第一章「龍秘める少女」
遥かな未来、舞台は日本の帝都、東京。

 軍 日本基地帝都治安維持局のメンバー マミヤ ヒスイはある孤児養護施設を警備していた。
この施設に何度も現れる怪人物、彼は施設の子供達ではなく一人の職員に危害を及ぼそうとしているのだ。

カンナ。施設住み込みで働く十八歳の少女。彼女自身記憶を失った孤児である。

一方日本基地科学調査局のヘキ ゼンジロウとイワカゲ ユリノは怪人物の体内に未知の生命体が寄生していること、怪人物の正体である男が十七年前に死んでいることを見破った。

そのころ、施設に近い地域で複数のゾンビが出現。ゾンビ軍団は日本基地陸戦部隊のエリート、フナト ベニヒト隊員の活躍でほぼ壊滅状態となる。そしてヒスイも、ようやく怪人物の身柄を確保する。
しかし怪人物は生き残ったゾンビ達と融合、巨大なる獣 ギアロと化した。

 フナトの陸戦部隊はギアロの攻撃で半壊、ヒスイはカンナを守ろうとして致命傷を負う。
そこに現れた治安維持局長ゴジョウ ホノカは臨時指揮官としてフナト、ヘキ、ユリノをまとめ作戦を立案、僅かな残存戦力のみで敵の触手を叩き斬る。だが斬り落とされた触手はエネルギー体へと変化し分裂、
周囲の死体に寄生しそれらをギアロ本体に再融合させる。怪人物はエネルギー体へ分裂したギアロに操られていたのだ。

 ヒスイが倒れたことをカンナは遠くから悟り、彼の救命を強く願う。刹那、カンナの意識は見知らぬ場所に飛んだ。
霞に包まれ、周囲の山や木々が鏡のように写る峡谷の湖…その水面から「龍」が姿を現す。何故かカンナはそれに全く動じず、ヒスイを救うよう願う。
と、瞬時に彼女の意識は現実に戻る。その彼女の体から「龍」が立ち昇った。光が凝縮されて姿を成しているかのように輝く龍はカンナを離れ、ヒスイを包み込む…
だがカンナ自身はまたしても記憶をなくしてしまうのだった。

光に包まれたヒスイは、意識の中で青い龍と対峙していた。
カンナを救おうとするヒスイは龍に助力を願う。人の生死を問題視しないかのような龍だったが、
あくまでカンナを守るため、との理由でヒスイへの助力を約束する。

 記憶を無くし自失するカンナにトドメを刺すべく迫るギアロ、瞬間、ヒスイは「龍」へ変身する。天空へ舞い上がる龍、
その姿は見るまに人型へ転じる…天空へ現れたのは蒼い「巨人」

 ギアロに攻撃を仕掛ける巨人、しかし人間の怨念をスタミナに変えるギアロは強敵だ。
巨人はヒスイの意思で活動しているため闘い方も分かっていない。防戦一方の巨人、更に突如動きが鈍り、膝を突いてしまう。
と同時に胸部中央の発光体が青から赤へ変色し、警戒音とともに点滅を始めた…

 焦る巨人=ヒスイ。だが龍の意思が巨人を動かした。装甲部分に念を集約せよ、との命に従うヒスイ=巨人。
その体に緑色の装甲が、肩に刃が、頭部の「眉」に当たる部位に金色の角が現れる。
これは、怒りの形相だ。

 ギアロのあらゆる攻撃を片手で弾き、凶暴にして華麗なる脚技で一瞬にして形成を逆転させる怒りの巨人。だが何処か無理をして平静を装っているようにも見える。その証拠に胸部の点滅は一層激しさを増しているのだ。長くはもたない…
 尚も蠢くギアロ、巨人は全身から光を放出し、それを球形に凝縮、ギアロに叩き付けた!
炸裂した光球は膨大な光の波動となってギアロを呑み、「消滅」させた。人の怨念を糧とした魔性は、その怨念とともに虚空へ消え去るのだ。

昇竜の姿を経て巨人はヒスイの姿へと戻る。そこで彼は全てを忘れたカンナを見る。
そしてカンナも自分が記憶をなくしたことを悲しむ園の子供達を見ていた。一方ではギアロの攻撃で落命した者もいる…自分や周囲の人間が何者か分からぬまま、カンナはある決意を固めていた…

 「レイハ」ゴジョウ ホノカを大宰(隊長)、フナト ベニヒトを小宰(副長)とし、突如編成が決定した 軍 日本基地の特別任務班である。ヘキとユリノが司馬(隊員)として加入したのは当然としても、選抜試験でトップの成績を見せたのは意外な人物だった。
 
 カンナだ。人間とは思えない五感、反射神経、集中力を発揮し実にあっさりとレイハへ入隊する。それは名も知らぬ子供達にこれ以上涙を流してほしくなかったから。

 カンナの選択を危険視したヒスイは、彼女の負担を減らすため自らも戦うことを決意。
当初は自分の力だけで戦うつもりだったが、怪獣によって寺院に閉じ込められた一般人を救出した功績を称えられ、レイハのスカウトを受ける。

こうして地球という星は最強の防人、「レイハ」そして龍の巨人「ウルトラマンリュウラ」を迎えることとなった。
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第二章「防人と青龍」赤色火獣カコウ、青色融獣ヨウソウ発現

 ギアロの死から数日後、カンナは「軍」日本基地にいた。彼女は軍特務機関「レイハ」の司馬(隊員)となった。
だが一方の当事者であるマミヤ ヒスイの姿はない…彼は行方を絶っていた。

 そのころ東京、神田では奇妙な円筒形の物体が土中から発掘される。
頭数が揃わないままレイハは調査に出動。カンナはその物体を「恐ろしいもの」と感じていた。

 果たして物体の中身には赤と青の液体が存在していた。外部からの霊視ゆえ正確には分からないが、
これはどうやら液化した体細胞。同封された金属板には「この二匹の悪魔を開放するべからず」と、旧暦に多用されていた「英語」と呼ばれる言語で記載されていた。
これは旧暦の末期に開発された生物兵器の可能性がある…

 何が二匹を開放する鍵なのかは不明であるため、とりあえず大型の容器で円筒を保護し、基地に持ち帰ることとする。
が、そのさなか作業員の一人が何者かに憑依された。彼は円筒を取り出すと、それに電撃を加えた。円筒は破損、液体は大気に触れ、赤と青の獣を出現させた!

