第三十一章 とりくんとこむすめ 爆炎怪獣トエン発現

カンナは書簡の整理に手間取り、徹夜していた。
疲れたので茶を淹れ甘いものを買ってこようと指令房を出る。
ふと回廊を照らす燭台を見る。その炎は不気味に揺らめいていた。炎を揺らした風、それが吹いた方角は…大陸。カンナは、大陸より迫る未知の危機を感じていた。
同じ頃、鳥取砂丘の地底より、巨大な生物が頭をもたげた。

朝、カンナは御機嫌斜めであった。てゆーか、おねむであった。常に眠そうな口調で無表情であるため、素人目には容易に判別できまい。
「大宰、おひるねしていいですか?」
「だ〜め」
「う゛〜、このやろ。」
口調もやや尖っているようだ。
その時、榮逼の街より救難要請が入った。火の気の無い場所から次々発火、街が炎に包まれたという。
軍によって鎮火、レイハは現場から緑色の粘液体を採取するが、それらも突然発火、完全に燃え尽きた。原因も何も分からぬまま、レイハは一旦引き揚げる。
ユリノは野次馬を掻き分ける際、さりげなく彼らの肩や脇腹へ爪をぎりぎり〜って食い込ませている。痛そうだ。ユリノは楽しそうだ。
と、ワタリベが野次馬の中にトキツグを発見する。ワタリベは、トキツグがレイハへ顔を合わせ辛いという事を知らない。なので普通に挨拶しようと
「ようトキツ」
どかべきぐしゃ。
ヒスイが一撃の下ワタリベを気絶させ、秘密を守る。
レイハが去り、一息つくトキツグ。だがふと振り返ると、南蛮人を髣髴とさせる風貌の少女が…
「ごぶさたです。」
「!カンナさん…、はぁ。」
トキツグの中のガルーダは、その少女を見て気付く。彼女が、リュウラに粉砕された自分を救ってくれた存在であると。

カンナはトキツグの「レイハへ戻ってくる戻ってこない問題」には触れず、当たり障りの無い話題だけで済ませる。口でトキツグと会話しつつ、テレパシーによってガルーダと会話する。

(天龍神無姫《アマタツノカンナヒメ》、貴女はどうして、私を救ってくれたんだ?貴女のお母君を殺めたのはこの私なのに…)
(わたしにもよく分かんないです。母を殺めたのは確かにアサギですけど、そんな結果になるって知りながらアサギに力を貸したお前にも責任はあるハズです。だからわたしにも、何でお前を許すことができたのか、まだ分からないです…。)

ちなみにトキツグと如何なる対話を続けていたのかといえば、
「米ぬかでお洗濯したら青い柄の服は色が薄くなっちゃうみたいですよ。」
「とぎ汁は捨てたらダメです。肥料の手助けになりますから。」
「お餅をつく時に一つまみ玄米を入れたらけっこう味変ります。」
米の話ばっかかい。

レイハは鳥取砂丘から榮逼の街まで一直線に発生した地盤の亀裂に着目、ヘキはその亀裂の原因が、地底を移動する巨大生物である事を突き止めた。
更にユリノは、その生物が眠っていた座標の霊力バランスを計測。どうやら、基本的にこの生物は、固定された座標から生涯動かない性質らしい。
だが何者かが生物の寝床を形成している霊力を崩し、暴走させているらしい…。ゴジョウは久々に、地底戦車カイオウザンの出陣を決定する。
しかし、この生物と街の火災にどのような関係が?と、いうことなので、カイオウザンの任務はあくまでも分析に留まる。
フナトとヘキを乗せ、岩盤を掘り進むカイオウザン、その眼前に巨大生物…トエンが姿を現した。分析を開始する…が、トエンの腕から跳んだ緑色の粘液が発火、カイオウザンを襲う!
「ヘキ!氷結弾発射!カイオウザンを冷却するわよ!」
「御意!」
零距離で氷結弾を炸裂させ、何とか機体の消火に成功する。が、その隙にトエンはカイオウザンより離脱、地上へ姿を見せた!
空中でカイオウザンをモニターしていたレイヒュウゴ、レイカイオウは直ちに臨戦態勢へ入る。トエンが体より分泌する緑色の粘液は、大気と結合して発火、周囲を炎に包み込む。

そこへ到着した少年。
「レイハの先輩達…オレ、まだ皆さんトコには戻れません…。
だから、せめてウルトラマンとして協力させて下さい。…君が宿主、ロクドウトキツグの名において命ずる。翼、雷、和合すべし。出でよ…カルラ!」

トキツグはカルラへ転化、トエンへ猛攻をかける。だが、攻撃に徹するカルラが、防御に徹するトエンにてこずっている。
理由は、敵の粘液である。攻撃すればするほどトエンは粘液を撒き散らし、周囲を燃やしているのだ。
レイヒュウゴ内のユリノは、トエンへ照準を合わせる。
「カンナ、氷結砲準備。カルラを援護するわよ!」
だがカンナは、中々発射しようとしない。
「ユリノさん、砂丘の中でトエンが寝てた場所の情報、見せてくれますか?」
その情報を見、カンナはトエンを暴れさせた存在を見破る。
「…光の一族…。ヤバイ、カルラを止めなきゃ!」
カンナの念が、地上のヒスイへ伝達される。
(ヒスイくん、トエンは悪くないです。カルラを止めてください!)

トエンの炎に苦戦するカルラは、ふと気付いた。
(距離を置いて闘えばいいんじゃないか。)
やっと気付いた。
ショットスパークルを撃ち込むカルラ。周囲の炎が更に大きくなったが、この際気にしていられない。
動けなくなったトエンへ、ウィングインパクトが投げられた!…と、出現した龍が槍を打ち払う。リュウラだ!
再度ウィングインパクトを投げるカルラだが、リュウラはコウへ変身、シャイニングボムでこれを迎撃、相殺する。
続いて瞬間的に念を込め、強力な念動波でカルラを呪縛、その動きを封じ込める!
三十一章にしてようやく披露された念力技、「万地神念動ウルトラサイキック」だ。

更にリュウラは念力で「水の気」を発生させ、虚空より超高圧、超低温の水流を放射、周囲の火災を一瞬で消し止めた。同時に上空のレイカイオウより放たれた法力がトエンを包囲する。
ようやく沈静化するトエン。カルラは、トエンが自分の眠っていた神域の力の均衡を崩され、錯乱して暴走していたのだと気付く。だが、それだけではなかった。
「カルラ!発火する粘液は、全部、トエンの血なんです…。」

トエンが自分の神域を離れた場合、その血は大気に触れると発火する。だからトエンはこれまで、神域から一歩も抜け出そうとしなかったのだ。その神域から無理やり連れ出したのは、光の一族…。
リュウラはカルラの縛を解き、レイカイオウと共にトエンを砂丘まで運んでいった。そして再び、ユリノとカンナが修繕した神域の中へ戻すのだった。

(『赦し』か…。その心を持っているからこそ、私も君に救われたんだね。天龍神無姫。)
トキツグの中のガルーダは、一人呟いた。
(トキツグ。君の師だけではない。私はレイハの司馬、カンナの母親を殺した事がある。その償いに、これからも付き合ってくれるかい?)
「当然だ。この戦いは、何も出来なかったオレ自身の償いでもあるんだ。」

え、カイオウザン?ああ、地上に出られましたよ。二人とも無事ですよ。
「それだけかい。」
うるさいぞオカマ。

次回予告
貴方は誰ですか?
その神は、レイハへ狙いを定めた。防人よ、己が魂取り戻し、邪悪の呪を葬り去れ!
次回ウルトラマンリュウラ 第三十二章「奪われし魂」
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第三十二章 奪われし魂 換魂(かんこん)邪仙ザザ 発現
「もう倦怠期だな」
と、浅草で屋台を出しているクマさんを始めとして街行く民の七割方はそう思っていた。連れ添って歩くヒスイとカンナを見て。
ヒスイは元々女性へのもてなしは不得手な男。何を話したら良いのか分からないので、一時間もすれば無言になってしまう。
また、旧暦の単位で表せば187cmの長身であるヒスイだが、ただ長身というわけではない。彼は、ゴツイのだ。
その上この男、洒落っ気が少ない。やや長髪にしている程度。んでもって愛想も無い。故に、特に女性は彼に威圧感を覚えるようだ。

一方のカンナであるが、明らかにしておこう。カンナもかなりの長身である。170cmである。その南蛮人を髣髴とさせる容貌には表情の変化が少ない。
それと、カンナは外に出る時はそれなりにおめかしする。ただ、着物にせよ簪にせよ、派手なものを好む。つまり、結構ケバいのだ。

言ってしまえば、やたら背の高い男女が無言のまま連れ添っている状態。
洒落っ気が無い男の方は眉間にしわ寄せ、鍛え抜かれた右腕を気まずそうに空中でブラブラさせている。ケバい女の方はもう何考えてるか全く分からないほど無表情で何かを探している。
クマさんはもう一度呟く。
「もう倦怠期だな」
その時突然女が立ち止まり、ある店へ男を引っ張り込む。そこにあったのは、何の変哲も無い甘味処。

そんなヒスイとカンナをもう殆ど公認しているレイハ指令房の五人。
「ね、あの二人いつ結婚するのかしらね?」
興味津々で問うゴジョウ。
「あの二人って色恋沙汰には鈍いですからねえ、まだ三、四年かかるんじゃないですか?」
フナトが妙な予測をする。
「何だつまんない。」
いい歳して膨れるゴジョウ。唯一所帯持ちのワタリベはヘキに聞いてみる。
「ヘキはどう?誰かお相手いないのかよ。」
しばし考えるヘキ。
「う〜ん、僕はよく研究に時間とられるからね、奥方を怒らせる気がして。」
「何言ってんの、結婚はいいぞ?…、ああ、…ぃぃ…ょ。」
ワタリベが何か嵐の前の静けさみたいに怖がり始めたのでこれ以上は追求しない。ヘキは代わりにユリノへ
「君は結婚しな」
「ああ!?」
物凄い形相で睨まれたからやっぱり追求はしない。

しばらくするとヒスイとカンナは帰ってきた。ゴジョウはカンナを自室へ呼ぶ。フナトはフナトでヒスイを呼ぶ。
さて、ゴジョウの部屋。
「さ、カンナちゃん、今日は何して遊んできたの?」
「はい、ヒスイくんと浅草をお散歩したあと甘味処に入っておやつ食べました。」
(…あのド阿呆龍神が)
ゴジョウは心の中だけでヒスイへ思いっきり毒づいておいた。

一方フナトの部屋。
「さ、マミヤ。今日の報告書、見せなさい。」
「…この報告活動に何の意味があるというんです?」
報告書を読み、フナトは怒る。
「浅草を散歩したあと甘味処、それだけ。主要な会話内容も『鯉きれーですね。』『そうだな。』『甘味処入りません?』『ああ、いいよ。』それだけ。…くぉれが昨今の若い娘へのもてなしかぁい!!!」
「しかし!カンナは甘味処へ行きたいと…」
「ああカンナは良い娘だねえ、だからって何で甘味処『だけ』なのよ!」
物凄く怒られたヒスイ。どうもゴジョウとフナトの間でこの二人を監視し取り持つことが決定されたらしい。上司に取り持ってもらいたくない。

漸く開放され指令房で顔を合わせるヒスイとカンナ。
「ところでヒスイくん、さっきの甘味処の人ってマジでヒスイくんのお兄さんなんですか?」
「ああ…、その筈だが…。」
先程入店した甘味処。そこの店主が
「お!美男美女の連合いだね!いいよいいよ今日は負けとくよ!」
こういう馴れ馴れしい人間は嫌いなヒスイである。目を合わせたくなかったのでふと脇を見ると…
「ヒスイ?ほお、お前もいい身分になったなあ。」
兄がいた。
「自分の兄者が甘味処なんかにいて驚いたようだな。私だってお前が女子を連れていることに驚いたよ。」
兄は笑う。嫌な笑顔である。
「いい加減軍人なんか辞めて家へ帰れ。まあ、自分の義務を捨てて軍人なんかになったお前に期待はしないがな。」
気分が悪い。出直そうかと思う。

しかしその矢先、店内に閃光が走った。その光は、嫌味な兄と馴れ馴れしい店主を直撃する。しばしの沈黙のあと、店主が杏仁豆腐を持ってきた。そして言う。
「あ〜あ、お客さんたち三日もすりゃ別れるね。ま、昼間っからこんな店に来てる連れ合いだ、ろくなもんじゃねえ。ほらとっとと食って帰ってくれ。」

さっきの馴れ馴れしい店主と同一人物だとは思えない。同時に兄がヒスイを見て
「いやー、ヒスイお前軍の仕事を頑張ってるんだな、じゃなきゃこんな流麗な小姐と知り合えないもんな!いやお前が羨ましい。」
馴れ馴れしくなっている。店主が嫌味になり、兄が馴れ馴れしくなった。どういうことだ?まるで店主と兄の性格が入れ替わってしまったようだ…。
それが気になり、ヒスイは店で、閃光の余波を受けた壁の一部を拝借、解析のため早めに戻ってきたのである。

「マミヤ君、例の壁の欠片、鬼道解析院に廻しといたよ。」
ヘキが指令房へ戻り、漸くレイハは何時もの「ノリ」を取り戻す。
「ところで…マミヤ君のお兄様って?」
カンナと、彼女の報告を聞いたのであろうヘキが食いついてきた。説明する他無いようだ。
「俺の家…真宮家は、古い武家だ。」

真宮家は、由緒正しい家柄である。真宮の血筋の者は全員、日本帝国の象徴であり君主である天皇を何らかの形で補佐する仕事に就いている。
「兄貴は宮内庁で幾つかの役割を掛け持ちし、幅広い人脈を持った優秀な男だ。俺は昔から兄貴と比較されるのが嫌いでな。真宮家の人間としての義務を放棄した。
そして、天皇と真逆の立場である民を救おうと、軍人になった。まあ、逃避だな。」
そして、今に至る。自嘲気味に笑う。
「しかし…。兄貴は間違っても高潔な人格じゃないが…、先刻の変容は一体…。」
その時、鬼道解析院より緊急連絡が入った。
壁の一部から人間大の邪仙が実体化したという。フナトとワタリベが急ぐ…が、突如その二人も連絡を断ってしまった!邪仙は指令房へ突入し、例の閃光を放つ!
ゴジョウたちは体に違和感を覚えながらも応戦。邪仙、ザザは指令房より逃亡する。それを追うゴジョウ達は途中で分かれ、四方より敵を追い詰めようとする。カンナのみが指令房へ残る。しかし、ザザは虚空より発生させた暗闇に逃げ込み、基地より姿を消した。

静けさを取り戻した基地。ゴジョウ達の帰りを待つカンナ。そこへ真っ先に、連絡を断っていたフナトが帰ってきた。
「小宰!お帰んなさい!」
だが…
「ああ、ただいま。しかし参ったなあ。あの邪仙にトドメ刺せなかったよ。また来るって思っといた方がいいな。」
…普通の口調…。

カンナ「小宰、やっとオカマ卒業ですか?」
フナト「…違うよ。俺だってオネエ言葉使いたいんだけどさ、何か口調が変なんだわ。」
おかしい。そもそもフナトのオネエ言葉は、十六年間最前線に立ち続けてきた男ゆえの余裕の表れである。
それが突然ふつうのおじさんになる筈が無い。悩むカンナとフナト。そこへゴジョウとユリノが帰ってきた。しかし、ゴジョウは目じりを吊り上げ、ユリノはふんわり微笑んでいる。

ゴジョウ「小宰!邪仙の情報は取れた!?」
フナト「いえ、満足な情報量は未だ…」
ゴジョウ「ったく使えないわね!何年軍で飯食ってるのよ!」
おかしい。ゴジョウがこれ程イラついている筈が無い。
何時ものゴジョウをイラつかせるには
「米だわら十俵の米を一粒残らず数え上げて、その数を二千五百九十五倍してその後三里ばかし全力疾走し、途中何度も般若心経を唱えてください。無償で。」
という任務を与えるぐらいしなければ不可能だ。一方のユリノ。
ユリノ「まったく困りましたねえ。あの邪仙がどういう能力なのか全然分かんないですよお。」
おかしい。ユリノがここまで呑気であろうか?
カンナ「ユリノさん、その口調、変ですよ。」
ユリノ「おかしいでしょうカンナちゃん、自分でもこの喋り方イラつくわぁ〜♪」
音符までついた。どうも…ゴジョウとユリノが、性格だけ、
入れ替わっている。
さらにヘキとワタリベも帰ってきた。
ワタリベ「いや参ったね。いつもの僕みたいな考え方や口調にならないんだよ。」
ワタリベはヘキになっているようだが、この普通人二名だと入れ替わっても大して問題は無い。一方のヘキ…。フナトの性格はワタリベになっているようだから、二人が入れ替わるいわゆる俺があいつであいつが俺で状態という事ではないらしい。

さて、ヘキの性格が誰になっているかといえば…
ヘキ「正直、良い状況とは言えんな。どうやらあの邪仙によって俺達の人格が混線してしまっているようだ。被害は鬼道解析院の連中と俺達レイハだけに留まっているようだが、早く奴を倒さなければ…。カンナ、君は大丈夫か?」
ヒスイの性格になっている。カンナはその力が発揮された結果、カンナのままだ。唯一被害を受けていない。なので唯一マトモなカンナが、図表を作ってみる。

