第二十一章  コウ 
高位闘神仙ラゴウ 分裂飛邪仙ツバサキオイ ウルトラマンカルラ 発現
旧暦の最終戦争は、高位の神ラゴウが引き起こしたものだった。ラゴウは奈良から再び戦争を起こそうと、民を凶暴化させ始める。
この陰謀を砕くため、ヒスイはカンナに自分がリュウラである事を明かし、変身。
だが先代のリュウラを抹殺した黒き巨人、ウルトラマンカルラに敗れ、変身能力を封じられてしまう。
レイハは、マミヤヒスイはこの危機を乗り切れるのか、そして三匹の神獣と接見するゴジョウホノカの狙いとは?
 白虎が口を開く。
「光の一族の者か?高位の神々に仕えるお前達が何故我らの元へ?」
「龍に、力をお貸しいただきたく…」
「…最強の力を持ちながらニンゲンなどと融合した…龍へ、か?
そもそも春日、そして日本全体の神壁は我らと龍の四神で保持しておった。だが龍はニンゲンと融合したことで春日を去り、
我らは三神で神壁を保持せねばならなくなった。既に我らに余裕はない。その我らになお力を貸せ、と申すか?」
が、玄武は白虎を遮る。
「敵は?」
「ラゴウとカルラです。」
「白虎、我は龍に力を貸しても良い。」
玄武の言葉に驚く白虎。だが、もう一方の朱雀は言う。
「私達の力を集中させ、龍の力を全解放させることができる新たな勾玉を作ることは可能です。
しかし、その勾玉は龍と融合したニンゲン自身、あるいはその者と強い縁を持つ者にしか与えられません。
残念ですが、貴女では不十分です。」
ゴジョウは唇を噛み、一度春日大社を出る。
 一方、レイハの前線基地。ユリノによる分析が終わった。ここ奈良では、春日大社の神力と東大寺の仏念が拮抗し、
霊的なバランスの悪くなっている箇所が一点だけある。ラゴウはそこに出現する事で、凶暴化の呪を蔓延させたのだ。
その上、古き都である奈良は無数の怨念が漂っている地でもある。その怨念に干渉し、ラゴウは呪を強化させたらしい。
このままラゴウの出現を許せば、奈良を中心に日本全土の民が凶暴化してしまう。結果待つものは、旧暦と同様、文明の破滅だ。
 何とか復帰したヒスイは臨時指揮官のフナトに問う。この危機の中、行方も正体も分からないゴジョウを未だ信じるのか、と。フナトは答える。

「マミヤ、アンタはウルトラマンの闘いに巻き込まれてケガしたんでしょ?大宰はドコ行ったか分かんない、
カンナは何か知らないけどずーっと泣いてて闘える感じじゃない。今大事なのは国の、世界の危機に戦力が足りないって事よ、それが現実…」
「しかし!…」
「大宰の前歴なんてアタシには関係ない。アタシはね、死ねば代わりが補充されるだけの二等兵…『捨て駒』からここまで成り上がってきた。
捨て駒はその時その時の指揮官の過去なんて教えてもらえないの。『今』この指揮官が信じるに足る人物かどうか、それだけで判断する。
で、アタシはゴジョウホノカの人物を判断してきた。彼女は今まで出会ってきた中で最高の指揮官よ。だからアタシは彼女に従う。それだけ。」
反論できないヒスイ、ヘキ、ユリノ。
「大体、クロサキから『カンナを渡せ』って言われた時、大宰は断ったんでしょ?」
確かにそうだ…
「なら大宰はカンナの味方。それが分かれば問題ないじゃない。」
正体なんて関係ない。楽観的だがあながち間違いでもない。オカ…フナトの言葉で少々気楽になるヒスイ達であった。
 軍日本基地、関西省支部から全航空隊、戦車隊、鬼道部隊が発進、奈良に集結し始めた。
レイハはおろか、ウルトラマンリュウラでさえ歯が立たない恐るべき敵、ラゴウを粉砕するために。
春日大社の神主達はラゴウの呪を強化する怨念を鎮める儀、東大寺の僧侶達はラゴウの呪への防御を担当する事が決まった。
さらに空には、日本基地関東省本部の訓練機が十数機到着する。その中にはもう一機のレイカイオウ、そしてレイキザンの姿もあった。
スガ教官が、訓練生を引き連れ援護に参上したのだ。
「猫の手も借りてえ状況だろ?猫の前にコイツラの手を借りてやってくれ。」
前線基地に入るスガの横にはトキツグの姿もある。不敵に笑むスガとは対照的に、トキツグは不安な様子だ。

「ヘキさん、リュウラが負けたって…」
うなずくヘキ。確かに、これまでリュウラは無敵の存在だった。それが負けたのだ…
「ラセツは?アイツ、ミカヅチん時にリュウラを助けたじゃないすか!何で来てくれないんだよ…」
「ミカヅチを危険視したラセツが、それを倒すためにひとまず休戦したって可能性の方が高いね。」
冷静に応じるヘキ。ヒスイは言いたかった。
ゴジョウ、カンナのみならず、全員に自分がそのリュウラであると明かしたかった。そして、もうリュウラは現れない事も…
拳を卓へ打ち付けるトキツグ。
「くそ!オレがウルトラマンになれたら…」
この場の誰もがそう思っていた…だが、一人だけ違った。
「そう思ってる間は絶対ウルトラマンにはなれない。」
…ヘキだ。
「リュウラは邪仙を倒す兵器じゃない、僕達の仲間だ。
そしてリュウラは、僕達が死に物狂いで闘ってるときに初めて姿を現す。
初めからリュウラをあてにしちゃ、彼は来てくれない。大事なのは、僕達が自分の力で最後まで闘い抜く事なんだ。
そのリュウラは、ラゴウと黒い巨人、カルラに負けた。もう彼は現れないかもしれない。
だから僕達は、僕達自身の手で、何が何でもラゴウとカルラを倒さなければならないんだ!」
 その言葉を物陰で聞いていたカンナ。彼女は密かにヒスイを呼び出す。
「マミヤさん、何で龍と融合したんですか?」
「…君から、龍を譲り受けた。」
「わたしが生まれたのは、すごい昔…旧暦みたいなんです。…大宰から聞きました。わたしのお母さんって…リュウラだったんですか?」
「そうらしい。天龍雅姫(アマタツノミヤビヒメ)と言っていた。彼女が、俺の先代の、リュウラだ。そして…彼女はカルラに殺された。」
最後の一言はヒスイではなく、龍の言葉である。カンナは一瞬だけ動揺する。そして…
「…思い出しました。死んだお母さんから、わたしは龍を譲り受けて、融合したんです!」
「!…カンナ…その龍を…俺に与えたのか…」
「…春日大社!マミヤさん、待ってて下さい。ぜったいまたリュウラになれるようにしますから!」
そう言い残し、カンナは一人、春日大社へ駆けていった。

 ラゴウ迎撃の準備が進むのを遠目から見るゴジョウ。そこにクラマミウが現れる。
「ゴジョウさん、あたしはさ、神々を守るためにカンナは死ぬ必要があるって聞いたから鬼神と融合してラセツになった。
あたしら光の一族は神々の言う事にハイハイ従って生きてきたわけじゃん。それ正しいのかな?
カンナを殺すってのは『神々の正義』だよね?でもあたしは今、カンナも、学舎の友達も皆、死なせたくない…あたしはどうすればいい?」
「『ウルトラマン』って言葉はね、『究極の人間』って意味らしいの。どんなに強い力を持っていても、ウルトラマンは人間。
だから、守りたいものを守ればいいと思うな。神々の正義とカンナちゃんたちの命、どっちを守りたいの?」
 黙りこむミウ…そこへ、ついにラゴウが姿を現した!構えるミウ。ゴジョウは春日大社へ走る。
「全部隊、攻撃開始!」
 フナトの怒号と共に、全ての戦車と機翼が火を噴く!しかし、シャイニングボムの通じないラゴウがこの程度で怯むハズもない。
戦車隊に狙いをつけるラゴウ。そこへヒスイのレイカイオウが砲撃をかける。
「リュウラになれないなら、俺自身で貴様を倒す!」
甲冑に光線砲を反射されつつも攻撃の手を緩めないヒスイ。
彼をヘキの乗ったレイヒュウゴ、スガとトキツグの乗ったレイキザンが援護する!
旧暦の壊滅から今の繁栄に至るまでどれほど永き時、多くの血が流れたか…
「ラゴウ、貴様を生かしてはおけん!」
レイヒュウゴ、レイキザン、レイカイオウ、そして多くの戦車、機翼がラゴウを爆煙に包む。
 とある戦車の操縦室。ヤケクソで砲撃を行う射手。彼の背後に突如として美しい青年が現れる。
「僕はアサギ。カルラって呼んでよ。」
アサギは戦車を奪い、周囲の戦車隊に砲撃をかける。統制を乱すつもりだ!
そして、統制が乱れ、集団の意識が個々に戻るということは、呪をかけやすくなるということ…
 戦車隊を狙い、ラゴウの眼が光る…戦車隊全員が凶暴化すればこの作戦は…
しかし、ラゴウの呪力をユリノの描いた法陣が無効化した。
「悪いわね、この作戦だけは邪魔させない!」
ユリノをアサギが戦車で狙う。が、そこに紅い巨人が立ちふさがった!
「ウルトラマン…ラセツ!」

 ラセツは左腕からハデスヴァジュラを引き抜き、ラゴウに切っ先を向ける!
勝ち目のない戦いに挑むラセツ。だが、ラゴウがどれほど強い相手だとしても勝たなければ。
ショットスパークル、ソードスパークル、ハデスフレアの三連攻撃がラゴウを襲う!だが、ほとんど無傷である。
さらにアサギが翼雷鏡サンダーボルト・クローを召喚。
「ラセツ…神々に従うって掟を破る気?ゴジョウにしてもミヤビヒメにしても…全く下らない…
君が宿主、鞍馬浅黄尊(クラマノアサギノミコト)の名において命ずる。翼、雷、和合すべし。出でよ、カルラ!」
 アサギは鳥神ガルーダ、更にウルトラマンカルラに変じる!
カルラは両手を交差する…ラセツの力も封じる気か!
「させん!」
ヒスイはレイカイオウから猛攻撃をかけ…ようとする。だが、既にレイカイオウは全武装を使い果たしていた…
カルラのショットスパークルを被弾し、操縦不能に。が、ヒスイは何とか墜落コースをカルラに向ける。
このままカルラに突っ込むつもりだ!しかし、ヒスイの脳裏にカンナの声が蘇る。
(マミヤさん、待ってて下さい。)
間一髪、ヒスイは脱出に成功。しかし、カルラはレイカイオウの直撃を受けてもさほどのダメージではないらしい。
ヒスイは着地後、深呼吸を一発。レイエンキュウでなおもラゴウとカルラを狙撃する!
カルラが気をとられた隙に、ラセツは体勢を立て直し再び剣を抜く。上空からはスガとトキツグの乗るレイキザンがカルラを砲撃
…しかし、レイキザンも武装が尽きてしまう。その窮地をヘキのレイヒュウゴが救う。フナトは自らも二機目のレイカイオウに搭乗、
ラセツを援護。ユリノは法陣を維持するため真言を唱え続ける。ヒスイはレイエンキュウを撃ち続ける。カンナを、この星を守るために!

 武装の尽きたレイキザン、だがこの機体にはまだ奥の手がある。
主翼で敵を切り裂く「ミウツシノヤイバ」だ。トキツグはその準備に入る…
「待て馬鹿野郎!コイツはカンナの嬢ちゃんにしか使えねえ技だ、オメーみたいな訓練生が…」
「教官!やってみなきゃわかんないっす。」
「ち…馬鹿野郎、オメーに任せるぞ!」
ラゴウに高速で突進するレイキザン、放たれたミウツシノヤイバはラゴウの甲冑に僅かな亀裂を生んだ!
だがそのスピードについていけず、スガとトキツグはコントロールを失った…
 その時、ヒスイの手に光が集束、アクアアイと化す!
(マミヤヒスイ、カルラの光はウルトラマンの中の『神』と『ニンゲン』の繋がりを遮断するものだ。
だが、お前の皆を想う心はその障害を破ったようだな。完全に力を発揮する事はできん、だが、少なくともジンの姿にはなれる。)
「ジンで勝てばいいんだろ?勝ってやるさ…
君が宿主、マミヤヒスイの名において命ずる。龍、明、和合すべし!出でよ、リュウラ!」
墜落するレイキザン、それを光り輝く龍、ウルトラマンリュウラが救った!
「馬鹿な!僕の…カルラの光が効かないなんて!」
「へぇ…さすが龍の選んだニンゲンは違うな。だが、勝てるかどうかは別問題だろ?」
「勝つ!」
リュウラは腕からシャイニングヴァイパーを伸ばし、ラゴウに切りかかる!
ラセツはハデスヴァジュラで、セントラルクローを振るうカルラと闘う。
レイハを含めた軍の部隊はリュウラとラセツを援護する!ラゴウの雷撃に襲われるリュウラ。
だが倒れるわけにはいかない。雄叫びで己を奮い立たせ、何度もシャイニングヴァイパーを振るう!
その猛攻に怯むラゴウ。これはラゴウとヒスイの精神の闘いなのかも知れない。
だがその時、空間に開いた扉から、伊勢で殲滅したはずの分裂邪仙キオイが翼を持って現れた!
ラゴウの呪で凶暴化した人間は欲望を表面化する。その欲望に呼応し出現したらしい。
百を超えるキオイは空から光線でリュウラを爆撃する!

 一方、春日大社。カンナと合流したゴジョウ。カンナは問う。
「神々に仕える光の一族なら、神を殺す力を持ったわたしを危険視する。わたしは、一族の元に戻れば、殺されますよね?」
「カンナちゃん…私は光の一族の人間。確かに貴女を元の光の一族に引き渡すためにレイハを発足させたの。
でも…信じてくれないかしら。今の私は、本当に貴女と、そして地球、人類を守りたいと想ってる。
約束するわ。絶対に貴女を光の一族に渡さない。私も、彼らを裏切る事にしたわ。」
「信じられないです…」
「春日大社の内宮に行ってごらん、リュウラを、ヒスイ君を救う手段があるわ。
それを感じ取ってここに来たんでしょう?何で私がここにいたと思う?」
「マミヤさんを…救うため?…大宰、先に行ってみんなを助けてください。…お願いします。」
「うん、あとでいいこいいこしてあげるわ。」
ゴジョウはレイハの元へ、カンナは内宮へ走る!
レイハ、および航空隊はキオイの迎撃に忙殺され、リュウラとラセツを援護できない。
戦車隊だけでは援護しきれない…フナトのレイカイオウ、ヘキのレイヒュウゴの武装も尽きかけている。
ユリノの法陣も限界が近い…その時!
「ヘキ君!キオイの羽根の正確な形状を分析、小宰は全航空戦力にその情報を送信、全機、キオイの羽根だけを狙ってちょうだい!」
「…大宰!」
羽根を焼かれたキオイは次々落下、カルラとラゴウを牽制する。キオイは地上にいれば戦車隊でも何とか対処できる相手だ。
猛攻撃が次々キオイを屠ってゆく。
 そしてカンナは、白虎、朱雀、玄武と対面していた。
「…天龍雅姫(アマタツノミヤビヒメ)の娘か…母君は?」
「母は、カルラに殺されました。今、龍は別の人間、マミヤヒスイに融合しています。
そして今、龍はラゴウとカルラに殺されそうになっています。力を…貸して下さい。」
「何故、君は龍を救わんとする?」
「龍は仲間だから、マミヤさんが好きだから、守りたいんです。」
「母君が龍と融合し、自らの身に龍を受け継ぎ、そして愛する者に龍を与えた光の一族の娘…
貴女は龍と、それを宿すマミヤヒスイに強い縁を持っているようですね。」
「待て朱雀!」
やはり反対する白虎だが…
「白虎、外の様子を見るが良い。」

玄武の映した闘いの様子。非力な生物であるニンゲンが、高位の神、ラゴウと闘っている…
どう見てもニンゲンに勝ち目はない。しかし、それでもニンゲンの眼には強い光が宿っている。
彼らは、諦める事を知らない。驚愕する白虎。
「何故…このニンゲン達は諦めぬのだ?」
「地球が、みんなが好きだからです!」
白虎は、折れた。
「朱雀!我らは何をすればよい?」
「私達三神で新たな神壁を作り出し、それを勾玉に結集させます。
これをリュウラに与えれば、龍はマミヤヒスイに負荷を与えぬまま、自身が持つ真の力を全解放できます。」
白虎、朱雀、玄武から放たれた光が新たな勾玉を作り出す。それを手にするカンナ。朱雀はカンナに言う。
「行きなさい。そして、貴女の大切なニンゲンを救うのです。貴女のお母君も、そう願っています。」
カンナは一つ礼をし、駆け出した。
白虎は呟く。
「まったく…ニンゲンは理解し得ぬ…」
返す玄武。
「龍の奴は、そんなニンゲンを気に入っておる。」
 何としてもカルラの光線を浴びるまいとするリュウラとラセツ。
しかし、そのことを意識する余り普段どおりの動きができず、不利な状況に追い込まれてしまう。
ラゴウの雷撃、カルラのセントラルクロー、キオイの爆撃でリュウラは既に立っているのもやっとの状態。
ラセツは、今持っているハデスヴァジュラが四本目。折られては召喚、折られては召喚を繰り返しているのだ。
が、二人とも諦めてはいない…ショットスパークルでなおも反撃する。しかし、痺れを切らしたラゴウは強力な雷撃でリュウラを包む!
無数の稲妻を浴び続けるリュウラ…
「カルラ!トドメだ!」
「お任せを」
カルラの最強必殺技、裁邪翼光槍セントラルスティンガーがリュウラを貫いた!
それでもなお立ち上がるリュウラ…だが、手足が透明になり始めている。ウルトラマンとしての体を、維持できなくなったのか…
その時、
「マミヤさん!」
カンナがリュウラに勾玉を投げる!それはリュウラのカラータイマーと呼応、一瞬だけ陰陽の大極図を描き出し、リュウラに吸収される。と、赤く明滅していたカラータイマーが青へ戻ったではないか!
(マミヤヒスイ!今だ!ゲキへ転じろ!)