 赤の獣、カコウは細身の体で火炎を放ち、青の獣ヨウソウは分子結合を弱化させる溶解液を吐く。
その時、上空に「機翼」が現れた。

レイヒュウゴ。軍がレイハ専用に実戦投入した新型機である。小宰のフナトがレイヒュウゴで攻撃を開始、
しかし大宰のゴジョウが中止させる。二匹の戦いで近辺の錬翁寺が半壊、一般の民が閉じ込められたらしい…
フナトは(いやいやながら)鬼道機関を発動、二匹を呪縛し救助の時間をとる。

 寺に突入するカンナ、その前にヒスイが現れた!民はほとんどヒスイが救助済みであった。そして最後の一人をカンナに預けるが、
その時二匹の呪縛が解けた。天井に下敷にされながらもヒスイはカンナを説得し脱出させる。

そのヒスイの眼前に勾玉を中心とした装飾具が出現。これは自ら飛びヒスイの胸に装着、彼を龍に変える。
龍は巨人に変わり降臨する!巨人の策略でカコウはヨウソウの溶解液を喰らい、レイヒュウゴにトドメを刺された。
そしてヨウソウも「怒りの形相」の巨人に大気圏外まで蹴り飛ばされ、光の球弾で消滅した。

二匹の死から数日後、ヒスイは軍日本基地にいた。彼はレイハの司馬となった。寺の一件での活躍を見込まれスカウトされたのだ。

物静かで無口なカンナだが、その日は極めて上機嫌であった。
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三章 三章花、嫌い  邪花トハンビ発現
 レイハの隊員、ユリノ。彼女は本日イラついてらっしゃった。原因はあの小娘、カンナだ。
記憶喪失、正体不明、何考えてるのか読めない。しかし能力―特に射撃と鬼道の知識―は恐ろしく高い。
大宰のゴジョウに彼女を入隊させた理由を聞いたところで
「可愛かったから採用したの☆」と、全く要領を得ない。
 ちなみに当のカンナはヒスイと一緒にいた。ヒスイにとってもカンナの扱いは難しい。
彼女は「ギアロが死んだ後に瓦礫の中から生還して」以降のヒスイしか覚えていないのだ。
カンナは突然旧暦の言語「英語」を思い出し、蒼き巨人に「ウルトラマン」の名をつける。が、まだお気に召さないらしい。
彼女は更に「リュウラ」と名づける。ヒスイはそれに反対だ。何故なら「龍」とは、旧暦最悪の事件と呼ばれる「太陽の肥大化」から
地球を救った絶対的な存在だからである。
ちょうどそのころ、浅草では奇怪な植物が大学の老師に発見されていた。この植物には根がない。研究室に持ち込まれるが、その植物は老師に喰い付き猛毒を分泌、気状に分解し、老師だったモノを吸収する。
そして自ら動き、大学から宮内庁へ繋がる無人の旧地下街に身を隠した。そして近くを歩く学生達を次々引きずりこんでは吸収していく…
 喰われた老師の細胞ともう一つ、未知の葉緑体を発見したレイハは軍陸戦部隊とともに旧地下街へ突入する。
だが二十年前から放置されている地下街は荒れ放題。どこに植物がいるのか分からない…所在が分かるのはカンナ一人。
しかしカンナを信用できないユリノは彼女の言を無視し、自ら植物を焼却しようと無謀な作戦を展開する。結果、陸戦部隊から二名の殉職者が出た…

ヒスイは言霊を放つ!
「君が宿主、マミヤ ヒスイの名において命ずる。龍、明、和合すべし。出でよ…リュウラ!」
ヒスイの手に光が集束、勾玉を中心とした装飾具「龍水玉 アクアアイ」と化す。
これを胸に近接させ光を放出、青龍の姿を経てヒスイはウルトラマンリュウラ ジン に変身する!
一方レイハも再攻撃の準備が整った。レイエンキュウは装着した弾装を弓のように引くことで、
弾装内部の全エネルギーを一発に凝縮して発射できるのだ。無論外せば後がない…ゴジョウは大宰の権限でユリノを復帰させた。
ヘキは弾装のエネルギーを再チャージ。
そしてユリノはカンナの言に従い、敵の動きを読んで呪縛に成功、その隙にカンナの弾丸が炸裂した!
もはや人型を保てなくなった邪花は、リュウラが怒りの姿「ゲキ」に変身し放つ
「裁邪龍光弾シャイニングボム」を受け、完全に消滅していった。
 事件終結後、ユリノはさらっとカンナに食事をおごるのだった。
そしてユリノは次の日もイラついてらっしゃった。
カンナにイラついていた余り、自分の部屋の花に水をやり損ねていたからだ。
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第四章 燃えろ!ヘキとかいう男!    招嵐獣ギセキズ 発現  
水、それは民に恵みを与えるもの。だがそれだけではない。
カンナは東方の海浜を思い描きつつ、そう考えていた。
 レイハにはヘキ ゼンジロウという隊員がいる。レイハの男性隊員では最年少の
二十二歳。旧暦の遺産たる物理的兵器工学の知識が豊富。
が、コイツは他部署の女性職員にとって影が薄い。
ヘキ ゼンジロウなどという奇怪な名前ゆえに「名前は」覚えられるのだが
「どんな顔だったか思い出せない」「前どこの部署にいたっけ?」
あげくのはてには「そんな隊員いない!」と断言する女までいる。
しかもその統計を図表にしてわざわざヘキに見せるレイハの大宰ゴジョウホノカがいるもんだから、ヘキの純粋心臓はもうズタズタである。
そのころ、紅退港周辺の海では奇怪な生物の背中が頻繁に目撃されていた。
近辺の民は「セキズか?」と懸念する。この周辺の海で古来より伝わるミズチの一種、紅いウロコを持ち、水面に現れれば津波を巻き起こすという…
そしてセキズの首が現れた。急ぎ調査に向かうレイハだが、緻密な調査は不可能だった。既に紅退港周辺の街は、セキズの津波で水没していたのだ。
セキズは続いて北西の五寧港に向かう。爆撃を加えるレイヒュウゴだが、敵は嵐を巻き起こし焔弾砲を空中で止める。
敵の正確な姿を思い描けなければ鬼道機関も発動できない…
一瞬の隙を突き、攻撃に回るチャンスを掴んだレイヒュウゴ。しかしヘキは攻撃しようとしない…
ヘキは津波を操るという人知の及ばぬ力を目にし、恐怖の余り攻撃のチャンスを逃したのだ。セキズは空中で衝撃波を起こしレイヒュウゴを攻撃してきた!
恐怖に支配されたヘキは離脱もままならず、レイヒュウゴは飛行不能に。危機を感じたヒスイはレイヒュウゴ内であるにもかかわらず、龍水玉アクアアイを召喚する。
しかし龍は力を貸さない…
「ニンゲンが水を己の意のままに動かすことは許されぬ」らしい。
そう、龍にとってニンゲンの生き死になど些細なこと。カンナの願いでヒスイに融合しているだけ。
そしてセキズは再度海に潜り、嵐を起こし五寧港を全滅させるのだった…

