ウルトラマンリュウラ 
特別編「龍、総和、殺!」

 この話は、ウルトラマンリュウラDVD第四巻に収録された15分の特典映像である。
「ニンゲンの幼体とは、不可思議なものだ」
龍はとりとめもなく自分に話題を振ってくるから嫌だ、とマミヤヒスイは思った。
「『人間の子供』がどうしたって?」
「彼らが心の底から真に放つ言葉、それは時空を超越することがある」
「時空を…超越?アンタにはその声が聞こえるのか?」
「マミヤヒスイ、『平行世界』を存じておるか?」
「俺達の住む世界と細かい所が異なる世界がいくつも連なってるって概念だろ?」
「その世界に住むニンゲンのコドモが我らを呼んでいるとしたら?」
「何故別世界の住人が俺たちを求める?」
「彼らが求めるは、『ウルトラマン』だ。一度、行ってはみぬか。その日が来たときのために、別世界へ。」
「…帰り道だけ確保しておけよ」
「案ずるな。…小心者よの。」
「 だ ま れ 」
龍は次元に扉を開き、平行世界のひとつへ向かう。その世界は、大分様子が異なったものだった。

 石ばかりの街、蟻のように同じ顔つきをした無数の人々…道には箱型の車が走っている。
あの型は石油燃料と電気の複合動力だろうか?街には廟もなければ井戸もない。

「この文明は…俺達の世界で言う旧暦の、しかもかなり古い程度だぞ。」
「すまぬ。時空の壁を突破して後、数年ほど時間をさかのぼった。」
「数年でこの文明が俺達の文明体系に変わるはずがないだろ?」
「ふむ…かなり異なる形で文明が発展してきたようだな。」
と、向こうから一人の青年が歩いてきた。こちらは「…進んだもんだ」と呟きながら。

対面するその男とヒスイ。傍目からみれば一触即発の状態だ。
殺気立った長身のゴツイ男と、暗くて陰惨な空気を背負った無愛想な男。
両者肩が当たった!だが互いに「失礼」の一言で済ませる。拍子抜けである。
その時、ヒスイとその男は同時に空を見上げた!いや、正確には大気圏外を。
そこには緑色の巨大な軟体生物がいた。
「邪仙か?」と呟くヒスイ、「アメーザ!」と呟くその男。
ヒスイは転化するため物陰に入ろうとするが、その男も同じく物陰に入ろうとしている。
互いの目が合い、先に男が口を開いた。
「お前、地球人じゃないな。」
「この世界の地球人ではないよ。アンタも…人には見えんな」
その時、アメーザと呼ばれた生物を巨人が迎撃し始めた!
その様子は、街角の活動写真画面(街頭スクリーンともいう)に中継されている。

「しかしあの巨人は…」
巨人は自分やラセツとは明らかに異なる。しかし…彼も…ウルトラマンなのか?
民もウルトラマンの名を呼び、応援しているようだ。
だが、男は「ウルトラマン」を苦々しく見、言う。

「やめろ。シグマ!」

なんだか知らんが男がいなくなった。ヒスイはこの隙に転化する!

この戦士の名はウルトラマンシグマ。アメーザの地球進入を阻止するため戦うが、敵の光線に苦闘、決定打を与えられない。
そこに地球から、青く光り輝く巨大な生物が出現した。長大な胴体と獰猛な角、髭、鋭い牙を持ち空間に舞う。
その姿は正に!
「ワイルド星の機械生命体!」
まぁ文化の違いである。
その龍は人型に変化、アメーザの前に立ちふさがる。
「君は…いったい?」
驚きを隠せないシグマ、その姿は我々ウルトラマンに酷似しているが…
龍の変じた青き巨人は戦闘体勢に入る…が、そこにもう一人「ウルトラマン」が現れた。