回復したリュウラはジンからゲキに変る…と、その体の各部に新たな鎧が装着される。
両腕には新たな「翡翠色の」「龍玉」が輝く。鎧を纏った新たなゲキ、そのカラータイマーは青いままだ。
カルラに悠然と歩を進めるリュウラ、先手必勝とばかりにセントラルスティンガーを投げるカルラ。
リュウラはそれをかわすことができず、直撃!…が、リュウラはそれを気にも留めずカルラへ接近してゆく。
スティンガーを二、三と投げるカルラだが、その槍はリュウラに直撃する前に空中で砕け散っている。
そう、リュウラはかわせなかったのではなく、かわす必要が無かったのだ。焦り、
再度龍の力を封印しようと腕を交差し、光線を放つカルラ。だが…リュウラはそれさえ受け流し、
キック一閃でカルラを跳ね飛ばす。続いてラゴウにシャイニングボムを放つ。
無論弾き返され、リュウラへ向かって飛んでゆくシャイニングボム。リュウラは手を一つ振る。
次の瞬間、その光弾は軌道を変え、背後のカルラへ向かってゆく!
あわててペンタクルフィールドを張るカルラだが、見事に突破され深手を負う。
そこにレイハ残存戦力の一斉攻撃を受け、退却するのだった。
続いてリュウラは空へ舞い上がり、未だ七十以上残っているキオイに囲まれた状況で突然、優美に舞いを始める。
だが、よく見てほしい。
その「舞い」の一手一手から最強技たるシャイニングボムを発射し続けているのだ。
一通りの舞いが終わるや、空を埋め尽くしていた全てのキオイは消滅していた。
 地上に唯一残ったラゴウを見下ろすリュウラ。
ヒスイとカンナの、白虎達と龍の、レイハの、軍の仲間達の、そして、カンナと母、ミヤビヒメの絆が生んだ新たなるリュウラ。
龍が持つ真の力を発揮できる究極のリュウラ。
もはやゲキではない。

「光」(ヒカリ)の「甲」(カブト)を纏う「皇」(スメラギ)の戦士。
リュウラ・コウ!

リュウラは地上に舞い降り、ラゴウを見据える。ラゴウは…恐れていた。
自分達神々の脅威たる「龍」が完全に覚醒してしまったのだ。
「…ラセツ…今までのことは忘れてやる、リュウラを…殺せ!」
「ラゴウ、馬鹿ですか?あたしはもう神々を裏切ったんですよ?」
リュウラはラゴウに問う。
「何故、旧暦で戦争を起こした?」
「…俺は神だよ?神が生物の運命変えただけだ、何が悪い?」
「そうか…なら…貴様の運命、ここで断ち切る!」
「ラゴウよ、我の逆鱗に触れるとは…痴れ者が!」
神速…いや、それさえ超えるスピードでリュウラはラゴウを蹴る、蹴る!ヒスイと龍、双方の魂がラゴウを圧倒する!
ヒザを突くラゴウ…
リュウラは両腕の龍玉を打ち合わせ力を解放、体の前面に光を収束させ、シャイニングボムを放つ。
だが、その光は球弾ではなく、龍そのものの姿をしている。
光の龍はラゴウを直撃、莫大な光の奔流にラゴウを飲み込む。そしてラゴウは、崩壊を始めた!
「バカな…俺が…なぜ死ぬ!」
ラゴウは…龍神の真なる光の前に、ついに消滅していった。
「キズナと、ココロが生んだ、力。」
カンナはそう呟き、消え行くラゴウを見送った。
万葉の地、奈良。人々は叫ぶ。
「よっしゃあーーーっ!

 一日が経過、レイハは後始末とか色々あるのでまだ奈良にいた。
そこでもう一つ、キズナとココロが生んだ奇跡があった。
「負傷者、ほぼ全員。ただし死者、無し。」
という結果である。
レイハの六人とスガ、トキツグ、ミウは小休止をとり、全員で茶を飲んでいた。

ヘキ「結局小宰は美味しい所を大宰に奪われちゃいましたね。」
フナト「副官ってのはね、指揮官のカッコ良さまで補佐しなきゃなんないの。」
ゴジョウ「ねトキツグ君、専門家として見るとあなたまだ雄叫びがカッコ良くないわ。」
トキツグ「それ実戦で重要なんすか?」
ユリノ「ウルトラマンラセツ…疲れたでしょ、とりあえず茶飲みなさい。」
ミウ「おねーさんがくれるお茶って毒が入ってるっぽい。」
カンナ「スガさん、わたしのレイキザン勝手に使いましたね…オヤジ臭がします。」
スガ「加齢臭が怖くて教官やってられっかい!」
ヒスイ「やってられます。」

今回はいわば全員が功労者。誰が欠けても勝てなかったかもしれない。しかし、ゴジョウにもカンナにも正体がバレた…あとの三人とスガやトキツグらにバレていないのは幸運かな…
ボンヤリとそう考えるヒスイに、カンナが茶を持ってくる。
「有難う…君のおかげで、勝てた。」
「カッコ良かったですよ、ヒスイくん。」
「別に…え、くん付け?」
レイハの六人、スガ教官、訓練生トキツグ、小生意気な娘、ミウ。
以上の九人の夜は、茶をすすりながらまったりと更けてゆく。

次回予告
え、まだ続くの!と思ったそこのあなた!ええ、まだ続きます!ネタ全然纏まってませんがね!
次回ウルトラマンリュウラ 第二十二章「目覚め」
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第二十二章 目覚め 
棄位蛇神仙(きいじゃしんせん)ヤマタノオロチ 発現
「ほう、ラゴウが死んだか…ならばちょうどいい、私が地球へ龍を殺しに行くとしよう。」
高位の神々が集まる暗闇。その神、ヤマタノオロチは地球へ向かおうとしていた。この神は以前にも地球へ降臨した事がある。
だが、他の神々からはその認可が下りない。「ヤマタノオロチは地球への降臨を禁ずる」そうだ。
納得のいかないヤマタノオロチ。特に好戦的なこの神は、最強の神である龍との決闘を古くから望んでいた。
というより、龍を倒してみたかった。
再び地球へ行ければ、思う存分龍と闘い、そして倒す事ができる。そう期待していたのだが…
「何故だ?何故私は地球に行く事が許されない!」
「仕方なかろう。理由は我らも存じておらん。しかし、これは西王母の言だ。従っておけ。」
「ヤマタノオロチ、お前では所詮龍を滅す事など出来はせぬ。スサノオの際のお前の醜態、我らは忘れておらぬよ。」
「スサノオ」の名に一瞬緊張するヤマタノオロチ。次いで、あることに気付く。
「…そうか…確かに私は高位の神だ。だが、その位を棄ててしまえばこんな言に従う事もない!」
そしてヤマタノオロチは己の位を捨て去り、龍を倒すために地球へ向かった…

軍日本基地。一応レイハは元通り結束、カンナも戻ってきた。だが、未だヒスイはストレス顔。
新たな姿、「コウ」。それが発揮する力は「龍」そのものであるという。それほどの絶対的な力を自分一人が持っていていいのか。
落ち着いて考えてみれば、この龍はカンナの母親、ミヤビヒメの形見である。実際は、この力を持つべきはカンナなのではないか?
「龍よ、アンタは何故、俺に力を貸している?」
(…ミヤビは光の一族の中でも、我の意を図る血筋に在った。故に元来、我とミヤビは無関係ではなかったのだ。
そしてミヤビの娘、カンナは生まれつき、神を殺す力と共に、我との強き絆を持っていた。しかし、その絆が何ゆえのものかは我も存ぜぬ。
ミヤビへ力を貸したのは我とカンナの未知なる絆を確かめるため、であったのだが…)
「ヒスイくん!」
びびった。当のカンナだ。どうも「名にくん付け」は慣れない。
「明日ヒマですか?」
「レイハだろう。」

聞けば、奈良の一件により孤児院の子供達の顔と名前を思い出したから、久々に会いに行きたいという。ヒスイくんといっしょに。
了承しつつ、ヒスイはカンナの記憶の件が気にかかっていた。奈良で様々な事を思い出したとはいえ、未だその記憶は断片的なものなのだ。
そしてラセツ…ミウ。神々を裏切った上、ラゴウとの闘いで負傷した彼女は奈良で別れて以来姿を現さない。
今、この瞬間に神々に殺されていても不思議ではないのだ。それに…まだ彼女はカンナについて何かを隠しているように見える。
次の朝、孤児院に赴く二人。子供達は久々のカンナに抱きつく。感極まって泣く子もいる。カンナも彼らを抱き寄せる。
無表情な彼女が微笑む。だが子供達は、その横に立つ長身の兄ちゃん…ヒスイを見ると唐突に不安な表情となってしまう。
先刻とは真逆の意味で泣き出す子もいる。カンナは少々ヒスイを講堂から連れ出す。
「せっかく来てくれたのにごめんなさいなんですけど、多分あの子たち、ヒスイくんを見るとギアロを思い出しちゃうっぽいです…
怒らないで下さい。あの時、六人の子が亡くなったんですから…」
そうだ。自分がこの孤児院に来た翌日、ギアロが出現し、六人もの友達が死んだのだ…来るべきではなかったか…
「なぁ龍よ…俺はリュウラになって、一体何が出来ていた?あんな小さな子の心一つ救えなかった…」
「痴れ者が。お前が我の力を望んだは何ゆえであったか?」
「…カンナを…救うため…」
「ニンゲンは弱き生き物よ。一匹で出来る事など限られておる。思い上がるな。
お前が一人でニンゲンの救い主となる必要など微塵も無いのだ。お前には仲間とやらがいる。それを忘れるな。」
カンナは子供達と遊び、ヒスイはそれを遠くから見守っている。
あまりに強大な力を持ってしまった自分に…仲間?

その時、レイハから緊急連絡が入る。宇宙から地球へ、高位の神が侵入したというのだ。
地球の神壁を強引に破って侵入した所を見ても、人間に加護を与えにきた訳ではないようだ。
「ヒスイくん、その神は人間、てゆうか龍とわたしをすごい敵視してます…」
基地からレイヒュウゴとレイカイオウが発進、降臨予想地点に避難命令が出される。
予想地点はこの孤児院。龍を敵視しているのだから当然か?その神は突如速度を増し、
レイヒュウゴ、レイカイオウ到着前に地上へ降臨する!八つの首を持った大蛇…その姿を見たヒスイの中の龍が呟く。
(ヤマタノオロチか…スサノオに敗れてなお生き延びておったか…)
ヤマタノオロチは八本の首からそれぞれ火炎を噴射、周囲を焼き払いつつ
「龍よ、来い!そして私と闘え!」
どうやら人類への悪意は無い。ただ龍を殺したいらしい。
レイヒュウゴ、レイカイオウの到着を待つヒマはない。ヒスイはレイエンキュウで敵を誘導しようとする。
子供達を励まし、カンナに彼らの保護を頼む。
だが、子供達はヒスイを信じようとしない。かつて軍はギアロに全く歯が立たなかった。
六人の友達を救うことも出来なかった。そしてその日、カンナ先生の記憶も消えてしまった。
そんな嫌な記憶を植えつけた軍を信用できるわけがない。
が、ヒスイは膝を折り、目線を子供達に合わせ正面から言う。
「だから、今度は誰一人死なせん。」
そして、
「カンナ、子供達を頼むぞ!」
「気い付けて下さい!ヤバイです、あの神。」
「今までやばくない敵はいなかった。」
子供達へ固く微笑み、ヤマタノオロチをレイエンキュウで威嚇する。カンナは子供達を安全な場所へ誘導する。
その様子を横目で見るヒスイ。一人の少年が転倒し、泣き出す。それを抱き起こし、カンナは笑顔で少年の涙を拭く。少年は再び駆け出す。
ヒスイは気付いた。自分が守りたいものは、この優しさか…

直後、ヤマタノオロチの火炎に包まれるヒスイ。だがその炎の中でリュウラ・ジンへ転化する。
「現れたな龍よ!さあ、殺し合おう!」
「我との闘いを望むか。スサノオに敗れたお前が。身の程を知れ。」
ヤマタノオロチと激突するリュウラの中で対話するヒスイと龍。
「カンナとの絆を確かめるため、我はミヤビへ融合した。ミヤビは死に際、カンナへ我を与えた。
そしてカンナはお前に我を与えた。」
「では、俺に力を貸したのもミヤビヒメと同じく、カンナを守るためか?」
「元々はその通りだ。だがミヤビは、常に己の命を懸けて娘や他のニンゲン達を救っていた。
その心の輝きを、我はいつしか気に入っていた。そしてマミヤヒスイ、お前の皆を想う心はミヤビと同じ輝きを持っている。
その輝きを持ち続けるなら、我はお前に力を貸す。」
ペンタクルフィールドでヤマタノオロチの火炎を防ぎ、シャイニングヴァイパーで首の付け根を狙うリュウラ。
だが突如、オロチの尾が煌く。と、その先端から、
まるで磨き抜かれた無数の金剛石のように美しく光る金属片が放射した!
リュウラはヴァイパー発射時の隙をつかれ、その刃の攻撃で思わず倒れ込む!そこをオロチは火炎で包む…
その時!
「リュウラ、遅れてごめん!」
「国生みの神話で馴染んでた奴だけど、ヤマタノオロチ自身と戦えるとはね!」
ヘキとフナトだ!レイカイオウの焔弾砲、レイヒュウゴの飛宙槍がヤマタノオロチを牽制する。
更に地上のカンナへユリノから通信が入る。
「院の裏側へ結界を張っといたわ。そこに入ってればしばらくはオロチの被害を受けずにすむ。急ぎなさい!」
結界へ彼らを導くカンナ。怖がる子供達を、精一杯抱きしめる。
ヒスイは気付いた。
(仲間…そうだな、連中も、地球を、人類を、人間の優しさを守りたいんだ。
…すまんな龍よ。何故ラゴウを倒せたのか忘れていたよ。俺は、一人じゃない。)

リュウラは再び立ち上がり、ゲキへ変身する。同時に体の各部を新たな鎧が覆う。
両腕には翡翠色の龍玉が輝き、赤く明滅していたカラータイマーは青へ戻る。
龍の力を真に発揮し得る姿であり、地球を守るため決して諦めない者達の絆が生み出した姿。
リュウラ・コウ。
三度刃を散布するヤマタノオロチ。だがその刃は、リュウラに到達する寸前に空中で砕け散る。
怒るヤマタノオロチは、今度は無数の「剣」を撃ち出す。その剣の一本一本がリュウラの身長に匹敵する長さ!
だがリュウラはいささかも動じず、優美に舞う。その舞の一手一手からかつての最強技であったシャイニングボムを放ち続ける!
「裁邪龍光舞 ドラゴンスピン」だ。
全ての剣を消滅させたリュウラにヤマタノオロチはなおも火炎を吐く。だが、リュウラは強烈な蹴りでこれを押し戻す!
そして両腕の龍玉を打ち合わせ、開放した光を集束、両の掌で弾き出す!シャイニングボムとほぼ同様の発射体勢だが、
打ち出された光は龍そのものの姿を成し、ヤマタノオロチへ突進してゆく!
これがコウの必殺技であり、リュウラ最大最強、究極の技である
「龍神総恐撃 ドラゴンインパクト」だ。
光の龍に貫かれたヤマタノオロチは、膨大な光の奔流に飲み込まれ、消滅してゆく。
だが、ラゴウとは異なり、オロチは己が消滅する運命を甘んじて受け入れているようだ。
「やはり…お前は…強いな…」
との言葉を残し、完全に虚空へ還った。自分と闘いたいだけなら、もっとやり方はあったのかも知れない。だが…
どこかやりきれない気持ちで、リュウラはヒスイの姿に戻る。

三日後、今度は院の方からヒスイに慰問の要請があった。
子供達が、自分達を助けてくれたヒスイに会いたがっているのだという。
そんなガラじゃない、と言いつつも、それを了承するヒスイ。
確かに、余りに大きい力を持ってしまった事で、自分は思い上がっていた。だが、志を同じくする仲間は沢山いる。
それに強大な力を持ってしまったのはカンナも同様である。自分は一人じゃない。
純粋な子供達と遊べば、それを実感できるだろう、と考えていたのだ。

院の仮装大会の一環として、ウサギさんの縫いぐるみを着せられるまでは。

次回予告
鋼の龍に残された怨念。先人達の恐怖はこの時代を脅かす。
リュウラが…二人。
次回ウルトラマンリュウラ 第二十三章「龍の系譜」

リュウラ学 本日の講師 スガ教官&トキツグ(映像資料を使用します)
スガ「だからウルトラビームかエメリウムかって話だろおがぁ!」
トキツグ「んじゃウルトラ警備隊が何て呼んでたか調べましょーよ!」
キリヤマ「ウルトラセブンの超兵器が効かない!」
「…分からん」
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第二十三章 龍の系譜
機生邪仙メイゼン 究極贋龍ウォンロン 発現
鬼道研究所で解析の進む破片群。
旧暦に建造され二月ほど前覚醒、破壊活動を行った、人工神龍ガンロンの破片である。
リュウラに粉砕されたとはいえ、未だその破片一つ一つから先人の負の気が立ち上っている。その分析には細心の注意が払われた。
その作業の傍らで、カンナは再調査で発見された擬似ウルトラマンリュウラ「ウォンロン」の設計図を見入っていた。
「お母さん、こんなのまで造らなきゃダメなぐらい、旧暦の人達は追い詰められてたの?」