墜落しつつ、カンナはセキズの正確な姿を霊視、それをユリノに感応させる。ユリノは急ぎ敵を呪縛、とりあえず動きを封じた。対策が見つかるまで呪を継続させるため、法陣を描き真言を唱え続けることとするユリノ。しかしこの法は、術者に大きな負担を強いる。
責任を感じ、作戦から自らを外すよう進言するヘキ。しかしゴジョウは問う
「気弱になれば人を助けられるの?」と。
カンナは、セキズの体細胞と思われる欠片を拾った。これを分析したフナトは驚愕する。この細胞の構造は、ギアロに酷似しているのだ。
セキズとあの魔性にいかなる関係が…
一方ヒスイの中の龍も、セキズへの疑問を持っていた。あれほど無軌道に破壊を繰り返す獣が真のセキズであろうか?
ゴジョウの言葉で再起したヘキは、セキズの吐く光線が空中で多量の重力粒子へと変質していることに気付く。
セキズは重力粒子で海水を巻き上げ、強い呪法によってそれをコントロールし鉄砲水へと変化させているらしい。
ならば同量かそれ以上の反重力粒子をぶつければ、一発は無効化できる…それが分かるやヘキは反重力粒子放射システムを搭載したレイエンキュウの新型弾装を開発し始める。
弾装が完成しないうちにユリノが限界に達し、セキズは覚醒、三度嵐を起こす。その時ヒスイの掌に光が集束する。龍は彼に力を貸した!ヒスイは言霊を放つ。
「君が宿主、マミヤヒスイの名において命ずる。龍明和合すべし…出でよ、リュウラ!」
ヒスイが変身した青龍は津波を止め一喝する。
「水よ、お前は自らの意思でニンゲンを殺しもすれば生かしもする。そのお前が何ゆえ魔性に操られるか、還るが良い!」
 津波は逆流、三度目は防がれた。が、水面から「偽者の」セキズが全身を現した。
重力粒子で巨大な衝撃波のドリルを生み出しウルトラマンリュウラを追い込む偽セキズ。

遂に反重力粒子の弾装は完成。ヘキはとにかく一本気なのだ。やり始めたら最後までやる男。三日かかる兵器を六時間で完成させた。
それは、気弱にならず民を護るために。それがレイハを選んだ自分が成すべき事。
 ヘキの新弾装は見事偽セキズの武器を無効化した。その隙にリュウラは、額の第三の眼から光の衝撃波「霊光波弾ショットスパークル」を発射、
偽セキズの重力粒子発射部分を貫く!そして「ゲキ」に変身、裁邪龍光弾シャイニングボムを発射し偽セキズを消滅させるのだった。
しかしヘキは複雑だ。ユリノをギリギリまで追い込み弾装を開発したにもかかわらず、
結局は完成前にピンチに陥りまたもリュウラに救われてしまったからだ。
 数日後、壊滅した港の生存者たちを見舞うレイハ。だが生存者自身はレイハを気にせず洗濯物を取り込んでいた。
なぜなら、水面にセキズの背中が現れたから。
そう、真のセキズは、民に雨の降り出すことを教えてくれる親切な獣なのだ。
 水は民に恵みを与えるもの、だがそれだけではない。ヘキは湯飲み片手にそう思っていた。
なぜなら、水飲んでる最中、後ろからゴジョウに「わっ!」てやられ、今思いっきりむせているからである。
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五章 荒ぶるろりこん 食声邪仙ゼイン発現
 カンナは美しい少女だ。百人中九十六人がそう思うだろう。残りの四人はカンナの顔つきが南蛮人風で好めない、と思うだろうが。
と、マミヤ ヒスイは、酒で煮た桃を黙々とかじるカンナを見ながら考えていた。
確かに、顔つきに関して言えば「美しい」というに異論は無かろう。しかし、意見が分かれると思しき所もある。
それは彼女の声質だ。彼女の声は、確かに透明感のある上品なものではある。ただ、鈴を転がすような、
小鳥がさえずるかのような高く幼い声ではない。低いというほど低くもないが、そもそも無口だからだろうか。どこか威厳が漂う、そんな近寄りがたい声を持っている。
そんな事を考えるヒスイには何の興味も示さず、カンナは更に杏仁豆腐をパクついていた。
帝都、東京。銀座はその日、お祭りだった。なにせ今日は、
銀座凌雲閣公園で社会現象的人気歌手 唐波 紅 が野外唱歌を行うってんだからそりぁあっしら江戸っ子は銀座に結集でござんす。と、三代続けて魚屋のゲンさんが言っている。
しかし、唐頼 紅は歌うことはなかった。公園に来る途中、車が何者かに襲われ、惨殺されたのだ。
彼女を殺した何者かは、その後も四人の「歌手」を抹殺していった。
果たして奴はどこに現れるのか…帝都の夜は久々に闇に包まれた。
 捜査を委任されたレイハは、ユリノとカンナの霊視により敵が西洋で言う「音階」を集めているのでは?との推測の下活動を開始した。被害者の標準時の声の高低は全員異なっている。
その上死体のノドからは声帯が消えているのだ。現在ド、ミ、ファ、ソ、シが集まっている。しかし銀座にいる歌手で、通常の声がレ、ラの人間なんていくらでもいる…
しかし五人の被害者には共通点があった。全員女性で、名前に「ナ」と「カ」が入っている点。