「イレイズ!?君も地球へ来ていたのか?」
「奴は肉食性宇宙アメーバの集合体。下手に破壊すれば俺達の第二の故郷に多量のアメーバが降り注ぐ。
ドキュメント『先生』に書いてあったろ?」
「しかし以前の個体はサクシウム光線で死滅したハズ…」
「巨大隕石上で迎撃してな。隕石の持つ放射線がアメーバに有害だっただけだ。」
「ところで君は?宇宙警備隊じゃないな、L77の生き残りでもない。」
シグマはその青き巨人に問う。そういえば地球人に極めて微妙な名を付けられたブルー族の科学者がいたっけ…
だが青の巨人は返す
「アンタらの会話がまったく理解できない。その光、どこから授かった?」
光って授かるモンなのか?
「俺はウルトラマンイレイズ、奴はウルトラマンシグマだ。」
「俺は…ウルトラマンリュウラ!」
リュウラは敵の触手を連続キックで薙ぎ払う。シグマは空間にスパークビームを連発、当てないように気をつけ爆風で動きを止める。
その隙にイレイズは敵がビームとして使う生体電流をタイマードレインで吸収する!
「今だ、イレイズ!リュウラ!一撃で決めてくれ!」
シグマのバーチカルギロチンがミイラ状になったアメーザを分割する。
その破片をイレイズショットが呑み、消滅させた。
そしてリュウラは形態を変化させ、光の球弾を発射、同じくアメーザを消滅させるのだった。

「アンタらの星は全員がウルトラマンなんだな。」
どこまで最強な惑星だ、との心の声は抑えつつ、リュウラは再び次元に扉を開く。
「興味深い旅だったよ。アンタらは地球が好きなんだな、だからわざわざ命を賭けてこの星に来てるのか。」
「随分アッサリした別れだな。」
「また来てくれるかい?リュウラ。」
「今度はアンタらが俺の世界に来るってのも良いかもな。」
言い残し、龍の姿に戻りリュウラは自分の世界に戻るのだった。
「しかし、やっぱり君も地球に何かを感じて来たのか?イレイズ。」
「あぁ…ひょっとしたら相当数のウルトラマンが必要な事件が起こるかもしれん…」
「リュウラか…彼の世界では、『ウルトラマン』とは僕たちとは随分違う意味のようだな。イレイズはどう思う?」

「知らん。」
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ウルトラマンリュウラ エピソードEX  書いた奴 バースト作者
第おおよそ十二・五章「龍、怒る」 人工神龍・ガンロン、節足大蛇・ウワバ 発現


 旧暦文明の遺物と思しきものが帝都郊外の山中の地下から発見された。かなり巨大な金属の
箱で、内部には更に何かが入っているらしいが詳細は不明。とにかくまだ遺物の大半が
岩盤に埋まっている状態で、調査団によって発掘作業が続けられている。レイハ一同は
その周辺警護を行っていた。
フナト「この時代の都市とかの様子が判らないから、舞台を山野にして逃げたわね」
ユリノ「今この瞬間もびくびくして描いてますよ。そもそも人の台所なんだからやめときゃ
いいのに・・・」
ヘキ「そう、謎が多すぎるのです!」
 フナトとユリノのところへ、ヘキがもったいぶってやってきた。
ヘキ「旧暦と呼ばれる前時代の詳細。虚ろなるものとは何なのか、何故この世界を襲ってくるのか。
ウルトラマンリュウラとは何者か、何故虚ろなるものの手先からこの世界を守ってくれるのか。
登場人物の僕達さえ知らないこと多過ぎです」
ユリノ「ゴジョウ大宰や極一部の人達は知ってるっぽいけど」
フナト「聞いたってどうせ答えてくれないわよね」
ヘキ「下手をすると、毎回でかい図体で吠えて暴れながら攻めてくる邪仙とかのほうが僕達より
真相に近いところにいるっぽいです。それは面白くないと思いませんか」
ユリノ「まあ、確かに」
ヘキ「そこでびかびかびかーん!」
 ヘキは怪しげな発明品を出した。まだ試作段階だが、これまでのデータを元に、邪仙の
行動やこちらへの反応を音声の言語に変えて発信する。要するに、邪仙の意思を言葉に
翻訳する機械なのだという。
ヘキ「大宰が教えてくれないなら、虚ろなるものの手先に直接聞くまでです。今度邪仙が
攻めてきたらこの機械に掛けてみましょう。で、えーとこの機械の名前はどんなのを・・・」
 本編でも技術面で色々貢献していて、結構自己主張も強いヘキが劇中で影が薄い、影が薄いと
言われ続けているのも謎。