遥か古代、今では「旧暦」と呼ばれる時代、高位の神ラゴウは人類を凶暴化させ、世界大戦を起こした。
その高位の神々に仕える民族「光の一族」は、次元の狭間にある「神山」に隠れ住み、自滅してゆく人類を尻目に平和に暮らしていた。
だが、光の一族の中でも龍神の意を量る重要な血筋の女、「天龍雅姫(アマタツノミヤビヒメ)」は、
戦火から一人でも多くの民を救うため、娘を連れ神山を降りる。そこには、神々に仕える身でありながらその神々を殺す力を持って生まれてしまった娘、
神無(カンナ)を、一族から遠ざける目的もあった。
身を粉にし人命救助に尽力するミヤビヒメ。彼女の娘、カンナに強い絆を感じた龍神は、カンナを守るためミヤビに融合。
ミヤビは蒼き光の巨人ウルトラマンリュウラとなり、民を襲う兵器や神々と闘った。だが、そのリュウラの力を危惧した神々は、
神と人間の融合体であるウルトラマンの力を封じる存在「カルラ」にリュウラを殺させる。
しかし、ミヤビは死の間際に娘、カンナへ龍を受け継がせる。そして龍は、神々が肥大化させた太陽を元の姿へ戻す。
戦争、そして太陽の肥大化という絶望から救われた人類は自ら停戦した。
「道(タオ)」というものがある。全宇宙を内包する、「道(タオ)」という名の巨大な容器だと考えればいい。
「道(タオ)」の中には、存在するもの全てが入っている。そして、存在するものは全て「気」のカタマリである。
その「気」は、人々の意思によって幾らでも変容する。
絶望から救われた人類の、希望に満ちた意思が、滅亡に向かっていたあらゆる「気」を変容させたのかもしれない。
それから永い永い時が過ぎ、ようやく今の人類の繁栄がある。

そんな事を考えていたカンナの耳に、突如警報が飛び込んできた。研究所近くに邪仙が出現したとの事である。

邪仙。神々とは異なる強大な存在「虚ろの者」に使役され、地球を脅かす幽世の存在である。
高い知能を持ちながら人類とのコンタクトを拒み、カンナ抹殺を最優先事項、己の至上使命とする。
中でもギアロはカンナにとって忘れられない邪仙である。
何故か、カンナは旧暦で龍と融合した歳のまま、全ての記憶を失い現代に現れたのだ。
八年前、東京の孤児院に保護されたカンナはそのまま住み込みで働くようになる。保護されてから八年。
推定年齢十八歳のある日、ギアロが憑依した男に命を狙われたところを軍似本基地から派遣されたマミヤ ヒスイに救われる。
真の姿を現したギアロと軍の戦いの中で、ゴジョウ、フナト、ヘキ、ユリノは結束していき、レイハ結成の土壌が整っていった。
ヒスイは戦いで重傷を負うが、カンナはその時、本能的に己の中の龍をヒスイへ与える。こうして現代にリュウラが再臨。
カンナは子供達をこれ以上泣かせないために、ヒスイはそのカンナを守るためにレイハへ入隊するのだった。

今回の邪仙は、細菌とも呼べるほど極小の体躯だという。これを捕獲したレイハは鬼道研究所へ分析を依頼する。
だが、この極小の邪仙メイゼンは、研究所にあった擬似リュウラ「ウォンロン」の設計図を読み、ガンロンの破片に憑依。
破片に染み付いていた「負の気」を養分として活性化し、破片および周囲の機械類を吸収、
機械生命体ウォンロンとしての体を構築し、破壊活動を開始する。レイハは直ちに攻撃態勢に入る。

レイハ。軍日本基地の特別任務班。だが実は、光の一族の人間であったゴジョウがカンナを自らの手元に置き、
タイミングを見計らって光の一族へ引き渡すために組織したものだった。しかし、ゴジョウは光の一族を裏切る事を決意。
レイハは真に、人類を守る組織となったのだ。

リュウラの能力を分析しただけあって、ウォンロンは強敵。先人達の恐怖が乗り移り、周囲の全てを破壊し尽す。
ショットスパークルをコピーしたであろう光線砲、シャイニングヴァイパーのコピーであろうアームカッターでレイヒュウゴを寄せ付けない。
更にヒスイのレイカイオウが被弾!しかし、そこにリュウラが現れる。

カンナは、それがヒスイである事を知っている。ギアロの時から自分の危機をいつも救ってくれたヒスイ。彼と自分の絆は恐らく強い。
光の一族の少女、クラマ ミウはカンナを殺すため鬼神と融合、ウルトラマンラセツとなり、何度もリュウラと敵対してきた。
だが彼女もカンナとヒスイの絆、二人を含めたレイハの「諦めない」という強い意志に影響され、遂には神々を裏切る事となった。
そしてミウと同じく人類を蔑視していた白虎、朱雀、玄武の三神獣もその人類の強さを目の当たりにし、リュウラを救うまでに変心した。
光の一族の青年アサギが変身したカルラ、再び人類を自滅させようとするラゴウに敗れ、ヒスイは変身能力を封じられてしまう。
だが龍とヒスイの、レイハの魂。三神獣の力。カンナの想いによってリュウラは復活。新たな姿「コウ」を手に入れ、ラゴウを粉砕するのだった。

ウォンロンは、ガンロンの「負の気」で活性化したメイゼンによって更なる力を発揮、素早い動きでリュウラを襲う。アームカッターと光線砲の攻撃に怯むリュウラ。
カンナは、メイゼンの糧とされている先人達の「負の気」に語りかける。
「止まって。あなたたちはもう死んでる。戦争は終わったし、時代も変った。だからもう、脅える必要は無いよ。いつまでも、昔の恐怖に縛られないで。」
僅かながらも苦しみを癒された、先人達の思念。だが、それだけでメイゼンのエネルギー供給を断つには十分だ。先人達の「負の気」が「生の気」に転じた。
これは怨念など「負の気」を食す邪仙には大きな痛手である。
「生の気」に満ちた先人達の思念を感じながらカンナは、存在するもの全ては、人の意思によって変容することを悟る。
メイゼンは緊急避難的にウォンロンのエネルギーを集中、シャイニングボムのコピーであろう大型光線砲を発射した!

リュウラはその光線を避ける素振りさえ見せず、胸の装甲に念を集中。
ジンからゲキを経、一瞬のうちに新たな鎧を装着する!新たな姿「コウ」へ転じたリュウラは光線砲の直撃を受けても全く動じない。
ウォンロンはアームカッターを振るうが、その刃もリュウラに到達する前に蒸発してしまう。そして、強烈な後ろ回し蹴りがウォンロンの頭部を吹き飛ばす!
すぐさまリュウラは両腕の龍玉を打ち合わせ力を解放、シャイニングボムと酷似した体勢から「龍」の姿を成す光を放つ!
「龍神総恐撃 ドラゴンインパクト」である。ウォンロンを突破した光の龍は、膨大な光の奔流を生み出す。
ウォンロンはその中へ飲み込まれ、一片をも残さず今度こそ消滅した。
そして、先人達の思念もその光の中へ溶けていった…

事件解決後、カンナはゴジョウの部屋へ呼ばれた。
「ねえカンナちゃん、私達はリュウラの正体を知ってる。
でもね、だからってヒスイ君には頼れない。ウルトラマンの光は、私達が全力で戦ってる時に初めて煌くものだと思うから。
だからリュウラとしてのヒスイ君には頼らない。私達レイハは、これからもレイハの力で最後まで戦う。分かった?」
「はい。多分、母もリュウラになったのは、人間として最後まで戦い抜いたからだと思ってますし。」

次回予告
謎の宇宙人、ノバテラ星人出現!港を、村を、次々炎に包み込む!
果たして奴らの目的は?レイハは、リュウラは勝てるのか!
次回ウルトラマンリュウラ 第二十四章「遅すぎた侵略者!」
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第二十四章 遅すぎた侵略者! 超文明宇宙人ノバテラ星人 発現
「今ので完璧に落っこってたろーがぁ!」
今日もスガ教官は豪快にブチ切れ、訓練生トキツグは豪快に泣く。
トキツグはレイハ指令房でヘキに「レイハとしての心構え」を聞こうとするのだが、
ヘキ自身、何がどうなって「心構え」になるのかよく分からない。故に今日もトキツグの期待は裏切られる。
さて、次の朝。玉川上水。自信の持てないトキツグは自主的にジョギングしていた。
郷庁へ出勤する官吏へ挨拶する度鼻で笑われるのでいちいち殴りたくなるが、自分は民を守る軍人である。ここは忍耐だ。
ちなみにこういう場合、ヒスイなら間髪入れずに官吏を半殺しにする。
その時、トキツグの頭上に突然円盤状の物体が出現、彼を怪光で眠らせるや、内部へ吸収してしまった!
周囲にいた官吏や行商も吸収される。
次に円盤は帝都、東京から隣接する県、蝉蚕県へ向かう。
そして山間部の、二十年前無人になった廃村へ熱線を放射、僅かに残っていた家々や井戸の残骸を焼き払う。
円盤の中、トキツグは何者かに起こされた。そこにいたのは人型でありながら決して人ではない生物。邪仙ではない。
(…宇宙人って奴か?)
地球以外の、別の惑星に生息するという知的生物。
遥か古代、旧暦において、亜米利加とかいう大国が積極的に交信を試みていたらしい。すると…この円盤は連中の乗物か。
何とかレイハ指令房へ連絡を試みるトキツグ。だが一人の宇宙人がこちらへ向かってきた。
「言葉は分かるな?」
この宇宙人、日本語を話す。
「驚いたか。私達ノバテラ星の科学力にかかれば、翻訳機くらい朝飯前。」
宇宙人…ノバテラ星人はトキツグらを監禁している小部屋の装置を指差す。
「そのマシンは、君の頭脳から全ての記憶を読み取ってしまうのだ。アナライズ、開始!」
焦るトキツグ。一訓練生の自分の記憶だけでも、軍日本基地の動力部分等の弱点を知るには十分だ。
しかし…記憶を分析したノバテラ星人は動揺し、失望している様子。
「どういうことだ!彼は軍の訓練生だと?そんな下っ端がどうして官邸にいたんだ?」
「大体…何故『軍』がある?」
何だかよく分からんが、奴らにとって有益ではなかったらしい。

他の虜囚が記憶分析を受けている間にトキツグはレイハへ連絡、ヒスイとフナトが蝉蚕県へ向かう。
だが、円盤は続いて沙芭港へ向かう。
「無人の廃村を焼き、一般の民を拉致し、今度は小さな漁港か…」
「何が狙いなのか全然分かんないわね、萌えるけど。」
「何故?」
そして円盤は港の上空に静止、軍日本基地情報検分室へメッセージを送る。
「我々はノバテラ星人。知能程度の低い地球人よ、よく聞け。我々はこの度地球を植民地として認定した。
お前達地球人は全宇宙最高の文明を持ったノバテラ星人の下で働ける権利を与えられたのだ!
しかし万が一、この権利を放棄し、最高の文明を持つ我々ノバテラ星人に抵抗するなら、この円盤の下に停泊する船舶を撃沈し、
地球上を放射能で包む事になる。無条件降伏か被爆か、どちらかを選びたまえ!この放送は世界中の電波全てをジャックして行われている。
放送を見た63億人の地球人よ、2時間後に結論を出すのだ!」
放送は終わり、軍日本基地は………爆笑の渦に包まれた。
最高の文明を自称しておきながら、
「六十三億人?そんなに多いわけないじゃないの…くくく…」(byゴジョウ)
船を沈めて放射能を撒き散らすとか
「そこにある船、小さい漁船ばっかりだよ…ふははははは」(byヘキ)
電波を占拠して放送するとか
「今時電波使ってる機械なんざ軍にもほとんどねえぞ…ぐははははは」(byスガ)
一方、沙螺港に到着したフナトとヒスイ。フナトは指令房のユリノに連絡。
「ねえ、『縮地の法』ってどーすんの?」
ユリノの説明を聞くフナト。縮地の法、つまり自分は動かず、対象と自分の空間を縮める法。
フナトは円盤内部と地上を繋げ、円盤に突入するつもりらしい。
円盤内のトキツグは、ノバテラ星人達の会話が気になっていた。

「おいノシハC、この星は本当に地球なのか?」
「俺達は200機の円盤で来たんだぞ?それなのに星を包んでいた妙なバリアーで殆どは解され、残ったのは俺達一機だけだ。」
ノシハCと呼ばれた個体は他の二人に迫られ、黙り込む。
「俺達の一機だって、あのバリアーが消えてた箇所を一つだけ見つけて強引に入ったんだ。やっぱりお前なんかがリーダーじゃ…」
ノシハC、どうも鶏冠に来たらしい。
「とにかく!我々は下の船舶を破壊して報告書を書けば良いんだ!マニュアル通りにやりましたって言えばマスコミにも叩かれない!」

そこへ、母星から通信が入る。
「ノシハCチーム、任務を忠実に遂行せよ。」
「は!攻撃ポイント@のトウカイ、破壊完了、ポイントAヨコスカへの攻撃準備中です。」
「指示した攻撃ポイントは6箇所だ。我々の星では植民地を急いでいる。」
「は!ノバテラ時間222以内に6箇所の破壊を成功させます。」
上司に急かされているようだ。しかしトウカイ?ヨコスカ?そしてあと四箇所…奴らの狙いは一体…
その時、円盤内に暗闇が発生、中からフナトとヒスイが現れた!
「縮地の法だ、時間がかかったな。」
突如円盤内部にテレポートしてきた地球人に驚くノバテラ星人。だが、
「遅いわ!」
円盤から放たれた熱線が、沙螺港に停泊する無人の小さな木製の漁船を次々沈めてゆく!
…この攻撃に何の意味があるのか…
ノシハCはさらに焦る。
「何故だ?トウカイの時と同じだ、放射能が全く検知されないぞ!」
そこへレイハ指令房から連絡が入った。二十年前無人になった廃村、地理的に言えば、そこは遥か古代、旧暦において、茨城県東海村と呼ばれていた場所だった。
しかも東海村には原子力発電所が存在していたという。そして沙螺港、こちらも旧暦では横須賀と呼ばれ、年に三度、亜米利加軍の原子力空母が停泊していたらしい。
特に今日と同じ十月六日は毎年必ず停泊していたという。

「ってことはオレが捕まったあの河川敷も…」
正解。旧暦においては、あの場所に首相官邸があったのだ。ヒスイはノバテラ星人に恐る恐る聞いてみる…
「なあ宇宙の人…何時の資料を参考に侵略計画を立てたんだ?」
地球の資料を差し出すノバテラ星人。それは、西暦二千六年十月六日の産経新聞であった。
「小宰…西暦二千六年って…何千年前ですか?」
「少なくとも七千年前ぐらい…」
「ってゆーか、マミヤさん、西暦って何でしたっけ?」
「中東で救世主が生まれてから何年、という数え方だったと思うが…」
つ・ま・り
「おい宇宙の人、お前らは、『最低でも七千年前の』古い古い資料をアテにして地球に喧嘩売ったわけだな。」
血の気が引いているらしいノバテラ星人。
「首相官邸のある場所にいた人間は全て政府関係者、東海村にある建物は全て原子力発電所、
十月六日横須賀に停泊している船は全て原子力空母。そう考えて計画を進めてきたわけだ。
そんな七千年前の資料がもはや通用するはずがないだろ?」
「…馬鹿な…程度の低い地球人ならそのくらいの年月で文明が発展するハズが無い!」
愚かである。この宇宙人、死ぬほど愚かである。
「うぬぅ〜〜〜〜、おのれぇ〜〜〜〜」
地球人には恨まれる理由など無いのだが。
「こうなれば我々でお前達を抹殺してやる!」
だがフナトは再度縮地の法を使い、虜囚たちと共に円盤から脱出する。
しかし、ノシハCが地上に降り、円盤からのエネルギーを受けて何と巨大化する!
「!…ねえマミヤ、頭の良い宇宙人が巨大化して格闘戦に臨む必然性は?」
「無いでしょう。」
その時!巨大化したノシハCは右拳から怪光を放射、周囲を特殊な空間に変質させる。
「むはははははは!見たか、これがノバテラワールド、私が有利な戦闘能力を発揮できる、
特殊不連続時空間の結界だぁ!地球人共、これで貴様らに勝ち目…へ?」
その結界に、青く輝く巨大生物が出現した!それは空中で人型になり、蒼き巨人に変化する。
ノバテラ星人は知らないようだが、ウルトラマンリュウラだ!