誰が誰の性格になっているか
ゴジョウ→中身ユリノ
フナト→中身ワタリベ
ユリノ→中身ゴジョウ
ヘキ→中身ヒスイ
ワタリベ→中身ヘキ
カンナ→普通

ヒスイっぽいヘキが、図表を覗き込んで言う。
ヘキ「…なあカンナ、一人足りないよな。」
そう、問題は、「誰がフナトっぽくなったのか」である。その時指令房へ、問題の男が帰ってきた。
「ただいまー。いやいや参っちゃったわねえまさか人格だけ取り替える邪仙なんてねえ。さっさとやっつけちゃわないと東京が混乱するわよ見てらっしゃいあの御馬鹿邪仙!」
…ヒスイだ。人格がフナトと入れ替わり、こういう風になってしまっている。呆然と見るカンナ。目が合った。ヤバイ。
ヒスイ「あらカンナ、アンタだいじょぶなの?良かったわぁ偉い偉い。」
カンナ「…………、ぃ嫌あああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!」
この絶叫は遠く関西省支部にまで届いたという話だ。

思いっきり叫んだ後、カンナは指令房の片隅に座り込み膝を抱える。
カンナ「わたしは何にも聞いてないわたしは何にも聞いてないわたしは何にも聞いてない」
現実逃避を始めてしまった。フナトっぽいヒスイが声を掛けてみるが…

ヒスイ「ねえカンナ、アタシの問題じゃなくてこれあの御馬鹿邪仙のせいなのよね、
だから気にしないでちょーだいよ、多分呪のせいだからそれを解けたら元にもど」

カンナ「違うよそんなオネエ言葉でよく喋るヒスイくんとかヒスイくんじゃないよいつものヒスイくんだったら『呪を解く。話はそれからだ。』
とか低い声で二言で終わらせるのに一回の台詞に六十文字以上使うヒスイくんなんていつものヒスイくんじゃないよお!」
だからいつものヒスイくんじゃないんだってば。

ヒスイ「まあとにかく呪を解く法を探さなきゃずっとこのまんまだからさ、カンナ、とりあえず立ちなさい。
ずーっとそんなトコに座り込んでると冷えて風邪ひくわよ。民を守る軍人が風邪の前に倒れちゃったらこの風邪という敵は誰が倒すんだ。って話になっちゃうじゃない、ならねえよ。」

カンナ「ほらだからそーゆー何かノリ突っ込みみたいな自分の小噺に自分で突っ込むみたいなのがヒスイくんじゃないもん、
いつもの小宰と真逆の凄い格好いいのがいつものヒスイくんだもん、今のヒスイくん小宰っぽくてぜんぜん格好良くないんだもん!!うええええええええん!」
泣き出した。ワタリベっぽくなっているフナトも、泣きたかった。

ゴジョウ「いい!?とにかく今どういう状態かって言うとね!」
レイハはカンナを残し、全員の人格が変ってしまっている。
ゴジョウ→中身ユリノ
フナト→中身ワタリベ
ユリノ→中身ゴジョウ
ヘキ→中身ヒスイ
ワタリベ→中身ヘキ
ヒスイ→中身フナト
これは邪仙、ザザの呪による被害である。ザザは基地より逃げ去った。次にどこに現れるか不明。
ワタリベ「ってことは、僕達は中身がそっくり入れ替わってるってことかな?その割にはヘキ君の専門知識が全く頭に入ってこないけど。」
ヘキ「いや、記憶や経験はそのままだ。いわば、人格のみが入れ替わっている。ものの考え方や口調、好みなんかが変るだけだ。」

ってことはアタシがリュウラである事はヘキにバレちゃいないのね、と、ヒスイは胸をなでおろす。
と、基地から逃げたザザが巨大化、基地へ迫り来る。
ゴジョウ「ユリノ!ヘキ!呪を解く法をさっさと見つけてきなさい!他はあの野郎を迎撃!モタモタすんな!」
ユリノっぽいゴジョウが檄を飛ばす。
ユリノ「は〜い☆行くわよヘキ君、早く元に戻さなきゃっ♪」
ヘキ「ああ、分かった。待ってくれ。…マミヤという男は堅苦しい。」
ゴジョウ「どーでもいいからさっさと調べろぉ!」
カンナ「う゛〜、この空間やだ。」
ゴジョウはヒスイを少し止める。そして
ゴジョウ「たまには服でも買ってやれ!」
唐突な怒声に首を傾げつつ、フナトっぽいヒスイも出陣した。

ヒスイはオネエになるという生き地獄から早い所脱出するため、出陣するや即座にアクアアイを召喚する。
ヒスイ「ねえ龍さん、アンタさ、ちょっとは宿主のアタシを呪から守ってくれても良いんじゃないの?初めてよカンナ泣かしちゃったの。」
龍(マミヤヒスイ、お前がフナトベニヒトと成るのが、面白そうであった。ただそれだけだ。文句は在るまいな?)
ヒスイ「いや、もう、すっげー文句言いたいけどやめとくわ。」
そしてヒスイは言霊を紡ぐ!
ヒスイ「アンタの宿主、マミヤヒスイの名前で命じます。龍と明は和合しなさい!さあ出て来いリュウラ!」
空間へ龍が舞う。やや脱力気味で。

リュウラはザザと対峙、敵の両腕の刀を掻い潜り、腹部を集中的に殴る、殴る、殴る。
どうも、フナトはパンチ主体で闘うようだ。とにかく腹部へ一点集中で攻撃をかけ、零距離からショットスパークルを浴びせる。近接戦闘に特化したスタイル。
距離を詰め、攻撃の手を緩めない。そしてザザはダウン、フナトっぽいリュウラはシャイニングヴァイパーでザザを切り裂いた!
リュウラが勝利した際、通常は何処かより銅鑼の音が響き渡るのだが、今回は「いよおおっ!」という謎の声が響いた。一礼するリュウラ。
と…例の甘味処から放たれた閃光がザザを包む。そして再生してしまった!どうやら、甘味処に潜んでいた本体が融合したようだ。両腕の刀を交差させ、強力な電撃を放射してリュウラを襲う!その時…
ユリノ「み〜んな〜、完成したわよ〜。」
ヘキ「今から呪を解く!」
ヘキとユリノが完成させた法陣が基地、そしてリュウラを包む!

ユリノ「…、ああっ!やっとイラついてきたわ!」
ヘキ「ふう、マミヤ君の人格は肩がこるよ。」
戻った!
ゴジョウ「ウルトラマンリュウラを援護!ザザを倒したらゆっくりしましょ♪」
フナト「レイキザンは光線砲でザザを牽制、レイヒュウゴは炎弾砲であの刀を叩き折ってちょーだい!行くわよ御馬鹿邪仙!」
ワタリベ「御意!…何かオレだけ初めっから変わんなかった気がするなあ。」
ヘキとユリノは鬼道機関を発動し、ザザを弱体化させる。そこへ集中砲火。ザザの刀が折れた!
リュウラ(…全く、生き恥をさらさせてくれたなあ!)
リュウラ=ヒスイも通常の堅苦しい男へ戻った!コウへ変身し、最強必殺技ドラゴンインパクトを打ち付ける!この攻撃で、遂にザザは消滅した。

浅草では今日もヒスイとカンナが無言で連れ添っている。
(…、やっぱ、ヒスイくんはヒスイくんのままだから、かっこいいんだよね。)
カンナはそう考えていた。一方のヒスイは無言のままだが、先刻からしきりに財布を気にしている。カンナから見えない位置でやっているようだが、バレバレだ。
そしてヒスイは立ち止まる。
「カンナ、おごってやるからさ、服、見ていかないか?」
「はい!」
無表情なカンナであるが、このときだけは満面の笑みを浮かべた。

次回予告
何故隠さなければならなかったのか?其れだけが欠落した事は、余りにも奇妙であった。
公にしてしまった以上、無かった事になど出来ない筈なのに…。だから、怒らないでもらいたい。
次回ウルトラマンリュウラ第三十四章「郵政寄り合いの米って」

リュウラ学 特別講師 モロボシダン&おおとりゲン
「ウルトラマンラセツが操る光の刀、ハデスヴァジュラ。恐るべき切れ味だ。
だが、星人に勝つにはこれしかない。だろ?」
「?…」
「ゲーン!車に向かってこーい!」
「たいちょーっ!刀と関係ありませーん!」

まあ時期的に。
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第三十三章 郵政寄り合いの米って
吸血!宇宙人スフィリアー星人 吸血生物シギョウ 宇宙水棲機械獣ヤモギレウス発現

昼、ヒスイ、ヘキ、ワタリベは野郎三人だけで寄り集まり、指令房に入ろうともしていなかった。どうしてですかワタリベさん。
「だってさ、ユリノちゃんが笑ってんだよ。気味悪いだろ。」
確かに不気味だ。どんなに楽しい事があってもそれを無理やり悪い方悪い方へ曲解して一人でイラついてらっしゃるのがユリノだ。あんなににこやかな彼女はザザの時以来である。
「なマミヤ、ユリノちゃんに何があったのか聞いてくれるようカンナちゃんに頼んでくれないか?」
「ふざけるな、カンナが殺されたらどうする。」
夜、一人指令房で夜番していたカンナの元へ、ユリノが現れた。で、笑っている。どこか遠くを見ている。熱病にでもやられたか?彼女は口を開く。
「カンナ、私さ、結婚するから。」
「!(?)…おめでとうございます…(?)」
同じ頃、とある宿屋で一人の女が絶命した。

 朝、ヒスイは粥をすするだけの簡素な朝食を済ませていた。そこへカンナが現れる。
「ヒスイくん、おはようございます。…あの…、ユリノさん、結婚するみたいです。」
「…ネタか?」
「…多分。」
そこへ召集がかかった。帝都全域で一晩に十二名の女性が変死したという。レイハはその遺体を検分する…。
「一晩で、木乃伊(ミイラ)になるものでしょうか?」
どちらかといえば、即身仏に近い印象もある。全身の水分が一滴残らず蒸発してしまっているのだ。それも一晩で、一切の外傷を残さず。
その女の所持品を検分しても、さして変わったものはない。しかしユリノは、その着物に着目した。所持品にも服装にも破損は無い。着物の帯を除いては。
「何で帯だけパックリ割れてんの?」
その帯は、一本だけ糸を抜き取られているらしい。
レイハは即座に警戒態勢に入る。しかし、吸血魔の手口も正体も不明のままだ…。手がかりは帯だけなので、とりあえず帝都中の呉服屋を当たってみる。

と、ある店でユリノの足が止まった。その立地は都心からかなり離れた田舎で、店は湖を背にしている。だが、この湖水を利した独自の染め方によって、この店は人気を博している。
「やあユリノさん、仕事かい?」
店内からユリノ達を出迎えた、少々痩せぎすの青年。彼が店主のサタケである。レイハから事情を聞かされるものの、彼は冷静に無関係を主張する。
確かに、「帯が割れていた」「だから呉服屋が怪しい」とするその発想自体怪しいわけで、レイハは大人しく引き下がる。
直後サタケとユリノは、挙式の日程を相談し始める。その場にいた全員が同じことを思った。
(ネタじゃなかったんだ…。)
しかし、ヒスイとカンナは店の奥にある法陣と、その中心におかれた赤い円筒を見逃さなかった。
 夜、サタケはその法陣へ力を与えている。と、円筒の中に何処からか赤い紐が舞い落ち、円筒の赤さをより濃くした。そして同時に、また女性が何者かに吸血され、死んだ。

軍日本基地。ユリノはサタケと会う際に来ていく着物を選んでいた。そして帯を巻こうとする…と、
「死んじゃいます!」
ユリノの部屋へ唐突に飛び込んできたカンナが、慌てて帯を引き剥がす。ゴジョウも現れ、ユリノへ説明する。
「その帯ねぇ、吸血生物が織り込まれてるの。」
カンナは帯をバラし、その糸よりも細い生物を引き出す。しかし、全く動こうとしない。既に息絶えている。
「被害者のみなさんが着てた帯は、全部割れてました。血を吸いきったコイツが逃げたからなんです。」
しかし、帯から引き抜かれただけでどうして死んだ?
「初めから死んでたの。でも、ある呪法で擬似的に生き返り、吸血する。」
その蘇生の呪は、帯の色と柄によって発動する。帯は、巻く事で柄が完成する。柄が完成すること、それが蘇生の呪を発動させるカギだったのだ。
そして、吸血が済むと空間転移で姿をくらます。これらの帯は、全て違う店から販売されたものだが、ユリノはその独特の色調に見覚えがあった。この色は、サタケの店でしか出せない。
レイハは民へ警報を出すと同時に、サタケの店へ急ぐ

一方、その店へ先回りしている二つの影があった。一つはミウ、もう一つはトキツグ。
「…何でアンタが来てんのよ二人目のカルラ!」
「店のかみさんが新しい帯が欲しいって言ってたんだけどさ、帯が割れる吸血騒動だろ?呉服屋に何かあんじゃないかと思ってさ…。」
「ちょっと待って、呉服屋なんてそこら中にあるよ?この店が怪しいとは限んないじゃん。」
「あ。」
ウルトラマンであるにも関わらず頭の回転が鈍いらしいトキツグに呆れながら、ミウはバーニングヴァジュラを手にし、突入準備に入る。
今回の敵は神や邪仙ではなかろう。しかし、この店で呪が使用された事は間違いない。中の様子を窺う二人、その背後に迫る影。
襲い掛かろうとするが、すんでのところでミウに両断される。その骸は、人型だが人間ではない。能面には近いものがあるが。
突如店内が騒がしくなった。気付かれたか?いや、レイハが突入し、店を制圧したのだ。
ユリノはサタケを拘束、同行を求める。だがそのユリノを、例の怪人が狙撃する…、が、フナトの放った護符で弾丸を無効化、即座にカンナが怪人を射殺する。

サタケは、達観したような面持ちで語り始めた。
「彼らはスフィリアーという星の住人。兵器実験に失敗した事で、母星と自分達を汚染してしまった。それを浄化するために地球人の血液が必要だったんだ。」
サタケはそれに協力した。彼らが連れてきた吸血生物シギョウを、他の様々な店の柄と色をまねた帯に縫込み、その店頭へ忍ばせたのだ。
そして呪を仕込み、吸血が済めば空間転移で店へ戻し、スフィリアーのカプセルへ血液ごと保存する。

ユリノは拘束を解かない。自分達地球人は、旧暦での最終戦争以来、大量殺戮兵器を放逐した。しかし彼らは放逐する事ができなかったのだ。そこまでは分かる。だが、
「何で地球人を殺す必要があったわけ?」
「分かってくれユリノさん、彼らにはこれしか生き残る術が無いんだ!
確かに地球人から見れば彼らは加害者だ。だが、仕方なく加害者になった彼らの事情も考慮してやってくれ!」
「ふうん、じゃ、被害者の事情は考慮しなくてもいいって?」
固まるサタケ。
「帯を巻いただけで殺された女性たちのことは忘れて、何の罪も無い女性たちを殺したスフィリアーには慈愛を恵めって?…、罪は罪。審判は、平等に行うモンよ。」
その時、背後の湖より機械の獣が出現する!ヤモギレウス。スフィリアーが邪魔者レイハを抹殺するために起動させた、いわゆるロボットである。
「鬼、炎、和合すべし。出でよ、ラセツ!」
「翼、雷、和合すべし。出でよ、カルラ!」
二人のウルトラマンがヤモギレウスを迎撃する。が、その背面よりスフィリアーの小型宇宙船が分離、レイハを襲う。
ユリノにしょっ引かれながらも毒を吐き続けるサタケ。と、スフィリアーの血液保存カプセルが異常な振動を始めた。
そして、カプセルを割って現れた赤い刃がサタケに突き刺さる。彼はそのまま、木乃伊となった。
殺された女性たちの怨念がシギョウを操り、詫びの一言も無いサタケを抹殺したのだ。そのままシギョウは巨大な赤い獣と化す。
「カンナ!ユリノは頼む!」
ヒスイはユリノの救助をカンナに任せ、転化する!
カルラへ放たれるヤモギレウスの熱線砲、これをリュウラが打ち払う。更にラセツがシギョウを投げ飛ばす。三人のウルトラマンが戦闘態勢へ入った!