 別の地点では、ヒスイとカンナが警備がてら野山をぶらついていた。
「ヒスイさん・・・なんか、さっきから私のこと気にしてませんか? 私が何か?」
「あーいやいや、何でもない何でもない」
 伊勢で色々断片的な情報を知った事で、ヒスイは嫌でもカンナのことを意識していた。
何故虚ろなるものはああまでカンナを敵視するのか。記憶を失っているカンナも知らない
彼女の秘密とは何なのか。
(何やら悩んでいるようだが)
 龍がヒスイの脳内で喋ってきた。
(本当の真実は、常に己の心の中にあるものだ)
(何だよ、それ?)
(まずお前にとって、カンナとはどういう存在なのだ?)
(・・・俺にとって・・・?)
 考え込んでいたら、立ち木に頭を思い切りぶつけた。いててと額を押える。すりむいている。
「ヒスイさん、身を低くしてください」
「?」
 膝を曲げてカンナの背の辺りまでかがむ。
 カンナは出し抜けにヒスイに近づき、額に顔をよせ、傷をなめてきた。
(ええっ!?)
 血をなめ取ってくれた後「痛いの痛いの飛んでけー」
 ヒスイは放心状態。
(で、カンナについて悩んでいたのではないのか)
(ん? あー、もういいやどうでも)
 ぽわーんとしているヒスイはもうほったらかしで、カンナは傍らの花を見て綺麗とか思っている。
 と、その表情が強張る。
「・・・来た」

 今回も、何処からか邪仙が地球に侵入してきた。レイハが警備しているこの地点に向かっている。
早速自分の作った翻訳機を試せるのでヘキは喜んでいる。ヒスイが知ったら多分ヘキを殴る。
 森林を結構な勢いで進んでくる、怪獣サイズの蛇。長大な身体には虫の肢がずらりと並び、ムカデのように
がさがさ這って進んでいる。あからさまに嫌な顔をしたユリノは、フナトと共に鬼道機関を発動させ、
大量の呪符による結界で邪仙を封じる。
 それだけで、邪仙は足止めされてしまった。
 念のため、この邪仙が弱いわけではない。初期の頃ならリュウラ相手でもいい勝負をするくらいの強さ
だったのだが、一クールもそろそろ越える時期でそれまでに色々あって、レイハ一同もレベルアップして
いたのである。
 とにかく、相手が動きを止められていい機会なので、ヘキは翻訳機を作動させる。フナトとユリノも興味は
あるので様子を見る。
 何か必死に吠えている邪仙の声が、機械を通して言葉に変換されていく。
「・・・アレ・・・ヲ・・・アレを掘り出すナ!」
「あれ?」
 邪仙は、調査団が問題の遺物を発掘している山の方をえらい形相で睨んでいる。
「あれ・・・ハ・・・危険・・・龍と同等、イヤ、ソレ以上に・・・真の力を発揮スル前ニ・・・破壊
しなけれバ!」
 だが、意思疎通は此処まで。邪仙襲来を知ってヒスイとカンナがこっちに向かったため、最優先の抹殺対象で
あるカンナの気配を察知し、邪仙はカンナの方角に向かってしゃーしゃー吠えるのみ。ヘキはまだ色々質問
しているが反応なし。考えたら、言葉が通じたからといって必ずしもこちらの求める情報を教えてくれる
わけではなかった。

 そのとき。
 遺物である巨大な金属の箱の中のものが、邪仙の存在を察知した。
 箱を破り、極太の光線が迸り、それは邪仙にまで届き、木端微塵に吹き飛ばした。
 爆風でレイハの三人も転がり、翻訳機が壊れ、ヘキは仰天。
 更に箱の中身は強力な気を発し、箱を吹き飛ばし、埋まっていた山を巨大なクレーターと化した。当然、
現地にいた発掘調査隊からも膨大な数の死傷者が出た。ヒスイとカンナも既にその方角を見つめている。
 粉塵の中から現れたそれを見て、誰よりもまず、ヒスイの中の龍が目を見張った。
 銀色の巨大な機械の龍。
 といっても、その姿は二足歩行型の怪獣に近いスタイルだが。