巨大化したノシハCの背後にいる円盤へ睨みをきかせるリュウラ。と、円盤に残っていたノバテラ星人の一人、ジウユBは、
リュウラと眼が合うと同時にぶっ倒れた。そしてそのまま死亡する。龍の持つ最強にして厳かなる神気は、睨みだけでも対象にかなりのダメージを与えられるのだ。
一方、ノバテラ星。ノバテラ上司は地球の円盤と交信しようとするが、その交信にさえ龍の神気が影響。ノバテラ上司も、その神気に敗死した。
「ひいいいいいいいいいいいいっ!」
という情けない声を上げ腰を抜かすノシハC。龍は、そんな宇宙人を見、語りかける。
「程度の低いのはどちらか?地球へ来た事、悔やむが良い。」
円盤に一人残されたノバテラ星人、ナギッチA。彼はリュウラと眼を合わせないように熱線を発射、ノシハCの援護を試みる。
「ここは異次元の結界、他の地球人が横槍を入れる事もな…をえ?」
時空の壁を突破し、カンナのレイキザンが駆けつけた!
「ミウツシノヤイバ、準備よし。ゴメン宇宙の人、地球はアナタたちを憎むから…」
ミウツシノヤイバが円盤を一刀両断!
「うぬぅ〜、だがこの結界は不滅だ!お前達が幾ら頑張って…うぞ」
リュウラはコウに変身、両掌から撃ち出す光の龍、
「龍神総恐撃ドラゴンインパクト」
でノシハCを貫いた。ノシハC、見事に消滅。光の奔流はそのままノバテラワールドをも破壊し、元の空間に戻した。
ちなみにノバテラ星だが、地球植民地化は「ノバテラ上司」と呼ばれた独裁者が一人だけで計画していたものだったので、
上司が死んだ今、ノバテラ星人は平和な宇宙外交をモットーとする民族に戻ったらしい。

「ねえトキツグ、今回の教訓は?」
「その一、自分で考えて行動しろ。その二、古い資料はあてにするな。」
「それ以外ないわね。」

次回予告
旧暦に生まれし忌み子、カンナ。彼女は何ゆえか「今」にいる。その理由を知る者。
次回ウルトラマンリュウラ 第二十五章「鬼さん姐さん」

リュウラ学 本日の講師 カンナ&イワカゲ ユリノ
「リュウラ コウです。龍の力を全開できます。奈良で変身できるようになりました。
ユリノさん、奈良公園のシカ美味しそうでしたね。」
「食う気?」
「角とか」
「やめな」
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第二十五章 鬼さん姐さん 節足大蛇ウワバ ウルトラマンカルラ 発現
ウルトラマンカルラ、鞍馬浅黄尊(クラマノアサギノミコト)の立場は危うくなっていた。
先代のリュウラを抹殺した実績を買われラゴウの計略に手を貸したにもかかわらず、
当のラゴウは倒れ、リュウラの力は完全に龍として覚醒してしまった。ある神が、暗闇からアサギに話しかける。
「お前の奈良での失態により、我ら神々は地球のニンゲンをますます滅ぼし難くなってしまった。場合によってはお前から、
お前の中のガルーダを引き離した上で、処刑する事も有り得る。…逃げ道を与えよう。ラセツを殺せ。成功すれば不問に処す。」
 ヒスイはカンナに引っ張られ、浅草の芝居小屋へ来ていた。カンナが
「どーしても観たい」
と言うので仕方なく、である。しかも本日の演目は子供向けの空想活劇だ。「鏡童子」
主人公は鏡の国の住人と地球人との混血児。彼が鏡童子へ変身し、宇宙人と戦う内容。
しかし…子供向けの割に作風が明るくない。主人公も妙にひ弱だ。
隣の席の子供が「終わった?終わった?」とうるさい。まだ謎の女に主人公が鳥を突きつけて詰問してるところだよ。
そしてやっと鏡童子が登場。その場面で良い齢した兄ちゃんが大興奮している。舞台上に大声援を送っている。
(奴が知り合いにいてほしくはないな…)
 兄ちゃんをチラ見するヒスイ。…目が合った。
「あれ?マミヤさん」
「…トキツグ…」
 トキツグと共に基地へ帰るヒスイとカンナ。トキツグは能天気に
「オレもあーいうカッコいい英雄になりたいなー」
「お前じゃしばらくは無理だな。」
 しかしカンナは無表情だが御機嫌斜めだ。右の柳眉の辺りを見れば分かる。
「…ヒスイくんと二人で観たかったです…」
 一気に気まずくなったのでヒスイは一応トキツグを殴っておく。そんな三人を物陰から見る女がいる。
「英・雄?」
 ラセツ=ミウだ。彼女は疲れていた。神々を裏切った彼女は命を狙われている。
奈良での傷も、未だ癒えているわけではない。学舎にも行かず、ひたすら逃亡と闘いを繰り返していた。

(ミウ…そなた、妾より別れようとは考えぬのか?)
己の中にいる鬼神の声だ。冥府で罪人を引き裂く炎の刃に似た鋭い女の声。
美しい声だとは思うが、友達になりたい声ではない。大体ヒスイんとこの龍ほど饒舌ではない。
「つまり…あたしと分離するって事ですか?」
(そなたに力を与えしは妾。妾と別れればそなたの罪咎、少しは軽くなろう。)
「あたしは自分の意思でアナタの力を望み、自分の意思で神々を裏切ったんです。
全ての責任はあたしにあります。アナタだけに責任は取らせられません。」
(そうか…いや、そなたがやや哀れでな…)
「言わないで下さい。」
それきり鬼神が黙ったので、自分も黙って先を急ぐ。どこという当ては無い。ただ、神の追っ手から少しでも逃れようとする。
その追っ手というのは、邪仙の一、ウワバである。蛇の姿を持ち、自在に身の丈を変えて執拗にミウを追ってくる。
しかし奴は以前、人工神龍ガンロンに粉砕されたハズだが…
 疑問は他にもあった。「神々」を裏切った自分を「邪仙」が追っている点だ。元来、神と邪仙は協力をしない。
確かにミウは伊勢で邪仙カガチに力を与えた。だがそれは、当時自分にとって最優先事項であったカンナ抹殺のため。恐らく今回のウワバ、他の神に操られている。
 体力的に限界の近いミウ。そこへ、
「あれ、ミウじゃない?」
陽気に話しかけてくる四人の娘…リア、ミカ、チナツ、カオリ。学舎の同級生である。学舎を休んでいる理由を無邪気に問うてくる四人。
明るい彼女らと疲弊した自分をつい比較してしまう。この明るさを守れるのなら、神々を裏切って正解だった、と思う。
「良いトコで会った!明日さ、チナツの誕生日なんだよね。でぇ、今日の夜チナツん家で祝賀会やることになったからミウも来てくれるよね?
学舎で誘おうと思ったんだけどミウ急に来なくなったから…」
 誕生日の祝賀会か…ミウは返事までに少し時間がかかった。自分が出席すれば必ず邪仙が、ウワバが来る…しかし、こうも思った。
邪仙が来たなら、自分が倒せば良い。この四人を守るためなら自分はどんな闘いにも勝つ…それが、奈良でヒスイから学んだ事だ。
僅かな沈黙の後、ミウは出席を約束する。

「じゃ今夜。」
 ミウと別れる四人。だが、その中の一人、リアは他の三人から離れるや、一目散に駆け出した。そして、軍日本基地へ駆け込む。
「大宰、帝都在住の女学生が助けを求めてきたそうです。帝都治安維持院の方で保護しました。」
レイハ指令房は、民からの情報に関してはどんな小さな事でも報告義務がある。
「で、そのコの言分は?」
「…同級生の様子がこのところおかしい、そうです。」
 だから?という話である。
「うん、十六、七の娘っていうのは特に情緒の面でやたらと変化するものなのよねえ。
急に勉学の意味を見失ったり、殿方の視線を意識しすぎたり、どうでもいいことで死にたくなったり。
そのコはお友達の急激な情緒面の変化を見て戸惑ってるんでしょうねえ。」
 と、オカマが知った口を叩いている。しかし、その娘に興味を示した者がいる。カンナである。
「で…何で俺が事情聴取に付き合わされるんだ?」
「ヒスイくんは字を書くのが早いからです。」
「俺、書記?」
 そしてその女学生…リアに接見する二人。と、リアはカンナを見、驚く。
「…ミウに似てる…」
「どこが?」
 と突っ込むのを止めておいたヒスイ。確かに、自分達はこれまでミウを「謎の存在」
あるいは「ウルトラマンラセツ」という前提の下で見てきた。だが、一切の先入観を切り落として二人の顔立ちを比べると…
第一印象はよく似ているかもしれない。聴取が終わった後、カンナはヒスイに断言する。
「あのコの側に、邪仙がいます!」
 そのころ、女学生の一人、ミカの家。部屋に篭りただ一点を見つめている。
(ふうん…ほとんど怨詛とは無縁の暮らしをしてきたんだね…二匹しか育たなかった。まあ良いさ。
ウワバ、もうそのカラダに用は無い。産まれろ!)
 謎の声に満足げに頷くミカ。その体が突如変色、続いて一瞬で液化し崩れ落ちる。
その「ミカだったもの」の中にのたくる二匹のウワバ。二匹は自分の周囲の「ミカだったもの」を吸収し尽くし力を漲らせる。
さらに謎の声は、二匹に指示を出す。
「よし、一匹は続いてカオリとかいう女学生に憑き、今夜の誕生日祝賀会へ。もう一匹は軍日本基地の守備兵へ憑け。」
 それは、カルラ=アサギの声。何処かから邪仙を拝借し、今回の謀略に利用しているのだ。

(アサギ…覚えていて欲しい。私自身は君が嫌いだ。)
 アサギへ融合している鳥神ガルーダの言葉。ウルトラマンカルラの残虐性、アサギの冷酷さからは想像できない、
気弱で優しげな男声である。返すアサギ。
「僕と貴方が融合しているのは、神々の正義を守るためだ。ガルーダ、僕は神々に忠実な存在、絶対なる正義の者。
貴方のような一神が正義に反抗すべきじゃないと思うけどな。」
 カンナの霊視により、リアの側に邪仙がいる、と知ったヒスイは誕生日祝賀会に何らかの罠が仕掛けられていると判断、
出動しようとする。だが、そこへ守備兵が立ち塞がった!更に基地の動力室にも異常が発生する。
ウワバは尚も分裂し複数の守備兵に憑依、レイハの動きを封じ込めたのだ!
 同じころ、チナツの家に迷いつつもミウが到着する。既にリアとカオリは来ていた。
「これであとはミカだけか…」
 呟くチナツ。だが…
「ミカは、喰われたよ。」
 さもそれが当然のように言い放つカオリ。その邪悪な気に一瞬で気がつくミウ。
「邪仙!」
「さすが、分かるんだねえ。」
 物陰から姿を現すアサギ。
「そ。この誕生日祝賀会を全部、ミウ、君を誘き出すために利用した。
しかしミカとかいうニンゲンは怨詛が少なかったけどさ、そこのカオリってのは相当恨みをかって生きてきたんだねえ。
おかげでウワバが沢山育ったよ。」
「…アンタまさか…ミカとカオリを…邪仙の…エサに?」
「目的を達する為のウワバの操り人形であり、ウワバが繁殖するための母体であり、
生まれ出るウワバのエサさ。ある蜘蛛は、母親が子供に自分を食い殺させるんだよ。…産まれろ。」

 アサギの声に頷くカオリ。その体が突如変色、一瞬で液化し崩れ落ちる。その「カオリだったもの」の中にのたくるウワバ達。
周囲の「カオリだったもの」を吸収し尽くし力を漲らせる。そして、十数匹のウワバが巨大な姿を現した!
 チナツは全く何も知らなかったらしく、半狂乱。リアは何とかチナツを立たせ、逃げる。怒り、悲しみ、憎しみ。
全ての負の感情を爆発させ、ミウはバーニングヴァジュラを手にし言霊を紡ぐ。
「鬼、炎、和合すべし。出でよ…ラセツ!」
炎の中から立ち上がったラセツに襲い掛かる十数匹のウワバ。これをハデスヴァジュラで切り払う。
その一刀一刀が憎しみに燃える。
 だが、アサギはその様子を見、ほくそ笑む。
「君が宿主、鞍馬浅黄尊の名において命ずる。翼、雷、和合すべし。出でよ、カルラ!」
空間に発生した稲妻より、アサギが転化した鳥神ガルーダが出現、空中で黒き巨人カルラへ転じる。
ラセツはウワバの物量作戦に気をとられ、カルラを相手するヒマは無い。それがカルラの狙いであった!両腕を交差するカルラ。
「奈良のようにはいかないよ。それに、邪魔なレイハの動きも封じた。今度こそ、君と鬼神との繋がりを断ち切ってあげる。」
 交差された腕から放たれる光線…と、それを妨害した者がいる。空中にいたのは、レイヒュウゴ。ヒスイとカンナだ!
「守備兵を操り俺達の動きを封じたつもりだろうが、レイハは無力じゃない。とっくにウワバは祓ったさ。」
 攻撃準備を始めるレイヒュウゴ。だが、ラセツは二人を見る…
(カンナ、こいつはあたしがやる…邪魔しないで。)
(龍よ、そなたの宿主を抑えてはもらえぬか?妾はミウに、ミウだけの手で闘わせてみたい。)
 了承する二人。ラセツは一礼し、ウワバを切捨て続ける!周囲の敵を薙ぎ、背後の敵を突き刺し、
遠距離の敵をソードスパークルで裂断、更にスパークルをカルラへ放ち動きを止める。そして全身を包む怒りの炎を右腕に結集、
必殺のハデスフレアで全てのウワバを焼き尽くす!その炎をカルラにも叩きつける。よろめくカルラ。そこへ!
「みんながどれだけ痛かったか…思い知れ!」
 空中から全力でハデスヴァジュラを振るい抜き、カルラを切り裂いた!

そのまま倒れ込み、消滅するカルラ。
 ラセツは勝った。冥府の鬼神と融合した戦士の苛烈な闘いぶり。
だが…そこに勝利の喜びなど微塵も無い。二人の友を殺された。

 再び何処かへ去ろうとするミウ。呼び止めるカンナ。ミウは少し立ち止まり、言う。
「カンナ、アンタが生まれたのは旧暦だってことは知ってるよね。…あたしも、同じ。」
「!…ミウさんも…旧暦に生まれたの?」
「あたしは…その時からアンタを殺す使命を帯びていた。でも…もう使命なんかどうでもいい。
カンナ、…やっぱアンタ嫌い。何でさっき…もっと早く来てくれなかった…」
言い返せないカンナ。
「何が『鞍馬水映姫(クラマノミウツシヒメ)』だよ…もうクラマの性は捨てる。
元の性が嫌いだったからアサギと同じ性にしたんだよね…カンナ、あたしは…アンタを…許さないから。」
 びっこを引きつつ姿を消すミウ。立ち尽くすカンナ。
「『性が嫌い』って…どういうこと?」

 そのころ、別の場所で別の青年が、びっこを引いていた。流麗な顔を苦痛に歪ませ、流血も厭わず。
(もう、十分だろう?私と分離するんだ、アサギ。)
「まだだ!まだ…僕は死なんぞ!」

続く

次回予告
ウルトラマンのタブーに触れる。だがこの話が無ければ先へ進めない。
次回ウルトラマンリュウラ 第二十六章「ウルトラマンが死ぬ日」
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第二十六章 ウルトラマンが死ぬ日 
光波邪仙ザガン ウルトラマンカルラ発現

軍日本基地で新たな施設の建造が始まっていた。それは、神社。これまで日本基地の防御は法陣と風水に任せっきりだった。結果、先日のウワバ侵入を許してしまった。そのため、今後非常時には基地を神壁で包む事が決定。ただし、現時点で神社は未完成。建設が急がれている。
一方、スガ教官は少々疲れていた。出来の悪い子ほど可愛いというが、どうもあのトキツグという少年の指導には気を遣う。
覚えはいいのだが、落ち着きに欠ける。応用が利かない。
彼はよく、レイハへの憧れを口にする。だがレイハへ入るならば、落ち着きにも応用にも長けている必要がある。スガはゴジョウを呼び出した。
「ゴジョウさん、トキツグをいっぺん前線に出してやっちゃくれませんか?」
「危険だと思いますが…」
「アイツは奈良の戦いじゃ根性見せました。んだから、もっと戦いの怖さってのを覚えさしてやりてえ。」
「戦いの恐怖を知ることで、より実戦向きの人材になる。と?」
「トキツグは技術的には大体完成されてんです。あとは本物の戦いに慣れて、怖さを乗り越える事。そうすりゃもっと、レイハ入隊が近づくと思うんですがね…」
「そして、最終的には彼にレイハへの憧れを捨てさせたいんですね?」
「そうです。アイツ、レイハに入る事で英雄になりたいんです。そう思ってるウチは英雄にゃなれねえ。レイハの目的ってのは英雄になる事じゃねえ。ただ民を救う事だけ。」
「英雄は、なろうと思ってなれるものではない。スガ教官はそれをトキツグ君に分からせたいわけですね?承知しました。お預かりしましょう。」
次にレイハが出動する際、トキツグが同行する事が決まった。トキツグは今か今かと指令房で一日中わくわくし続けているので、ユリノが書簡の整理を任せ楽している。
その時、関東郷幡嵯県の県庁街へ鳥に似た邪仙が飛来!嘴から凄まじい破壊力の呪的エネルギー光線を吐き、街を爆撃する。
レイハ指令房、フナトがヒスイ、カンナ、ヘキ、ユリノ、トキツグを見廻す。

「アタシとマミヤ、ユリノはレイヒュウゴで攻撃を先導、カンナはレイキザンでレイヒュウゴと連携、ヘキとトキツグはレイカイオウで後方支援!」
ゴジョウが指令を下す。
「レイハ、出陣!」
フナト以下の六人は右拳で左肩を叩き、僅かに頭を下げる。
「御意!」

レイヒュウゴ、レイキザン、レイカイオウ。各々の操縦室へ直結する階段を下る六人。実際は百段以上あるのだが、十段目に施された縮地の法陣により操縦室へ瞬間移動できる。
巨大な城にも寺院にも見える建造物。その下部の石垣が開き、レイキザン、レイカイオウが飛び立つ。石垣の上に設けられた露台は普段、巨大な紅い門で閉ざされているが、その門が観音開き。
そこからレイヒュウゴも飛び立った。
 標的、邪仙ザガンは滞空してレイハを待ち受けていた。フナトの指示が飛ぶ。
「鬼道機関、発動。奴を一時的に折伏、呪力を吐けないように操るわよ。安全な箇所に誘導、到達したらレイヒュウゴの飛宙槍で奴の羽根に穴を開け、飛行能力を奪う。
カンナ、レイヒュウゴが離脱したらミウツシノヤイバで胴体を突破しなさい!墜落したところを一斉掃射で殲滅!」
が…それを無視し、突如レイカイオウがザガンへ攻撃をかけた!…トキツグだ。
「ちょっと待って!作戦ってのがあるし、ここで攻撃すれば地上の街にも…」
焦るヘキは必死でトキツグを止めようとするが…
「先手必勝!すぐに倒しちまえば問題ないっす!」
逸るトキツグは自分の手でザガンを粉砕しようと正面から無謀な攻撃を行う。だが、作戦を無視した一訓練生の攻撃で、敵が傷を負うハズも無い。
レイヒュウゴ、レイキザンの管制も乱れる…ザガンは眼からの念動波でレイカイオウを一蹴、レイヒュウゴに呪的光線を浴びせる!
姿勢制御不能となったレイヒュウゴに狙いを定め、トドメの一撃を決めようとするザガン。と、何とかトキツグから操縦権を奪回したヘキがレイカイオウを飛ばし、
レイヒュウゴの代わりに光線を被弾した!レイヒュウゴよりも傷は深く、即座に墜落するレイカイオウ。だが、墜落しながらもヘキは、
「カンナ!今だ、ミウツシノヤイバを!」
ザガンの一瞬の隙を突き、カンナはミウツシノヤイバを発動、敵を貫いた!