ヤモギレウスはプラズマミサイルで三人を襲うが、カルラのペンタクルフィールドがこれを弾く。その隙に…
「あ゛〜、本気で面倒臭い!」
有り得ない毒づき方のラセツ、彼女の右腕が熱を帯びる。その五本の指先から、光がカギヅメのような形状で出現した。
ラセツは一気に距離を詰め、そのカギヅメをヤモギレウスに突き刺す。そのまま右腕全体で、ヤモギレウスに巨大な風穴を開けた!
光の一族とも神々とも決別した彼女が、孤独な戦いの中編み出した新必殺技
「破邪冥剛爪 オーガプレッシャー」である。
この一撃でヤモギレウスは爆散。更に地上から、ユリノのレイエンキュウがスフィリアーの円盤を撃墜した。
憎しみのままに暴れるシギョウは、レイヒュウゴからの法力により沈静化。シギョウの肉体はリュウラのドラゴンシャイニングヴァイパーで粉砕された。残った女性たちの怨念も、カンナにより浄化される。
こうして吸血騒動は幕を下ろした。

一人、帯を焼くユリノ。カンナが声を掛けてみる。ユリノはカンナへ問う。
「どうしてサタケさんは、スフィリアーの件を公表して献血を募らなかったのかしら。私なら、それぐらいやってあげたのに。」
「…隠したい事って、どんな人にもあると思います。サタケさんにとって隠したい事は、宇宙の人と仲良くしてるって事だったんじゃないかな。」
ユリノは湖面を見入り、黙り込む。
「ユリノさん、夢だったって、思えませんか?」
「…それじゃ意味無い。現実だった。現実の出来事だった。私たちっていう目撃者もいる。無かった事になんて出来ない。
…スフィリアーは地球人を殺すことしか出来なかった。事実を隠してたから、こんな惨事になったんだと思う。今度また地球に来たなら、その時は一切の隠し事はしないで欲しい。
信じ合いたいならまず、今の自分、過去の自分を曝け出さなきゃ。」

実相寺昭雄様、佐々木守様、宮内国郎様、心よりご冥福をお祈りします。
皆様の作品は不滅です。


次回予告
大陸を襲う邪悪。吹雪の魔。防人が駆る光の船。
次回ウルトラマンリュウラ 第三十四章「大国」
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第三十四章 大国  
暴虐飛竜ワイバーン 氷結邪仙キビ発現

その日、軍西欧圏基地より日本基地へ一枚の札が送られてきた。
旧暦の最終戦争時、西欧の都市を戦火以上に破壊し尽くした「竜」がいた。当時の兵器ではこれを撃滅できなかったが、東洋より来訪した魔女の手でこの札へ封じ込められた、という。
「西欧圏での『竜』は妖魔の類だったか。」
そう呟くヒスイを突如、身内の「龍」が動かした。
(マミヤヒスイ!其の札を我より遠ざけろ、早う!)
札を基地から投げ捨てるヒスイ。
札は空中で燃え上がり、巨大な「竜」が実体化する。四足で歩き、背に羽根を持つ。角はあるものの髭や眉を持たないためか、蜥蜴や鰐を髣髴とさせる。
基地へ迫る「竜」。しかし、二十六章で建造された基地防護用神宮に阻まれ、接近できない。
ヒスイの中の「龍」が語る。
(あれなる竜もまた我が贋作。我と接触した事で敵意を燃やし、封印を解いた。マミヤヒスイ、何をしている、一刻も早く滅すぞ!)
ガンロンの時もそうだったが、「龍」は自分の贋作を嫌悪する。最強の神故のプライドか。
「出でよ、リュウラ!」
水神である「龍」と、魔獣である「竜」が睨み合う…。「竜」…ワイバーンは、「龍」へ突進をかける…が、「龍」の咆哮で弾き飛ばされる。そのまま「龍」はリュウラの姿を成す。
ワイバーンは空へ飛び上がり、火炎を吐いてくる。リュウラは手刀と蹴りでこれを払い、コウへ変身、炎を吐きながら突進してくるワイバーンへ、ドラゴンインパクトを浴びせた。
龍神の光の前に、魔竜は完全に消滅した。

(ミヤビであろう。あの『竜』を封じた術者は。)
ワイバーン殲滅後、「龍」はヒスイと会話、というより一方的に喋っていた。
(何故か、かつて神々の間で我の贋作を生み出す戯れが流行ってな。己が生んだ『龍の贋作』を争わせて楽しんでおった。あれなる『竜』はその生き残りだ。我にとって、その戯れは面白くもないので辞めさせたがな。)
神々の気持ちが少し分かる気もする。「龍」は最古参の神にして、最強の神だ。他の神は「龍」に勝てない自分達が悔しかった。だから「龍」の贋作である「竜」を作り、自身の劣等感を慰めていたのだ。
「つまり、その生き残りである『竜』が西欧圏で好き勝手やっていたから、アンタは向こうじゃ妖魔として認識されているんだな。」
(無論だ。何が悲しゅうて我が其の国の皇女を連れ去り、旅の若人に斬られねばならん。)

ワイバーン殲滅より数時間後、レイハ指令房へワタリベの父、ワタリベ幕官が幕府での朝議を終えて現れた。ちなみにここでの「幕府」とは「参謀本部」を表す。
「よう父ちゃん」
「幕官だ!さて、ゴジョウ君。レイテイの実戦投入が決定された。」
「レイテイ…。陸海空、地底、海底、宇宙、さらには異次元まで制覇するってゆう、ウワサの新造戦艦ですか。急ぎますね。未完成だったのでは?」
「基地をこう何度も狙われては、戦力の増強もしたくなるってもんだろう。」
しかし、黙っていたカンナが急に口を開いた。
「まだ理由があるっぽいですけど。」
返答に窮するワタリベ幕官。苦々しく口を開く。
「邪仙の狙いが、わが国から『大陸』へ移ったようなのだ。正確に言えば、大陸の中の一国…中国にな。」

旧暦の最終戦争で文明が崩壊して以来、残された人類は民族も人種も宗教も関係なく、手を取り合って復興してきた。
その復興の黎明期は、神々の実在や、謎の存在「邪仙」が確認される激動の時代。その時代、全ての国家には、今後の復興の指針となる「象徴」が必要とされた。
その象徴が「国王」であり、また「天皇」であった。そのため現在、地球上の国家は全て専制君主制なのだ。
現在、世界最大の国家は「大陸」に存在する「漢」と称される国だ。漢の人民は自国を「中国」とも称する。
「世界の中心に位置する国」としての通称だ。少なくとも現在の地位を見れば、その名は誤りではない。…めんどくさいから今後この国の呼称は「中国」で統一する。

「鬼道研究院は、衛星ギワンの事件以来、邪仙のものと思しき怨嗟が中国へ注がれ続けているのを観測している。それを補佐するためにも、移動要塞が必須なのだよ。」
翌日から日本基地では、レイテイの建造が急ピッチで行われる。同時にレイハの司馬達は、馴染んだ三つの機翼を駆り、中国の大空を飛んでいた。
鬼道機関の使用には、その国の霊的性質をも考慮する必要がある。比較的「風の気」が多い日本帝国に対し、中国は「水の気」「炎の気」が多く、勝手がきかない。
中国で戦う場合、これらの「気」にも馴染んでおく必要があるのだ。そのための訓練飛行である。

軍中国基地は、上海郊外に建造されている。
「私、上海ってキライなのよねえ。」
ゴジョウはそう言う。カンナも寂しそうな表情を見せる。
この日、ヒスイとカンナの二人は訓練飛行が午後からである。だから朝の内に、基地から少し離れた「廟」へ参る。

ねっからの日本人であるヒスイは、この国での神の祀り方が好きではない。やたらと濃厚な香、極彩色の装飾、それにも関わらず暗い内部、炎の中に浮かび上がる「濃い」造型の神々。ある種「もたれる」空間。
しかし、廟の外装は雪化粧。そう。あと数日もすれば、新年だ。ヒスイは廟の周囲を散策するだけで済ませたかった。
ふと脇を見れば、カンナは階段に置かれた「龍」の装飾から雪を払い、相変わらず寂しい目をしている。そして振り返り言う。
「お母さんは、この地で、死にました。」
カンナの母親、ミヤビ。そうか、彼女はこの国でも闘っていたのか。そしてこの地で、カルラに殺された。
龍の装飾を少しだけ凝視し、彼女は黙って廟へ入っていく。それに従い、ヒスイも入る。
もたれた。

一方、日本の帝都、東京。今日もトキツグは、ワタリベの妻の店で下働きに精を出していた。
「あのさトキツグ君、来週辺りアタシらと一緒に三日ぐらい、大陸まで遊びに行かない?」
「…いいんすか?」
年始の旅行混雑を避けこの時期に行こうってことですか。そんな話をしているところにお客様が入ってきた。
「いらっしゃ…ラセツ。」
「ぜんざい…カルラ!?」
ミウであった。
「ね、カルラ。ちょっと大陸まで行ってみない?邪仙が日本から中国へ狙いを代えたみたいなんだ。」
「調べに行くぐらいならいいよ、来週皆で行くつもりだから。」
考えてみれば自分はウルトラマンである。別に旅費を気にしなくても自由に大陸まで飛んで行けるのだ。

「ヘキ、盤を金気辺りに合わせてりゃ結構軽く飛べるぜ。」
レイカイオウのワタリベは、中国の空で飛ぶ際のコツを掴んでいた。
それに倣い、ヘキやフナトらも徐々にスキルを上げ始める。それを地上の基地でモニターするヒスイ達。
その時、突如レイカイオウの動きが鈍った。何処かより邪仙が飛来、レイカイオウへ白い霧をはきつけてきたのだ。
「こちらワタリベ!機体の外部温度が急速に下がっています!機体制御ができません!」
ヘキはレイヒュウゴで支援攻撃を行いつつワタリベへアドバイスを出す。
「とにかく機体へ『火気』を集束させるんだ。何なら鬼道機関を使ってもいい!」
邪仙、キビの吐く吹雪は周囲をたちまち氷へ閉じ込める。
「ち、ただでさえ寒いというのに!」
ヒスイは基地を飛び出し、ヘキの言う方法でレイカイオウを救出、続いてリュウラへ転化する。
その時、唐突にキビの左腕が伸びた!そしてレイカイオウを鷲掴みにする。
「のやろ!人質ってことかよ!」
焦るワタリベ。だがリュウラは特に焦った様子も無い。
「動かなければ、問題無いんだろう?」
誰に向けて言ったのかは不明だが、とにかくリュウラは不敵に佇む。
そして不動のまま念を込め、万地神念動ウルトラサイキックを放つ。
念力により虚空より呼び出された「火気」がキビを包み、火達磨に変える。
リュウラは尚も念力を集中、レイカイオウを掴んでいる右腕へ炎を集束させ、「火炎衝撃波」へと変換、右腕を吹き飛ばす!
そしてレイカイオウを念力で空中へ固定し、ワタリベを地上へ転移させ救出した。不動のまま。

が、キビは尚も吹雪を吐きつけ、リュウラを凍らせた!
「レイハへ告ぐ。リュウラを援護!」
ゴジョウの指揮の下、レイヒュウゴ、レイエンキュウでキビの動きを抑え込む。
同時に、凍結したリュウラの全身が光りだし、氷を吹き飛ばす!その姿は、コウ。
さらに吹雪を放射するキビだが、コウには通用しない。それに今なら人質もいない!
リュウラは強烈な前蹴りでキビの動きを麻痺させ、手先から光の刃を伸ばす。シャイニングヴァイパーに比べれば短い。
それを一振りする。と、刃が扇の形状を成す。その側端からキビを見据えるや、神速で投擲した!光の扇はキビへ突き刺さるや全方位へ拡大、敵を一瞬で斬首した。
「真龍光鉄扇 ドラゴンエクゼクター」である。
キビ殲滅後、レイハは軍日本基地へ状況を連絡。
「遂に中国にも邪仙が現れたか。レイテイの建造作業を急がせよう。」
ワタリベ幕官の言葉を聞きながら、レイハは全員同じことを考えていた。
(何故、この国なんだ?)

大陸の廟。その地下に、「洞」がある。暗闇に洞の奥深くには、湖が広がっている。そして湖畔には、数え切れないほどの赤い「鳥居」が立っている。
湖の中心にある「島」に一際大きな赤い鳥居がある。その島から、何者かの唸り声が響き渡っていた。

次回予告
「今日はクリスマスか。」
「ケーキ、頂きますね。」
「むははははは、クリスマスなどめちゃくちゃにしてやる!」
「マミヤヒスイ、このようなシーンは無い。」
次回ウルトラマンリュウラ、第三十五章「船上、戦場、洗浄。」

リュウラ学 特別講師 ヒビノミライ セリザワカズヤ アイハラリュウ
「ラセツの剣ハデスヴァジュラからはカッター光線ソードスパークルを発射できます!凄いですね!」
「俺のブレードショットに似ているかもしれないな。」
「バカヤロー!何て少ねえ技の数だ!ファイティングエボリューション3を見てみやがれ!ナイトビームブレードもブレードショットも『R1特殊技』扱いになりそうじゃねえか!」
「リュウさん!アグルだって同じ苦しみを味わってるんです!」
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第三十五章 船上、戦場、洗浄
高位水神仙ホウバ 高位圏神仙ウイレイ発現

暗闇に二人の神が居る。
「邪仙が中国へ狙いをつけたと?」
「そうだ、恐らくは『アレ』を開放する気だろう。」
「ならば中国のニンゲンを今のうちに滅ぼさなくては!邪仙へ力を与えぬために。」
「待て!邪仙がニンゲンの死霊や怨念を吸収し活性化することを忘れたか!?」
「ふむ…ならば私が『島』を造ろう。死人どもを黄泉国へおちる前にその島へ閉じ込め、邪仙との接触を断つ。それならば問題あるまい。」
「よし、じゃあ私がニンゲンを洗い流して抹殺しよう。お前は『島』を維持するんだ。」
策謀を進める二神。自分達が住むこの暗闇…「高天原」をかつて襲った災いを思い出し、二神は身震いを起こしていた。

あと一週間もすれば新年であるこの日。レイハは、くつろいでいた。新造万能戦艦レイテイの建造作業も九割方終了している。蜜柑だの何だのを好き勝手に指令房へ持ち込んでいるゴジョウ。
「いや〜、今年も色々あったわねえ。カンナちゃんとかがエロい目にあったり。」
してねえよ。
「モギさんとかがホントにねえ。」
誰?
フナトとヘキはレイテイの研究に余念がない。
「ミカヅチ事件で導入された最強の呪法『コウテイノヒ』を主力兵装とする…か。」
「でもさあヘキ、コウテイノヒは諸国の軍が持つ鬼道機関の力を全部集めなきゃ発射できないんじゃなかったっけ?」
「だから、一発撃つためには諸国の軍全てと交渉し、口説き落とす必要があるんです。」
「やメンドくさ。」
一方、ヒスイが買ってきた羊羹を勝手にかじっているカンナである。その手が突如止まり、視線を、大陸の方角へ向ける。同時にヒスイの中の龍が目覚めた。
(どうした?龍よ、大陸に何がある。)
(…カンナも気付いているようだな。)
彼女は視線を大陸の方角へ向けたまま、
「ヒスイくん、リュウラに転化してくらひゃい。」
「飲み込んでから話せ。」
カンナは羊羹を茶で流し込むや、中国の海辺の街「香港」の様子をモニターする。
そこでは、巨大生物とウルトラマンラセツが闘っていた…。

ラセツがハデスヴァジュラを振るえば敵も剣で反撃、ラセツがハデスフレアを放つと法壁を築いて防ぎ、超低温の吹雪を吐いて反撃する。
(正攻法じゃ勝てない…。)
そう判断したラセツは空中へ飛翔、ハデスヴァジュラを投げつける。敵はこれを剣で払うが、その隙にハデスフレアを放射する。こちらも法壁に防がれる。しかしラセツは指先から光の鍵爪五本を伸ばし、法壁を解いたところに突き刺す!
この「破邪冥剛爪オーガプレッシャー」により、生物は退却。

一応の戦いが終わった後、ヘキは生物を「神」と判断する。
「どうやらあの神はホウバ。水の神の一だと思いますが…。」
水の神の数は多く、地球の記録だけでは把握しきれない事も多い。
「恐らくホウバは香港とその民を洪水へ飲み込もうとしたのでは。邪仙と神の因果関係が未詳ですから何とも言えませんが。」
そんな指令房へ、ワタリべ幕官が現れる。
「レイハの諸君、幕府により、新造戦艦レイテイの駆動が承認された。」
ゴジョウは一瞬の沈黙の後、
「ユリノちゃん、指令房の機能をレイテイに移して。ワタリべ君、レイヒュウゴ、レイキザン、レイカイオウをレイテイへ一機づつ格納。カンナちゃんが操縦、小宰はカンナちゃんを補佐。マミヤ君はレイテイの鬼道機関を管理、ヘキ君はあの神の解析を急いで。」
そしてワタリベ幕官へ向き直る。
「これよりレイハは新造戦艦レイテイを駆動し、神、ホウバの香港における謀略を阻止します。レイハ、出陣!」
「御意!」

軍日本基地の外観は、大きく四つの建物で構成されている。
中心の、寺院を思わせる城塞が「本殿」
それを囲うように築かれている、基地防護用神宮、そして三つの「離宮」と称される建物。
その離宮の一つ「東門」が変形し、地下より上昇してくるレイテイの飛翔用設備となる。
レイテイの操縦塔へ集結しているレイハの七人。
「レイテイ、駆動します。」
カンナの声とともに、全長五十七丈(一丈は約3.03m)の戦艦が大陸へ向かい、飛翔した。
舵を大陸へ向けつつカンナは一人呟く。
「わたし、すぐに行くからね。ミウ。」

香港へ到着したレイハは、面食らうことになった。先刻のホウバとは別の、神と思しき存在が、ウルトラマンカルラと闘っているのだ。しかし、カルラの攻撃は全てその神をすり抜ける。
直感のままにカンナが言う。
「あの神はここにはいないです。ちがうトコにいて、自分の影をカルラと闘わせてます。」
続いて彼女は敵本体の居場所を感知しようとするが…
「…うっ…」
「マミヤ君!貴方の出番よ!カンナちゃん泣き出したわ!」
ゴジョウ ホノカを一回殴ってあげたいがここは忍耐だ。ヒスイはカンナを落ち着かせる。
「大丈夫だ。…辛いだろうが言ってくれ。何が見えた?」
「…ホウバに殺された人たちが…『島』に縛られてる…。このまんまじゃあの人たち、『かの岸』を渡れない…。」
ヘキは周囲の気を解析し、判断する。
「確かにホウバの攻撃による犠牲者の霊が全く検知できなかったのは変だと思ったんですが…。そうか、今カルラと闘ってる神は、自分が占有する異次元空間を持っていて、そこへ霊を閉じ込めてるんだ!神の下に縛られてるから、成仏もできなきゃ怨霊にもなれないんだ…。」
「縛から開放してやろうじゃねえの。」
やる気になるワタリベだが、その眼前でカルラは敗退する。幻影のくせに光線を吐くなんて生意気だあと叫びたかったカルラであった。
その時、カンナの精神へ何者かが語りかけてきた。
(カンナ、ホウバはまたすぐに来る。そいつはあたしに任せて、アンタたちはカルラを倒した神、ウイレイを倒して。)
(…ミウ?)
(奴ら、中国の民を皆殺しにする気だよ。悔しいけど、民を守るのがアンタたちの仕事だよね?力、合わせなきゃしょうがない。)
(わかった…。ありがと。ミウ。)

一方のヒスイ。
「大宰、恐らく幻影の神ウイレイが形成している『島』と呼ばれる異次元空間は、歐門の街と同じ座標に存在します。突入しますか?」
聞くまでもない。
「ではレイキザンを。カンナ、君の出番だ。」
しかしゴジョウはそれを制す。
「何故です?異次元へ突入するならばミウツシノヤイバが必須…。」
だが、ゴジョウは笑顔で、少し自慢げに言う。
「異次元一つに突入できないで、何が万能戦艦?」
まさか…
「みんな、レイテイで『島』に突入するわよ。」

が、それをユリノが止めた。
「軍中国基地より緊急要請です。民の避難誘導に手を貸してほしいと。」
ただでさえ人の多い香港。非難一つにしても手間取るのが当然。
「よし、俺が行く。皆はウイレイを倒してくれ。」
ヒスイが地上へ降りる準備を始めた。
「でもヒスイくん…」
「カンナ、勝てるだろう?頼むぞ。」
「…はい。」
こちらの世界にあるウイレイの幻影がまたも光線を吐き始めた。ヒスイは地上へ降り、護符で民を光線から救うが、防御に精一杯で避難誘導にまで手が回らない。
道の向こうで足をくじいた老婆がいるが、救いに走れるだけの余裕もない。と、避難する群衆の中から一人の少年が飛び出し、老婆を救出した!その少年をウイレイの光線が狙うが、こちらは一人の少女が放った護符に防がれる。
「大丈夫っすかマミヤさん!」
「防御はあたしに任せて、あんたは民の避難を急がせて!」
トキツグとミウだ!