 今回軍本部で何か用事があったらしく現場には来ていないゴジョウが、通信だけ送ってきて、部分的に
判明したという情報だけ説明し始めた。どうもある程度最初から事態を知ってた臭いが、今は突っ込むまい。
事態の打開のために情報を聞くことが先。
 銀の龍・ガンロンは、旧暦の技術によって作られた。当時に起きた様々な災厄から身を守るため、先人達が
作り上げた防衛用の兵器である。当時から存在した謎の救世主・龍の巨人のデータを元に作られたのであろう
ことは明白だが、過去の龍の巨人の存在はもっと後にヒスイ達に知らされることになるので、この場では
開示されない。
 だが、ガンロンには致命的な欠陥があった。邪仙に対して過剰に反応しすぎるのだ。邪仙自体だけでなく、
それに関わったものさえも敵と認識し、強力すぎる武器で自動的に攻撃してくる。大きな犠牲を出した後、
先人達は金属の箱に閉じ込めてどうにかガンロンを封じ、地下に埋めたのである。
 今回蛇の邪仙が来たのも、自分達にとっても危険なものが蘇るのを阻止するためだったのだろう。

 ともかくガンロンは、既に何度も虚ろなるものの襲撃を受けて邪仙の反応に満ちているこの世界自体を
攻撃し始めた。口から光線を吐いて野山を焼き払っていく。レイハの戦列に混じってヒスイも迎撃しようと
したとき、彼の中の龍が、直ぐリュウラになれと言ってきた。
(どうしたんだよ?)
(あんな罰当たりで無礼なものは消し去らねばならん。我をなめているとしか思えん)
 ああ・・・とヒスイは気付いた。勝手に自分の贋作を作られたことを知って龍は怒っているのだ。
 了解、と、ヒスイはアクアアイを胸に当ててリュウラに転化した。

 だが、邪仙が危険視しただけあってガンロンは強い。強力な光線だけでなく、接近しての格闘でも
器用に後ろ足を使い、リュウラの熟練の足技と拮抗し、反撃さえしてくる。更に長大な首と尻尾による
打撃も使い、逆にリュウラを押し始める。ヒスイの中の本家の龍も怒って本気を出しているのだが。
 相手が虚ろなるものの手先ならカンナのやんごとなき力で援護も出来るのだろうが、ガンロンは
虚ろなるものではない。寧ろ真逆の立ち位置である。
 だが、カンナは感じた。ガンロンを突き動かしているものの真の正体を。それは、こんな危険なものを
作ってまで自分を守ろうとした、旧暦の人々の虚ろなるものへの恐怖。恐れと悲しみの負の気が、
ガンロンから立ち昇っているのが見える。カンナは、その暗い気が鎮まることを祈る。
 と、リュウラの身に、強い力が涌いてきた。具体的に言うと、ヒスイの姿のときにカンナになめられた
額の辺りから。
 リュウラは額からショットスパークルを撃つ。通常は削り技でしかないショットスパークルは、今
カンナの加護との同調によって威力が倍加していて、ドラゴンカムイで蹴られたくらいの衝撃をガンロンに
与えて大きく吹っ飛ばした。人間の唾は邪悪な妖怪や魔物に対して強い毒になるというが、そんな感じの
力もガンロン内の暗い気に追加ダメージを与える。

 追い詰められて焦った暗い気にガンロンは動かされ、空高く跳び、蛇のように長い体の東洋の龍の形態に
変形して、体当たりでリュウラを粉砕せんと飛んで突進してきた。リュウラもジンからゲキ状態にモード
チェンジし、気合を入れる。
(決めるぞ、ヒスイ!)
 ドラゴンフィールドで龍の姿も実体化し、リュウラはその上に乗って構え、転身だァァッ気力だァァッ
状態でガンロンに向かって飛ぶ。
(突撃龍光牙・ドラゴンシャイニングヴァイパーーーーー!!)
 手刀から長大な光の刃を出し、リュウラは擦れ違いざまにガンロンを頭から尾の先まで一気に切り裂き、
おろし身にした後、背後でガンロンは爆発した。リュウラはご丁寧に拳と掌を合わせて礼までし、ぼああああ〜んと
何処かでドラが鳴った。