しかし、レイヒュウゴは不時着、レイカイオウは半壊。更に、そこへ突如ウルトラマンカルラが出現、瀕死のザガンと共に暗闇へ消える…
レイヒュウゴに乗っていたフナト、ユリノ、ヒスイは無事だが、問題はレイカイオウのヘキとトキツグである。地上、残骸の中に倒れている二人。
更にカンナは、その近くに倒れていた、ミウを発見した…

トキツグはさほどの怪我でもない。ただ、ヘキは重傷を負っていた…医院で眠っているヘキ。見舞いに来るレイハの六人、スガ、トキツグ。
「何でヘキ君が怪我したか…分かるわね?」
ゴジョウのその一言だけで十分であった。フナト、ユリノ、ヒスイは眠るヘキに励ましの言葉をかけ、トキツグを無言で睨んだだけで病室を出てゆく。
「へえ、マミヤなら殴ると思ったけどなあ。」
病室の外でヒスイを茶化すフナトだが…
「殴るだけ、損です。」
病室に残ったのはゴジョウ、カンナ、トキツグ、スガ。トキツグは何度もゴジョウに謝るが、ゴジョウの方はそれを聞き流している。
「…トキツグさん。」
カンナの呼びかけに振り向いたトキツグ。直後…カンナは、トキツグを、殴った。
「…わたし、『やっちゃったことはしょうがない』って考え方、キライですから。」
あくまでも無表情に病室を出てゆくカンナ。
スガは強引にトキツグを病室の外へ引っ張っていく。
「…なあトキツグ、オメー、今回の事で凹んでるって顔だな。」
「はい…オレのせいで…」
「そおだな。確かにオメーのせいだ。だけどな、ホントに強い奴はいつまでも凹んでやしねえ。勘違いすんじゃねえぞ、
『忘れろ』『気にすんな』とは言わねえ。今回の事は、オメーの失態としていつまでも覚えとくんだ。
でもな、その失態でずっと凹んでるってのは間違いだ。強い奴ってのはな、一回バカなことしちまったら、
その失態を繰り返さないよう気をつけるもんなんだ。良いな?」
「…はい!」

一方、カンナはヒスイと共に、保護されたままやっぱり眠っているミウの病室を訪ねていた。
「ミウさんは、旧暦…わたしと同じ時代に生まれたみたいです…」
「なあ…君とミウは、時間を越えたんじゃないか?」
「…どうやって?」
「君は一時龍と融合していただろ。龍は、時間も、次元も超えられる。実際俺は何度か時空を超えた。」
そして、その時空に生きるウルトラマン達へ力を貸した。
「ミウさんがわたしを殺すために時間を超えて追って来たってゆうのは納得できます。
でも、何で龍はわたしを『この時代』に移したのかな…」
一方。暗闇に潜むアサギ。
(邪仙をまた利用するとは…神々ももはや君を許さない。)
優しげな男声がアサギをたしなめる。だが…
「神々の正義なんてもう僕には関係ない。とにかく、レイハを、リュウラを殺す!神々の正義に生きるこの僕を侮辱した、あの連中を!」
(…神々の正義は関係ないんじゃなかったか?君は矛盾している。)
「どうでもいい、レイハの連中を殺せれば、もう何もかもどうでもいい!」
鳥神ガルーダは神々の正義を信じ、あえてアサギに力を貸している。
だがガルーダ自身は、この残虐で高慢なニンゲンを嫌っている。だから常に懸念しっぱなし。
このニンゲン、次に何を企むのか…いや、既に新たな謀略の詳細は判明している。狙いは、軍 日本基地。
その日本基地でヘキを見舞うユリノとスガ。
「…」
「…」
「な、式神(シキガミ)ってさ、自分にかかった呪を紙の人形に肩代わりしてもらう術だよな?」
「ええ…何を今更。」
「神の人形じゃねえと、肩代わりできねえのか?つまり、別の人間に呪を移して自分は助かる、みてえな。」
「それは禁忌です。呪を術者に跳ね返す術はありますが…第三者へ呪を移すことは許されません。」
と、突如スガは鬼道機関を発動させ、ユリノを眠らせる。更に読心法を使い、彼女から「呪を第三者に移す」術の記憶を読み取った。

その時、取り逃がしたザガンが基地上空に姿を現した!しかも、ザガンの呪的光線の破壊力は倍加、
その上、法陣の一点のみを集中的に攻めている。このまま攻撃を受ければ基地の法陣はもたない…。レイハに迎撃の命が下った。
だがその時、カンナをミウが襲った!
「言ったじゃない。あたしはアンタを殺すって。基地が良い感じに混乱してるね。…今、殺す。」
「…止めて。旧暦から来た人同士、何で殺しあわなきゃダメなの?ミウさんもわたしと同じで、旧暦から来た人間だよ。」
「だから嫌なんだって!…君が宿主、…天龍水映姫(アマタツノミウツシヒメ)の名において命ずる…」
ミウは前回の傷が癒えないままだからだろうか、等身大のラセツに転じ、カンナに斬りかかる。間一髪それを食い止めるヒスイ。
彼はザガン迎撃をカンナに任せ、同じく等身大のリュウラに転じた。
「行けカンナ!俺は大丈夫だ!」
レイキザンの格納院に急ぐカンナの脳裏に、何故かミウの言霊がリフレインしていた。
ヘキは重傷、ヒスイはミウを止めている。結果今回出動できるのは、ゴジョウ、フナト、ユリノ、カンナの四人のみ。
少しでも戦力を増強するため、ゴジョウとユリノがレイヒュウゴ、フナトがレイカイオウ、カンナがレイキザンに搭乗することが決定。
だが、フナトは仰天。格納院にレイカイオウが、影も形も無いのだ。確かに先日の出動で派手にぶっ壊したが、もう一機あったハズ…。
と、ザガンへ真正面から突っ込んでいくレイカイオウがあった!
「こちらロクドウトキツグ!只今よりレイハへ臨時入隊、ザガンを殲滅します!」
「…お馬鹿野郎…」
呆然と呟くフナト。ユリノの怒声が響く。
「ロクドウ!レイハ正司馬として命じます、今すぐ戻れこの考え無し!」
「オレのせいで作戦は失敗して、ヘキさんが怪我したんです。だから今度は、オレの手でザガンを潰す!」

ヒスイ=リュウラもトキツグを止めたいが、眼前で荒れ狂うミウ=ラセツの相手でそれどころではない。
ひょっとすると、ミウは既に生きる事に飽いているのか?だから全くの無策でこれ程の攻撃を繰り出しているのか…
トキツグのレイカイオウがザガンを追い詰める、かに見えた。しかしザガンは直後、額からの念動でレイカイオウの攻撃を封じ込めた!更に、呪的光線を吐く…
うろ覚えの鬼道機関で何とか直撃を免れたトキツグ…しかし機体後部を損傷、不時着を決行する。
ザガンはトキツグを追って地上へ降りた。これに対しトキツグはレイバンガ(銃)を持ち出し、尚も攻撃を続行する!
だが、それほどまでに考え無しの攻撃が何時までも通用する道理が無い。ザガンの光線で吹き飛ばされた軍用路の破片に襲われるトキツグ。
動けなくなった彼を、敵の光線が捉えた!
しかし…その光線の軌道が突如変化、トキツグは救われる。代わりにその光線を浴びていたのは…スガ!
それを察知したリュウラは全力で後ろ回し蹴りを決め、ラセツをミウの姿に戻し眠らせた。
倒れ込むスガ。駆け寄るヒスイとレイハ。
「教官…何で…」
「…トキツグ、オメーの事だ、絶対ザガンに…逆襲するだろうと思ってな…オレに感謝しろ、オメーの盾になってやったんだからな…」
そう、スガはトキツグを救うため、呪移しの術を使い、トキツグを殺すはずだったザガンの呪的光線を、自分へ誘導したのだ。
「…いいかトキツグ、英雄ってのはな、なろうと思ってなれるモンじゃねえ。それだけ…覚えとくこったな…」
その言葉を最後に、スガの体は、蒸発した。「スガのいた場所」に顔をうずめ絶叫するトキツグ。それを見る事しかできないヒスイ。
(龍よ…過去の世界へ行こう。スガさんを、蘇らせる…)
(ならぬ。)
龍の返答は簡潔だった。理由を問うヒスイだが…
(ならばこれまでの歴史の中、死したニンゲンを全て救わねばならなくなる。死を望まれるニンゲンなどおらん。
だが、死を免れるニンゲンも、おらん。命ある者は、いつか己の死に向かい合う日が来るもの…)

その時、一同の前に、アサギが現れた。
「あら、仲間が死んだみたいだね。僕の目的は、建設中の基地防御用神社をザガンに破壊させるだけだったんだけど…
まあ許してよ、ちょっとした手違いだからさ。」
そう、この男は、「自分も他者も同じ人間である」という発想を持たない。
神々に仕える光の一族である自分は、神々の正義を認知できないニンゲンよりも遥かに高位の存在である、と考えている。
そして、そんな程度の低いニンゲン共に何度も煮え湯を飲まされた事が許せない、とも考えている。
「そんな怒った顔しないでよ、ニンゲン一匹が死んだだけでしょう?…ザガン、ここでレイハを潰すぞ…」
ザガンは再び爆撃を始めた!それを満足そうに見るアサギの右手へ光が集束、翼雷鏡サンダーボルト・クローと化す。
「君が宿主、鞍馬浅黄尊の名において命ずる。翼、雷、和合すべし。出でよ…カルラ!」
アサギは光の稲妻に包まれ、鳥神ガルーダの姿を経て黒き巨人、カルラへ転じた。
額の第三の眼からショットスパークルを連発し、レイハを襲うカルラ。トキツグは怒りの絶叫を上げ、
レイバンガ片手にカルラへ突撃してゆく!そんな彼を追い、ヒスイも同じく爆煙へ飛び込む。
ただひたすらにカルラを狙撃するトキツグ。だが先程の傷が疼き、思うように戦えない。カルラは、トキツグを踏み潰そうとし始める…

(マミヤヒスイ、業を背負う覚悟はあるか?カルラを、アサギを殺すという、業を。)
「俺達は人間同士であり、ウルトラマン同士だ。人を殺す覚悟…ウルトラマンを殺す覚悟…。なめるな。できてるさ。アンタと融合した、その日に。」
(お前の覚悟、拝見しよう。…業は消えん。…すまぬ。)
「君が宿主、マミヤヒスイの名において命ずる。龍、明、和合すべし。出でよ…リュウラ!」

カルラの眼前に、蒼き光の龍神、リュウラが降臨した!
(来たねリュウラ、君だけは…殺す!)
(悪いな、俺もそのつもりだ。)
距離を置き、睨みあう蒼と黒の巨人。刹那の静寂の後、正面からぶつかり合う!と、リュウラはその足元に転倒していたトキツグに気付く。
何とかそこから離脱したトキツグ。リュウラはカルラを渾身の力で蹴り上げ、空中戦を挑んだ!
一方のレイハ、基地を襲うザガンを倒すため、レイヒュウゴ、レイキザンで飛び立つ!

リュウラとレイハ、各々の空中戦を見上げつつ、トキツグは自分がうつ伏せになっていることに気付いた。
どうやらカルラに踏み潰されそうになった際、余りの恐怖に戦意さえ忘れ、腰が抜けたようだ。そのまま、四つん這いで土まみれになりながらここまで歩いてきたらしい。
リュウラはカルラと、レイハはザガンと勇猛果敢に戦っている。そんな彼らと自分を比較すると、妙に笑えてきた。
そして、スガの最期。
今の自分が、滑稽で、悲しくて、寂しくて、腹立たしくて。
感情という感情、全てが炸裂し、トキツグは笑いながら泣き叫んだ。もはや言葉にはなっていない。
顔が土にまみれるのも構わずに泣いた。体を起こすのも面倒だ。何か鼻血が出ているが、それさえどっちでもいい。

ザガンの吐く呪的光線。ユリノは「術者に呪を返す法」を使い、光線をザガンに打ち返す!
怯んだザガンにミウツシノヤイバが一閃、更にレイヒュウゴの一斉砲撃を撃ち込まれ、遂に爆砕した。

カルラはセントラルクローを、長く伸ばした状態(必殺技モード)でリュウラに振るう。
以前の堂々としたカルラとは全く異なる闘いぶり。だが、突如、カルラの動きが鈍った!
(アサギ…もうやめるんだ…)
ガルーダは、アサギを止めた。リュウラを抹殺するのが神々の正義である。それは分かっている。
だが、ガルーダはもうアサギを見ていられなかったのだ。
この機に乗じ、リュウラはコウに変身。ゲキの頃から受け継いだ最強キック、ドラゴンカムイをカルラに叩き込む!
墜落するカルラ、着地するリュウラ。リュウラは、舞を始める。その一手一手からシャイニングボムを放ち続ける、ドラゴンスピンである。
多量の光弾を打ち付けられ、カルラは体の各部が、消滅し始めた。

(ガルーダ、お前に罪は無い…だが、アサギへ力を与えた事、その責は重い。分かってくれ…。)
(…気に病まないでほしい。龍よ。きっと、これで良いんだ。)
龍とガルーダ、二神の会話。これを聞けた者はいない。

無数の光弾に包まれ、消え行くカルラ、そこへリュウラは龍の姿成す光を叩きつける究極必殺技、ドラゴンインパクトを放った!
黒き巨人ウルトラマンカルラは、蒼き巨人ウルトラマンリュウラによって、遂に消滅していった。己の消滅をただ受け入れる鳥神ガルーダ。鳥神は最期に、
「龍よ、有難う」
と言い残した。その優しい声を、龍は、ヒスイはしっかりと受け止めた。
一方で、消滅に抵抗するアサギの恨みの声が交じった悲鳴、聞く者など誰一人としていなかった。

「ユリノさん、このコが目を覚ましても、カルラのことは言わないでください。カルラは、ラセツによって完全に死んだ。…そうゆうことに、しといてください。」
カルラが現れる寸前、リュウラによって気絶、それから半日眠ったままのミウ。
一方で、容態は安定しているものの未だ復帰できないヘキ。
そして、軍日本基地の訓練場。もはやそこから、鬼教官スガの怒声は聞こえない。

次回予告
ヘキの命は風前の灯。帝都、東京へ再び黒き翼が舞い降りる。
次回ウルトラマンリュウラ 第二十七章「カルラ不滅」
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第二十七章 カルラ不滅 高位幻神仙ムイ 発現
「老子!ウルトラマンカルラが、アサギが、死にました…!」
ここは次元の狭間、高位の神々に仕える民族「光の一族」が住む「神山」。
老子と呼ばれた翁は、リュウラおよびカンナ抹殺の切り札であったカルラを失った事だけをしきりに悔やんでいる。アサギが死んだ事はどうでもいいらしい。
神々もこの事実は知っていた。神山の中心である廟から翁のーレイハへ潜入した際はクロサキと呼ばれたー神々への詫言が聞こえてくる。そして、詫びながらも全ての責をリュウラとレイハへ転嫁している。
神々はその詫言も気に入らないようだ。
「ミウと同じく、わざわざ我らの力で旧暦よりアサギを召喚してやったものを…」
「老子、我らがニンゲンの滅亡を願う理は存じておるな?恐るべき『虚ろの者』へ力を与えとうないが故のこと。」
「は!存じております!我ら光の一族、今度こそレイハとリュウラを抹殺する所存です!」
「よろしい。では、私が手を貸そう。」

「トキツグはどこ行った?」
という一言が、軍日本基地で一日五回は聞かれた。
スガが殉職して三日。二日前、泣き続けているのが目撃されたきり、トキツグは姿を消していた。
指令房にヘキは未だ復帰できていない。トキツグは行方不明で、当然ずかずかと指令房へ入ってくるスガの怒声ももう聞こえない。
「…静かなものね…」
嫌な意味で。

そんな時、ヒスイへ上層部からお呼びがかかった。
一週間ばかり、関西省支部の航空攻撃隊臨時指導教官をやってもらいたい、との事だ。
「しかし…レイハはただでさえ戦力の足りない状況。私一人を欠いただけでも…」
だが、レイハは戦果を残している割に、組織内での立場は弱い。出張は決定してしまった。
ゴジョウにもこの決定が伝えられる。
「それはつまり、しばらくレイハから男っ気が消えると仰っておいでなのですか?」
妙なところに食いつく。

次の日、関西省より、出迎えの機翼が到着。あれよあれよという間に、離陸してしまった。
やたらと馴れ馴れしくヒスイに話しかける操縦手。ヒスイも話に乗っかってみる。
「なあ操縦手さん、そっちのミヤウチ大宰とフユキ小宰は元気か?ラゴウの時随分世話になってるんだ。」
「お二人ともお元気ですよ。今か今かとマミヤ正司馬の到着を心待ちにしておいでです。」
「元気か。妙だな、そっちの指揮官はハイジマ大宰とサエキ小宰の筈だが…操縦手さん、アンタ、誰だ。」
操縦手が顔面蒼白になるのが後部席からでも分かった。
「関西省支部の人間じゃない。…何を考えてる?」
「…レイハ、消えてもらう!」
突如操縦席の各所が炎に包まれた!そのまま墜落してゆく機翼…