ミウの法術でウイレイの光線を防ぎ、ヒスイとトキツグが民を誘導する。
「そうか、練兵場じゃこういう訓練もさせられるんだな。トキツグ、まだ鈍ってないようじゃないか。」
「冷やかさないでくださいよ。」
この隙に、レイテイは異次元へ突入した!
と、ヒスイたちの前にホウバも出現する!
「ち、ここでホウバに洪水を起こされたら…。」
(マミヤヒスイ、出るか?)
龍が転化を提案するが、その前にトキツグの姿が掻き消えていた。直後、カルラが現れる!
「あの馬鹿…さっきの傷も癒えていないというのに!」

完全でないコンディションのまま二神に立ち向かうカルラ。予想通り、敵の攻撃に翻弄されっぱなし。だがそれでも、ヒスイらを攻撃から庇い続ける。
「お前、そこまで人間が好きなのか…。それとも、未だ自分を許せないか?」
その時、カルラを見守っていたミウがバーニングヴァジュラを手にした。
「マミヤヒスイ、ここお願い。」

「待て!お前の傷も癒えていない筈だ!俺が行く!」
「十六の小姐が避難誘導すんのと軍服来た背の高い兄ちゃんがすんのと、どっちが説得力ある?自分の権力は、こーゆー時に使うんだよ。」
そう言うとミウもラセツへ転化した!しかし、やはりウイレイの幻影にはあらゆる攻撃が効かない…。

そのころ、レイテイは「島」と称される異次元空間で、ウイレイ本体と激突していた。
「島」の周囲は湖に囲まれており、その水を高圧水流としてレイテイへ放射する。しかし、レイテイはこれを逆用して潜水し、敵の死角から浮上、攻撃を加える。ウイレイの吐く光線が船首を直撃するが、その程度で轟沈するほどヤワな船ではない。
だが、二十門の光線砲、四十五門に及ぶ焔弾砲の一斉砲火を受けてもウイレイは倒れない。ゴジョウは主砲「コウテイノヒ」の使用を日本基地へ申請。そこから諸国の軍と交渉が始まる。次々と許可が下りる中、現実世界ではウイレイの幻影による攻撃でラセツとカルラが大苦戦。
「まだか!早くそちらでウイレイを倒さなければ二人が…。」
しかも、コウテイノヒ使用許可を渋る国が一つだけあった。
あせるヒスイ。と、その背後から通信用の札を奪い取る影。
「ワタリベの…奥方。」
彼女は通信用の札に対し、思いっきり
「『はい』で済むんだから言えやぁ!」
怒鳴る。直後、許可が下りた。
「…感謝します。」
「うん。ったく楽しい旅行をさあ。」

全基地より許可が下り、レイテイの鬼道機関へ大量の力が収束される。
「目標、神仙ウイレイ。コウテイノヒ、発射!」
ゴジョウの指示により、最強の呪法が炸裂する!が…未だウイレイは倒れない。驚愕するフナト、ヘキ、ユリノ、ワタリベ。だがゴジョウは、
「カンナちゃん、今よ!」
レイテイの船体中央部が開き、レイヒュウゴとレイキザンの合体形態「ヒュウキザン」が飛び出した。乗員は
「カンナ!?いつの間に…」
驚くユリノを尻目にカンナはヒュウキザンでウイレイへ接近する。
(ミウ、遅くなったけど、今、助けるからね!)
苦戦する妹へ心の中で謝罪しつつ、ヒュウキザンの翼へ念を込める。
「ミカガミノツルギ、一閃!」

コウテイノヒとミカガミノツルギを連続で受ければ、さしものウイレイもひとたまりもない。
ウイレイはようやく砕け散り、「島」も消えてゆく。同時に、「島」へ縛り付けられていた霊たちも解放される。
「もう、大丈夫だよ。もう…岸を渡れるよ…。」
解放された彼らに語りかけるカンナ。しかし、彼らは「帰れる」わけではない。彼らは死んだ。だからもう、かの岸を渡り、黄泉国へ「行く」他無い。
「帰れる」と言ってやれないことが、カンナの胸を締め付けた。

一方、ラセツとカルラを苦しめていたウイレイの幻影も消失。
(ヒスイくん、ウイレイは倒しました。)
(よくやった!…ありがとう。)
そしてヒスイもウルトラマンリュウラへ転化!

ホウバの吹雪が疲弊したラセツとカルラを襲うが、それをリュウラのドラゴンフィールドが弾き飛ばす。
「二人共、あとは俺に任せてくれ。」
リュウラはコウへ変身、勝負に出る!
敵の剣を真龍光鉄扇ドラゴンエクゼクターでへし折り、右拳、ローキック、前蹴り、ハイキック、後ろ回し蹴りを続けて打ち込み、倒れたホウバへ踵落としで追い討ちをかける。起き上がってきた所を投げ飛ばす。今だ!
裁邪冥光炎ハデスフレア、裁邪翼光槍セントラルスティンガー。
ラセツとカルラの必殺技が同時に決まる。そこへリュウラの必殺技、裁邪龍光弾シャイニングボムも炸裂!この三連攻撃で、ついにホウバも消滅した。

「結局、あの二神が霊を縛ってた理由は何だったわけ?」
フナトがヘキへ問うが、
「邪仙と関係があるとは思いますが、それ以上は…。」
ただし、邪仙は人間の死霊や怨念を喰らって強化する。とすれば、神は邪仙を恐れているのだろうか?レイハは、その可能性を視野に入れることしか出来なかった。

カンナは、解放された霊たちを想う。そしてミウへ礼を言った。ミウはまたも無言のまま去る。
その後ろ姿を見、カンナは泣いた。ミウを呼び止めようとしたが、ヒスイがそれを制止する。
ヒスイはカンナの心境を理解していた。
彼女は「自分が生まれたせいで、ミウが『光の一族』という、帰るべき場所を失った。あの霊たちと同じように。実の姉である自分のせいで」と思っている。
実際はカンナ自身に責任などないが、きっと彼女は自身を責めているだろう。
ヒスイには何も出来なかった。この姉妹にしてやれることは、何も。

次回予告
フナト「何の趣もないわねえ。」
カンナ「蜜柑下さい。」
ユリノ「つまり邪仙が大量発生すると?」
ヒスイ「アンタ、ここで何してる。」
次回ウルトラマンリュウラ 第三十六章「龍の新年は奇跡が燃えたぎる」
天川「俺たちの出番だ。行くぜ、宮野奇跡!」


リュウラ学 冬休み
ゴジョウ「ということで、今年のリュウラはこれにて閉幕で〜す。」
フナト「来年は三が日前後辺りから再開するからよろしく。」
ユリノ「三が日からねっとかふぇですか、著者。」
ワタリベ「うひゃひゃひゃひゃひゃ。」
ヘキ「まあまあ、生暖かく見守ろうよ。」

ヒスイ「妙な気を感じるな。邪仙か?」
龍(否、自虐という名の悪意だ。)

カンナ「いいお年を。来年も、よろしく。」
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男は一人、その星を周回していた。冥王星。男は、愛する地球の守りを兄弟たちに任せ、自身は太陽系に侵入する敵を排撃するため、この星で闘っていた。
そんな時、突如冥王星の暗き空へ、それよりも暗い「穴」が現れた。
「何だ!?超空間跳躍現象か?」
男はその穴へ吸収され…同じく冥王星上空に吐き出された。しかし、遠目で周囲を見回すと奇怪な点がある。
地球人の建造した火星、木星、土星などを周回する宇宙ステーションが一切見当たらないのだ。ゾフィらからの連絡はないが、何かが起きているのかもしれない。
「ステーション消滅…。べムスターやシルバーブルーメくせえな。地球に行ってみるか。カイザーが留まってるはずだ。」
男は地球へ降り立とうとして…強烈なエネルギーシールドに阻まれた。
一方、別の星。
「『彼』が消息を絶った。その直前、強い時空の乱れが観測されている。彼は別次元、平行世界へ跳んでしまった可能性が高い。」
「そんな!…僕にできることは?」
「冥王星には未だ時空の乱れが残っている。そこを通り、彼を助けに行ってほしい。しかし…君までもその時空からこちらの世界へ帰れなくなる恐れがある。正直、気が進まんのだ…。」
「大丈夫です。行かせて下さい。僕たちは最強の絆でイメージマターを倒した。あの時の様に、今度も奇跡を起こして見せます。ハイパワーマン!」
「それでこそ、君だ。では頼む…。飛べウルトラマンミラクル、ウルトラマンバーンの元へ!」

ウルトラマンリュウラ 第三十六章 龍の新年は奇跡が燃えたぎる
分裂邪仙キオイ 剛武邪仙ザイラ発現
ウルトラマンバーン、ウルトラマンミラクル登場

日本帝国の帝都、東京。その喧騒を見守るようにそびえる城塞。軍 日本基地。その中心部にはレイハの指令房が置かれている。そして今、あと数分で年が変わろうとしている。
「今年も色んなことがあったわねえカンナちゃんがエロい目にあったり。」
「大宰、前回と導入部が同じです。」
笑顔でさらっと意味不明なことをぬかす優雅な女。「大宰」ゴジョウ ホノカ。一方突っ込みを担当した遊び人風の男は「小宰」フナト ベニヒト。オカマ。
「ヘキ、機翼の調子はどおよ?」
「問題ない。いつでも飛べるよ。」
機翼の整備状況を気にする男。二十八章から参加した司馬、ワタリベ サクヤ。唯一の既婚者。機翼をすぐさまモニターした中背で痩せぎすの青年は兵装の知識に秀でるヘキ ゼンジロウ。
「あ゛〜、眠たいけど寝んなよ私。日付が変わる瞬間が一番危ないんだから。」
自分を律する武人風の妙齢の女。呪術や法術のプロ、イワカゲ ユリノ。
「ヒスイくん、何で新年になる瞬間が一番ヤバイんでしたっけ?」
「年が変わる際―今年は卯年だから次は辰年だー北斗七星と南斗六星の神々が宇宙全体に満ちる『気』をそれまでの金気から木気へ変換する。
その際宇宙全体がほんのわずかな間安定を欠き、未知の現象が発生する可能性がある。つまり年が変わるその一瞬は、何が起こっても不思議ではないんだ。」
「あ、蜜柑下さい。」
「聞けよ。」
著者自身何書いてるかよくわからん解説を行う長身で仏頂面の青年。主人公その一、マミヤ ヒスイ。
その解説を聞いているのかどうかよく分からんこれまた長身で無表情な南蛮人風の少女。主人公その二、イズモ カンナ。
そしていよいよ日付が変わる…、だが、地球には何の異常も無い。
「…危険域、回避。特に異常ありません。皆さん、明けましておめでとうございます。
ヘキの報告を受け、レイハ全員、お辞儀をすませる。

「さ、じゃ寝ますか。お参りは朝でいいわよね。」
いち早く緊張を解くフナトだが…
「!?小宰待ってください。冥王星付近に時空の乱れを観測…そこから現れた全長十七丈程度の物体が地球へ接近しています!」
しかしその物体は、地球在住の神々が発生させるシールド「神壁」に激突する。
が、神々はその物体を神壁から開放、地球へ招き入れた。
「物体を召喚した時空の乱れは冥王星付近で発生したのよね?冥王星だったら…ヘキくん、麻布の黄蓮寺に連絡を取ってみて!」
取ろうとしたが、つい先刻新年を迎えたばかりだ。この寺も大賑わいで、連絡が取れよう筈もなかった。
「まあ、新年を祝うのも重要だしね。」
新年を祝う「マツリ」は、人間が昨年より引き継いだ「死気」を「生気」へ転換するための重要な儀式なのだ。
「仕方ないわね。ヒスイ君、カンナちゃん、明朝改めて黄蓮寺に行ってきて。確かあの寺は日本帝国内で唯一、冥王星を供養する修法を行ってたハズ…。」
「御意。」
そして、地球へもう一つの物体が招き入れられていた…。
明朝、軍日本基地の全職員が基地防護用神宮へ拝礼する。彼らの初詣はこれで終わり。フナトの
「趣がないわねえ。」
との愚痴をシカトし、ヒスイとカンナは軍用車「リョウブ」に搭乗、黄蓮寺へ向かった。ちなみにレイハ専用車ではないため「レイリョウブ」ではない。
一方、麻布に隣接する飯倉の街。一人の男が道に迷っていた。
「全く…。異世界だってことは覚悟していたハズだけどさ、この大正時代のような町並みは一体何なんだ?」
ふと町角を見ると、小柄な少年が数人のチンピラに囲まれ金をせびられている。チンピラも少年も時代がかった服装だが、とりあえずカツアゲであることは確かだ。
チンピラを止め…ようとしたが、唐突に現れた少女が手に持つ刀の柄で先に彼らを殴り倒し少年を逃がした。
少女は失神したチンピラの懐から財布を抜き取り、立ち去る。相手が誰だろうと、これは盗みだ。少女を呼び止める…。

「おいちょっと君…」
少女は刀を振りぬき、切っ先を男の喉に向ける。
「…アンタ、光の一族?…ごめん、違うみたい。」
少女は刀を納める。何と荒んだ目だ、と思った。立ち去る彼女へ男は名を問うてみた。
「あたし?クラマ…じゃない。アマタツ ミウ。アンタは?」
「宮野 奇跡。」

一方、黄蓮寺に到着したヒスイとカンナは住職から話を聞いていた。
「確かに我が黄蓮寺は冥王星を供養する秘法を行っています。実は、この法に使用する本尊は、旧暦に現れた邪仙の体の一部なのです。
この本尊は冥王星の神威により力を封じ込めることができます故、我々は冥王星への供養を欠かせないのです。」
「その本尊、我々レイハへ処理を御一任頂いた方が安全では?」
「あの本尊を邪仙が身内へ取り込みますと、その邪仙が増殖を始めてしまうのです。うかつに門外へは…。」
「…冥王星から飛来した物体は何者とお考えですか?」
「神壁が解かれたのですから高位の神か…あるいは、神々があえて壁を解いたという可能性も有りましょう。それならば害意は無い。」

リョウブで基地への帰路に着くヒスイとカンナ。
「『冥王星』そのものに意味はなかったらしいな。むしろあの本尊をどうにかしなければ…。」
無言
「カンナ?」
「…伊達巻き、食べてない。お正月なのに。」
「…仕事中だ。」
「…伊達巻き。」
「仕事ち」
「だて巻き。」
「…大宰こちらマミヤ。カンナが伊達巻きを食べたいと言っています。基地に戻る際買っても構いませんか?」
「あそお?じゃついでにカズノコと黒豆買ってきてね。」
…そんなリョウブを止めた女がいる。麻布で甘味処を経営している、ワタリベの妻である。
「良いトコに来てくれたマミヤさん今朝妙な男が倒れてて店の方で話聞いてみたんだけど何言ってんのかよくわかんないから通訳しなさい。」
強引にヒスイとカンナを店へ引っ張り込む。
「だて巻き食べられるのかな。」
「違うだろうな。」

店に入る。ヒスイ及びカンナと目が合い、決まりの悪そうな給仕の少年、トキツグ。そして彼へ向かって吼える一人の男。
「んだから防衛軍に電話しろっつーの、局番無しの999だ、科学特捜隊からの伝統だろおが!!」
この男…この暑苦しい声…あの風情の無い街で共に闘った戦友。
「よう…アマカワ ダイハチ…。アンタここで何してる…?」
わざわざ時空まで越えはって。ようお越しやす。
「…おお!リュ」
「言うな。」

天川を探していた宮野奇跡は、何処かより禍々しい波動を感じていた。
「これは、マイナスエネルギー?やはりこの力を完全に駆逐することはできないのか…。」
「恨みの心は消えないよ。当然。」
先ほどの少女が背後に来ていた。
「それは…そうかもしれないけど…。ミウさん、君は何者なんだ?」
「卑怯者、裏切り者、お尋ね者、その他諸々。」
何の希望も抱いていない暗い眼光。と、例の波動がますます強まった!場所は
「黄蓮寺!」
走るミウ。追う宮野。
一方黄蓮寺。一人の若い僧侶が、邪仙の欠片である本尊を持ち出そうとする。住職がこれを制止しようとするが、若い僧侶は瞬間移動で寺から逃亡する。しかし、先回りしていたレイハへ取り囲まれる。
「まっさか坊さんに憑依してたとはねえ。ユリノ、化けの皮はいでやんなさい!」
フナトの命でユリノの術が炸裂、僧侶は邪仙ザイラの姿を現した!