軍鬼道研究班との協力で、次の標的を十人に絞り込むことに成功、レイハはイノシシほどの体躯を持つ巨大なクモ状の生物をキャッチした。
だがレイエンキュウの攻撃が全く通用しない。ユリノは鬼道機関を発動、一撃必殺の呪法を準備する。この法は複数の術者が息を合わせなければ発動しない難しいタイプのものだが、ユリノとカンナは(無理やり)成功させる。
 生物は砕け散った。僅かな破片が鬼道研究班の研究所に持ち込まれる。その細胞には奇妙な点があった。生物自身の細胞に何らかの別の生物が侵入しているのだ。
しかしその別の生物を分析しようにも、そいつには「質量」が無い…生物のはずなのに、存在しているのに、こいつはいわば「虚無」だ。
そして、質量の違いこそあれコイツの細胞組織の構造は、ギアロ、偽セキズに酷似していた。奴らと同種の存在か…
 そのころ、生物 ゼイン の細胞は一片になりながらも脈動を再開していた。そして、以前と同じ体躯となり研究員達を抹殺していく!しかし研究員の中に当然歌手などいない…
再生したことで本能に異常をきたしたか?だが一人、犠牲者の中で声帯が消えている女性がいた…奴は残りの一人を必ず殺しに来る!研究員は全員緊急避難、研究所にいるのはレイハとゼインだけになった。
各員の声帯を霊視するカンナ、そこにゼインが急襲をかけた。辛うじて撃退するものの、トドメは刺せていない。更に敵の狙いがハッキリした。
名前に「ナ」と「カ」が入る女性…奴はカンナの声帯を狙っている!
 自ら囮になったカンナは逆にゼインを追い詰めた。だがそこにヒスイが現れ無謀な攻撃を始める。

研究所で実験されていた小型機でリュウラを援護するカンナ。
しかし苦しむゼインはカンナの機を撃墜した!間一髪それを救助するリュウラ。遂に怒りは怒髪天に達した!
 リュウラはゲキに変身、慈悲の欠片も感じられない修羅のごとき攻めがゼインを襲う。
ゼインは龍とヒスイ、両方の逆鱗に触れてしまったのだ。
 完全に息の根を止められたゼインだったが、リュウラはなおも裁邪龍光弾シャイニングボムを発射。
ゼインの存在を消滅させた。
 そして、この事件以降敵の種別に「虚無」より来る「邪仙」が加わった。
ゴジョウは何者かが残した、ある託宣を一人思い出していた。
 
ヒスイにカンナへの恋愛感情があるかどうかは分からない。
無論カンナも自分がヒスイを好きかどうか分からない。しかしカンナは
「マミヤさんが来てくれて嬉しかった」
と言ってくれる。カンナは美しい少女だ。外面も内面も。
そんな事を考えるヒスイには何の興味も示さず、カンナは今度は蒸しパン三つをパクついていた。

リュウラ学 本日の講師 マミヤ ヒスイ&龍
「俺、マミヤヒスイは龍と融合した事でウルトラマンリュウラに転変する。
しかしいいのか?公に喋って」
「我は一向に構わぬ」
「おい」
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第六章 オカマ対ハゲ 狡邪神・ザラギ天出現

 レイハ副長、フナトベニヒトは鬼道機関が嫌いだった。
鬼道機関は「呪符」と「真言」によって敵に力をぶつける兵器。物理的破壊兵器よりも効果は(当然)大きい。
だが、彼は十六の頃から軍人として前線に立っている人間だ。前線で自分の命を救ってきたのは
いつも「旧暦の遺産」たる物理的破壊兵器だった。
物理兵器は、命中すれば確実に敵を損傷させられる。しかし鬼道機関は、術者の気と経験値が物をいう。
確実に攻撃を成立させられる、とは言い切れない。
旧暦ほどではないが、現在でも「鬼道」や「霊魂」の存在には否定的な意見が多い。
フナトもその一人なのだ。

 ギリギリで帝都に入れず、東京の横で小さくなっている都市がある。
関東郷、幡瑳県。そこで発生している事件がある。一家の主、「父親」が次々と怪死している。
それも近所で評判のいい実直な父親のみが。死因は心臓発作。犯人、動機、ともに不明。
 事件はレイハに持ち込まれた。だが、ヘキは出動しない。彼は新兵器「レイバンガ」
を開発中だ。