一方、ヘキの病室には一人の警備兵が忍び込んでいた。そして、眠っているヘキに呪をかけはじめる…
「はいそこまで!…ウチの仲間に何しようと…」
駆けつけたユリノが術者を追い詰めた。だが、術者は不敵に笑む。
「レイハを滅ぼす。そのために私は地球へ降りたのだ…」
邪悪な気が立ち昇る。コイツは人間ではない…。その神気に威圧され、動きがとれない!「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前!」
駆けつけたカンナの九字で辛うじて神気が弱まり、ユリノは脱出に成功。術者…その神は逃亡する。即ヘキを霊視するユリノ。
ヘキに掛けられた呪は、殺人用の危険なものだった。ユリノの介入によって即死は免れたが、危険な事に変わりはない。
そこで急遽、ヘキを明治神宮へ搬送、呪祓いが行われる事になる。そこへ通信が入った。ヒスイの乗った機翼が、墜落したらしい…
ヘキを神宮へ搬送するユリノを見送り、カンナとフナトは墜落現場へ向かった。

「で、カンナ、今指令房にいるのは大宰一人って事になるわね。」
「…六人じゃ、足りないですよね。」
しかし今重要なのはヒスイの生死である。二人は予定よりも飛ばして現地へ到着。
ヒスイは生きていた。しかし…右腕を痛めているようだ。左腕で辛うじて手を振り、二人に救助される。
「ヒスイくん、ニセ操縦手さんは?」
焼死体になっていた。しかもあちこちに色々なモノが飛散している。
「自分の命を捨ててまで俺を殺したかったらしいな…小宰、基地に異常は?」
「…ヘキが呪い殺されそうになったわ…」
「じゃ、誰かがレイハを全滅させるつもりなんですね…」
ヒスイは検査のため、墜落地点から近い、明治神宮の側の医院へ一応行ってみた。
ついでに一日目の儀式が終わり、眠っているヘキを見舞う。
と、フナトがその様子を外から伺う人影に気付く。それは…
「元気だった?ロクドウトキツグ訓練生。」
「小宰…」

神宮公園の池の鯉を見ながら二人は腰をおろす。
「すいません…勝手に出てこなくなっちゃって…」
「…戻っておいでよ。スガさんが亡くなったのは全然アンタのせいじゃないんだから。」
「でもオレ…何も出来なかったから…。何も出来なかったのが悔しいんです。」
「軍人には、助けられる命も助けられない命もあるわ。
でも、助けられなかったからっていつまでも悔やんでても、何も変んない。
今目の前で助けを求めてる民がいるなら、その民を救うために全力を尽くす。軍人は、人は、そうあった方が良いと思う。」
黙り込むトキツグ。

一方、右腕の利かないヒスイを手伝うカンナ。
「ヒスイくんは、トキツグさんが帰ってくるって思いますか?」
「奴はいわば『重み』を知った…。その重みに耐えられるなら、戻ってくるだろう。」
「みんなを助けるって、『重み』をせおうことなのかな…」
そう呟くカンナを見つつ、ヒスイは精神で龍と対話してみる。
(なあ、カンナだが、いつもと何処かが違う気がする…)
(我も何ゆえのことか、カンナの内面のみを透視し得ぬ…我に理解しうるは、今カンナは別の『神』を身内に宿らせていること…)
その時、明治神宮の側に巨大生物が出現!一瞬にして理解したヒスイ。
「そうか…奴が何者かを操り、レイハの戦力を減少させる工作を…」
真昼間だったので避難誘導もうまくいっていない。
「ロクドウトキツグ!小宰として命じる、レイヒュウゴへ搭乗せよ!」
「…無理です!ただでさえレイハの人数が少ないのに、オレなんかを作戦に招いたら全滅させられます!」
何度か説得を試みるが、トキツグは頑として参加しようとしない。フナトは結局一人でレイヒュウゴに搭乗する。
ユリノがレイカイオウ、カンナがレイキザンで攻撃を開始する…だが、光線砲がその巨大生物…ムイを突き抜け、地上を爆撃してしまう!
「…幻?」
「物理攻撃じゃ止められないわね。鬼道機関、発動!」
しかし、肝心の鬼道機関が動かない。ムイは基地へ侵入した際、鬼道機関に対し、力を封印する呪を施していたのだ!
「出でよ、リュウラ!」
ピンチのレイハ、避難できていない民を守るため、ヒスイはリュウラに転化する。強烈なキックが繰り出されたが…それさえ空を切る。
ふと見回してみれば、ムイが三体。この中に本体は一つだけ…リュウラは心眼で本体を見切り、ショットスパークルを放つ。しかし、それさえ突き抜けてしまう。
しかもリュウラの背後にいた幻影が突如実体を持ち、リュウラを締め上げる!実体と幻影を自在に入れ替えてしまえるようだ。その上、リュウラの動きにいつものキレがない。
カンナは分かっていた。ヒスイが怪我をしたためだ。
心眼でいくら見切っても、満足に動けなければ本体を倒せない。ピンチに陥るリュウラ…

その上、戦闘の余波で明治神宮が崩れ始めた!高位の神であるムイは、神宮の神壁を破ってしまったのだ。
そこにはまだ、大勢の参拝者が、そしてヘキが残っている!
(オレが基地に残ってれば…レイヒュウゴの鬼道機関に掛けられた呪を、掻き消せたかも知れない…。)
幻影からの集中攻撃に怯むリュウラ。
(『一回バカなことしちまったら、その失態を繰り返さないよう気をつけるもんなんだ。』)スガの声…
(オレの失態は、基地に残らなかったことだ。いつまでも悔やんでても、何も変らない。だから今、ヘキさんを!)
明治神宮へ突入するトキツグ!
神宮の中では、ヘキが満足に動かない体へ鞭打ち、閉じ込められた民を外へ逃がし続けている。
が、最後に残った一人の老婆が足を怪我し、歩けなくなった。その老婆を抱きかかえ、共に脱出を試みるヘキ。だが二人を、折れた柱が襲う!
…それを背中で押しとどめた少年がいる。
「…ヘキさん、今のうちに…!」
「トキツグ!」
その大黒柱を支えるには、トキツグの体は余りにか細く見えた。
「オレは、…教官も、誰も助けらんなかったから…せめて…これぐらいは…!」
「トキツグ、行こう、一緒にここを出るんだ!」
「オレはいいから!ヘキさん…そのバアちゃん、歩けないんじゃないすか?
早く、連れ出してあげないと…」
ヘキは内心仰天していた。その目、その心は完全に「命を賭けて民を守る真の軍人」の物。
彼の魂を視たヘキは、トキツグを残し、老婆と共に神宮を脱出する。着陸したユリノが代わりにトキツグを救助に行こうとするが、
その時、天井が落下した!
一人下敷きになるトキツグ。
「オレは…まだ、沢山の民を救いてえんだぁーっ!」
大量の瓦礫に埋もれながらも叫ぶトキツグ。次の瞬間、彼は見知らぬ場所にいた。
(君の魂、見せてもらった。)
そこにいたのは、鳥神、ガルーダ!

「…お前、リュウラに殺されたんじゃ…」
(私を哀れんだ何者かが、消滅寸前の私をその身内に取り込んだのだ。)
それはカンナの無意識が成せる業であったのだが、ガルーダはその事を知らない。
(そしてその中で、刻が来るまで私は眠っていた。)
「刻が…来るまで?」
(…私は神々の正義を盲信し、アサギへ力を与えた事で、多くのニンゲンに『望まない死』を与えてしまった。
君の師もその一人だ。その罪は二度と消えない。だが、少しでもその償いをしたいんだ…。)
「自分の失敗を悔やんでても、何も始まらないってことか…」
(償いをしたい…。君の魂、貸してもらいたい。)
「…何?」
(私と共に、戦って欲しい。しかしそれは畢竟、私自身の償いに…協力して欲しいという事でもある…)
「…お前は、クソ野郎に力を与えて、教官を殺したヤツだ。でも…、」
一度、右拳を全力で叩きつけるトキツグ。これで、ガルーダへの恨みを振り切った。
「オレは誰も助けられなかった…みんなを助けられるんなら、お前の償い、手伝うよ。…どうすればいい?」
(君の名において、私に命じてくれ。和合させた力を解放せよ、と。…すまない。)
僅かな迷い。それは、業を背負う者同士、共通するものだった。だが、悔やんでいても、何も変らない。
そして、トキツグは叫ぶ。
「君が宿主、ロクドウトキツグの名において命ずる!」

明治神宮へ、光の稲妻が集束した!その中から、リュウラに砕かれた筈の鳥神ガルーダが出現!
ガルーダは空間を飛び回り、ムイの幻影を撹乱させる。そして…黒き巨人、ウルトラマンカルラの姿へ転じる!
だが、その黒い体の各部に、新たな宿主の熱き魂を示すが如く真紅のラインが刻まれている。
どこというわけではないが、顔つきも若干異なっている気がする。新たなカルラは、右拳を真っ直ぐに突き出し、戦闘態勢に入った。
トキツグの魂を宿す、新たなる光の鳥神。
ウルトラマンカルラ・ガイ!

リュウラ=ヒスイはまたも一瞬で理解した。この、いわば新たなウルトラマン。その正体が、あの少年であると。
(…トキツグ…)
そしてカルラ=トキツグ自身も、己の姿に驚愕していた。
(オレが…ウルトラマン?)

凄まじいまでに敏捷な動きでムイの幻影を散らすカルラ。その間、リュウラはレイヒュウゴの鬼道機関を、呪から開放した!
「鬼道機関、発動!」
ムイの発生させた全ての幻影は消滅、一体だけが残った。
そこに踊りかかるカルラ!一切の小細工を省いた、直線的な攻撃。ムイに近接し、とにかく殴る、殴る、殴る!
よろめいたムイの腹部に膝蹴り、さらにナックルパンチで吹き飛ばした。そして腰に手をやるカルラ。
光の短刀、翼光牙セントラルクローを現出させる。しかし、新たなカルラは、最初からそれを長槍に変えて戦っている。
あたかも自分自身が槍であるかのように、直線的にムイを突き飛ばすカルラ。更に頭上で槍を回転させ、雷の気を槍へ集束させる。
そしてムイに向け、槍を投げつける!必殺の裁邪翼光槍セントラルスティンガーだ…と思われたが、
その槍は空中で、一対の羽根を伸ばし、光の鳥のような形状へ変化。ムイを貫いた!余りに力を込めて投げすぎた結果、膝を突くカルラ。
だが、ムイを貫いた光の槍はそのまま猛烈な稲光を生む。ムイは、完全に粉砕された。
トキツグへガルーダが受け継がれた事で生み出された最強技、
「鳥神総凱破 ウィングインパクト」である。
一切パワーバランスを考えず、ガムシャラに闘った新生カルラ。その初陣は、勝利で飾られた。
しかし、余りに全力で戦い過ぎた結果、空の彼方へ飛び去る事も出来ず、その場で姿を消した。

戦いが終わり、トキツグと対面するヒスイ。ヒスイはカルラの正体を見抜いている。
(気まずいよな…)
だが、トキツグは言った。
「マミヤさん!大丈夫ですか?…それにしても、リュウラの正体って誰なんでしょうね。」
(!…俺の事には、気付いていないのか?)
念のため聞いてみるヒスイ。
「な、あの新しいカルラの正体は、誰なんだろうな。」
「え゛!?あ、いや、え〜っと、誰なんすかねぇ?いやオレは何も見てないですよ?分かんないよな〜」
(…本気だ。本気でリュウラの正体を知らない。)
さて、レイハは至急指令房へ戻り、ムイに協力した何者かを調べなければ。
「先に戻っている。…いつでもいいから、帰って来い。」
去り行くヒスイ。一方、龍と、ガルーダの会話。
(お前は、良い選択を成したようだな。)
(おかげさまで。)

次回予告
レイハ壊滅の謀略、未だ潰えず。帝都の地下道、悪意と魂が交錯する。新たなる戦部よ、帝都を救い出せ!
次回ウルトラマンリュウラ 第二十八章「とりくんとろりこん」

リュウラ学 本日の講師 ヘキゼンジロウ&イワカゲユリノ
「ケットル星人は32年前、ウルトラマンレオと闘ったんだ!等身大時と巨大化時、君には違いが分かるかな?」
「関係ないよね。」
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第二十八章 とりくんとろりこん 剛生邪花エンガトハンビ 発現
ユリノがイラついてらっしゃるのはいつもの事だが、この日はヒスイやフナトもイラついていた。
トキツグが訓練院退校を一方的に提出、行方をくらましていたのだ。
その上…レイハ就任が決定した、この ワタリベ サクヤという男…
軍 日本基地に「武陣殿」という部署がある。警邏活動、人命救助、戦闘など、
最前線での迅速な行動を担当する部署であり、ヒスイやゴジョウが以前務めていた帝都治安維持院の上部組織である。
で、このワタリベ サクヤという男は武陣殿の長官、ワタリベ幕官の息子である。
つまりこの男、親の七光りで「レイハへ入隊した」という事か…
「大宰、我々は納得できません。」
「訓練生中最高の成績を残した者が、つまりトキツグが七人目のレイハ正司馬へ就任する筈だったのに…!」
「何故、あのワタリベという男が、七人目なのですか?」
数時間後、正式に就任が決定したワタリベ。ヒスイは居心地の悪そうな彼を、指令房から連れ出す。
「…マミヤ、どうもオレは歓迎されてないっぽいな…」
「そりゃな…。俺だって素直にお前を歓迎する事は出来ないさ。お前の能力や人間性は高く買ってる。
大体お前を推薦したのは俺だ。しかし…トキツグがいなくなった直後だからな…連中も気が立ってるんだ。」
そう、この新たなレイハ正司馬、ワタリベは帝都治安維持院時代のヒスイの同僚であった。
相も変わらずゴジョウに「ワタリベを就任させた理由」を問い詰めるフナトとユリノ。
問い詰めるといっても、この二人の頭には「ワタリベは親の七光りで就任した」という思い込みがあるため、
何を言われても考え方が変る訳ではない。
そんな二人を見ているカンナと、地味に復帰していたヘキ。
「大事なのは、ワタリベさん自身がどうゆう人なのか、じゃないですか?」
「彼は治安維持院の方で結構実績を残してます。先入観だけで非難するのはどうなんでしょう…」
冷静な、というよりのほほん組の二人に諭される。更にゴジョウが言う。
「トキツグ君が辞めちゃった以上、他の誰かに頼るしかないんだってば。」

ゴジョウは指令房を出、ワタリベの自室へ入る。
「誰宛?」
治安維持院の頃からこのゴジョウという女性は唐突に出現するから苦手だ。
特に今のような、手紙を書いている時は。
「…妻です。しばらくは帰れませんから。」
「ふ〜ん、じゃあさ、休暇あげるから細君に顔見せてきてあげなさい。
図々しくも就任直後に堂々と休暇をとるレイハ七人目の正司馬!売れるわね♪」
「何が?」
で、かみさんに顔見せに行かされてしまうワタリベであった。
ユリノはイラつきながらも、前回ヒスイを負傷させたニセ操縦手の遺骸を検分していた。
体構造は通常の人間と大差ないが…何度か、「帰神」を行った痕が見受けられる。
帰神。己の身内へ人為的に神を降ろすことで、神の詔を代弁する術。
その危険性ゆえ、神職の者やレイハでも、この術を使える者はそう多くない。
その上、生前のニセ操縦手が降ろした神は非常に高位の存在であったようだ。
常時、高位の神々と密接に関係できる者といえば…
「光の一族…」
ゴジョウ、ヒスイ、カンナが同時に呟く。
当の光の一族。その内数名が旧地下街へ入り、奇怪な種子を散布している。
この旧地下街は帝都のあらゆる地下道へ、そして宮内庁へ繋がっている。
我が家へ帰り着いたワタリベ。この辺りでは多少名の知れた甘味処であり、妻が一人で切り盛りしている。
「ただい…」
「あ、トーヘンボク、ちょっと新しい子雇ったから挨拶しといて。」
一月振りにご帰還の旦那をつかまえてトーヘンボクたぁどういったご了見で?
その「新しい子」は熱心に働いてはいるものの、どこか陰のある青年―十八歳だというから少年かーであった。
ワタリベは、少し店を離れ、その少年と話してみた。少年の前職は、軍。

「軍を、辞めたのか…」
「はい…オレ、何もできなかったから…教官を見殺しにしちゃって…
だから、あそこにいるのが辛くなっちゃって…」
「オレは今二十八だ。十年ぐらい軍人やってる。四年前、
ある任で、今のカミさんと知り合った。カミさんはオレの仕事には一切文句言わない。ただ、軍人ってのは民を守る仕事。
オレは、何が何でもまずはカミさんを守る事にしてるんだ。君もさ、何よりも守ってやりたい人を一人、探せばいいんじゃないか?
それがあれば、軍にも自信持って戻れると思う。」
「…ちょっと、余裕が欲しいんです…」
「焦る事はないよ。君の名前は?」
「ロクドウ、トキツグ。」
一方、その軍日本基地でヒスイはカンナに同行し、ミウが眠っている病室を訪ねてみた…が…いない。
医師によれば、彼女が突如目を覚まし、剣を振るって威嚇、そのまま基地から脱出したという。
「ったく昨今の若人はぁ!」
頭を掻くヒスイ。そこへ緊急の報が入った。以前と同様、またしても旧地下街で邪花トハンビが繁殖しているというのだ。
その報は、当然ワタリベにも伝えられる。すぐさま現地へ急行するレイハ。ワタリベは青ざめていた。
トハンビが分泌する酵素は、強力な分解能力を持っている。しかも、カミさんの店は旧地下街の真上に立っているのだ!
時既に遅く、店が地下へ陥没する!あの中には多くの客、そして妻がいるというのに…
「トキツグ君、早く避難するんだ!」
「ワタリベさんは…」
「オレは仕事してくる!」
到着したフナトへ直訴するワタリベ。
「お願いします!自分に行かせてください!自分の妻です。自分が救出に行きます!」
「でもね、敵は以前のトハンビより強力なの。少しの手違いが命取り。アンタには任せらんないわ。」
「妻を救えるなら、どんな無茶な作戦でも遂行します!
こうしてる間にも、トハンビに喰われてるかも知れません。お願いします、オレに行かせて下さい!」
フナトは少し微笑み、全員を見渡す。そして、
「言い方が悪かったわね。ワタリベ、アンタ『一人』には任せらんない。」
同じく笑み、頭を下げるユリノ。ヒスイはワタリベの肩を叩く。
「俺達を信じろ。お前はもう、レイハの司馬なんだから。」