「そっか〜、お前の世界に流れ着いたわけだなオレは。いや運がいい。イメージマターん時はお前のことイレイズやシグマから伝え聞いてただけだったから全然信用できなかったんだわ。勘弁な。」
「どうでもいいが声が大きいぞ。しかし、偶然来てしまったのなら何故転化してアンタの世界へ帰ろうとしない?」
「いやなんか地球を包んでた妙なバリアーにやられてエネルギーが切れてさ、今補充中なんだよ。」
「…神壁か。ウチの地球はそうなってるんだ。すまんな。」
天川はふと、給仕の少年トキツグを見る。
「…なあ少年。守れなかったんだな?色んなモンを。」
固まるトキツグ。
「オレもさ、守れなかったんだ。仲間たちをな。あいつらはもう助けてやれない。オレはオレ自身が許せない。でもさ、自分を責めて何か変わるか?そう思ったら、ちょっとだけ楽になった。そんなモンだよ、戦士は。」
ただ無言になるトキツグ。そのとき、ヒスイとカンナに出陣指令が下る。
「黄蓮寺。邪仙発現。急いで!」
興味津津でヒスイの通信用の札を見る天川。
「怪獣か?オレも連れてってくれ!」
「アンタは転化できる状態じゃないんだろう?休んでいろ、俺達で何とかしてくるから。」
しかし、そこへトキツグが歩み出る。
「マミヤさん、オレは行きます!確かに今は軍人じゃないけど…。」
ヒスイは、少し微笑んだ。
「…トキツグ、アマカワダイハチ、邪魔はするなよ。カンナ、行くぞ!」
四人はリョウブで黄蓮寺へ向かった!
邪仙ザイラを迎撃するレイハと、その様子を見守るミウ、そして宮野。
「ねえ、ウルトラマン。」
宮野はまたしても驚愕した。このミウという少女、自分の正体を見抜いている。
「アンタがどこから来たのかはどーでもいいわ。アンタは、何で闘ってるの?」
「…地球と宇宙の平和を守るため。」
「その意思はどこから出てくんの?」
「命あるものには一人に一つ、必ず奇跡がある。でも、平和を乱す敵に奇跡を起こさせるわけにはいかない。だから闘うんだ、自分自身で。」
「…あたしにも起きるかな、奇跡。運命なんかシカトした奇跡が。」
大きく頷く宮野。カンナを想うミウ。
\
「ミヤノキセキ、ここで、ちょっと待ってて。」
ミウは、刀を抜く。そして…
「君が宿主、天龍水映姫(アマタツノミウツシヒメ)の名において命ずる。鬼、炎、和合すべし。出でよ、ラセツ!」
刀…「鬼炎剣バーニングヴァジュラ」へ光が集束、ミウは光の炎に包まれる。空間に炎の柱が生まれ、そこから紅い巨人、
冥府の鬼神を宿す戦士、ウルトラマンラセツが現れた!ラセツは左腕から光の剣「冥光剣ハデスヴァジュラ」を引き抜き、ザイラへ立ち向かう!宮野は、ミウがウルトラマンであることが、何故か喜ばしかった。
現場へ到着したヒスイ達。ラセツの援護に回ろうとするが、黄蓮寺の住職が寺の中で倒れている。
「カンナ、ここを頼む。俺はあの人を!」
そして天川へ小さな声で忠告する。
「良いか、アンタの力をなめているわけじゃないが、奴は怪獣じゃない、邪仙だ。アンタにとって未知の敵だ。それにアンタの体は完全じゃない。ウルトラマンになるなよ。」
そう言うと、ヒスイは寺へ駆け込んでいく。
「…トキツグくん、どうする?せっかくここまで来たんだ。闘っちまった方が、男らしくないか?」
「…アマカワさんが何者か知らないっすけど、そのつもりで来ましたから。カンナさん、レイバンガを貸してもらえますか?」
そしてトキツグもラセツを援護するため、ザイラを狙撃し始めた。さらにトキツグは物陰に入ると、鏡を備えた両刃の短剣「翼雷鏡サンダーボルトクロー」を手に持つ。
「君が宿主、ロクドウトキツグの名において命ずる。翼、雷、和合すべし!出でよ、カルラ!」
トキツグは光の稲妻に包まれる。その中から巨鳥が現れ、更に黒い巨人、鳥神ガルーダの力を宿す戦士、ウルトラマンカルラが姿を現した!
カルラは光の短剣「翼光牙セントラルクロー」を召喚、さらにその両端を伸ばし、長槍としてザイラへ踊りかかる!
不利と見たザイラは自らの角を折り、先ほど奪った本尊とその角を融合させる。と、五十近い数の邪仙、キオイが出現した!
キオイの攻撃で吹き飛ばされる天川。それを救った男がいた。
「!宮野奇跡!」

「君を探してここまで来たんだ。しかし、あの二人のウルトラマンは一体…。」
「味方。そんだけだな、オレに分かるのは。それより寺に飛び込んでったアイツは…。」
と、ヒスイが寺から気を失った住職を抱えて姿を現した。
「大丈夫だ。命に別状はない…。!アンタ、ミヤノキセキ!」
「君は、真宮 翡翠!」
ヒスイは、住職を降ろすと再び走り出す。
「いいか、ウルトラマンになるなよ、すぐ戻る!」
そう言ったヒスイの手に、龍水玉アクアアイが現れる。
「君が宿主、マミヤヒスイの名において命ずる。龍、明、和合すべし。出でよ、リュウラ!」
ヒスイは龍の姿、さらに蒼き巨人、最強の神である龍の力を宿す戦士、ウルトラマンリュウラへ転化した!
三人のウルトラマンと五十を越える邪仙の戦いを見入る、天川と宮野。
「ウルトラマンってさ、何なのかな。僕たちでも時々分からなくなる。」
「消えない闘志を燃やす、無茶な奴の総称、かもな。」
宮野と天川は、次第に体が本調子を取り戻し始めた。彼らの中に燃える闘志が、光のエネルギーを回復させるという奇跡を起こしたのだ。
「俺たちの出番だな。行くぜ、宮野奇跡!」
「OK天川大八!邪仙がどんなに恐ろしい相手でも、ウルトラマンは負けはしない!」
宮野は両腰のミラクルパズルを合身させ、全身を光で包む。
天川は己の中に燃える炎を具象化させ、ラセツにも似た巨大な火柱と化す。

キオイの数押し戦術に苦しむ三人、そこへ、ウルトラマンミラクル、ウルトラマンバーンが現れた!
「!あんたたちは…」
驚くカルラ。
「変わるなと言ったろ…。」
呆れるリュウラ。
「まあ、いいさ。とにかく、この数の多い連中を先ず滅ぼす。戦闘開始だ!」
並び立ち、邪仙らへ立ち向かう五人のウルトラマン!

ラセツは右手先から伸ばした光の鍵爪で敵を貫く「破邪冥剛爪オーガプレッシャー」でキオイ三匹をまとめて打ち抜く。
カルラは長槍モードのセントラルクローを投げつけ、さらにその槍が空中で翼を広げ、鳥のような形状で敵に突き刺さる最強必殺技「鳥神総凱破ウィングインパクト」を放つ。槍は軌道を次々に変えてキオイを切り、貫く。
襲い掛かってくるキオイをヒートビームで蹴散らすバーン。続いて彼は、ダイナミックキックで墜落したキオイどもに止めをさす。
ミラクルはガンプレッシャー光球、ハイアタッカー光線と、広範囲を攻撃できる必殺技を多用し確実にキオイを屠っていく。
リュウラはゲキをも越える強化形態「コウ」へ変身、シャイニングボムで一気にキオイを殲滅する!
「残るはてめえだけか、一気にカタをつけてやる!」
バーンのタイマーフラッシャーが炸裂するが…効かない!
「やろお!盾持ってやがる。」
「リュウラ!バーン!正攻法では勝てない。イメージマター戦のように、連携攻撃で倒そう!」
先ずはカルラがウィングインパクトを放つ。こちらは盾に弾かれるが、ウィングインパクトに防御を集中したところへ、ミラクルのスパイラル光線が命中。
怯んだ所に地上からラセツのオーガプレッシャー、空中からバーンのダイナミックキックが唸りをあげる!ザイラは目からの光線でバーンを襲い、盾でオーガプレッシャーを防ぐ。
しかし防がれた瞬間にラセツは、光の業火を放射する必殺技「裁邪冥光炎ハデスフレア」を決めた!盾を吹き飛ばされたザイラ。そこに、光線で撃墜したはずのバーンが突っ込んできた!
「これがタイムラグアタックだ!喰らえ、ダイナミックキィィィィィック!」
スパイラル光線の炸裂した箇所にダイナミックキックを打ち込まれたザイラへリュウラも急降下、「破邪龍剛脚ドラゴンカムイ」を決めた!

が、ザイラは全身から光線を放射し、最後の抵抗を試みる…。と、その動きが突如止まった。レイハがザイラを呪縛したのである。
「こ…こっちの防衛チームは随分と怪しげなテクノロジーで闘うんだね…。」
ちょっと引いたミラクル。しかしトドメをさすには絶好のチャンス!
ラセツのハデスフレア、カルラのウィングインパクト、
バーンのタイマーフラッシャー、ミラクルのハイパワー光線、
そしてリュウラの、龍の姿成す光を叩き付ける無敵の必殺技「龍神総恐撃ドラゴンインパクト」が同時に炸裂!ザイラはついに消滅した。

「んじゃ宮野、オレたちは帰るか。」
「ああ、ありがとう真宮翡翠。君のおかげで天川を見つけられたし、再び共闘することもできた。…ミウさんによろしく。」
「そう、トキツグくんにも頑張れって言っといてくれ。」
「冥王星だろ?そこまで送っていくよ。」
「いいよ、これ以上迷惑かけたくない。あばよ。」
バーンよ、なぜグロンケンなのだ?と突っ込みたかった宮野であった。

数日後、M78星雲。バーンはウルトラマンシグマへ、ウルトラサインを送っていた。
「オレの正月はパラレルワールド旅行だったぜうらやましいだろへへーん。」
「あ゛あ゛ん゛!?正月だぁ?こちとらあの野郎のせいで今年も台無しだったんだ覚えとけ!」
チョイカ星人を、まだ倒せていないらしい。
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第三十七章 とりくんと咎人
暗黒闘士ヅサ、ノゴ発現

軍人とは、本来人を殺すものである。邪仙や神々との戦いに終始するレイハにいると、どうしてもそのことを失念してしまう。
レイハへ所属する以前、帝都治安維持院に勤めている間のヒスイは、周囲から浮いていたと言っていい。
治安維持院は任務の性質上、場合によっては罪人を殺す事で事態の収拾を図る事も多い。
東京と、そこに住む民の安寧を守るためといえど、他者の命を奪う感触は絶対に楽しいものではない。
しかし、同僚の中には任務において殺した者の数を自慢しあって喜ぶ者も多かった。
ヒスイは連中と最大限距離を置き、黙々と任を遂行し続けていた。人を殺すのが自分の仕事だ。
だが、人殺しを楽しむ人間にはなりたくない。だから今でも、レイハ以外の軍人には敵が多い。
「慣れたハズなのにな…。」
真夜中、月光に照らされる露台でヒスイは自嘲する。
今日、自分がウルトラマンとして殺した人数は三人になった。一人目は暗黒闘士ゼオ、サガミ シュン。
二人目は先代のウルトラマンカルラ、鞍馬浅黄尊(クラマノアサギノミコト)。
三人目は…。
その日の朝から、順を追って説明しよう。

朝、ロクドウトキツグはいつものように、ワタリベの妻フユミが経営する甘味処へ出勤していた。
だが、しばらくして客の一人を、トキツグの中のガルーダが注視し始めた。
(トキツグ、客の一人が、何か強い悪意の影響を受けている。その悪意というのが、『大陸よりの怨念が、光の一族と高天原を包み込む』と…)
トキツグはガルーダの示した客へタックルを決める。店外へぶっ飛ばし、間髪入れずに召喚したサンダーボルト・クローの穂先を突きつける。
「お前、邪仙か?この人から出てけ!」
「…おれは正気さ。そして、『英雄』になるんだ。」
男はトキツグを振り払うと十字型の奇妙な装具をかざす。そこから溢れ出る闇に包まれ、男は未知の巨人へ変身した!

(あれは、暗黒闘士!)
驚くガルーダ、周囲を破壊し始める巨人=暗黒闘士ヅサ。トキツグはフユミを逃がすと、ヅサの様子を見る。
破壊に酔っている…ようだが、どこかその様子は虚ろだ。何者かの支配下にあるようにも見える。
「ガルーダ!アイツ、人間が変身したぞ!ウルトラマンなのか?」
ガルーダは何も言わない。むしろ、口に出す事を拒んでいる。
今重要なのはヅサの正体か?街の民か?決まっている。
「出でよ、カルラ!」

トキツグはカルラへ転化、敵が拳から放つ破壊光線を、長槍へ引き伸ばしたセントラルクローで弾く。
更にショットスパークルで敵の動きを鈍らせ、突進。
首を押さえ込み腹部を何度も殴打、投げ飛ばし、起き上がったところを顔面に蹴りこむ。
そして再びセントラルクローを現出、ウイングインパクトを放とうとする。が、ヅサはその隙を突いて破壊光線を繰り出した!
敵の体力は相当なものであり、動きも早いため、ウイングインパクトでは捉えきれない。
カルラはセントラルクローから、霊光閃ソードスパークルを発射し、敵の胸部に重傷を負わせる。
この隙に、威力は劣るが速度に勝るセントラルスティンガーを発射。ソードスパークルで傷を受けていたヅサは、この一撃で倒れ行く。

カルラはトキツグの姿に戻り、倒れたヅサを調べる…と、奴は人間の姿に戻った。
変身に使用した十字型の装具は崩れ去り、ヅサに変身した男は…カルラの攻撃を受けた箇所から流血し、既に息絶えていた。
「…ガルーダ、てめえ、何で言ってくれなかった…。コイツの正体、人間じゃねえか…。」
(トキツグ、君の事だ、彼の正体を明かせば確実に戦意を喪失するだろうと思ってね…。)
「ふざけんな!人一人の命だろ!…この人は…オレが殺したんだ…。」
トキツグは、その場に座り込んだ。立っていられなかったという方が正しい。

昼。軍日本基地。レイハによるヅサの解析が進められていた。
「この存在は、以前地底獣ネロギを囮としてリュウラと闘った、暗黒闘士ゼオと同種のものと思われます。ただ…そもそもゼオが何者だったかよく分かんないんだよな…。」
頼りなくぼやくヘキ。ゼオの正体が人間であったことは解析済み。ただ、暗黒闘士はウルトラマンではない。どこで力を手に入れたかが不明なのだ。ユリノが
「神と融合して転化するわけじゃないの?」
問うが、
「ゼオやヅサから神は感じられない。『神が干渉している』のは確実なんだけどね…。」
「『干渉してる』けど、『融合してる』わけじゃないんだ。」
となると、「干渉した」神が何処に祀られている存在なのかを調査しないと。その時、指令房へ一人の男が入ってきた。
「こんにちは。ちょいとお邪魔しやすよ。」
男と目が合うヘキ。…
「………将軍!」
びびるヘキ、傍らのユリノ、ゼオに関する書簡を読んで唸っていたヒスイ、賭け将棋していたフナトとワタリベが一気に整列する。
ツルギヤマ将軍。四十歳。日本基地幕府に出向する官の中で最高の権限を持つ男。
「…あら将軍。どうも。」
会釈だけして編み物に戻るゴジョウ。カンナは寝ている。
「…それでねえ、あっしが何でお邪魔したかというと、中国基地が面白いモンを発掘しましてねえ。」
それは、数千個には達するであろう十字型の奇妙な装具。これを見たゴジョウが編み物の手を止める。
「…興味深いですね将軍。これって…闇の一族の?」
「鋭いねえ。そう、暗黒闘士の転身呪具だ。」
闇の一族?その瞬間、レイハの司馬達は全員、全く同じことを考えた。
(また設定増やしたのかよ。)
いや、そうではない。そうではないのだ。第八章を参照してもらいたい。少しの間をおき、ヒスイとヘキが思い出した。
「そういえば暗黒闘士ゼオは『自分は闇の一族から力を授かった』って言ってたよね!?」
将軍の前にも関わらずタメ口になってしまったヘキ。闇の一族とは、以前日本基地へ侵入しカンナ拉致を企てた「光の一族」とは異なる存在なのだろうか?ゴジョウが解説を始めた。

光の一族も闇の一族も、そもそもは次元の狭間にある「神山」に棲み、神々へ仕えてきた民族。
ラゴウやミカヅチなど、宇宙の摂理を操る高位の神々に仕えるのが光の一族。
神壁の形成を初めとし、地球に住み地球へ加護を与える低位の神々に仕えるのが闇の一族。
しかし、闇の一族は現在滅びたといえる。
旧暦の最終戦争中断からしばらくして、闇の一族における過激派が光の一族及び高位の神々に対抗すべく、ある神の力を借り「暗黒闘士」へ転化する呪具を開発した。
その神は暗黒闘士を率いて高位の神々へ殴り込みをかけた。
だが結局暗黒闘士の軍勢は敗北。彼らを皆殺しにしようとする高位の神々であったが、
その中で最高の権力を持つ女神「西王母」がこれを止め、暗黒闘士の転身呪具を無力化するに留めた。
その後、闇の一族は呪具を封印し、光の一族と和平交渉を始めるものの、疑心暗鬼にかられた光の一族の手でほぼ全滅させられた。
そして、軍を率いた「その神」だけは西王母も見過ごせず、彼女の手で何処かに封印されたという。