幡瑳県でパトロールを開始するヒスイ、カンナ、フナト。一方ユリノは死体を検分していた。
その胸には傷がある。この街には、生後まもなく籐楠寺で「胸を独鈷で突いてもらう」
独特の風習があるためだ。しかし被害者達の傷には、鬼道機関発動時ターゲットに発生する特殊なススが付着していた…
被害者は呪殺されたのか?
 ユリノは急ぎ基地に連絡、報告を聞いたゴジョウは全員に鬼道機関発動準備の指示を出す。
が、フナトはそれに応じない。彼には父親がいない。だから今回の敵は
彼自身で、彼が信じる「物理兵器」で倒さなければならない
との強迫観念に囚われている。
 ゴジョウは犯行場所を線で結んでみるが、規則性は無い。冷静さを欠いたフナトは自分だけで敵を探す。
そのためヒスイもカンナも作戦に従事し辛い…
 しかしその夜、偶然にもフナトは呪殺の現場に遭遇。レイエンキュウを振るい犯人に立ち向かう。
だがその正体は何と、籐楠寺の僧侶!僧侶の呪力にはレイエンキュウも通じず、
逆にフナトは呪撃を受け心臓を締め上げられる!そこにカンナが駆けつけた。
何故か彼女には呪が通用しない…カンナの眼を見た僧侶は
「格が違う」と言い残し消えた。

 強情を張ったことを恥じるフナト。そこにヘキが現れ、新兵器を手渡した。
レイバンガ。レイエンキュウほどの威力は無いが、状況に応じて銃形態、短刀形態に変形する。
そしてゴジョウは、敵の法則性に気づいた。現場を線で結んでいったところ完成したのは
「槇書体の」「死」という文字。しかし未完成。完成にはあと一回呪殺を行う必要がある。
ゴジョウとユリノはその一点を警備。フナト、ヘキ、ヒスイ、カンナは籐楠寺に突入をかけた!
そこにいたのは既に人間の様相を呈していない妖人達。その寺の中枢には邪悪な姿の神像があった。
(元は)僧侶達が言う。
自分達は御仏の教えよりもこのザラギ天を選んだ。
ザラギ天は「家族への愛」を持った魂を食すのが何よりもお好みだ。
このすばらしき天神を召喚し人々を救うため、我らは法陣を描いていた。
街人に傷をつけていたのは呪力の影響を強く与えるためだ、と。
怒りに燃えるフナトはザラギ天の像に攻撃をしかける。無論僧侶達はそれを迎撃した。
しかしフナトは守られた。カンナが放った法壁によって。さらにヒスイがレイエンキュウで邪神像を貫いた!
フナトは突入前、鬼道機関を取り入れた作戦を既に立案済みだったのだ。
 崩れ始めた神像、僧侶もレイバンガで次々倒される。だが神像は、倒れた自分の信者たちを吸収していく…
ギアロと同様に。そしてザラギ天は、巨大な姿で活動を開始する。

 ヒスイは遂に言霊を放つ。
「龍明和合すべし。出でよリュウラ!」
ウルトラマンリュウラ ジン は腕からの龍光刃シャイニングヴァイパーで邪神の装甲を破壊。
更に剣を召喚するザラギ天だが、ゲキに変身したリュウラは再度シャイニングヴァイパーを発射、剣をへし折った。
フナトはレイヒュウゴから鬼道機関を発動、ザラギ天の呪撃を弱化させた上に呪縛を成功させる!
しかし、道士の資格を持っていないフナトの呪縛は弱く、すぐに破られてしまう。
が、その隙を突いたリュウラのシャイニングボムが炸裂!
龍神の放つ光の前には邪神さえ一瞬で消滅していくのだった。

フナトは鬼道機関が嫌いだった。
だって鬼道に関するスキルはあたしぜったい部下に負けてるんだもん。
と、愚痴りながら鬼道機関についてユリノのスパルタ教育を受けているオカマである。
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第七章要はテンパッてるからさ 巨蟷螂ハン 発現
汪納山の崖を切り崩し、巨大なカマキリ型の生物「ハン」が出現、麓の汪納の街への侵攻を阻止するため、
レイハはレイヒュウゴで即時発進した。
「奴は何だって山の中に潜んでたわけぇ?」
訝しがるフナトに対し、カンナは
「虚ろから遣わされたんじゃない、山に昔から住んでたんです。」
冷静に返答する。しかし、奴が地球の生物であろうとなかろうと、優先すべきは避難しきれていない民の生命だ。
レイヒュウゴはセキズに使用したものより強化された、対空五式焔弾砲を繰り出しハンを攻撃。
更に装甲貫通用兵器、「飛宙槍」で止めを刺す。だが、四散したように見えたハンはまだ生きていた。
その夜から、街の民が人間大のカマキリに襲われ、ビックリする事件が多発する。
今の所ビックリしただけの被害者はいるものの、放っておくわけにもいかない。
レイハは再度街へ向かう。そのレイヒュウゴも、街へ飛ぶ途中大量のカマキリに襲われ、ちょっと操縦が危ぶまれた。しかし無事着陸する。
気付いたら街中に人間大のカマキリがいる。

戸を開けたら巨大カマキリがいて、ビックリして茶碗を落っことして割る。
勤務先の郷庁へ向かう途中、物陰から出てきた巨大カマキリに驚いてドブに片足突っ込んで同僚に笑われる。
小塾に通う子供達もカマキリに驚いて泣き出して女子から敬遠される。
街は大混乱だ。レイハは「ご町内カマキリ一掃計画」を開始。作戦の命名はゴジョウである。
しかしそのレイハも、敵の妙な小賢しさに翻弄される。
フナトは物陰から出てきたカマキリにビックリして頭打って気絶。
ヘキは一本道を塞ぐカマキリと堂々と渡り合った結果、交通妨害とみなされ奥様達に怒られる。
ヒスイは敵の落とし穴にはまる。カンナは呟いた。
「ヤバイ」
もうけちょんけちょんのレイハだが、ゴジョウがあることに気付いた。カマキリ共は、隊員の攻撃から身を守ろうとしていないのだ。
むしろ一直線に立ち向かっている。
カンナは直感のままに言った。
「カマキリたちは怖がってるんです。だから皆を威嚇するんです。でも退いたら負けだとも思ってます。」
迷惑な。退くことを知らないとは気弱なのか勇敢なのか。だが、それなら追い払うのではなく誘導してやればいい。
レイハは軍陸戦部隊と協力、「ご町内カマキリおいでおいで計画」
を開始。隊員達はカマキリを一人一匹づつポイントに誘い込んでいく。必死な形相で。