旧地下街へ突入するレイハ。ゴジョウとヘキは指令房で作戦の推移を見守る。
「ヘキです。一応トハンビ枯殺用の弾装は強化しておきましたが、今回の奴への効果は未知数です。
地下街へ陥落した民を確保したら、すぐ地上へ引き返してください!」
ほぼ地下街の壁と一体化したトハンビはそこら中から分解液を吐き散らしレイハを襲う。
埋没した店までは目と鼻の位置なのに…
「ワタリベ!アタシの分の護符、持っていきな!」
フナトが自分の護符を与え、ワタリベの防御を固める。
「ユリノ、式神でトハンビの目を誤魔化す!カンナ、ワタリベを援護!
ワタリベ、早いトコ奥さんを助けに行って!マミヤ、アタシの側に!」
最後の指令の意味は、ヒスイの護符の力である程度自分の防御を固めようという考えである。多分。
埋没した店に接近するワタリベとカンナ。分解液では無効と悟ったトハンビは、
根を腕のように操り二人を薙ぎ払おうとする。が、カンナの動体視力はこれを避け、
カウンター的にレイエンキュウを放つ!根の一部を切断されたトハンビ。その隙にワタリベは店へ突入!
「…遅いわよトーヘンボク。」
抱き起こした妻、いきなりの毒舌。しかし、軽傷ですんでいる。
他の民も救出を完了、レイハは地下街より脱出に成功した!
それを遠目から見ていた三人の男…光の一族の使者。レイハ及び宮内庁壊滅作戦、失敗。
その時、次元の狭間にある神山で、クロサキが人形に釘を打ち込んだ。
同時に、帝都にいた三人の使者が倒れた。
トハンビの根は、その三人を吸収、またしても自分を人型に形成し、地上へ現れた!
その様子を見つめるトキツグ…
(守りたい人、一人…。まだ、分からない。オレがホントに守りたい人は誰なのか…。
でも、沢山の民の中に、一人でもそんな人がいてくれるなら…。オレは、その可能性を守る。)

迫る人型のトハンビ。
「ガルーダ、力貸してくれ。
君が宿主、ロクドウトキツグの名において命ずる!翼、雷、和合すべし!出でよ、カルラ!」
トキツグの手に集束した光が、ハンドガード部に鏡を備えた両刃の短剣「翼雷鏡サンダーボルト・クロー」へ変化。
それを右腰に廻すトキツグの全身を、光の稲妻が包む。そしてその中から鳥神ガルーダが出現。
更に空中で、黒き体に紅のラインが刻まれた巨人、ウルトラマンカルラ・ガイへ転化した!
しかし、トキツグの戦闘テクでは分が悪い。全身からツタを鞭のように振り回し、カルラを接近させない。
何とか接近すれば、分解液を吐きつけてくる。遠距離から狙おうとすれば、ツタを高速で伸ばし、絡め獲る。
今のカルラはいわば「パワーだけ」で闘う戦士。トハンビの特殊攻撃の前には手も足も出ない。
一方的にやられ、タイマーがあっさり点滅を開始してしまう…
その時、カルラを締め上げるツタを一条の光線が焼き切った。
ショットスパークル…。そこに現れたのは、リュウラだ!
リュウラはショットスパークルでカルラの足元を爆発させ、強引に道を開けさせる。
トハンビへゆっくり歩いていきながらショットスパークルを撃ち続ける。
この猛攻に、トハンビはたまらず転倒するが、リュウラは攻撃の手を緩めない。
倒れたトハンビへさらに光線を浴びせる。だがトハンビも負けてはいない。一瞬の隙をつき、リュウラの足を狙ってツタを伸ばした!

が、これはリュウラがワザと作っておいた隙であった。トハンビの放つツタを瞬時にかわすや、空中でコウへ変身。
敵の背後へ回り込み、蹴り上げる!更に自身も上昇、吹っ飛んだトハンビへ超光速で接近し、ドラゴンカムイを打ち込んだ!
この膝蹴りで今度は急降下するトハンビ。
地上のカルラは、セントラルクローの両端を伸ばし雷の気を集中、高速で落下してくるトハンビへ投げつけた。
その槍は空中で一対の羽根を広げ、鳥に似た形状でトハンビを貫く!
リュウラの破邪龍剛脚ドラゴンカムイ、カルラの鳥神総凱破ウィングインパクトの連続攻撃に、邪花は再び虚空へ散った。

「さてと、この店どうしたもんかね。」
ワタリベの妻はさほど気に病んでもいないようだ。しばらくしたら営業再開する気満々である。大体、この時代にも保険というものはあるし。
「さ、トーヘンボク、レイハに入ったからしばらくは帰れないって話でしょ?分かってるからさ、早く仕事してきな。」
それだけ言うと、彼女はさっさと保険商社へ向かった。
「ヒスイくん、結婚って、大事ですね。」
「…だな。」
「だんなさんの稼ぎによって、甘いもの買えるかどうか変ってきますもんね。」
「…そっちか。」

次回予告
リュウラの戦い、それを見守ってくれる貴公達。
宣言しよう、次回のネタも全くまとまっていないのだと!
次回ウルトラマンリュウラ 第二十九章「小娘と羅刹女」

リュウラ学 本日の講師 ワタリベ サクヤ&ゴジョウ ホノカ
「というわけでワタリベくん、今日から新しい司馬になったわけだけど、どう?
やっぱ、『ふるさと地球を去る』って感じ?」
「好きなんですか?南隊員メインの話。」
「てへ♪」
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第二十九章 小娘と羅刹女 高位剣神仙クサナギ 発現
 その地は、「高天原」と称される。
関東省の外れに広がる「高天原」と呼ばれる高原地帯。誰がそう呼び始めたのかは不明だが、ともかく国生みの神話の舞台と同じ名を持つ地。こちらの高天原は風光明媚な観光地である。
しかし交通の便が悪く、秋冬に訪れる者は多くない。それに、謎も多い。その一つが「沙子泉」と呼ばれる、満月の夜にしか高天原へ姿を現さない湖。
とある家系の若人は、この湖へ己の持つ刀を浸し、満月を刀身に映しながら砥ぐ。するとその刀は、この世の森羅万象を一刀両断する最強の力を持つ、という。
この湖は目撃者が少ない上、そもそも実在を疑問視する者が多く、旅慣れした者達や遊牧民の間での噂話の域を出ない。だが、カンナはその湖の実在を知っている。
レイキザン。当初はレイヒュウゴ支援用として開発された高機動小型機翼。しかし高天原におけるハガネギアロとの戦闘の中、カンナはミウが示唆した「沙子泉」に飛び込み主翼を砥いだ。
その事でレイキザンは、機体そのものを叩き付けてあらゆる邪仙の体を切り裂く突撃戦法「ミウツシノヤイバ」を放てるようになった。同時にその飛行速度も以前の三倍となる。
だが、ミウツシノヤイバは誰もが使える訳ではない。レイキザンのスピードだけでも耐えられる者は少ない上、乗員の心力、霊力が弱ければ刃の性質を持たせられない。
ミウツシノヤイバはカンナにしか使えない技なのだ。そのため、現状では半ばカンナの専用機翼となっている。
カンナはその日、レイキザンで高天原へ降りていた。何をしに来たというわけではない。小高い丘へ登り、ただ風を感じていた。それは、国が生まれた時と寸分違わぬ風。
しかし、その中に邪悪な匂いが入り混じっている事を彼女は気付いた。
その「匂い」を含んだ風が吹いた方角…それはどうやら、この国ではない。
「…やめなさい、ミウ。」
背後から迫るミウを一喝するや静かに振り返り、微笑む。
「…また呼び捨てにしちゃったね。ジョウガの時とおんなじ。でも何だろ…ミウさんだけは、さん付けしたら逆に失礼になっちゃう気がして…」
ミウは静かに剣を納める。

「カンナ、アンタ沙子泉を探しに来たんだよね。でもアレは満月の夜にしか現れないよ。」
「…イヤな匂いがするんだ…。今のミウツシノヤイバだと勝てない相手が来る…。」
ミウは黙って去る。見送るカンナ。ミウに聞きたい事があった筈だが、それは口をつく前に忘却の彼方へ消えた。

次の日、帝都は地響きに襲われていた。巨大生物とウルトラマンカルラの激突である。戦況としては、僅かに巨大生物の方が有利だ。
力を込めた一撃を放つカルラはその分空振りも多く、スタミナを無駄遣いしてしまっている。攻撃を外した隙だらけのカルラを、生物は見逃さない。
とにかくカルラの技を避け、カウンター攻撃を繰り返す。追い込まれるカルラ。こういう場合逆転を狙えるのはどんな体勢からでも発射できるショットスパークルなのだが、
カルラはセントラルクローを手にし、発射まで時間のかかる必殺技、ウィングインパクトを繰り出そうとする。しかしというか当然というか、
ウィングインパクトを放とうとする隙をつかれた。技バリエーションの少ないカルラはやられ放題…。

ところで、他のオリトラマンに比べるとリュウラに登場する三人は技が少ない気がするが、大体ウルトラマンが三人も出る上、各々が一人で戦ったり武器持ったりタイプチェンジしたりとかするので、技の設定は最小限に留めなければ混乱するのだ。先ず私が。

到着したレイハの援護を受け、カルラは再度セントラルクローを召喚。だが生物も虚空より剣を召喚する。その剣は…突き出されたセントラルクローをへし折った!ヒスイは生物の剣技を見、あることに気付く。
「あの構えは…ラセツ?」
生物はハデスヴァジュラを手にしたラセツに酷似したスタイルでカルラを襲っているのだ。カルラはこの剣技で深い傷を負う!止めを刺そうと迫る巨大生物。
カンナはレイキザンよりミウツシノヤイバを放つ!これを受けた巨大生物の剣は、刃こぼれをおこす。カルラは以前の必殺技、セントラルスティンガーを放った!
この一撃でダメージを受けた巨大生物は、暗闇へ逃亡。カルラもトキツグの姿へ戻り、傷ついた体を引きずりレイハから逃れる。

レイハはミウツシノヤイバも通用しない強敵への対策を検討するが、これといった名案は出なかった。
さらにレイハは、もう一つの脅威を感じていた。せっかく仲間になったのに、今回は話の前半でいいトコなしでボロ負けしたカルラ。そう、リュウラへマンネリ化の脅威が迫っているのだ!

そんな夜、ヒスイの中の龍は何者かの声を聞く。
(あれなる神はクサナギ。剣の神なり。)
鋭い女声。応答する龍。
(ラセツへ力与えし鬼神か。)
(いかにも。妾はミウへ融合する以前、クサナギへ剣技の教えを請うたことがある。故にラセツは、クサナギと同じ剣技を使うのだ。)
(鬼神よ、何故お前の師がニンゲンを亡ぼさんとする?)
(神々の正義…。クサナギが高位の神である以上やむをえん。)
(下らんな。)

一方、仮眠を取るカンナ。彼女は夢を見ていた。
周囲の山や木々が鏡のように映る湖。その岸辺に立つ一人の女。二十代後半だろうか。暖かい笑みが印象的である。そして、その笑みの中に、全てを守り抜かんとする魂の輝きがあった。カンナは…泣いた。
「…お母さん…」
女は、天龍雅姫(アマタツノミヤビヒメ)は静かに口を開く。
「カンナ、あの神、クサナギは己の剣を傷つけてしまった。なら奴は、その剣を蘇らせるために、まず何を狙うかしら?」
「剣を砥がないとダメだよね…!沙子泉?」
「急いで。カルラを倒した強敵よ。」
それだけ言い残し、ミヤビは消えてゆく…。
「待ってお母さん!まだ聞きたい事が…」
「しっかりしなさいカンナ。お姉ちゃんなんだから。」

目を覚ますカンナ。クサナギは、沙子泉を生み出す高天原へ現れる。ゴジョウは高天原の監視強化を決定。そしてカンナはヘキへ進言する。
「レイヒュウゴとレイキザンをつなげて、ミウツシノヤイバを強くできないですか?」
理論上は可能だ。レイキザンへレイヒュウゴを連結する事でレイヒュウゴにも刃の性質を与える事はできる。さらにレイヒュウゴの大型鬼道機関を使えば、その刃の切れ味を高める事もできる。しかし、
「あくまで理論上は、だよ。実際にそれを放てば乗員にどれだけ負担を与えるか…。」
だがカンナは、強き母親の魂の輝きを思い、ヘキに宣言する。
「どれだけの負担なのか、わたしが確かめます!」

その夜、満月でもないのに高天原へ沙子泉が姿を現した。焦ったクサナギが、自分の神威で半ば強引に沙子泉を現出させたのだ。その報告を受けたレイハ指令房。フナトは全員を見渡す。
「カンナはレイキザン、ユリノとアタシはレイヒュウゴへ搭乗し、新たなミウツシノヤイバを準備。ヘキはレイカイオウで空から、マミヤとワタリベは地上から支援攻撃!」
ゴジョウは一歩踏み出す。
「レイハ、出陣!」
フナト以下の六人は右拳で左肩を叩き、僅かに頭を垂れる。
「御意!」

レイハの機翼が飛び立つと同時に、高天原へクサナギが現れた!敵は己の剣を沙子泉へ浸し、腕の甲冑でそれを砥ぐ。
その高天原へ到着したトキツグ。転身聖具、サンダーボルトクローを召喚するが…。
「アンタが、二人目のカルラ?」
彼の背後に少女が立っていた。
「どいて。アンタの怪我、結構深そうだよ。アイツには勝てないと思う。」
「うるさい!君が誰だろうと、オレはアイツを、クサナギを倒す!」
サンダーボルトクローへ己を映すトキツグだが、少女は彼に剣を突きつけ、転化を制止する。
「手ぇ出さないで。クサナギは、アタシと鬼神の全てを知ってる。アタシが倒す…カンナが来る前に。カンナにアタシの事知られる前に!」
そう言った少女の剣に光が集まる。

「君が宿主、天龍水映姫(アマタツノミウツシヒメ)の名において命ずる。鬼、炎、和合すべし!出でよ、ラセツ!」
少女は、ミウは光の炎に包まれる。炎の中に揺らめく鬼神の影、その中から、ウルトラマンラセツが現れた!
トキツグとミウは奈良で一度会っている。ただ、トキツグはミウがラセツであるという事実を知らなかった。
ハデスヴァジュラを振るい、クサナギと対峙するラセツ。だが、同じ型とはいえクサナギの方が有利である事は確実だった。
ラセツの一手一手を正確に読み、あらゆる斬撃を払う。程なく、戦況は完全にクサナギの支配下となった。ハデスヴァジュラは打ち払われ、ショットスパークルは反射されてしまう。

そこへレイヒュウゴ、レイキザン、レイカイオウが到着する!地上のヒスイはトキツグの存在に気付いた。
奴の事だ、何が何でもクサナギに戦いを挑むだろう…。正直、苦戦するラセツの足手まといになる事は明白だ。
「ワタリベ!彼を頼む!」
ワタリベに保護されるトキツグ。
「ワタリベさん…レイハだったんですか?」
「うん…あれ、マミヤは?」
大方の予想通り。ワタリベに保護を任せたのは、遠ざけるためでもあった。

「龍、明、和合すべし。出でよ、リュウラ!」
レイハの支援攻撃に救われるラセツ。さらにリュウラも現れた!リュウラはシャイニングヴァイパーでクサナギに対抗、敵が本気を出すのを待つ…。
この機に乗じ、ラセツはソードスパークルを放った。クサナギはこれを切り払う。その隙にリュウラのシャイニングヴァイパーが炸裂する!
「今よ、レイヒュウゴ、レイキザン、合体準備!」

ゴジョウの指令を受け、二機は合体。大型機翼「ヒュウキザン」となる。そして、レイキザンの力によって主翼が「刃」の性質を帯び始めた。
さらに、レイヒュウゴの大型鬼道機関によってその切れ味を高める…。
クサナギへ突撃するヒュウキザン。その速度は上昇を続ける。そして…、
「ミカガミノツルギ、一閃!」

ミカガミノツルギと称された新たな切断技は、クサナギの剣を叩き折り、そのまま敵の体を貫通した!
リュウラはコウへ変身。ドラゴンインパクトとハデスフレアの同時発射でクサナギを一片残らず消滅させた!