 事後、ガンロンの発掘された地は厳重に封印された。かなり後の調査で判るのだが、龍だけでなく
ウルトラマンリュウラのレプリカの建造計画の設計図もあったらしく、完成図のメカリュウラの顔は
何処と無く不細工で全然似ておらず、ヒスイは龍が怒った気持ちを理解した。
 ヘキは壊れた翻訳機の修理を続けているが、旧暦文明のオーバーテクから拾ってきたパーツを
勘で組んでいたら半ば偶発的に出来た機械であり、直るかどうかは不明である。後、カンナの命を狙う邪仙を
直ぐ殺さずに翻訳機のモニターにしていたことは後でしっかりヒスイにばれ、やっぱり殴られた。
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特別章その弐 その名は桜ヶ丘
硫酸怪獣ホー 羽根怪獣ギコギラー発現
ウルトラマンメビウス ウルトラマン80登場

「なあ、なぜ俺はここにいるんだ?イメージマターもピグマも滅ぼしたろ。」
(この時代、未だカイザーは地球へ来ておらぬ。ここはそれより百年ほど前の時代だ。)
「いやそこに文句があるんじゃなくてさ、ついさっきカイザーを見届けて、他のウルトラマン連中に別れを告げて『帰る』と宣言したにも関わらず、どうしてそのままの世界にとどまってしかも百年も遡る必要がある?」
ヒスイはいい加減疲れていた。イメージマター撃滅直後である。ようやく元の世界に戻れると思っていたら、何故か龍の野郎、カイザーの世界に留まって時間を遡りやがった。
眼前には、やはり何の風情も無い白い建物が聳え立っている。
「桜ヶ丘中学校」
こちらの世界の子供達が通う学び舎らしい。しかし、子供達の嬌声は聞こえない。この日は日曜日であった。そのかわりに、屋上からそう若くない男女の声が聞こえる。
ヒスイはちょうど近くを歩いていた男に事情を問う。
「ああ、あの学校ね、少子化くらって無くなるんだよ。オレもあそこの卒業生でさ、今日はオレらの三年先輩が屋上借りて同窓会やってんだ。」
その時、学校が不気味に光り、続いて巨大な獣が姿を現した。
「!…龍、行くか?」
(待て。奴からはさほどの邪念は感じられん。)
ヒスイは様子見を選択、代わりに周囲の民を避難させる。先程の男が嘆いている。
「ああ、結局廃校を待たずに怪獣に壊されちまうのか!」
彼は逃げつつ、ヒスイに、桜ヶ丘中学校の思い出を語った。修学旅行、運動会、卒業式。そして初恋の相手だった体育教師。彼女はピアノも上手かった、というが、ヒスイはそこまで聞いていない。
ひたすら桜ヶ丘中学校を睨みつけ、時々周囲を気にする怪獣。そこに、ウルトラマンが姿を現した。一応、イメージマター戦で共闘した連中の先輩という事になるのだろうか。
「メビウス!思い出の学校を守ってくれ!廃校になるまでは、せめて後輩達には最後まで今のままの校舎で勉強させてやりたいんだ!」

ウルトラマンメビウスに懇願する男。しかし、メビウスは怪獣ホーの流す硫酸の涙に苦戦する。その時、妙に優しそうな顔立ちのもう一人のウルトラマンが駆けつけた!
「ウルトラマン80(エイティ)」
の名が周囲から聞こえる。80はバックルビームでホーを狙撃。ホーは満足げに消えていく。
「思い出の学び舎、助かったな。」
男に笑いかけるヒスイ。だが男は、
「ああ、でも、結局桜ヶ丘中は廃校だ。沢山の思い出が染み込んだ建物なんだ。
それが消えるってことは、オレらの思い出自体も消えていくってことだ。年をとるってのは、そういう風に、沢山の思い出に別れを言い続けるってことなのかな…。」
ヒスイは少し考え、男に向き直る。
「森羅万象には全て『名』があり、『名』には『力』がある。先刻の獣は学び舎自身の意思が生み出したものだ。…桜ヶ丘中学校は消える。それは避けられない。
ただ、『桜ヶ丘』という名は消えない。その名をアンタらで語り継げばいい。桜ヶ丘って名前自体に思い出を感じるのなら。思い出の詰まった、懐かしい名前として。」
そう言うや、ヒスイは空を見据える。太陽系の外周に、地球を目指して一匹の怪獣が飛んでいる。GUYSスペーシーの監視システムにも引っかからない位置だ。
「…全く、どいつもこいつも風情の無い…!」
ヒスイは男に簡単に別れを告げると物陰に隠れ、アクアアイを召喚。等身大のリュウラに転化し、太陽系の外周へ瞬間移動した後巨大化する。
別に桜ヶ丘中学校の前で転化しても良かったのだが、何かウルトラマン80と屋上の卒業生が卒業式を始めてしまったのでそれを邪魔したくなかったのだ。
謎の時空波に呼ばれ、地球を目指して飛ぶ怪獣、ギコギラー。その眼前にウルトラマンリュウラが立ちはだかる。
「こちらは知らんが、俺達の世界にはこんな言葉がある。」
リュウラは精神感応で宣言する。
「空 気 読 め」
M78星雲と異なる戦士の出現に、ギコギラーは慌てて熱線を吐きつける。
だがリュウラはドラゴンフィールドでその熱線を反転しギコギラーに叩き付けた。よろめくギコギラー。リュウラはゲキへ変身し、シャイニングボムで完全に消滅させた。