誘い込みが完了、カマキリは寄り集まり、ハンの姿を取り戻す。
「龍、明、和合すべし。出でよリュウラ!」
ヒスイはリュウラに変身。しかし敵は物凄く及び腰で無茶苦茶に鎌を振るってくる。正直、リュウラは困った。倒していいものかどうか。
一方カンナは「何故ハンは現れたのか」考えていた。その答えは、麓に大きな寺院が建設され、大勢の観光客が来たから。であった。
ハンは彼らの「音」を敵と勘違いしていたのだ。それを聞いたリュウラは掌底から気を打ち込み、ハンを眠らせる。そして山へ帰すのだった。
その後、寺院から物凄い勢いで苦情が来たらしいが、ゴジョウが一分で説得し揉み消したのでフナト以下の隊員は何も知らない。
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第八章「外れる道」 暗黒闘士ゼオ 地底獣ネロ・ギ発現
 関東省 関東郷 禅蚕県。その街に空から光線が降り注ぎ、地底から巨大な獣が現れた。火炎を吐き民を喰らう獣を止めるため、レイハは出撃。
と、ヒスイの眼前に見知らぬ男が現れた。男は奇怪な装具をかざし、そこから溢れる闇で体を包み巨人へと変身した。
巨人は獣を挑発しつつ戦い始める。ヒスイもたまに敵を挑発することがあるため、そのことに関しては文句を言えない。だが、巨人の声が聞こえる。
「悪さばっかしやがって」「ずいぶん喰ったなぁ、え?」「そんな火で俺は火傷もしねぇぞ」「おらおらどおしたぁ!」
ヒスイはその声を、龍が合体しているが故に聞こえるものだと思っていた。しかしその声は、レイハ全員、民にまで聞こえている。
そして巨人は、強烈な破壊光線を放ち獣を爆裂させた。民はリュウラとは異なる英雄の出現に沸き立つ。
その声援を一身に受けつつ「強いな、俺って」との言葉を残し消え去る。その後、同型の獣が各地に現れるが、その度に巨人がこれを倒す。
この時代、「影書簡」が資産家達の間で流行していた。これは書簡を鏡に向けて開くと鏡に映像が投影される、という文明の利器である。
その映像は、「報匠」と呼ばれる民が収集してくる。その報匠に、男は自分の正体を公開したのだ。
これを危惧したヒスイはゴジョウに進言、ニセ情報を報匠にリークさせ、男を誘い出した。
対峙する男とヒスイ。
「俺の名はサガミ シュン。闇の一族に力を与えられた戦士。
レイハやウルトラマンリュウラだけでは地球を守れないから、俺が皆を守るために闘ってやる。何せ俺は強いからな」
「ならせめて公に自分の能力を発表するな」
「それはできんな、俺は強いんだ。俺は何でも解決してやれる。
だから困ってる奴が俺に相談しやすいようにしている。これは俺なりの配慮だ。」
「それはお前の力じゃない、それにお前が解決すべきじゃない問題も沢山あるだろ?」
「連中は俺に守ってもらえばいいんだ、強い俺にな」

そこにひょっこり駆けつけたカンナ。彼女はサガミにデジャブを感じていた。そして問う
「何でそんなに自分の強さを語るんですか。それだけの言葉を使わないと自分の強さを信じられないんですか?」
その言葉にサガミは怒りを露にし、突如手から放った光線で例の獣を出現させる。これはレイヒュウゴの攻撃に沈んだが、
サガミ自身は混乱の中姿を消していた。
しばらくして、またしても獣が出現。しかも以前より強化されている。
この危機にヒスイはリュウラに変身。しかしそこに、サガミが変身したゼオが現れた。更にゼオは言う
「リュウラ、貴様は俺を誘き出すために獣を召喚し、民を傷つけるのか!絶対に許さん!」
そういうことか。奴は己の強さを誇るために獣を召喚し、更に己が絶対無二の「英雄」となるために
リュウラの信頼を破壊しようとしている…
リュウラは意識面でゼオに語りかける。
「お前も民を守りたいんだよな?なら俺を陥れる必要は無いんじゃないか?」
だがゼオは、
「お前は英雄じゃない。俺が英雄だ。だからお前は死ぬべきだ。俺は強いからな」
今のリュウラは、民から見れば英雄を邪魔する悪の存在である。ここで闘えば、自分は民の信頼を失ってしまう。
「それがどうした」
リュウラはゼオに襲いかかった!龍の判断ではない。これはヒスイの判断だ。一進一退の攻防を繰り広げる二人、
それを見るカンナはあることに気付いた。
「ふん、どうした?その腕でよく勝てていたもんだな」「遅いんだよお前の蹴りは!」
確かにゼオは余裕の言葉だ。しかし、その言葉が出るのはゼオが優勢になった時だけである。リュウラの攻撃を受けたときには何も言わない…
やはりそうか、奴が余裕を見せられるのは「自分より弱い相手に対して」のみだ。自分と同等以上の戦力を持つリュウラ ジンには中々余裕を見せていない。
カンナは怒り、レイエンキュウを放つ。
「言葉には言霊が、清き力がある。その言葉を軽々しく放つなぁ!」
カンナの攻撃で隙が出来た。そこにリュウラのショットスパークルが炸裂した!