朝日が昇り始める高天原。カンナはその手に、粉のようなものを握っていた。否、それはクサナギの欠片。
カンナは以前、無意識のうちにカルラをその身に宿し、救った事がある。この欠片は、ミカガミノツルギを決めた際、手に入れたもの。
その欠片より、カンナはクサナギの記憶を探る。

そこにあったのは、二人の少女を抱く女。その女は、ミヤビ。カンナの母親であった。となると、彼女に抱かれている一方の少女が自分か。しかし…では、もう一人は?
記憶は断片的なものだった。続いての記憶は、ミウが鬼神と融合する儀を受けている場面。そこでミウは宣言する。
「私はこれより、天龍(アマタツ)の性を捨て、鞍馬水映姫(クラマノミウツシヒメ)として、忌み子、天龍神無姫(アマタツノカンナヒメ)を抹殺します。」

天龍神無姫(アマタツノカンナヒメ)とは、自分の事であろう。しかし…母親の名は天龍雅姫。自分の名は天龍神無姫。そして、ミウも真の性が天龍。ということは…
「天龍水映姫。それがアタシの真の名。」
カンナの前にいつの間にかミウが来ていた。
「じゃ…ミウさん、あなたは…」
「アタシはアンタの、妹。」

ミウは、それだけを告げて姿を消した。
実の姉を殺そうとする。それは、神々の正義を最優先する光の一族としては当然の選択だったのかもしれない。だが、人間として許される事ではない。更に今のミウは、ウワバ事件以降、カンナを憎んでいる。
「お母さんは、そんなこと望んでない。」
去り行くミウを見送り、気を集中させてクサナギの欠片を消滅させつつ、カンナはそう呟いていた。

次回予告
旧暦。未知なる国へ旅立たされた者達。その怨念は、一体の邪仙を産み出した。
レイハよ、今こそ宇宙へ飛び立つのだ!
次回ウルトラマンリュウラ 第三十章「或る宇宙」

リュウラ学 本日の講師 マミヤヒスイ&ゴジョウホノカ
「ミウはこの剣、バーニングヴァジュラに念を込め、ウルトラマンラセツに転化する。通常でも武器として使う事ができる。」
「今日のヒスイ君は主役として全然使えなかったわね〜。やーいやーい」
「…(あえて無言)」
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第三十章 或る宇宙
未邪仙ヒルコ 機邪仙グレンヒルコ 宇宙怪獣ヴァーズ発現
神々にも、派閥があれば勝ち組負け組もある。
高位の神は、いわば勝ち組。例の暗闇に住み、宇宙全体の摂理を操っている。
一方、負け組の神もいる。高位の神に成れなかった彼らは、どこかの惑星へネグラを置き、そこで生きる。高位の神のような「仕事」も無く、ただ生き続けるだけ。
たまに気紛れで、その惑星の生物へ加護を与えることもあるが、基本的にはその惑星へ干渉しない。その惑星が滅べば別の惑星を見つけ、そこを新たなネグラとする。
負け組は、ただそれだけ。いわば、地球を守るため奈良で神壁を保持する白虎たち三神は「勤勉な負け組」なのである。

クサナギが粉砕された高天原。
その鬼神は、己が宿主ミウの言葉を聞き流し、物思いにふけっていた。
ついこの間、高位の神々は地球よりキョウリュウとかいう生物を滅ぼした。鬼神はラゴウに理由を問うてみた。
「キョウリュウだっけ?あいつらを放っておけば邪仙が産まれるだろ。で、邪仙が増えりゃ『虚ろの者』の勢力が増すわけだ。俺達は邪仙に関しちゃどーでもいいんだよ。ただ…怖いのは虚ろの者だな。」
「ラゴウ、そなたがキョウリュウを滅した事実、龍は如何に聴くであろう?」
「龍も怖いよな。アイツはよく分からんよ。絶対俺達より古参だろ?アイツがいつ高い位を手にしたか誰も知らないんだからな。その割に、この暗闇での仕事もしなきゃ他の星にネグラを構えるわけでもない。いつでも宇宙のどっかをブラついてるだけ。」
ちなみにその後、何故か龍は、人間が生まれたと同時に地球で神壁の保持を始めている。龍ほどの神ならば、辺境の惑星へネグラを置く必要も無いのだが…
ラゴウは最後にもう一度、
「龍は分からん。アイツが一番怖い。」
と言い残し、自分のネグラヘ戻っていった。
その言葉が妙に印象に残っている。まあ、たった六千五百万年前のことなので覚えているのも当然か…

「あの!あたしの話お聞きになっていらっしゃいますか!?」
ミウだ。生返事しか返さなかったからか、声が刺々しい。やべ、全然聞いてねえ。
(おお、聞いておったとも。役者の押尾学衛門が人気女優へ手を出し演劇界を追放)
「違います。」
(若手の力士三兄弟の取組が八百長でその兄弟の父親がまたガラが悪)
「違います。」
(へえ、アンタもお七っていうんだ)
「微妙に時期外れなネタはやめてください。」
ミウは実の姉、カンナに関して鬼神へ愚痴っていた。
(…ミウよ、振り返るが良い。)
「やっぱ、ここにいると思った。」
そこには、当のカンナが来ていた。
「ミウさん、お話だけ、してもいいかな?」
「…手短にね。カンナ。」

二人の少女は、国が生まれたときと寸分違わぬ風を感じつつ、腰を下ろした。先にカンナが口を開く。
「…整理したいんだけど、天龍雅姫(アマタツノミヤビヒメ)はわたしたち二人のお母さん。ミウさんはわたしの妹。」
「そう。」
「じゃ何でミウさんはわたしを殺そうとしてたの?」
「そもそも、ミヤビヒメがアンタを産まなきゃこんなややこしくなんなかったんだよ。神に仕える光の一族なのに、そこへ神を殺す存在が現れた。光の一族の立場上アンタは殺されるべきだった。
でも、龍の意を測る天龍の血を絶やすわけにはいかない。だから一族は、ミヤビヒメにあたしを産ませた。要はあたしは、龍の意を測るためだけに産まれた、アンタの代用品。」
一言一言に憎悪が篭っている。
「で、アンタは十歳の時、龍の力で太陽を鎮め、そのままこの時代へ渡った。それを恐れた神と光の一族は、あたしとアサギをこの時代へ召喚した。」
「神々の、正義のため?」
「…それもあった。でもあたしは、アンタってゆう忌み子の代用品でしかないから、それが憎かった。だから、アンタを殺せるならなんでもするって。」
それは嘘ではなかろう。しかし、ミウは奈良でカンナを救うため、神を裏切った。それは憎しみによる行動ではあるまい。おそらく、ミウの心境は姉への殺意と慕情が衝突し続けている。

「カンナ、あたしはもう神を裏切った。だからってアンタに頼る事もしない。結局、アンタが産まれたのが全部の原因。」
カンナに異論は無かった。しかし…最も根源的な疑問を忘れてはいないか?
「…ミウさん、わたしは『何で』、神を殺す力を持って産まれちゃったの?」
ミウは僅かに視線をそらした。
「それが分かれば苦労しないんだって。」
その時、カンナへ召集の命が下った。
「もーちょっと色々聞きたいんだけど…ごめん、今日はここで。…またね、ミウ!」
こちらから、意識的に呼び捨てにしてみた。呼んだ方も呼ばれた方も、そちらの方が馴染んでいた。

「レイハの諸君、急に何なんだが、宇宙へ飛んでくれたまえ。」
指令房でデカイ顔をしてデカイ腹を揺らしているおっさん。ワタリベ幕官。レイハ司馬ワタリベの父親である。ちなみに、婿養子だ。独身時代の性はヤマトリ。
目的地は、金星の軌道を廻る衛星、ギワン。ここから、現在の地球最大の国家を擁する「大陸」に向かって、邪仙と思しき強い怨念が観測されたのだ。
「しかし、金星までどうやって飛べばいいんです?」
そこへ図面を持ったヘキが仰々しく登場する。
「僕が設計した、『ヒュウカイザン』。レイヒュウゴ、レイキザン、レイカイオウの三機を合体させた形態です。これを使えば半日で太陽系を出る事もできます。
更に、三機分の全火力、鬼道機関、そしてミカガミノツルギを放つ事もできるのです!僕は偉いでしょう。」
機翼を合体させる案を出したのがカンナであることを完全に忘れている。
「じゃあ小宰、ユリノちゃん、指令房はよろしく☆」
やはり、このゴジョウという指揮官は全てにおいて唐突だ。
「私が現地での指揮をとるわ。ヒスイ君、カンナちゃん、ヘキ君、ワタリベ君が一緒に来て。」

初の宇宙任務に緊張する四人。ワタリベはユリノの肩を叩く。そして
「君の代わりに俺が残ろう。」
白い目で見られるワタリベ。
「…いや、宇宙には宇宙の掟というものがあってな、恐らく俺はその掟に当てはま」
「ほらどこかの蹴鞠の選手みたいな事言ってないで行くわよ♪」
強引にワタリベを連行するゴジョウ。こういう時、彼女の腕力を再認識する。
そして、日本基地より飛び立った三つの機翼は空中で合体、ヒュウカイザンとなって大気圏を突破する!
合体時の音声コードはそれぞれ
「敵も飛んでるんだぞ。」
「それをやるんです。」
「コモン、出来ないなら外れてもらうぞ。」
にしようとヘキが頑張ったのだが、「最後のはホークでなくクロムチェスターだから」という訳の分からない理由で没った。

「しかし、その衛星ギワンに何があるというんだ?」
問うヒスイにヘキが答える。
「旧暦の戦争前、亜米利加の軍部が極秘に、ギワンへ基地を建造していたらしいんだ。目的は、灼熱地獄である金星の環境下で初めて精製される物質、『グラニウム』。
コイツを兵器転用すれば、高い命中精度と小型核弾頭並みの破壊力を発揮する。さすが自国を世界の警察とうそぶいてただけの事はあるよね。」
しかし結局、亜米利加が望んでいた「グラニウム砲」は実用化されなかった。基地での研究が開始されて間もなく、ラゴウによって戦争が始まったからだ。
その為、基地のクルーは強制的に地球へ帰され、基地はそのまま今まで…つまり最低でも七千年間…放置されたままだという。そこへ邪仙が現れたのだ。そりゃ何かありますわな。

その話を聞きつつ、ヒスイはカンナの様子が気になっていた。宇宙空間を珍しそうに眺めている。
そりゃ珍しいのは分かるんですよ月旅行が当然だった開戦寸前の旧暦ならともかくとして。
ただ、カンナが今、宇宙空間を「久々に観た」表情をしてるのはどういうわけ?
そう考えている間もなく、ヒュウカイザンはギワンへ到着した。…そこには…
「大宰!怪獣が!」
巨大な生物が数匹、衛星に存在していた。
「ワタリベ君、怪獣と基地との距離は?」
「いえ、怪獣から見て、基地はちょうどこの衛星の裏側にあります。」
「よし、みんな、大宰として命を下します。あの怪獣をシカトせよ!」
「御意!」
怪獣の群れを軽く無視してヒュウカイザンは基地へ飛ぶ。と…その怪獣共へ襲い掛かる巨大な影。
「…ヒルコか!」
以前自律飛行破壊器クウボウが覚醒した際、そのクウボウへ寄生してハガネギアロの姿を得た邪仙である。
ヒュウカイザンは全力でその区域を離脱する。

五人は基地へ到着。だが…ヘキが素っ頓狂な声を上げる。
「!?どういうことだ?何で宇宙艇が残ったままなんだ?」
奇妙である。基地のクルーが地球へ帰ったなら、この帰還用宇宙艇は残っている筈が無い。
基地へ入ってみる五人。手書きのメモが残されていた。地球よりも大気の薄い場所であるためか、風化も進んでいない。そこには
「2057年3月16日。今日も迎えが来ない。大統領は何をしているのか。我々を救助してこそのホワイトハウスではないのか。
酸素は残り少ない。明後日には、全員まとめて窒息だ。」
との記述があった。カンナは基地の壁に触れ、その記憶を読み取り…目眩を起こした。
「…ここで、殺しあったんです…」

そのようだ。3月17日のメモは途中で切れている。書いている間に他のクルーに襲われたのだろう。
そう。亜米利加は、ラゴウの起こした戦争において「世界の警察」としてのアピール的軍事活動に忙しく、宇宙基地のクルー数人に構ってなどいられなかった。
彼らは、母国に見捨てられたのだ。結果、僅かな酸素、水、食糧を奪い合い、全員が死んだ。
しかし、彼らが精製した筈のグラニウムが見当たらない。確かに、この基地が死に絶えてから最低でも七千年が経過してはいるのだが…。
その時、またもヘキが素っ頓狂な声を上げた。
「この衛星、この基地、霊的に最悪です…。」
そう。見回してみれば、この基地の間取り、色合い共に「禁忌」とされる構造。運気が逃げるとかそういう事ではなく、
悪意という悪意全てを集め、決して逃がさない邪悪な構造なのだ。それは時に、邪仙の棲む「幽世(かくりよ)」と繋がってしまう事もある。
「てゆーか…今、繋がってます。」
カンナが言う。邪悪な構造の建物の中で、数人が殺し合い、以降最低でも七千年間、誰一人花を手向けに来ない…。
「では…さっきのヒルコは!」
いつの間にか、ヒルコが接近していた!更に奴は、全身を紅く染め、体表へ機械を現出させる。奴が持っている機械…あれは、グラニウム砲!
「そう…なの?」
カンナはヒルコへ問う。そうだ。このヒルコは母国への怨念、仲間達への怨念、最低でも七千年の間、積もりに積もった怨念が、幽世と繋がった事で変じたもの。
「じゃあ…邪仙って…」
「みんな、走るわよ!」
ゴジョウに促され、ヒュウカイザンへ全力疾走。だがそこへ、等身大ながら先程の怪獣と同形の生物が襲い掛かる!
とにかくヒュウカイザンに到着すればこっちのモンだ。レイエンキュウをぶっ放し、レイバンガで近くの敵を叩き切る。と、そこへ大型の怪獣…ヴァーズが現れ、頭部から衝撃波を発射してくる!
その爆発に巻き込まれながらも、ヒスイはカンナへアイコンタクト。

ヒスイ以外の四人はヒュウカイザンへ到着した。
「ヒスイくんからの伝言です。座標二十五之十三にいるので、ヴァーズとヒルコを倒したら迎えに来てくれ、です。」
カンナの即興のウソが功を奏し、ヒュウカイザンは一時離陸。等身大ヴァーズに囲まれたヒスイは、リュウラへ転化する!
その際空間に広がる「光の龍」に弾き飛ばされ、等身大ヴァーズは一匹残らず消滅した。
迫る巨大ヴァーズ六匹と、グラニウム砲を備えたヒルコ。だがヒルコは、先ずヴァーズへ襲い掛かった!ヘキはヒュウカイザンから、襲われたヴァーズを分析する。
「あのヴァーズ、妊娠してます。」
そう、ヴァーズの体内に、卵がある。
ヒルコはグラニウム砲を発射、そのヴァーズを撃破した。
まだヴァーズは五匹いるが、ヒルコはその中から、やはり産卵前のヴァーズを狙う。
カンナはその光景を見、直感のまま言う。
「邪仙は、命を産み、命育む者を憎むんです。」

残った四匹のヴァーズはその一匹を犠牲として逃げ、リュウラとヒュウカイザンを襲う。ゴジョウは冷静に命じる。
「全光線砲、一斉掃射!」
僅かな間に三機分の光線を撃ち込まれ、一匹は倒れる。続いて焔弾砲で二匹目を炎に包み、飛宙槍で粉砕。
更に、三匹目をミカガミノツルギで一刀両断する。逃げる四匹目。追うリュウラ。と、そこへ強烈な光線が撃ち込まれた。ヒルコのグラニウム砲だ!
リュウラは、惑う。奴は元々、ただの人間。それを…自分の手で倒しても良いのか…。リュウラが悩んでいる間に、ヒルコはグラニウム砲でヒュウカイザンを攻撃する。
(結局は我とカンナの抹殺を優先するか…。堕ちたものよ。)
龍の呟き。母国への怨念に縛られ人でなくなった魂。それは邪仙へ姿を変えた。
リュウラは、コウへ変身する…。

ヒルコはなおもグラニウム砲を放つが、コウとなったリュウラへは一切のダメージを与えられない。
「死したところで人として、かの岸を渡れないなら、せめて…消えろ。」
リュウラは、ショットスパークルでグラニウム砲を貫く。暴走したエネルギーが体内からヒルコを苛む。そこへ、ドラゴンカムイを打ちつけた!

悶絶するヒルコ。リュウラの足元を転げまわる。そして、基地へその手を伸ばし、亜米利加の国旗が描かれた宇宙艇を掴み潰そうとして…事切れた。最低で七千年間、願い続けてきた復讐。だがそれは、龍によって、いとも簡単に潰えた。

リュウラは、その屍をシャイニングボムで消し去る。そしてヒスイの姿へ戻り、無事ヒュウカイザンへ搭乗した。
と、基地より、正確には基地と繋がっていた幽世より拡がった「闇」が、ヴァーズの屍を包む!直後、そのヴァーズは…ヒルコの姿となった。ヒルコは生き残っていた一匹のヴァーズを、一撃の下抹殺する。
「まだ…続けるの?」
カンナはそう呟き、ミカガミノツルギでそのヒルコを葬る。続いて、幽世と繋がっていた基地をも破壊した。それだけやって、ようやく地球への帰路につく。

邪仙。怨念を己の糧とする幽世の存在。そして、人も邪仙に成り得る。強い強い恨みの心によって。

レイハはヒュウカイザンを自動操縦に切り替え、基地のクルーへ黙祷を捧げる。だが、カンナは彼らの成仏を心から願う事ができなかった。
(…犠牲者って、いっつも、こうなんだ…。)

次回予告
鳥神。かつて母親を殺した存在。何故、救った?
次回ウルトラマンリュウラ 第三十一章「とりくんとこむすめ」

リュウラ学 講師 ワタリベサクヤ&イワカゲユリノ
「ラセツの必殺技は、突き出した拳から超高熱光線を放射する『裁邪冥光炎ハデスフレア』だ!」
「火炎なの?光線なの?」
「それ言ったら冷凍光線だって冷凍なのか光線なのか」
「あれのほうが分かりやすいと思う。」
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