「その呪具が突然中国で出土し、幾つかが日本に出回り、暗黒闘士を生み出した、と。」
しかし、西王母は最高の権威を持つ女神だと聞いている。彼女が封じた呪具がそう簡単に再起動するだろうか?
「大体、その『暗黒闘士の軍勢を率いた神』はどうして殺されなかったんですか?」
ユリノの指摘には、ツルギヤマ将軍が応じる。
「神々の事はよくわからないけれどもねえ、おかしいと思いやせんか?
神話じゃあ神々の支配を任されてんのは『天照大神』(アマテラスオオミカミ)のハズさね。
何でまた最高の権力者が西王母に取って代わられてるのやら…。でもまあ、もしもアマテラスがご存命なら、
『その神』を殺そうとした西王母を説得して封印に留めてもらったのかもね。姉弟の情ってヤツで。」
姉弟?ヒスイは、ツルギヤマ将軍が何を言わんとしているか感づいた。

「暗黒闘士の呪具は西王母によって無力化された。だが、もし暗黒闘士を率いた『その神』が西王母に匹敵するだけの力を秘めており、自分への封印を弱めて呪具へ干渉したとすれば?神々や光の一族には相当な憎しみを抱いているハズだ。そしてその神は、アマテラスの、弟…。」
ヘキは青ざめて呟く。
「神話の世界、かつて神々の地、高天原を放逐された、荒ぶる神…『スサノオ』」

「どうやら発掘された呪具には、三本ばかし不足があるようだ。一つはゼオ、もう一つはカルラが殲滅したヅサの使用した呪具。つまるところ、あと一つ。それじゃ、あっしの配下のコイケを貸すから、彼と一緒に残りの呪具を探してくださいな。」
ツルギヤマは直属の神主コイケをレイハへ協力させ、杖を片手に悠然と帰っていった。
緊張を解き、激しく運動したかのように息を突くフナト以下。そして、やっとカンナが起きた。
「カンナ、話、聞いてたか?」
「ふえ…何一つ。」

夕刻、ヒスイとカンナはコイケと共に、軍用車リョウブで東京を哨戒していた。この辺りは、ワタリベ フユミが経営する店がある。
確か以前にもこの近辺が襲われた気がするが、等身大の化けモンどもで構成された全世界規模で侵略行為を働いている筈の数多くの悪の組織は基本的に番組レギュラー陣の在住する地域を集中的に狙う趣味を持っているので今更気にはならない。
呪具の反応が大きい一帯を検分するものの、手がかりは掴めない。そこへ、今朝ヅサを倒したトキツグが通りかかった。ヒスイは暗黒闘士について話を聞こうとするが…
「すいません、オレは何も知りません!」
逃げた。彼は、朝からずっと「自分が人を殺した事実」を恐れていた。そして店へ戻り、フユミへ早引きを申し出る。だが…
「レイハに入ろうと頑張ってたのに、師が自分をかばって殺された。で、軍を飛び出し、ウチで働くようになった。それってさ、責任を取ったことにはなんないよ。むしろ、責任から逃げたってことじゃない?」
自分の前歴、全て知られていた。フユミはあくまでも優しい眼差しを絶やさない。だが、トキツグはそこにいられなくなり、店を飛び出る。同時に、爆風が彼を襲った!

そこにいたのは、第三の暗黒闘士、ノゴ。ヒスイが札を取り出し、指令房と通信しているのが見える。
「こちらマミヤ。暗黒闘士が現れました。呪具を持っていたのは、神主のコイケです!」

彼は呪具が発掘された際、既に暗黒闘士に選ばれていたのだ。
ヒスイとトキツグは、ウルトラマンとしての超感覚で敵の意思を捉える。
奴もまた「自分が英雄になる」と確信している。
「トキツグ、ワタリベの奥方を避難させろ。レイヒュウゴが到着するまで間がある。急げ!」

カンナはリョウブの空中浮揚機能を活かしノゴを迎撃するが、さほどのダメージにはなっていない。
さらに、ノゴの放つ光線で近場の商店が倒壊、ヒスイが瓦礫の下敷となってしまう。彼を助け出そうとするトキツグを制止するヒスイ。
「俺の事は気にするな、早くフユミさんらを!」
「すいません。でも、今度こそオレは!」
ヒスイは、ふと微笑んだ。
「気にするな、カルラ。俺も、ウルトラマンだから。」
以前、魂の弟と共闘した際、彼の仲間へ同じことを言った気がする。

驚くトキツグ。動けないヒスイの胸元へ光が集束し、アクアアイと化す。そのままヒスイは、トキツグの眼前でリュウラへ転化する!
しかし、リュウラの動きが鈍い。瓦礫にやられた際、どこかを痛めたようだ。
「マミヤさん!くそ…これも罪滅ぼしだ。出でよ、カルラ!」
トキツグもカルラへ転化し、加勢する。
「マミヤさん、オレが闘います。援護お願いします!」

リュウラへ頼んだ上で接近戦に持ち込むカルラ。
セントラルクローでノゴを薙ぎ払う。
敵のキックで反撃されればリュウラがショットスパークルで支援。
よろめいたノゴの横っ面を全力で殴り飛ばす。

カルラはそのまま、立ち上がれないノゴへセントラルクローを突きつける。
だが、ちょうどその時、ヅサへ変身していた男の死に顔が頭をよぎる。そして、「人を殺す事」を再び恐れ始めた。
この隙にノゴは、カルラを懐柔する。「人を殺したくなければ、リュウラに帰ってもらえ」と。

カルラは、リュウラへ襲い掛かる。
「すいませんマミヤさん、でも、コイツは人間なんです!頼むから帰ってください!」
ヒスイの左腕の傷がリュウラに反映され、思うような闘い方ができない。と、思われたが…。
「トキツグ、ちょっと痛いぞ。」
リュウラはその左腕でカルラへ鉄拳を決めた。そのまま膝を突き、動きを止めるカルラ。
「何で…。転化前に怪我したはずなのに…。」
「お前が初めてカルラになった時も、俺は転化前に怪我しててこずってたろ。二回目だと思うと腹が立ってな。」
実際は龍の法力を僅かに左腕へ多く配分する事で傷をカバーしていたのだが、そんなことはどっちでもいい。
「少し頭を冷やしていろ。…俺の敵は、お前だけだ。」

リュウラはノゴへ向き合うと、コウへ変身。敵の光線を全て受け流す。
しつこく撃ってくるので、受けた光線をそのまま反射する。
そして、シャイニングボムを発射!しかし、今回はその力を制御し、直撃したノゴの「暗黒闘士の力」のみを消滅させた。
暗黒闘士の姿を保てなくなり、コイケの姿へ戻っていくノゴ。カルラはその場で姿を消し、リュウラもヒスイの姿へ戻った。

倒れているコイケ。彼の持っていた呪具も消滅していた。基地あるいは大きな神宮で治療すればさほど長くはかからずに復帰できるだろう。
同時に、暗黒闘士についてより多くの情報が手に入る。彼に干渉していたスサノオの意も消え去っていた。全てが解決した…と思ったのだが。
「…釘?」
彼は、息絶えていた。己の名が書かれたヒトガタを持って。彼はノゴの力を失うと同時に、己自身を呪殺していたのだ。
「力を失う事に、耐えられなかったのか…?力って、そんなに大事なものか?」

自分が彼を殺したのかもしれない。ヒスイは一人悩み、露台から月を眺めていた。
そして、トキツグについても引っかかっている。
「お前さ…逃げ、じゃないか?」

「暗黒闘士か。それを、どう使う?」
「スサノオに率いられた数千体の暗黒闘士。彼らを、今の地球へ召喚するのさ。」
高位の神々が集う暗闇の地、高天原。高位時神仙フクギは、残虐なる策謀を進めていた。

続く。

次回予告
神が恐れるかつての災厄。災厄を人類にも味わっていただこう。
少年は恐れ、そして再び邪悪な力を発揮する。防人は、時を越える。
次回ウルトラマンリュウラ 第三十八章「とりくん、ぐらっちぇ。」

カンナ「一ヶ月サボっててごめんなさい。次回はウルトラセブンが出るんで許して下さい。」
ヒスイ「出ないしそもそもそのネタ不謹慎だからな?じゃあ何か『これさえあれば如何なる神とも互角に戦える』とかいう新兵器をセ」
カンナ「それじゃまた」
ヒスイ「聞けよ。」
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第三十八章 とりくん、ぐらっちぇ
高位時神仙フクギ発現
現代に蘇った暗黒闘士はリュウラ達により全滅した。だが、その内の一人、暗黒闘士ヅサを倒したカルラ=トキツグは、自分が人を殺したという事実に耐え切れなくなり、姿を隠す。
一方、高位の神フクギはとある計略を進めていた。

事件後、暗黒闘士の残った呪具数千個は全て軍日本基地へ格納され、厳重に封じられた。その三日後、呪具は全て
「消失!?」
鬼道研究院からの報告を受け、驚きの余り思わず起立するユリノ。
研究院に言わせると、呪具の封印が破られた上、消失の直前周囲の時間軸に歪が生じたという。つまり、どこか別の空間、あるいは別の時間に転移されてしまった可能性がある。
さらに、別の場所で同じ形状の時空の歪が観測されたという。
三日前、中国河南省、伏鍵山。
その山は、高位の神フクギが降臨するという聖地だ。しかし、その理由は?
「…ユリノさん、この山って『泉』がないですか?」
問うカンナ。ユリノが情報を引き出す。
「確かにあるわね。それと…二十年前の調査でその泉の水底に『何か』が沈んでいることが確認されてるわ。」
ヒスイが感づいた。
「その『何か』は今も沈んだままか?」
ユリノは追加調査を行う。結果、水底に沈んだ『何か』は時空の歪に飲み込まれ、消失していることが判明した。
《フクギか…。ニンゲンには難儀な敵だな。》
龍が口にする。
《あ奴は、時空を己が意のまま操る術を持っている。しかし、あ奴一神のみでは大きく時間を操る事は出来ぬ。故に、時間の門を開く『鍵』を欲する。》
「それが、伏鍵山から盗まれた『何か』の正体だと?」
ヒスイはゴジョウを通じ、その事実を話す。ヘキが冷静に
「つまり、フクギが自力で時空の歪を起こして時間の鍵を盗み、その鍵で時間を大きく歪めようとしているのか…。」

高位の神々が集う暗闇、高天原。
本日も(彼らもまた時間という鎖に縛られた存在であると仮定しての表現だ)異形が好き勝手にたむろしている。
だが、その暗闇のさらに奥には、人間の、女の姿をもつ者があった。二人はそれぞれ異なる柄の美しい衣に身を包んでいる。
「アマテラス、フクギが鍵を得た。地球の時間に干渉しようと目論んでおるようだ。」
比較的派手な衣を纏った一人の女が口を開いた。
「!時間へ干渉し、何をするつもりなのでしょう…。」
アマテラスと呼ばれたもう一人の女が焦っている。派手な女はあくまでも冷静に
「奴は鍵だけではなく、ニンゲンの戦部から『暗黒闘士の呪具』も奪ったようだ。」
女は解説を続ける。時間の扉を開く鍵を持っていようと、
過去や未来より何らかの存在を召喚するにはその存在と呼応する、強い『縁』を持たなくては意味が無い。
「さて、奴が過去の世界より何を召喚するつもりか…。恐らくは暗黒闘士。
呪具に染み付いた『縁』と呼応させ、過去の世界から時間の門を通し、暗黒闘士を全軍地球へ降臨させる気だ。」
「それではニンゲンが!お教え下さい西王母、私は何をすればよいのですか?」
西王母と呼ばれた派手目の女は、少しアマテラスを睨む。
「妾はニンゲンがどうなろうと興味は無い。お前が決める事。…と言うても、結局決められぬのだろうがな。」
西王母は、弱気な印象のアマテラスを腹立たしげにねめつけ何処かへ消える。しかしアマテラスは、地球へ自らの意思を送る。

レイハ。伊勢神宮でアマテラスから受けた託宣の内容を元にフクギの調査が進んでいた。ツルギヤマ将軍も同席している。そこに、ヘキが興味深い情報を持ってきた。

「フクギは時間を戻す前に、自身の周囲に時間の干渉を受けない空間を形成するようです。伏鍵山上空で既に形成が開始されています。そのまんまですけど『時間非干渉域』と呼称します。この空間が形成を完了するまで残り十刻(五時間)。
余裕はありますし、レイテイで突入する事も可能です。ただ、その空間の中でフクギが時間の門を開き過去の世界と繋がるまでは、二刻(一時間)しかありません。二刻の内に神を一体殲滅する必要があります。それも、基地からの支援一切無しで。」
さらにゴジョウが手を上げる。
「ねねね、フクギを倒すだけじゃあ不十分よね。…将軍、諸国の基地へ申請をお出し下さい。
コウテイノヒで呪具を破壊することで、過去の暗黒闘士とフクギの『縁』を寸断、同時に現代における暗黒闘士の復活を完全に不可能とします。小宰、コウテイノヒ抜きでフクギを倒せる作戦をお願い。」
「無茶仰いますねえ…。やりましょ。まず暗黒闘士の呪具をコウテイノヒで吹き飛ばす。次にフクギを攻撃…ミカガミノツルギを主力にする。カンナ、レイキザン。アタシとユリノがレイヒュウゴ。ミカガミノツルギで損傷を与えるわよ。」
ただし、ずっと接近したままだと、敵の死に際に噴き出される時間流の暴走を喰らって、どこか別次元まで飛ばされる。
「ミカガミノツルギを主力にはするけど、トドメには出来ないわ。一定以上ツルギを決めたらあとは全火力を鬼道機関で強化し一斉掃射。ワタリベとヘキはレイカイオウで支援。カンナ、ツルギを連発する以上負担は大きいけど、耐えられる?」
「だいじょぶです!」
しかし…である。カンナは心配ではあった。フクギの神威に守られた呪具をコウテイノヒ一発だけで全滅しうるだろうか?カンナは「保険」をかける事とした。
{ミウ、聞こえる?}
互いの場所を知らずとも、この姉妹は精神で会話できる…というより、クサナギの件以来、カンナが会話の術を会得した。
{フクギの事?}

カンナはもとより良い返事など期待してはいなかった。だが意外にも
{確かに奴は強い…協力してもいいけどさ、何すればいい?}
{!マジで?…ありがと。暗黒闘士の呪具を破壊する時にカルラの力が要ると思うんだ。
わたし達の母さん…先代のリュウラを殺した『神と人間の繋がりを断つ光』それを応用して呪具からフクギの力を切り離す。
今のカルラも同じ術を使える筈だから、ミウ、トキツグさんを連れてきてくれないかな。}
{まかして。殺してでも連れてくっから。}
{殺したらダメだよ。}
{分かってるよ。}
交感を終え、ミウは天然の姉へ自然にツッコむ自分に気付いた。昔、強く優しい母の元で暮らしていた頃のように。
「奇跡を信じる…悪くないかな。」
そう一人ごち、トキツグを探し始める。カンナはカンナで、出陣までには戻ると言い残し、少し基地を出る。

「いいから参加しろって!」
「ムリだよ!オレなんて…。」
光の一族としてフクギの恐ろしさを熟知するミウは、トキツグを無理にでも作戦へ引っ張り込もうとする。
かたやトキツグは己が人の命を奪ったことで、既に戦い自体を嫌悪している。ミウの中の鬼神は、トキツグの中のガルーダへそっと聞いてみる。
《申せガルーダ、そなたはロクドウトキツグを戦へ向かわせる事、如何に思う?何、口外などせぬ、申してみよ。》

《…トキツグはニンゲンとしてはまだ若い。彼はスガの死から未だ立ち直れていない。
その上今度は自分がニンゲンを殺してしまった。私は彼の傷をこれ以上拡げたくないんだ。》
優しい、少し気弱な声である。トキツグを心配しているのはよく分かる。ただ…
《…ではフクギはどうなろうと構わぬと。》
《違う!フクギの謀略を放ってはおけないよ。
ただ…トキツグの事も考えると、私や君が無理やり戦へ駆り出すのは良くないと思う。
いや、フクギは倒すべきだけれども…やはりトキツグの心も…》
《と、いけしゃあしゃあと抜かしておるぞ、ミウ。》
鬼神、ミウにチクった。
《!?君は鬼か?》
鬼だよ。
「ガルーダ、アンタが一人じゃ何も決めらんないヘタレの神だからあたしらの母さんも…。ロクドウトキツグから分離しろ、あたしがアンタをぶった斬る。」
ラセツへ転化せんとするミウだが…
「殺したらダメって言ったじゃん。」

カンナだ。
「トキツグさん…ウルトラマンカルラ。今あなたの力が必要です。いっしょに来てくれませんか?」
「…嫌です。オレはもうウルトラマンとして…人殺しとして戦うのはこりごりです!」
カンナは僅かに逡巡し…首を縦に振った。
「ですよね…嫌な感触だってゆうのは、よく分かります。…ゴメンなさい。わたしたちが勝手でした。」
そう言い残し、カンナはトキツグを引っ張ることなく立ち去ろうとする。
「ちょ、カンナ!トキツグもそれでいいわけ?」
ミウは両者へ憤りをぶつける。だがトキツグは彼女へ言う。