「…龍よ、今度こそ俺達の世界へ帰るぞ。」
(うむ…次はウルトラマンの存在が民に公とされておらぬ絆の世界へ行きたかったのだが)
「帰る。」
こうしてリュウラは、ようやく自分の世界へ帰った。
別世界の巨人との邂逅で経験値を増やしたリュウラを神々が危惧し、高位星神仙ミカヅチと高位闘神仙ラゴウが地球を襲う事となるのだが、
その顛末は十九〜二十一章に詳しいのでここでは省く。

「桜ヶ丘の名前を語り継げ…か。ありがとう。名も知らぬ人。」
その後、桜ヶ丘中学校自体は取り壊された。だがその地域では「桜ヶ丘」という名が浸透し始める。
デパートも桜ヶ丘、マンションも桜ヶ丘、蕎麦屋やラーメン屋も桜ヶ丘。駅名も桜ヶ丘。そして、新たに出来た小学校、高校も桜ヶ丘。それは、桜ヶ丘中学校への敬意に溢れた思い出の名前。
数年後、生徒の一人、西野恵の家庭教師=ウルトラマンアルファとゼバット星人の戦いに巻き込まれたり巻き込まれなかったりで桜ヶ丘高校はたまにグロい事件が発生したりする事になるのだが、それはヒスイとは関係ない。ないってば。
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第三十六・五章 塩昆布野郎
無礼邪仙 ケイテン発現
余りにも伏線が多すぎるため既に失念した方も多かろうが、カンナやミウが生まれたのは旧暦。つまり戦火の中とはいえ、我々の時代からそう遠くない未来である。
放浪を続けるミウは、以前共闘した別次元のウルトラマンのことを考えていた。
「あいつら…懐かしいカッコだったなあ…。」
天川大八と宮野奇跡が着ていたのは洋装。旧暦ではあらゆる者がこの格好だった。現在では考えられない事態だが。
「ぶっちゃけ、この時代の服より絶対動きやすいんだよね…。」
そういえば、と思った。確か、女性から好きな男性へ菓子を渡す習慣が無かったっけ。

ユリノは、カンナを見ていると嫉妬する事がある。この小娘、一日一杯はぜんざいかあんみつを口にする。日によっては両方口にする。
「何で太らないのかねアンタは。」
「…体質かな。」
悪気無く言っているので余計に腹が立ってくる。
そんな時、東京に黒い巨獣が現れたという報告があった。

現地に居たのは、奇形であった。何者かに首を落とされた巨人が、胸に目、腹に口を開いている、といった趣。
これが右腕に斧を持ち周囲を薙ぎ払っている。ウルトラ怪獣に奇形は存在してはいけないハズなのに。成田亨さん御免なさい。
しかし…よく見ると街行く民には興味を示さず、婚姻の儀礼が行われている神社を一直線に目指しているようだ。
ヘキがレイヒュウゴ内で分析を始めた。
「奴は、年が変わる際の時空不安定化で何らかの怨念が幽世と繋がり実体化、いわば『偶然発生してしまった』邪仙と思われます。」
報告を受けたゴジョウは、その周辺に残っている怨念の調査をユリノに依頼。その間レイカイオウでこの邪仙、ケイテンを足止めする。
地上へ降りるユリノの前に、ミウが現れた。
「お姐さん、あの邪仙は何で披露宴を襲うと思う?」
ミウの言葉をヒントに、八卦方式で「色恋沙汰から発生した恨み」をサーチする。
そして、結果が出た。

