしまった。住民とろくに話もせず、その星を丸ごと消し飛ばした」
男は黙っている。悪びれた様子は見せない。
「当然その行動は大問題となった。すぐさま裁判にかけられ、そして……」
「俺は警備隊を、いや、M78星雲を追放された」
男の声の怒りが最高潮に達する。
その目は思わず目を背けたくなるほど、鋭い。
拳を握り締め、叫ぶ。
「何故だ! 俺は宇宙の平和のためにやったまでだ! 
もし私があそこで何も手を下さず、奴等が侵略に乗り出したらどうする? 連中の何倍もの命が犠牲になっただろう!」

狂っている。星斗はそう思った。
生き物の命、その大切さは量の問題ではない。
多かれ少なかれ、命の重みは変わらない。
だがそれをこの男は、天秤にかけ、多いほうを守るためだけに少ない方を消したのだ。
しかも、“かもしれない”という、何ともあいまいな理由で。

「ふざけんなよ!」
男と同じくらい星斗の声にも怒りがこもる。
今まで自分とメテオも多くの命を地球人を守るために奪ってきた。
だけどそれは最早どうしようもなかったからだ。
少なくともこの男のように、一方的に危険な存在だと決め付け滅ぼしたわけではない。
「ふざけてなどはいない。俺は、俺のやり方でこの宇宙を守ろうとしただけだ」
「その“やり方”がふざけてんだよ!」
殴りたい衝動に駆られる。それはメテオだって同じだろう。
だが男は逆に、先程とは打って変わり落ち着きをはらって言った。
「……もういい。いくら話しても君にはわかってもらえそうもないからな」
「わかってたまるか!」
男は再度、腕を天に掲げ青空を仰ぎ見る。
「やれやれ、そんな考え方では、“奴等”には勝てないぞ」
奴等? 誰のことだ。
星斗が聞くよりも早く、メテオが尋ねた。
「奴等、とは?」
男はメテオの方を見、心底呆れたような口調で話す。
「何だ、そんなこともしらないのか。それでよく宇宙警備隊を名乗れるな」
挑発されてもメテオは何も言わない。
内心、怒りに満ちているだろうが。
「そうだな、まぁ名前くらい教えといてやろうか」
男はそこで一息つく。そして、

「ゼラノイド。……この名を、よく覚えておけ」

みるみるうちに男の姿が掻き消え、別の姿に変わる。
赤と黒の混じった、あの悪鬼に。
そして悪鬼は、ゆっくりと空を仰ぎ見るとそのまま飛翔、何処かへと去っていった。

ゼラノイドとは何なのか。そしてテラントとの関係は?
様々な疑問を残しつつも、星斗は再びメテオと同化、不時着したスターへと急ぐことにした。


次回予告
謎のウルトラマン、テラントの出現から三週間が経った。
そのころ街では、あらゆる建造物が突如切り裂かれるという事件が発生していた。
恐怖に包まれた街を守るため、火竜隊が調査に乗り出すことに。
だが、そんな彼等にも危険が降りかかり――?


次回・「見えない切り裂き魔」

・昆虫怪獣マジャバ 登場