「オレはそもそもただの訓練生だ!そん時にスガ教官を殺されて何が何だか分からない内にウルトラマンになっただけで、オレ自身は望んでウルトラマンになったわけじゃない。
自分がウルトラマンである意味が分からねえ。オレは確かにあの時ガルーダの贖罪に付き合うって言ったけど、それはあのままじゃオレやヘキさんの命が危なかったからそれを助けるためにガルーダと融合しただけでその後も闘うなんて約束はしてない。
リュウラが、マミヤさんがラゴウの時に先代のカルラを完全に倒してくれてりゃスガ教官が死ぬことも無かったんだ。そうだ、ウルトラマンなんて所詮その程度のモンなんだ。
マミヤさんでさえ判断を迷ったりラゴウに負けたりすんだからオレなんかがウルトラマンとして満足に闘えないのは当たり前だろ?オレなんかが作戦に参加したら絶対失敗する。
そりゃそうだよオレはあくまでも人間であってオレの中のガルーダは神なんだ。オレみたいな一人の人間が神の力なんて操れるわけが無い。いや、神の力を操れたところで負けることだってある。
だってマミヤさんさえラゴウに負けたんだぞ!?ウルトラマンは弱いんだ、だからオレは人を殺したことがこんなに怖いんだ。
カンナさん、人間は弱いものをいたわり、互いに助け合うモンでしょ?だったらオレをいたわってください。
オレは弱いウルトラマンなんだからいたわってください。オレは今までレイハの皆さんを助けてあげてきたじゃないすか!
オレは無償で助けてあげてたんだから今回ぐらいオレを休ませてくれてもいいでしょ?それにオレは人殺しだ。
人の命を奪った奴がこれからもレイハに協力するわけにはいかないよ。レイハは軍人。
民の命を守るのが仕事なのにオレみたいな人殺しがいちゃいけないんだ!そうじゃないすか?
ウルトラマンが人を殺したんですよ、そんな奴と手を組むわけにはいきませんよね。
レイハの皆さんに迷惑がかかる。だからカンナさんは早く帰って、オレなんかのことは忘れて作戦に備えてください。
オレはレイハの皆さんの事心配して言ってるんすよ?オレがいると作戦は失敗するから帰ってください。
それでこそ沢山の民もレイハの皆さんの名誉も守れますから!」

カンナは振り返ってトキツグに返した。
「理屈並べてるより闘ったほうが早いですよ。」

そしてそのまま日本基地へ帰った。ミウもカンナに同伴する。
顔を真っ赤にし、最後の方は泡を吐きながら二人を説き伏せようとしたトキツグの労力は完全に無駄になった。

中国河南省、伏鍵山。その上空に生じた黒雲。フクギが形成した特殊空間、時間非干渉域である。その黒雲へ突入する船。レイハ最大の戦力、全領域戦艦、レイテイ。
空間内部では暗黒闘士の呪具数千個を傍らに、既に蛇身人首の神、フクギが待ち構えていた。
「こちらレイカイオウ、ワタリベ。これより発艦、牽制します。」
ワタリベとヘキの乗ったレイカイオウが先発し攻撃を開始した。だが、突如フクギの鱗が赤く発光。これを喰らった二人は突如戦意を喪失する。
「あの光…人間の戦意を喪失させる術なんだ。」
ミウの言葉通り、二人はフクギを周回するのみで攻撃に入ろうとしない。ユリノはすぐさま解呪を行い二人を正気に戻す。更にレイテイの船体をこの術に対する法壁で包む。だが、このままではこちらから攻撃に入れない…。

「…オレは…理屈を並べて逃げ回ってるクズだ…。」
トキツグの自身への嫌悪は、最高潮に達していた。
《トキツグ…》
「何も言うな。お前は悪くない…ダメなのは、オレなんだから…。やっぱ、英雄なんて、オレには程遠いんだ…。」
待て。自分は英雄になりたかったのか?そうだ。いつの間にか英雄と呼ばれようとして闘っていた気がする。しかし、自分の師は今わの際に何を言っていた?

「英雄ってのは、なろうと思ってなれるもんじゃねえ。」
自分は英雄になりたかった。そう呼ばれたかった。名前にだけこだわっていた。今この場所で自分に何が出来るか、何をすべきか、ほとんど考えたことが無かった。だから、戦いの何たるかを実感した時にその重みに崩れ落ちた。
「だったら…立ち上がってやるだけだろ!」
トキツグは、フユミの店へ顔を出した。フユミは彼の、覚悟に満ちた眼を見て言う。
「アンタは実家のお母君が倒れて、急遽故郷へ帰らなきゃいけなくなった。ってことにしとくよ。…行っといで。、ウルトラマン。ウチのダンナと一緒に、闘っといで。」
トキツグは一礼の後、店を飛び出し真っ直ぐ駆けていった。直後、街角から光の鳥神が、大陸へ向かって飛び立っていった。
「頑張りなよ。」
フユミは、見送りの笑顔とも惜別の泣き顔ともつかない妙な表情を一瞬だけ浮かべ、業務に戻った。

見ていられず、ミウはラセツへ転化。だがフクギは、更に残酷な術を会得していた。先程とは異なる、青い光。これを浴びたラセツ…ミウの前に三つの人影が現れた。それは、先代のカルラに殺された学舎の友、ミカ、カオリ。そして母、ミヤビ。
《私がいれば時間を戻し、親しかった彼らとまた会えるぞ?》
戦意を喪失し始めるラセツ。それをリュウラに転化したヒスイが救出する。
だがレイハはフクギの術への防御で手一杯。刻々と時間が過ぎてゆく。
その時…時空が切り裂かれ、ガルーダが突入してきた!

鳥神は黒き巨人 ウルトラマンカルラ ガイへ姿を変える。
「トキツグさん!」
カンナが思わず叫ぶ。
「…そうか…トキツグか…。」
何故かレイハの司馬たちは、納得できた。

フクギは赤い光を放ち、カルラを迎え撃つ。だが、カルラの突進は止まらない。
「オレはクズだ。口や頭使って自分への重圧から逃げ回ってるクズだ。だからもう、クズでいたくはねえんだよ!」
自己嫌悪、自己への怒り、そして「変わりたい」という願い。それらがフクギの術を無効化しているのだ。
カルラはフクギへタックル、そのまま投げ飛ばす!ガルーダもまた、自身への憤りから派生する強き意思を燃やしていた。
《龍!暗黒闘士の呪具というのはどこだい!?》
リュウラの案内に従ってカルラは両腕を交差、
神と人間の繋がりを断つ光「帰神封断風セントラルブロッカー」を放射、
数千個の呪具から、スサノオの意とフクギの力をまとめて奪い去った。
「今よ。『コウテイノヒ』発射!」
レイテイの主砲が、ようやく呪具を殲滅した。
焦るフクギはカルラへ、青い光を放射する。
トキツグの前に現れたのは、スガ。
《私と手を組めば、時間を戻してこの男を助け出せるぞ。ガルーダ、君にとってもこのニンゲンを殺してしまった事は心残りなんだろ?だったら、私と協力して暗黒とぐげ》
フクギの腹には、カルラのセントラルクローが突き刺さっていた。
「人の命さえ利用し、自分の保身を目論みやがる…フクギ!オレはてめえを、絶対に倒す!」

カルラは突き刺したセントラルクローをそのまま奥深く抉り込ませ、体重をかけて体を引き裂く。
このまま完全に裂断し、息の根を止めるつもりだろうか?…!それは…
「待てトキツグ!その位置でそいつを殺せば、噴出した時間流がお前も飲み込んでしまう!」
リュウラとラセツが彼を引き戻そうとするが…
「黙ってて下さい!オレはクズだから、コイツだけは、コイツだけはオレが!…それに、ちょっと遅かったみたいっす。」
フクギの体から、暴走した時間流が噴出し始めた!
「オレが盾になれば、皆さんが時間流に飲み込まれることはないです。」
《ガルーダ!そなたはそれで満足なのか?》
《トキツグを離脱させろ!何をしておる!?》
龍と鬼神がガルーダへ叫ぶが…
《トキツグが望んだことだ…。私は彼についていく。たとえどんな別世界が待っていようとも。》
伏鍵山上空。黒雲は晴れていき、暗い空間の裂け目が残っている。時間流は、確かにレイテイもリュウラもラセツも直撃せず、カルラだけを包んでいる。

彼は、リュウラを少し振り返る。
「マミヤさん、賭け、しませんか?オレが帰ってこなければ、人間は神々に滅ぼされる存在。帰ってくれば、人間は神々を打ち負かす強き存在。どうすか?」
「ふざけるな。俺達は全員、後者にしか賭けんぞ。」
「ですよね…。」
カルラは、時間流を噴き出し続けているフクギを振り向き、全身を丸める。光の稲妻を放出し始める。同時に彼の背から光の翼が生じた。黒き巨人は稲妻に包まれ、青白き鳥神の姿を成す。そして羽ばたきながら、フクギへ突撃する!
崩壊するフクギ。カルラは、フクギを破壊しながら、時空の裂け目へ突入した。直後、裂け目は…消えた。

カルラは、この世界から、消滅した。

続く
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第三十九章 燃えろ!ヘキとかいう男!第二段
大怪獣ダイダラボッチ 氷結邪仙キビ 光波邪仙ザガン発現

「あの感じの良い給仕はどうした?」
この質問、飽きた。
「お母君が病に伏せったから実家に帰りました。」
この説明するのも飽きた。
今の所、店には二人の給仕、ミユキとナツヒコを雇っている。手は足りている。しかし、それとトキツグが行方を絶ったことは別問題だ。ワタリベ フユミは彼の、ウルトラマンカルラの身を案じていた。

ヒスイは日本基地本殿へ向かっていた。目的は、ツルギヤマ将軍との接見。
途中、正式な手続きを踏ませようとする頭の固い連中を幾度となく薙ぎ倒し、ようやくツルギヤマの下へ到着する。
「…マミヤ ヒスイかい。随分と荒っぽいやり方だねえ。」
「将軍、レイテイの駆動許可をお出し下さい。」
ヒスイがツルギヤマへ直訴するのには理由があった。高位の神フクギが死んだ際に発生した時間流の暴走を受け、ウルトラマンカルラは別次元へ飛ばされた可能性が強い。
彼を探し連れ戻すため、時空の壁を突破できるレイテイを欲していたのだ。
「将軍として言わせてもらいやすがね、そいつぁ無理ってもんだね。」
「何故です?ウルトラマンカルラはこれまで何度も…」
「マミヤ ヒスイ。あんたがたレイハがこれまで『自力で』倒した『神』の数を数えてごらん。ウイレイ一神のみだ。
とはいえ、レイハにとってレイテイが最大の戦力である事に変りは無い。だからこそ、あまり易々と駆動させたくは無いのさ。
それに、カルラが『何処に消えたのか』が分かるのかい?手当たり次第に別次元を行ったり来たりで連れ戻せる自信は無かろ。申し訳ないけどね。」
失意のままレイハ指令房へ帰る。途中頭の固い連中が色々言ってきたが無視した。その時、精進湖に邪仙が出現したとの報が基地を駆け抜ける。レイハは即座に出陣した!
「ヒスイくん、トキツグさんを探す話、どうでしたか?」
「断られた。」
レイハは民を人外の者どもから守るため、常に最前線に立たねばならない。例え、仲間が倒れても。

湖から姿を現したのは、以前上海で撃滅した氷の邪仙、キビ。の、同型。敵は標的の温度を低下させる霧を吐く。
「盤を火の気に合わせ霧を相殺!急ぎな!」
レイヒュウゴのフナトからレイキザンのヒスイとカンナ、レイカイオウのヘキへ指示が飛ぶ。だが、ヘキはその指示への反応が送れ、機体を凍結されてしまう。
ここでレイヒュウゴが焔弾砲を発射、その砲弾をレイキザンが光線砲で爆破し、間接的にレイカイオウを熱して救出した。更に鬼道機関の法陣で、とりあえず湖底へ縛りつけ一時的に動きを封じた。
…はて、何ですかそのファイナルクロスシールドって。

基地からゴジョウも駆けつけ、レイハは前線基地を造る。
「しかし、最近の邪仙は中国に狙いを移したんじゃなかったのか?」
ヒスイの問いにユリノが応じる。
「恐らく、キビの狙いはこれね。富士五湖から浅間山にかけて眠っている存在、ダイダラボッチ。」
ダイダラボッチ。富士山に腰掛け駿河湾で手を洗ったという、正に雲を突く巨人。しかし、富士五湖から浅間山に「かけて」とはどういう意味だ?
「言葉通りよ。五湖の地底から浅間山の地底にかけて、奴は地盤の下部に押さえつけられる形で数千年間横たわってるの。」
つまり、富士の周囲の民はそのデカブツの腹の上で生活していたわけだ。そして、邪仙はこれを揺り起こそうとしている。
揺り起こした時点で奴の上に建っていた街は全て壊滅する。方法は、ダイダラボッチが覚醒する前に地表へ空間転移させ、眠っている間に撃滅するほか無い。
同時に、これを覚醒させようとするキビを殲滅する必要もある。
「ヘキくん、ダイダラボッチを地上へ転移させられるだけの強力な空間転移器は造れる?」
が、ヘキはゴジョウの問いに即答しようとしない。
「…レイヒュウゴの鬼道機関では無理です。レイテイの主砲、コウテイノヒを空間転移器と連結し、地下から発射すれば何とか…。」
歯切れの悪い返事に違和感を覚えつつも、レイハは作戦を決定し翌朝に備える。ここでハッキリしておこう。今回の敵と某タイム超獣に関連性は無い。

次の朝になればファイナルク…法陣は解ける。キビはレイカイオウで動きを止め、その隙にレイテイが地下へ潜行、眠ったままのダイダラボッチを地表へ転移させる。
そこをミカガミノツルギで倒す…倒せるのか?敵は富士山に腰掛けるほどの体躯を持ったデカブツだぞ。それに、切断された四肢はどうなる。
その点については撃破した時点で再度空間転移器を発射し、眠っていた座標へ戻す。要は土葬。

前線基地指令房でボーっとしていたヘキに、ユリノが怒鳴り込んできた。
「ヘキ!何なのあれ!?あのレイカイオウ、さっきの戦いから全然修繕できてないじゃない!」
「…ごめん、忘れてた。」
ワタリベもヘキをかばう。
「ユリノちゃん、今のヘキは空間転移器の調整で忙しいわけよ。その程度の修繕ならオレたちがやりゃいいじゃんか。」
「それとこれとは別!」
聞く耳持たないユリノ。そこへヒスイも帰ってきた。
「ヘキ、空間転移器とコウテイノヒの接続は完了したか?」
「…まだなんだ。申し訳ない、すぐに仕上げる。」
夕闇に包まれるレイテイで仕事にかかりっきりになるヘキ。そこへヒスイが茶を持ってきた。
「少し休め。朝までに接続できれば良い。さっきは機翼の件でユリノにやられたらしいな。」
「僕が悪かったんだ…。マミヤ君、フクギとの戦いで、何も感じなかったか?
僕達レイハがいくら頑張っても、結局敵を倒すのは常にウルトラマンだ。僕の作った兵装が役に立った事があるか?
それだけじゃない、レイハ…いや軍自体、ウルトラマンがいれば必要ない気がするんだ。」
「…ハガネギアロの時ミウツシノヤイバを発見しなければ、リュウラは負けていたかもしれん。ウイレイを倒さなければ、ラセツもカルラも危うかった。」
「でも…僕はウルトラマンさえいれば、十分だと思うんだ…。」

朝、湖底からキビが姿を現す。同時にユリノがレイカイオウで発進しこれを迎撃。レイテイは空間転移器を装備し、地下へ潜行する。搭乗員はゴジョウとワタリベ。
フナトがレイヒュウゴ、カンナがレイキザン、ヒスイとヘキが地上で待機する。

キビの冷気に苦戦するレイカイオウ。ヘキはその様子を見、ウルトラマンの出現を期待する。ヒスイは一人、レイエンキュウでユリノを支援。
機を見てユリノは鬼道機関を発動、敵の体内の「氷の気」を「火の気」へ変換させ、力を奪う。その隙にレイエンキュウ必殺モードと飛宙槍を同時発射、
倒れたところを清め、何とか撃破した。だが、そのレイカイオウの背後から今度は光波邪仙ザガンが飛来した!
体勢を立て直す間もないユリノ。それを地上からのヒスイの狙撃が救った。だが、ザガンは地上に狙いを定めた!
敵の爆撃光線に逃げ惑うヒスイとヘキ。ヘキはウルトラマンの名を呼び続ける。ヒスイは反射的にアクアアイを召喚するが…
《転ずる事は、許さぬ。》
龍が転化を拒む。
(!…確かにヘキの言動はどうかと思うが、奴の命が危ういんだ!力を貸せ!)
《忘れたか?我はニンゲン一匹の命など何とも思っておらぬ。》
焦るヒスイ。これを救うためユリノがザガンを攻撃するが、逆に光線を被弾する!