一挙に劣勢となったゼオは獣を操りリュウラを襲わせる。
「貴様、危うくなればなりふり構わず、か?」
遂に怒りを爆発させたリュウラはゲキに変身した!獣の吐く火炎をかわし、空中から超高速で急降下、
一気に右ヒザを叩き込んだ!
「破邪龍剛脚 ドラゴンカムイ」だ。この一撃で獣は爆発、ゼオとリュウラ ゲキの一対一になる。
が、ゲキは長時間の戦闘が不可能。これに目を付けたゼオは、民を人質に取った!
「一歩でも動けば民を焼き払う…変身が解けるまでじっとしているんだな」
迷うリュウラ。だが龍は言う
「撃たせろ」カンナも同じことを思っていた。
リュウラは動いた。光線が民を襲う…が、その光線はショットスパークルで止められた。
間髪入れずにシャイニングヴァイパーが命中。勝負は決まった。
逃げようとするゼオに連続キックが浴びせられ、シャイニングボムがトドメを刺した!
「英雄が守るは、何よりも民。それを忘れた貴方なら、永劫の闇に消え行くがふさわしい」
カンナの言葉が、道を外した英雄への鎮魂歌となった。
しかし、奴に力を与えた「闇の一族」が何者なのかは謎のままである。

「そういえばリュウラもマミヤ君も余計なこと言わないよね」
と、ヘキが言う。対しカンナは笑顔で答える
「マミヤさんはわたしの英雄ですから」
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第九章何てったって大宰 自律飛行破壊器クウボウ 邪仙ヒルコ 機邪仙ハガネギアロ 発現
 ある墓が暴かれ、その屍に邪仙が憑依。巨大化し暴れ始めた。だが、通常に比べ不完全な能力である。レイヒュウゴの攻撃ですぐに敗走した。逃げ足は速い。
旧暦には数多くの便利な機械があった。その内の一つ「扇風器」が、日本帝国審議会の取り決めにより、関東省で最も暑い碓南郷尚代県でのみ試験的に販売されていた。
この時代、旧暦から残された多くの物理的破壊兵器が恐れられている。それでもなお、旧暦の機械である扇風器を買っていく民が沢山いる。
一月もすれば、この街全ての世帯に扇風器が行き渡っていた。そんなに夏が怖いか。
 実際の理由は不明だが、少なくともこの時代の人間は、旧暦の文明が滅んだのは物理兵器のためだと信じている。今日もそんな物理兵器の残骸が、尚代県の地下から発掘された。
これはカコウ、ヨウソウとほぼ同時期に開発されたものらしい。遠隔操縦者により自律飛行し、砲身から時限爆弾を散布する「クウボウ」と呼ばれる型だ。報匠も大々的に報じた。
 これを発掘したタサカ老師は、砲門の一つと主動力部に鋭い亀裂が入っている事に着目した。光線を集束し標的を切断する黎挫兵器(レーザー兵器)は旧暦にも存在した。
だがそれなら切断箇所が焼けているはずだ。この切り口は研ぎ澄まされた刀に一撃を喰らったような…
 その発掘現場にカンナの姿は無かった。ゼイン事件の際カンナが搭乗した実験用の機翼、これが新戦力としてレイハに譲渡されたのだ。
カンナはその試験操縦士となってここ数日結構忙しい。しかし、何度目かの試験飛行の夜、カンナは規定空路を外れる。

到着地はクニノイシズエ、高天原。何者かに呼ばれたらしい。しかし月を見上げ、「まだ…か」と呟き基地に帰還する。
カンナ自身「まだ…か」の意味は分かっていないようだ。
 次の朝、再度のタサカの呼び出しに応じ現場へ向かったゴジョウ。その時例のクウボウが街に時限爆弾を散布し始めた。
更にゴジョウはタサカに爆弾を装着されてしまう。
 タサカとゴジョウは同窓だった。彼は昔から全てにおいて自分を上回るゴジョウを妬んでいたのだ。
街の爆弾、まずは東南の一点が爆破された。いつ他の物も爆発するか分からない…タサカはゴジョウに勝負を申し込む。
「極短時間、部下との通信を七回だけ許す。その七回で民を救ってみろ。ただし八回通信すればお前は即爆死だ」
ゴジョウは笑顔で勝負を受ける。
そして命賭けの通信が行われた。
@「鬼道機関で街の神社の『神壁』を最大限強化して」
A「クウボウの爆弾のサンプルがあったわね。これをレイヒュウゴの砲門に装填」
B「民を『旧暦の機械持ってると爆弾が飛んでくる』って脅かして」
C「神社の周囲だけを思いっきり燃やして」
D「機械回収屋を街の外れの地下道に呼び出して」
E「偽セキズに使った反重力粒子弾を神社の鳥居にだけ発射。」
F「サンプルの爆弾をクウボウに発射!」
七回使い切った。するとどうだ。反重力粒子は強化された神社の神壁によって反射され、街中に拡散、爆発の被害を弱めた。
しかも民は、扇風器を捨てるために街外れの地下道に集まっていたため粒子の影響を受けなかった。
サンプルの爆弾はクウボウに着弾、更に、何と街中の残った爆弾全てがクウボウだけに襲い掛かる!