「大宰、基地から現地へ移送していただきたいものがあります。」
「はいはい、何でも言いなさい。」
「…ちょこれいとう…って何ですか?」
一瞬静寂を呼んだ。ヘキのみが冷静に「あ、最近は殆ど食べられてないけどアオイ目アオギリ科の植物の実から作る以下略。」

ケイテンは、そもそもは人間。正確に言うと、その人間の残した怨念が幽世から漏れた力を受けて偶然実体化した姿。
その人間とは、旧暦のある年、二月十四日、この場所で恋人と待ち合わせしていた男であった。しかし彼女は来なかった。
街中走り回り漸く発見したが、彼女は別の凄いチャラチャラした男と同伴だった。
彼女に問い詰めるものの、「お前飽きた」と慈愛のじの字もないこと言われるし、
チャラチャラした男にボコボコにされるし、
某電光超人で最も魅力的だったメガネのヒッキーのごとくそこらへんのゴミ置き場に叩きつけられるし。ちなみに掃除機の話である。

「それで、命を絶ったようです。」
その上、その日はチョコレートという菓子を通じ、女性から男性に思いを伝える日だったのである。
だから幸せな連れ合いに対する怨念や己への絶望もまた一段と。だから、その怨念を供養するには彼が生前貰えなかったチョコレートを使うのが最善なのだ。悩むゴジョウ。だが、
「治安維持院!レイハ大宰として要請します、直ちに『チョコレート』を作ってください!」
治安維持院は、旧暦の資料をあたり総出でチョコレートを作り始める。
「ユリノちゃん、大きさ的にはどのぐらいが?」
「形や大きさはどうでもいいです。気持ちが篭っていれば。」
だが、それが完成して現地に到着するまでケイテンが大人しくしているはずも無い。レイカイオウの攻撃をかわし、再び進撃を始めた。
「カンナ!その菓子が届いたら、君から奴に渡すんだ!」
確かに、相手への慈愛に関してはカンナの右に出るものはいない。ヒスイはそう確信してリュウラへ転化しようとするのだが…。
「ヒスイくん、多分わたしじゃムリだと思います。わたしは、思いを伝えたい人、他にいるから…。」
そうこうしているうちにケイテンが迫る。ヒスイはリュウラに転化し、強烈な前蹴りで動きを封じた。
そこへようやく「チョコレート」が到着。カンナからケイテンに渡そうとするが…敵はこれを拒否、さらに暴れ始める。

その時、ミウが現れカンナからチョコレートを奪い、ケイテンに渡した。と同時に敵の動きが止まる。怨念が消え、成仏したのだ。抜け殻となったケイテンの筐体はショットスパークルで簡単に滅び去った。

事件は解決したが、疑問が残った。
「ミウ、どうやってケイテンを成仏させたの?」
「さあね。ただカンナ、アンタは常に『生きた人間』を想い、慕ってる。あたしにはそれがない。その差じゃないかな。」

数日後、カンナは二人きりで、ヒスイへあるものを贈った。
「…これは…チョコレートというやつか?」
「はい。旧暦の風習では如月(二月)に送ってたらしいんでまだ一月ぐらい早いんですけど…。」
「…」
「食べて…くれますか?」
「…無論だ。ありがとうな。」
小躍りしながら自室へ戻るヒスイ。その後しばらくチョコレートの調理法が流行したが、食した半数近くが歯痛を訴えたため治安維持院の方でレシピを焼却処理、封印した。
辛党のヒスイは塩昆布を摘んでいる。チョコレート封印はさほどショックでもなかったらしい。ただし、カンナは甘党である。

(…チョコレート、もう一回ヒスイくんに贈ってあげたかったのにな…。くすん)


「特別編」の方にアップしていただけますか?次回予告やっちゃったあとなので、この話を三十八章にはできなかったんです。