胴体着陸し何とか難を逃れたユリノだが、負傷していた。フナトとカンナは緊急事態としてザガンを攻撃し始める。
その様子を見ながらヒスイは呟く。
「トキツグは、ただの訓練生だった。奴は自身を、闘いの宿命を恐れた。それでも闘っていた。
何故だと思う?それはきっと、自身がすべき事は何なのか常に考えていたからじゃないか。ウルトラマンである以上に、人間としてな。」

ヘキは、カルラの最期を思い出した。彼は、自身が成すべきことを成すために、命を懸けてフクギを倒した。
同時に、自分の命と引き換えにレイハを救ってくれた。誰にも頼らず。
「今自分が成すべきことは、自分自身の手で成すだけだ。誰もそれを助けてはくれない。だから、目の前の敵は自身で砕く他無い。」
黙りこむヘキ。
「トキツグってさ、確か訓練生のころはお前に憧れてたって、よく言ってたよな。
ヘキ、それでいいのか?後輩が命を賭けて自分達を救ってくれたのに。
『大事なのは、自分達がリュウラに頼らず最後まで戦いぬくこと』
トキツグにそう言ったのは、お前だろ?」

「…トキツグ、悪かった。口だけの格好悪い先輩で。」
ヘキは、レイエンキュウに新たな弾装を装填した。
「多重清波弾。邪仙攻撃専用の弾装だ。試作品だけど、ある程度の威力は期待できる…。マミヤ君、レイエンキュウをもう一丁貸して。」
ヘキの放った新弾装「多重清波弾」を喰らうザガン。その炸裂箇所からザガンの存在が弱まっていく。
この弾は、炸裂箇所から全方位的に、しかも連続して清めの力を放ち続け、邪仙の体の一部を完全に崩壊させてしまう威力を持っている。
ザガンは苦し紛れに光線を吐いてくるが、これをもう一丁のレイエンキュウに装備しておいた「鏡壁弾」で反射、逆にザガンを貫いてトドメをさした。

同時に、遂に地表へダイダラボッチが転移されてきた。だが、眠ってはいない。
「まさか…邪仙の悪意に刺激されて覚醒したのか?」
正に「雲を突く巨人。」猿に似た四足での動きから、富士山に跳び付きこれを乗り越えようとする。
ヒスイは今度こそリュウラに転化、この巨人の大体眉間辺りの前に立ちふさがる。

一方、ヘキは墜落したレイカイオウを修繕、離陸した。そして攻撃を開始する。鬱陶しそうに右腕を振るうダイダラボッチ。
だがその腕はレイカイオウに全くヒットしない。
「君は大きすぎる。だから、避けるのもまた容易い事なんだよ!」

ヘキに撹乱されるダイダラボッチ。今だ。レイヒュウゴ、レイキザンが合体。ミカガミノツルギが右腕を切り落とした!
墜落する右腕、それを空中で消し去った光線があった。地表に戻ったレイテイの空間転移砲である。
ヘキは続いて鬼道機関とレイエンキュウの鏡壁弾を併用し、通常の二倍の威力を持った呪縛を決める。
腕一本失ったダイダラボッチなら動きを封じるのも容易かった。
「今だ!」
ヘキの指示で、ミカガミノツルギが連発。ダイダラボッチは十段斬りにされて息絶え、レイテイの手で再び地底へ埋められた。
リュウラは少々物足りない気もしたが、結果的にはそれでいい。

「すいません。自信を失ってて…。これからはリュウラに頼らず、民の安寧のために尽力します。」
頭を下げるヘキを優しく迎えるゴジョウ、そしてフナトたち。ユリノが頭を上げさせる。
「大活躍だったじゃない。アンタは今日の英雄。」
だが、ヒスイはあえて言っておいた。
「英雄の一人は、何処かに消えた。…トキツグも立派に戦ったんだ。」
ゴジョウは宣言する。
「トキツグくんが帰ってくる事を信じて、彼を正司馬へ任命するわ。」


正直、トキツグはウルトラマンとして戦い、生死不明になったとハッキリ言おうかなという気がしてきた。
そんなフユミに二人の新たな給仕が問う。以前の給仕の人となりについて。
「…うん、自分のすべき事から絶対に逃げない、強いコだった。だからきっと、また店に帰ってくると思う。」
それだけで二人は納得したらしい。フユミは自身に同じ事を言い聞かせる。
その次の日から、トキツグは「母君の看病のために実家に戻ってるけど、しばらくしたら帰ってくる」ということになった。

ウルトラマンカルラよ。今、君は何処にいる?

巨大な町がある。トキツグは一人、町の一角に倒れこんでいた。意識も無い。その町でたった今、青い巨人が翼を持つ黒き巨人に敗れ去った。黒き巨人は青き巨人を「悪魔」と蔑む。黒き巨人は扉を開き、青き巨人を闇に取り込もうとする。人々は、その闇を受け入れようとする。
その時、一人の女声が町に響き渡った。
「ティガに光をあげてください!」

続く。


次回予告
神は宇宙を創ったという。それは、ウソなのかもしれない。
一人の女のような男が、神を出し抜く。走れ。オカマ。
次回ウルトラマンリュウラ 第四十章「オカマ対かみさま」

リュウラ学 講師 マミヤヒスイ&カンナ
「トキツグは鏡を備えた短剣サンダーボルトクローでカルラに転化した。転化後は槍を使って闘った…はぁ。」
「ヒスイくん、この字何て読むんですか?」
「『ウツ』だな。」
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第四十章 オカマ対かみさま
高位毒神仙タクラ  尖兵邪仙ゲンラ発現

ベニテングダケ。天竺などに伝わる「タントラの性魔術」において、精神を解放するためのドラッグとして用いられる毒キノコである。
しかし、何でそんなモンが基地の水飲み場にあるわけですか。
正確に言うと、ベニテングダケの粉末が基地の飲用水に多量に混入されていたのだ。その騒ぎから三日後…。

「マミヤさんってさ、やたらとトキツグ君のこと気にかけてたわよね。」
ワタリベ サクヤが夫フユミにそう聞かれたので考えてみる。
マミヤ ヒスイ。天皇家をお守りする古い武家である生家から、その仕事を嫌い逃げ出した。帝都治安維持院の同僚になって早五年。
生真面目で、自身を好きになれない。自虐癖がある。そういう点では、ヒスイはトキツグに若き日の自分を見ていたのかもしれない。
かつて、治安維持院でのとある任務で、ヒスイと自分は共に死にかけた事がある。
そんな事を思い返している最中、レイハ指令房より呼び出しがかかった。

「京都、応避神社!動き出しました!」
数日前よりレイハがマークしていた崇り神、タクラである。高位の神ではあるものの、現在は京都の応避神社に篭っている。それが動き出した。
奴の神威の性質は、人間を理性から解放するもの。
目的が何だろうと、奴が活動を始めれば人間は理性を失い、獣同然、或いはそれ以下の、欲望のカタマリとも呼ぶべきモノになる。
ラゴウの呪とは似て非なるものなのだ。
ただし、動き出したとはいえ現時点でのタクラは、存在する事さえやっとの状態。只人の眼には捉えられぬ微小な者。
少なくとも今のところはこちら側に勝機がある。というのは、タクラが力を取り戻すためにはある状況をそろえる必要がある。

まず、応避神社を北に見て、東西南それぞれに神社を建てる。
西の社にミョウガ、東の社に竹を配置する。
南の社へ鏡を置き、北の社、つまり応避神社へ桃の実を七つ、北斗七星と同じ配列で並べる。
そして、東西南北四つの社が交差するその一点へ「鼓」(つづみ)を置く。
この状況が揃った時、タクラは北の応避神社から離れ、鼓へ宿り実体化、力を発揮する。

「大宰!一刻も早く京へ向かい、タクラの降臨を阻止しましょう!」
ユリノがゴジョウを急かす。これにも理由があった。しばらくなりを潜めていた、光の一族の件だ。
三日前、基地が再び彼らの襲撃にあった。ドラッグキノコ混入事件の犯人は彼らだったのだ。
光の一族が日本基地の兵全員をドラッグで暴走させようとし、直後、人間の欲望を解放させる力を持つ神が動き始めた。関係が無いはずが無い。

ゴジョウはレイカイオウの駆動を要請、同時に
「ワタリベくん、小宰と組んで京へ先回りしてちょうだい。何とかしてきて。」
ワタリベはテンパるが、フナトは全く迷わず
「御意。何とかしてきます。」
て言ってワタリべを引っ張り、強引に出陣しちった。
「光の一族…奴らと和解する手は無いものか…。」
二人を見送りつつヒスイが呟くが、そんな彼にカンナが言うは、
「ヒスイくん、よけいなコトは考えないほうがいいです。」
ヒスイは、カンナの性格が変わったな、と思った。

レイカイオウ機内。
「小宰、具体的にどーこーしようってお考えは?」
「つまりね、タクラが実体化するには状況を揃える必要があるでしょ。
だから、その状況全部タクラにとって最悪にしちゃうわけ。まずは…西の神社へミョウガを置くでしょうね。
でも、儀に際してまずは社を東西南に三つ建てる必要があるから、まだミョウガなどを置くには至っていない。余裕はあるのよ。」

一方、高位の神々が集う暗闇…真の高天原。
「西王母!タクラが光の一族と結託し…」
「既知じゃ。お前が関する件でもない。」
西王母と呼ばれた女神はもう一人の…格上であるはずの女神アマテラスを突っぱね、少し考え込む。
「…光の一族が本腰を入れ始めたか。あのカンナというニンゲンを始末しうるとは思えぬが。」

件の光の一族は、社建設予定地の四箇所を結界で封じ始めた。

さて、京へ到着したフナトとワタリベは、レイカイオウに搭載された軍用車リョウブで応避神社方面へ向かう。ちなみにこのリョウブは、大人四人が入れる車輪つきのカゴを「機馬」と称されるメカで牽引し走る。
道中、フナトはしきりに農家を気にする。そして、一人の農夫から、味のアの字もない若いミョウガと、ニンニク、ニラ、ラッキョを幾つか買う。その上で…
車内。
「小宰、野菜の他に何買ったんです?」
「ウ○コ。」
以下、下肥と呼称する。
ワタリベは下肥の使用目的など肥料以外に思いつかない。だがフナトはそれに答えず、今度は街へ出る。
「五均ないかしらね五均。」
五厘均一商店の略称。基本的な生活用品を全て五厘で販売する店。フナトはそこで鼓を買う。
「ほら見なさいよこのテキトーな骨組み。五厘で売るんならしゃあないけど手抜き過ぎよね。仕入れ価格幾らなのかしら。」
ワタリベはイラっと来ていた。そして車を降りる。
「小宰、作戦の組み立てを説明してくださいよ。小宰から真面目さが感じられないんですけど!」
フナトはそんな彼を見る。
「…ワタリベって治安維持院じゃアタシみたいな感じだったそうじゃない。」

三年ほど前、治安維持院。
今以上に無愛想で一匹狼なヒスイを部隊へ馴染ませてやろうと、ワタリベは任務中でも軽口を叩きまくっていた。
結果、ヒスイは多少感情を表に出すようになった。しかし、日本帝国が政権転覆の危機に陥ったある事件で、治安維持院は皇居を破壊しようとする犯人を殺さなくてはならなくなった。
緊張するヒスイに対してワタリベは愚かにも軽口を叩いてしまう。それはヒスイの緊張が任務の妨げになると判断しての事だったのだが、逆効果だった。
ヒスイはワタリべを不真面目と判断し殴ると、感情を露にし一人で犯人グループに戦いを挑んだ。
作戦は失敗、ヒスイを助けようとした他の兵士からは死傷者が続出。辛うじてヒスイの手で犯人グループは壊滅するも、二人はそれぞれ心に大きな傷を負う。

「結果、マミヤは人命救助を生きがいとするようになった。んで、前と同じ仏頂面の一匹狼に戻った。
そしてワタリベ、アンタは自分の軽口を悔やみ、ひたすら生真面目に任務を遂行するようになった。
アンタは真面目な割に物言いが軽いからさ、違和感があったのよね。」
全て正解だった。
「…小宰、オレは、自分がバカな事言ったせいで仲間が死ぬのはもう勘弁です。
だから、任務中はマミヤと同じ仏頂面にさせといてほしい。」
フナトは首を横に振る。
「ワタリベ、兵は仏頂面で良いかもしれない。でもね、兵を笑わせられない指揮官にゃ誰もついてこないのよ。
アタシは大宰みたいに、居るだけで人を和ませることはできない。だからさ、馬鹿な事言うしかないのよね。」
そう言うと車に乗り込む。
「野菜、鼓、下肥。あとは鬼道機関。武具は揃ってるわ。行くわよワタリベ!」

既に応避神社周辺は結界で覆われていた。儀の邪魔をされないようにと。そして、遠目に社の建設が始まっている。
「うし…ワタリベ、まずは結界を解呪するわよ。結界の中心は応避神社で今日は大安。罠その一。北北東に下肥を配置して!」
ワタリベは指示に従い、下肥の入った桶を罠として配置、手を洗った後フナトと共に様子を見る。すると、光の一族の工作員は突如結界を解呪した。
「あの桶の下に地脈が通ってるのよ。しかも鬼門。そこに凶の気を発するものを置けば、神を呼び出すのに不都合すぎる。連中は桶を退かすために結界を解くでしょ。今よ!」

二人は四つの社で形成された四角形の中に突入する。
すでに西の社にはミョウガ、東の社には竹が配置されている。フナトは鬼道機関を発動。
「空間近接の法を使うわ。西の社と八幡、美濃山の竹林を同一座標に存在させる!」
西の社に置くべきはミョウガ。つまり、タクラを復活させる空間においてミョウガと竹は対の存在になる。そこで、多量の「生きている竹」を西に置けばミョウガの霊力を打ち消せる。
美濃山の竹林が西の社を覆い尽くす。
同時にワタリベも、東の社へミョウガを置くことで竹の霊力を相殺した。
次に南の社へ向かい、配置されていた鏡に亀裂を入れる。
そして四つの社が交差するポイントに配置されていた鼓を、五均で買った安物の鼓に入れ替える。
「準備完了。」

結界を再起動させ、フナトとワタリべを負う工作員。彼らの前に二人が現れる。工作員は二人を始末し、儀式を再開する。
しかし、殺された二人は紙製の式神。本物は無事。

条件は揃った。あとは北の応避神社へ念を込めれば、七つの桃の実が北斗七星と似た性質を持ち、タクラへ力を与える。
だが、その応避神社へ結界を突き破り、巨大な光芒が炸裂した!
焦る工作員。その光は、北斗七星と相反する南斗六星の神力。
「三日前のキノコ事件で『これはっ!』と思ってね、久々に南斗から拝借しといたの。」
高らかに宣言するフナト。「北斗七星のコピー」でしかない桃と「南斗六星」それ自体の力では、比べるまでも無く南斗の方が上だ。タクラは慌てて中心の鼓に逃げ込むが…。
「付喪神(つくもがみ)。使い古した家具には魂が宿る。その魂を喰らってタクラは完全に実体化するわけね。でも、その鼓は安物の新品。魂なんか宿る余地も無いのよ!」

安物の鼓に宿ってしまったタクラは、巨人として実体化したにはした。しかし、その外見は半分腐乱死体である。実体化に際して必要な全ての条件を否定された結果だ。
苦し紛れに腕を振るうも、フナトにもワタリベにもその拳は届かない。
「臭い野菜を食って神社仏閣に入っちゃいけません。」
そう、二人のシールドは、先程買ったニラ、ラッキョ、ニンニクである。通常の神ならばそんなシールドなど効果は無いが、現在のタクラの力は山の猛獣にも劣る。
ワタリベはフナトに聞いてみる。
「南斗六星の力は地球に届くまで数日かかったはずじゃ…。ひょっとして小宰、三日前から既にこの計画を見越していたんですか?」
「ちょっとだけ大宰に勝った気分だわ。」
笑いながらも工作員へはレイエンキュウを向け威嚇する。基地からはレイヒュウゴでヒスイたちも到着した。
「人間をなめんなよ。さて、光の一族さん。何でアタシらを敵視するのか吐いてもらいましょっか。」
「それは私から話そう。」
フナトの背後に現れた男。以前日本基地壊滅とカンナ拉致を目論んだ、光の一族の高官、クロサキ ゴウジである。

「我々は、高位の神々と繋がって生きている。故に、高位の神々をも超える力を持った存在を許してはおけない。
だからカンナ、君の抹殺を考えているのだ。そして、危険な存在であるカンナを前線に立たせるわけにもいかない。
君達レイハはカンナを前線に立たせる。それは非常に危険だ。」
「それで、俺達もろともカンナを殺そうと?」
ヒスイが怒りを押さえ込み、問う。クロサキは頷き、続ける。
「カンナ!神々は自分達をも超える力を持つ君を嫌っている。我々は、君を殺さなければならん!」

そう言うと、クロサキは空間より一匹の邪仙を召喚。羽状の両腕。蛾にも見える柄だ。邪仙は哀れなる神タクラの体を鷲掴みにすると、四肢と首を一気に断裂した。
「神々より許可は取ってある。アサギの使ったものと同じ術だ。邪仙を尖兵とする。」
クロサキは間抜けなる工作員を連れ、その場から雲散霧消した。

「カンナ、余計な事は考えるな。」
ヒスイは、自分が狙われる理由を知ったカンナを何とか慰める。
「大丈夫だ。…君がただの人間ではないことは分かっている。それでも、君は優しい。人間の心を持っている。」
ヒスイは押し黙るカンナを休ませ、リュウラへ転化。

邪仙は凄まじい怪力でリュウラへ掴みかかってくる。
リュウラは敵の腕を軸に跳躍、顔面に踵を撃ち込む。
突進してくる邪仙の勢いを応用して投げ、起き上がる邪仙へシャイニングヴァイパーを発射、一気に体力を低下させる。
が、邪仙の武器は怪力だけではなかった。何かぱんぱんぱんぱんって音と共に腕から火炎弾が打ち出された。
これらはリュウラの演舞で弾かれるものの、続いて目から発射した光線は空中で爆発、リュウラの周囲へ炎を降らせる。
そのリュウラを、レイヒュウゴからワタリベが鼓舞する。
「ウルトラマン!いい男は水で濡らすか炎で照らせってうちのかみさんが言ってたよ!」
リュウラはいい意味で脱力。突進してくる邪仙へ右脚を突き刺す。
さらにコウへ変身、右脚を離すと同時に再度跳躍し、空中からドラゴンインパクトを発射、完全に消滅させた。

レイハは基地へ帰還、再びの光の一族の攻勢に備えた対策会議を始めた。
だが、カンナは押し黙ったまま。ワタリベは彼女を笑わせようと会議中も軽口を叩きまくり、特にユリノから顰蹙を買った。
だがヒスイは、そんな彼に呆れながらも微笑んだ。
「…戻ったな。」
かつてのムードメーカーへ。

次回予告
ニセゴジョウ「最近ちょっと仲良くなってきたユリノとカンナ。でもユリノにはカンナに触れられたくないことがあるらしいの。
ええええ!?二人がもう絶交ーーーー!?
次回ウルトラマンリュウラ 第四十一章『やっぱり、嫌い?』見てねえ!」
ユリノ「小宰、何やってるんですか。」
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