 暦の機械を持っていると爆死する、というウソによって民を極度の興奮状態に陥らせる。
次に神社の周囲を燃やすことで、その恐怖(興奮)を増加させた上、擬似的な「マツリ」の状況を生み出す。
そこで頂点に達した集団無意識的恐怖を神社の神壁によって拡散させ、爆弾自身に「旧暦の機械を追尾して爆破する」性質を与えたのだ。
 民は救われ、爆弾は全てクウボウを撃墜するのに使い切られた。無論、ゴジョウの爆弾も彼女を離れ飛び去った。
全てはゴジョウの作戦勝ちだ。そしてカンナの霊視によって、タサカのアジトも制圧された。
 だが、墜落するクウボウを空中で掴んだものがいる。先日仕留め損なった邪仙だ。邪仙はクウボウを吸収し半獣半機の姿になる。
その姿は…鎧を纏ったギアロだ!
 しかし、クウボウは爆弾を使い切り、ギアロは先日のレイヒュウゴに付けられた傷が癒えないままであったため、
リュウラ ゲキの必殺脚技「破邪龍剛脚ドラゴンカムイ」にあっさりと沈んだ。
だが、タサカはゴタゴタの中行方をくらましていた。
そして、カンナを見入る謎の影があった…
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第十章 水鏡の刃 吸怨機邪仙ハガネギアロ発現
 沙子泉、 という。遊牧民から聞いた話。ある家の、心の綺麗な若者は満月の夜、刀をその泉に浸す。
そして刀身に月を映しながら砥ぐと、この世の森羅万象を一撃で切断できる最強の刀と化すらしい。
 カンナはその日、極めて上機嫌であった。無言だが。
ようやく新型機翼の実験から開放され、二日間の休暇をもらったのだ。故に今日の計画は、
以前自分が働いていたらしい孤児院に顔を見せる。マミヤさんとどっか行く。甘いものたくさん買う。等々。
だから朝からもうウキウキしている。無表情に。
 一方のヒスイは不安だった。
「カンナの奴、甘味処巡りでもする気じゃなかろうな…俺は辛党なんだが…」
不安的中。「マミヤさんとどっか行く」計画と「甘いものたくさん買う」計画がカンナの中で突如融合し
「マミヤさんに甘いものたくさん買ってもらう」計画に変貌した。
で、本日四軒目の甘味処である。カンナは無表情ながらも満足そうだ。が、ヒスイはちょっとキツくなっている。
と、カンナは店の奥からの視線に気付く。少女。年の頃は十五、六。正式な店員ではない。制限付勤業して小遣い稼いで旅行にでも行く気なのだろう。
しかしあの少女はずっとカンナを凝視している…そして少女はカンナに話しかける。少女の名はクラマ ミウ。孤児院の前でよく会っていたという。
クラマ ミウ との名前を気にしながらカンナはマイペースに帰路についた。
 その夜、カンナは夢を見る。霞に包まれ、周囲の山や木々が鏡のように写る峡谷の湖。その近くの集落に自分はいる。三人の老人が話し合っている。
そこに龍が現れ、沙子泉の名を出して消える。
 朝、カンナは沙子泉を調べるものの所在は分からない。
そのころ、タサカは高天原に向かっていた。クウボウの研究で生み出した物理兵器で道行く人たちを次々抹殺しつつ。
 カンナは直感した。
「ミウ」「ミズ ウツシ」「水映し」
ミウは泉に関係している。だが甘味処にミウはいない。高天原に向かった、という。
高天原。先日無意識に向かった…
 (わたしは高天原に、泉に呼ばれた?)
カンナは新型機翼で一人高天原に向かった。だがそこにはタサカが待っている。

高天原、正午を過ぎた。泉を探すカンナだが、そこに動く屍体が襲いかかった!その彼女を救ったのはヒスイ、そしてミウ。
「ちょっと鬼道かじっててさ」と笑むミウだが、その法術は常人とは思えない。そして、敵の正体が判明した。今回の敵は先日撃破したハガネギアロ!
かなりの怨念を吸収しているハズだ。以前とは別物と考えて闘った方が良い。
 だが高天原に泉は見つからない。ミウは言う
「鏡ってさ、人の狂気を映すんだって。で、泉も言っちゃえば鏡だから…」
カンナは気付いた
「人が狂う日…そのときだけ泉は現れる。 のかな」
報告を受けたレイハはレイヒュウゴで高天原に降り立つ。だが軍から制限がかけられた。
「高天原においての鬼道機関の使用を禁ずる」
高天原はこの国のイシズエ。下手に鬼道を使うと国中の神社に悪影響をもたらす可能性がある…
更に、そこにタサカが現れた。とにかくレイハに復讐を果たしたいのであろう、
全くの無策でただ物理兵器を振り回す。が、コイツなら物理兵器で確保することも容易い。
タサカはあっけなくレイハに拘束される。が、彼の持っていた兵器からエネルギーが発生、タサカを吸収し、
巨大なギアロの姿を取り戻す。
更に、ここに来るまで殺してきた多くの人間をも吸収し、強化していく。
レイヒュウゴの攻撃も全く通用しない。その力の源は?
今宵は満月である。満月は人を狂わせる魔性。新たなギアロは怨念に加え、
人の狂気を新たな糧として強化しているのだ。だからタサカも満月に毒され、全く策を練らなかったのか…
苦戦するレイヒュウゴ、そしてリュウラ。だが、今宵は満月。人の心が狂う日。
高天原には…沙子泉が現れた。ミウはカンナに言う。
「カンナちゃんなら、刀を砥げる」

カンナは新型機翼で泉に突っ込んだ。そして急上昇、レイヒュウゴとニアミスする。
しかしそれがカンナの狙い。翼を泉で濡らし、満月を翼に映し、レイヒュウゴとの近接で発生した衝撃波を砥石とする。
速い。叩き出している速度は研ぐ前の少なくとも三倍。その速度をカンナはキープする。
そしてギアロに真正面から激突し、その体を貫いた!
新型機翼もカンナも無傷。一方のギアロは体だけでなく怨念、狂気、自分とタサカの繋がり全てを切断され、
体を維持できなくなっていた。その体がサナギのごとく凝固していく。体を持ったが故の執念か…
だがその体は、丸ごと死者の怨念から成立しているものだ。そんなギアロに慈愛をかけられるほど、
マミヤ ヒスイは春野ムサシ度が高くない。
最強のシャイニングボムが魔性を再び消し去った。
 日が昇り、沙子泉は姿を消した。新型機翼レイキザンは、余りに速すぎるため、
しばらくはカンナ以外の人間は乗りこなせない、
との判断が下される。だがもったいない。そのため、
ゴジョウはこの機翼をしばらくカンナに使わせることとする。無言で大喜びのカンナ。
 一方ミウは、一人呟いた
「カンナ…むかつく名前」
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